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天使と死神と福音と

第壱章 〔神に突き立てる牙〕
T

presented by 睦月様







「つまりこれが父さんがぼくを呼んだ理由と考えていいんでしょうか?」
(たぶん間違いないだろうね、何せ用意された切符でこの町にきたとたんこんな状況だ。最初からねらってないと無理じゃないかな?)

ズン!!

シンジの頭上でミサイルの爆発音が響いた。
強烈な爆音と風が起こってシンジの髪が揺れる。
しかしシンジはじっとその場を動かない。

「・・・父はぼくを殺す気でしょうか?」
(君が”これ”と鉢合わせしたのはさすがにイレギュラーだろう?電車がここで止まったのが原因で”これ”の進行方向と重なったんだよ。)
「ますます父がわからなくなりましたよ、中学生に”こいつ”をどうさせたいんでしょうね?」

うんざりした顔でシンジはため息をついた実際まったく意味がわからない。
ゲンドウが自分を呼び出した理由が”こいつ”だとして・・・一介の中学生に何をさせるつもりだろうか?
いや、まずまちがいなくどうにかできると思っているのだろう、どう言う理由があるのかは知らないがそうでなければ自分をこんなところに呼ぶ理由が思いつかない。

(君のお父さんはあってみないと何とも言えないな、しかし僕にとってはラッキーな事だよこれは、まさかこんなにはやく見つかるとは思わなかった。)
「そりゃ、ブギーさんにとってはそうでしょうけれど・・・」

シンジは”それ”を見上げながらブギーポップと会話していた。
周りは無人なのでシンジは声に出しているが他に人がいれば独り言をつぶやく危ない中学生と勘違いされていたかもしれない。

しかし、シンジ達は会話の間もずっとそいつから目を離していなかった。

(間違いない、”これ”が・・・・・・・・・)

そいつを見上げるシンジの表情はすでに・・・・

(・・・・・・世界の・・・・・敵だ・・・)

ブギーポップのものだった。

目の前にいるのは異形の巨人、漆黒の体を持つ使徒と呼ばれる存在、名を《サキエル》死神と天使の名を持つ2つの存在はこうして出会った。

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30分前


『現在東海地方を中心とした・・・』
「・・・・・・ふむ」

ガチャン

駅の構内でつながらない電話を置くシンジの姿があった。
シンジは周りを見渡すが田舎駅でもないのに人っ子一人いない。
言葉通りの無人駅だ。

「リニアがここで止まるとは・・・・電話も繋がらないし、なにが起こっているんだろう?」
(何か起こっているのは間違いないようだが、ここは危険になるということで避難しているんじゃないかい?)

頭の中にブギーポップの声が響いた。
いっている事は正しいが・・・

「なんか人ごとのような言い方ですね?」
(そうかい?これでも結構心配してるつもりなんだがね)
「・・・・・・・つもりですか?」

もう5年の付き合いになるがシンジはいまだにブギーポップの性格をつかみきれてなかった。
シンジが鈍いのではなくブギーポップが規格外すぎるためだ。
それでもシンジのブギーポップに対する信頼は揺るぎないし、ブギーポップのほうでもシンジを守る事に異論はないので本人同士には大した問題でもない。

(しかし、君が向こうを出る前やってた分析は正しかったようだね)
「いえ、まだ甘かったようです。時間にルーズなのが抜けてました。」

初めて来た町で右も左もわからないのに出歩くことはできなかった。
結果として”葛城ミサト”をまつという結論が出てから、駅で待つこと・・・2時間がたってた。
イレギュラーとは言えいくらなんでも2時間は長い。

「とりあえず、外にいた方が向こうも見つけやすいかな?」

シンジはそうつぶやいて出入り口に足を向けた。
無人の改札を抜けた先には同じように無人の町・・・

「・・・なんだかな・・・」

なんとなく気分がよくない。
人のいない町というのは不気味なものだ、確かに人のいた証があるのにひどく死を感じさせる。
細菌兵器を使われた町に行ったらこんな感じだろうか?
シンジが無人の町を見ながらそんなことを考えていると視線を感じた。

