「本当に来るんですか?」
「もちろん、私に二言は無いわ。」

葛城邸の居間ではこの家の住人である二人の女性と通い主夫のシンジが食卓を囲んでいた。
しかしいつもとは違って神事が軽く緊張している。

「別に来なくてもいいんじゃないですか?」
「そういうわけにもいかないわよ?あんたたちの人生にかかわる事なんだから」
「だからって仕事を休んでまで・・・」

シンジの言葉にミサトがじと目になる。

「なんか知られたくない事でもあんの?」
「そういうわけじゃ・・・」
「今日はシンジ君とレイの二人分だからはりきるわよ〜〜レイも期待していてねん」
「?・・・・はい」

ミサトがハイテンションに宣言する。
シンジがため息をついてテーブルを見ると一枚のプリントが置いてあった。
一番上にでかでかと

【三者面談のお知らせ】

と書いてある
・・・・・何を張り切るのか不安だ。






天使と死神と福音と

第肆章 外伝 〔それぞれの道行き〕

presented by 睦月様







「なあシンジ?今日はミサトさんも来るんやろ?」

シンジ、レイ、トウジ、ケンスケの4人が集団で道を歩いている。
いつもどおりのメンバーによるいつも通りの通学風景・・・・・・その途中でトウジが不意にそんなことを聞いてきた。

「え?うん、一応ミサトさんがぼくとレイの保護者だからね、今日はミサトさんは二人分の面談だよ」

シンジの言葉にトウジとケンスケの表情が変わる。
浮かんできた感情は喜び。
ひどく解かりやすい二人だ。
トウジに変わってケンスケがシンジに話しかけてきた。

「にしてもすごいよな〜〜あの若さで作戦部部長、しかも中学生二人の面倒も見てるなんて〜尊敬するよな〜〜」

シンジは激しく否定したかったが何とか思いとどまる。
本性を知らないと言う事は時として幸せな事だ。

少なくとも料理の腕が殺人的で掃除能力も無いに等しい、さらに今では生活のほとんどを中学生に依存すると言うのは面倒を見る範疇に入ってはいないだろうと思う。
むしろミサトの保護者がシンジだ。

「・・・そういえばレイはどうなの?」
「なにが?」

シンジの横を歩いていたレイがシンジを不思議そうに見かえしてきた。

「進路の希望、何かやりたいこと無い?」
「・・・・・ないわ」
「え?そう、でもレイなら秘書とか似合いそうだけれど?」
「秘書?」
「うん、スーツとか似合いそうだし・・・」
「・・・・そう?」

大人に成長したレイにはきりっとした制服やスーツが似合いそうだ。
クールな印象のキャリアウーマン、公務員などもいいかもしれない。
制服など硬い感じの服を颯爽と着こなしそうに思える。

「そうやな〜、綾波はなんかそんな感じやわ、メガネとか似合いそうやし・・・」
「だよな〜〜、あとモデルとかどうだ?はっきりいって絵になるぞ?」

実際ケンスケがレイの写真で稼いでいるのを知っているシンジは苦笑するしかない。
ケンスケの言葉は実体験から来るものだろう。

「でももっとぴったりの仕事があるじゃないか?」
「ん?・・・・・ああ、そうやな」

いきなり二人してシンジとレイを見ながらニヤニヤ笑い始めた。
シンジはなにかいやな予感がした。
その目の前でケンスケがレイに話しかける。

「な〜〜〜綾波、シンジと一緒にいたいか?」
「シンジ君と?・・・ええ・・・」
「そうか・・・ならぴったりの仕事があるんだが・・・」
「?・・・なに?」
「・・・ちょっと待てケンスケ」

