天使と死神と福音と

第参章 〔神鳴る光〕
V

presented by 睦月様


「目標のレンジ外、超々長距離からの直接射撃かね?」

冬月が呆れた口調で聞き返した。
いつも寡黙なこの男にしては珍しい事だが内容が内容だけにさもありなんと言う感じだ。

「そうです。目標のATフィールドを中和せず、高エネルギー収束帯による一点突破による殲滅を考えております。」

一言で言えば大胆にして単純な一撃による殲滅ということになる。

今、司令室には3人の人物がいる。
部屋の主であるゲンドウが執務用の席に座り、その後ろに冬月が直立不動の姿勢で立っているのはいつものことだ。
3人目の人物は彼らの視線の先にいるミサトである。

「・・・・具体的にはどうするのかね?」
「はい、私はこの作戦を八島作戦と名づけました。まずネルフの権限を使い日本中の電力を徴収し、陽電子砲の充電と共に使徒に対し反対方向から煙幕弾を搭載した無人機を発信させます。」
「無人機?何のために?」
「おとりです。使徒の荷粒子砲の威力から連続しての使用は難しいと赤木博士から太鼓判をもらっていますので、使徒が無人機に攻撃をした瞬間、反対方向からの陽電子砲の発射によって殲滅します。」
「なるほど、エヴァの狙撃によって殲滅すると言うわけか・・・・・」
「いえ、陽電子砲はあらかじめ遠隔操作によって発射予定です。」

ミサトの言葉に冬月がいぶかしげな表情をする。
たしかに接近戦をするのでなければわざわざエヴァを使う必要は無い。
今回の作戦では陽電子砲があればそれで事がすむ。

「・・・・・エヴァを使わず殲滅するつもりかね?」
「可能ならば、エヴァは今回のミッションでは保険になってもらいます。」
「保険?」
「はい、万が一使徒が無人機に反応せず陽電子砲を敵と認識した場合、陽電子砲におとりになってもらいます。」
「陽電子砲にかね?」

冬月だけでなくゲンドウまでがわずかに表情を変えた。
いままでのミサトの作戦とは何かが違う。
エヴァに頼り切ったものではなく戦略の駒のひとつとした考え方だ。

「陽電子砲が標的になった場合、すかさず無人機の煙幕弾を発射し陽電子砲が荷粒子砲の餌食になった瞬間に対角線上に初号機と零号機を射出します。これは使徒の攻撃目標を分散させるためです。」
「二重のおとりというわけか・・・続けてくれたまえ」
「はい、射出された初号機と零号機が使徒に向かってダッシュ、ATフィールド全開で使徒のATフィールドを中和、殲滅します。」
「ふむ・・・・・・エヴァを隠す為の煙幕弾か・・・しかし時間はあるのかね?聞いたところほとんど無いそうだが?」
「問題ありません、今回、戦自に協力を要請しました。」

ミサトの言葉に冬月は驚きの表情を作りゲンドウも眉をひそめた。

「葛城くん、使徒に対する優先権は我等ネルフにある」
「存じています。しかし優先権があるからと言って協力要請とは関係ないと判断します。しかも陽電子砲は彼らが開発したものでありネルフの技術者より一日の長があるかと・・」
「むっ・・・・」
「さらに戦自は前回と前々回の使徒戦において戦力になりえなかった過去があり、今回ネルフとの合同とはいえ使徒の殲滅に成功すれば戦自も多少の成果が認められネルフとの関係回復にもつながります。」

ゲンドウと冬月は沈黙した。
ミサトの作戦は確かによくできている。
先を見据えた作戦は単純にラミエルとの勝ち負けだけでなくその先の事まで見通した慧眼が感じられる。

しかし自分たちの目的のためには使徒殲滅はネルフで独占したいのが事実・・・・

「・・・MAGIはなんと言っている?」
「勝率は84.5%と出ました。」
「ちなみにネルフだけで行った場合の確率はどうかね?」
「・・・・・・時間的な問題もあり8.7%でしかも盾などで荷粒子砲を防ぐ必要があります。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

もはや反論は無意味と言わざるを得ない。
10分の1の確率でしかも10%をきる作戦を優先させるなど正気を疑われるだろう。
しかも使徒はまだまだ来るのだ。
今の時点で初号機、零号機のどちらか、あるいは両方失うわけには行かない。

「・・・反対する理由はない・・・存分にやりたまえ・・・」
「了解しました。」

その言葉と共にミサトはきびすを返し部屋を出て行った。
あとには老人と中年の男だけが残る。

「・・・いいのか?六分儀?」
「問題ない」
「お前がそう言うならいいが、さっきの作戦・・・どう思う?」
「日本中の電力を使った陽電子砲の使用、この大胆さは葛城一尉の発案だろう・・・しかしそれ以外は・・・」

一見すると陽電子砲の使用の大胆さが目に付くが、実際はそれをフォローする二重三重の備えがこの作戦の成功率の要だ。
ミサトの大胆さと他の誰かの繊細さがこの作戦には共存している。

