新世紀エヴァンゲリオン Toy box

第三話 類は友を呼ぶ、変人もまた然り

presented by 麒麟様


 

 

 

 

 

 

碇シンジの一日は、日課のマラソンで始まる。

日も上らぬうちにベットを起き出た彼は、寝巻きを脱ぎ捨て、動きやすい服装に着替える。

そうして館を出て、ランニングを始めるのだ、いつの間にか後ろに伴っている自称秘書の岸本メグミと共に。

シンジがこの日課を自らに課した初日、誰にも話していないにも拘らず、彼女はそれを察知して共にランニングを始めたのだ。

この時から、シンジの中でのメグミの評価は『把握しきれない人物』となった。

尤も、彼が実の母親である碇ユイへの評価である『(頭が)イっちゃってる人、もしくはサイコさん』よりかは遥かにマシであろう。

メグミは基本的にシンジと行動を共にするし、彼の為ならなんでもする。

一度、ランニング中に学生と思しき新聞配達中の少年と出くわした事がある。

彼女は「怪しい」などと呟いて、胸元から取り出したSIGザウエルP226を少年に突きつけたのだ。

どうも、脇に下げた新聞の中に武器を隠し持っていると思ったらしい。

急に、スイス製のアメリカの特殊部隊も採用している傑作拳銃を突きつけられた少年の驚きようといったら、筆舌し難いことこの上ない。

澄み渡る早朝の冷えた空気に響き渡る、少年の絶叫。

「許して、ごめんなさい」などと泣き喚く少年と、「貴様、何処の手の者だ」などと尋問する美女。

そして、盛大に溜息をつきつつ美女に脅迫を止めさせる我等がシンジ。

この後シンジは少年に丁重に謝罪し、幾ばく彼の金を握らせて、他言無用の事としてもらった。

少年の新聞配達員は、この日を境にアルバイトを辞め、後にこのルートは短期のアルバイトが受ける試練のルートとなった。

この事件は、後に何度かあり、シンジの胃にダメージを与えるのだった。

ちなみに、新聞配達員には「かなり怖いが"お小遣い"と美女との出会い」と呼ばれ、恐れられてるんだか喜ばれているんだか不思議な状況になっている。

このような胃をいためる事件が有りつつも、シンジは身体を鍛える事を優先し、ランニングを続けた。

鍛えれば鍛えるだけ、彼の身体も、そしてその体の中で蠢くバイオナノマシンも成長、いや進化するからだ。

メグミの奇行で精神的にも負荷をかけられ、進化しているのだが、彼女がそこまで考えて行動しているかは不明である。

ランニングを終えれば、トレーニングルームにてしばしのウェイトトレーニング。

格闘訓練などはしない、ある程度は必要だが過度の格闘訓練は時間の無駄だとシンジが判断したからだ。

接近して殴り倒すより、銃弾一発撃ち込むほうがリスクは低く済むからだ。

その後は軽くシャワーを浴びて睡眠と運動でかいた汗を流す。

息子ラヴを掲げるユイの教育によって、彼は自身の汗の臭いをひどく気にする。

身だしなみに気をつけろ、とは言われていたが、最近色々あって、彼は自分がユイの好み通りに躾けられたのだと確信した。

シャワーを浴びた後は、祖父母と共に朝食を取る。

バイオナノマシンの生成、そして進化に必要なエネルギー摂取のため、シンジは朝からよく食べる。

純和食で統一された朝食の最後に、チーズと牛乳で締めるのは、この家に来る前からの常である。

やはりこの習慣をシンジに覚えさせたのはユイであり、身長を伸ばすためにカルシウムを摂取させていたようだ。

朝食の後は暫らく祖父母とお茶を飲みつつ歓談する。

時折、祖母の発言に肝を冷やされるが、大抵は楽しいお茶の時間だ。

父は自分を捨てた気でいるし、母は年齢を気にして天岩戸状態引き篭もりだ。

数少ない家族との会話は、彼にとって何よりの至福といえよう。

日によって時間は違うが、歓談の後は自室に篭って情報収集。

経済新聞を読み、数社の朝刊を読みふける。

朝刊で目がいくのは社会面がまず最初だ。

国際情勢や政治については何よりも早く読み進める。

芸能やスポーツに関しては大して興味を持ってはいないが、得られる情報は全て得ておくのがシンジの信条だ。

後々何かの役に立つかもしれないからだ。

新聞を読み終えると、早速PCを起動させる。

彼の仕事の始まりだ。

実年齢4歳のシンジでも出来、さらに高額の見返りがあるものと言えば、その種類は限られてくる。

