第漆幕
presented by マルシン牌様
「松代で爆発事故ですって!?サクラは?ミサト達は?」その凶報を昼休憩の最中にケータイで知ったアスカとレイは愕然と、その電話を切った。
「そんな…まさかサクラが起動実験に失敗したの?」
ネルフ本部へと急いで向かうアスカとレイであった。何より状況が判らないのだ。それも戦友が巻き込まれている。
その戦友はエースでもあるのだ。何よりアスカとしては戦友が復帰するための起動実験とあって一番期待していた張本人である。状況等いち早く知りたかったのだ。
一方、三号機のエントリープラグ内、使徒の汚染を浴びたサクラであったがこの身もまた使徒である。
しかし、汚染区域途中に逆に抑え込もうとしたのだがそれは叶わなかった。サクラが予想していた以上にこの使徒の浸食する能力が上回っていたのだ。
(やっぱりアスカ頼みね…しっかし、まさかこっちのアスカと戦う羽目になるとはね…。
戦闘経験豊富な私を乗っ取った最新鋭機に勝てるかしら。私に勝てないとこの世界も終わりよ、アスカ?)
ネルフ本部発令所もこの凶報に色めき立っていた。
「被害状況を報告しろ!」ゲンドウの怒声にオペレーター達が次々と情報を開示する。
『現在調査中につき詳細不明』『仮設ケイジが爆心地の模様。地上管理施設の倒壊を確認』
そのオペレーターの情報に冬月が指示を出す。「救助及び第三部隊を直ちに派遣」
「ああ、戦自が動く前に我々の手で全て処理をせねばならん」『了解』
『事故現場南西に未確認移動物体を確認。パターンオレンジ、使徒とは認識していません』
そのオペレーターの情報に危機感を持ったゲンドウは最大級の警戒態勢である『第一種戦闘配置』を宣言した。
「総員、第一種戦闘配置だ!相手はおそらく三号機であろう。零号機は待機、あの最新鋭機に零号機では太刀打ちできるか判らん。弐号機をダミープラグ換装後、出撃させる」
その言葉を到着したばかりのアスカが聞いてしまったのである。
「総司令そのダミープラグというのは何ですか?」
「あれの心配は不要だ、式波・アスカ・ラングレー大尉。それにだ、三号機殲滅に私情は厳禁だ。判っているだろう?」
なんとも言えないヒントをゲンドウは言ったのだが、アスカはおくびにも出さない。
「判っているわよ。だけどもし、三号機が使徒なら私が食い止めてあげるわ」
その宣言を以て発令所を後にするアスカ。その心中は穏やかではない。何より碇サクラが乗っている可能性があるのだ。
そして地上管理施設が壊滅とあれば葛城二佐の事も心配である。決戦は夕刻と設定された。
何より電源確保が難しいのがエヴァの弱点である。その設置等に時間を割いた。万が一、三号機が使徒ならばネルフ本部へ一直線で来るはずでもある。
ゲンドウはその事実を以て確証を得ていない三号機の現状を予測していたのだ。
夕刻、決戦の地が決まった。『第五戦車中隊、一八号防衛線に展開完了』
『主電源延長ケーブルの接続作業は後二分で完了予定』『支援機動打撃部隊の配置完了』
オペレーターの指示報告を二号機のエントリープラグ内で聞きながら、思ったことをオペレーターの一人へ問いかける。
「そういえば、まだサクラ達の事判らないの?」『全力で救出作業中だ。心配は要らないよ』
(そう、そういう事。おそらく現状、最悪な状況なのね…。って事はやっぱり三号機が使徒って事、サクラも乗っている可能性は無きにして非ず…か。
というか、臨時とはいえ総司令が作戦指揮官って本当に大丈夫なのかしら。経歴見る限り軍人出じゃないのでしょう?
