"What do you wish?"
”One's own poetry ・・・”
"Who do you wish?"
"Person that it wants you to hear poetry ・・・”
”What do you need?”
”One's own desire ・・・ -”
"Really?"
"・・・・No "
”Really?"
"・・・・ Yes"
"Then・・・・What do you wish?”
”・・・・・The will not to give everything up in ・・・・・ ・・・”


"This is boy and god of death's stories . "






天使と死神と福音と

第弐章 〔人の強さ、神の強さ〕
T

presented by 睦月様







シンジが第三新東京市に来て10日が過ぎた。

「彼、よく乗ってくれる気になりましたね・・・」

その言葉を口にしたのはオペレーターの伊吹マヤだった。

ここはネルフの実験場、目の前のモニターには天井から吊り下げられた初号機、モニターにはエントリープラグ内にいるパイロット、シンジの姿が映っている。

今の初号機は訓練のために下半身の神経接続を切って上半身だけしか動かないようにしてあった。
これから行う訓練は仮想空間での射撃訓練のため下半身の動きはマギの修正が入る。

「そうね、あんな事があって・・・てっきりネルフを出て行くと思ったけれど・・・間違っても処世術じゃないわね。」

マヤの後ろからモニターを覗き込んでいたリツコがマヤに応える。
彼女としてもシンジの行動は想定外だった。

しかしリツコの後ろにいるミサトの意見は違った。

「・・・別におかしい事じゃないと思うわよ、」
「どう言うことミサト?」
「彼は素直に頭を下げて頼めば答えてくれたと思うの・・・・」
「そうかしら?・・・いくら何でも素直に協力してくれたとは思えないわよ?」
「いえ・・・・むしろ私たちが小細工をしたせいで彼との関係が複雑になってしまったんだと思わない?」

ミサトの言葉に聞いていた皆が硬直する。
ケージでのやりとりを考えれば彼への対応を間違え、態度を硬化させてしまったのはネルフのせいだ。
散々小細工を労しておいてその全てを看破されてしまった。
シンジがネルフを信用できなくても仕方がない・・・と言うより信じろと言うほうが無理がある。

もし自分達が彼の立場なら・・・そう考えれば、むしろ今だに所属していないとはいえネルフにいるシンジがどれだけ希有な存在なのかというのがわかる。

微妙な沈黙が実験場に満ちたとき、モニターの中のシンジが話しかけてきた。

『準備できました。いつでもどうぞ。』

その言葉に再び作業員が動き出す。
計器のチェックと訓練手順の確認がなされる。

シンジに関しては色々な意味で今さらだ。
関係修復にしても時間をかけてしていけばいい。
そのチャンスはまだある。

今は訓練に集中すべきときだ。

「では、エヴァの出現位置、非常用電源、兵装ビルの配置、回収スポット、全部頭に入っているわね?」
『大体は・・』
「 では、もう一度おさらいするわよ?通常、エヴァは有線からの電力供給で稼働します。非常時に体内電池に切り替えると蓄電容量の関係で、フルに1分、ゲインを利用してもせいぜい5分しか稼働できない、これが私達の科学の限界ってワケ、おわかり?」
『了解です。』
「ではもうわかっていると思うけどインダクション・モード始めるわよ。」

その言葉とともにプラグ内のモニターに第三新東京市の風景が映し出され、さらに標的としてサキエルの映像が現れる。
シンジは標的に向けて初号機の手にあったパレットライフルの引き金を引いた。

「すごいわね・・・ミサト、専門家のあなたから見てどう?」
「そうね、銃の扱いに対してはまだまだだけれど反射神経がずば抜けてるわね・・・・・彼、何か運動でもしていたのかしら?」
「報告書にはそんなことはなかったわ、信用できるかは別として・・・」