「ん?」

シンジが視線の方に顔を向けると一人の少女と目があった。
年はシンジと同じくらいだろう、どこかの制服を着ているから 学校の帰りかもしれない。
薄いブルーの髪に赤い瞳という神秘的な魅力を持つ少女だった。

(あの子・・なにかおかしい・・・・)

5年間の経験がシンジに違和感を訴えた。
そもそも無人の町で一人でいるのも変だが(自分のことはおいといて)それ以上に少女のまとう雰囲気が違和感の元だった。
上手く説明できないが彼女はどこか普通じゃない。

しかし、このまま見つめ合っていても埒があかない。
シンジは意を決して少女に話しかけようとした。

ゴーーーーーーーーーーーーー

「な!!」

シンジの頭の上を戦闘機が低空で過ぎ去り、それによる突風で思わず少女から目を離してしまう。

「戦闘機があんなに低く・・・あ!」

再びシンジが少女に目を戻したときすでにそこには誰もいなかった。

「ブギーさん?」
(幻覚じゃないようだね、いったい何者だろう?)
「よくわかりません、そういえばさっきの戦闘機、何なんでしょう?戦争でも始まったんでしょうか?」

シンジが戦闘機の飛んでいった方向を見るのと【サキエル】が現れるのは同時だった。

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シンジは第三使徒【サキエル】を見ながら未だにブギーポップと会話していた。
サキエルは向かってくる戦自の戦闘機やV-TOLを羽虫のように蹴散らしている真っ最中だ。
普通に考えれば逃げるべきなのだが彼らがこの町に来たのは”世界の敵”を倒すためであり、目の前で暴れているサキエルに用があった。

「実際どうするんです?あまりにも体格にハンデありすぎると思うんですけど?」

戦闘において体重や身長などは重要な要素と言われているが
単純計算で彼我の体格差は歴然、サキエルの拳だけでシンジより大きい。
リーチなどは言わずもがな、と言うよりさっきから光の槍やら光線やらで戦自の部隊を丁重に御持て成し中だ。
勝てる要素が見つからない。

(大きさだけなら前に似たようなのとやり合ったことがあるんだけど)
「・・・マジですか?」
(ゾーラギといったんだが、残念ながら世界の敵本体じゃなかったし倒した訳じゃないからね)
「参考までに聞かせてください、どうやったんですか?」
(ああ、トカゲのでかいやつだったんでね、外側は堅そうだったんで舌を切りとばしたら退散してくれたよ。残念ながら{あれ}に舌はないようだし、どうしたものか・・・)

シンジはただ絶句するしかなかった。
経験上ブギーポップは嘘を言わない。
彼が口にした以上本当の事だろう・・・相変わらずとんでもない人だと思う。

「にしてもどう・・・ドカー・・・げ!!」

いきなり響いた破壊音にその方向を見てみるとサキエルに突っかかっていた戦闘機が撃墜されて墜落していた。
しかもそれだけでなく墜落の方向から慣性の法則に従って駅めがけて(つまりシンジめがけて)突っ込んできている。

ズガガガガ!!!!!

戦闘機は地面のコンクリートを削り、自分の部品と一緒に周囲にまき散らしながら進んでくる。
その部品やコンクリートの大きさやスピードは十分な殺傷力を持っていた。
飛び散った破片で周囲のビルの壁が削れているし、直撃した太い街路樹が一撃で折れたのを見たシンジが冷や汗をかく。
もちろん一番の殺傷力はまっすぐに突っ込んでくる戦闘機本体なのは間違いない。

「左右によけるのは無理・・・か・・・」
(そうだね、上も無理そうだ前後は論外、だが避けるしかないだろう?)
「そうですね、じゃー避けます。」

そう言ってシンジは能力を発動させた。

・・・・・・数秒後,シンジがいた場所は破壊され尽くしていた。
直撃を受けた駅は全壊し炎上、道路はコンクリートが吹き飛んでいた。
周りの建物は余波や飛来物で無惨な有様だ。

