ヱヴァンゲリヲン新劇場版 〜ASKA REVERSE〜

Destruction〜破

第肆幕

presented by マルシン牌様


(何てことよ!これじゃどうやっても初号機を破壊しないと勝てないじゃないの…ゴメン、シンジ。碇ユイさんを壊すことになる…)

サクラは正直に先の問答を悔やんでいた。しかし、劇薬を以てこの場を鎮めなければ、彼女を冗長させることだと自身が判っていた。
そして今後彼女との距離を離すしかない事もサクラにとっては苦しい選択であった。作戦伝達室に戻ったサクラは開口一番、葛城一佐へ上申したのだった。

「葛城一佐、すみませんが、式波先輩が少し頭を冷やしたいという事でしたので時間を戴けないでしょうか?」

「良いわ。但し、敵は今も侵攻中。それほど悠長に構えてられないわ、精々五分が限界。それ以上アスカが来ない様なら貴女が提示したプランを実行するわ。
サクラさん、理由はどうあれ貴女は一度は査問室で事情聴取されています。そのことをお忘れなく」

「判っているわ。ただ今回は式波先輩にガツンと云わないと気が済まなかったのよ、謹慎処分はきちんと受けるわよ」

そう、独断でのプラン変更を進言したサクラは指揮系統を乱したとして形の上での使徒戦後の謹慎処分となった。
形の上というのは初号機パイロットから一時的に降りるという事だ。総司令と副司令が不在の状態でのトップは葛城一佐。
葛城としてはこの処分はやりすぎるとは感じていたが他に示しがつかないとしたのだ。





アスカは立ち竦んだまま動けないでいた。ただ思考は出来た。

(アイツ何者よ…あんな殺気人間に出せる訳ないじゃん。…でもあれが人間じゃないってまさか使徒って事?まさかそれこそ有り得ない。
ただいえることはアイツはただの素人ではない。あれは軍人特有のそれよ。『戦友が私には居る』…か。私はどうすればいいの…)

少しの間そう思案に深け、ふと身体が動くことを確認すると葛城一佐達が居る作戦伝達室へ向かった。
作戦伝達室に身を縮みこませながら入ると仁王立ちしていたサクラが居た。

「既に葛城一佐とレイは所定の位置に待機しているわ。後はアンタだけよ。云っておくけど今回のプランは変更。
私自らがあの『落下使徒』を食い止めることになった。だからアンタは万が一の備えよ」

「くっ!判ったわよ」

(アスカ悪いわね。この使徒戦が終わったら私は初号機パイロットではなくなるわ。これからはアンタはある程度自由に頑張れるわよ。
ただ四号機と参号機の動向に注意ね。あれは私の居た世界でも嫌な思い出しかない。そしてゼルエルが待っている…辛いわね、初号機が無い状態であの使徒とやりあうのは…)






発令所で葛城一佐は腕組みをしながら前面のモニタに睨み付けていた。相手は勿論『落下使徒』光を歪めるほどのATフィールドとは如何ほどなのか。
想像に窮しがたいそれを纏った自爆型使徒である。現場はオペレーターの報告と指示によって慌ただしくなっていた。その中で弐号機に乗り込んだアスカの表情は優れない。
今まで見下していた碇サクラのあの殺気と言い負かされた時のサクラの顔を見るとどうしても心が落ち着かないのだ。何かある。本能が感じ取っていた。
だが、その何かが判らないのである。その精神状態はエヴァとのシンクロにも多大な影響を与えていたが、最悪な状況を何とか繋ぎ止めていたものがあった。
『アスカには戦友が居る』『頼る相手が居る』などと言ったサクラの存在だった。これらの言葉はようやくアスカへ届いたのだった。

(アイツ、これを大事にしているからネルフスタッフからの信頼が厚いのね…私にはそんなものどうだってよかったのに…。
でもこれって軍人には必要な事なのよね…私には今まで不要だったのに。良いわ、サクラ。競争よ!
あの使徒を食い止めるには速さが必要。ならば私は私なりのエースを貴女に見せるわ!)

