ヱヴァンゲリヲン新劇場版 〜ASKA REVERSE〜

Destruction〜破

第壱幕

presented by マルシン牌様


第六使徒を殲滅した翌日。サクラは総司令室に居た。碇ゲンドウから呼ばれていたのである。
出席者はゲンドウ、冬月。そして呼ばれたサクラと綾波である。他の者の立ち入りは固く禁じられていた。

「サクラとレイ、昨夜の作戦見事だった」

ゲンドウがそうサクラと綾波を讃えた。世辞の話はこれだけ。不要な話はゲンドウ自身あまり好きではない。ゲンドウは呼び出した理由の核心へと移った。

「では碇サクラ、昨日の会談の内容について聞こう。お前にはある程度知っておいてほしいこともあるからな」

既にサクラとしては覚悟していた、やり取りが始まった事に臆していない。

(こりゃ、完全に疑っているわね…。まぁその話はまだその時期ではないし、こちとら危険な冒険は慎みたいしね)

「そう?私はこの組織の存在意義については葛城二佐より昨夜聞かされました。他に何かあるの?」

「ああ、ある。それを知りたいかと聞いている。無論今で無くともいい。いつでも話せるとは言えないが…」

「この組織に関する存在理由だけは知っておきたかっただけよ。葛城二佐の話しである程度は判っているからね。
あ、そういえばユーロ空軍のエースパイロットって日本に来る予定はあるの?」

「その件についてか…式波・アスカ・ラングレー大尉は、お前の母親である碇ユイの命日の日に空輸で来る予定だ」

「そう、なら顔合わせで本部待機したほうが良いかしら?」

サクラは心の中で驚きに満ちていた。まさか空輸という手段を以て式波・アスカが来るとは。
だが、しかし海より空のほうが確かに速い。だが、自分が辿った歴史では海での戦闘はあるはずなのだ。
それがサクラを驚かせた要因、そして一時兄のように、また憧れを抱いていた男の所在にも気になり始めた。

(嘘、空輸?ってことはガギエルとアダムはどうなるの?というより加持さんは今どこにいるのよ?ってそれは総司令には聞けないわね…)

「いや、サクラ。お前もそろそろユイの墓参りへ行かないか。強制ではないが、六年も行っていないと聞いている。たまには母親に顔を合わせてやれ」

ゲンドウの有無を言わさぬ言い分で違う意味でサクラは嘆息する。

(ちょっとアンタ。初号機に居るって事判っていて云っているんでしょうね…。まぁ良いか。お墓に花を手向けるくらいならいいかしら)

「ごめんなさい。なんか行く気が無かったから放置していたのよ。今年は行くわ」

「そうか。ユイもサクラの成長を喜ぶだろう。葛城二佐に報告しておく。他にあるか」

「そうね、今から言う事が一番の目的だったんだけど、綾波さんの今の住居から葛城二佐のお隣へ移住することは出来るかしら?
はっきり言って綾波さんの今の住居はとても人間が住むような部屋じゃないわ。生活環境の改善くらいどうって事ないでしょ?」

