第十七話
presented by ミツ様
第三新東京市・市街コンビニ
24時間営業が売りの小型セルフサービス店。
セカンドインパクト以前は街に溢れかえっていたこの手の店舗も、西暦2015年現在ではその数を大分減らしている。
人口の減少は勿論だが、経済の復興が未だ立ち行かない地域もある現状では仕方の無い事なのかもしれない。
店内ではスピーカーから流れる有線とレジをうつ事務的な音が鳴っていた。
そして、それに混じるように聞こえてくる買い物カゴを抱えた数人の主婦の声。
「…やはり引っ越されますの?」
「ええ、まさか本当にここが戦場になるなんて思ってもみませんでしたから」
非常食をカゴに放り込んでいた主婦が口を開いた。
商品棚は意外とモノが少ない。皆、すでに買い荒らされた後なのだろう。
ここ数日、疎開をひかえた人々が競うように食料を買い求める姿が多く見られたからだ。
「ですよねぇ、ウチの主人も子供とあたしだけでも田舎へ行けって…」
「いくら要塞都市っていってもアテに出来ないし、ねぇ……」
そう言ってもう一人がレジ横に据え付けられていた電子新聞に目を向ける。
全紙の一面を飾っている第三新東京市を襲った怪物事件の記事。
内容は様々だが、一様に人々の不安を煽るには十分だった。
「何でも、まだまだ怪獣が攻めてくる可能性があるらしいじゃないですか?」
「政府はその事を大分前から分かっていたって話ですよ?それで良くここを遷都に選んだものですわ!」
ゴシップ混じりの週刊誌の情報を聞きかじったのだろう。一人が訳知り顔で話す。
「本当よねぇ、ローン組んでまでこの街に越してきたっていうのに冗談じゃないわよ」
「今から引っ越すとなると、子供の受験にもひびきますものねぇ…」
「あら、奥さんのところは優秀だから良いわよ。ウチの息子なんて……」
「ウチの子もゲームばっかりして、家の手伝いもしないのよ」
話が次第に妙な方向に逸れていき、後はいつもの井戸端会議に夢中になる。
そんな主婦達の脇をよぎるように、一組の男女が店を後にしていった。
第三新東京市・郊外
耳障りに響く蝉の声。
太陽が傾いても纏わりつくような不快な空気はアスファルトに陽炎を立ち込めさせている。
立っていても汗がじっとりと噴出す中を、先ほど店内から出てきた男女二人が歩いていた。
「…どこもかしこも大変みたいですね」
両手にコンビニ袋と段ボール箱を抱えた青年…日向マコトが、隣を歩いている女性に声をかける。
「そうね…、こんな事が自分の住んでいる街で起こっちゃね……」
眦を決して道の先を見詰めながら葛城ミサトは答えた。
再開発の看板や工事中の柵や赤ランプが目立つ市街。
そこは爆弾が破裂した様に大きな穴が方々に穿たれ、ここで起こった戦闘の凄まじさを物語っている。
ミサトはこの光景を目にする度、忸怩たる想いが胸の中を占めた。
街をこんなにしてしまったのは自分の責任だ…。
巨大なバケモノ同士…戦い合えば街がただでは済まされない事ぐらいは理解している。
しかし現場を預かる者として、作戦指揮官として、あの時何も出来なかった不甲斐なさが常に頭の片隅に残っていた。
何故自分は呆けた様に戦況を見詰めていたのだろう…。
何故何も指示を出す事が出来なかったのだろう…。
彼女の思考はそんな後悔の念で一杯だった。
「葛城さん…大丈夫ですか?顔色が悪いですよ……」
心配そうな日向の声に、我にかえるミサト。
「え…?ああ、大丈夫よ。…それにしてもゴメンね、日向君。あなたも夜勤明けなのに荷物持ちなんかさせちゃって」
「いえ、これくらいお安い御用ですよ」
日向は抱えている段ボール箱をポンポンと叩きながら笑って答えた。
NERV本部で両手一杯の資料を持って帰宅しようとするミサトを偶然に見かけて、彼が荷物持ちを買って出たのだ。
