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序章終劇
presented by マルシン牌様
(久しぶりの病院…か。何とか生き残れたというわけね)
横目でふと綾波がいることに気が付いたサクラは問いかける。
「あぁ、綾波さん居たの?で、私何時間くらい寝ていた?」
何か本を読んでいたのか綾波はその本を閉じサクラのほうを向いた。
「治療中を含めて四時間弱。身体の方はもう?」「ええ、流石ネルフの医療チームね。殆ど完治しているんじゃないかしら?」
「そう。今後の予定を教えるわ。明日午前零時より発動される八洲作戦のスケジュールを伝えます。碇、綾波両パイロットは本日一九三〇、第二ターミナルに集合。
二〇〇〇、初号機及び零号機に付随し移動を開始。二〇〇五、発進。同三〇、二子山第二要塞に到着。以降は別命あるまで待機。明日日付変更と共に作戦行動開始。
それと碇さん食事あるけど食べる?」
「ええ、流石に昼食べそびれているからね。アリガト、レイ」「いい。九十分後にまた」「ん、じゃ、栄養つけて頑張りますか」
食事を終えたサクラは着替えを済まし、病室を出ようとした。その時葛城二佐が突然来たのだ。
「ゴメン、ちょっち寄り道してもいいかしら?」「ええ、時間にはまだ余裕はあるわね」
サクラはどこへ連れて行くのかちょっと興味が湧いていたが、エレベーターが最下層へ降りるにつれて内心気が気でなかった。
(ちょっとこんなに降りるってことはまさかセントラルドグマにでも連れて行くつもり?まさかミサトがあんな事知っているなんて…何てこと)
「事が起きたのは十五年前。セカンドインパクトで人類の約三分の二の命が失われたわ。今使徒がサードインパクトを引き起こしたら…今度こそ人は滅ぶ。一人残らずよ」
「聞いたことはあるわ。興味は無かったことだけど。こうして私がこのエヴァに乗るってことになってからは現実なんだって思ったわ」
「私たちがネルフ本部L-EEEへの使徒侵入を許すと…ここは自動的に自爆するようになっているの。
たとえ使徒と刺し違えてでもサードインパクトを未然に防ぐ。その覚悟を以て此処にいる全員が働いているわ」
(なるほどね〜。それじゃ、私がその場所行ったら自爆されるのかしら?まさか第一八使徒リリン覚醒した状態は見抜けるはず無し。
今までだって力使って問題になった事は無いんだし。ま、これがあのシンジだったらどうだったか知らないけど…。
ミサトには悪いけど使徒は現時刻を以てL-EEEへの侵入を許すことになるわね)
葛城二佐がセキュリティーカードを通し、堅牢な扉が開いた。当然自爆決議は出されずである。扉の向こう、そこにいたモノはサクラとしては懐かしい第二使徒リリスであった。
「これはなんです?禍々しい感じの…生物?」
「これこそ私たちが守らなければならない。この星の生命の始まりでもあり終息の要でもある第二の使徒リリスよ。サードインパクトのトリガーとも言われているわ。
このリリスを守り、エヴァで戦う。これが貴女が求めていた理由じゃなくて?」
(ち、碇ゲンドウって意外と鋭い人だったのね。参ったわ、これじゃどうもこうもはっきり言ってどうしていいのか判らなくなるじゃない…。
でもレイは私のところへ近づく。あの子にはある程度真実を教えるつもりだし。抜かりはないわよサクラ)
まさかのネルフの先制攻撃という事態に今まで以上に頭が混乱し始めていたサクラである。
(ネルフの方から仕掛けてくるなんてちょっと甘かったかしら。でも使徒殲滅は共通目標らしいし。初号機に居るユイさんも今のところ眠りについたまま。
事を仕損じたらそれこそ大目玉。これはかなり辛い綱渡りになりそうね)
仮設の作戦本部へ移動をしたサクラと綾波はそこで葛城二佐と赤木博士より詳細な作戦の内容が告げられた。
「では本作戦における各担当を伝達します。サクラさん、初号機で砲手担当。レイは零号機で防御を担当して」
「了解」「はい」
「今回は今までの中で精度の高いオペレーションが求められています。そのために未調整の零号機より修復中ながらも初号機のほうが優位性はある。
サクラさん、判っていると思うけど陽電子は地球の自転・磁場・重力の影響を受け直進しません。その誤差を修正するのを忘れないでください。精確にコアの一点のみを貫くのよ」
「はい、頑張ります」「狙撃位置の特定と射撃誘導の助言は全て本部の方で入力します。サクラさんは射撃練習の通りに行動を」
