ネルフ本部・・・・・・正面入り口に続く長いエスカレーター
そのエスカレーターを上る人影が一つ・・・名前を綾波レイという少女だ。

レイは今日のテストの予定がすべて終了して帰るところだった。
彼女は葛城邸に住むようになってからこのエスカーターをあがったところでシンジと待ち合わせて一緒に帰るのが日課になっている。

やがてエスカーターの終わりが見えてくると上のほうに人影が見えた。
レイはシンジかと思い声を掛けようとして・・・その”3人”を確認して固まってしまった。






天使と死神と福音と

第伍章 外伝 〔あるべき場所は・・・・〕

presented by 睦月様







そこにいたのはゲンドウ、冬月、リツコの3人・・・ブギーポップが言うところの悪巧み三人組である。

レイは訳がわからなかった。
なぜこの三人がここにいるのか・・・

いや・・・理由ははっきりしている.

レイが黙っているのを見たゲンドウが話しかけた。

「レイ・・・なぜ実験に来ない・・・」

ゲンドウの言葉にレイが体を硬くする。
レイはミサトと暮すようになってから実験に参加してはいない。
同居人がいるため未成年である自分が帰らなければ不審がられる

それが理由でドグマには降りていない・・・しかし、それが方便だというのも理解している。

以前は疑問を抱く事すらなかった実験への参加に嫌悪を抱いた。
”あれ”は自分の願いを否定する象徴の様なものだから・・・・・・・・
これが本当の理由だ・・・・・・・

ゲンドウが再び話しかける

「・・・人間でないお前をシンジたちが本当に受け入れると思っているのか?」

その言葉はレイの心に突き刺さった。
それはレイが持つただ一つの望み・・・・・・・だが・・・・・・

「人は自分と違うものを排除して生きてきた・・・歴史がそれを証明している・・・シンジとて例外ではあるまい」
「わ、わたしは・・・・・」
「人間というつもりか?」
「そ・・・・・それは・・・・・・」

レイが驚愕の表情で固まる。
ゲンドウの話は止まらない。

「・・・お前の存在意義はエヴァにある・・・それ以外は不要なものだ。」
「・・・・・・」

ゲンドウの後ろでリツコが顔を背けた。
見ていられないといった風だ。
冬月の方は不動を貫いているが感情を消しているのか無表情になっている。

「シンジに拒絶されるのは耐えられまい?」
「・・・・・・・・・・」

レイが無言なのを見たゲンドウは畳み掛ける。
シンジ達に拒絶される・・・レイにとってもっとも恐れることを切り出してきた。

「これから実験だ。」
「い、今からですか?」
「そうだ、そしてお前はドグマに戻す。」
「・・・それは・・・命令ですか?」
「・・・・・そうだ」

レイは奈落に突き落とされるような絶望を感じた。
心まで固まっていく様な感じがする。

「お前がいるべき場所は本来あそこだ・・・いいな・・・・・」

一応確認の単語は混じっているがこれははなから問答無用でレイをドグマに戻すつもりなのがわかる。

何も答えないレイのゲンドウの手が伸びる・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
「・・・・・・・・・・おもしろいこといってるね?」

