ヱヴァンゲリヲン新劇場版 〜ASKA REVERSE〜

Again〜序

第漆幕

presented by マルシン牌様


発令所は三度の使徒襲来の報告を受け、確認作業に入っていた。『監視対象物は小田原防衛線に侵入。未確認飛行物体の分析を完了』

「パターン青、使徒と確認」モニタには第六使徒との認識を以て分析結果を出した。

そんな中で簡易エレベーターが上昇し、ゲンドウと冬月が発令所に到着した。「やはり、第六の使徒だな」「ああ、初号機を出撃させる」

葛城二佐はその決断はあまりに無謀と感じていた。先の使徒戦のように税金の無駄使いであっても敵を知るには国連軍謹製の兵器類で様子見がしたいと考えての事。
しかし、総司令が指示したことに反論するほどの地位ではない事は自身が一番良く知っていた。悔しいが何もわからない状況でのエヴァ投入となってしまう。

「目標は芦ノ湖上空に侵入。エヴァ初号機発進宜し!」『サクラさんいきなりの発進で悪いわ。でも頑張ってきて頂戴』

「ええ、まったく問題ないわ。安心しなさい、後で話もしたいし。出来れば総司令室でお話ししたいのよ。お父さん、いいかしら?」『ああ、この戦いが終わればな』

ニヤリとサクラお得意となった笑みを浮かべながら来るラミエルの様子をモニタで見ながら自身の能力を微弱ながら解放する準備に入る。
能力を解放すればある適度無茶は出来る。しかし敵はサクラ視点で三番目の強敵と数えられた使徒である。
サクラの想定を超えていた。Gを受けつつも外へ出た初号機を待っていたのは強力な荷電粒子砲であった。

『目標内部に超高エネルギー反応!』『そんなバカな…』『まさか』葛城二佐と赤木博士はこの状況を考慮に入れていなかったため慌ててしまう。
と同時に葛城二佐はやはり無謀な出撃だったかと内心悔やんでいた。だが、無常にも初号機は外へと出てしまった。

『サクラさん避けて!!』「無茶な事言わないでくれる?拘束具外しなさいよ!」その言葉に慌てているオペレーションスタッフは瞬時に反応できていなかった。

(あ〜もう!レイの事もあるのにここで病院送りは嫌だな。ち、今はあまり能力解放したくないのよね。
でもあまりそうも言ってられない…か。能力二段階目解放ATフィールド初号機の周辺に散らすか)

そうして一目見て判るほどサクラの瞳は紅く染まった刹那、第六使徒の荷電粒子砲が初号機へ襲い掛かった。
鉄とコンクリートで固められたビル群を一瞬にして貫通させたその力は想像以上のものがある。
攻撃力で言えばゼルエルに匹敵するかもしれないとサクラは内心思った。しかし、状況は芳しくない。
何より第二段階に解放したATフィールドでも対応しきれていないのだ。

「きゃぁあああああああ」今までで一番の苦痛である。初号機の胸に直撃した荷電粒子砲はATフィールドを突き破らんとしている。

『シンクロ率をミニマムに下げて!』『こっちは防護アーマーを展開して早く!』

葛城が指示したのは初号機の手前に分厚い鉄製の壁である。初号機への攻撃が遮られた第六使徒はさらに荷電粒子砲を強力な物へと物質変化させ放出する。
ここまでくれば、急ごしらえも良い処の分厚い壁が融解してしまうのは目に見えていた。それを発令所で見ていた誰もがこの出撃を後悔した。

『迎撃等全て中止。エヴァ初号機を緊急回収!』『ダメです!カタパルト融解、作動しません!』

赤木博士は別の不安を持って、部下である伊吹へ問う。「ATフィールドは?」

「限界値を超えて張られていますが、それも辛うじて維持しているだけです」

(くぅううう、早くしなさいよねぇ〜。こちとら能力解放だけで精神使うのに…慣れてもいない能力はあまり有効じゃない…)

