私の声が聞こえますか?

深く青い海の彼方から・・・・・・

私はあなたに問いかける

私の声が聞こえますか?

私は・・・今・・・・・・ここに・・・・・います

あなたは・・・・・・そこに・・・・いますか?

わたしは・・・・・・・・・あなたに・・・・・・・・・会いに・・・・・・・・行きます・・・・・・


これは少年と死神の物語






天使と死神と福音と

第伍章 〔神遠なる水の底から〕
T

presented by 睦月様







「みなさま〜、右手をご覧くださ〜い」

ミサトの言葉にシンジたちが右を向く。
見えるのは地平線の果てまで続く青い海と空

「うみでございま〜〜す」
「・・・・・ちょっとミサトさん」

シンジの声を無視してミサトは続ける。

「続いて左手をごらんくださ〜〜〜い」

一応向いてみるが見えるのはやはり青い海と空

「うみでございま〜〜〜す」
「・・・・・・あの〜〜ミサトさん?」
「続いて再び左手をごらんっくっだっさ〜〜い」

シンジは無言で立ち上がると首振り人形のように左右に動くミサトの頭を鷲掴みでとめた。
アイアンクローでがっしりと固定する。

「なにしてるんですか?」
「・・・暇だから〜〜なんちゃって添乗員、こんな美人の添乗員ほかにいないわよん」
「ほ〜〜〜〜〜〜う」

今シンジ達は太平洋上をヘリに乗って移動していた。
左右どころか360度海しか見えない。

「ミル55d輸送ヘリなんてこんなことでもなけりゃ、一生乗る機会なんてなかったよ、ほ〜んと持つべきものは友達って感じだよなぁ、シンジ!!」

背後でケンスケが興奮した声を出す。
彼にとって夢にまで見た状況らしい・・・瞳に光がある。

トリップしているケンスケをほうっておいてトウジがミサトに話しかけた。

「せやけどシンジはともかくなんでわいらまで?」
「毎日同じ山の中じゃ息苦しいと思ってね、たまの日曜だからデートに誘ったんじゃないのよん」
「ええっ!、ほんまにデートですかぁ!?、この帽子、今日この日のために買うたんです、ミサトさ〜ん」

シンジは知っている。
トウジの帽子は遊びに行くときに時々かぶってるものだ。
断じて今日のためのものじゃない。

(確か安物と言っていたな)

なんでシンジたちが太平洋の上にいるか・・・シンジは数時間前の事を思い出す。

「これから遊びに行くの?」
「? はい、トウジたちと一緒に」
「そう、ねシンちゃんちょっと付き合わない?」
「はい? どこに? なにをしに?」
「大きなお船でクルージング」
「・・・・・・・・・はあ?」

その後ミサトの話を聞いたトウジたちが乗らないわけが無く。
シンジも特に予定を決めていたわけじゃないのでミサトについて海の上

「回想終了・・・ところでこれから弐号機の受け取りに行くんですよね?」
「そ〜〜よ〜〜ん!」
「・・・・・・どういうテンションなのかは置いておいて,なんでぼくまで?初号機も無いのに?」

実際問題としてシンジはエヴァが無くてもそれなりの戦闘力がある。
それに加えてブギーポップまでいるのだ。
シンジ達がその気になれば合成人間でもつれてこないかぎり足止めすら出来ないだろう。

しかしその事実を知る者はここにはいない。
【パイロットしてのシンジ】はあくまで初号機が無ければ無力な存在だ。

「パイロット同士の交流は大事よ、それにこれは司令じきじきに言ってくれた事なの。」
「・・・・・・なんて言ったんですか?」
「「パイロットの顔合わせもかねて電源ソケットを持っていくように」だって,結構いいところあるのかもね〜〜司令も」
「・・・・・・・・・・・・・・・電源ソケットまで?」

激烈にいやな予感がした。
ゲンドウが関わっている時点でかなり危ない。
あの男が率先して動いたことでろくなことが無いのは経験上知っている。

(胡散臭い話だ。あの人がそんな殊勝な事 メリットも無しに言うはず無い・・・・・しかも電源ソケット?)
(同感だね、赤木博士がいれば起動実験も考えられるが、ありえるのは使徒の襲来かな?)
(たぶん、電源ソケットの輸送なんて海上でエヴァを起動させるためのものとしか思えません・・・・・・でもなんで使徒が現れるのがわかる?)
(そうだね、かれらは何らかの方法で使徒が出現する時期が特定できるらしい。そういう”ふし”が今までいくつもあった。)
(そうですね・・・でもなぜ第三じゃなくこっちに来る事まで?)
(それはわからないが・・・・・・・それにしても海上か、エヴァは海の上で戦闘ができるのかな?)
(・・・・・・・・・・無理でしょうね、海の中に落ちたらアウトです。)