「シンジ君の入れ知恵だな・・・」

二人の間に沈黙が降りた。
それ以外考えられない。
おそらくはミサトの作戦をシンジが補強したのだろう。

「彼は何者なのだ・・・」
「身辺調査の結果はどうだ?」
「まったく何も出てこん・・・このまま放っておいていいのか?」
「・・・今は使徒を殲滅出来ればそれでいい・・・・修正は可能だ。」
「本気で言っているのか?私にはシンジ君の存在は修正など不可能なものに思えてならんよ・・・」

ゲンドウの背中を見ながら冬月はため息とともに自分の中にあった疑問を吐き出す。
口にだしてみるとそれが現実的に感じられるのははたして気のせいだろうか?
それと・・・

「六分儀?」
「なんだ?」
「おまえ・・・・・シンジ君を恐れたな?」

その瞬間ゲンドウの背中がかすかに揺れたのを冬月は見逃さなかった。
どうやら図星らしい。
自覚しているかどうかは別にして

「何年お前と付き合っていると思っている?そのくらいわからんと思うなよ?無理にレイを出撃させたのは彼の思い通りになっていくのがいやだったのか?子供の思考だな」
「・・・・・・」
「初号機だけでなくいまではレイもシンジ君に魅かれている・・・・・”彼女”とレイを奪われそうになってあわてたのか?さらにあの誠実さと真っ直ぐさは彼女にそっくりだ・・・・今の自分を彼女に見られるようで恐ろしいんだろう?」
「・・・・・・くだらん!!」
「そのくだらない理由で無茶をごり押しするな、お前は仮にもこのネルフのトップだろうが」

冬月はゲンドウの背中を見ながら思う。
いままで彼女の選んだこの男が何をするのか・・・何が出来るのか見届けたい・・・ただそれだけの自己満足のために人の道を外れてきた。
自分達は地獄すらも生ぬるい大罪人だ。
そう思ってきたし、それだけの価値がこの男にあると思ってきた。

(・・・だが”彼”は・・・)

冬月の脳裏に一人の少年の姿が浮かぶ。
ただ守るため・・・・・そのためだけに戦場に立つ少年・・・・
たとえ自分が傷つこうと己の意志を曲げない少年・・・・
あらゆる小細工を見通し、自分たちの浅はかさを浮き彫りにする少年・・・・
その姿は敬虔な求道者のものであり年をとった自分が捨て去ってきたものだ。

だからこそ彼の姿は尊いのだ。
だからこそ彼は思いは強いのだ。
彼を見ていると不意に自分の矮小さに嫌気が指すことさえある。

(・・・・私も彼に魅かれているということか・・・・・・)

冬月の口元は苦笑の形につりあがっていた。
すでに冬月の中ではシンジへの興味が根付いている。
そしてそれは同時に迷いも生んだ。

(自分たちがしようとしてることはシンジ君達を犠牲にしてまでする価値があるのか?)

・・・・・・答えは出ない・・・まだ

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「ん・・・・?」

ゲンドウたちが司令室でシンジの話をしているのと同時刻、シンジは不意に悪寒を覚え周囲を見回した。

(どうかしたかい?)
(いえ、何か悪寒が・・・)
(風邪かな?気をつけたほうがいいきみの【canceler】は病気には効かないだろう?)
(はい、でも体調は絶好調なんで心配ご無用です。)

シンジはプラグスーツ姿でケージにいた。
ついさっきまで日向に付き添って戦自の研究所に行き、陽電子砲を二子山に運搬してきたところだ。

戦自との交渉は日向が担当したがやはりネルフと合同とはいえ使徒殲滅の実績が作れるかもしれないと言われれば無碍には出来ない。
なんと言っても使徒戦で全く成果を残せていなかったのが痛かったのだろう。
二つ返事ですんなり受け渡しされた。

大人の縄張り争いのようなものが見え隠れするがシンジにとっては関係ない。
使えるもの、必要な物が手に入ればよほどの事が無い限り途中経過を気にする気は無かった。
それは組織のトップ連中が気にしていればいいことだと思っている。。

プシュー

「ん?」

シンジがすることも無くアンニュイな少年を気取って手持ち無沙汰に初号機を見ていると通路の扉が開いてレイを連れたミサトが現れた。

「こんなところにいたの、シンちゃん?」
「あれ?ミサトさん?そっちこそこんなところにいていいんですか?」
「ま〜ねん指示すべき事はしたしー、今は技術者の時間でしょ。」
「手伝わなくていいんですか?」
「餅は餅屋、プロの仕事を邪魔しないのも立派な仕事と思わない?」
「方便がうまいですね〜〜〜〜」
「なはははは〜〜〜〜」

シンジはミサトに苦笑を返すとレイに向き直った。

「大丈夫?」
「問題ないわ」
「そう・・・無理しないでね・・・・・」
「シンジ君は私が守る。」

その言葉にミサトは目を丸くした。
今までレイを夕食に誘ったりして少しづつレイの感情が変化してきていたのは感じていたがここまではっきりと自分の意思を表したのは初めてだ。
そんなレイの言葉をシンジは嬉しそうに目を細めて聞いた。

「それがレイの意志?」
「私の意志?・・・わからない・・・でもシンジ君がいなくなるのはいや。」

シンジはその言葉に微笑みで答える。
それを横で見ていたミサトは話しについていけない。
なんとなく良い雰囲気の二人に瞳がおもちゃを見つけた子供の様に輝く。

「シンちゃん・・・いつのまにレイをくどいたの?」
「・・・・・・・一応言っときますけれどミサトさんの考えてるような事は無いですよ。」
「ふ〜〜ん,でも昨日あたしん家にレイをとめたそうね・・・・手〜ださなかったの?」
「あんた本当に保護者ですか?」

ミサトはシンジの言葉をスルーするとレイにつめよった。
男のシンジの意見などアウトオブ眼中だ。

「レイ?」
「?・・・なんですか?」
「シンちゃんはどうだった?」
「・・・・・・あたたかかった」

レイが顔を桜色にしながら言った瞬間・・・・・・時が止まった。
周りを見ると作業中の職員も止まっている。
皆して聞き耳を立てるのはどうだろう?

ミサトがニヤニヤ笑いを貼り付けたままシンジに振り向き肩をやさしくたたいた

「シンちゃん・・・大人になったのね・・・保護者として嬉しいわ・・・でもちょっちさびし〜〜〜〜」
「・・・・何さわやかな笑顔で言ってるんですか?おもしろがってるのバレバレですよ?」

ふいにシンジは背後から背を軽くたたかれた。
振り向くと技術部の職員が列を作っている。
彼らはシンジが何か言う前にシンジの手をとり硬い握手をかわしていく・・・・

「やったなぼうず!!」
「さすが天才あのレイちゃんを・・・」
「お幸せに・・・・」
「避妊はしっかりな!!」
「中学生でなんて・・・・不潔・・・・でもお似合いだから許しちゃうわ!!」

ちなみにこの人たちはシンジのファンクラブに入っていたりする・・・
ありがたい?お言葉の数々にシンジが状況説明に30分かける事になり怒鳴り込んできたリツコは比喩でなく般若の顔になっていた。

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ネルフ本部────通路

シンジとミサトとレイはリツコの命令でケージを追い出されていた。
叩き出されたというほうが正しいかもしれない。

「まったく・・・・追い出されちゃったじゃないですか・・・」
「アハハ・・・・ゴミンネ!!でもレイが夜中にシンちゃんの布団にもぐりこむなんって予想出来ないっしょ?反対ならともかく・・・」
「ぼくのことどういう風に見てたんですか・・・・」

シンジがため息を一つつくと真剣な表情になった。
その視線はミサトではなくレイに向けられる。

「レイ、ちょっと相談があるんだけれど・・・・」
「相談?・・・何?」
「よかったらぼくたちの住んでるマンションに来ない?」
「「え?」」

ミサトとレイの声がユニゾンした。
二人ともいきなりシンジが言い出した言葉に意表をつかれている。
何とかレイが言われたことを理解して口を開いた。

「ど、どうして?」
「レイは一人でいるの・・・嫌じゃない?」

レイは迷いながらうなずいた。

「最近・・・・あの部屋が嫌なの・・・何か大事なものがなくなったような・・・・よくわからないけれど・・・・嫌なの。」

レイのたどたどしい告白をミサトは黙って聞いていた。
どうやらレイはあの殺風景な部屋に寂しさを感じたらしい。
だとしたらこのところの不調も納得がいく
ミサトはシンジに視線を戻した。

「シンちゃん・・・いいの?」
「分かりません、すべてはレイの決めることですから・・・」

シンジの言葉にミサトはうなずいた。
たしかにこれはすべて彼女が選んで行動するべきことだ。
しかし、内心ではもちろんレイに一緒に住んでほしいと思っている。

「レイ、ぼく達と一緒に住まない?」
「いいの?」
「うん、でもあの司令はいい顔しないだろうけれど・・・・」

レイの体が硬直する。
それを見たミサトがなんともいえない表情でシンジを見た。
シンジはミサトの視線に気がついたが無視する。
黙ってレイの答えを待ってた。

(・・・はやかったかな?)
(いえ・・・これ以上レイに寂しい思いはさせられません・・・・)
(しかし彼女はまだあの男への依存があるみたいだよ?)
(それでも・・・・・ぼくは信じていますレイがぼくたちとの生活を望むと・・・・)

シンジはレイに向かって優しく語り掛ける。

「ぼくはレイに寂しい思いをしてほしくないんだよ。」
「わ、私は・・・・」

自分の創造主であるゲンドウには逆らえない
もし見放されたら自分の存在意義が無くなる・・・・・それは耐え難い恐怖・・・・

そのとき、レイはシンジの顔に微笑が浮かんでいるのに気づいた。
はじめて会ったときから変わらない優しいまなざし・・・
レイはこの笑顔にこめられたシンジの優しさだけは裏切る事など出来なかった。

「わたしは・・・シンジ君や・・・葛城さんと・・・一緒に・・・いたい」

レイは途切れ途切れに震えながら・・・それでもはっきりと声を絞り出した。
シンジは無言でレイを抱きしめてやる。

「ありがとう・・・そしてごめんね・・・」
「・・・ごめんなさい・・・こんなときどうしたらいいかわからない。」
「・・・・・笑えばいいんじゃない?」

少し戸惑った後、レイははかなげな笑顔を見せた。

ミサトはその光景を横で見ながら微笑んでいた。
目尻には涙が浮かんでいる

最初、レイの現状を知ったとき何とかしようとしてシンジに止められた。
あの時は反発も覚えたが今ではシンジの選択が正しかったのだとわかる。
目の前の少女の笑顔がその証だ。
無理に引き取っていてもそれは彼女の選択ではない・・・・今までと同じ人形と変わらなかっただろう・・・おそらくこんな笑みを浮かべることは無かっはずだ。

だが今、目の前の少女はたどたどしくも一歩踏み出した。
あとはしっかり歩けるように支えてやらなければ・・・戦闘でも生活でも・・・それが大人として自分が出来ることではないだろうか?