背後から聞こえた言葉に今度はゲンドウたち3人が硬直する。
この声の持ち主は今最も会いたくない人物のものだ。
意を決して冬月とリツコが振り返る。

そこにいたのは予想どおりの人物・・・・・・・
夏用の学生服に首から銀のロザリオをさげたシンジだった。
笑っているがその視線はゲンドウの先、レイから離れない。

だがどうやって自分たちの後ろに?
いきなりどこかから現れたように唐突にシンジはそこにいた。

「かなりシュールな光景ですね司令殿?未成年に手を出すなんて・・・・・姦淫罪って知ってます?」

そこでようやくゲンドウがシンジを振り返った。

「・・・・・・・どこまで聞いていた」
「聞かれて困るならこんなところでするもんじゃありませんよ?」
「・・・・・・・・どこまで聞いていたと聞いている!!」

ゲンドウの言葉に苛立ちが含まれる。
それを見たシンジは肩をすくめた。

「レイをドグマに戻すっていってたところだね」
「そうか・・・・・・ならばいい・・・さっさと帰宅しろ・・・」
「そのつもりですよ、レイ?行こうか?」

シンジは気楽な口調でレイに呼びかけた。
途中にいるゲンドウたちは完全に無視している。

「シンジ君ちょっと待ってくれ・・・・」

冬月があわててシンジに話しかけた。

「レイはこれから実験があるんだ。」
「初耳ですね、今日のスケジュールはもう終わっているはずですが?」
「・・・・・急遽せねばならん実験なのだよ。」

シンジの顔に意地の悪い笑みが浮かぶ。
何もかもを分かっているシンジにとって必死に弁明しようとしている冬月は滑稽でしかない。

「ほ〜う、何の実験ですか?」
「そ、それは・・・・」
「お前には関係ない・・・・」

ゲンドウが話に割り込んだ。
サングラス越しにシンジを睨む。

「ネルフに所属していないお前は知らなくてもいいことだ」
「これでも一応初号機のパイロットなんだよ?レイを連れて行く時点でエヴァがらみだろう?なら関係ないとは言えないんじゃないか?」
「・・・・・問題ない!!」
「ないわけないだろう?」

傍目に見ている冬月とリツコは話の主導権がシンジのほうに流れているのが一目瞭然でわかる。
淡々と薄ら笑いさえ浮かべるシンジと次第に興奮し始めているゲンドウでは役者が違う。
明らかにゲンドウが不利だ。

「そういえばドグマがレイのいるべき場所だとか聞こえたけれど?」
「・・・・・・・・それがどうした?」
「彼女の住所はミサトさんの家でぼくの家の隣・・・・・彼女の帰るべき場所はドグマじゃない」
「勝手な事を言うな・・・・・」
「何を持って勝手なんだか・・・・ためしにドグマのレイの居場所ってのを見せてくれない?さぞ快適なんだろうね〜〜」
「「「・・・・・・」」」

ゲンドウたちは言葉に詰まった。
以前レイが生活していた部屋を思い出す。
あれではシンジじゃなくても納得はしないだろう。

ちなみにシンジはもちろんドグマがどんなところか知っている。
知っていてこの三人をおちょくっているのだ。

「どうしたんです?」
「・・・ドグマは立ち入り禁止だ。」
「ならレイも入っちゃいけないんじゃないですか?」
「レイは特別だ・・・・・」
「贔屓ですか?何やってるか知りませんけれどロリコン親父と呼ばれる前にやめとく事をお勧めしますよ。」
「なに!?」

ゲンドウが声を張り上げるがシンジは涼しい顔だ。
その視線はどこまでも軽蔑の色が濃い。

「ただでさえ頭に”や”のつく自由業のひと顔負け・・・失礼、顔は十分そっち系の人ですね・・・・・」
「シンジ君!?」

冬月がたまりかねて口を挟む。
さすがに聞き逃せる暴言のレベルを超えたらしい。

「いくら縁を切ったといっても実の父親にそんな口を利くものではない!!」
「冬月さん・・・あなたは幸せな人ですね?」
「・・・・・・どういうことかね?」
「父親というのは自分の息子を脅迫して戦場に放り込む人のことを言うのですか?」
「う・・・・・・・」
「さすがに父親の定理にそんな条文があったなんて知りませんでしたね〜」

冬月はすでにタジタジになっていた。
それも仕方の無いことで原因はシンジに対して何もしてこなかったゲンドウにある。
親子関係をこの二人の間に持ち出すこと自体が間違っていた。

「これでも一応”元”父親の事は気に掛けているんですよ?レイを連れてドグマで訳のわからないことをしている・・・・・・なんて噂が広まったら・・・・・レイの将来に傷をつけるわけには行きませんしね、ついでにただでさえやくざ顔なのにこの上ロリコン親父なんてついたら気の毒でしょう?」

シンジはいかにもゲンドウの事はついでだといわんばかりに言い放った。
しかもゲンドウにはかなりきついことを言っている。
棘があるのはもちろんだがどうやら毒まで含んだ棘らしい。

「それにどんな実験か知りませんけれど・・・まあどの道、ぼくの夕食よりも価値があるとは思えませんね〜〜」
「なに!?」
「・・・六分儀!!すこしおちつけ!!」

声を荒げたゲンドウを冬月がたしなめた。
いつもは寡黙な男なのだが事シンジが相手となると感情的な部分が見え隠れする。
あるいは本能的にシンジとの格の差を理解しているための抵抗だろうか。