シンジは窓から見える海を見ながらこれからのことを考えた。
おそらく使徒は海中か上空のいずれかから現れるのだろう。
勘と状況証拠からの推測だが疑いの余地はない。

(しかしエヴァのないぼくに何させるつもりだ?)
(弐号機は実戦の経験が無い、しかし君と葛城さんは3回の使徒戦をクリアーした実績がある。)
(なるほど、ぼくたちが現場にいることで少しでも勝率を上げるつもりか・・・・・・・)
(使徒殲滅はネルフの仕事らしいからね・・・ほっとくわけにもいかないんだろうさ・・・・・・)

窓の外をじっと見て物思いに沈んでいたシンジにミサトが声をかけて来た。

「シンちゃん? 酔った?」
「え? いいえ違いますよ、ところで聞きたいことがあるんですけれど?」
「?、なにかしら?」
「これから向かう先には弐号機のパイロットがいるんですよね?」
「ええ、気になる?」
「一応は、これから一緒に戦うんですから・・・・・」

ミサトのニンマリとした笑いにシンジは少し引いた。
何か勘違いしているらしい。

「期待していいわよん、シンジ君と同い年でとってもきれいな女の子だから。」
「は?・・・・・・はあ・・・」

その時ケンスケのメガネとカメラのレンズが光ったのをシンジは見逃さない。
内心「売れるかも?」と思っているのだろう。
こういう事が分かるのも付き合いが長くなって来た証拠だ。

やがて窓から見える景色に変化があった。
水平線に現れた小さな影が徐々に大きくなっていく。

「おおっ!、空母が五、戦艦四、大艦隊だっ!!まさに持つべきものは友達だよなっ!!」

ケンスケが感無量な声で叫ぶ。
どうやらかなりすごいことらしいがシンジ達には良く分からない。

「まさにゴージャス!!さすが国連軍が誇る正規空母オーバー・ザ・レインボー!!!」
「よくこんな老朽艦が浮いていられるものね〜」
「いやいや〜、セカンドインパクト前のビンテージ物じゃないですか?」

シンジは眼下の景色をなんとなく見下ろしていたが・・・

(シンジ君!!)
(な!!なんですか、いきなり!?)
(この船・・・・・・とんでもないものを運んでいるようだ。)
(とんでもないもの?)
(使徒だ。しかもただの使徒じゃない、おそらく・・・ネルフの言っていたアダム・・・その本物・・・・・)
(っつ!!)

思わずシンジは窓に張り付くようにして眼下の空母を見下ろした。

(エヴァじゃないんですか!?)
(いや・・・同じ気配がもうひとつある・・・この船のものより小さい気配だからこっちがエヴァの弐号機だろう。)
(・・・・・・そういうことか・・・やってくれる。)
(おそらく弐号機はアダムの護衛だね)

シンジはあらためてオーバー・ザ・レインボーを見る。
この船の住人たちは知らないだろう・・・最悪の場合この船がサードインパクトの中心地になるなんて・・・・・

このときシンジ達は気がつかなかったがオーバー・ザ・レインボーからヘリを見上げる青い視線があった。

「・・・・・・来たわね」

---------------------------------------------------------------

程なく着艦したヘリから真っ先に降りたのはもちろんケンスケ、ビデオをまわしながら周囲を撮影している。

「おおっ!!凄いっ!!凄いっ!!凄すぎるっ!!男なら涙を流すべき状況だねっ!!これはっ!!」

奇声を発しながら徘徊するさまはまさに不振人物・・・・・・遠目に見る海兵隊員の人たちが笑っているが本人は気づいていない。

「ああっ!!待てっ!!!待たんかいっ!!」

トウジは降りた瞬間に風で飛ばされた帽子と追いかけっこをしていた。
これもまた注目の的である。

そんな二人を苦笑と共に見ながらミサトは滑走路に降り立った。
続いてシンジがスポーツバックを持って降りてくる。

「どうかしたのシンちゃん?表情が硬いわよ?」

ミサトはシンジの様子がおかしいのに気づいた。
じっと黙って緊張しているように見える。

「・・・いえ・・・別に・・・・・・」
「そう?ところでそのスポーツバック、最近いつも持ち歩いているのね?」
「ええ、大事なものが入っていますから・・・・・・・・」
「そうなの?」

ミサトはそれ以上追求しなかった。
シンジはミサトの相手をしながら自然な動作で周囲を見回す。

(どっちですか?)
(・・・右だね)
(どうします?)
(・・・考えがある・・・・・・途中で抜け出してくれ)
(了解)