まぁミサトのそばにずっといたからある程度判っていると思うけど…不安だわ)
そんな中で発令所ではようやく移動している物がなんなのかが判明する。
『遠見付近にて映像を捉えました。主モニタにまわします』
そこに居たのは間違いなく三号機であった。その映像に再度発令所は色めきたった。誰もが思っただろう。
まさかエヴァが乗っ取られるなど考えてもいなかった。そしてそれは碇ゲンドウも冬月コウゾウも同じだった。
「やはり…乗っ取られていたか」「活動停止信号発信。エントリープラグを強制射出だ」
オペレーターがその指示に従いやってみるものの反応が無かったのだ。
「ダメです!停止信号及びプラグ排出コード認識しません!」『エントリープラグ周辺にコアらしき浸食部位を確認』
『分析パターンが出ました…青です』苦渋に満ちた声で最後通告をするオペレーター。その最後通告を以て碇ゲンドウは行動に移した。
「エヴァ三号機は現時刻を以て廃機。監視対象物を第九使徒と識別する」そのゲンドウの宣言によってアスカが苦渋に満ちた表情でその敵を捉える。
『目標接近』『地対地迎撃戦、用意』『阻止部隊、攻撃開始』
本部のオペレーターの指示により戦車中隊から砲弾が三号機へ放たれるが無論ATフィールドによってその攻撃は遮られる。
その防御力であるが、ATフィールドの能力が今までの使徒よりも上回っているのだ。当然ながら、サクラが中に居る事でその証明になるだろう。
(まずいわね、あの使徒完全にエヴァを使いこなせていそうね…勝てるかしら)
不安が過ぎる、今まで戦闘訓練は幾度もしてきたアスカであっても実戦はこれが三戦目である。
そのうち先の第八使徒戦においてはバックアップ要員ではあったが実質何もしていないのだ。
敵にはアスカがエースと認めた碇サクラを人質にしているのだ。殲滅指示は出されていても真正直にそれを受け入れるには酷というものである。
しかし、助けるという選択肢はまだあるのだ。三号機を何としてでも食い止め、使徒本体を倒す。その上でサクラ救出というアスカのシナリオであった。
三号機は依然としてそのゆっくりと歩みを進めている。その中で三号機は目の前に弐号機の存在を確認したのだった。
参号機が咆哮を上げながら野生的な動作から一挙に右腕を伸ばし弐号機の首に掛けた。
一瞬の事だ。アスカはその三号機の素早い動きについて行けず、そのままその攻撃を受ける。更には、三号機が飛び蹴りの要領で弐号機に襲い掛かる。
ATフィールドを使って防御するアスカであるが、なんとATフィールドを容易く破壊してしまうのだった。更に左腕も使い、首を締め上げた。
そんな窮地にアスカは足を使う。総合格闘技等を知っているなら判ると思うが、蟹挟の要領で三号機のバランスを崩したのだ。
これで形勢がアスカへ傾くかと思われたが違った。なんと三号機の両足が伸び、するりと弐号機から離れてしまったのだ。
すぐさま態勢を立て直した三号機は再び弐号機の首を狙う。この時三号機である使徒は用心深くなったのか自身の枷となっている拘束具を外し、腕を二本増やしたのだ。
その結果弐号機は大の字になってしまった。もがこうにも四肢を抑えつけられた状況ではどうにもならない。弐号機の頸椎付近から徐々に使徒の浸食が始まっていた。
オペレーターが報告する。『装甲部頸椎付近より浸食開始されています』
「第六二〇〇層までの汚染を確認」その伊吹の報告に冬月が焦る。
「何という事だ。浸食タイプとは…厄介だな」『弐号機ATフィールド不安定』
「これ以上はパイロットの生命維持に支障をきたします」「いかん、神経接続を28%にカットだ」
「待て、冬月。これ以上、式波アスカが戦える保証はない。ダミーシステムを使う」
「碇?」「待ってください。司令、ダミーシステムは未だ調整が必要では?」
冬月と伊吹は異論を唱えるが、ゲンドウはこの状況を打破できるのはそのシステムしかない事を悟っていた。
「式波アスカが、苦戦を強いられているのだ。此処は機械に頼るしかないであろう」
その言葉に伊吹も渋々と機能をダミーシステムへ転換させた。アスカは突然の事に茫然となった。動作が出来ず、シンクロも出来ないのだ。
「なに?何が起こったの」アスカが呟く。だが、それ以上に混乱させることがプラグ内で起きた。
座席の後方よりディスクのような何かが動き出し、システム案内が起動したのだった。
アスカはその起動音に身体を強張らせ、ロック音と共に操縦桿を握りしめていた両手を何かに固定されるのを嫌うかのごとく叫ぶ。
「なんなのこれ。ちょっとこんなの聞いてないわよ?」
更に、外部を見ることのできないようバイザーのようなものが下りてきたのだ。それと共にプラグ内にノイズのような音が流れ始めた。
(こんな機能、エヴァに在るなんて知らないわよ?操縦を奪ってでもそんなにサクラを殺したいの?)