シンジが選んだのは、インターネットを用いたデイトレードの株取引だ。

一般の株取引というものに対する認識は、ギャンブルといったイメージが強い。

その中でも、デイトレードは特にギャンブル性が高い。

デイトレードとは、その日の市場が開いてから買った株を市場が閉じるまでに売って、差額を儲けようと言うものだ。

正式な投資ではないし、経済を混乱させる要因であるとも言われている。

経済の混乱は、シンジの望むところである。

今後、経済は言うに及ばず、国家をも支配しなければいけないのだ、この程度で戸惑ってはいられない。

今一番儲けやすい、詰まる所の株価が上がる企業、成長しうる企業は、軍需が盛んなところだ。

セカンドインパクト後の混乱で、世界中で内戦、戦争が起こっている。

そのせいで泣く人、悲しむ人もいるだろうが、シンジの本音からすれば、「そんな事知った事か」と言いたいところである。

何より、自身の生まれを不幸だと思っているし、その後の扱われ方も不幸であると思っているからだ。

不幸が前提にあり、今現在自分の周りを取り巻く環境は、自身の判断の下で手に入れたものだ。

不幸な自分が、自分の力で幸せを満喫しているのだ、それの何処が悪い。

そんな事を考えつつ、シンジはとある電子部品のメーカーの株を買った。

最新型のレーダーの一部、になるらしいが、詳細はどうでも良いとさえ思っていた。

今は、儲ける事が最優先だ。

世界中の市場を回って荒稼ぎし、稼いだ金は世界中に数箇所ある税金について自由な考え方の土地の銀行タックス・ヘブンに開設した口座に送金する。

ちなみに、株取引しているのも、開設した口座も、名義は祖父・シンヤのものとなっている。

三日も有れば元金を10億単位で増やす事ができるが、それもこれもユイが注入したバイオナノマシンの影響だ。

バイオナノマシンは脳にも影響を与え、覚えた事は忘れない、そんな状態にまでなっている。

尤も、母のおかげで簡単にお金が稼げます、と素直に感謝できないのが、今現在のシンジの悩みであった。

感謝する以前に悪態をついてしまうのだ、こんちくしょう。









































資金が十分となれば、今度は碇家が抱える事業の拡大だ。

第一、第二、第三全ての産業にかかわりを持ち、事業を拡大し続ける。

資金からして数百億単位なのだ、事業拡大は容易い事だった。

だが、流石のシンジも株で儲けつつ財団の全て――数社の大企業と数十の中・小企業――には眼が届かないし、その全てに指示を出せるわけでもない。

勿論財団のトップは祖父シンヤなのだが、シンヤは既に経営の全権をシンジに譲っており、気ままな隠居生活を楽しんでいる。

ある意味無責任なシンヤに、シンジは祖父の趣味である盆栽の台をわざと壊したりもしたが、決してストレス解消ではなくお茶目な孫の悪戯である。

大企業の運営方針はそれぞれの社長が指示を出しているし、その社長達への指示はメグミに任せている。

シンジ専属のメイドロボもどきだったメグミは、気がつけば財団実質的当主の筆頭秘書になっていた。

無論彼女の下にも数人の部下がおり、シンジの秘書としてはかなりの堅固な体制だ。

そんなこんなで一年が経ち、シンジは5歳になっていた。

シンジは株取引をやめていないが、不動産などにも手を伸ばし始めていた。

そうして気がついた、人材が足りないと。

シンジは自分で言うもの鬱なのだが、母の思い通り自分が優秀であると感じている。

メグミも優秀だし、彼女の部下も優秀だ。

各大企業の経営陣も優秀だが、突出した人材、そう天才あるいは秀才と呼べる人材はいないのだ。

数え上げれば、シンジ自身とメグミを含めて10名をようやく超えるといったところだ。

だからシンジは決めたのだ、資金を増やすのは一時中断し、人材獲得に時間を費やそうと。

思い立ったが吉日、メグミに言って優秀そうな人材の情報を集めてもらった。

一日と立たずに、メグミは名簿リストシンジに提出してきた。

優秀で、仕事が速い彼女を、シンジは気に入っていた。

時折、奇行に走るが、シンジは彼女を気に入っていた。

例え日課の朝夕のランニングのうち、夕方のランニング中にパトロール中の警官に呼び止められ「何処のテロ組織のものだ」などと懐からSIGザウエルP226を突きつけようが。