シンジはブギーポップの示した方向を厳しい目で見つめていた。

「ヘロ〜、ミサト!!元気してた?」

不意に上がった声に視線が集中する。
その先には赤い髪と青い瞳の少女がいた。
彼女はレモンイエローのワンピースを着て仁王立ちしている。

なぜかその足元にふんずけられた帽子を取ろうと躍起になっているトウジがいるが少女の眼中に無いらしい・・・きっぱりと無視している。

少女を見たミサトの顔がなつかしさでほころぶ

「ま〜ね〜、あなたも背が伸びたんじゃない?」
「そっ!!他の所もちゃぁ〜んと女らしくなってるわよ?」

相変わらずの少女の対応にミサトの笑みがさらに深くなった。
かなり親密な付き合いらしい。

ミサトはシンジ達に振り返って少女を紹介する。

「紹介するわ。エヴァンゲリオン弐号機の専属パイロット、セカンドチルドレン。惣流・アスカ・ラングレーよ」

ミサトの紹介とともに強い潮風が吹いてアスカのスカートがめくれる。

パンッ     パンッ

次の瞬間、アスカは目の前の二人をひっぱたいていた。

「何するんや!?」
「見物料よ、安いもんでしょう!?」

アスカは真っ赤になってトウジの文句に叫び返す。
さすがに恥ずかしかったらしい。

「ん?あいつ・・・」

アスカはわれ関せずと言う風に関係ないほうを向いているシンジに気がついた。
シンジは相変わらず同じ方向に視線を向けていたためアスカの存在に気づいてさえいない。

(な、なによこいつ・・・・・・)

アスカは自分が無視されたような気になり、シンジもひっぱたく事に決めた。
傍目にはかなり理不尽な話だ。
シンジに早足で近づいて手を振りかぶる。

「え?」

シンジをひっぱたこうとした瞬間、シンジの姿が消えた。
次に足を払われた感覚があり、アスカは宙に浮く。

「え?あっ、しまった」

我に返ったシンジは無意識に自分が地を這うような体勢で目の前の少女の足を払った事に気づいた。
このままでは彼女は背中から地面に激突する。

シンジはあわてて目の前の少女を抱きとめた。

「・・・・・・・え?」

アスカは呆けたような表情でシンジに抱かれている。
気がつけばお姫様抱っこという状況だ。
目の前にシンジの顔がある。

「ごめんね、考え事してて・・・ほんとごめん」

シンジは腕の中の少女に精一杯の誠意で謝った。
それを見たアスカの顔が赤くなる。

(な・・・・なんなのよこいつ・・・・・・・)

シンジの視界にあわてたミサトが駆けつけてくるのが見えた。

「ちょっと シンちゃん、大丈夫?」
「ええ、何とか大丈夫です。すいません考え事していたもので・・・」
「そうだったの?でも今のはアスカが悪いわよ?」
「う・・・・・わ、わかってるわよ」

アスカは真っ赤になりながら答えた。
さすがに自分でも理不尽だと思ったのだろう。
ミサトはひとつうなづくといまだアスカを抱き上げているシンジに説明を始めた。

「シンジ君?あらためて彼女がエヴァンゲリオン弐号機の専属パイロット、セカンドチルドレン。惣流・アスカ・ラングレーよ。」
「この子が・・・」

シンジは腕の中の少女に笑いかけた。

「はじめまして、え〜〜と惣流さん?ぼくがエヴァ初号機の専属パイロットの碇シンジです。よろしく」

シンジは言葉とともに最高の笑顔を送った。
それを見たアスカの顔がさらに真っ赤になる。
もはやその赤さはリンゴに近い。
赤い髪とあわせて顔そのものが赤くなっている。

(((またやったか・・・・・)))

ミサト、トウジ、ケンスケの心の声が重なる。
すでに説明の必要は無いと思うがシンジは母親譲りの中性的な顔立ちと意志の強さ、さらに中学生とは思えないほどの聡明さがある。
そしてこの少年の魅力がもっとも発揮される瞬間・・・・それは笑顔のときだ。
その破壊力はすさまじく、それをとったケンスケの写真は売り切れごめんの状態、焼き増しの予約まで入る始末
その笑顔を至近距離で見たアスカは・・・

(う・・・・・・・い、いったいなんなのよ〜〜〜)

もはや思考が回っていなかった。
ゆえに次の行動はアスカにとって無意識の一撃

「うわっ」

お姫様抱っことは男の両腕を使って女性を抱き上げるという行為だ。
両腕を女性の下に入れて支える事になる。
当然、両腕はふさがっているし女性に密着しているわけが、この状態で腕の中の女性がはずかしがってアッパーを放った場合どうなるかというと・・・

シンジは真下から突き上げてきた拳に避ける事も出来ず自分の頭上の青空を見ることになった。
それでも踏ん張ってアスカを落とさなかったのは賞賛に値するだろう。

「ち、ちょおっとアスカ?あんたなにしてんのよ?」
「い、いつまでもあたしを離さないこいつが悪いのよ、このスケベ」
「ちょっとまてや」

いつの間にか復活していたトウジが怒鳴った。

「さっきからきいとりゃいいたいほうだい・・・・・何様のつもりや!?」
「なによ、あたしの見たんだから見物料払うのは当然、安いもんでしょ?」
「なんやてぇ!、そんなもん、こっちも見せたるわい」

