シャムシェルとの戦いから数時間後
ネルフ本部の一室に鈴原トウジ、相田ケンスケの姿があった。
二人は並んでパイプいすに座っている。






天使と死神と福音と

第弐章 外伝 〔命の重さ〕

presented by 睦月様







部屋には他に机と椅子が一つあり、机を挟んで反対側にトウジとケンスケが座っている。
二人は昼間の戦闘でシェルターを抜けだし、さらに戦闘の邪魔をしたことについて諜報部の人間に説教を受けていたが、今この部屋にはトウジとケンスケだけしかいない。
一緒にいた洞木ヒカリは別の部屋にいる・・・多分こっちもお説教中だろう、彼女の場合人一倍責任感が強いので落ち込んでいると思う。

「悪いな、トウジ・・」
「・・・謝る相手が違うやろ?」
「・・・・・・そうだな、シンジの奴・・・・いつもあんな事してるのか・・・でもスゲー体験だったよな?」
「ッ・・ケンスケ、おまえ」

ガチャ

トウジがケンスケに一言いおうとしたとき、部屋の扉が開いて一人の女性が入ってきた。
作戦部長のミサトだ

「お待たせしちゃったわねん、こんにちわ鈴原トウジ君、相田ケンスケ君、私はネルフで作戦部長をしている葛城ミサトよ。ヨロシクネ!!」

ミサトは陽気に自己紹介した後、二人の反対側の椅子に座った。
資料のファイルを机に置くとトウジとケンスケを正面から見る。
終始笑顔の彼女に二人の警戒が薄れてきた。

「え?か、葛城?ひょっとしてシンジのとなりに住んではる上司さんでしゃろか?」
「あら?シンちゃん、そんなことまで話しちゃってたの?なら話は早いわね?」
「や、やっぱそうでっか、わいは鈴原トウジ言います。」
「あ、相田ケンスケです。」

二人はいきなり現れた美人の作戦部長にはにかんでいる。
さっきまでいかつい保安部の人間にお説教を食らっていたのでその反動もあるようだ。

「ふふ、そんなに緊張しなくて大丈夫よ?とって食ったりしないから。」

ミサトはそう言うともってきていた資料を開いた。

「もう一度事情を聞きたいのよね、まずなんであんな所にいたの?」
「そ、それは・・・・」
「じ、自分が外に出たいって言って誘ったんです。」

ケンスケがトウジの言葉を遮って話し始めた。
なぜか軍隊のような言葉使いになっている。
作戦部長の肩書きが利いたらしい。

「そうらしいわね、じゃあなんで出てきたの?」
「それはエヴァをこの目で見たかったからです。」

ミサトの視線が一瞬だけ鋭くなるがすぐにもとの笑みに戻る。
トウジもケンスケも気づかなかったようだ。

「エヴァを?なんで?」
「・・・・それは、自分は兵器とかに興味がありまして、どうしてもこの目で見たかったんです。」
「どうやってエヴァの情報を仕入れたの?」
「父がネルフで技術関係の仕事をしているんでパソコンにちょっと・・・」
「ふ〜ん」

ミサトはケンスケの資料に目を通す。
たしかに父親はネルフ職員だ。
この時点でケンスケはハッキングによる情報流出および機密漏洩、ついでに情報の窃盗を自分から白状したことに気がついていないらしい。
これはネルフ云々以前に刑事、民事の両方において罪だ。

「戦場に出てきたら危ないと思わなかったの?」
「それは・・・でもシェルターにいても危険なことに変わりありませんし、それなら死ぬ前にエヴァを見たかったんです。」

ケンスケは得意分野なのか饒舌に話し続ける。
典型的なミタリーオタクだ。
ミサトはちらっと横のトウジを見るとトウジは視線に気づいたらしくもうしなさげに肩をすくめた。

「・・・鈴原トウジ君?」
「はい」
「貴方、確かこの前の戦闘に巻き込まれた女の子のお兄さんなのよね?」
「・・・・・・はい」
「妹さんから聞いてない?前の戦闘でも妹さんをかばってシンジ君は戦ったわ。」
「・・・・・・はい、聞いとります。」

ミサトはトウジに向き直った。
その顔は相変わらず笑っているが目だけはじっとトウジを見ている。

「それをわかって出てきたのね?」
「・・・・・・・すんません・・・・」

トウジはうなだれた。
分かっていたはずなのだ・・・妹が助かった代わりにシンジが怪我をしたことも何もかも・・・しかし思ってしまった。
・・・自分は、自分なら大丈夫・・・と・・・傲慢以外の何物でもない。

「葛城さん、トウジは俺が戦闘が見たいっていったのを心配してついてきてくれただけなんです。委員長も抜け出す俺達に気づいて追いかけてきたんです。」
「・・・・・・・そう戦闘が見たかっただけなの・・・・」

