天使と死神と福音と

第伍章 〔神遠なる水の底から〕
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presented by 睦月様


吹き抜ける風は本来気持ちのいいものかもしれないが今の加持にそれを感じる余裕は無い。
理由は簡単・・・体中が痛いのだ。

「・・・ど、どうだった?、碇シンジ君は?」
「つまんない奴〜〜!!あんなのが選ばれたサードチルドレンだなんて幻滅っ!!!」

加持はまだダメージが回復しないのかふらふらしている。
ミサトのドロップキックで壁とディープなキスをした加持はなんとか復活するとアスカと一緒に外に出て海を見ていた。

「しかし、彼はかなり優秀らしい・・・優秀過ぎるほどに・・・・」
「?・・・加持さんどういうこと?」
「どこまで本当かは知らない、でも噂が本当ならとんでもない人物という事になる。」
「・・・・・・・私よりも優秀だって言うの?」

アスカが加持にすねたような視線を向ける。
矜持が傷つけられたのだろう。
子供らしい嫉妬心が伺える。

それを見た加持は苦笑した。

「そんな顔しないでくれよ、噂で聞いただけで俺も実際見たわけじゃないんだからさ。」
「その噂って?」
「初搭乗時のシンクロ率が99,89%だったらしい、しかもいまだにそのシンクロを保っている。」
「うそ・・・・・・・」

アスカは加持の話が信じられなかった。
幼いころから訓練している自分でさえ50〜60の間だというのにそれをはるかに超えている。

「しかも彼・・・最初の使徒が来た時までエヴァの存在すら知らなかったらしい、つまり初搭乗でいきなり最高のシンクロをして第三使徒を殲滅した事になる。」
「そんな・・・・・・ありえないわよ!!」
「俺もそう思う。しかも内容がまた問題だ。」
「あいつ・・・・・・・・・・なにしたの?」
「いままで理論上でしかなかったATフィールドを張れると聞いただけで展開、さらに圧縮して自分の武器にするといった離れ業までこなしたんだと、それ以降も圧倒的な戦闘力で使徒を殲滅・・・・・・・その実力からネルフ支部のほうじゃ本人非公認のあだ名までついている。」
「・・・あんなやつが・・・・・・・あいつなんて呼ばれているの?」

加持は肩をすくめた。
加持は空を見上げて最後のあだ名をつぶやくように口にする。

「・・・いろいろ言われている【紫光の鬼神】、【神狩り】、【世界の担い手】・・・・・・ 【福音という鎌を持つ死神】・・・」

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「凄い、凄い、凄いィ〜〜〜」

カメラを構え、奇声を発しながらケンスケが歩いている。
その後ろにミサト、トウジ、シンジの順番で船内を探索していた。

(さて・・・少し聞きたいことがあるんですが?)

シンジはミサト達と歩きながらブギーポップに問いかけた。

(なんだい?)
(アダムの魂を移す事はともかく、こんなロザリオでいいんですか?)

銀のロザリオはシンジの胸で揺れている。
まさかこんな小さな物にアダムの魂が宿っているとは誰も思うまい。

(まあ、器としては不十分だね・・・・)
(い、いいんですかそれで?)
(もちろんだよ、不十分だからこそ意味がある。)

ブギーポップはいつもの淡々とした口調で続ける。
しかしそれでもどこか楽しそうだ。

(完全な器ならサードインパクトが起こってしまうじゃないか。)
(え?・・・・・・って言う事はこれでサードインパクトは回避できたんですか?)
(残念だがそうはいかない、これは保険のようなものなんだ。)
(保険?)
(そう、保険だ。今の不完全な状態のこいつに使徒が触れてもサードインパクトを起こす事は出来ない。もちろん残してきた体のほうにもね、まあ油断は出来ないが。)

ブギーポップの言葉にシンジは首をかしげる。

(・・・あれは抜け殻なんですか?)
(そうとも言えるね、新陳代謝くらいはするだろうが、今はただの肉の塊だよ。)
(それならなんで?)
(反対に言えばあれは器としては申し分ない・・・使徒がアダムの体とこの魂に同時に触れたらおそらく・・・・・)