そう言ってトウジはズボンに手をかけた。
しかし勢いあまって余計なものまでずりおろす。
パンツごとズボンを引き摺り下ろしてしまった。

それを見たアスカの表情が点になり、次に真っ赤になった。
さっきまでと違って・・・赤鬼のような形相だ。

ミサトは面白いもの見たと言う表情になる。
シンジとケンスケはいやなものを見たと顔をしかめた。

シンジの腕の中から飛び降りたアスカは神速の勢いでトウジと距離を詰めると右手を振りかぶり、その勢いのままトウジの顔面を打ち下ろす・・・パーではなくグーで・・・さらに角度的にも水平ではなく斜め下に向かって申し分の無い一撃だ。

「バカ!!変態!!!しんじらんない!!!!」

さすがに今のはトウジが悪かったのでシンジたちもフォローのしようが無い。
唯一の救いはここが空母だった事だろう。
遠くで海兵隊の笑う声が聞こえるが・・・これだけですんでよかった。

もしここが街中ならトウジは問答無用でつかまるだろう。

中学生で前科ありなど洒落にならん。
しかも罪状が・・・ストリーキング(猥褻物陳列罪)などとは・・・

ちなみにアスカはまだ叫んでいるがトウジは聞いていない。
なぜならば・・・・・・アスカの一撃ですでに気絶していたのだ。
・・・ズボンをずり下ろした状態で・・・しかし、神は彼を見捨ててはいなかった。

トウジは前のめりに倒れている。
もし反対だったなら・・・一歩間違えば少年の人生は取り返しのつかないものになっていただろう・・・・・・・

・・・くどいようだが・・・・・・アスカはまだ叫んでいた。

シンジはそんな地獄絵図を引きつりながら見ていた。
周りの海兵隊の視線も痛い。
シンジはまじめにこの状況をキャンセルできないかと思った・・・さすがにそんな無茶なことは出来ないが願わずにはいられない
そんなシンジにミサトが話しかけてきた。

「シンジ君?」
「・・・いやな予感がするので拒否っていいですか?」
「彼女・・・日本に知り合いがいないの・・・」
「・・・・・・・・見事な無視っぷりですね」
「だから、友達になってくれるとおね〜〜〜さんウレシ〜〜〜ナ〜〜〜」

ミサトの言葉に深いため息をつく
目の前の光景は変わらない
まだアスカは何かわめいている。
さらにアスカの足元で撃沈しているトウジは放置プレイ中だ。

「別にかまいませんけれどね・・・・・・・・・」
「? なに?」
「・・・厄介すぎて手に負えなさそうだからって・・・・・・押し付けてませんよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ソンナワケナイワヨ・・・」
「・・・・・・・・・・・マジなんですね?」

シンジは空を見上げた。
ぬけるように青い空・・・おしい・・・
夕日ならこの収拾つかない状況を放り投げて青春ドラマのごとく駆け出せたのに・・・「太陽のばかやろー」とか叫んで・・・

シンジはしばらく現実逃避した後、 正面を向いた。
地獄絵図は何も変わらずそこにある・・・・・・

シンジはため息をひとつ吐いた
もはやこの場をどうにかしないと先に進まない。
覚悟を決めて一歩踏み出す。

その背中を祈るように手を組んで見送るのは・・・葛城ミサト29歳・・・この場での最年長・・・・・・
しかし・・・・・・・歳食ってりゃいいというものではないのだ。
そういうことにしといてあげよう。

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シンジ達から少し離れた場所に双眼鏡を構えた男がいた。
男は双眼鏡の中の光景に現在進行形で大爆笑中。
まさに不振人物を地で行く怪しさだ・・・・・・

「プッククククハハハハ・・・・・・・・・」

ちなみに今、アスカをとめようとしたところ。アスカがそれを嫌がった。
シンジが背後から脇に手を入れてとめようとしたが・・・お約束のように胸を触ってしまい・・・
次の瞬間、アスカの後頭部が背後でアスカを押さえていたシンジの頭におちたところだ。
かなり鈍い音が響く。

本来、後頭部は急所の一つである。
いい子だろうが悪い子だろうが真似しちゃいけない。

悶絶するアスカを額に手を当てながら介抱するシンジはよっぽど人が出来ているようだ。

「ククク・・・あれが本部の秘蔵っ子といわれる碇シンジ君か・・・」

男は双眼鏡から目を離すと無精ひげの生えた自分のあごを撫でる。

「・・・噂以上だな・・・・・・・あのアスカがね〜〜〜」

そういって男は笑った。
ただし、いままでの笑いと違いニヤリと擬音が付きそうな笑いで・・・

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「おやおや、海水浴にやってきたボーイスカウト引率のお姉さんかと思っていたが・・・それはどうやらこちらの勘違いだった様だな」
「ご理解頂けて幸いですわ。艦長」
「いやいや、私の方こそ久しぶりに子供達のお守りが出来て幸せだよ」
「この度はエヴァ弐号機の輸送援助ありがとうございます。こちらが非常用電源ソケットの仕様書です」

