踊りましょう・・・・・・手を取り合って・・・・・・
破壊の音色を伴奏に・・・・・・・・

踊りましょう・・・・・・瞳を見つめて・・・・・・・・
踏み出すステップはジェミニのロンド・・・・・・・

生の悲しみを私の右手に・・・・・・・
死の喜びをあなたの右手に・・・・・
つないで共に踊りましょう・・・・・・・・

私の右手に生の苦しみを・・・・・・・左手にあなたを・・・・・・・
あなたの右手に死の安らぎを・・・・・・・左手に・・・・・・・私を・・・・・・・・

回るロンドに中道者はいない
生も死もすべては一つに・・・・・・・・
くるくると・・・・・・・くるくると回り続ける・・・・・・・


これは死神と少年の物語・・・・・・・・






天使と死神と福音と

第陸章 〔神楽の舞〕
T

presented by 睦月様







「毎度ありぃ〜」

第一中の校舎裏でケンスケの声が響いた。
かなり景気がいいようで声が弾んでいる。

「猫も、杓子もアスカ、アスカか……」
「写真にあの性格はあらへんからなぁ……」

トウジとケンスケは写真を買っていった男子生徒の後姿を気の毒そうに見送った。
オーバー・ザ・レインボーでの事を知っている二人はアスカの本性を知っている。

その本人が自分達の目の前に現れたのは日本に到着したの次の日
転校生として教室に入ってきたのだ・・・悪夢再び・・・
それから一週間たっているが彼女は完璧に猫をかぶって正体を現さない。

おかげで写真の売り上げはうなぎのぼりだが・・・それは本当に嬉しいのだが・・・二人の顔は苦い。

「あの〜〜」
「ああ、はい。」

一人の女生徒がいつの間にか目の前にいた。
ケンスケは一瞬で営業スマイルを作る。

「ぃ、碇君の写真は・・・・・ありますか?」
「はい、こちらです。」
「え〜〜〜っと、これとこれをお願いします・・・・・・」
「はい、100円になります。」
「は、はい!!」

女生徒はシンジの笑顔の写真を持って嬉しそうに去って行った。
それを見送る二人の視線は複雑だ。

「猫も杓子もシンジ、シンジか〜〜なんで男の写真なんておいとんねん?」
「売れるからだよ・・・・・・」
「・・・・・ちなみに売り上げはどうや?」
「女生徒の3分の2は持っているだろうな・・・・」
「・・・・ほうか」

なんとなく二人の間に木枯らしが吹いたような気がする。
夏しか存在しないはずのこの国でだ。

「もう一つ聞きたいことがあんねんけどな〜〜〜」
「なんだ?トウジ?」
「惣流の写真やけれどな・・・・・」
「おう・・・・」

トウジは写真を一枚取り上げて・・・

「なんでみんなカメラ目線やねん・・・・・」

アスカの写真はどれもカメラを見て笑っている。
ケンスケは遠い目をしてフッと笑った。

「・・・・・・盗撮はするなってさ」
「あいつ・・・自分で撮らせとんのかい。」
「・・・あぁ・・・きっちりマージンも収めているよ。」
「・・・・・・・ほうか」

親友達はどこまでも青い空を見つめてうつろに笑った。

---------------------------------------------------------------

朝の登校時間
校舎に向かう生徒の中に赤い髪の少女がいた。

アスカは目立つ
青い瞳や赤い髪などとにかく人目を引くのだ。
さらに転校生とくれば注目の的である。

彼女はニコニコと愛想を周囲に振りまいて歩いているが・・・内心は穏やかではなかった。

(・・・・・・・あいつ・・・・・)

理由は一つ
この一週間シンジと話すきっかけがなかったからだ。

だからと言ってこの年齢にありがちな恋愛関係の話ではない。
間違ってもそういうことはない・・・シンジに文句を言うためだ。

オーバー・ザ・レインボーではまともに文句が言えなかった。
シンジが気絶したのに加えて気がついたシンジのそばにはミサト達がついていた。
事が事だけにほかの人間がいるところでは恥ずかしかったのだ