シンジの表情が一瞬けわしくなる。
ブギーポップの言いたい事が理解出来たようだ。

(・・・そのための保険ですか?・・・今のうちに処分しない理由は?)
(ひとつは下手に刺激してセカンドインパクトほどではないにしても被害が出るのは避けたい・・・それと処分してしまうと今後使徒が自分から来てくれなくなるのも困る。・・・・・これがふたつ・・・・)
(つまりは餌ですか?)
(そう思ってもらっていいよ。)

シンジはロザリオをつまんで目線の高さに持ってくる。
使徒がアダムに惹かれてやってくると言うのならこれを持っている限り自分に向かって使徒がやってくると言うことでもある。
それを見越してブギーポップはこのロザリオに魂を封じ込んだのだろう。
一体何処まで先を読んでいるのやら・・・

「サードチルドレン・・・ちょっと付き合って・・・」

シンジが物思いに沈んでいると後ろのほうから声が響いた。
後ろを向くとシンジの黒い視線が青い視線とぶつかった。

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バサーーーーーーッ

ビニールシートがはずれた瞬間、真っ先に目に飛び込んできたのは赤い色彩
4つの光学センサーを持つエヴァ弐号機
ケンスケあたりが見たら狂喜乱舞しそうな光景だがここにはいない。
エヴァは一応機密と言う事で連れてこなかったのだ。

シンジは内心ケンスケを連れてこなくて正解だったと思う。
話が進まなかっただろうし

「弐号機って赤いんだ・・・・・」
「違うのはカラーリングだけじゃないわ!!」

シンジの言葉に気分をよくしたアスカが得意げに話し始めた。
ちなみに彼女はうつぶせに寝かせられている弐号機のエントリープラグの挿入口の上に立って胸を張っている。
何でそこにいるのかと言うとおそらくそこが一番高いからだろう。

「これが実戦用に作られた世界初の本物のエヴァンゲリオン!、所詮本部にあるのはプロトタイプとテストタイプ、訓練もしてないあんたにいきなりシンクロしたのがその良い証拠よ!」

自信満々に話すがシンジはアスカをまったく相手にしていない。
ブギーポップといっしょに別のことを考えていた。

(・・・どうですか?)
(やはり気配自体はアダムと同じか、弐号機のオリジナルはアダムで間違いないようだが・・・・・・)
(何か問題でも?)
(弐号機と比べるとよくわかるんだが初号機のほうはオリジナルより気配が強いんだよ・・・なんでだろうね?)
(・・・・・・・まだ判断材料が足りませんね)
「けど、この弐号機は違うわっ!! これこそ実戦用に造られた世界初の本物のエヴァンゲリオンなのよっ!!正式タイプのねっ!!! ちょっと聞いてるの?」

頭上から苛立った声が降ってきた。
シンジは視線を弐号機に固定したまま答える。
アスカを見上げるとちょっとまずい事になるからだ。

「あ〜聞いてはいるんだけれどね〜〜〜とりあえず降りてこない?」
「はあ?なんでよ?」
「そこ高いでしょ?」
「あったりまえじゃない、あんたも小さく見下ろせるわ〜〜」

何が楽しいのかアスカはご機嫌のようだ。
対照的にシンジは無言

「・・・とりあえずさ、君・・・ワンピースきてるよね?」
「?、見てわかるでしょう?」
「うん、でさ〜この状況でぼくが上を見ると・・・見えるよ?」
「・・・・・・・は?」

アスカは数秒考えた後・・・シンジの言いたいことに気づいた。
彼は自分より低い位置にいて自分はワンピースを着ている。
シンジが顔を上げれば当然その視線は自分を見上げるわけでスカートの中が見えると言う寸法だ。

「キャアア!!!」

あわててスカートを抑える。

「エッチ、バカ、変態〜〜〜〜あんたなんてこと言うのよ!!!!」
「いや・・・見てないって・・・見せたいわけじゃないんだろ?早く降りてきたほうがよくない?惣流さん・・・・・」

そう言ってシンジは後ろを向く
降りて来るアスカが見えないように気を配ったようだ。

(な・・・・・なんなのよこいつ、い、意外と紳士ね)

アスカは軽くパニックになったようだが、冷静に頭を冷やしてとりあえず降りようとした。
その時、船に衝撃が走る。

「え?あっ、いやあああああああああああ!!」

いきなりの衝撃にアスカはバランスを崩して落ちた。
支えを失って空中に飛び出したアスカのからだは当然地面に衝突するために落下を始める。
アスカは体を丸めて受身を取ろうとした。
この高さではどれだけ効果があるかは疑わしいがしないよりははるかにいいはずだ。

ドサ!!