シンジの涙ぐましい努力により何とか事態の収拾に成功した一行はブリッジに通されていた。
シンジ達の目の前にはオーバー・ザ・レインボーの艦長がミサトから渡された書類に目を通しながら答えている。
ただ・・・書類にあったミサトの写真はだるさ100%でやる気なさそうだった。
ゲンドウの手紙に同封してあった悩殺写真といい、ろくな写真持っちゃいない。

「ふんっ!!大体、この海の上であの人形を動かす要請なんぞ聞いちゃおらんっ!!!」
「万一の事態に対する備えと理解して頂けますか?」
「その万一に備えて、我々太平洋艦隊が護衛しておる。いつから国連軍は宅配屋に転職したのかな?」
「某組織が結成された後だと記憶しておりますが?」

艦長と副艦長はミサトの言葉を皮肉る。
どうやら彼らもネルフに対していい印象を持っていないらしい。
JAのときといい本当に世界を守る気があるか疑問だ。

(なにむきになってんだか・・・・・・・)
(歳を取るとひがみっぽくなるもんさ。)
(ほ〜〜〜う、ちなみにブギーさんの歳は?)
(僕には歳を取ると言う概念は無いよ。)
(・・・・・・・・・女性の敵,決定ですね・・・・・・)

艦長はさらに話しつづける。
どうやら弐号機の輸送だけでこの数の艦隊と自分達が引っ張り出されたのが相当に気に入らないらしい。

「おもちゃ1つ運ぶのに大層な護衛だよ。太平洋艦隊勢揃いだからな」
「エヴァの重要度を考えると足りない位ですが・・・・・・では、この書類にサインを」
「まだだっ!!」

もはやこうなると子供のけんかと同じレベルの意地の張り合いだ。
論理的じゃない分収拾が難しい。
だが、この状況に一人だけ薄ら笑いを浮かべる人物がいた。

「・・・・・・・・何が楽しいんだ?」
「にぶいわね〜〜私と弐号機のためにわざわざ太平洋艦隊勢ぞろいなのよ?私たちの重要性がそれほど高いってことでしょう?期待されるのわからない?」
「・・・・・・・・そうかもね・・・・・」

シンジの問いかけに自信マンマンに答えるアスカを見て、シンジは弐号機すらもアダムの護衛のためにここにいる事を知ったらどんな反応をするのか気になった。

「エヴァ弐号機及び同操縦者はドイツの第三支部より本艦隊が預かっている!!君等の勝手は許さんっ!!!」
「では・・・いつ引き渡しを?」
「新横須賀に陸揚げしてからだっ!!海の上は我々の管轄っ!!!黙って従って貰おうっ!!!!」
「解りました・・・但し、有事の際は我々ネルフの指揮権が最優先である事をお忘れなく」

とりあえず話はついたらしい。
シンジは渋い顔をする。
さすがに使徒がここにくるからさっさと渡せとは言えないが・・・知っててもこの艦長なら渡さない可能性もある。

それが後々面倒なことにならなければいいが・・・

「相変わらず凛々しいなぁ〜」
「加持先ぱぁ〜い♪」
「どぉも」

アスカの浮かれた言葉に一同の視線が自分達の背後に集中した。
見ると長髪を後ろで一まとめにして不精ひげを生やした男が立っている。
アスカの言った加持先輩とやらだろう。

「加持君、君をブリッチに招待した覚えはないぞっ!!」
「それは失礼・・・よう、葛城ひさしぶりだな〜〜〜」

その言葉にミサトに視線が集まった。
ミサトはぼ〜〜〜ぜんと加持と呼ばれた男を指さしている。

「か、かかかかかか」
「そんな悪魔超人の笑いみたいな名前じゃないぞ!」
「か〜〜〜〜じ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!あんたなんでここにいる〜〜〜〜!!!!!!!!」

ミサトの大絶叫が響き、それを聞いた海兵隊員が片手に銃を構えて乗り込んでくる騒ぎとなり・・・ブリッチをおいだされた。

「・・・あんな連中達が世界を救うのか!?」
「・・・・・・時代が変わったのでしょう。議会もあのロボットに期待していると聞いています」
「あんなオモチャにか!?馬鹿共めっ!!!そんな金があるならこっちに回せば良いんだっ!!!!」

彼らの不安はもっともだと思う。

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「それで・・・・・・聞かせてもらいましょうか・・・・・」
「聞かせるも何も彼女の随伴さ、護衛もかねてるんでね。」
「ちっ・・・ぬかったわ・・・想定しておくべきことだったのに・・・」

ブリッチを追い出された"5人”は狭いエレベーターに押し込まれるような形で入っていた。
狭いためにアスカは加持に、トウジとケンスケはミサトに密着した体勢になっている・・・わざとのようなきもするが狭いエレベーターに無理やり積み込んだ結果だ。

ちなみに子供達3人の顔はにやけていた。

「それより彼はいいのかい?」
「シンジ君?そりゃー気になるけれど大丈夫しょ、あの子はしっかりしてるから」
「そうなのか?」
「ええ、時々こっちの事はすべて見透かしてわざわざ付き合ってるような印象を受けるほどよ」
「ほ〜〜〜う」