「了解」「ただしこれだけは言えるわ。狙撃用大電力最終放電ポイントは一点のみ。故に初号機は狙撃位置から移動が出来ないの」
「逃げ場は無しね。まぁ一発で殲滅できればいいって事でしょ?なら集中してやるしかないわ」
「そう、一撃で撃破。これが最優の条件よ」「私は初号機の狙撃を安全に行えるように守り通せばいいわけね?」
「そう、頼めるかしら?」「はい、碇さんは私が守ります」
「時間です。パイロット二名はプラグスーツに着替えて」「了解」「はい」
サクラと綾波はプラグスーツに着替え終わり、待機場所へ向かった。その道中、葛城二佐が呼びとめた。
「本部広報部に届いた伝言。『貴女達へ』だそうよ」
それを二人で受け取り、その場で聞いた。仲の良い友人関係となっていた鈴原兄妹と相田ケンスケの三人からの激励の伝言だった。
『碇さん、綾波さん。頼むで』『碇お姉さん、綾波お姉さん。気を付けて敵を倒してね』
『相田です。碇さん、綾波さん頑張れよ。俺たちは祈るしかできることが無いけど、成功することを信じている』
「あいつららしい伝言ね。こりゃ頑張って倒さないと怒られるかな」
苦笑しつつ、頼りになる伝言にサクラも綾波も士気が上がっていた。
計画停電が始まる。今回は日本全土がその対象だ。二十三時十五分の時報を合図に街灯等明かりが消える。
宇宙から見た本来の夜間の日本は照明の明かりの強さによって日本全土が判るほどである。
しかし、この消灯によりまるで日本があった場所が海に沈んだかのように宇宙から見ると消えてしまうのであった。
唯一の明かりは作戦本部と第六使徒を照らすライトのみ。無論、明かりの強さからして宇宙からはその様子は窺えない。
(懐かしい雰囲気ね。シンジ、レイと見たマトリエル戦後の夜空と、サードインパクト後の夜空…そしてこの夜空。似ているようでどれも印象が違うわ。
今回は必ず勝てる。そんな事を暗示しているような空。サードインパクト後の夜空の印象だった絶望感なんて無いわ。
そうよ、碇サクラと綾波レイが組めば何事にも負けない。友人だってそう言ってくれている。負ける要素なんてないんだから!)
「結局、総司令との会談は後回しにされちゃったわ」「そう。碇さんは何故、総司令の事を嫌っているの?」
「そうね。そういえばそういうのって考えた事無いわ。ただ単純に感覚で判るのよ。総司令の得体の知れなさっていうの?オカルト的に言えば第六感がそういうのよ」
「それ『女の感』とか云われているわ。そういう感覚、私には判らない」
「う〜ん。レイはそのあたりまだ慣れてないでしょ?世界は広いわ。近いうちに判る時が来るわ」「私は総司令を嫌う事は多分無いわ」
その言葉を聞いて、サクラは拳を握りしめたまま、何も言えなくなった。
(レイ、それは違うわよ。そのうち判るわ。貴女を重ねて碇ユイさんを見ていることを)
「さぁて、そろそろ時間ね。レイ、頑張ろう。しっかり使徒を倒してやろうね」「そうね。それが今私たちの任務」
『只今より、午前零時丁度をお知らせします』
時報が作戦開始の狼煙を上げた。仮設作戦本部内に緊張が走る。
『時間です』「サクラさん、レイ。作戦開始よ、牽制支援はこちらで随時行うわ。そのあたりは私に任せて。これより八洲作戦発動、陽電子砲狙撃準備、第一次接続開始」
『了解、各方面の一次及び二次変電所の系統切り替え』『全開閉器を投入。接続開始』
次々に作戦進捗状況が本部とパイロットへと伝わる。サクラと綾波はリラックスした表情でその進捗状況を聞きながら成功へのイメージを脳裏に描いていた。
「第二次接続に移行」『新御殿場変電所、投入開始』『新裾野変電所、投入開始』
大規模な変電所へ電気が通電され、グラフメーターが全開を示す。それを確認し葛城二佐はさらに指示を出す。
「第三次接続に移行」『了解。全電力、二子山増設変電所へ』
『電力電送電圧は最高電圧を維持』『全冷却システムは最大出力にて運転中』『第三次接続、問題無し』
良好を示す報告を受けオペレーターは進捗具合に満足するように葛城二佐へ報告した。
「了解。第四、第五要塞へ伝達。予定通り行動を開始。観測機は、直ちに退避」
飛行していた機影は退避を開始し、指示を受けた要塞では使徒への攻撃を開始した。この作戦の重要な部分である時間稼ぎ及び囮攻撃開始である。
数えきれないほどのミサイルを標的に発射すると使徒が動く。その姿を迎撃特化型に変え全てのミサイルをレーザー光線で撃ち落とす。
その精確無比の攻撃には仮設本部の皆が息を呑む。更にその攻撃を加えた要塞への迎撃も忘れていない。