シンジは次の言葉が予想できたのでケンスケを黙らせるべく動いた。
しかしケンスケとの間に肉の壁(トウジ)が立ちはだかり、ブロックされてしまう。

「シンジのお嫁さんになればいいんじやないか?二人ともお似合いだし・・」
「ケンスケ!」
「シンジ君?」
「え?」

シンジが見るとレイがこっちを見ている。
何か真剣なオーラを放っていた。

「私・・・お嫁さんに向いている?」
「は?え?ああ、そうだね、レイは案外主婦とか似合うかもしれないね。」

次の瞬間、シンジたちは見た。
レイが恥ずかしそうに照れて真っ赤になっているのを・・・・
いままで冷たい印象だったレイがシンジの存在で徐々に明るくなっているのはトウジもケンスケも感じていたがさすがにこの反応は予想外だった。

今のレイはまさに恋する乙女そのもの・・・・
ケンスケはこのときボーゼンとしてカメラの存在を忘れたことを後々まで後悔する。

「・・・・何を言うのよ」

止まった時が動き出したのは学校からチャイムが聞こえたからだった。
結果・・・・・・4人とも遅刻・・・・

---------------------------------------------------------------

昼休み

シンジたちはいつものメンバーでいつものように屋上で食事を取っていた。

「そういえば委員長は進路決めた?」
「え?私?」
「委員長の成績なら結構上の学校狙えるんじゃないの?」
「そ、それは〜〜〜」

ヒカリがちらちらトウジを見るが本人は「飯や飯や、これが学校で一番の楽しみなんや」との言葉どおり幸せそうに妹のナツキちゃんのお手製弁当を消費している。
その光景にシンジとケンスケが深いため息を吐いた。

「トウジはどうするんだ?」
「ん?わいか?そうやな・・・わいはあんまり勉強は得意や無いさかい悩んどるんや」

そう言いながら箸は止まらない・・・本当に悩んでいるのか疑わしいかぎりだ。
あるいは悩みと飯は入るところが違うのだろうか?

ドルルルル!!

「「「ん?」」」
「「こ、この音は!!」」

シンジ達の耳に聞きなれたエンジンが届いた。
トウジとケンスケが屋上の端まで走っていって駐車場を見下ろすとやはりミサトのルノーだ。

「ミサトさ〜〜ん」
「ミサトはん、こっちむいてくださ〜〜い」

声に反応したミサトが声の方向を見上げてトウジ達を確認するとVサインで答えた。
そんなミサトにトウジとケンスケもVサインで返す。

ちなみに屋上には他の生徒も食事している・・・つまり二人は珍獣扱いで見られていたりするのだがまったく気づいちゃいね〜〜〜〜

「レイ?お弁当おいしい?」
「ええ、シンジ君のお弁当はいつもおいしい。」
「碇君相変わらず上手ね、レシピ教えてくれない?」
「いいよ、これはね・・・・・・」

シンジ達はかまわず食事を続けた。
薄情と言う無かれ・・・・・・あの二匹のサルと同レベルに見られるのはいやだ。

---------------------------------------------------------------

ケース 1
相田ケンスケの場合・・・・・保護者、父親=相田ケンイチ


「相田君は特に秀でた所も悪い所もありませんね・・・上の高校を目指すなら少し勉強をがんばらないと・・・」
「先生」
「なんですか?」
「将来戦場カメラマンか戦略自衛隊員になりたいんですが?」

ケンスケが興奮して身を乗り出すのをケンイチが冷静にとめて椅子に引きづり戻した。
ついでに脳天に拳骨を一発落として静かにさせる。
大分息子の扱いに慣れているらしい。

「え〜〜カメラマンの専門学校の資料はありませんが・・・とりあえず戦自は中学卒業者は募集していません。」
「う、そ・・・そうですか」
「戦自を目指すなら高校は出ておきましょう。それと体力も必要です。」

ケンスケの体育の成績表を出して念を押す。
そして担任の老教師はケンイチに向き直った。

「親御さんもそれでいいですか?」
「この馬鹿は言って聞くような性格してませんから」

ケンイチの苦笑する横でケンスケがいじけていたが完全にスルーされた。

---------------------------------------------------------------

ケース 2
綾波レイの場合・・・・・保護者、同居人=葛城ミサト


「綾波さんは成績に関して言う事は無いですね、かなり上の高校も狙えます。」
「やったじゃないレイ、どこか希望はある?」
「・・・・わかりません・・・・」

ミサトも老教師も困った顔になる。
当の本人にまったく希望がないというのは一番困る。
本人に明確な希望が無いからと言って自分たちが勝手に決めてしまうわけには行かないのだ。