一瞬ゲンドウの眉が動いたが即断で許可を出す。このあたりサクラを泳がせるという手を取るらしい。

「ああ、問題は無い。レイお前はどうする?」

ふと今まで綾波を放置して碇親子の会話に耳を傾けていた綾波は予想に反しゲンドウが簡単に許可を出したことに驚いて一瞬返答が遅れた。

「レイ?」「…ハイ、司令。私は碇さんの話しを了解と返事をしています」

「そうか。綾波レイ、葛城二佐の隣室へ引っ越しを認める。手続きは早い方がいいだろう」

「そうね、云っちゃ悪いけどあんな部屋もう二度と足運びたくないわよ。それじゃ、私の聞きたいことはこれだけよ。後の事よろしく。総司令」

一礼してサクラとレイが退室した。



サクラ達が退室した後、沈黙を貫いていた冬月が碇へ問う。

「どうなんだ。碇、サクラ君の態度はどう見る」

「ああ、やけに慎重になっている。おそらくL-EEEを事前に知っていたのだろう。ただユーロ空軍エースパイロットに関して聞かれたのは意外だった」

「そうだな。聞かれると思ったのはベタニアベースで極秘に活動をしている真希波君の方かと思っていたが。真希波君についてはあまり興味が無いのかもしれないな」

「いや、真希波についても調べた形跡はある。ただ、どう行動するのか探っている感じだ。私の方へ聞くことは無いだろう」

「サクラ君の慎重さはお前以上だな」「ああ、しかし、あれは危険因子かもしれん。排除を念頭に置かなければならない可能性が出てきている」「娘殺しか…大変だなお前も」





翌日、綾波レイは葛城二佐の隣室へ引っ越したのである。その夜はどんちゃん騒ぎである。

「葛城さん、レイにはお酒与えないで下さいよ?」

「わーってるって。それじゃサクラさん、レイの分も飲む?」「飲みません!」

既にビール空き缶のピラミッド形成は日常化している葛城邸のダイニングテーブルであった。

「お酒…アルコール飲料…お酒は二十歳になってから…碇さん未成年」

「ほら、レイだってダメだってさ」「碇さんが飲みたいなら飲んでもいい…」

その言葉に絶句しつつもレイに様々な事を教え込むサクラ。その様子に葛城は良い感じだと思っていた。

(なんか、レイ可愛くなってきているわね。こりゃサクラさんに感謝ね)

そうして、レイも結局ビールを一缶飲む羽目になっていた。興味があった綾波にサクラが勧めたのだ。
好奇心に勝てないとはこの事だろう。しかし、意外とレイはお酒に弱かった。一缶350mlであるが、半分飲めば十分な感じである。
サクラは一缶を呑んで潰れてしまったレイを抱えて新居になった綾波邸に入りそのまま一晩を過ごすのであった。



ヱヴァンゲリヲン新劇場版〜ASKA REVERSE〜Destruction〜破

Image Classic レスピーギ〜ローマの松 第4部 アッピア街道の松

Image Sound H・G・ウェルズ原作、黒岩涙香訳『80万年後の社会』より
洋画『タイムマシン2002』サウンドトラックから 『Godspeed』



エントリープラグ内に一人の少女が乗っていた。これから出撃なのだろう。手続きが淡々と行われている。

『エントリースタート』『LCL電荷を開始』

『プラグ深度、初期設定を維持。自律システムに異常なし』

『始動電圧、臨界点をクリア。全て起動位置』

『シンクロ率、規定値をクリア』『操縦者、思考言語固定を願います』

此処までの会話は全て英語である。少女はどこか外国の保有するエヴァに乗っているのだ。その少女は日本語で話す。

「えっと、初めてなんで日本語で」『了解』

発令所のオペレーターがその切り替えを行うとエントリープラグが言語処理を行う。
プラグ内の少女につけられているスーツやインターフェースはサクラや綾波と違うタイプなのか煩雑した回路のようなものまでつけられている。
それを知っているのか話し掛けるオペレーターの一人。

『新型の支給間に合わなかったな』その言葉に搭乗者の少女は愚痴る。

「胸がきつくてヤダ」『おまけに急造品の機体でいきなり実戦とは…誠に済まない』

「やっと乗せてくれたから良い!」

その申し訳なさそうに謝る人物に少女は構わないと返すが、それを問いかけている人物は苦笑する。

『お前は問題児だからな。ま、頼むよ』


起動間近となった機体プラグ内の少女は初陣とあって興奮気味に操縦桿を弄繰り回す。

「動いてる動いてる。良いなぁ、ワクワクするなぁ」

この少女かなりの好戦派なのかはたまたそういう教育を受けさせられたのか定かではないが戦いを目前に呑気なものである。

「さて、エヴァンゲリオン仮設五号機起動!」

その合図でその機体の目の部分が光り、起動したのだった。その実戦という理由は単純である。使徒が出現しているからだ。
どこの国かは判らないが使徒殲滅をしなければならないらしい。

使徒の外見は第四使徒から第六使徒のどれよりも単純明快。骸骨状となった蛇か龍かどちらかの形状は頭部から尻尾まで有る。
歩行は背骨の付近下部に大きな真ん丸の胴体のような部分(そこだけ肉が付いている)から四本の短い脚がでているそれを使っている。
コアは丸見えの頭部だ。サクラと綾波ならば楽に勝てそうな使徒である。
無論、現状戦車等の砲撃を使徒に与えているが何も効果は得られてない。ATフィールドはこの使徒も持っているからだ。
その使徒はどこかへ目指しているのか只管にそのある場所目掛けて走っているようだ。

その様子をこの国のネルフ関係の発令所で見ていた指揮官が焦った様子で指示を出す。

「辺獄エリアは死守しろ!奴をアケロンから出すわけにはいかん!」

「まさか封印システムが無効化されるとは…」

指揮官は封印システムの不具合による使徒解放など予想だにしていなかったために混乱している様だった。
そんな彼らに先ほどまで少女と対話していたオペレーターの一人と思われていた人物が声を掛ける。