「ウチの車が修理中じゃなきゃ良かったんだけど…、代車はいまいちシートが合わないのよね」
「気にしないで下さい、僕の方から言い出した事ですから。……しかし、自宅に帰ってまで資料検証ですか?葛城さんが仕事熱心なのは分かりますが、これじゃ身体を壊しますよ?」
「最近ちょっち立て込んでて…目を通しとかなきゃいけない書類が結構残ってんのよね」
「雑務関係ならいつでも言って下さい。僕なら多少時間はありますから」
「ありがと、日向君」
日向の申し出に感謝の意を述べた時、街中に大きなサイレンが鳴り響いた。
山々に木霊する大音響。
道路や建物にかかっている大規模な防御シャッターが開き、地下に収納されていたビルが地上に戻ってきた。
空に伸びていく集光ミラーが赤い太陽を反射する。
そして眼前に広がっていく大要塞都市。
二人には見慣れた光景だが、まるで生き物の様に生えていく高層ビル群は圧巻の一言に尽きるだろう。
夕焼け空に聳え立つ超高層ビル群が展開される中、彼女の視線の先にはあの少年の通う第壱中学校が映った。
「そう言えば、シンジ君は今日から学校ですか?友達が出来ると良いですね」
「…ええ、そうね……」
日向の言葉にミサトは複雑な表情を浮かべる。
「どうしたんですか?」
「ううん……何でもないわ」
そう言って再び学校の方向を見詰めるミサト。
碇シンジ、サードチルドレン。
この絶望的な状況下に於いて唯一ともいえる貴重な戦力である。
もっとも、未だ14歳の少年。前回の使徒戦では早々に意識を失ってしまい、初号機の暴走によって辛くも勝利をおさめたというのが実情だ。
発令所の面々でもあれは偶然の勝利と考えている者も多いが、彼女はそう思ってはいなかった。
あの時……使徒殲滅後に見せたシンジの姿を思い出すと胴震いが止まらない…。
今でも忘れられない。
あの少年の狂気に満ちた鋭い眸。
その視線に射竦められ、背中に冷たい汗を流したのを覚えている。
彼に漂う圧倒的な闇の影。
屍者を思わせる幽鬼の如き貌。
…その全てが異常だった。
彼の事をもっと知らなければならない。上官として…そして一人の人間として。
しかし、過度の干渉はリツコに止められている。
いつもは小憎らしいくらい冷静な友人が、ことシンジに関しては驚くほど感情を露わにする事も不可解だった。
(リツコがシンジ君に対し異常なまでに執着しているのは事実だわ…。でも何故?……何故あんな子供にそこまで神経質になるの……?」
理解が出来ない。
だが、この疑問が何故か今まで抱いている自分の違和感に繋がると彼女の直感は告げていた。
黙り込んだまま思考をかさねるミサト。日向はそんな彼女に気を使うように話題を変えた。
「…毎日地下に籠もってたら腐っちゃいますもんね、世間にも疎くなっちゃいますし……。あっ、世間と言えば葛城さん知ってますか?ここ最近、世界各地でUFOが目撃されているってニュース?」
「UFO?そりゃまたアナクロねぇ…」
思わず苦笑いを浮かべるミサト。
セカンドインパクト前、世紀末を題材にこの手の話題が流行った事があった。
特集を組んで報道するTV局も何社もあり、UFOに遭遇したという証言者やら自称未確認飛行物体研究者、そしてそれを否定する学者達が真面目な顔で議論をしていたのだ。
ミサト自身は宇宙人の存在なぞ別に信じてもいなかったが、彼等の口論が面白く何度か見た事がある。
もっとも、最近はほとんど年末の風物詩と化していたのだが……しかし、いかにバケモノが徘徊するご時世になったとはいえ、UFOとは……。
「何でも、夜空にオレンジ色に光る物体を見たとか…ストーンサークルが突然自宅の庭に出現したとか…そんな怪情報がネットで頻繁に流れているらしいんです」
「ホントに?何かマユツバっぽいわね」