加持はさっき一目見ただけの少年の事を思い出した。
彼はこのエレベーターが狭いのを見て次ので行くから先に食堂に行っててくれと言って残ったのだ。

(まさか”荷物”に気づいたなんてこと・・・まさかな・・・)

せっかくの直感もさすがにシンジとの接点が無い状態では気づけなかった。
シンジがただの中学生ではないことに・・・・・・・

---------------------------------------------------------------

オーバー・ザ・レインボーのとある一室・・・
黒いマントを着た人物がいた。
彼の視線は目の前にある各部屋備えつきのテーブル・・・その上におかれたアタッシュケースに注がれている。

その顔はシンジ・・・・・・ブギーポップじゃないようだ。

この部屋は、今は加持が使っているのだがシンジはそんなこと知らない。
ただブギーポップの指示に従って進んできたところこの部屋に行き着いた。

後はシンジの【canceler】で部屋の鍵がかかっている状況をキャンセルして開けたのだ。

慎重に探した結果・・・・・ケースはベットの下に入っていた。
都合の悪い物をベットの下に隠すのは男の性かもしれない。

「さて・・・」

シンジは【canceler】を発動させるためにアタッシュケースに手を伸ばす。
シンジはこの能力を使うたびにある疑問に襲われる。

『一体この能力の本質はなんなのか?』

状況をキャンセルできるということはわかってもそれがどこから来る能力なのかまったくわからない。
携帯電話を使える人間が携帯の構造を知らないのと一緒で便利だから使っているのだ。

この能力がいつ発現したのか、まずシンジはそれがわからない。
大まかな時期に関しては予想できるが、何がトリガーになったのかはまったくの謎だ。
だからこの能力が何に起因してるのか見当もつかない。
あるとき自分の周囲に感じた違和感から気づくことになった。

シンジはこの能力を自覚した後、いろいろな方面からこの力の本質を見出そうとした。

結果としてこの能力には制限があることや明確なイメージが必要な事がわかった。
しかし本質はいまだに闇の中だ。

シンジはこの能力の本質は状況を削り取ることではないかと考えている。
それは世界に流れる理を一部とはいえ消し去る行為・・・まるで世界の敵のような力だ。

一度だけシンジはこの推論をブギーポップに話したことがある。

---------------------------------------------------------------

「・・・・・・なるほど・・・・・・・・面白い意見だ。」

鏡の中の自分が片方の目を細めた。

「世界を削り取る能力か・・・・・・・・・・一歩間違えば世界の敵になっていただろうね。」
「本人の目の前でdead or aliveですか?」

ブギーポップはシンジの視線を真正面から受けた。
表情はいつものように皮肉げだ。

「君が世界の敵になったとき・・・そのときは僕が君の目の前に立つかもしれない」

シンジと体を共有している今、そんなことは不可能だがブギーポップはなんでもないようなことのように言う。
しかし彼が言うのだから出来るのだろう。
ブギーポップが出来ないことは言わないのは良く知っている。

「ならぼくの命は死神の予約済みって事ですね」
「そうなるかもね」
「死神のお手つきなんて…もったいなくてほかの人に殺されるわけには生きませんね〜〜〜〜」
「……のんきなことを言う。」
「でもぼくは簡単に殺されてあげるほどお人よしじゃありませんよ?」
「・・・だろうね」

シンジの言葉にはよどみがなかった。
それはたとえブギーポップ相手でも簡単に殺される気はないという・・・ある意味での宣戦布告だ。

「フフフ・・・ああ、すまない・・・やはり君は強いんだな・・・」
「買い被りですよ」

二人はまったく同じ表情で苦笑した。

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「・・・あの時は若かったな・・・」

シンジは記憶の世界から帰還した
頭が痛い……………
どうもあの時すでにかなりブギーポップに毒されていたらしい……

「今はこっちか・・・」

シンジは気を取り直すと能力を発動した。
虚は実に・・・実は虚に・・・シンジの思いが世界を侵食する。
その思いは・・・この状況を拒絶する意思・・・

世界の理が一瞬消失し、新たなる流れに取り込まれる。
アタッシュケースの鍵がひとりでにはずれた。

蓋が開いて中身が外気に触れる。
それは硬化ベークライトに封じこめられた異形の胎児………
これこそがセカンドインパクトの原因………アダム

「何か不気味ですね」
(しかし間違いないだろう、世界の危機を内包した存在特有の気配……まちがいないこれがアダムだ)

シンジが胎児状のアダムを凝視していると……アダムが眼球を動かしてこちらを見てきた。
思わずシンジが一歩引く。

「こいつ…生きてる。」
(そうらしいね、こんな状況で生きてるなんて……)
「とりあえずどうするんです?」

シンジと代わって表に出てきたブギーポップは懐に手を入れ……あるものを取り出した。
それは銀色に輝くロザリオ
ここに来る途中の部屋に転がっていたものを拝借してきたのだ。
……返すつもりはないが

「それでどうするんです?」
(シンジ君……命とは何だろう?)