「レイ?何かしたいことは無い?それとかなりたいものとか?」

レイはしばらく考えた。
思い出されるのは今朝の会話・・・レイの顔色が変わった。
ミサトはいきなりレイが顔を赤くしたのを見て驚く。

「・・・・・・教えてほしいことがあります。」
「なにかね?」

次の言葉は老教師にとって長い教師生活でも初めての質問だった。

「結婚するにはどうしたらいいですか?」

時が止まる。
ミサトも止まる。
老教師も止まる

「・・・え?・・・ああ結婚ですね?とりあえずあと一年で結婚は出来ますよ」

まじめに答える老教師は思考がどこかに飛んでるらしい。
レイは真剣な顔でそれを聞いていた。

「レイ、なんで?」
「朝・・・シンジ君が主婦が似合うって・・・・」
「シンジ君?・・・・・・ほお〜〜〜〜」

ミサトの顔におもちゃを見つけた子供独特の笑みが浮かぶ

---------------------------------------------------------------

ケース 3
碇シンジの場合・・・・・・・・保護者、お隣さん=葛城ミサト


「碇君は成績的には真ん中より少し上と言ったところですね、希望する高校はありますか?」
「いえ、まだ決まってはいません。ただ進学はすると思います。でも将来の事とか言われるとぴんとこなくって・・・・」
「そうですか・・・・」

老教師はシンジの成績表に目を落とすといくつかのアドバイスをする。
シンジは教師の言葉に集中していたため気づかなかった。
横に座っているミサトの笑いを・・・そして気づかなかった・・・彼女がずっと爆弾を落とすタイミングを狙っていたことに・・・

「でも早く決めないと高校卒業まで時間もないし」
「?・・・どういう意味なんですか?」
「だって・・・・おっとこのこは18歳で結婚できるのよ〜〜し〜〜らなかった〜〜〜?」

シンジは音がしそうな動作でミサトを見る。
何が言いたいのか分からないが黙らせたほうがいいと直感がつげている。

「・・・・・何の話ですか?」
「だって〜〜シンちゃん今朝レイに主婦がにあうっていったんでしょ〜〜?これはもう告白と一緒よね〜〜」
「ちょっと待ったミサトさん!!」
「「レイ、君には主婦が似合う・・・・」「シンジ君・・・」「ぼくの味噌汁を飲んでくれ、レイ」な〜〜んちゃってシンちゃんもやっぱりおっとこの子よね〜〜油断もすきもありゃしない!!!」
「いいから!その脳内妄想を垂れ流すのやめてください!!」
「・・・・・・シンジ君」

いきなり真顔になったミサトの眼力にシンジがたじろぐ

「・・・・・・レイの事・・・嫌い?」
「そ、そんな・・・こと・・・ありません」
「そう・・・・じゃあ好きなのね?」
「そりゃ好きですけれど・・・結婚とかそんなことは・・・・」
「そう・・・・私のことは・・・・好き?」

ミサトはまじめな顔で聞いてくる。
冗談に見えないだけに逆に怖い。

「・・・もちろん・・・ミサトさんも・・・好きですよ」
「そう・・・そっか!私もまだまだ捨てたもんじゃないわね〜〜〜〜!!」
「・・・・・・・・え?」

途中からミサトの口調が真剣なものからいつもの陽気なものへと変わった。
どうやら今までからかってたらしい・・・・・

「ミサトさん・・・・」

シンジの顔に危険な笑みが浮かぶ。
それを見たミサトは自分がすでにデンジャーゾーンの真っ只中にいることにやっと気がついた。
シンジの笑みを真正面から見たミサトは冷や汗が止まらない。
顔も引きつっている。