シンジの行動はすべてにおいて報告書にあった情報を上回っている。
信用度は限りなくゼロだろう。

なぜ報告書とこれほどの差があるのかはこの際問題では無い。
目の前にある物が全てだ。
少なくとも目の前にいるのは碇シンジで間違いが無い・・・それだけが真実

ミサト達がそんなことを考えている間も訓練は続いている。
モニターに映る初号機は標的に対して正確に銃弾を浴びせ、プログラムをクリアーしていった。

「そう言えばリツコ?」
「何?」
「シンクロ0で起動した理由や使徒をバラバラにしたあれがなんなのかわかった?」

ミサトの言葉にリツコは苦い顔になる。
その表情だけで結果がわかると言うものだ。
結果はまず間違いなく芳しくないのだろう。

「・・・シンクロの方はわからないけれど・・・・使徒を倒したのはATフィールドを使ったみたいね?」
「ATフィールドを?どうやって?」
「フィールドを圧縮してごく細い糸のような状態にして使ったらしいわ、それを絡ませて動きを封じ、切断した。・・・・そう言う事みたいね。」

リツコの説明をミサトは反芻した。
ミサトはリツコのように詳しい理論はわからないがかなりとんでもないことだったと言うことくらいはわかる。

「出来るのそんなこと?・・・それに向こうもフィールドを張っていたじゃない?」
「・・・・・実際そうして使徒をバラバラにしたんだから・・・・出来るのよ。それにね、使徒のフィールドは中和されていたわ、圧縮された糸状のフィールドにはたやすい事だったみたい。」
「彼はなんて?」
「シンクロはわからない、フィールドの応用は出来そうだったから、あの動きに関しては漫画からの応用だそうよ。」

リツコとしてはフィールドの応用よりもシンクロ率0の真実が知りたかったのだろうがそっちのほうは見当もつかなかったらしい。
長年友人をやっているミサトだから分かる程度にリツコは不満そうだ。
そんな親友の本心が分かるだけにミサトはため息と共に話しの方向を変える事にした。

「本当にいろんな意味で規格外な子ね、彼がいなかったら人類は滅んでいたかもね?」

その言葉に皆うなずくしかなかった。
理由は分からないがシンジが初号機にのったのがサキエル戦なのは間違いない。
たとえ何らかの後ろ盾によって初号機の存在を知っていたとしてもそれだけは事実だ。
つまり、あの戦闘は間違いなくぶっつけ本番だったのは疑いの余地が無い。

実験室にいる全員の視線を集める少年は危なげなく高得点を出していく・・・まるで”戦う”事になれてるかのように・・・・・・

リツコはモニターのデータを見た
訓練とはいえシンジには微塵の緊張も見られない。
それが更にリツコの興味をかき立てる・・・元来科学者とは人一倍理解不能なものに対して免疫がないのだ。
好奇心が強いとも言えるだろう。

初めての実戦で完璧に初号機を乗りこなし、しかもそのあたりにいる自称大人よりも遙かに成熟した精神を持つ少年・・・・・碇シンジ・・・科学者としてのリツコは間違いなくシンジに惹かれていた。

「そう言えばミサト?」
「何?」
「ネルフの職員にシンジ君のファンクラブの様なものがあるのを知ってる?」
「は?シンジ君に?何で?」

二人の会話に実験場の何人かがギクッと反応する。

リツコに話を振られたミサトには事情がわからずクエスチョンマークを浮かべている。
逆に事情を知るリツコはにやりと笑った。

「どうやらケージの一件が原因らしいの、あの光景は衝撃的だったから・・・・」
「・・・・ああ、なるほど・・・・・」

そう言ってミサトは顔を真っ赤にした。
どうやらかなり恥ずかしいらしい・・・まあその場の雰囲気に流されていたとはいえ大勢の目の前で大泣きしてしまったのだから・・・あそこまで泣きじゃくったのは子供の頃以来だ。