(シンちゃんに出会ってからどんどん復讐の優先順位が下がっていってるわね〜〜、でもまいっか・・・・この子達を見ているほうが楽しいしね)

しかし毎度の事ながらシンジには頭が下がる。
どんな経験をすればここまでやさしく強くなれるのだろう?
ミサトの中にシンジへの興味が大きくなるのがはっきりと自覚できる。

ミサトはシンジとレイをまとめて抱きしめた。

「み、ミサトさん・・・・」

シンジが何か言うが完全に無視する。
今シンジの意見など必要ない。

「レイ?」
「なんですか?」
「シンちゃんのこと好き?」
「ちょ、ちょっとミサトさん?」
「・・・わかりません・・・でも、嫌じゃありません。」
「ふ〜〜ん、シンちゃんはいい子だからあたしも立候補しようかな〜〜〜」
「何言ってるんですか!!」
「・・・・・年増は嫌い?」
「い、いやそんな事言ってないじゃないですか・・・わざとらしく泣きまねしないでください。」

三人のじゃれあいは日向がミサトを探しに来るまで続いた。

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『敵シールド、第17装甲板を突破。本部到達まで、あと3時間55分』
『四国及び九州エリアの通電完了』
『各冷却システムは試運転に入って下さい』

発令所では各所からの通信に決戦が近いことをいやでも意識させられる。
同時に徐々に緊張感が空間を満たしていくのが見えるような気がする。

「こんな野戦向きじゃない兵器、役に立つんでしょうか?」

日向の言葉にミサトが渋い顔をする。
モニターには二子山に設置された陽電子砲が映っていた。
その姿は精密機械の部分が露出していて有り合わせなのが一目でわかる一品だ。

「しょうがないわよ、突貫工事だし・・・リツコ、そこんとこどうなの?」
「理論上は可能なはずよ・・銃身や加速器が保つか撃ってみなければ解らないわ。・・・こんな大出力で試射した事、一度も無いから」
「しかたないわね・・・・日向君、あの周囲の退避はどう?」
「はい、戦自の技術者も退避済みです。」
「そう・・・・では0000時をもって作戦をスタートします。各人に通達・・・」
「了解!!」

陽電子砲はすでに発令所からの遠隔操作によって発射が可能になっている。
場合によってはラミエルの攻撃目標になるかもしれないような場所に人がいるわけにはいかないので二子山は陽電子砲以外は無人だ。
それ以外にも無人機の発進やエヴァの射出準備などで発令所はおおさわぎだった。
この作戦はタイミングも重要になる。

「ミサトいい?陽電子は地球の自転、磁場、重力に影響を受け直進しないわ、その誤差を修正するのを忘れないでね。正確にコア一点のみを貫くのよ」
「イヤ、リツコセンセイチョッチムリッポイカナ〜〜ト」
「・・・・・・あんたはテキストどおりにやって真ん中のマークが揃ったらスイッチを押せば、あとは機械がやってくれるわ」
「最初からそう言ってよリツコ〜〜〜〜」

リツコはミサトの能天気な声に頭が痛くなった
大学時代からの親友だが・・・・・なんで親友になったんだっけ?

少し頭痛を感じたリツコがエヴァのモニターを見た。

「ミサト・・・・・ちょっといい?」
「リツコ?どうかしたの?」
「レイのことなんだけれど・・・」

リツコの言葉にミサトが表情を引き締めた。

「レイ?なんかあったの?またシンクロが安定しないとか?」
「いえ・・・・・・シンクロ率は起動実験のときから安定しているわ。昨日までのがウソみたいに・・・・・」
「じゃあ何が問題なの?」
「シンクロ率は過去最高の42.7%、でもアドレナリンの量とかが一寸多いのよ。少し興奮してるみたい・・・・心当たりある?」

あるどころかひとつしか思いつかない。
ミサトは笑いをかみ殺すのに苦労した。
今は決戦前だ。
笑うのはあまりのも不謹慎だろう。

「ああ、なるほど・・・・・・気にしなくていいわよ、ちょっちいいことがあっただけ。」
「?・・・・・・・そう?」

ここに人目があるのが少し残念だった。
誰もいなかったなら思いっきり笑うことができるのに。

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零号機エントリープラグ


レイはいつになく自分の体調の変化に戸惑っていた。
この戦闘が終わればシンジたちと一緒にいられる・・・そう考えるだけで鼓動が早くなり体温が上昇するのを感じる。

シンジ達との食事の後、自分の部屋に帰ったとき自分の中に穴があいたような喪失感があった。
なぜそう感じるのか・・・・理由などわからない。
ある日、突然そう思ったのだ・・・この部屋は嫌・・・

だからこそ昨日部屋からシンジが連れ出してくれた時は嬉しかった。
葛城さんの家に戻れたときとても嬉しかった。
シンジと一緒に寝たとき・・・・・・何かが満たされるのを感じた。
シンジが一緒にいてくれる・・・・・葛城さんが一緒にいてくれる。
レイは生まれたての感情の名前を知らなかった。
しかしそれを知るものがいたらこう言うだろう。
・・・・・・・・・・・・・・愛しいと

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----------------------------23:59:50
-------------------------23:59:51
----------------------23:59:52
-------------------23:59:53
----------------23:59:54
-------------23:59:55
----------23:59:56
-------23:59:57
-----23:59:58
--23:59:59
00:00:00

「作戦スタートです!!」

その言葉が3本目のかぶら矢になった。

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第三新東京市・・・・・シェルター


「そろそろか・・・・・・・」

眼鏡の少年、相田ケンスケのつぶやきにそばにいた鈴原トウジと洞木ヒカリが反応した。
その視線は厳しい

「ケンスケ!!」
「相田君、だめよ!!」

二人の言葉にケンスケは苦笑いした。
何を言いたいかは十分に分かる。
自業自得だ。

「わかってるよ。ただ・・・あいつらは今もあんな戦場で命のやり取りしてるんだよな・・・・」

その言葉に今度はトウジとヒカリがやるせない表情を作る。
思いは同じなのだ・・・三人はそろって天井を見上げる。
見えるのは当然天井なわけだが・・・その先にいるはずの友の事を案じていた。

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「第一次接続開始!!」
「第1から第803間区まで送電開始」
「電圧上昇中。加圧域へ」
「全冷却システム、出力最大へ」
「温度安定。問題なし」
「陽電子流入、順調なり」

発令所はあらかじめ決められた手順をふみ、陽電子砲に電力を供給する。
モニターには二子山に続く道路にケーブルが所狭しと並べられ、電圧機が頂上の陽電子砲に電力を供給しているのが映っていた。

「第二次接続!!」
「全加速器運転開始」
「強制収束器作動」

オペレーター達の報告が悲鳴のようにやり取りされるなか、作戦の第二段階である無人機が発進した。
それと同時にミサトの激がとぶ

「無人機到達時刻は!?」
「あと五分!!」
「了解、日本中の電力、私が預かるわ!!」

ミサトはオペレーター席の横に設置された3Dのスコープと発射スイッチの用意をする。
スコープに陽電子砲に設置されたカメラの映像が表示され、ラミエルの姿が映った。

「最終安全装置解除!!」
「撃鉄、起こせ!!」

日向の言葉を聞いたミサトが指示を飛ばし、モニターの陽電子砲が遠隔操作で発射準備を整える。
時刻は深夜、満月が夜空に浮かぶ刻限・・・

その青き光を反射するようなガラスの光沢を持つラミエルに無人機の影が映った。
無人機がラミエルの射程距離に到達すると同時に上下逆さまになったピラミットをつなぐスリットに光が走る。

「目標に高エネルギー反応!!」
「予定通りか・・・それとも・・・どちらを狙ってるかわかる?」
「そこまでは・・・」
「・・・陽電子砲の発射準備は?」
『地球自転、及び重力の誤差修正プラス0.0009』
『電圧発射点まで、あと0.2』
「了解、第七次最終接続!!全エネルギーポジトロンライフルへっ!!!」

今、日本という国の持つ巨大な電力を一矢に換え神の雷を貫くべくミサトはスイッチに手をかけた。
ミサトの覗くスコープの中で三角のマークがラミエルの近づいていく。

5・・・4・・・3・・・「使徒が荷粒子砲発射・・・・目標は・・・陽電子砲!!」
「クッ!!発射!!!」


カウントの途中で日向の報告が発令所に響いた。
ミサトは舌打ちすると陽電子砲の引き金を引いた。

モニターにラミエルの荷粒子砲と陽電子砲が交差する瞬間が映る。
二本の矢は互いの中間で相互に影響しあい螺旋を描きながらそれぞれの後方に着弾した。
爆発がそれぞれの背後で起こる。

「状況は?!」
「お互いの攻撃に影響され弾道がそれました。」
「そう・・・・・・」

見ればラミエルは再び荷粒子砲の発射体勢にはいっている。
ミサトは手元のスイッチを一瞥する、一瞬復讐の二文字が頭をよぎった。

「日向君、陽電子砲に電力をまわして・・・・」
「え?か、葛城さん?」

ミサトが父親の復讐にネルフにいるのはすでに周知の事実だ。
そのためスタッフはミサトがいまだに復讐にこだわってると思い愕然とした。

この作戦はタイミングが命だ、もしエヴァの投入時期を間違えば最初の零号機の二の舞になる。
今度はシンジのフォローは無い。

しかしミサトはあっさりスイッチから手を離した。

「電力は最低限でいいわ、奴に攻撃の意思があると思わせるのが重要なの、無人機の煙幕用意!!」
「は、はい!!」

実際ラミエルがそれを感じたのかどうかはわからない。
しかし陽電子砲の発射に会わせるように荷粒子砲を放った事を考えればラミエルが陽電子砲に向けてもう一度加粒子砲を放つ可能性は少なくない。
たとえそれが見せ掛けだけであったとしてもそれによってこの先の作戦の勝率が上がるのならやるだけの価値はある。