ブギーポップはいきなり脈絡のない問題をシンジにぶつけてきた。

シンジはブギーポップの問いかけにしばらく考える。
かなり哲学的な問題だ。

「……生きてる物のことじゃないでしょうか?」
(正解……しかし生きるということはどう言うことだろうね?)
「……それは……」

シンジはどう答えるべきか悩むがブギーポップはかまわず話しつづける

「生命というのは“波長”なのだという考え方がある。生き物を細かく分析していくと、ただの物質と生きてるものを隔てるのは難しくなっていく。だがその中でも生命には、ほかにはないある種の電気信号の波紋というか…継続するある種のパターンというものがあると…そういうことはわかっている」

そう言ってブギーポップはロザリオをアダムに近づけた。

「はじめて第三にきたとき、綾波さんを見たのを覚えているかい?」
(……はい)
「おそらくあの時、彼女は死にかけていたんだろうね、そのため彼女の魂と呼ぶべきものは体を抜け出していたんだと思う。」
(魂ですか?)
「そうだよ。本来はドグマに行くはずだったんだろうが……似たような存在に引き寄せられたんだろうね……話しがそれたな、何が言いたいかというと使徒の極端なところは肉体と生命の波長、それ自体に切実なつながりがないことなんだ。」

ロザリオがアダムの硬化ベークライトに触れる。

「だから共鳴現象を利用すれば……“こんな事”も出来る」

一瞬アダムとロザリオが同時にふるえる。
まさに同調という感じの振動だった。

シンジはそれの意味に最初気づく事が出来なかったが、ブギーポップとの会話からひとつの結論を出し、驚愕した。

(ま、まさかアダムの魂をそのロザリオに移したんですか?いったいどうやって?)
「さっき説明したとおりだよ。それより急がないと葛城さんが探しに来るかもしれない。行こう。」

シンジはあきれるしかない
いくら肉体との結びつきが弱いといっても魂を“そっちからこっちに”みたいに気軽に移し変えるなんてシンジにも出来はしない。
ときどきこうやってブギーポップはシンジの予想も出来ないことを平気で…しかも、なんでもないようにやってしまうのだ。

正直、シンジはブギーポップだけは敵に回したくないと思う。
…何するかわからないから…

---------------------------------------------------------------

「シンちゃん、遅かったわね。」

食堂についたときすでに皆は食事をした後のようだった。
シンジはセルフサービスのコーヒーを持ってテーブルに着く

「すいません、ちょっと迷ってしまって」
「ま〜〜こんな広い船じゃ仕方ないわよね〜〜」

ミサトが少しあきれたように周りを見回す。
ネルフ本部で迷子になった実績を持つ彼女には笑い話ではすまない。
そんなミサトに加持が話しかけた。

「ところで葛城・・・今、付き合ってる奴、いるの?」
「・・・・・・・・・・それが、あなたに関係あるわけ?」
「ありゃ?、連れないなぁ……」

ジト目でにらんで来るミサトを無視して加持はシンジのほうを振り向いた。

「君は葛城の隣にすんでるんだろう?彼女の寝相・・・・・・直ってる?」
「かかかかか〜〜〜じ〜〜〜〜〜!!!!!!!」

ミサトが加持の言葉に真っ赤になって反応する。
その反応だけで二人の関係がどんな物かはまるわかりだ。

「さ〜〜あ、寝室に忍び込んだわけじゃないんでなんとも・・・・・・」
「シ、シ〜〜ン〜〜チャン」

ミサトがほっとしたような安堵のため息を吐く
しかしミサトがシンジは味方だと思った次の瞬間・・・

「でも下着姿で目の前に現れるのはやめてほしいですね。」
「「「「なっ、な〜〜〜に〜〜〜〜」」」」

シンジの爆弾発言に4人の声が重なる。
ちなみにミサトはショックで魂が抜けかけていた。

「し〜ん〜じ〜わいは、わいはお前をなぐらなあかん!!あかんのや!!!」
「碇、抜け駆けするなんて・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・ミサト・・・・・・・・あんた・・・・・・・・・」
「か、葛城〜〜いくらなんでも犯罪だぞ!!!」

4人の絶叫にミサトが復活する。

「シシシシシシシンジ君?ああああああああああなたね〜〜〜!!!!」
「いい機会じゃないですか、少しズボラなのを自覚してください。レイが真似したらどうするんです?」

どうやらシンジはレイの教育関係にまで視野に入れ始めたらしい。
シンジの主夫ぶりに拍車がかかってきている気がする。

「うううううううううううう〜〜〜〜で〜〜も〜〜〜」
「・・・・・・ビール一本・・・抜きますよ?」
「あうっ」

食をつかさどるシンジは葛城邸において食物連鎖の頂点にいる。
彼に逆らってはならない。

「はは、相変わらずか・・・・・・・碇シンジ君?」
「ぼくの名前をどこで?」
「ネルフで君のことを知らない者なんかいやしない。初戦でいきなり完璧に初号機を操って使徒を殲滅したサードチルドレン・・・・」
「・・・パイロットの事はトップシークレットだったのでは?」
「そこはいろいろとね、君に興味があったんだ。」