何でも、日本では安全の象徴である警官に扮してシンジを狙ってきたテロ組織のものだと思ったらしい。

その時こそ、シンジはメグミを精神科医に連れて行こうか迷ったものである。

彼女を医者に連れて行くより、警察に実弾現金をよこして事件を揉み消す方が優先されたため、終ぞ医者へ行くことはなかった。

――閑話休題。

思い立った翌日から、シンジのスカウト、リクルートが始まったのである。









































日差しの強いとある日、第二東京大学。

赤木リツコはウザイ数少ない友人の(強引な)誘いで昼食を共にし、飲みにいこうと昼間から戯けた事を言い出す葛城ミサトを昏倒させ軽くあしらい、所属する研究室へと向かっていた。

よく喋るミサトの様子を思い出し、苦笑しつつも、彼女の心中はミサトを昏倒させたため数少ない友人との交流で上機嫌だった。

彼女の所属する研究室は、その人数が他と比べて実に少ない。

彼女が怖くてあまりにも優秀ため、敬遠してしまったための結果である。

彼女の優秀さには、その研究室の教授でさえ引けを取るのだ、一介の学生が腰が引けたとしても、如何して咎められようか。

その事で、リツコの無茶な要求に応えさせられる教授は実に不幸なことだが、この話には教授以上に不幸な人物がいるので、誰も同情はしてくれない。

研究室にリツコが到着すると、教授がどこか怯えた様子で彼女に話しかけた。

まるで爆発物を扱うかのようなその様子に、若干リツコは眉をひそめたが、話の内容を聞いて首を傾げた。

客が来ているとの事のだが、来客の予定は無かったと思い返したのだ。

教授に促がされ、奥の部屋に入ってみると、さらにリツコの疑問は強まった。

安物のパイプ椅子に座る小学校にも行っていないような年齢の幼児と、女のリツコから見ても溜息が漏れそうな美女が居たのだ。

実にデコボコなコンビである。

リツコに気付いた幼児が椅子からおり、リツコに歩み寄る。

当のリツコはその状況に困惑してしまう。

二人を見て、リツコは自分に用があるのは美女の方であり、幼児の方はその子供か兄弟か何かなのだろうと予測を立てたからだ。

それにも拘らず、自分に近寄って来るのは、幼児の方なのだ。

「初めまして、赤木リツコさん。碇シンジと言います。」

幼児・シンジの発言に、リツコは幾つかの驚きを感じた。

まず一つ目は、幼児からは考えられないような、丁寧な言葉遣いで、さらに言えば大人び過ぎている。

二つ目は、幼児の名前だった。

「碇ユイの息子、と言った方が良いですか? それとも、急成長中の碇財団の者だと言った方が?」

碇ユイ、その名に心臓が跳ね上がるような錯覚の衝撃を受け、リツコは息を呑んだ。

自身の母と名を連ねる天才科学者、東方の三賢者の一人、そして、己の母親の不倫相手の、妻。

その息子が、自分に何の用なのだ、リツコは背筋に走る寒気に似た緊張感を押さえつけつつ、表情を変えずにシンジを見つめた。

自分の母が、何を基準にして不倫していたのか疑いたくなるような男の息子とは、思えない愛らしさを称える顔つき。

碇ユイに似て、自信と誇りに裏打ちされた魅力を醸し出す雰囲気。

リツコは、どこか人を見透かすような視線を向けられ、視線を逸らしたくなる一心を、そのプライドにかけて押さえ込み、視線を逸らす事は無かった。

「それで、私に何の用なの?」

自分でそう言って置いて、リツコは心の奥底から湧き出る敗北感に打ちのめされていた。

今の言い方など、まるで大学の教授達相手に言っている様な態度ではないか、決して子供に向けるような態度ではない。

即ち、無意識のうちに自分がこの幼児を教授並み、あるいはそれ以上の存在と感じてしまっている事に気づいてしまったのだ。

母と比べられる事をコンプレックスとしているリツコとしては、真の天才、あるいは強者を前にした気分であった。

「貴方をスカウトに来ました。」

一瞬、リツコはシンジの言っている事の意味を掴み損ねた。

見た目と言っている事が全くといって良いほどマッチしていないのだ。

一秒ほどで、即座に発言の意味を飲み込んだリツコは、いや、と思い直した。

重要なのは見た目ではない、シンジには見た目以上に重要な何かがある、そう、雰囲気というべきものがあるのだ。

そう考えれば、シンジの発言は何も可笑しくは無い、そう感じてしまうなにかが、シンジにはあった。

「スカウト?」

「はい。是非、碇財団に来て欲しいのです。」

シンジの言葉に合わせるかのように、美女・メグミが封筒から書類を取り出した。

メグミから書類を受け取ったシンジが、それをそのままリツコへと手渡す。

上の数枚は、財団へ所属した際の特典や給与、待遇などについてのものであった。

思わず溜息が出そうなほどの、好待遇だ。

高い給与に、生活環境の完備、研究資金も潤沢、研究テーマはリツコに任せる。

その待遇を見て、リツコは逆にいぶかしんだ。

待遇が良すぎる・・・・のだ。

常識的に考えて、このような待遇をするところなどありはしない。