「それでね、ケージでのあなたとシンジ君の姿を映した映像が出回っているらしいわ・・・・・」
「は?・・・・何ですってーーーーーー!!?」

ミサトの叫び声に実験室の時が止まる。
何事かと全員の視線がミサトに集まった。

『どうしたんですか?ミサトさん?』

いきなりの絶叫にモニターの中のシンジがあわてた声を出す。
双方向回線でこちらの音声も向こうに伝わっていたのだ。
何が起こったのかと驚いている。

「な、なんでもないのよ、シンジ君は集中してちょうだい。」
『はあ?何があったんです?』
「い、いいのよ・・・こっちの話だから・・・」

シンジはわけが分からないと言う感じで首をかしげているがミサトは引きつった笑いでごまかす。
他の誰よりシンジにだけは追及されたくない。

『?・・・よく分かりませんけどわかりました。』

納得したわけでは無いが何か追求するといろいろとまずそう(特にミサトが〉なのを感じたシンジは再び訓練に戻る。
実験場に緊張感が戻ってきた。

何とか誤魔化せたミサトはあわてて親友を振り返る。

「それで、どう言う事よ?」
「つまりあなたがシンジ君の胸にすがりついて泣いている映像が出回ってるって事よ?」

さっきの絶叫の失態からミサトは声を落として会話していたが心理的なものはさらに深く沈んでいた。
例えるならマリアナ海溝くらい・・・かなり深い。

「な、何でそんな・・・・」
「誰かがマギにアクセスして監視カメラの映像をコピーしたみたいね、それがねずみ算式にコピーされて広がったらしいんだけど・・・・」

その時ミサトとリツコは自分達に背中を向けているマヤがふるえたのを見逃さなかった。
マヤの左右の肩をミサトとリツコがつかむ。

「マヤ?」
「な、なんでしょうか?先輩?」
「よく考えたらマギにアクセスして映像をコピーするなんて一般職員には出来ないわよね?」
「ソ、ソウデスネ・・・。」
「マヤちゃん?怒らないからおねーさんに話してごらん?」

ミサトの手の握力が上がる。
ギリギリと締め上げる握力は掴んでいるマヤの肩を潰す意図があるに違いない。
マヤはすぐさまギブアップした。

「ひ、広めるつもりはなかったんですよ、ただ私あのとき感動してしまって・・・それっでその・・・人に見せたらほしがる人多くて・・・・」
「・・・・もういいわ、今更だし・・・減るもんでもないしね。」
「あら?さすがは〔使徒を倒した少年を倒した女〕・・・・懐がおおきいわね?」

その言葉に実験場が笑いに包まれる。
どうやら相当に有名な話になっているようだ。
どう言う意味かは・・・考えるまでも無いだろう。

「リ、リツコ〜〜〜〜」
「それよりもマヤ?」

ミサトの情けない声を無視してリツコはマヤに話しかける。

「なんですか先輩?」
「シンジ君のファンクラブのことだけれど・・・・別に個人の趣味に口は出さないわ、別にあなたがショタでもね?」
「セ、センパイ〜〜〜〜〜〜〜〜」

マヤは撃沈されて沈んだ。
机にのの字を書いていじけてる。
誰からもフォローは無い。

「ところでミサト?」
「何?」
「彼、あなたのこと名前で呼ぶわよね?」

リツコに言われてミサトはシンジとの会話を思い出した。
確かにお互い名前で呼び合っている。
あまり意識せずに自然とそうなっていたが・・・いつからだろうか?
たしか最初にネルフに来たとき、シンジはミサト達の事を苗字で呼んでいた。

「そう言えば・・・でも何で?」
「多分だけど、あの子信用した人とかは名前で呼ぶみたいなのよ。」
「・・・・・・え?」
「つまり彼はあなたのことを信用しているって事よ。」

リツコの含み笑いにミサトはシンジと会ってからのことを思い出す。
自分のことを名前で呼んだのは・・・・ケージの時だ。
つまりあのときからシンジはミサトを信用していたことになる。

「そっか〜〜〜私信用されてたのね・・・・・・」
「彼に見捨てられないようにしなさいよ?」
「そうね・・・・何たって信用されてるんだから、それに応えないとね・・・・」

そう言って二人が苦笑した時・・・

『”マヤさん”プログラム終わりましたよ。』

二人の顔が固まった。
勢いよくマヤを振り返る。

「ああ、ごめんなさいシンジ君。先輩、プログラム終了し・・・・ま・・・・・」

マヤが後ろを振り向くと気づかないうちミサトが近づいてきていた。
しかも表情は真剣なのに面白がっている気配がするのは気のせいか?