しかし・・・そんな中でシンジだけが変わらずそこにあった。
足の下の道路にさえ破壊の痕跡はあるのに彼だけは立ち位置すら変えず怪我一つない。

(あいかわらず便利な能力だね君の「canceler」は)
「応用は利くんですけどね、制限とかがあって万能じゃないですから・・・」
(いやなかなかに強力な能力だと思うがね)
「そうですけど、ん・・・迎えがきたようですね」

シンジの耳に車のエンジン音が届いた。
その方向に視線を走らせると青いルノーが猛スピードで自分の方に走ってくる。
運転席に見覚えのある写真の女性を確認するとシンジはルノーに向かって歩き出した。

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第三新東京市、某所

その日、薄暗い発令所は喧噪につつまれていた。
職員達があわただしく動いている。
情報報告と指示の通信が飛び交いあっていた。

『正体不明の移動物体は依然本所に向かって進行中』
『目標を映像で確認、主モニターに回します』

正面の巨大なモニターに第3使徒「サキエル」が映し出された。
その黒い巨体に群がっているのは戦自の戦闘機だ。

「15年ぶりだね」
「ああ、間違いない・・・使徒だ」

発令所のすみで喧噪など関係ないかのようにサングラスの男と白髪の老人はあらかじめ決められたシナリオを確認する。
彼らにとってこれは予想された事態だ。

『目標は依然健在、第三新東京市に向かい進行中!!』
『航空隊の戦力では足止めできません!!』
「総力戦だ。厚木と入間も全部あげろ!!」
「出し惜しみは無しだ!!なんとしてでも目標を潰せ!!!」

その二人と対照的に戦自の制服を着た将校は大声で叫ぶように各所に指示を出していた。
かなり興奮しているようだがその思いを無視するようにサキエルは歩を進める。
戦自の部隊は足止めにもならない。
障害物として適当に排除されて行っている。

「なぜだ!?直撃のはずだっ!!!」
「戦車大隊は壊滅・・・誘導兵器も砲爆撃もまるで効果無しか・・・。」
「駄目だ!!この程度の火力では埒があかん!!!」

戦車や戦闘機の砲撃は確かにサキエルに命中していたがサキエルはまったく意に介さない。
それに比べて戦自の戦力はサキエルが攻撃する度に確実に数を減らし、消耗するばかりで完全なワンサイドゲームの様相を呈していた。

「やはり、ATフィールドか?」
「ああ、使徒に対し通常兵器では役に立たんよ」

モニターに映るサキエルはサングラスの男の言葉を証明していた。
そして戦自将校達は一つの決断をする。

「・・・わかりました。予定通り発動いたします」

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サキエルの戦闘の音を背後に聞きながら街中を青いルノーが走っている。

「葛城さん?」

シンジはルノーの助手席で運転席の女性に話しかけた。
紫色の髪が揺れて彼女が横目でシンジを見る

「ミサトでいいわよ、碇シンジ君」
「いやー、さすがに初対面の女性をファーストネームで呼ぶのはちょっと・・」

シンジは破壊された駅前に乗り込んできたルノーに待ち人である[葛城ミサト]を見つけた。
ほぼ同時にシンジが近づいてくるのを見たミサトが扉を開けるのと同時にシンジは車内に飛び込み、ルノーは急発進、危険区域を離脱して今に至る。

「それにしても運がいいわね、あんなに破壊された場所で無傷でいるなんて」
「ほんとに死ぬところでしたけどね。」
「う・・・ゴミン・・いいわけにするつもりはないけど、あそこで電車が停止するのは予想外だったの、しかも緊急事態で情報伝達されなかったからあなたの居場所が分かったのもついさっきなのよ。」

そう言ってミサトは運転しながらシンジに詫びを入れる。
実際電車が止まったのは約束の駅から数駅手前だったわけだし、わざとではないだろう。

「まーそれはいいんですけどね、緊急事態ってやっぱり〔あれ〕ですか?いったいあれは何なんです?」

シンジはそう言って背後を振り返りながら聞いた。
依然その健在を誇示するように立っているサキエル・・・やはり戦自の戦力は足止めにもなっていない。

「あれは使徒よ、人類の敵ってやつ」
「使徒?人類の敵?」

シンジはミサトの顔に殺意が走るのを見逃さなかった。
正義感などから来る物では無い純粋な殺意だ。

(あの使徒というのに個人的な恨みでもあるんでしょうか?)
(たぶんね、それよりシンジ君後ろの様子がおかしい)
(え・・)
(戦闘機が離れていく)