この使徒無機質な浮遊体にも拘らずかなりの知能があるのかその迎撃の精確さと強さは半端が無い。一撃で要塞を吹き飛ばすのだ。
『第三、第一攻撃システム蒸発!』「悟られる前に次の攻撃を」
この時間稼ぎ及び囮攻撃は渋滞なく事を進めねばならない。万が一敵に意図がばれたら一巻の終わりである。
しかし次々と攻撃を仕掛けるも全てその特殊性に富んだ無機質体の防御機構と反撃機構の前に要塞は蒸発していく。
その間に陽電子砲のシステムの進捗状況が良好のままその時を待っていた。
『第四次接続に移行、問題無し』そのオペレーターの確認によって葛城二佐はようやくサクラへ指示を出した。
「最終安全装置解除」『撃鉄起こせ』
エネルギー蓄積装置がライフル内に装填され、エヴァとパイロットにそれぞれ望遠レンズ・スナイパー装置が掛かる。
狙撃位置等の調整も完了した。後は一撃を待つだけとなった。
「第五次最終接続に移行!」『全エネルギー、超高電圧システムへ』
『陽電子加速管最終補正』『パルス安定、問題無し』
その通信が入っているエントリープラグ内では最終的なターゲットロックオン体制に入った望遠レンズ・スナイパー装置の補正処理をサクラは待っていた。
(問題ないわ。一応能力解放もしておこうかしら。第三段階能力解放)
瞳が紅く輝いた。これで今まで以上の無理が効く。この第三段階に移行するとATフィールドの強度は自動的にラミエルと同等になるのだ。
その反動は周知の事実で、サクラの精神集中により疲弊する。ある意味諸刃の剣である。ただし、それは一般の精神力の持ち主限定だ。
このサクラにその程度は苦にもならない。この能力を行使する精神疲弊以上の体験を彼女は過去にしているからだ。
とはいえ疲れることは同じ。それ故に多用はしたくないという事だ。
カウントダウンが始まり、発射の合図が鳴る。その瞬間サクラは第三段階能力を全開にし、電力の塊と調整されたライフルに自己修正を加えたのだ。
その状態でトリガーに軽く触れた。日本全土の電力の塊は銃身から迸り、音速を超える程の速度で第六使徒のATフィールドなど関係なしにコアへ直撃したのである。
甲高い悲鳴のような声を叫び、使徒は炎を吹き出しそのまま赤い液体となって崩壊した。
「何とか…なったわね…」仮設本部の皆が成功を喜び、零号機エントリープラグの中に居るレイもほっとした様子だ。
(はは、第六使徒殲滅までに能力を第三段階まで解放しないといけないとはね…これからが本番なのに…。結構ヤバイかもね)
サクラとしては謎が多く、使徒三体目にしてこの能力解放の頻度に、逆行したこの世界に一抹の不安を抱えていた。
その表情をモニタ越しで見ていた綾波は感じるものがあったことは間違いなかった。
(なぜ貴女はそんな顔をいつもしているの?何故)
地球から離れた場所。第六使徒が倒された瞬間に眠りから覚めた男の子が居た。
銀髪紅眼、サクラの過去を振り返ればあまり印象にないかもしれないが、まさしく第一七使徒タブリス渚カヲルその人である。
『判っているよ…あちらの少女が目覚め、概括の段階に入ったんだろ?』カヲルが見つめていた先にモノリス一基が浮かび上がり反応する。
「そうだ。死海文書外典は掟の書へと行を移した。契約の時は近い」
(それにしても惣流・アスカ・ラングレーもまた逆行していたとは…。この世界を救えるのは僕と貴女という事か…早く会って話をしないといけないね。碇サクラさん)
ヱヴァンゲリヲン新劇場版〜ASKA REVERSE〜『Destruction・破』江、続劇。
『Destruction・破』予告
出撃するエヴァ仮設五号機。配属されるエヴァ弐号機とそのパイロット。
死海文書外典に記されていない謎の使徒の襲来。碇サクラの裏工作の意図とは。
想定されていた四号機の起動実験と消滅事故。強行されるエヴァ参号機の起動実験とその死闘。
最悪のシナリオが用意され、碇サクラに襲い掛かる。そして突如として起る碇サクラの覚醒。
月より飛来した謎の6号機とそのパイロット。次第にシナリオはネルフの範疇を超えて行く物語は果たして何処へ続くのか。
次回、ヱヴァンゲリヲン新劇場版〜ASKA REVERSE〜『Destruction・破』
さ〜て♪この次もサービスしちゃうわよ♪
To be continued...
(2011.10.22 初版)
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