「・・・シンジ君、詳しくはいえないがこの実験は君にとっても有益なものなんだ。」
「どうでしょうかね〜?」
「何が不満かね?」
「ぼくはミサトさん達は信用してますけれどネルフを信用しているわけじゃありません。・・・・・おわかりですか?」
「・・・・・・・・ああ、残念だとは思うがね・・・・・」

冬月はシンジが初めて初号機で戦ったときのことを思い出した。
あの一件でネルフに不信感を持つなというほうが無理だ。
自分が彼の状況なら今ここにいることはないと断言できる。
そして・・・・・・・・・

冬月はチラッと背後を振り向いた。
その原因の何割かはゲンドウにあるのは間違いない。

「つまり信用できない人に家族を預けたくないって事ですよ?」
「か、家族?」

レイはシンジの言葉に言い表せぬほどの感動を覚えた。
思わず赤い瞳が潤む。

「そもそもぼくがレイを拒絶することのほうがあなた方の妄想でしょう?ぼくが彼女を拒絶したほうがあなた方には都合がいいのでしょうが・・・・・お・あ・い・に・く、勝手にぼくの人物像を脚色しないでほしいですね〜〜現実は厳しいんですよ?」

ゲンドウたちは沈黙したがリツコは無表情の中に安堵したものをにじませていた。
明らかに以前のリツコと変わってきている。

「そんなに不満ならレイ本人に聞いてみましょう。」
「え?」

いきなり話を振られたレイが驚きの声を上げた。
シンジがやさしい表情で聞いてくる。

「レイはこれから訳のわからない実験に付き合ってぼくの作る夕食を食べそこねるのとぼくと一緒に帰ってほかほかご飯を食べるのとどっちがいい?」
「わ、わたしは・・・・・・」

シンジはニコニコとした顔で聞いてくるがレイは穏やかではなかった。
チラッとゲンドウを見ればじっと自分を見下ろしている。
目の前にいる自分の創造主・・・・・・
離れたところにいる自分を家族と呼んでくれた少年・・・・・・・
内心はシンジの元に行きたい・・・・・・・
しかしゲンドウが言ったように拒絶されるのはいやだ・・・・・・・
人間と使徒・・・・・・・・
その差は0,11%・・・・・・・・
それがシンジと自分の間にある境界線・・・・・・

レイはシンジに拒絶される事は耐えられそうにも無い・・・・・・
でもシンジの笑顔を裏切る事も出来ない・・・・・・・・
レイは初めて心が引き裂かれるような激しい葛藤を覚えた。

「レ、レイ?」

リツコはあわてた。
レイの瞳からは透明なしずくが流れ出していた。

「邪魔・・・・」

シンジはそれをみると無言で近づきゲンドウを押しのけてレイを抱きしめた。
そのまま優しく頭をなでてやる。

レイはシンジのぬくもりを感じるとさらにシンジに強く抱きついた。

「・・・結論は出た・・・かな?帰ろうか?」

シンジの言葉にレイが無言でうなずく。
それを確認したシンジはレイを促して歩き出す。

「・・・・・・・・・待て」

背後からゲンドウが呼びかけるが無視をする。

「待てといっている!!」

ゲンドウの怒声にレイがおびえた。
シンジはため息を一つつくと正面玄関のシャッターをIDカードで開けてレイを外に出す。

「シンジ君!!」
「すぐに行くから待ってて・・・」
「・・・わかった・・・待ってる。」

シャッターが閉まる瞬間、レイがなんともいえない表情をする。
シンジは心が痛んだがこれからの事はレイには刺激が強いだろう。

「さて・・・・・・何か言いたい事があるんですか?」

シンジは背後のゲンドウを振り返る。
そこには一片の温かみも無い。
冬月とリツコはばつの悪そうな表情をするがゲンドウはシンジを正面から見る。
もっともサングラスで目線はシンジを見ているかは怪しい。

