新世紀幻想

第五章 戦友

presented by ミツ様


「いや〜、ウチのクラスの女子は顔は良いけどみんな気が強そうだなぁ…。俺、気が強い女は苦手なんだよね」

「せやなぁ。もうちっとこう…淑やかなオナゴでもおればのぅ……」

「被写体としては、最高なんだけどな…」

何故かケンスケとトウジと一緒に帰ることになったシンジは、道中ずっと彼らの女の子の好みを聞かされることになった。

(真っ直ぐ帰って来いって言われたんだけどなぁ……。まぁ、良いか…)

二人はまだ性格がどうだの、顔はああだのと自分の好みを語り合っている。そんな内、シンジに「お前はどうだ?」と話を振ってきた。

「うん、えっ…と、相田君?」

「あっ、俺のことはケンスケでいいよ」

「ワシはトウジでええ」

「じゃあ、僕のこともシンジでいいよ」

そう言うと、ケンスケとトウジはニカッと笑い顔になり、

「ハハ、何かお前イイ奴だな。俺達もこんな戦車学校に来て一緒にバカやれる奴が欲しかったんだ。ま、仲良くしようぜ」

「うん」

シンジは嬉しそうに頷く。自分と積極的に接点を持とうとしてくれる彼等の気持ちがありがたかった。

その後、三人は連れ立ってアーケード通りにやって来た。ケンスケの話によると、アミューズメントビルの地下に面白い店があるらしい。

 

 

 

「ほら、此処だよ此処」

地下の階段を降りると一軒の薄汚い店があった。そして、その奥に六十過ぎの親父がムスッとした表情で店番をしている。

ケンスケが案内してくれたのはその筋では有名なマニア御用達の店であり、金さえあればティッシュペーパーから核弾頭まで何でも買い揃える事が出来るという裏マーケットだった。

確かに物が激減している状況下で、最近では滅多にお目にかかれなくなった自然食品や調味料、拳銃、バズーカ、レーザーラフルといった軍から横流しされた装備品、さらには怪しげな本やビデオ等が雑多に並んでいる。

新東京市内……いや、日本中を探してもこれだけの品揃えを誇る店は少ないだろう。

「どうだい、凄いだろ?」

「おっほ〜!美味そうなハムが置いてあるでぇ!!」

トウジが目を輝かせながら商品を物色する。

シンジも物珍しそうに辺りを見渡した。

「おっ?これって『卒倒失神ヒンケッ2』の超合金じゃないか!?俺、ガキの頃見てたんだよね、懐かしいぃ〜〜!」

ケンスケも何やら掘り出し物を見つけたのかご満悦の様子だ。

「でも、僕達の給料じゃとても買えそうもないね……」

「せやなぁ…」

店に置いてある商品は、どれも目が飛び出るほど高価なモノばかりである。

学兵とは言えシンジ達も軍人。当然軍から給料が出てはいるが、それでもとても手が出せるものではなかった。

シンジとトウジはガックリと項垂れる。

「その事なんだけどさ……折り入って二人に頼みがあるんだ」

その時、急にケンスケが改まったように話し掛けてきた。表情も神妙な面持ちを浮かべている。

「なんや、水臭いでケンスケ。エンリョせんと言うてみい」

「ここじゃチョット……」

ケンスケはそう言って、二人を裏マーケットから連れ出して狭い路地に連れ込んだ。

更にあらぬ方向を睨んだり、キョロキョロと左右を確認したりしている。

どうやらかなり込み入った話らしい。シンジ達も心持ち緊張して顔を近づける。

「……実は俺、カメラに凝ってるんだ………」

ケンスケは小さな声で二人だけに聞こえるように話し始めた。

「それがどうかしたんか?」

どんな重大な相談事かと思っていたトウジが肩透かしを食らったような表情で聞き返す。その程度の事でわざわざ内緒話をする理由が分からない。

「はっきり言って腕の方は自信がある。此処に配属が決まる前は戦場カメラマンを目指していた程なんだぜ」

「自慢話はエエわいっ!」

「まあ、話は最後まで聞けよ。この才能を友好に活用しない手はないだろ?……そこでだ。趣味と実益を兼ねたビジネスをしたいと思ってるんだ」

どうやらここからが本番らしい。ケンスケは更に声をひそめた。

「どんなビジネス?」

シンジもそれにつられて小声で尋ねる。

「写真が売れて、皆も喜び、俺も儲かる……一石三鳥のビジネスさ……」

そう前置きをすると、ケンスケは自分の計画を語り始めた。

もっとも話しは簡単、要は小隊の女子をモデルにしてそのブロマイドを他校の生徒に売りつけようということだった。

勿論、そこに至るまでの経緯として、青少年の迸るエナジーだの熱いパトスがどうだのとのたまっていたが、はっきり言ってシンジ達にはケンスケの言葉の半分も理解出来なかった。