「マヤちゃん?何時の間にシンちゃんと名前で呼ぶ仲になったのかしら?」
「か、葛城さん、そそそそそんなんじゃありません。」
「本当かな〜〜〜〜?」

ミサトはマヤをからかって遊んでいるのが丸わかりだが純情なマヤはただあわてるだけだ。
リツコはため息をつきながら傍観している。
実はわりと楽しんでいるかもしれない・・・微妙に笑いをこらえているみたいだ。

「マヤちゃんもさっきの話聞いてたんでしょう?」
「そ、それは・・・」

マヤが真っ赤になってうつむく。
それを見たミサトの笑顔がさらに濃くなる・・・ちょっと怖いほどに・・・

「シンちゃんかっこいいもんね?それでどう言って口説いたの?」
「口説いたなんてそんな、ただ昨日食堂であって・・・・」
「ふ〜〜んそれで?」
「それでちょっと話をしたりしただけです。・・・・本当ですよ?」

マヤがムキになって否定するが反対にミサトは愉快そうに笑う。

『あの〜〜〜ぼくはどうすれば?』

シンジの声にマヤ達は自分を取り戻した。
今は仕事中で実験中だ。
やることはいくらでもある。

「ミサト、あんまりマヤをからかうんじゃないわよ?ごめんね、シンジ君?」
『いえ、いいんですよ”赤木さん”。』

シンジの返事を聞いたリツコが硬直した。
表情が引きつっている。

『????どうかしたんですか?”赤木さん”?』

さらに顔が引きつる。

「ナ、ナンデモナイノヨシンジクン?ツヅキヲシマショウ。」

それを見ていたミサトは笑いをこらえるのに必死だった。
マヤはそんなリツコを目を丸くしてみている。

とどのつまり・・・・リツコは自分だけ名字で呼ばれてちょっとスネたらしい。
シンジの影響は確実に彼女にも届いていたと言うことだろう。
その後の訓練は普通よりちょっぴり厳しかったという。


第三新東京市はとりあえず平和?らしい・・・

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訓練の後、シンジはミサトと一緒にリツコの執務室に来ていた。
射撃訓練の反省点などを話し合うためだ。
三人の手にはリツコの入れたコーヒーの入ったカップがある。

「やっぱりリツコの入れるコーヒーは違うわね〜〜」
「おだてても何もでないわよミサト、それより仕事はいいの?」
「大体の所は終わってるわ、後は司令の承認がおりればおしまいよ。」
「・・・珍しく仕事が早いわね?」
「ま、本気を出せばこんなもんよ。」

そう言ってミサトは愉快そうに笑う。
どうやら仕事が早く終わったことで相当に機嫌がいいらしい。
しかしそれを見るリツコはジト目だ。

「・・・ミサト?何でその本気を普段は出さないのよ?」

リツコが至極もっともなことをつぶやいてため息をついた。
そうすれば作戦部、とくに日向あたりの負担が減るのは間違いない。

「あ、そういえばミサトさん、あのパレットライフルなんですけれど・・・・」
「どうかしたの?」
「弾丸が劣化ウランなんて問題じゃないですか?仮にも人が住んでいる場所で使うものじゃないでしょう?」

劣化ウラン弾は安いし破壊力もあるが微量とはいえ放射能を帯びている。
しかも堅いものに当たると砕けて粉末状になる特性もあるのだ。
パレットライフルでその弾丸を連続で打ち出すことを考えれば市街地で使うものではない。

万が一、それを吸い込んで一般人が放射能に被爆したというのはしゃれにならない。
ネルフは人類を守るために存在する。
そのために放射能汚染して被爆者を出すと言うのでは本末転倒だ

「・・・・・そ、そうね・・・」
「後でむちゃくちゃ文句出そうなものは使わない方がいいのでは?」
「確かに一理あるわね、ミサト喜びなさい仕事が出来たわよ。」
「ソ、ソンニャ〜せめてこの一杯を飲んでから」

ミサトの哀れな声にリツコはびっと出口を指差した。

「つべこべ言わず仕事する!それカップごと持って行っていいから後で返しに来なさい。ただでさえウチは非公開組織でよく思われてないんだからこれ以上何か言われたらたまらないわよ?」
「ウィー、マダム」

そう言ってミサトは仕事のため自分の執務室に向かった。
去っていく背中がすすけている。
仕事が終わって上機嫌だったところに更に仕事が出てくればぬか喜びしただけさらに疲労感がますのだ。

「まったく、ああいうところは学生時代から変わらないのね」
「それをわかっていながらつきあえるのが親友じゃないですか?」
「・・・・・そうかもしれないわね。」

リツコは苦笑した。
本人の前では絶対言うことは無いだろう。
シンジの言う事はリツコも分かっているが大人だけに口に出すのは恥ずかしい。
どうしてこの少年は言ってほしいことを言葉にしてくれるのだろうか?