「有り得る話ですよ。人類の力だけで使徒を止めることは出来ない。それが永久凍土から発掘された第三の使徒を細かく切り刻んで改めて得た結論です。てな訳で、後は宜しく」

そう一人語り終えたその人物はヘリポートから脱出するのかヘルメット等を装備している。
この人物はおそらく不法侵入した使徒等に詳しい人物らしい。彼の話に気を取られた指揮官は謎の人物に一言もかけられずそのまま逃がしてしまったのだった。
本来は此処で厳重に処罰するに値する行為であるが今は緊急時とあって自身の能力にも限界があった。逃がしてしまうのはしょうがないのかもしれない。

一方で、エヴァに乗り込んだ好戦派の少女は機体を動かしながら昔懐かしい日本の歌謡曲『三百六十五歩のマーチ』を口遊んでいた。
こんな彼女をサクラが見たら素の彼女が出てきて『アンタバカァ〜』と呆れたに違いない。そんな好戦派の彼女だがその操縦技術は優れている。
シンクロ率が高いのか熟練とした機体制御であった。そんな中でようやく第三使徒と鉢合わせる。

「うぉ、来たぁ〜♪フィールド展開」『目標接近。エヴァ五号機会敵します』

少女の操縦する仮設五号機の右腕部にランスがある。それを使い使徒へ攻撃を仕掛けるが外してしまう。

五号機をUターンさせるがその操縦の鈍さについ文句が出てしまう。その鈍さの理由は急造品だから仕方がないのだが。

「くっ、動きが重い!こりゃ、力押ししか無いじゃん!」

五号機が態勢を立て直したときには既に使徒は外へ逃げようとしていた。
トンネル内の一部にATフィールドを高圧の輪で象り外壁を融解させそのまま空中へ出る。
その様子を発令所ではオペレーターと司令官が見守っていた。

『上部外壁破損!最終結界が破られます』『目標は辺獄エリアを突破。アケロンへ出ます』「五号機は何やっとる!?」

指揮官が吠えているが八つ当たりの何物でもない。指揮官は先の人物にも気があるようで集中力を欠いていた。
外界へ出た第三使徒は外壁を高圧ビームによって破壊した。それを内部から見ていた五号機のパイロットは吠えた。

「逃げんなぁ!!おらぁあああ」

ランスを使徒へと当てポールに突き刺す。そのまま固定された使徒は最後の足掻きとばかりに高圧のビームを五号機へ放った。

「うぁ、イッタい…スッゲ〜イタイけど…面白いからイイ!」

好戦派なパイロットは伊達や酔狂でその言葉を云ってはいなかった。そのまま辛い状況で左腕を使い使徒の頭部にあるコアを圧殺させようとしたのである。
この時、五号機の内臓電源は残り僅かである。

「時間が無い…機体ももたない…義手パーツは無理矢理シンクロ差せている分パワーも足りない」

そうぼやいていると使徒もそれが判ったのかさらに五号機へビームを放つ。今度は右腕等が被害を受ける。
もはや五号機もほぼ全壊に近い損傷である。修理するにも無理があるだろう。

「ええ〜い、しゃ〜ない。腕の一本くれてやる!」

左腕に加え、辛うじて残った右腕の一部をコアへ宛がい、パイロットは持てるすべての力を健在とは言い難い左腕に込める。

「さっさとくたばれ〜!!」

漸くそのパイロットの願いが通じたか使徒のコアが破壊され崩壊する。だが、五号機もまた何か不具合があるのか爆発しそうになっていた。
それを感じ取っていたパイロットはエントリープラグを射出し脱出し、その後、第三使徒と共に五号機も爆発したのであった。




謎の人物を乗せた輸送機は無事爆発地域から安全地帯へ飛行していた。今までのやり取りを聞いていた謎の人物はぼそりと呟く。

「五号機の自爆プログラムはうまく作動してくれたか…折込済みとはいえ大人の都合に子供を巻き込むのは気が引けるなぁ」

この謎の人物、五号機とそのパイロットを使い何かの企みに加担している様だった。荷物にはアタッシュケースのようなものを運んでいた。




無事と云っていいのか五号機のパイロットを乗せたエントリープラグは赤い海上に浮かんでいた。その中からパイロットが出てくる。

「いててて、エヴァとのシンクロって聞いていたよりキツイじゃん。まぁ生きてりゃいいや」

ふと爆発した第三使徒と五号機の方向を見てなんとなしに呟いた。

「自分の目的に大人を巻き込むのは気後れするなぁ…サヨナラ、エヴァ五号機。御役目ご苦労さん」

謎の五号機パイロットであった真希波・マリ・イラストリアスの行動開始の狼煙を上げたのだった。






To be continued...
(2011.10.29 初版)
(2013.02.09 改訂一版)


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