「レイはネルフに所属している・・・・」
「だから司令のいう通りにしなければいけないと?」
「・・・・・・そうだ・・・」
「寝言なら寝ていってくださいよ、起きたまま世迷言を吐くなんて特殊な才能があるのですね・・・・」
「・・・ふざけるな・・・」
「あなたと違ってぼくは真剣ですよ?人形遊びがしたいならマネキンでも拾ってきてそれでやってください。他人を自分の思いどおりに出来るなんて妄想を押し付けられても迷惑なだけですよ?」

シンジはゲンドウの言葉と威圧感を跳ね返し、のらりくらりとかわす。
それをみたゲンドウは無言になり、シンジへの威圧感を強めた。
そばにいる冬月とリツコは息苦しさを覚えたが・・・・・

毎回ではあるがゲンドウがいかに威圧感を強めようがシンジには意味がない。

ゲンドウはさらに威圧感を強めた・・・それは殺気に近いものがあったが・・・それを見たシンジはバカにしたような冷笑で答えた。

「何がおかしい?」
「いえ、生憎男と見詰め合ってときめく趣味はないんですよ。それともにらめっこですか?だとしたらぼくの負けですが?」
「・・・・・・」
「そもそも言い合いで勝てないから無言の威圧でごり押しですか?それでよく司令職が勤まりますね?やはり冬月さんが有能と見える。」
「・・・・・・・・・だまれ・・・・・・・」

ゲンドウが唇をゆがませながらつぶやいた。

「そもそも勘違いしてますよ?」
「・・・・・・何がだ?」

瞬間的にシンジから表情が消える。

それを見たゲンドウ、冬月、リツコは身動きひとつできなくなった。
全身に冷たい汗が浮かぶ・・・・・・

「・・・・・・・・あなた方は虫をつぶすのに威圧感や殺気をもってつぶすんですか?」

ゲンドウたちは目の前の少年の言っている意味を理解した。
つまり彼にとって自分達は虫とかわらないと言っているのだ。
腕を軽く振っただけでつぶせる虫・・・・・・・それと変わらないくらいの気安さでこの少年は自分達を殺せる・・・・・そういう意味だ。

・・・・・・おそらくはったりではないだろう。
なぜならば・・・・・・冷や汗が止まらない。
目の前の少年は自分達を殺すことを「そっちが後々楽だろうか?」くらいの気安さで天秤に掛けている。
自分達は決して触れてはいけないものに触れてしまった・・・・・・絶対的に勝てない相手に自分の生殺与奪権を与えたようなものだ。

「・・・・・・・どうしたんです?顔色悪いですよ?最も司令は顔のつくりもいいとは言えませんが・・・・」

シンジはニッコリと笑ってそんなことを言う。
しかし反論の声はない。
口どころか指一本動かせず、それどころじゃないのだ
シンジは笑っているのにそのプレッシャーはまったく衰えない。
ゲンドウたちは酸欠状態になりかけていた。

「・・・言いたい事がないのならこれで失礼させていただきます。」

シンジがきびすを返したのと同時にプレッシャーが消える。
それと共に3人はへたり込みそうになったが何とか耐えた。

しかし、シャッターを開けるためにIDカードを通そうとしたシンジの手が止まる。
首だけで背後の3人を振り返った。
その表情は片方の目が細められている。

「・・・・・・・”僕”からも一つ言っておこう・・・・・」

声には自動的な響きがあった。

「君達が世界の敵になるつもりなら僕も容赦しない・・・・」
「せ、世界の敵?」

リツコが震える声で答えた。

「わからないというならそれでもいい・・・・・・・しかし・・・・・・」

その言葉と共に”ブギーポップ”は”殺気”を放った。

「「「ヒッ」」」

3人は心臓を鷲づかみにされたような寒気を覚えた。
いま目の前の少年が発しているものはゲンドウとは比べ物にならないほど濃密な殺気だった。

ゲンドウの殺気が鈍器のようなもので殴る威圧的なものとするならまさに”刃物”・・・
瞬間でも目をそらせばその切っ先が心臓を貫く・・・そんなイメージを抱かせるものだった。

「・・・君らにその気があるのなら・・・覚悟を決めろ・・・・・」

そう言ってとめていた手を動かしIDカードを通す。

ゲンドウたちはまったく理解できなかった。
一つだけわかることはレイに言う事を聞かせることは難しくなった・・・・・・それだけだ。
目の前の少年が彼女の守護者である限り。