「ええ、僕もそう思うんですが、その目撃情報が第三使徒襲来時期にかなり重なっているっていうのが気になって……」
「えっ?まさか、新手の使徒!?」
血相を変えて反応するミサト。
今までは単なるゴシップと聞き流していたが、そうなれば由々しき事態である。
現在実戦配備可能なエヴァは一体、それも活動可能範囲は第三新東京市周辺に限定される。
もし世界各地に同時に使徒が現れたらどうなるか……防衛は不可能だろう。
「それに関しては何とも……、ただNERV各支部においては”パターン青”の検知はなされませんでした」
そう言った日向の言葉にミサトはいくらか安堵の表情を受かべた。
「…そう、取り越し苦労ならいいんだケド。……ま、世情を煽ろうって輩は何処にでもいるし……」
「その可能性もありますね。…今度もう少し詳しく調べてみますよ」
「お願いするわ…」
二人がそんな会話をしているうちに太陽もすっかりと沈み、路頭の所々で街灯の明かりがつき始めた。
郊外の高台を過ぎたところで一つのマンションが見えてくる。
コンフォード17マンション。
それは山間に面した12階建ての建物であり、そこの11-A-2号室がミサトの部屋だ。
3LDKのNERV職員用の宿舎だが、各部屋には人の生活をしるす明かりはない。
「どお?ちょっち寄ってく?」
エレベーターで11階に辿り着いたミサトは、扉の前で悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
案の定、顔を真っ赤に染めて慌てる日向。
「そ、そんな!??いくらなんでも女性の一人暮らしの部屋に入るわけには……」
「ダ〜イジョブよ。ウチは一人じゃないし、きっと『彼』も喜ぶわ」
「そうですか、それなら安心ですね…………………………って、エッ!!?」
突然日向の脳天にN2爆弾級の衝撃が襲いかかった。
か、かかかかかかかかかっかかかかかかれ?カレ?涸れ?刈れ?……彼ッッ!!???……………そんな…葛城さん、恋人いたんだ……。
ガックリと項垂れる日向。
フラフラと揺れる足取りで部屋に通されたが、頭の中はフリーズ状態で何も考えられない。
部屋中山のように積まれた段ボールや脱ぎ散らかした服や本を前にミサトが「引っ越したばっかでねぇ〜〜」という言い訳も耳に入らなかった。
その後も半ば放心状態が続いたが、ビールや日本酒で一杯の冷蔵庫にインスタント食品を入れ終わったミサトが襖の奥で部屋着に着替え始めた姿をチラっと目に留めた瞬間、急激に彼の中の脳内シナプスが活性化された。
(うわっ!マ、マズいですよ葛城さん…………何て無防備なんだ………)
ドギマギしたように視線を泳がせる日向。すると、突然脱衣所のドアが開き、そこから何か黒い物体がいきなり飛び出してきた。
『グァワワッ!』
「うわぁぁぁッ!!?」
日向が慌てて飛び退くと、黒い物体もそのリアクションに吃驚したようにドタバタと部屋を駆け回る。
「な、何ッ!?どうしたのッ?」
『ギャワッ!グァワワワッ!』
その物体は、騒ぎに駆けつけたミサトの姿を確認すると、彼女の胸元にぴょんと飛び乗った。
「あっ、コラ!お客さんが来てるんだから騒いじゃダメじゃない!」
『クワッ、クワッ、クェッ』
日向が目を凝らして見ると、ミサトとじゃれ合う謎の物体は体長が60p程度、黄色い嘴に鋭い鉤爪を持っている変種のペンギンだった。
しかし、何故こんな所にペンギンが…?
それもどうしてお風呂から出てくるんだ…??
当然の疑問が頭をよぎり、日向は恐る恐るミサトに尋ねた。
「……あのぅ、それは………」
「ああ、紹介するわ。ウチの同居人で温泉ペンギンの『ペンペン』よ。ヨロシクね♪」
『ク〜〜〜ッ』
ペンペンが右手?をあげて挨拶をしてきた。
意外と知能レヴェルは高いのかもしれない。
もっとも、日向の頭の中はそれどころではなかったが…。
同居人?