シンジはしばらく考えた後・・・・・・・

「・・・・・・確認したいんですが、ミサトさんの寝相まで知ってるなんて・・・”そういう事”なんですか?」
「多分間違っちゃいないよ、」

加持はニヒルな笑いで決めた。
どうやら加持としては渋くキメたつもりらしい。
横でアスカが「加持さんかっこいい」などと言ってる。

「なるほど・・・ミサトさんとうまくいかなかったわけだ・・・」
「ん?どうしてだい?」
「加持さん、ぼくはいたってノーマルですから他を当たってください。」
「な・・・なにをいってるんだい?君が何言ってるのかわからないよシンジ君?」
「たしかにぼくは母親似ですが男ですし、男色の気はありませんのであしからず」

シンジの言葉にシンジと加持以外がテーブルから距離をとった。

「か・・・加持さん・・・そうだったのね・・・」
「シンジもはよ〜離れるんや!!!」
「そうだシンジ、中学生で人生捨てるなんて早すぎるぞ!!!」
「加持・・・・・・・そうだったのね・・・・・・・」

アスカ、トウジ、ケンスケ、ミサトががなんとも言えない白い目で加持を見る。
4者4様の意見を聞いた加持は顔を引きつらせながらシンジを見た。
シンジは・・・顔は笑っているようだが目が笑っていない。

「シ、シンジ君・・・冗談きついな〜〜〜」
「あれ?ちがうんですか?」
「シ、シンジ君?」
「冗談ですよ!」

その言葉にミサト達が再び席につく
ただしケンスケとトウジは加持の隣を選ばなかった。

「ところでミサトさんとは実際どうだったんですか?」
「し、しんちゃ〜ん」

シンジの言葉にミサトが情けない声で抗議する。
ちなみにアスカ達ギャラリーは興味しんしんで聞き耳を立てていた。
やはり皆お年頃なのだ。

「そうだな〜〜」
「加持!!!」
「いいじゃないか葛城、今ではいい思い出だよ。」
「あ、あんただけでしょ、あたしは消し去りたい思い出よ!!!」
「まあまあ・・・・・」

加持はミサトをなだめて話し始めた。

「あの時、俺たちは大学生でな・・・ガキに毛の生えたようなもんだったよ。」

加持はたんたんと話し始めた。
その瞳はどこか遠くを見ている。
対称的にミサトはひどく近く、具体的には床を見ながら沈んで行っている。

「今思うとばかなことばかりしていたな〜〜〜デートしたりこいつの手料理を食ったり「ちょっと待ってください!!」シンジ君?」

いきなり話をさえぎられた加持があわててシンジを見るとただならぬ様子でこちらを見ている。

「・・・・・・ミサトさんの料理は・・・なんでした?」
「カレーだが・・・・・・はっ・・・君もか!?」
「・・・・・・・・・はい」

もはや言葉は要らない。
二人の男はすでに視線で分かり合った。
テレパシーのごとく相手の思いを感じ取る。

やがてシンジは重い口を開いた。

「完食・・・・・・・ですか?」
「死ぬかと思ったが・・・男としては引けないこともある・・・君は?」
「ぼくは一口・・・・・・・かなり念を入れて作ったみたいでした。」
「そうか・・・いや、それは君がどうとかじゃなくあれから何年もたってるし・・・それほど念を入れたとなると・・・・・・」
「あれ以来・・・台所には立ち入り禁止にしました。」
「賢明だ。」

シンジと加持は立ち上がりテーブルを回り込んで正面に立つ。
他の皆は状況についていけていない。

二人は同時に右手を突き出し、固い握手をした。
さらに反対側の手で包み込む。

「シンジ君・・・強く生きろ」
「はい、生きます」

ミサトのカレーが二人の間に友情と言う奇跡の橋を掛けた。
共通の認識が初対面の二人の仲を取り持ったのだ

・・・・・・・・・・・長くは続かなかったが・・・・・・

「どういう意味よ!!!!!」
ズン!ドン!!ガン!!!

シンジ達の真横から飛んできた何かに加持が吹き飛ばされ、食堂の壁に激突した。

シンジは顔を引きつらせて飛んできた何かを見る。
それは葛城ミサトという凶器・・・どうやらドロップキックの要領で飛び蹴りを叩き込んだらしい。

今のけりにはシンジも対応できなかった。
アスカ達はミサトの剣幕に引いてしまっている。
壁には叩きつけられ気絶した男一人・・・ミサトもさすがにやりすぎたと思ったのか顔が引きつっている。

誰も動く事が出来ない・・・沈黙が痛かった。






To be continued...

(2007.06.16 初版)
(2007.06.23 改訂一版)
(2007.09.22 改訂二版)


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