書類の、待遇類の下は、リツコが以前に大学、あるいは学会に提出した論文だった。

何処から手に入れたのか、提出した原文である。

これにはリツコも驚きを通り越して呆れてしまう。

普通、こういった物は決して外部へと流失しない。

きちんと保管されて然るべき物なのだ。

それを手に入れることが出来るのだ、目の前の幼児は。

「貴方の論文、読ませていただきました。幾つか疑問が浮かぶところもありましたが、実に興味深い。その端々から、貴方の優秀さと自信が伝わってきます。」

だから欲しいのです貴方という人材が、そうシンジは笑顔で言ってのけるのだ。

その笑顔が、リツコは心底怖いと感じた。

まるで嘗て母に紹介されて会った碇ユイが、自分の前に立っているような錯覚さえ覚えた。

目の前の幼児が、自分が苦心の末に書き上げた論文を理解している。

幼児にあるまじき雰囲気、自信を持っている。

まるで大人のような饒舌、言葉の確かさ。

その見た目と内面のかみ合わない姿に、心底恐怖した。

それを見透かしたように、言葉をつむぐシンジが、さらに怖いと感じた。

「ああ、僕を異様だと思うでしょう? 詳しくはいえませんが、母が英才教育を施した、と言って良いでしょうね……悲しい事に。」

人生に疲れたような遠い眼を見せるシンジ。

疲れ果てた老人のようにも見えたし、どこかボケに走りすぎる相方を持ったコンビ芸人の突っ込み役のようにも見えた。

そんなシンジに戸惑うリツコは、見るに見かねてメグミに視線を向けるが、彼女は頭を横に振るだけだった。

おほん、と咳をして場を改めると、シンジは再びリツコに向き直った。

「今すぐ返事を、とは思っていません。その時は、此方に連絡を。」

姿形に似合わぬ物腰で、懐から名刺を取り出したシンジは、リツコにそれを手渡す。

シンジ個人の物と思われる連絡先と、碇財団代表と言う役職名が書かれた名刺。

では、と頭を下げシンジとメグミは去っていった。

残されたリツコは、書類と名刺を手に、二人を見送るしか無かった。

あまりにも現実感の無い、それこそ幻覚かあるいは喜劇、コントのような時間だったからだ。

タライでも落ちてこないでしょうね、と天井を見上げるリツコの姿を、恐るおそるドアから顔を出した教授が目撃している。

見てはいけないものを見てしまった教授の運命や如何に。









































科学者としてリツコをスカウトしたのは良いが、好ましい返事が返ってくるとは限らない。

そのため、シンジは科学・技術部門で選抜された、時田博士の下を尋ねた。

日重に所属し、機械工学やロボティクスにかけてはリツコさえ上回る科学者である。

と言うわけで、メグミの運転するフェラーリ・テスタロッサに乗ってスカウトに行ったのだが……。

交渉は五分で終わってしまった。

これにはシンジも驚いた。

なんでも、研究費用の制限が無いところに惹かれたらしいのだが、即決即断な人である。

ただ不安な事に、手早くサインした後の時田博士の言葉がシンジの頭で何度も何度もこだまする。

「フ、フハハハハハ! これで俗物共の娯楽用など作らなくて良い! 研究が出来る! 研究し放題だ!! フハハハハハハ!」

シンジは、正直思った。

ヤバイ、と。

もっとスカウト・リクルート対象の性格を調べておくべきだった。

気付かずに電波受信者もしくは狂科学者、あるいはサイコさん母と同類をスカウトしてしまったではないか。

この日、久しぶりにシンジはメグミの運転する車の助手席で泣いた。

どうして自分には変人が付いて回るのかと、大いに嘆いた。

彼自身が変人を呼び集めているのに、彼は気付いているだろうか?

さらにシンジに追い討ちをかける事件が後日起こる。

契約するという返事を出したリツコが、後々母と同じ様な人だったとわかったという事だ。

研究のために、バイオナノマシンの事を話してみれば、注射器片手に迫ってきたのだ。

恥じも外聞も気にせず、全力で喚きながら逃げた。

部下達は逃げ回るシンジを生暖かい眼で見守るだけだ。

何しろ、シンジが不幸なのは日常茶飯事であるし、その不幸が、変人が原因である事はほぼ当たり前だからだ。

好き好んで変人に関わりあいたくはない、それが常識人の一般的な意見だ。

そんな部下達に、リツコから逃げ遂せたシンジは減給を言い渡してやった。

そんな事をするから、変人だと思われていると気付けばいいものを。

追伸、時田博士と一緒に、日重での彼の部下も引き抜いた。

皆、時田博士の同類だった。

シンジはこの日、時田病変人病と名づけ彼等を病院に叩き込もうかとさえ思った。

ユイ病という病名にしようか迷ったのはシンジだけの秘密だ。









































警備員という名目で、退役した各国のもと特殊部隊員を集めたり、民間軍事会社を立ち上げて、政治的に国家の軍隊が攻め入れない位置にある犯罪組織をいびり倒したりして、資金を集めていたある日の事だ。