ミサトは表には出さなかったがあまりに身勝手な話だ。
確かにこの国では未成年が罪に問われたとしてもそれほどおおきな罰を与えられるわけではない。
ケンスケの行動もおそらくそのあたりに根幹があるのだろう・・・自覚しているかどうかを別にして
子供だからといって許されないことがあるのを理解していない。

「はい!!」
「それなら戦闘で大事なこと教えてあげましょうか?」
「え?本当ですか?」
「ええ、本当よ。」

ミサトはニッコリ笑って上着の下にあるホルスターから自分の愛用の銃を引き抜いた。

「これ何かわかる?」
「おお、ベレッタですね?オードソックスなタイプのようですけど本物ですか?」
「もちろんよん!!」

そのままミサトは銃口をケンスケの額に押し当てた。
ケンスケは額に押し付けられる銃口の冷たさを感じているがその意味するものが理解できていない。
ケンスケの視界に写るミサトは依然として笑っている。

「え?な、何を?」

ケンスケはミサトの目が笑ってないことに気づいた。

「死んでもエヴァが見たかったんでしょう?なら思い残すことはないわね?」
「え?え?・・・葛城さん冗談・・・・・・ですよね?」
「安全装置ははずしてあるわ。」

ケンスケが銃の知識を使って安全装置を確認すると・・・確かにはずれている。
しかも撃鉄は上がっていた。
引き金にちょっと力をかけるだけで銃弾は発射される。

ミサトは最初から怒っていた、
すでに彼女はシンジを家族のように思っている。
過去に一度、家族を亡くしているミサトにとって自分の勝手な理屈でシンジを危険にした者達は敵と言ってもいい。
まだ中学生の子供という事実がミサトにブレーキをかけていたが・・・ケンスケはその感情を逆撫でした・・・・・文字通り致命的なミスだ。

「ケンスケ!!」
「鈴原君は座ってなさい。」

ミサトの静かだが反対を許さない言葉にトウジは戸惑ったが再び椅子に戻った。
今のミサトに余計なことを言ってはいけないと本能が訴えてくる。

下手に刺激したらそれこそ取り返しがつかないことになる気がする。

「戦場では生きるか死ぬかしかないわ、相手も自分もお互いを殺すことを考えて戦場と言う舞台に立った。おわかり?」
「あ・ああ・・・は、はい」

ケンスケは恐怖のあまりひきっつた声で答える。
しかしミサトは無表情のまま動かない。
依然、ケンスケの命はミサトが握っている。

「そんなところにあなた達は自分を満足させるためだけに覚悟もなく入り込んだ。本来なら死んでいて当然なのにまだあなた達は生きている・・・・・なんで?」
「そ、それはシンジが・・・・」

ケンスケの言葉にミサトはうなずいた。

「そう、シンちゃんがあなた達を助けた。あなた達は自分の尻拭いをシンちゃんにさせたのよね?」
「は、はい」
「命なんて軽いものよ?命は重いなんて思わないでね?この指に数グラム力を込めるだけで貴方の人生は終わる。・・・たった数グラム・・・それがあなたの命の重さ・・・軽いでしょ?」

ミサトは引き金に指をかけた。
ケンスケとトウジが同時に息を呑む。

「戦場ではね?一瞬で何もかもが終わるの・・・・この銃から弾が飛び出せば貴方の人生は終わり。貴方の14年はたったそれだけでチャラになるのよ?」
「あ、あああああああ」
「今の貴方になるのには14年もかかったのになくすのは一瞬・・・・死後の世界には期待しない方がいいわよ?少なくとも私は信じてないわ。」
「か、葛城さん、もう勘弁したってください。」

ミサトが横を見るとトウジがふるえながら自分を見ていた。
友人のために勇気を振り絞っているのだろう。

恐怖の二文字がその全身を縛っているのに・・・状況次第では見上げたものだと思うがミサトは表情すら変えない。

「鈴原君・・・貴方・・・自分は関係ないって思ってる?」
「え?」
「あなた達はね、兄妹でシンジ君を殺しかけたのよ?」
「そ、そんな・・」
「詳しくは言えないけれどエヴァはね、ダメージの痛みが直接操縦者に伝わるの、貴方の妹さんの時はおなかを貫かれて、それでも血を吐きながら彼は妹さんを護ったわ。」

トウジ達は愕然とした。
詳しいことは機密だったので詳しいところは聞かされていなかったのだ。
シンジがそんな危険な状況でナツキを守ったなんて思いもしなかった。
彼女の場合は不可抗力だが自分たちはそうじゃない。