このペンギンが??
じゃあ、さっき葛城さんの言ってた『彼』って……。
罪の無い笑顔を見せるミサトとペンペンを交互に見比べ、日向は脱力で身体が崩れ落ちるのを感じた。
NERV本部・屋内ドーム第二実験場管理室
床に散乱した書類の束に、打ち捨てられ壊れた機器類。
まるで強風が圧倒的な暴力を揮い終ったかのような空間は、僅かに非常灯の暗蒼色の光のみが照らすだけで寂寥の感が濃い。
その部屋の粉々に破壊された強化ガラスの袂にサングラスの男性と白衣の女性が立っていた。
一人はNERV総司令碇ゲンドウ、もう一人は技術部主任赤木リツコ。
先程から二人はじっと下の光景を見下ろしている。
その視線の先には橙の巨人の影があった。
だが、その半身は特殊ベークライトで固められ、背中に十字架状の停止プラグが挿入されている。
「…零号機はいつ使える?」
ゲンドウの問いにリツコは静かに答えた。
「停止プラグと特殊ベークライトの除去に時間を要しますが、技術的な問題点はクリアしておりますので最短にして53時間で再起動実験は可能です。…ただ、要塞都市の建設費に続き零号機ともなると、予算の方が……」
「冬月に任せてある、問題ない」
「ですが、国連もかなり難色を示していると聞きますが?」
「委員会も自分たちが生き延びる為の投資は惜しむまい…それより、ダミーシステムの方はどうなっている…?」
その言葉にリツコの肩はピクリと震えるが、ゲンドウは気付かなかった。
「…順調です。擬似人格の中枢神経素子の形成に若干の問題が見られますが、予定通りに進んでいます」
ゲンドウは「そうか」と短く呟くと再び視線を眼下に向ける。
十字架に打ち付けられた零号機。
その姿は、まるで神の怒りをかった大罪人の様な姿を晒していた。
…数週間前に起こったエヴァ零号機の起動実験。
人類初の人造人間、それも対使徒戦における決戦兵器となるべき存在だ。その稼動に成功した瞬間、まるで名も無き怪物を誕生されたフランケンシュタイン博士の様に、一同に高揚した表情が浮かぶ。
だが、それも束の間の事だった。
シンクロしていたディスプレイのグラフに乱れが生じ、零号機の巨体がガタガタと小刻みに震え始めたのだ。
中枢神経回路の異常を伝えるオペレーター、騒ぎ出す研究員。
そしてその誤差が83%を越えた時、零号機は拘束具を引き千切り、狂った様に身を捩った。
壁に頭を何度も打ちつけ、苦しみもがく橙の巨人。
飛び交う「制御不能!」の言葉。
ゲンドウが実験中止を告げ、リツコは非常停止レバーを力一杯引いた。
零号機の爆炸ボルトが飛び、電源ケーブルが外される。
動きを止める零号機。
だがそれも一瞬の事、再び動き出した巨人は制御室を目掛け思い切り拳を叩きつけてきた。
命中する右腕、細かく砕け真っ白になる窓ガラス。
エヴァの力を計算して設計したはずの強化ガラスが役に立たない事を悟った研究員達は、恐怖で一斉に身を屈めた。
さらに、マヤから悲鳴混じりに発せられた「オートエジェクション作動!」の声。
爆炸される背中のカバー、射出されたエントリープラグは搭乗者を乗せたまま荒れ狂う木の葉の様にめちゃくちゃに天井に激突した。
「レイッ!!」
普段、めったに感情を表さない男が見せた狼狽。
ガリガリと天井を這うエントリープラグ、それは噴射炎が消えるとそのまま自然落下する。
「特殊ベークライト!急いでッ!!」
いまだ壁を殴り続けている零号機に特殊ベークライトが噴出された。
身体の半ばまで熱硬化性樹脂の液体を吹きかけられるが、それでも殴る事を止めない狂った巨人。
遂には右腕が壁を貫通するが、その瞬間、予備電源が尽き巨体が停止する。そして、グラッと傾いたかと思うと零号機は地響きを立てて転倒した。
凝固するベークライトの中を走りぬけ、エントリープラグに駆け寄るゲンドウ。
一瞬、放電作用が引き起され眼鏡を装甲板に落とすが、構わず過熱したハッチを素手で掴んだ。
ジュッと肉の焦げる音。
しかし、それでも手を離さないゲンドウ。
彼はそのままハンドルを力一杯回した。
エントリープラグのあちこちかの穴から液体が放出される。
開かれる非常ハッチ。
中から朦朧とした様子のレイを助け出すゲンドウの様子を、リツコはじっと見詰めてた。
装甲板の上に落ちた眼鏡のセルフフレームが過熱された飴の様にゆっくりと変形していく。
…………そのレンズにピッとヒビが入った……。
あの暴走事故の原因は未だ不明。
推定では操縦者の精神的不安定が第一原因とされたが、それを引き起した要因は一切が謎だった。
一体あの時……零号機とシンクロした瞬間、レイは何を見たのか…?