・・・・・・一週間のビール抜きが決定した。

---------------------------------------------------------------

ケース4
鈴原トウジの場合・・・・・・・・・・保護者、父親=鈴原ハルキ


「鈴原君は・・・・もう少し勉強に力を入れてもらわないと・・・・」
「は、は〜〜〜〜あ」

ハルキが申し訳なさそうに頭を下げる。
隣に並んでいるトウジもさすがにばつが悪いらしく恐縮していた。

「鈴原君は体育などは得意のようですが部活動などはしていませんし、何か希望はあるのかね?」

老教師はトウジに聞いた。
トウジの意思を無視して話を進めることは出来ない。
これはトウジの将来、ひいては人生に関わることだ。

「はい・・・わいはあんまり勉強とか得意や無いですし・・・就職や専門学校のほうがいいんやないかと・・・」
「あほ!!」

ハルキの鉄拳がトウジの頭に落ちた。
食らったトウジが涙目になる。

「何するんやおとん!!」
「あほ、何ゆうとるんや!!」
「せやけれどまだナツキもおるし・・・・」
「そんなこと気にするんや無い、別に友達を作るためでもええんや、卒業してからじゃもう学生にはなれん・・・・・」
「・・・おとん」
「・・・と言うわけで先生、この愚息のことお願いします。お前も頭下げえ!!」

ハルキはトウジの頭を抑えて自分も頭を下げた。

「こちらこそ・・・出来るだけの事をさせてもらいます。」

老教師は微笑んで答えた。

---------------------------------------------------------------

ケース5
洞木ヒカリの場合・・・・・・・・・保護者、父親 洞木コウ


「洞木さんは順調に成績を収めていますね、この分だと第二東京の有名高校も狙えますが・・・・」
「いえ、地元の高校を受験しようと思います。第二東京だと通学は無理ですから」
「ヒカリ・・・いいのか?」
「ええ、私はそれでいいの、お父さんはお仕事でこの町を離れられないし、一人暮らしをするお金ももったいないでしょう?」

ヒカリはそう言うと老教師に向きなおった。
まったく躊躇や戸惑いが見られない・・・決心は固いようだ。

「あの・・・・先生ところで・・・・・」
「はい?・・・・ああ、彼も地元の高校を希望していますよ。」

その言葉にヒカリがほっと胸をなでおろす。
それを見た洞木コウの中ですべてが繋がる。

「・・・・なるほど・・・・そういうことだったのか・・・」
「お、お父さん違うのよ、そ、そういうことじゃないの、ほ、ほんとよ」
「そうなのか・・・それでその子の名前は?」
「だ、だから違うって言ってるのに〜〜〜」

コウは老教師に向き直った。
その顔は明らかに笑っている。

「それで先生?その子の名前は?場合によっては教育的指導をくれてやら無ければなりませんので。」
「お、お父さんやめて、先生も言わないでくださいお願いします。」
「そうですね〜一応これでも教育者なので私も参加していいですか?」
「せ、せんせ〜〜〜い」

親子のじゃれあいは際限なく続く・・・・・

---------------------------------------------------------------

老教師、利根川は今日の三者面談を思い出して笑いをこらえるのが大変だった。
例年にも増して今年は個性的な生徒が多い。

だからこそ今日話し合った進路が無駄にならない事を祈らずにいられない。
特にシンジとレイは戦場にいる・・・彼らが負ければサードインパクトがおこる。

利根川はセカンドインパクトの経験者だ。
ゆえにあの地獄のような時代の事を昨日の様に思い出すことが出来る。
定年退職後はこの記憶を語り継いでいく事が自分の役目だとすら思っていた。

だからこそ語るべき人たちのいるこの世界を存続させてほしい・・・・・彼らの未来と共に・・・外にはまだ帰宅しようとしている生徒の姿が見える。

どうか彼らに明るい未来を・・・・・・・・・






To be continued...


作者(睦月様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで