天使と死神と福音と

第肆章 〔Fate to turn around〕
U

presented by 睦月様


《祝  J A 完 成 披 露 記 念 会  》

大弾幕に書かれた文字を見ながらミサトはうんざりした顔になった。
ここはジェット・アーロン、略してJAの完成を祝うパーティー会場だ。
パーティーは立食形式でたくさんの招待客が料理に箸をつけている。

だが《ネルフ御一行様》と書かれたテーブルの上には中央にビンビールが数本あるだけで料理はない。
しかもテーブルの大きさから手を伸ばしても届かないと言う有様・・・嫌がらせ以外の何者でもない。

「・・・リツコ?」
「なに?」
「この計画………戦自は絡んでるの?」
「戦略自衛隊? いいえ、介入は認められずよ」
「どおりで好き勝手やってるわけだわ・・・・」

ミサトが周囲を見回すと財界の著名人などが目に付く。
この計画のパトロンといったところだろう。

「ミサトさん食べないんですか?」

名前を呼ばれて横を向くとシンジが料理の皿を持って食べている。

「え?シンちゃんどうしたのそれ?」

自分たちのテーブルに料理はない・・・だとしたらどこから?

「これですか?まわりのテーブルから分けてもらってきたんですよ。」
「・・・シンちゃん・・・バイキングじゃじゃないのよ?」
「わかってますよ、でもこの食材全部食べきれると思います?」

ミサトが見回すとテーブルに乗っている料理はかなり気合を入れたらしく量が多い。
とてもじゃないが全て食べきるのは無理そうに見える。

「ゴミになるならおいしく食べてあげるのが食材になったもの達への供養です。」
「「そうね」」

シンジの言葉にミサトとリツコは手近のテーブルに向かった。
残ったシンジはテーブルクロスの端を持つとゆっくり引っ張って中央のビールを端に引き寄せて取る。

程なくミサトとリツコが戦利品を持って帰還した。
ミサトはハムやソーセージなどの食材の皿を片方に二枚ずつ、ウェイトレス並みのバランス感覚である。
リツコは白身魚のソテーの皿に、魚料理に合わせた白ワインを持っていた。
かなりチョイスが渋い。

戻ってきたミサトにシンジがビールを差し出す。。

「はい、ミサトさん」
「あ、シンちゃ〜〜〜〜んあったまいい〜〜」
「リツコさんそっちの端持ってもらえます?クロスを直しますんで・・・」
「了解よ、シンジ君」

嫌がらせをした主催者達は唖然とした。
彼らは運が悪かっただけだ。
今日ここにきたのはネルフでもベスト5に入るごーいんぐまいうえーの持ち主だった。
ちなみに・・・・・・・・

1位 六分儀ゲンドウ(ぶっちぎりの身勝手)
2位 葛城ミサト(親父もどきのだらしなさ)
3位 碇シンジ(確信犯)
4位 赤木リツコ(研究一筋)
5位 綾波レイ(あんまり考えてない)

・・・・・・・以上

やがて壇上に《時田シロウ》という名札をつけた男が上がった。
JAに関する説明が始まるが3人とも途中のヘリの中で資料には目をとおしているので説明そっちのけで食事に専念する。

「これおいしいわね・・・・シンちゃん、料理する人間としてどう思う?」
「食材も安くないですよこれ・・・お金ってあるところにはあるんですね」
「シンジ君、今度あなたの料理もいただけない?いつもミサトが自慢するのよ。」
「いいですよ。いつにしましょうか?」
「そうね・・・今度非番の日にでも、スケジュールは調整するからマヤも連れてきていい?」
「どうぞ」

会場の一角に出来たほのぼのフィールドは嫌がらせをした人物達の神経を逆なでした。
本人達に全くその気がないのでなおのこと救われない。

「……以上、何か御質問はございますか?」
「あ、リツコさん質問タイムのようですよ」
「あら、いけない」

シンジの言葉に本来の目的を思い出したリツコはあわてて口の中のものを飲み込むと手を上げて立ち上がった。

「これは、赤木リツコ博士。お越しいただいて光栄の至りです」
 
時田の馬鹿にしたような口調と笑いを無視してリツコはマイクを持った。
 
「質問しても、よろしいでしょうか」
「どうぞ」 

リツコはさっきまで料理に舌鼓を打っていた時と変わって顔を引き締めて話し始めた。
その姿はさすがネルフの幹部と言う感じだ。

「内燃機関を内蔵とありますが……接近格闘戦を前提とした兵器にリアクターを内蔵することは、安全性から見てもリスクが大きすぎると思われますが?」
「5分も動けない決戦兵器よりは、より役に立つと思いますよ。」
「遠隔操縦では、緊急対処に問題を残します」
「パイロットに負担をかけ、精神汚染をおこす兵器よりは人道的だと思いますがね」
「……何をおっしゃりたいのでしょうか」
「暴走して敵と味方の区別もなく攻撃を仕掛ける決戦兵器……手に負えませんな」
 