シンジがシャッターを開けてはじめに目に入ってきたのは泣いている少女・・・・・・
レイはシャッターが閉まる前とまったく同じ位置に立っていた。
唯一の違いはそのほほを伝うしずくの量だろう・・・・

「・・・・・・・・心配してくれたんだね・・・・・・・・・」

レイは無言で抱きついてきた。
そしてシンジの胸に顔をうずめる。

それを見たゲンドウたちにも言葉がない。

「・・・大丈夫だよ・・・」

シンジはやさしく語りかけた。

「ぼくは君を守る・・・そう決めたんだよ・・・」

シンジはそう言ってゲンドウを見る。

ゲンドウはその視線を受け止める事が出来ずに顔をそらした。
”自分の手で大事なものを守る”・・・それが出来なかったために彼女は・・・・・

やがてシャッターがシンジの視線をさえぎるまでゲンドウはシンジを見ることが出来なかった。

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自分の家のリビングでシンジは目の前で椅子に座っているレイにココアを差し出した。
レイは黙ってうなずくとシンジの手からココアを受け取る。

「レイ?大丈夫?」

あの後、レイが泣き止むのを待ってシンジ達は帰宅したがレイがシンジとはなれるのを嫌がった。
そのためシンジはレイを自分の家に連れてきていた。

「・・・・・・大丈夫・・・」
「嘘だね・・・・・・」

レイが硬直する。
シンジの言葉が図星をついた証拠だろう。
そんなレイの頭をシンジはやさしくなでてやった。

「君の問題は君だけにしか解決できない・・・・でもその重さを分ける事は出来ると思う」
「分ける?」
「そう・・・ちょっとだけでもぼくやミサトさんに分けてくれればその分レイは楽に立ち上がれる。」
「で、でも・・・・・」
「その代わりレイがちゃんと立ち上がれたら他の誰かの荷物を持ってあげて・・・・」
「・・・・・・・・」
「それが人だから・・・・・・」

レイは何も言わずシンジにしがみついた。

「?・・・・・・・痛い・・・・」

レイは何かが胸に当たる感触でシンジからはなれた。
見るとシンジの胸に下がったロザリオが揺れている。

「シンジ君・・・・・・それはなに?」

レイは目が離せなくなった。
理由は分からないが気になる。

(・・・・・・レイの使徒の部分がアダムを感じているのか・・・・・・)

シンジはロザリオをはずしてレイに手渡して見せる。

「・・・これが気になる?」
「・・・ええ・・・そうね・・・これが気になるという事なのね・・・・・・シンジ君・・・・・・これは・・・・・なに?」

レイは不思議な感覚をたどたどしく言葉にした。
自分でもはっきりとはわかっていないようだ。
ロザリオを見つめるとなぜか満たされるような不思議な感覚に包まれる。

「・・・・・・それは”鍵”だよ。」
「鍵?」
「そう・・・この世界を壊すための鍵・・・・・・」
「え!?」

レイは驚いた表情でロザリオを見た。

「世界を壊す・・・・”鍵”・・・・・」
「そう・・・・・」
「何でシンジ君がそんなものを持っているの?」

シンジは苦笑して答える。

「ちょっとね、死神のプレゼントなんだ。」
「・・・・・・死神の?」

レイは不思議そうな顔でシンジを見返す。
いきなり死神なんて言われても理解できないだろう。
シンジはレイの首に手を回しロザリオを掛けてやった。
レイは驚いた顔でシンジとロザリオを交互に見る。

「・・・いつか・・・これが必要になる日まで預かっていてほしい。」
「え?私に?」
「そう・・・・」

レイは自分の胸の位置にあるロザリオを見つめた。
不思議に満たされるような感覚がある。
しかしそれ以上にシンジが自分に重要なことを任せてくれたことの方がうれしかった。
シンジは自分に嘘をついたことはない。
だからこれもシンジにとって重要なものなのだろう。
たとえ自分に理解できなくても・・・・・・・・・シンジが自分に期待してくれたことが純粋にうれしかった。