警報ブザーが鳴り響くエントリープラグの中で何とか声を振り絞り呟いた。息も絶え絶え、サクラの呟きはそうあからさまにゲンドウへ問う。

「そろそろ…限界…よ?ねぇ、聞いている?総司令…私をこうまでして…何がしたい…わけ?」

その様子にまず葛城二佐が反応した。「作戦要綱破棄。パイロット保護を優先。機体を強制回収!爆砕ボルトに点火!」

初号機が居る周辺のビル群を支えていたボルトを強制的に爆砕させ初号機を安全な地下へと移送させる決断をした。
標的になるものが居なくなった第六使徒は初号機がいた辺りまで移動し始めた。
そこで再び形状を変化させ、地面を掘削するドリルのようなものに一部を変え、地面を掘削し始めたのである。
更に慌ただしくなる発令所。使徒の行動よりも先に初号機とそのパイロットである碇サクラの対応が急がれた。

『初号機回収、緊急ケージへ!』「救護班待機」

『プラグ内のLCL冷却を最優先!』「パイロット確認。心音微弱…」

『プラグスーツの生命維持機能を最大。心臓マッサージ!』「はい」オペレーターの一人がプラグスーツの機能の一つであるAEDを作動させた。

「うっっ、っつうう」意識をはっきりと持ちたかったサクラであったが無理な事だった。
敗北は敗北。他にやりようはあっただろうが、あの荷電粒子砲をどう防ぐかなどサクラ自身も思いつかなかった。その結果がこの通りである。

「パルス確認!」『プラグを強制排出!LCL緊急排水』「はい!」

そんな中で葛城二佐はサクラの処置を早急にと救護班へ連絡していた。「救護班何やっているの?急いで!!」

その連絡に救護班は迅速に行動し、現在は救護処置室にて治療を開始していた。一通りの初号機と碇サクラの処置が完了した後、改めて第六使徒の状況を把握することになる。



作戦会議室では使徒殲滅のために情報を整理、さらには殲滅するために会議が開かれた。

「現在目標は我々の直上に侵攻。ジオフロントに向けて穿孔中です」「奴の狙いは此処ネルフ本部への直接攻撃…か。では各部署の分析結果を報告して」

葛城二佐の指示によりデータを随時公開していく士官たち。

「先の戦闘データから目標は一定距離内の自動排除するものと推察されます」

「エヴァによる近接戦闘は無理というわけね…ATフィールドはどう?」

「健在です。おまけに位相パターンが常時変化しているため外形も安定せず中和作業は困難を極めます」

「MAGIによる計算では目標のATフィールドをN2航空爆雷による砲撃によって貫くにはネルフ本部毎破壊する分量が必要との結果が出ています」

「松代のMAGI二号も同じ結論を出したわ。現在日本政府、国連軍がネルフ本部毎の自爆攻撃を提唱中よ」

その言葉に葛城二佐はあからさまな不快感を露わにする。「対岸の火事と思って無茶云うわね。此処を失えば全て御終いなのに」

葛城の呟きに士官がさらに報告を加える。「しかし、問題の先端部は、装甲複合体第二層を通過。既に第三層まで侵入しています」

「今日まで完成していた二二層全てのカクモ式装甲帯を貫き、本部直上への到達予想時刻は、明朝午前零時六分。あと、十時間と十四分後です」

葛城はその言葉に時計を見やり、あまりいい感じのしない顔になる。

「おまけに零号機は凍結解除後間もなく未調整。実戦は不可能。更に言えば初号機も先の損傷の折、当分は実戦での動作も心許ありません」

結論に達した会議の出席者の視線は葛城二佐へと集まった。「状況は思っていた以上に最悪…」「まさに八方塞がりですね」「白旗でも上げますか?」

意地悪くオペレーターの一人がそう呟く。それに葛城二佐はふと思い出したかのように妙案を提示する。

「そうね…でもその前にちょっち、やっておきたいことがあるのよ。確か、戦自研の極秘資料、諜報部にあったわよね?」

葛城がニヤリと笑みをオペレーターの一人に向けた。



戦闘機を三機従えて、葛城二佐と赤木博士他、士官を数名動員して戦自研が極秘に製造していた兵器を視察し徴発した後。作戦決行地域に建てられた仮設作戦本部に来ていた。

「しかし、また無茶な作戦を立てたものね。葛城作戦部長さん」

「無茶とは失礼ね。残り九時間で実現可能。おまけにもっとも成功確率の高いものよ」

「八洲作戦…その名の如く日本全土から電力を接収し、戦自研が極秘に試作開発中の大出力陽電子自走砲まで強制徴発ね。
やることが相変わらず派手よ。強制徴発なんてよく関連省庁が許可したものね」

「ま、色々と貸があるのよ」「蛇の道は蛇ね」



日本全体にメディア等を通じて緊急放送やテロップが流れた。

『午後十一時一五分より約一時間半、日本全土で大規模な計画停電を実施します。一九九八年の計画停電同様に皆様のご理解とご協力をお願い申し上げます』

日本にとって大規模な計画停電は久しい事である。セカンドインパクト直前に起きた東日本大震災の影響によって被災地の原子力発電所が軒並み停止。
ほとんどの原子炉がメルトダウン寸前の危機となった。
その際に旧東京電力、同じく旧東北電力等は原子炉の処理と同時に電力不足に陥ってしまったため計画停電を実施したのだ。
セカンドインパクト以前のあの震災を知っている人たちにとってこの協力の願いに対して反対する理由なくすべての世帯で夕方より節電に取り組んでいたのである。



総司令室ではこの作戦の成否よりもこの計画停電の話題が上がっていた。

「数十年ぶりの計画停電…混乱はほぼなく実施できそうだ」「そうか…私は葛城二佐の提案した作戦要綱を見たときあの震災を思い出していた」

「あの災害は予定外だった。ゼーレも皆焦っていたな」「あの頃の日本は災害が多かった。この人類補完計画にも支障をきたすのではと内心気が気ではなかった」

手許にある『人類補完計画』の第三四次報告書を眺めながらゲンドウはこれも神に逆らう我々の業に対しての警告であることは判っていた。
しかし計画は中断出来ないのも事実。あくまでも最後まで神に逆らうことになろうとわが道を行くしかない碇ゲンドウであった。

「目的か…お前の娘もかなりつらいだろう…そういえばこの使徒戦後何か話があるようだったが?」

「ああ、おそらくあいつはこの組織の目的と情報を知りたがっている。ある程度の情報開示くらいは良いだろう。彼女が起きたら葛城二佐にL-EEEへ案内させてやるつもりだ」

「そうか…第二使徒リリスを見せるのか」

「あれは我々のシナリオに感づいている恐れが出てきている。ダミープラグも試験運用前と在ってはサクラ頼りだ。実用化までは彼女に頑張ってもらわねばならん」

「親の身としては辛いものがあるな」

「すべてはリリスとの契約のためだ。当初の予定から彼女には迷惑をかけることは折込済み。死海文書外典にはそう書かれていた。
それ以上に我々はこの使徒戦含めて残り八体の使徒を倒さねばならん」

「判っていても罪に塗れた身としてやらねばならないか」



仮設作戦本部では現況の状況を把握していた。

『使徒の先端部、第七装甲板を突破』「エネルギーシステムの見通しは?」『電力系統は新御殿場変電所と予備二箇所から直接配電させます』

『現在、引き込み用超伝導ケーブルを下二子山に向けて敷設中。変圧システム込みで本日二二時五十分までには全線通電予定です』

「狙撃システムの進捗状況は?」『組立作業に問題無し。作戦開始時刻までには何とかなります』

「エヴァ初号機の状況は?」『現在、狙撃用のG型装備に換装中、後二時間で形に出来ます』「了解」
夜の帳が下りてもなお、着々と作戦の準備が進められていた。万が一失敗でもすれば人類が滅亡するという状況。流石に準備に抜かりは無かった。






To be continued...
(2011.10.22 初版)


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