しかし、アスカは地面に衝突する寸前で抱きとめられた。

恐る恐る目を開けるとそこにはシンジの顔があった。
シンジはすでに戦闘のための思考を始めていて真剣な表情だ。

(う・・・な、なに?)

今のシンジはいつもの表情ではない。
まさにこれから戦うという決意に満ちている。
いわば”男の顔”になっているのだ。

いままでアスカの周りにはこんなに男を意識させる人物はいなかった。
一番近いのは加持だがここまでの男の表情は見たこと無い

「水中衝撃波か・・・・・・近いな・・・」
「あ、あんた、なんでここにいるのよ?」
「・・・・・・・一応助けたんだけれど?」
「そ、それは感謝してるけれど・・・よく間に合ったわね?」
「足は速いんだ。」

・・・・・・大嘘である。
アスカの悲鳴が聞こえた瞬間、振り向いて状況を確認したシンジは間に合わないと思い能力をつかった。
【canceler】を使って落下地点との距離があると言う状況を打ち消す。
空間移動に近い形で移動したシンジはアスカを受け止めた。

アスカを抱えたままシンジは外に出た。

「ち、ちょっと〜〜〜」

本日二度目のお姫様抱っこ中のアスカが何か言っているが答えている暇は無い。
シンジの予想が正しければこの衝撃波の元凶はかなり危険だ。

(やはり来ましたね)
(本当にわかりやすいな、どうやら海のほうらしいね・・・)

船の艦板に出たシンジは海の中を高速で動く何かが船を一隻づつ沈めていってるのが見えた。
艦隊も応戦しているようだが効果は薄いようだ。

「やっぱり使徒か・・・」
「使徒・・・・・・あれが・・・・・」

シンジの腕の中でアスカが海中を泳ぐ使徒を見ていた。
その瞳がキラリと光る。

「チャ〜〜ンス!」

その呟きを聞いたシンジは頭を抱えたくなった。
なぜかミサトとの共通点があるような気がして仕方ない。

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『各艦、艦隊距離に注意しつつ回避運動』
「状況報告はどうした」
『戦艦1沈黙!!目標確認出来ません!!!』
「くそう!!何が起こっているんだ・・・。」

艦長は双眼鏡を覗きながら叫ぶ。
双眼鏡の中でまた船が一席沈んだ。

「ちわぁ〜、ネルフですが見えない敵の情報と的確な対処はいかがっスかぁ〜?」

歯噛みしている艦長達の背後から緊張した空気をぶち壊すような間延びした声がかかる。
ミサトがトウジたちと共にブリッチに現れたのだ。

「戦闘中だっ!!見学者の立ち入りは許可出来ないっ!!!」
「これは私見ですが、これはどう見ても使徒の攻撃ですねぇ〜」
「全艦、任意に迎撃!!」
「無駄な事を・・・。」

艦長たちはミサトの言葉を必死で聞き流した。
己のプライドと言う一円にもならないものを守るために

次の瞬間・・・ブリッジにいた全員がそれを見る。
使徒に対し魚雷を打ち込んだ船が魚雷が直撃したはずの使徒に逆に標的にされ、体当たりされて真っ二つになって沈んでいくのを・・・すでに戦闘とはいえない。
一方的な虐殺だ。

「しかし何故、使徒がココに・・・まさか弐号機!?」

ミサトのつぶやきは誰にも届かなかった。

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「あんたこれを着なさい!!」

そう言ってアスカが差し出したのは赤いプラグスーツ・・・女物・・・

「・・・・・・理由・・・聞いてもいい?」
「あんたも弐号機に乗せてやるわ、真のエースパイロットって物を教えてやろうってのよ。感謝しなさい!!」
「・・・つまりこれを着ろと?」
「もちろんよ、私の弐号機に雑菌を入れるわけにいかないでしょう?」

そう言ってアスカは胸を張る。
シンジはプラグスーツとアスカを交互に見た。

(強引なところがミサトさんと似てるのかな?)