オペレーターやリツコは自分たちがミサトを侮っていた事に気づく。
すでに彼女は一人の司令官なのだ・・・・・・個人の感情だけで動いてるわけではない。

「シンジ君、レイ、聞いたとおりよ・・・ごめんなさい、結局あなたたちに頼る事になったわ。」

モニターに映る二人にミサトの声が届く。

『ミサトさん、この事態はすでに計算済みです。そう考えればまだの主導権はこちらにありますよ、次が本命なんですから』
「そうね・・・・・あなたたちを信じるわ、必ず帰ってきなさい!!」
『『了解』』
「では作戦を続行します。煙幕弾発射!!」
「了解!!」

オペレーターがキーボードを叩くとモニターに映る無人機から煙幕弾が発射されラミエルの姿が煙に包まれる。

「よっしゃ、次!!日向君、タイミング間違わないでよ!!」
「了解!!まかせてくださいよ!!」

モニターには煙幕の黒煙が充満しているのでラミエルの姿はかけらも見えない。
しかしその煙がいきなり発光した。

「今よ!!」
「はい!!」

ミサトの号令と共に初号機と零号機はリニアレールで射出された。
モニターには黒煙を切り裂いて荷粒子砲が陽電子砲に襲い掛かるの瞬間が映っている。
一撃で二子山の山頂と共に陽電子砲が消えた。

『敵シールド!!ジオフロントに侵入!!!』

状況はとまらない・・・・・

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地上に初号機と零号機が射出され、ラミエルを挟んで反対方向に合わせ鏡のように立っている。
二機とも斧状武器、スマシュホークを手に持ち、すでに拘束からは解き離れていた。

二機は前のめりに倒れる動作からそのまま疾走に入り、ATフィールド全開で突っ込む。
エントリープラグには煙幕の中での戦闘を考慮してラミエルのシルエットがCGで表示されていた。

二機の接近にラミエルも気づいたらしくあわてて再装填にかかるが間に合わない。

(シンジ君)
(わかっています。)

砲弾となった初号機はATフィールドの壁を走りながら突破しスピードのままに飛ぶ
理想的な姿勢で飛んだ初号機は空中でスマッシュホークを振り上げ打ち下ろした。
目標はスリット、まずここをつぶして荷粒子砲を封じるのが作戦だ。

ズガッッッッッッッ

「チィ、浅い!!」

初号機は一旦スマッシュホークを引き抜くと後方に飛ぶ

(驚いた・・・・・予想以上の硬さだ・・・)
(スリットを両断しきれなかったね・・・・・)

程なく煙幕が薄れラミエルの姿が現れた。
ラミエルの外壁には縦に亀裂が走ってるがスリットの半ばほどでとまっている・・・失敗だ。
スリットは今も発光し、粒子を加速しているのが見える。

(まずった、まだ荷粒子砲が撃てるのか・・・)
(シンジ君、綾波さんが危ない)
「え?・・・・・・なっ・・・・」

思わず口をついて出た疑問の言葉は視界に入った零号機の姿に驚きに変わる。

シンジは重要なファクターを見逃していた事を悟った。
レイは今日はじめて零号機の起動に成功したのだ。
一応フィールドの中和をしているみたいだが・・・時間がかかりすぎている。
無理やりにフィールドをこじ開けようとしている零号機など荷粒子砲の格好の的だ。

「まずい!!」

シンジは初号機を疾走させる。
目標はラミエルの下から伸びているシールド・・・・・・
初号機は走りこんだ勢いそのままにバットスイングの要領でスマッシュホークを振りぬく。

ガキン!!

シールドもかなりの硬度があるため半ばで刃がとまるが反動でラミエルのスリットが夜空を向く
それと同時にラミエルのシールドが停止し閃光は夜空を切り裂いて天空に消えた。

(やばかった・・・・)
(こちらも全力で答えよう・・・シンジ君・・・・)
(ハイ、行きましょう。)

シンジはブギーポップとシンクロを始めた。
変化は一瞬、シンジの顔に方眉を吊り上げた笑みが浮かぶ
外見はシンジのまま中身がかわったのだ
世界の敵を狩るもの・・・不気味な泡・・・ブギーポップに・・・

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「・・・・・・シンクロ・・・・・・0%になりました。」

マヤの呆然とした声に発令所が沈黙に包まれる。
本来ありえないはずの0%での起動・・・二回目ではあるが自分たちの理解できない状態であるのは疑いようが無い。
サキエル戦の再現である事はわかるがそこまでだ、それ以上のことなど理解も予想も出来ない。

そんな中でもとくにリツコの目はモニターに映るシンジの左右非対称の皮肉げな笑みに釘付けだ。
いつでも自分の予想を裏切ってくれるこの少年に魅かれているのは間違いない。
知りたいと思う・・・・・この少年の思いを・・・・
ただ知りたいと思う・・・・この少年が何を見ているかを・・・・

そして、この光景をリツコと同じように違った目で見るものが後二人いた。

「これでも修正が効くといえるんだろうな?・・・六分儀・・・」
「・・・」

戦闘は続いている。

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ブギーポップはATフィールドを圧縮したワイヤーを作り出しラミエルのシールドに放った。

ザン!!