時田の苦笑と共に会場内に笑いが起こる
その中心にいるリツコは無表情だがかなり悔しがっているようだ。
手が白くなるほど握り締めている。
 
「だいたい、パイロットの感情に左右される兵器など、危険極まりない。さきほどの、私の説明をお聞きになりましたか? J.A.は、操縦者の暴走を許さない。幾重にも張られた意思決定構造に基づき、最善の結果を遂行するのです」
「……敵の攻撃が、マニュアル通りに行われるとでも? あの敵は、通常兵器では倒すことが出来ない。我々のとる方法以外で、あれらを倒すことなど出来ないのです。」
 
怒鳴りつけたいのを我慢してリツコは言葉をつむぐ
かなり限界ぎりぎりに見えるが表に出さないのはさすがだ。
これがミサトなら殴りかかっていたかもしれない。

それに気づいているのかいないのか・・・時田は、肩を竦めてみせた。
 
「A.T.フィールドのことですかな? あれなら、解明は着実に進んでいますよ。いつまでも、NERVの固有技術ではないのです」

その言葉と共にリツコの肩が誰かの手で引かれ、変わりにシンジが前に出た。

会場を沈黙が支配した。
静寂の理由は疑念、全員の視線が集まる場所にいる一人の少年に向けられたものだ。
彼がこの会場にいたのは最初からわかっていた。
ネルフ用に用意された席にいて、ミサトやリツコと一緒だったのでネルフ関係者だとは思ってはいたがなぜ明らかに中学生の少年がこんな場所にいるのかは誰も知らなかった。
しかもリツコは学会などでも有名人である。

その彼女を押し退けて前に出てきたこの少年は何者なのか?

「すいません、ぼくからもいいですか?」
「?・・・君は誰かね?見たところ中学生のようだが?」
「ええ、ぼくは中学生ですよ、初めまして時田さん、碇シンジといいます。」
「イカリ・・・シンジ・・・まさか?」

時田の顔が驚愕の表情を作る。

「おや?ぼくのことをご存知で?」
「あ・・・ああ、紫のエヴァのパイロットで3体の使徒をほとんど単独で殲滅したと言う話は聞いているよ」
「誇張されていますね、ネルフの協力あってのものですよ。」

時田とシンジの会話に会場内がざわめく。
シンジの存在はいろいろと有名だ。

エヴァ初号機のパイロットにして最強と呼ばれている少年。
その細かな内容はわからないがほぼ単独の戦闘で使徒3体を屠って来た実績がある。
今のネルフにおいて重要人物の一人だ。

「光栄だね、君のようなVIPがわざわざ足を運んでくれるとは・・・・・」
「多少興味がありまして、質問よろしいですか?」
「・・・・どうぞ」

シンジは会場が静かになるのを待って話し始めた。

「まず内燃機関の件ですが・・・原子炉搭載・・・ほんきですか?」
「さきほど赤木博士に言ったとおりだよ。連続150日の連続稼動が可能だ」
「無駄に動けるからといって戦闘には役に立ちません、むしろ実戦は刹那の中にその本質があります。たとえ千年動く事が出来ても破壊されればその先はありえません。」

戦闘は倒すか倒されるかだ。
結果的に倒れたものが敗者となり倒したものが勝者となるこれ異常ないシンプルな理屈で成り立っている。
精一杯やったからいいだろうなんてスポーツマンシップの入り込む余地はない。

そして同時に何かを壊す、殺すということは簡単だ・・・一瞬で済む。
戦いはその一瞬を回避できるかどうかにあるといっていいだろう。

「そ、それは・・・・」
「さきほど”幾重にも張られた意思決定構造”と言われましたが逆を言えばそれだけとっさの反応が出来ないと言う事でしょう?JAの装甲はそれほどに強固だと?」
「う・・・・・」
「荷粒子砲はビルを貫通し、光る鞭は兵装ビルを音速で輪切りにしましたよ?」