アスカの瞳に力強さが蘇ったのだった。零号機のエントリープラグ内に居るレイはサクラの事が気になっていたが目の前の敵が優先とばかりに目を閉じて精神集中していた。
初号機に乗り込んだサクラは今まで以上に精神集中をしていた。『第十八使徒リリンの覚醒』それを今実行に移していた。
この身体になってから使徒としての能力が半減されていたサクラはこの時を以て使徒としての覚醒を急いだのだ。ただ、正式な使徒として認定はされない。
MAGIが誤認しているからだ。今までも使徒の能力を解放したとてMAGI等は反応を示さなかった。
人間は使徒であるが、それは言い換えれば人間の持つ潜在能力を解放しただけに過ぎず、その副産物(ATフィールドの行使)がサクラにはあっただけの事。つまりはそういう事だ。





発令所では最終確認をしていた。『現在、目標の軌道を計算中』『野辺山の追尾電波、観測誤差…』

オペレーター達の報告が発令所内に響く中、葛城一佐がサクラ達へ伝達した。

「おいでなすったわね。エヴァ全機、スタート位置へ」

葛城一佐の指示によりエヴァ三機はクラウチングスタート態勢に入った。さしずめ巨人三体の世界陸上といったところだ。

「二次的データ等は当てになりません。また、本プランは初号機優先のプランに変更されています。
以降は初号機パイロットの指示と発令所データでの各自判断と成ります。エヴァと貴女達にすべてを賭けるわ」

『目標接近!距離大凡二万』「では作戦開始します」

その葛城一佐の指示によりエヴァからケーブルが切り離され内部電源へと切り替わる。猶予時間は五分だ。その五分で決着をつけるのだ。

「発進!!」その指示によりエヴァ三機は短距離走よろしく、躍動しながら奔り始めた。速度はさしずめF1レースでストレートコースを走る車並みとでも言えよう。
零号機は川岸を奔り、弐号機は森林地帯を走る。初号機は田園地帯を駆けていく。各所にある電線網は障害物競争よろしく飛び越えるがその速度故に飛ばし飛ばしで飛び越えていった。
エヴァが使徒へ向かう中、使徒もそれに気が付いたのか、自身が纏ったATフィールドを変質させ、落下コースの変更を図った。

『目標のATフィールド変質!軌道が変わります!落下予想地点、修正二〇五』『目標更に増速!!』

それをエヴァを操っていたアスカも愚痴る。「何よ!これじゃ、サクラのプラン通りじゃない、ダメ。サクラなんとか成らない訳?」

「ええ、何とかして見せるわよ。葛城一佐、臨時のコース形成をお願いします」

そのサクラの言葉に葛城はすぐさま応える。「判りました、緊急コース形成。六〇五から六七五」『はい!』

左側後方へぐるりとコースを変えるために建物の一部の装甲板を所定の位置へ建てていくそれを初号機が乗り込み奔り抜く。
十分なコースが取れるようになったのを認めた葛城一佐が次の指示を出す。

「次、一七〇二から一〇七八!スタンバイ!!」

兵装ビルが次々に上昇するところに初号機が飛び込み三段跳びの要領で次々飛び越える。
そして住居が少ない田園地帯に再び戻るとサクラは使徒の能力を解放させ、初号機の動作を一時的なリミッター解除のようにさせた。その結果音速を超える程の速度を得たのだった。
使徒は真の姿に変え、熱線を放出しながらその体躯を広げ、サクラが識るサハクィエルに似た形状になりながら初号機目掛けて落下していくのだ。

『目標変形!距離一万二千』

オペレーターの一人がそう報告するのを回線越しで聞いたサクラが最終補正された落下位置へ滑り込み、自身が持つ最大級のATフィールドを使って使徒を受け止めた。

「私のATフィールドの威力を舐めるな!」

初号機の手が使徒のATフィールドへ干渉する。それを認識した使徒は咆哮を上げながらそれに応戦した。
使徒内部から人型の実体が現れ、両手を広げ初号機と組み合ったのだ。しかし、それも一瞬。
初号機の手には碇サクラの使徒としての真の力『ASKA REVERSE』がある。その影響を受けた使徒の両手は融解していく。
使徒は悲鳴を上げながらなんとかその手を維持しようとするが既にその処置は遅れており、初号機はコアに向けてプログレッシブナイフを突き立てた後だった。
コアが崩壊し、使徒の体躯に比例し、赤い液体があたり一面に流れ出た。それはまさに津波のような状況であった。





初号機の損傷は激しい物だった。今まで以上の能力をサクラによって使用された初号機は筋肉断裂や内臓破裂等によって数値上80%の損傷率である。
見た目はそれほど影響は無くとも内部が崩壊していたのだ。内蔵電源も既に空っぽで、エントリープラグ内は暗い。その中で碇サクラは初号機に居るであろう『碇ユイ』に謝っていた。

(ごめんなさい…貴女を犠牲にしてしまったわ…そして初号機も。既に使い物にならないわね)

エヴァは金食い虫の性質がある。内部が崩壊している状況では修理も不可能となった。
一方、唖然とした表情で初号機のいる方向を見ているのはアスカであった。

(本当にソロで倒せるなんて…私なら一人で出来る自信無かった相手だった)

それは零号機内でその初号機の戦闘を見ていたレイもそうだった。

(碇さん…貴女本当に使徒なのね…何故貴女は私たちと共存する道を選ぼうとしているの。何故)

『状況終了』「ありがとう、サクラさん」

葛城一佐の安堵の声が響く。しかし、発令所は唖然としていた。サクラの乗る初号機の破損具合が芳しくないのだ。
破損率80%これは明らかに限界値を大きく超えていた。その中でオペレーターの一人が総司令との通信が漸く回復した旨の報告が上がった。

『電波システム回復しました。碇司令より通信です』「お繋ぎして」

「申し訳ありません。私の独断により使徒を殲滅致しましたが初号機を大破させてしまいました。
パイロットにも過大な精神的ダメージを負わせてしまいました。責任は全て私に在ります」

『初号機を大破させるとは…弐号機パイロットと零号機パイロットはどうした!』

「エヴァ三体の出撃はしましたが、弐号機及び零号機は初号機のバックアップが出来ない位置に居たため初号機優先の作戦となってしまいました」

葛城一佐の報告にゲンドウの嘆息が響く。

『葛城一佐、現時点を以て一階級降格、一週間の自宅謹慎処分とする。本来であれば即刻クビであるが、使徒殲滅の貢献には変わりない。初号機パイロットへ繋いでくれ』

初号機内に居るサクラへ通信が入った。『話は聴いた。サクラ、何故弐号機と零号機をバックアップに着けなかった。貴様は何を考えている!』

「弐号機パイロットは当初のプランを不服としていた。そのために代替プランとして初号機単騎での戦闘になったわけ。
総司令、ごめんなさいね。大事な初号機を廃機せざるを得なくて。罰はいくらでも受けるわよ」

そのサクラの言い分にゲンドウは呻いた。よりによってこの時期に娘殺しをしなければならない事態になるとはゲンドウ自身も想定していなかった。
出来ることなら第十使徒戦後。そこまで持って欲しかったのが彼の予定であったのだ。だが、現状最高のパイロットの一人である碇サクラを更迭や殺す事など出来るはずもなし。
苦心に纏った声でゲンドウは告げた。

『サクラ、貴様も自宅謹慎処分だ。更に適格者名簿からも除外する。良いな?』

「ええ、役に立てず申し訳ありませんでした」『では葛城二佐、後の処理は任せる』

「了解しました。エヴァ三機の回収を急いで。搬入は弐号機、零号機のみ99ケイジへ。初号機は損傷調査のために封印指定区域へ移送」







使徒戦後の夜中の事。既に葛城二佐と碇サクラは厳重な警戒の下で自宅謹慎となっている。その部屋にはアスカも居る。
寝静まった葛城邸に住まうアスカは眠気など無かった。目下、昼の出来事に頭を抱え、自身を悔やんでいた。

(もし私が素直にサクラと共に戦っていたら…こんなことにならなかった…ずっと一人でやっていけるって思っていたのに…。
私一人だけじゃ出来ない事もあったなんて。サクラに悪い事したのかな)

曲解すれば、アスカが起こした一連の騒動によって葛城二佐と碇サクラの謹慎処分と云って過言ではないのだ。一人涙を流しながらその夜は更けていった。






To be continued...
(2011.11.20 初版)


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