それほどあの娘を動揺させたモノとは何だったのか…?
この巨人は我々に何を齎すのか…?
エヴァとは何なのか…?
リツコは改めて人間の智恵の浅はかさというものを味わっていた。
「エヴァンゲリオン…、私達は触れてはいけないものに触れてしまったのかもしれません……」
「だが、人類が生き延びる為には必要な力だ…」
リツコの呟きにゲンドウが謹厳に答えた。
「ですが、職員達の間に動揺が拡がっています。総務部の報告では退職を希望する者も少なくないと…」
「足りなければ補充すればいい…。それに、弐号機に引き続き参号機もアメリカから譲歩を急がせるようにした」
「フォースが、見つかったのですか…?」
リツコが幾分緊張した面持ちで尋ねた。
「マルドゥック機関からの報告は無い、あくまで予備兵力としてだ……人員の補充もすぐに行われるだろう、…何の問題もない」
この発言は、新たな候補者はまだ必要無いと暗に指示させた事になる。
ゲンドウは傲然と言い放つと、十字架に晒された虚ろなる巨人に目を向ける。
「これは我々人類の最後の希望なのだ…」
サングラスの奥にギラついた瞳を隠すこの男を、リツコは冷たい表情で見やった。
人類の希望…?
違うわね…
貴方は自分の妻以外、何の価値も見出していないじゃない…
そう、綾波レイですらゲンドウにとっては自分の欲望を叶える道具に過ぎない。
(レイに随分嫉妬したけど、何の事はない…あの娘も私と同じだったのね……)
リツコは皮肉げに唇を歪め、もう一度ゲンドウを見詰める。
この男を求めていた…
私から母さんを奪ったこの男を…
私の人生を狂わせたこの男を…
愛したかった
愛されたかった
見ていたかった
見てほしかった
ひとりはいやだった……
殺したいほど愛していたはずだった
でも今は……
「…レイは、昨日退院でしたわね」
「…………」
リツコの言葉にゲンドウは黙して語らない。
「お会いにはならなかったのですか?」
問いの答えは踵を返した後姿だった。
愛人に話す事など無い、という事なのだろうか。
その姿には拒絶の意思が見てとれる。
いつもそうなのだ。
この男はすべてに心を閉ざしている。
ヒトとの繋がりを拒んでいる。
もっとも、それも当然だろう……この世界は彼の望む世界ではないのだから。
彼は現実を認めていない。
いや、それを直視する勇気が持てないのだ。
心が欠けた哀しみに耐えられないのだ。
だからこそ今でも失った温もりを求めている。
まるで、壊れた揺り篭を必死で探す子供のように……。
”哀れなひと……”
リツコは去り行く背中に冷たく言い放った。
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お気をつけになられた方が宜しいですわよ……
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人形はいつまでも人形ではありえません……
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聖書の綴りにもあるように……
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アダムを裏切りし者の名は、リリスなのですから……
To be continued...
(あとがき)
こんにちは、ミツです。
相変らず展開が遅い「贖罪の刻印」ですが、次回からやっと第四使徒戦に突入出来そうです。
……はぁ、長かった………。
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