シンジが後ろを振り向くと確かに戦闘機が離れていくのがみえた。
それも急速にだ・・・素人目にも普通の作戦行動ではないのがわかる。

「葛城さん、戦闘機が離れていく!!」
「え・・・まずいN2が!!・・・シンジ君伏せて・・・」

そう叫んでミサトはシンジをまもるべくおおいかぶさった。
次の瞬間、強烈な閃光と共にN2地雷が爆発し衝撃破がおこる。

(シンジ君、このままだとまずいことになるかもよ?)
(仕方ありませんね、本日二回目か・・・回数制限があるからあまり無駄使いしたくないんだけどな)

シンジは背後から迫る爆風を睨みながら再び能力を解放した。

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「やった!!」


閃光の中にサキエルが消えた瞬間、戦自の将校は勝ちを確信して叫ぶ。
町一つを丸々吹き飛ばす火力だ。
生きていられるはずがない。

「残念ながら君たちの出番はなかったようだな」

すべて終わったとばかりに将校達はサングラスと白髪の男に勝ち誇った笑みを向ける。
口調が横柄なのは自分たちの最大火力に対する絶対の自信だろう
しかし男達は将校を無視するように無言・・・

『衝撃波来ます』

オペレーターの報告と同時にセンサーとメインモニターの映像が消えサンドストームになった。

『その後の目標は?』
『電波障害のため、確認できません』
「あの爆発だ。ケリはついている」

将校の声には勝利者の余裕が伺えた。
しかし彼らの天下は一分と持たなかったが・・・さらにオペレーターの報告は続く。

『センサー回復します』
『爆心地に、エネルギー反応!!』
「なんだとぉ〜っ!!!」

さっきまでの余裕がどこかに吹っ飛んだ将校は信じられない思いでその報告を聞く。
信じられないと言うより信じたくないと言った感じだ。

『映像回復します』

再びメインモニターが回復して映像が映る。
そこに映った物は将校達を絶望させるに十分だった。

「わ、我々の切り札が・・・」
「なんてことだ・・・」
「化け物め!!」

そこには多少表面に焦げ目を残して丸く蹲ってはいるが健在なサキエルの姿があった。
致命傷どころか思っていたよりはるかにダメージが少ない。

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同時刻・・・

「葛城さん」

名前を呼ばれたミサトが恐る恐る目を開ける。
依然、シンジにしがみ付いたままだ
ミサトが目を開いて最初に見たのは自分を見下ろすシンジの顔だった。

「シンジ君?あれ?N2は?衝撃が来るはずなのにどうして?」

ミサトはあわてて状況を確認する。
自分の体には怪我ひとつない。
さっき確かにN2は爆発したはずだ。
そのすさまじい衝撃波が襲ってきたはず・・・なのに・・・

「シンジ君、ケガはない?」
「ぼくは大丈夫ですよ、すごい爆発でしたね」
「あっ、そういえばどうなってるの?N2の衝撃破がくるはずじゃ?」
「よくわかりませんけど助かったのは確かみたいですよ。」

ミサトは愛車と周りの状況を確認するためドアを開く。
外に出たミサトは自分の置かれた奇妙な状況を確認することになった。
周囲のすべては確かにN2の余波を受けていた。

なぎ倒された木々、地面に刻まれた爆風の跡・・・それは自分や愛車の地面も例外ではない。
しかしそんな中で自分と愛車だけは傷一つなかった。
まるであとからそこに置いたように破壊の爪痕から逃れている。

「どうなってるの?」

わけがわからないと首をひねっているミサトのつぶやきを聞きながらシンジは爆心地の方に目をやる。

(あれで倒せたんですか?)