会場はシンジの話から耳をそらす事が出来なかった。
なんといっても実際使徒を倒してきた少年だ。
責任者といっても後方から支援することしかできないリツコとは説得力が違う。

「あなたがたが人命を尊重して有人ではなく無人のJAを開発されたのには敬意を表します。しかしJAが破壊されればこの国を核が汚染するのもまた事実・・・・・それによって亡くなる方もいるでしょう。その人たち、残された人たちの怨嗟の声を受け止める覚悟を持ってJAを戦場にだすんでしょうか?」
「う・・・・・・・」

時田は言葉に詰まった。
シンジの言葉には安易な反論を許さない雰囲気がある。

「し、しかしパイロットの感情で能力の左右され、暴走までする兵器など・・・」
「それは違います。戦場において暴走の経験は皆無です。確かにかって、実験中の事故によっての暴走はありました。しかし技術部の努力もあり以降の暴走はありません。」

その一言に隣にいたリツコの目が輝く。
時田たちを刺激しないように黙っているがその口元がにやけていた。

「・・・だ、だが・・・」
「彼らは自分たちが戦う力を持たないがゆえにぼくたちパイロットにエヴァと言う武器を用意してくれています。その上でお聞きしますがこのJAはそういった人の思いを超えるほどの存在なのでしょうね?」

確かにエヴァ自体は時田の言うように欠陥品もいいところだがシンジが戦うという一点に置いてそのマイナスは払拭される。
むしろJAの欠陥のほうがいまさらながらに目に付くほどだ。

いやな言い方になるが、エヴァならば死ぬときには一人ですむがJAが破壊されれば死ぬのは一人だけではすまない。

「最後ですが【いずれATフィールドが解明される】とおしゃいましたが必要なのは今このときです。JAがATフィールドに有効な手段を持たない以上・・・・完成とは言えないのでは?」

もはや言葉を発するものはいない。

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ロッカールーム

「いや〜〜〜すかっとしたわ〜〜〜」
「本当ね、シンジ君連れてきて正解だったわ。」

ミサトとリツコが満面の笑みでシンジを誉めた。

だが当のシンジはチラッとミサト達の後ろを見る。
そこにはミサトがぼこぼこにしたロッカーとリツコが燃やしたJAのパンフレットの燃えかすがあった。
さっきまで欲求不満の解消に利用されていたのだ。
シンジもさすがに引いている。

「でも一体なんだったんですか?あんな喧嘩腰で」
「ああ、シンジ君は気にしなくていいの、うちの利権にあぶれた連中の嫌がらせだから・・・・」

リツコの言葉にシンジも納得する。
つまりは縄張り争いの延長・・・ようするにひがみなのだ。

人類が滅ぶかもしれないというときにお気楽な話である。
今回はシンジが巻き込まれたと言うか自分から巻き込まれたと言うか・・・出来れば他人に迷惑をかけないところでそう言う意地の張り合いはしてほしいと思う。

「にしても腹立つわね・・・あの時田って奴・・・」
「大丈夫よミサト、もうすぐ彼も現実を知るでしょう。」

リツコの言葉に何か含みを感じたシンジはいやな予感を感じた。

経験上、JAに対してネルフが不可侵と言うのも考えにくい。

シンジの勘は時をおかず現実となるが今のシンジはまだそれを知らない。

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のどが渇いたシンジはロッカ−ルームを出て自販機の前で硬貨を投入した。

適当にジュースを選んでいると妙な視線を感じて振り返った。
その視線の主が誰か気づいたシンジの顔がいぶかしげなものになる。

「・・・・・・こんなところにいていいんですか?時田さん?」

それはついさっきシンジが説明会で言い負かした時田本人だった。
じっとシンジを見ている。

「よくはないが、もう一度君と話したかった。」
「そうですか・・・・・」
「ああ、君の言葉・・・正直こたえたよ・・・・・」
「そうですか?生意気な事言いました。」
「いや・・・・・お互い様だし・・・・・君の言った事は真実だ。」

時田もジュースを買うとシンジと二人並んでベンチに座る。
次に口を開いたのはシンジだった。

「・・・・・聞いていいですか?」
「なにかね?」
「あなたはどんなつもりでJAを作ったんです?」
「・・・・・・難しい事を聞くね」
「失礼、しかし重要な事です。」
「たしかに・・・・」