「はぁ!?アイツ等をきゃ?…んなモン欲しがるヤツがおるんかいな?」

トウジが呆れた様に呟く。

「それが結構需要があるんだよ。すでに壱中の奴らからも注文が来ている」

「まあ、写真に性格は写らんしなぁ……」

シンジも女子の顔を思い浮かべてみた。惣流に綾波…たしかに黙っていれば美少女で通るだろう。

ケンスケの話しによると、すでに秘密のファンクラブまで結成されているそうだ。

「世の中ワカランのう…。しかし、アイツ等が素直にOKしてくれるとは思えへなぁ…?」

「だからさ……こっそり撮るんだよ」

眼鏡を光らせて唇を歪めるケンスケ。

「えっ!?それって、隠し撮りってコトじゃぁ……!?」

「バ、バカッ!!声が大きい!」

シンジが思わず声を上げると、ケンスケが慌ててその口を塞いだ。

「気をつけろって!!いつ何処で『風紀委員会』が聞いているか分からないんだぞッ!」

 

 

風紀委員会……。

それは各学校に設けられた人格更生特殊機関のことである。

主な活動目的は学校に蔓延る風紀・秩序の乱れを正すこと。その為構成メンバーは日夜不埒者共と戦い続けている……らしい。

徹底的な秘密密告主義で、構成員ですらその全容は知らされていない。

 

 

「…ウワサには聞いとったが、ホンマにそんなのがあったんか?」

「ああ…アイツ等に捕まったら全てが終わりだ。俺は一度酷い目にあっている………」

過去の記憶でも蘇ったのか…、そう語るケンスケの顔は青褪めている。

シンジは、どんな目にあったのか聞いてみたい気もしたが、…世の中には知らない方が良い事もある、と思い直す事にした。

「それでさ…相談ってのは、二人に協力して欲しいんだよ」

ケンスケが拝む仕草をしてシンジ達に手を合わる。

「アホ。見つかったら殺されてまうで!」

盗撮されたことを知ったアスカ達がどんな報復に出るか、想像しただけで寒気がする。

「一枚150円として、レア物は500円以上……水着とかだったら2,000円出しても買い取ってくれる奴等もいるんだ!」

ケンスケが尚も諦めずに説得を続ける。

「せやけど…なぁ、シンジ?」

「そうだね。やっぱり危ないよ……」

「せやせや!大体隠し撮りっちゅうモンが”漢”のすることやない!」

二の足を踏んでいる彼等の前に、ケンスケは指を二本立てて囁く。彼の眼鏡の奥が不気味に光った。

「…バックマージンとして、二割でどうだ?」

………それは、悪魔の囁きというもの。

案の定、途端にトウジの顔付きが変わった。

「その話、乗ったぁぁッ!!」

「ええッッッ!??」

思わずツッコミを入れたくなるほどの変わり身の早さに、驚いた顔でトウジを見やるシンジ。

「イヤ〜〜、やっぱトモダチが困っとったら助けるんが”漢”っちゅうもんや!」

「ありがとうトウジ。君ならそう言ってくれると信じていたよ」

トウジの手を熱く握るケンスケ。トウジもまた熱く握り返した。

「なんのッ!トモダチとしてトーゼンのこっちゃ!シンジもそれでエエやろ?」

前言をあっさりひっくり返して賛同するトウジのゲンキンさに多少引き攣りながらも、呆れた様な感心した様な微笑をシンジは浮かべた。

「うん……わかったよ」

「ヨッシャッ、さすがはシンジや!」

「よし、これで商談成立だな」

道の真ん中でガシッと手を結ぶ三人……美しい漢の友情というやつだろうか?

肩を組みながら三人揃って歩いて行く姿を、商店街のオバチャンが不思議そうな顔で見送っていた。

 

 

……これが後の世に語られる、『三バカトリオ』結成の瞬間であった。




To be continued...


(あとがき)

こんにちは、ミツです。
う〜〜ん、なんかどんどん学園化が進行しているような……?
当初のコンセプトは何処へ行ったのやら……。

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