この位置からではサキエルの姿は見えない。
シンジの能力で自分達は無事だったがあの爆発の余波はすさまじかった。
あるいはそのままということも・・・

(いや、多少傷を負ったようだがまだ健在のようだ。気配を感じる。)
(早々うまくはいきませんね、にしても使徒か、人類の敵に天使の名前なんてなに考えてるんでしょうか?)
(さあね、ということはあの町はソドムかゴモラといったところかな?)

聖書いわく
悪のはびこる町・・・ソドムとゴモラ・・・
それを怒った神がその力を使い一夜にして地上から消し去ったという町・・・

(確かに跡形もなく消えましたね,神の手じゃなく人間の仕業ですけど・・・)

町のあった場所はクレーターになっている。
正に聖書の通り跡形もなくなった。

(シンジ君、気づいてるかい?)
(はい、あの使徒は戦自を敵・・・というより邪魔な障害物として排除しているように見えました。それに奴の進行方向はぼく達の目的地と一致しています。つまり・・・)
(そう言うことだね、ここをソドムとすると奴の目的地のゴモラは・・・・)
「第三新東京市か・・・・」

シンジはサキエルと反対方向を見た。
そのさきにあるはずの町にサキエルが向かうとすればどの道闘わないわけには行かないだろう。

「・・・どうも面倒なことになりそうだな・・・」

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一旦はサキエルの存在が確認されて静まり返った発令所は再び喧噪に包まれていた。
次の段階に移行するために・・・

「予想通り自己修復中か」

白髪の老人、ネルフ副司令[冬月コウゾウ]は隣の人物につぶやいた。
その視線はメインモニターのサキエルに固定されている。

「そうでなければ単独兵器として役に立たんよ」

サングラスの男、ネルフ総司令[碇ゲンドウ]は当然のように答える。
これもまた予想された状況だ。
シナリオのイレギュラーは何一つ起こっていない。

その時モニターがいきなりブラックアウトした。
サキエルの顔から発射された閃光に監視用の無人機が撃墜されたのだ。

「ほう、たいしたものだ。機能増幅まで可能なのか?」
「おまけに知恵も付いたようだ」
「この分では再度侵攻は時間の問題だな」

ゲンドウと冬月はまったく動揺していなかった。
どうやらこのくらいは予想の範囲内ということらしい。
・・・どこまで先を読んでいるのだろうか?

「はい、わかりました。ではそのように・・・」

どこかに電話をしていた戦自の将校が受話器を置いてゲンドウ達を振り返った。

「・・・これより本作戦の指揮権は君に移った。・・・お手並みを見せてもらおう」

上層部からの指示を苦々しく思いながらも戦自の将校はそう告げた。
その顔に苦渋がにじんでいる。
かなり不満そうだが奥の手が効かないとなれば仕方ない。

「了解です」

ゲンドウの返答は短くそっけないものだった。
それ以上言葉を重ねる必要を感じなかったのだろう。

「碇君、我々の所有兵器では、目標に対し有効な手段が無いことを認めよう」
「だが、君なら勝てるのかね?」

自分に向けられた言葉にサングラスの位置を修正しながらゲンドウは答えた。
その口元にかすかな笑みがある。

「そのためのネルフです」
「・・・・・・期待しているよ」

戦自の将校はこうして舞台を降りることになった。
三人そろって発令所を出て行く。

『目標は今だ変化なし』
『現在迎撃システム稼働率7.5%』
「国連軍もお手上げか。どうするつもりだ?」

冬月はゲンドウに問うた、と言ってもやることはわかっているのでこれは確認事項でしかない。
自分達がやるべき事は使徒の殲滅だ。
つまりあの強力なN2の爆発に耐え切ったサキエルと戦わなければならないということ

「初号機を起動させる」
「初号機をか? パイロットがいないぞ」
「問題ない。もう一人の予備が届く」

ゲンドウのモニターには実の息子であり自分の計画の鍵の姿があった。
後にゲンドウたちはこの時のことを後悔することになる。

この時点ならまだいくらでもやりようはあった。
その結果として自分たちの計画が破綻することもなかっただろうと・・・






To be continued...

(2007.05.26 初版)
(2007.06.02 改訂一版)


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