時田はしばし無言・・・自分の中の思いをまとめて口にした。

「・・・・会社のため・・・・それもある・・・・しかし人類を救いたいと思ったのも事実なんだ。結局あんなものがせいいぱいだったが・・・・」
「JAはあなたの夢だったんですか?」
「ああ、」

シンジは時田を横目で見た。
かなり沈んでいる。

彼はおそらく一途なのだろう・・・・それゆえに愚かでもあるがそう言うタイプの人間は嫌いじゃない。
シンジは少し考えてから口を開いた。

「JAは戦闘向きではありません。ですが他の道があると思います。」
「他の道?」
「ええ、たとえば災害救助など・・・・エヴァは第三新東京を離れられませんからそんなこと出来ません・・・・しかしJAなら・・・・」
「・・・・・なるほど・・・・・・たしかにJAは遠くに輸送されても問題ない」
「そうです、しかも原子炉搭載なだけにパイプラインの切れた場所にも電力を供給できるしパイロットを換えればずっと動き続けていられる・・」
「・・・・兵器としてではない道を探せと?」

シンジはYESともNOとも答えない。
それを判断するのはシンジではないからだ。

「それは時田さんの自由・・・・でも何かを守ったりすることは時間がかかりますが壊す事は一瞬で済むし簡単ですよ・・・」
「・・・・・君はやさしく厳しいのだな・・・・」
「さて・・・そろそろ時間では?」
「ああ・・・・・そうらしい・・・・」

時田は空き缶を捨てて歩き出した。
ここに現れた時と比べて表情が少しだけ晴れやかになっていると感じるのは気のせいだろうか?

「・・・・・・・・君と話せてよかった。」
「そうですか」
「ああ、それともうひとつ・・・」
「え?」

時田の顔に子供のような笑みが浮かんだ。

「JAを作ったのは私の趣味の部分もある。スーパーロボットはいいね〜日本人の作り出したアニメーションのきわみだよ。」
「は・・・?」

シンジはどう答えたらいいのか分からなかった。
時田は言いたいことだけ言うと振り返りもせずに歩いていく。
なんとなく思ったのは「時田はリツコと同じタイプの人種じゃないか?」と言うことだった。
本人達が聞いたらどういうか知らないが・・・

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トーチカ状の建物・・・・・・JA管制室

時田の号令の下JAの起動準備が進んでいる。
やがてモニターに映る建物が二つに割れ不恰好な人形のロボットが出てきた。
名前をジェット・アーロンと言うそれは背中の部分から棒状のものを伸ばし歩き出す。

異変は直後・・・

「制御不能です!」

管制員の声を聞いたシンジは隣のリツコを見る。
・・・・・薄く笑っていた。

(・・・またか・・・)
(シンジ君、しかたない。さすがにあんなものを戦場に持ち込ませるわけにはいかないからね・・・)
(そうなんですけれど・・・)

シンジは視線を戻した先に時田を見た。

「リアクターを停止しろ! すぐにだ!」
「駄目です! 停止信号も受信されず! 完全に制御不能です!」

モニターの中のJAがどんどん大きくなってきてその足が天井を突き破って現れた。

ズガガガガガガガガガガガガッ

気がつけば天井は足の形に切り取られ青空がのぞいている。
床は瓦礫で足の踏み場もない。

「ミサトさん、リツコさん大丈夫ですか!?」

シンジの言葉に瓦礫を掻き分けて二人が現れる。
どうやら怪我などはしていないみたいだ。

「持ち主と同じで、礼儀知らずね」
「全くだわ」

二人は不満を言い合いながら服のほこりを払う。
とりあえず大丈夫らしい。

「さて……グズグズしてらんないわね」

ミサトが時田達のところに一歩踏み出す。
だがシンジがその手を掴んで止めた。

「え・シンちゃん?」
「ミサトさん・・・何するつもりですか?」
「そりゃ決まってるじゃないの、あれが止まらなかったらこのあたり一帯が核で汚染されるわ・・・・・最悪の場合中に入って緊急停止装置を作動させる必要があるかもしんない・・・・・」