「さて私も仕事をしないとね、シンジ君少し聞きたいことがあるのだけれど?」
「なんですか?」
「・・・やっぱりシンクロ0の理由はわからない?」

今、最もリツコの頭を悩ませている問題がそれだ。
サキエル戦において、シンジと初号機の間には最高のシンクロ率と最低のシンクロ率が同居していた。
理論上の限界値でのシンクロ・・・これはまだ納得が出来る。
かなり難しい事ではあるが可能性はあるのだ。

しかし問題はもう一つのほう、シンクロ値0でのシンクロ・・・これはありえない。
エヴァのシンクロ理論を知るがゆえにリツコには納得が出来なかった。

本来エヴァとのシンクロは数値の差はあれ、0になると言うことはありえない。
思いを同調させることによるシンクロは相手が機械かなにか出ない限り0になることは無いのだ。

もちろんシンクロ0では起動最低指数を満たしているわけも無い・・・なのにだ・・・
目の前の少年は最高のシンクロ率でも最低のシンクロ率でもどちらでも通常以上の動きが出来る。
理由など見当もつかない。

「そうですね、何せあのときは結構せっぱ詰まってましたから。」
「確かに・・・おなかを貫かれて焼かれるなんて経験そうできるものじゃないしね?」
「出来れば一生しなくてよかったんですけどね。」
「それもそうね。」

言葉とともにリツコは手元の資料に目を落とした。
内容は初号機の検査記録とシンジの身体検査の記録を照合したものだ。
その中にも答えは無いのは分かっているが糸口でもないかと淡い希望をもってしまう。

「僕からも一つ聞いていいかな?」
「?・・・何かしら?」

リツコが書類から目を上げると、そこには片方の眉と口の端をつり上げた左右非対称の皮肉げな笑み・・・・・・・ブギーポップの笑みがあった。
その表情を見た瞬間、リツコは言い知れぬ寒気を覚えた・・・・まるで”シンジの中身が入れ替わった”ような・・・いきなり泡が浮いてきたかのような不気味な感覚・・・

「僕がこの町に来たあのとき、本当は何をねらってたんだい?」
「何をいっているの?」
「・・・じゃあ質問を変えよう。なぜ直前まで呼ばなかった?」
「それは前に言ったとおり貴方が適格者だとわかったのは直前で・・・」
「ケージでも言ったけれど嘘だね?」
「・・・・どうしてかしら?」

リツコは完全に目の前の少年に圧倒されていた。
そこから発散される雰囲気は尋常じゃない。
向かい合っているだけで原始的な本能・・・恐怖を感じる。

「ミサトさんに聞いたけれど綾波さんがパイロットになったのはかなり前の話らしね?」
「・・・・・そうね・・・」
「彼女が怪我をしたら都合よく何年も見つからなかったサードチルドレンが見つかる。
そしてそれは組織の最高責任者の息子・・・そしてこの町に来たとたん使徒の襲来・・・訓練もしていない状態で乗せるしかない状況・・・でも乗せてみたら0,000000001%の起動確率で問題なく起動・・・・赤木さん知っているかい?偶然が二つ重なれば奇跡と呼ばれる・・・・ならそれ以上は?」
「そ、それは・・・」
「一番問題なのは素人を乗せることに司令と貴方が乗り気だったことだね?普通なら怪我をしていても乗り慣れた綾波さんの方が人類が救われる可能性が高い・・そんなことをあの司令が躊躇するなんて思えない。素人の僕を乗せるなんてはっきり言って綱渡りだ。と言うことはむしろ僕がエヴァになれてると何か困ることでもあったのかな?」

リツコには答えることが出来なかった。
まさか暴走するのをねらっていたなんて言えない。

リツコは目の前の少年の姿をした何かに驚愕すると共に、忘れていたことを再確認した。
目の前の少年は優しさと厳しさ、そしてすべてを見通すかのような聡明さを併せ持った希有な少年だということを・・・リツコは答えに詰まってうつむいてしまう。