メグミが至極真面目そうに尋ねてきたのだ。

彼女が真面目なのはいつもの事だったが、それ以外に形容しようがないのだから、シンジに責任はない。

「シンジ様、学校はどうなされますか?」

「は?」

シンジは思わず、そんな間抜けな返事をしてしまった。

シンジは今現在満5歳である。

幼稚園・保育園の類には行ってはいないが、義務教育は受けてしかるべきだと考えていた。

行かずとも理解できるが、学校はそれはそれで重要なのだ。

例えば、同年代の人材を発掘する事とか。

一応言っておくが、シンジには同年代の変人を集める気はまったくない。

だが問題はそんな事ではない。

義務教育、つまりは小・中学校は、6・7歳の頃から始まるのだ。

どう考えても、一年以上、約二年の期間がある。

詰まる所、急を要する事ではないという事だ。

だがメグミの表情には、「今から考えておかなければ、大変な事になる」とでも言いたげな色が見え隠れしている。

「シンジ様は、何処の学校に行かれる気ですか?」

「考えてはいないよ。近場の私立とかで良いんだし。」

シンジはこの碇邸から出る気はなかった。

ユイとの接点を思い出させられる、というデメリットもあるが、それ以上の価値がある、家族というものが此処にはあるからだ。

「シンジ様、私立なんてとんでもないです。シンジ様に相応しい所を私が探しますが、よろしいでしょうか?」

「別に構わないよ。あぁ、でも近場でね。この家を出る気は無いから。」

「承知しました。」

後々、シンジはこのときメグミに任せたことを後悔して良いのか、それとも喜ぶべきなのか深く悩む事になる。

この結果に、メリットもあればデメリットもあったからだ。

数日後、メグミが書類をシンジに提出した。

書類の初めの部分は、近場の学校がシンジが通学するに当たって如何に不十分かを切々と語っていた。

書類の半ば頃から現れた文に、またもシンジは頭を痛めることになった。

それは計画書であった。

シンジが通学するに相応しい学校がなかったため、いっその事一から全て造ってしまおう、と言う計画だった。

シンジのため、ただそれだけの為に、莫大な予算を投じて、新設校を作り上げる。

シンジはメグミの好きな言葉を思い出した、「大は小を兼ねる」。

大きすぎ、大きすぎだよ、メグミさん。

何処から突っ込んで良いのか、シンジは数分ほど頭を抱えて悩んでしまったほどだ。

メグミとしては、シンジのためを思って、実に真剣に立てた計画なのだ。

だからこそ、性質が悪い。

悪意によるものならば、解雇処分を告げるなり、銃弾をぶち込むなりすれば良い。

だが、メグミの中にあるのは隅から隅まで一色の善意なのだ。

良かれと思ってしているし、間違っていないと信じきっているのだ。

結局シンジは、匙を投げる事にした。

「………うん、良いよ。やっちゃって。」

虚ろな笑い声さえ漏らしつつ、シンジはGOサインを出した。

その時のメグミの喜びようと言ったらもう、シンジでさえ初めて見るものだった。

クールを信条としているメグミにしては珍しく、満面の笑みを浮かべたのだ。

こうしてメグミによる、シンジのための学校づくりが始まったのである。

メグミはすぐさま広大な土地を買い上げ、敷地を確保した。

その広さは、ゆうに一般的な大学の数倍と言うものだった。