スマシュホークで半ばまで切断されていた部分から完全に切断される。
支えを失ったラミエルの体が空中で頼りなさげに揺れた。

『シンジ君!!』

横を見るとレイの零号機が何とか中和に成功して走りこんできていた。

「綾波さん、縦じゃだめだ、スリットを通すように横に振りぬけ」

答えは零号機が首を縦に振る事でもたらされた。
走りこんできた零号機が飛び上がる。

空中でスマッシュホークを体を回転させる動きにあわせ右から左へスリットを通すようにえぐった。

ズン!!

すでに加速し始めていた粒子に刃が振れ爆発が起こる。
スマッシュホークが砕け、反動で零号機が背後に吹っ飛んだ。

「お見事・・・・」

ラミエルは外壁の一部を吹き飛ばされながら零号機と反対方向にゆっくり落ちていく。
ブギーポップは初号機を走らせ、落下してくるラミエルの真下で待ち構える。
狙うはシンジが最初につけた縦の亀裂

「悪いね・・・・君の未来はここで遮断させてもらうよ。その代わり人類は生きつづけるだろう・・・・・君を殺した証として・・・・・」

スブ!!

初号機の右の抜き手が落ちてくるラミエルにカウンターで突きこまれ、右手の肩口までが埋没する。
ラミエルの重量のため初号機の足が地面に沈みこんだがそこまでだ。
初号機はラミエルの巨体を受け止めている。

「さようなら・・・・・・一つの可能性よ・・・・」

ラミエルの体に埋没している右手が人差し指と中指を伸ばした銃のような形を作る。

「砕けろ・・・泡のように・・・」

バン!!

次の瞬間、ラミエルの内部で発生した衝撃波にラミエルのクリスタルの体がいびつに変形した。

パキン!!

無数の亀裂を鏡のような外壁にはしらせたラミエルは亀裂の数に等しい破片となって空に舞う。

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「・・・・・・・雪?」

誰かの呟きがすべてだった。
セカンドインパクト以降、夏以外の季節を忘れたこの世界は冬すらも記憶の中のものにした。
ゆえにシンジ達セカンドインパクト以降の世代は雪など見たこともないだろう。

しかし今、発令所のモニターには第三新東京市に降る雪が映っている。

いや・・・それは雪ではない
ラミエルだった”物”の残骸が月光を反射してあたかも雪のように白く光を放ってるのだ。
言わば死の雪・・・・・・・・・


その光景に見入っていたものは白い雪の中に紅い色彩がまじるのに気がついた。

色彩の元は初号機の右腕・・・・・・・
ラミエルに衝撃波を叩き込んだときに初号機の右腕はラミエルの体のとがった破片でずたずたになっていた。

その流れ出した紅い血がラミエルの爆発とともに巻き上げられ、白い雪化粧に紅の彩を加えていたのだ。

己が血を流す事で誰かの流れる血を止める紫の鬼・・・・
使徒の残骸はそこに死のイメージを内包しながら初号機とその周辺を紅と白で染め上げる。

ただ静かに・・・

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零号機でレイもその光景に見入っていた。
あまりにもはかなく降り積もる死・・・
心を貫くような恐怖を感じながら同時に・・・
あまりにも美しすぎる・・・
目をそらす事など出来ない・・・

ただしんしんと・・・
ただしんしんと・・・
音も無く死の雪は降り積もる。

そこにあったすべての生と死を覆い隠すように・・・
しんしんと・・・
しんしんと・・・・・・
ただ静かに町に舞い降りてくる。

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学生服を来たシンジはひとつの扉の横で壁に背をつけてレイを待っていた。
ここはレイの住んでいるマンションだがあとわずかで「住んでいた」になる。
本当ならミサトも来る予定だったが抜け出すところをみつかってリツコに連行されていった。
事後処理の仕事が相当あるらしい。

(人が生きていく事が殺した証か・・・業が深いですね・・・)
(確かにね、でも生きるって言う事は多かれ少なかれそういうものじゃないかい?)
(神の使いすらも?・・・死んだらやはり地獄行きですかね・・・)

生きていくためには他の生き物を殺して糧としなければならない。
それがこの世界の基本だ。
殺すことが悪と言うなら生きていく事そのものが悪と言う事になるだろう。

(自動的に浮かび上がってくるだけの僕にはなんともいえないね、ただ殺したものたちの未来や可能性の分は生きなきゃならない・・・・・・・それは命の連鎖だ)