「赤木さん?」

リツコが顔を上げるとそこには・・・”シンジ”の顔があった。

彼は何も言わずただ見つめているだけだ。
しかしその瞳の方がリツコには辛かった。
彼の視線はまっすぐだ
まるで自分の醜い部分をすべて見通すかのように揺るぎない。
自分が犯してきた罪・・・・・それらをすべて告白して懺悔したいような思いに捕らわれる。

リツコは唐突に理解した。
自分は・・・・・あのケージでのミサトがうらやましかったのだ。
己の罪を許されたミサトが・・・リツコが自分の中の葛藤に押しつぶされそうになったとき・・・不意にシンジが笑った。

「無理しなくていいですよ?」
「え?・・・シ、シンジ君?」

シンジの微笑みはさっきまでの皮肉げなものではなく、自然で暖かな微笑みだった。

「言えないことなんでしょう?無理に聞くつもりはありませんから。」
「で、でも!」
「じゃあ教えてくれるんですか?」
「それは・・・・」

まさか答えるわけにはいかない。
リツコは口をつぐんだ。

シンジに中途半端な嘘は逆効果になる。
何一つ知られたくないのなら黙るしかない。

何も言えず黙ってしまったリツコを見たシンジは薄く笑う。
その様子だけでリツコに何か隠し事があるのがばればれだ。

「リツコさん、貴方はうそつきにはなれませんね。」
「どうして?」
「自分もだませない人は嘘ついてもすぐばれるんですよ?」
「・・・・そうかしら?」
「リツコさん、いつか自分に正直に生きられたらいいですね?」

そう言ってシンジは立ち上がって執務室を出ていこうとする。

「どこに行くの?」
「綾波さんのお見舞いに、彼女検査とかあって今日退院なんですよ。」
「そうだったわね?」
「ああ、そうだ」

出口の前まで来たシンジが振り返った。
何を考えているのかニヤニヤ笑っている。

「正直に生きるって言って趣味に入っちゃだめですよ?ただでさえ危ない感じなんですから」
「・・・・シンジクン?アナタワタシノコトナンダトオモッテイルノ?」
「言ってましたよリツコさんはマッドだって」
「ダレガ?」
「ミサトさん」
「ミサト〜〜〜〜!!!」

呪いのこもってそうな声でリツコが叫んだ。
ミサトがここにいたらダッシュで逃げ出していただろう。
シンジはとばっちりを食らう前に笑って部屋を出ていった。

「まったく」

リツコは椅子に座るとタバコを取り出して火をつけた。
一息目から深く吸い込むと肺の中にタバコの煙が充満してニコチンが自分の体に溶けていくのが分かる。

・・・今のはなんだったんだろう?
シンジが普通とは違う事なんてとっくにわかっていた。
だけどさっきの彼はそれに輪をかけて・・・わからない・・・あえて何か言うとすれば・・・異端・・・

リツコは自分の吐いたタバコの煙を見ながらさっきの会話を思い出す。
結局の所シンジを甘く見ていた自分に気がつく・・・と言うよりそこしか思いつかない・・・彼は自分が思っていたよりずっと洞察力がある。
迂闊な会話から深いところまで見抜かれてしまうような・・・・そんな感覚・・・

「まさか自分の半分も生きてない子にやりこめられるなんてね・・・」

リツコは苦笑してたばこの火を消す。
同時にあることに気がついた。

「そう言えば・・・あの子・・・・私を名前で呼んだ?」

確かにシンジは自分のことを名前で呼んでいた。
それはつまり・・・・・・・

「少しは信用してくれてるのかしらね・・・・・・」

シンジが出ていった扉を見ながらリツコはつぶやく・・

(ミサトは信用には答えるものだと言っていた。なら私は何を持って彼に答えればいいんだろう?そもそも私にその資格があるのだろうか?でも・・・悪くない・・・そう、悪くは無い。)

リツコの口元には何時の間にか無意識に微笑が浮かんでいた。

「誰かに認めてもらうのもいいものかもしれないわね・・・」

その日一日中機嫌のいいリツコが本部内のアッチコッチで確認されたが・・・誰もその理由が”中学生に名前で呼んでもらったから”などとは思わなかった。






To be continued...
(2007.06.02 初版)
(2008.06.21 改訂一版)


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