「シンジ君の殺気・・・あなた達も感じたでしょう?」
「え?・・・・・はい」

トウジ達にプラグ内のシンジの姿が思い出される。
いつもと違う・・・・息苦しくなるような空気を纏ったシンジ・・・・
正直思い出すと体が震える。

「あんなシンちゃん・・・・初めて見たわ。そうしないとあなた達を守れないと思ったんでしょうね・・・それほどあのときは追いつめられていたの。」
「そ、そうなんでっか?」
「・・・・残り時間もなかったし、みんなを乗せて長期戦は出来ないでしょう?あの子あなた達を守るために必死だったのよ?」

トウジとケンスケは自分たちが恥ずかしくなって泣いた。
今すぐにシンジの所に行って土下座したいほどだ。
自分たちの身勝手でシンジを死なせてしまうところだった。
後悔の念だけが残る。

ミサトは二人の涙を見ると銃をホルスターに戻し、机を回り込んで二人の正面に立った。
泣き顔の二人を見下ろすと二人いっぺんに抱きしめる。

「怖い思いさせてごめんね、でもあなた達には知っておいてもらいたいの。シンジ君はこれからも戦場に立ち続ける・・・・・私たちにはどうすることも出来ない・・・彼が戦場から降りればこの世界は終わるから・・・・」
「「そんな・・・・・・・」」
「事実よ、受け止めなさい。・・・・彼は私たちを・・・貴方達を守るため絶対に降りることはないでしょうね・・・・・・・きっとまた自分が痛い思いをしても盾になろうとするわ、そういう子だもの・・・・・」

トウジ達はなにも言えなかった。
シンジの親友と思っていた自分たちが恥ずかしい・・・
ただ後悔の涙を流すしかない自分たちの非力さが恨めしかった。

「わいらは・・・・シンジに何もしてやれんのでしょうか?」
「出来れば・・・・あの子の友達でいてあげて・・・・」

トウジ達はミサトに抱きつきながら自分たちの浅はかさに涙した。
大人になるということはこういった後悔や経験を積み重ねていくことかもしれない。
だとしたら二人は昨日より一歩大人になったのだろう。

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ミサトが部屋を出ると正面にリツコがいた。

「お疲れさま。」
「なんでここにいるの?」
「シンジ君が彼らに対してお手柔らかにって言ってたから、でも遅かったみたいね?」
「ちょっちね・・・」

ミサトはリツコと一緒になって歩き出した。
通路を歩きながらミサトは大きく伸びをする。

「は〜やっぱ柄じゃないわ〜」
「ちょっとお灸がすぎたんじゃない?ミサト?」
「そうかもね・・・でも彼らが死なずにすむなら安いと思わない?もう戦闘時にはシェルターからでないでしょう?ちなみに弾は抜いていたわ・・・」
「・・・そうね」

二人は同時には笑顔を浮かべた。
確かに乱暴だったかもしれないが後悔はない。
リツコもやり方は過激だったがそれでもミサトのしたことが間違っているとは思っていなかった。

「ミサト・・・あなた教師とか向いてるかもよ?」
「教師?良いわね〜〜使徒を倒し終えたら教師に転職・・・アリかもね。」

リツコは軽く驚いた。
ミサトは未来のことを話してる。
それは復讐の先の話をしているということだ。

そこまで考えたときリツコ苦笑した。
もはやこの程度の変化なんて日常茶飯事なのだ、驚く事じゃない。
むしろ当然・・・

何せ彼女はこの変化の原因・・・その中心の近くにいるのだから・・・・
ミサト、レイ、ネルフの職員、・・・・・そして自分も・・・・
彼に関わったことでネルフはどんどん変わっている。
でも不快ではない・・・むしろ今まで見過ごしていたものが見つかる・・・そんな期待感さえある。

「何笑ってるのよ?」
「笑ってる?私が?」
「他に誰がいるのよ?」

どうやら私は笑っていたらしい。
これも彼の影響だろうか?

「ミサト?」
「なに?」
「仕事が終わったら飲みに行きましょう。新しい店、見つけたわよ。」
「珍しいわね?リツコから誘うなんて。」
「たまには良いでしょう?」
「そうね、じゃワリカンって事で〜〜〜」
「良いわよ。」

そういって彼女たちは仕事に戻った。
とりあえず目の前の問題(使徒戦の後始末)をどうにかしないと始まらない・・・

この日のミサトはいつもよりかなり早く仕事をおわらせリツコをまた驚かせることになる。
その後ミサトとリツコは酔いつぶれるまで飲み、シンジに二日酔いの介抱を頼むことになった。






To be continued...

(2007.06.02 初版)
(2007.09.08 改訂一版)
(2007.09.15 改訂二版)


(あとがき)

こんにちわ、第弐章の投稿完了しましたが誤字など残っていないかどきどきです。
今回はさらに念入りに確認したので大丈夫・・・と思いたいですね、前科が腐るほどあるので自分のことながら自信がないっす(泣

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