シンジは心底とめておいてよかったと安堵した。
隣にいたリツコの手も掴み、問答無用で壁際に連れて行く。

「ちょっとシンちゃ〜ん」
「シ、シンジ君?」

壁際にたどり着いたシンジは誰も聞いてないことを確認するとリツコを正面から見る。
なにか後ろめたいことでもあるのかリツコは視線をそらした。

「リツコさん?」
「なにかしら?」
「これはリツコさんの仕業ですね?」

シンジの言葉にリツコが反応する擬音をつけるなら″ギクッ”だ。
長い付き合いのミサトもリツコの変化に気がつく。

「本当なのリツコ?」
「・・・・・・なぜそんなことを言うのシンジ君?」

リツコはミサトを無視してシンジに話しかける。
それを見たシンジはため息をついた。

「リツコさん全然あせってないし、前に言ったでしょう?リツコさんは嘘つきに向いてないって・・・・リツコさん見てればなんとなくわかります。」

シンジの言葉に思わず赤面してしまった。

「でもこの陰険さはリツコさんじゃなく司令の発案ですね?」

もはやばればれである。

「大体はシンジ君の予想どうりよ・・・・軽蔑する?」
     
リツコは恐る恐る聞いた。
自分でもシンジに嫌われるのを恐れている事がわかる・・・・・・まるで恋人に嫌われるのを恐れているようだ。

「・・・・今回は仕方ないでしょ?さすがにあんなもの戦場に放り込まれたら・・・ぼくでも同じ事したでしょうね・・・・あのやくざと同じって言うのが気に入りませんけれど・・・」
「・・・・・やくざって・・・・司令?」

ミサトが噴出しそうになるが周りの目を気にして笑いをかみ殺す。
ミサトの言葉を無視したシンジは再度リツコに話しかける。

「・・・それで・・・止まるんでしょうね?」
「・・・・・・保障するわ、あと1時間ちょっとってとこかしら?」

それを聞いたシンジは安堵して壁に寄りかかる。

「とりあえず状況を見ましょう」
「・・・・・そうね」
「まッそれっきゃないか」

三人は壁に寄りかかり管制室の喧騒を眺めていた。
時田達には悪いがこれで間違ってもJAを使徒戦に使おうとは思うまい。
シンジが一番危惧していたのは戦自あたりが無理やり徴収して使徒の目の前に放り込む事だ。
時田にはああ言ったがスペックを見れば腕力に関してはエヴァといい勝負だろう。
それゆえに勘違いする可能性は否定できなかった。

周りを見渡すと時田達が必死でJAを止めようとしている。
彼らには悪いが必死で自分たちの作ったものの責任を取ろうとする姿は尊敬に値するものだと思う。

「そうだ、リツコさん」
「なに?」
「この件が終わったら時田さんはくびですよね?」
「・・・たぶんね・・・なんで?」
「再就職先を紹介してあげてくれませんか?」
「「は?」」

ミサトとリツコが心底意外そうな顔をする。
シンジも意外すぎる事を言っている自覚はあるので苦笑するしかない。

「・・・意外な事言うわね」
「あの人・・・・根は悪い人じゃないみたいなんで・・・・」
「心配しなくていいわ、彼の会社はうちに編入されると思うから」
「え?そうなのリツコ?」

ミサトが驚きの声で聞き返した。
目を丸くしている。

「ええ、この一件で株価が下がったところを買い占めるつもり、彼らの技術はこのままにしとくのはもったいないのよ。」
「・・・・・・ちょっちひどくない?」
「いえ、ミサトさん・・・・・これがベストじゃないでしょうか・・・・・・ん?あれか?」

シンジは黒いスーツ姿の女性が管制室を出て行くのが見えた。
同時にシンジの表情が左右非対称の笑みに変わる。

「すいません・・・・ちょっと出てくる。」
「シンちゃんどこに行くの?」
「トイレだよ、ついてくるかい?」
「・・・・・・はやくね・・・・」
「わかった。」

シンジと入れ替わったブギーポップはSPALDINGのスポーツバックをもって管制室を出て行った。

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資材置き場・・・・・・・
JAのパーツや機材をのコンテナ置いているその部屋は現在無人・・・・・・
当然だがJAが暴走している今ここに来る必要などない・・・・それどころではない。

だがそこにひとつの影があった。
シルエットは筒のように細長く、色は黒・・・・・・
胸のところに対極図のバッチをつけ、金属製の装飾品や白と黒の帯などのついたそいつは背後に現れた気配に振り向く。

「やあ、待っていたよ?」

相手は答えない。

「ひさしぶりだね・・・・・・」

沈黙が場を支配するがブギーポップはかまわず話し続けた。
表情は片方の瞳を細めるような左右非対称の表情で・・・・・

「・・・・・・・・炎の魔女」






To be continued...

(2007.06.16 初版)
(2007.06.23 改訂一版)
(2007.09.22 改訂二版)


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