「さて・・・・・それじゃ寝ようか?」

時計をチラッと見たシンジが話しかけた。
もう11時を回っている。

「ぼくはここで寝るからベット使ってね・・・・・・・・え?」

シンジが毛布をとりに行こうとするとすそを引っ張られた。
見るとレイが切なそうな表情で自分を見ている。
上目使いの表情はあいかわらずかわいいが・・・・・・この表情は覚えがある。

「あ〜〜〜〜ひょっとして一緒に寝ろと?」
「・・・・・・ええ・・・・・・お願いシンジ君・・・・・・」

・・・・・・・レイのお願い攻撃・・・シンジは落ちた。

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「・・・・・・いくら信頼しているからってこうも無防備なのはどうだろう?」

シンジはベットの横でレイの寝顔を見ながらつぶやいた。
なぜ寝顔を見ているかというとレイがシンジの腕を握ったまま寝てしまい離さないからだ。
無理に離して起こしてしまうのも気が引けた。

(よかったのかい?アダムを託して・・・・・・)
(この状態でサードインパクトは起こらないんでしょう?)
(たしかにね)
(・・・・・・彼女なら大丈夫)
(根拠は?)
(信頼していますから)
(・・・・・・・・そうかい)

シンジとブギーポップはそろって苦笑した。
信頼している・・・ただそれだけの理由でアダムを託すとは・・・ほかの人間に知られたら何を言われるか知れない。

(それにしても・・・・・彼らをちょっと刺激しすぎたかな?)
(いいんじゃないですか?このままあの人のそばにいたらレイは人形扱いです。それを認められるほど大人ではありませんし、そんな大人になるのはごめんです。)
(・・・そうやって君は荷物を増やしていくんだね・・・・・・・誰にも肩代わりさせず自分ひとりで・・・君だって別に超人というわけだもないだろう?)
(そんなかっこいいもんじゃありませんよ・・・・・・・)

シンジは黙ってレイを見つめた。
手のぬくもりを感じているのかその寝顔は安らかだ。

(・・・・・・一応父親ですからね・・・)
(父親といっても血のつながっているだけの別人だ。人は一人で歩いていくものだよ。)
(きびしいな〜〜〜まあ、それはそうですけれどね・・・・・・あの人は何を望んでいるんでしょう?)
(さて、君と同じように譲れない願いがあるんだろうね)
(レイやぼくや・・・・・・たくさんの人を巻き込んで・・・・・・かなえたい・・・・夢?)
(そのせいでまわりを・・・・・・捨てた実の息子すらも利用しようとする・・・彼の望みはなんだろうね)

シンジは古い記憶を引っ張り出した。
駅のホームで泣いている自分・・・・・・・・
離れていく背中・・・・・・・・・

自分が捨てられた日・・・・・・・・

(シンジ君・・・記憶は記憶だ、いまさらどうする事も出来ないし、過去を見てもどうしようもない。)
(・・・・・生憎とそんな時間の無駄なんてしませんよ・・・・・・・ただレイにはあんな思いさせたくない。)
(それなら君が彼女を裏切らなければいい・・・ただそれだけだ。)
(・・・・・・・・そうですね。)

やがてうとうとし始めたシンジはレイの寝顔を見ながら眠りに付いた。

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翌朝・・・・・・・・・

「う・・・・・・ん」

レイはまだ眠い目をこすろうと手を上げようとするが片腕がうまく動かない。
まだぼんやりするまぶたを何とか開けてみると・・・シンジの顔があった。

しばらく考えた後、昨日自分がシンジに手を握ってほしいとねだったのを思い出した。
どうやらシンジは一晩中自分の手を握ってくれてたらしい。
布団に顔を置くように横を向きながら寝ている。

シンジの寝顔を見ながらレイは目の前の少年の安らかな表情になんともいえない愛おしさを感じた。
そして自然な流れでシンジの寝顔を抱き寄せたレイは心から安堵した微笑を浮かべ・・・そのまま再び眠ってしまった。

暫く後に起きたシンジがレイの胸に頭をうずめていることに驚くのはほんのすこし先の話・・・・・
ただ・・・・・シンジが見たレイの寝顔は安心しきっていて安らかだった。
そのため起こすのがためらわれて首の痛い思いをするのだが・・・それは些細なことだ。






To be continued...

(2007.06.16 初版)
(2007.09.22 改訂一版)


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