シンジはため息をひとつついた。

「ペアルック?」

顔を赤くしたアスカが突っ込んできた・・・拳で・・・
だがシンジも予想していたのか軽くかわす。

「バ、バカなこと言ってないでさっさと着る。」

そう言ってアスカは階段を下りて行った。
下で着替えるつもりなのだろう。

(まあ、一緒に乗ってたほうがフォローしやすいか・・・それに弐号機にも興味あるし。)
(シンジ君、気をつけたほうがいい、今回エヴァを動かすのは彼女なんだから・・・・・・)
(ええ、わかっています。何とかフォローしないと・・・・・・・)

シンジはアスカの降りて行った階段をじっと見つめた。

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「私です・・・。」
『・・・なんだ?』

艦橋でオペラグラスをのぞきながら加持が電話をしている。
見ているのは海中を高速で移動している使徒・・・第六使徒のガギエルだ。

「こんなところで使徒襲来とはちょっと話が違いませんか?」
『問題ない、そのため予備のパイロットも送ってある。最悪の場合君だけでもあれを持って脱出したまえ』

加持はちらりと足元を見る。
そこにはアダムの入ったアタッシュケースがあった。

ちなみにシンジは能力を使って再び”閉めて”いたので加持は気づいていない。

「彼をここによこしたのは使徒に対抗させるためですか?ずいぶんご子息をかってらっしゃるようで・・・」
「・・・・・・ブッ、ツーツー」

無言で切られた。

「・・・信頼はできないが信用はできるといったとこか・・・」

加持はアタッシュケースを持つと立ち上がった。

「俺も見限られないようにしないとな、彼なら何とかしてくれるか・・・・・」

加持は食堂でのシンジの印象から信頼に足る人物だと判断していた。
・・・・・・ミサトのカレーとは関係なく・・・

数年ぶりにあったミサトは印象が変わっていた。
昔のように繕ったような部分が影を潜め・・・・・・

「・・・いい女になってたな・・・あいつ」

おそらくはシンジのせいだろう。
これも勘でしかないが、加持は自分の勘を信頼していた。

「最強のエヴァのパイロットがライバルか・・・ハードル高いな〜〜」

とぼけたような口調で言う。
しかしそんな彼だからこそアスカを任せられる。
アスカに関しては加持は危ういものを感じていた。
彼女は自分がエヴァのパイロットであるということに誇りを持っている・・・・・・狂信的なほどに・・・・・・

だから彼のことを話してけしかけた。
情報によると彼はエヴァに乗ることにこだわってはいない。
しかし、その実力は・・・間違いなくアスカより上だろう。

だからこそ意味がある。
実力が上の人物をアスカはまだ知らない。
壁に突き当たってみるのもいい経験だ。
そして彼ならアスカがぶつかっていっても受け止められるに違いない。

「・・・・・・・なんだか娘を嫁にやる心境ってこんなものかもなぁ〜」

加持は苦笑して艦橋を後にした。

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弐号機・・・・エントリープラグ

アスカとシンジは二人とも赤いプラグスーツを着てLCLで満たされたエントリープラグの中にいる。

「ちょっとあんた・・・・・」
「なに?」
「それ・・・・置いてこれなかったの?」

アスカはシンジの胸を指差しながら言った。
そこには首からさげた十字架、アダムの魂を宿したロザリオがあった。

「・・・ちょっとね・・・・・・・大事なものなんだ。」
「ふ〜〜〜ん・・・・・そう・・・・」

さすがにアダムの魂が入っているなんて言えない。
アスカは大して気にもせず起動準備に入った。

アスカの口からドイツ語の起動シークエンスを示す言葉が流れる。

その言葉はよどみなく続いたが起動寸前にエラーの警告が来た。

「バグだ」
「あんたっ!!日本語で考えてるでしょうっ!?」
「・・・・・・君は何語で考えているのさ?」
「もちろんドイツ語よ!!あんたもドイツ語で考えなさい!!!」

シンジはちょっと考えて・・・・・・・・・

「ハイル・ヒトラー!!!!もしくはドイツの化学は世界一ィィィ!!!!」

「・・・・・あんたには後でドイツについて話があるわ・・・さらに後半は日本語じゃない!!」
「あれ?漫画の中ではドイツの将校が叫んでいたけれど?」
「・・・・・・わたしをからかってるわね?」
「人聞きの悪い、緊張をほぐしてあげてるって言ってほしいな。」

シンジはにこやかに笑ってとぼけたことを言う。
そもそも第二外国語の英語ですら怪しいのだ。
ドイツ語などいくつかの単語しか知らない。
アスカは気を取り直して言語を日本語に変換して再起動させた。