既にアスカはこれから起こるであろう事に見当が付いていた。その結果は見るまでもない、アスカは全身が蒼白になるのが判った。
「主管制システム、切替終了」『全神経回路、ダミーシステムへの直結完了』
『ダミーシステムでの稼働時間、最大一八九秒』オペレーターらの最終報告に了承を取るゲンドウ。
「構わん、システム解放。攻撃開始」その最後通牒を以て弐号機はアスカの意思に関係なく三号機を蹂躙せんと行動し始めた。
三号機内部に居るサクラは外の様子がおかしいことに気が付いていた。と同時に一つの結論に達した。
(まさか…ダミープラグが発動したの?)
サクラは何とか使徒の浸食を抑えようともがき苦しむがこの浸食使徒もまたサクラが予期していた能力よりも上回っていた。
(こりゃ、本当に年貢の納め時かもね…。でも…でもよ、諦めきれないのよ。ここまで来てシンジに頭を下げるなんて出来やしないんだから!)
弐号機の四肢を抑えていた三号機の四本の腕は既に使い物にならなくなっていた。四本の腕はあらぬ方向へ向いてしまっていた。
更に弐号機は三号機の頸部に手を掛けたのだ。その様子を発令所の誰もがモニタを通して見ていた。伊吹は想像以上の能力に顔面を蒼白にしながらそれを見ながら呟く。
「これが…ダミーシステムの力なの?」
弐号機の腕力はダミーシステムによってリミッターが解除され、さらに三号機の首を締め上げ、最後は首を折ってしまったのだ。
四本の腕も折られ、さらには首までも折られた三号機に最早嬲り殺しされるのは目に見えていた。しかし、突如として三号機は咆哮をあげる。
首は元に戻り、四本の腕も本来在るべき姿へ回復したのだった。その様子を見ていた発令所の皆がその姿を見て驚愕していた。
『第九使徒の内部から高エネルギー反応。これは…碇サクラさんの反応です!』サクラの生命反応が見られたのだ。その意味することは使徒による精神汚染というものだった。
(普通じゃないのよ!ふざけた真似しているんじゃない、ダミープラグなんてそんな悪魔の物使っていんじゃないわよ)
サクラが今まで以上にキレていた。その結果使徒を抑えることに何とか成功したのだった。
正気を失った弐号機に対してサクラが操る使徒である三号機の死闘が始まった。
再び距離を取る三号機、しかし弐号機もそのまま三号機を追う形で迫りくる。野生的な弐号機である。その速さが段違いであった。
(ちっ、これはどういう事よ)三号機の四本の腕が肩口から吹き飛んでいた。しかし、何とか弐号機へもダメージを与えることに成功していた。
だが、三号機は致命的な欠陥があった。サクラが制御しているとはいえ根本的に使徒によって操られている三号機は本能で物事を思考している状態である。
その関係上、バランス感覚が無いのと同義だったのだ。その結果、足がもつれ、転倒してしまったのだ。
その状態は弐号機にとって千載一遇の好機であった。馬乗りの状態で弐号機が三号機を再び蹂躙し始めたのだった。
(万事休す…かな。やっぱり足掻くことも何もできないか。悪魔の物には使徒も勝てないよね。アスカは大丈夫かな…ショック受けてないといいけど)
ほぼ全ての事はやったサクラはそう言い残して意識を失った。
一方で弐号機のエントリープラグ内では今もガクガクと震えながらアスカは弐号機を止めることに必死になっていた。
「総司令、これは一旦どんな真似なのよ?サクラは私が助けると言ったじゃない!」
涙を浮かべながらゲンドウへ問い詰めるがゲンドウは無言を貫いた。その間も弐号機は三号機への攻撃は止めなかった。
使徒の本体はエントリープラグである、ならばそこを破壊しない限りはこの攻撃に意味は無いのだ。
臓物を引きずり出し、三号機を喰い潰していき、最後に残ったのはエントリープラグだけだった。それを慈悲など無い狂気と化した弐号機は手でそれを握り潰したのだった。
To be continued...
(2011.12.10 初版)
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