どんなに奇麗事を並べようとそれが真理だ。
人間も例外じゃない・・・むしろある意味で人間の業は更に深いだろう。

(あの使徒の未来はぼくたちの未来の中に組み込まれたって事ですか?)
(そう思ってもいいんじゃないかな、今生きているものたちはすべからく連鎖の先端にいる・・・・・その命を糧として次につなげようとするのは今生きて存在しているもの全ての義務だよ・・・・・自己満足かもしれないがね、そう思わないか?シンジ君)
(・・・・・・・そうですね)

ガチャ

物思いにふけるシンジの横で扉が開き、レイが出てきた。
手荷物はバック一つだ。

「もういいの?」
「ええ、もういいわ」
「そう・・・・じゃ行こう・・・・」

そう言って二人は歩き出した。
八島作戦の影響でいまだに町の電力はダウンしているため街灯もついてない。
しかし、月が明るく道を照らしているため、歩いて帰宅するのに問題はなかった。

「・・・ごめんなさい」
「ん?なにが?」
「・・・わたし・・・シンジ君の力になれなかった・・・」
「そんな事は無いよ、レイこそ大丈夫だった?」
「私・・・あなたを守れなかった・・・初号機の右手・・・痛かった?」

どうやらレイは戦闘で初号機の右手がズタズタになったのを気にしているらしい。
エヴァはフィードバックでパイロットに痛みが伝わるのでレイが心配するのも分かる。
うつむいた顔が泣きそうに見えた。

「自分で選んでやった事だよ、レイが気にする事は無い」
「でも・・・」
「言ったでしょ?君はぼくが守るべき人だって・・・・・」
「なんでわたしなんかを痛い思いしてまで護ってくれるの?」

シンジは苦笑する。
レイの言葉に懐かしいことを思い出してしまった。

「・・・なんで笑うの?」
「ああ、ごめんごめん・・・・・・ぼくもね、おんなじことをある人に聞いた事があるんだよ」
「シンジ君を守ってくれたって言う人?」
「・・・・うん」

シンジは嬉しそうに笑った。
その微笑をレイはじっと見ている。
何故かその嬉しそうな笑顔を見ているとちくりと胸が痛むがそれがなぜなのか少女はわからない。

「その人は何って言ったと思う?」
「・・・・・・・わからない・・・・・」
「ぼくのことを傷ついても守る価値があるっていってくれたんだ・・・・・あの時のぼくは自分にそんな価値があるなんてとても思え無かったけれど・・・・・その人はぼくが自分を信じるよりずっとぼくのことを信じて認めてくれたんだよ。」
「・・・・・・・・・・」
「ぼくとレイは似ているのかもしれないね・・・」

レイは足を止め驚きの表情でシンジを見た。
そんなことがあったなど今のシンジからは想像出来ない。
自分に似ていると言うシンジ・・・自分とシンジは似ているのだろうか?

「レイはぼくが傷ついても守る価値のある人だよ。それじゃだめかな?」
「わ、私は・・・・・」

人間じゃないと言いかけて口をつぐむ・・・・・
レイの葛藤を見て取ったシンジはうつむいたレイの顔を挟んで自分のほうに向ける。

「別にね・・・・レイが人じゃなかったとしてもこの思いは変わらない・・・・・唯一の条件は君が君であること・・・・誰かに命令されたからじゃなく君が君の思いで自分の道を選ぶことが出来るまでこの誓いは有効だ・・・・・」

答えの代わりに瞳を潤ませたレイが胸の中に飛び込んできた。
シンジはやさしく受け止めると幼児をあやすように頭をなでてやった。

「いつか・・・君がぼくの手を取って導いてくれるようになったら嬉しいな・・・」

レイはさらにシンジを強く抱きしめるほかに答えるすべを持たなかった。
この瞬間、レイの中にシンジの存在が確固たる物として生まれたのだ

その後、落ち着くのを待ってシンジについて歩き出したレイは帰り着くまでシンジの服のすそを握って離さなかった。
シンジはカルガモの親子のようだと思ったがレイに悪いので黙って歩いていく。

そんな二人をレイの髪の色と同じ蒼銀の月が夜空から見ていた。
青白い月光はどこまでもやさしかった。

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無人の部屋の主は静寂・・・・・・・
窓からの訪問者は月光・・・・・
蒼く・・・・・・
白く・・・・・・
もはやこの部屋に訪れる者はいない・・・・・
ただ静寂のみが部屋に満ちている・・・・・

窓から注がれる月光が部屋を染めるなか・・・・・・一つの色が生まれた
パイプベットの横にあるサイドテーブル・・・・・・
その上にある何かが月光を反射していた。

それは壊れたメガネ・・・・・
少女を縛っていた鎖の一つ・・・・
少女の絆であったもの・・・・

少女は忘れたのではない・・・・
知っててここにおいていったのだ・・・・・

少女は気づかない・・・・・・・まだ・・・・
その背にある可能性という翼を・・・・・・
だがいつかその翼を広げ飛び立つだろう・・・・・
未来という大空に・・・・・・

その時少女は死神の手も少年の手も借りず自分の意思で行きたい場所に行くだろう・・・
ただその胸に優しい少年の微笑を抱きながら・・・


これは少年と死神の物語






To be continued...

(2007.06.09 初版)
(2007.06.16 改訂一版)
(2007.09.15 改訂二版)
(2008.07.19 改訂三版)


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