(・・・・・・やっぱり誰かいる)
(・・・・・・そうだね、初号機とは別の人格のようだけれど・・・)

シンジ達は弐号機にも初号機と同じく何者かの人格のようなものが宿っている事に気づいた。
アスカはどうやら弐号機のなかの人格に気がついていないらしい。

(・・・他のエヴァにも何者かの意思が宿っているなんて・・・)
(初号機だけじゃなくて他のエヴァにも・・・これはやはりそういう仕様なんだろうね)
(つまり、エヴァに宿る何らかの意思が認めた人物しかパイロットになれないという事ですか?)
(ほかにパイロットを選ぶ理由が無い)
(せめてだれだかわかれば・・・)
(A10神経を使ってシンクロしている以上、弐号機の人格も惣流さんに愛情を持つ誰かだよ)

シンジ達が思考の海に沈んでいる間にもアスカは弐号機の起動シークエンスをクリアーしていった。

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『オデローより入電!!エヴァ弐号機起動中!!!』
「なんだと!!」
「ナイスっ!!アスカっ!!!」

驚愕の表情の艦長と喜びを満面にうかべたミサトが同時に同じほうを見ると。
輸送船のシートが不自然にめくれ上がり何かが立ち上がろうとしていた。

「いかん!!起動中止だ!!!元に戻せ!!!!」
「構わないわ!!アスカ、発進して!!!」
「なんだとっ!!エヴァ及びパイロットは我々の管轄下だっ!!!勝手は許さんっ!!!!」
「なに言ってるのよっ!!こんな時に段取りなんて関係ないでしょっ!!!」

意地と任務で二人がもみ合う。
それどころでは無いというのに・・・

「し、しかし、本気ですか?弐号機はB型装備のままですが?」
「「えっ!?」」

B型装備とはエヴァの基本的な装備である。
両肩にプログナイフとニードルを装備した状態で主に陸上戦を想定している。

だから間違っても”水中戦”の出来る装備ではない
ミサトと艦長に冷たい汗が流れた。

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「それでどうするの?時間も無いよ?」

シンジの言葉通りにカウンターが時を刻んでいる。
内部電力の尽きる数分で決着をつけるか電力を確保しなければその時点で負けだ。

「しかもB型装備か・・・落ちたらアウトだね・・・」
「落ちなきゃいいのよ!!」

アスカが自信満々に答えた。
同時に艦橋からの通信が入る。

『アスカ?そこにシンちゃんもいるの?」
「はい、いますよ。」

ミサトからの通信にシンジが答えた。

『子供が二人・・・・・』
『試せるか・・・・・・・・・。アスカ、出してっ!!』

・・・何か一瞬不穏当な言葉があったような・・・・・・最初のはあの艦長だな・・・・・・・

「来たっ!!」
「行きますっ!!」

真正面にガギエルがつっこんでくるのが見えた。
海中だというのにかなりのスピードだ。

それを確認したアスカは弐号機を宙に躍らせる。

バキィン!!!

次の瞬間、弐号機を輸送していた船はガギエルの体当たりで真っ二つになった。

ガン!!

近くの船に着地した弐号機はカバーとしてかぶせられていたシートを体に巻きつけ悠然と立っている。
その姿は見るものすべてに超越者をイメージさせた。

「何処っ!?」
「あっち!!」

アスカがシンジの指差すほうを見てミサト達の空母を確認する。
あの空母なら弐号機でも十分なスペースがある。
まずは足場をどうにかしなければ戦うどころではない

「あと58秒しかないよ!?」
「解ってる!!ミサト!!!非常用の外部電源を甲板に用意してっ!!!!」
『解ったわ!!』
『何をするつもりだっ!?』

状況の理解できていない艦長の声が聞こえた。

「さ、跳ぶわよ」
「跳ぶ?」

シンジの言葉には答えずアスカは再び弐号機を飛ばす。
空中でシートを捨てた弐号機はその紅の体を陽光にさらした。

今・・・神との戦争に紅のバルキリー(戦乙女)が参戦した。
人類側の守り手の一人として・・・・・・・・・

しかし彼女はまだ気づかない。
その傍らには死神と少年の加護があるということを・・・・・・・





To be continued...

(2007.06.16 初版)
(2007.06.23 改訂一版)
(2007.09.22 改訂二版)


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