メグミの立案した学校、いや学園は、下は幼稚園、上は大学院までのエスカレーター式の物だった。

寮設備も整え、希望者は寮生活をすることが出来る。

支払う金額によって、寮の部屋の設備も豪華さを増す。

部活動やスポーツ関連の設備も充実させる。

メグミの狙いは、上流階級というか、すなわち金を持っている者達の子供を入学させる事だった。

そのためには、何処よりも優れた設備、教師陣が必要である。

当然メグミはその事を理解しているし、だからこそそれには全力を注いだ。

優秀な生徒は授業料免除で入学させるし、特許などは進んで取得させる。

莫大な予算を投じたからには、それを補って余りあるべき利益がなければいけないのだ。

そして、このメグミの思惑は、大当たりした。

後に、シンジにとって莫大な利益を齎す事になるのだが、今現在のシンジにとっては頭痛の種でしかなかった。

あまりにも大事になってしまったので、シンジはシンジでやけになり、規模を縮小して第三新東京市にも似たような学園を建てさせる始末である。

パーフェクトメイドロボ完全無欠筆頭秘書、岸本メグミ。

シンジの腹心であり、シンジの忠臣である。

だが、だからと言ってその手綱をシンジが握っているとは限らない。

シンジのためならコンマ数秒で暴走し始める女、それが岸本メグミだ。

座右の銘が『大は小を兼ねる』と言う、ある意味危険思想な女、それが岸本メグミ。

朝には新聞配達員に銃を突きつけ、夕方にはパトロール中の警察官に銃を突きつける、それが岸本メグミだ。

ついでに、その彼女の奇行に日々悩まされているのが、我等が碇シンジだ。

さらについでに、メグミの父に恩を売り、メグミをシンジに付けさせたのが、シンジの祖母、碇ユリだったりもする。






これが、後の永世世界大統領碇シンジの発展の日々である。











To be continued...


(あとがき)

麒麟です。
Toy box第3話。
何やってんだ、俺。
また短いです、すいません。
電波不足はとても重大な問題です。
シリアスの方が書きやすいんで、シリアス分が増えちゃってます。(リツコとの交渉辺り)
今回は、メグミ嬢の活躍、と言ったところですかね、あとは時田博士。
麒麟の中でメグミのイメージはメイドロボ(セ○オ)に固定されてしまいました。
いつの間にこんなイメージに固定されたのだろう?
企業界に進出し始めた碇財団。
民間軍事企業も立ち上げちゃいましたし、学園も作っちゃってます。
リツコをリクルートして、時田とその部下をスカウト。
やっぱりプロットが無いと気分しだいで内容が変りますね。
リツコはミサトに酷く冷たいし、時田はマッドだし……、てかなんですか、Toy boxに登場する科学者は皆マッドか?
シンジが5歳って事は、2006年ぐらいですか? 大体リアルでも同じぐらいですねぇ。
だったら4歳の時に2005年のリアルネタを使うべきだったか……。orz
それよりヒロイン三人まで……何も決まってない今現在。何も決まってないので、今Capriccioで不遇の扱いを受けているマユミ嬢をヒロインに決定。
えぇ、今決めました。
最後の最後で、なんか爆弾的な発言だな。orz
次回はシンジの小学生生活かな。
では、この辺で失礼いたします。
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