(・・・責任取るって言ったのに〜〜〜〜)

弐号機のエントリープラグ内でのことを思い出した。
守るって言われた・・・・・・・・
敵を真っ直ぐに見詰めていた眼差し・・・・・・・
そして抱きしめられて・・・・・・・・・・

アスカは回想を中断した。
これ以上思い出したら平静でいられない。
自分の顔が赤くなっているのに気づいて両手で顔を覆う。

(うううううううっあいつが悪い!!)

・・・・・・とりあえず結論は出たようだ。

(そうよ!!あいつが全部悪いのよ!!あ、あたしのファファ〜〜ストキスを〜〜〜!!)

アスカが心の中で大絶叫した。
ここまでやっても外に出さないのはさすがだ。
彼女の猫かぶりは筋金入りらしい

「ふ〜〜〜」

アスカがため息を吐きながら正面を見ると一人の少女が目に留まった。
正確にはその蒼銀の髪に・・・・・・・・

---------------------------------------------------------------

レイはベンチに座って小説を読んでいた。
彼女の胸には銀色に光るロザリオが下がっている。
レイはシンジから託されたこれを肌身離さずもっていた。

シンジに託されたという事もあるがなぜかこのロザリオを持つと落ち着くのだ。
その安堵感もレイは心地よく感じていたのだが・・・・・・・・

「ファーストチルドレン!」

その声は斜め上から降ってきた。
目線だけで見ると一人の少女が花壇に立って自分を見下ろしている。

「・・・・・・誰?」
「弐号機のパイロット、惣流・アスカ・ラングレーよ。なかよくしましょ。」

レイが名前を聞くとアスカは胸を張った。
ちなみに・・・強調するほどアスカの胸の厚みは無かったりする。
せいぜい女子中学生の標準値より少し上くらいだ。

レイはアスカの言葉に対して・・・・・

「・・・・・・・そう、必要があればそうするわ・・・・・」

そう言ってレイは手元の本に視線を戻す。
あくまでクールだ。
同時にアスカを眼中に入れていないということでもある。

「ひ、必要って・・・・・・変わった子ね・・・・・」

アスカは唖然と言った・・・同級生を上から見下ろす彼女の状況は第三者的に十分”変わった子”だと思うのだが・・・多分気づいていないのだろう。

「二人とも何してるの?」

不意にかかった聞き覚えのある声に二人は同時に同じ方向を見た。

---------------------------------------------------------------

シンジは自分の目の前の状況に疑問を持った。
レイとアスカが話している
別に同じパイロット同士だから話すことに問題はないが・・・

まず問題はアスカが花壇で仁王立ちしている。
しかも見下ろしているのはレイという構図だ。

(そういえばオーバー・ザ・レインボーでも弐号機の上で仁王立ちしていた。)

そのせいで見えそうになった・・・というところで回想をカット
実際の所、上から見下ろすことになにか意味があるのだろうか?

聞こえて来る会話からして二人はどうやら自己紹介をしたらしい。

しかし、レイは少し話をしただけで、また本に視線を戻している。
どうやらアスカと会話が成立しなかったようだ。

同級生を見下ろす少女とそれを無視する少女
二人ともかなり目立つため登校中の生徒が立ち止まり、見物して人だかりが出来ている
かなり理解不能な光景だ
とりあえず周囲の視線釘付けに気づいてない二人に声を掛けた。

「二人とも何してるの?」

その言葉に赤と青の視線がシンジを見た。

「「シンジ(君)」」

お互いの声を聞いた二人があわてて相手を見る。
その顔は二人とも「この子はシンジ(君)とどういう関係?」という顔をしている。

それを見たギャラリーにレイXシンジXアスカの三角関係の図式が一瞬で出来上がった。
周囲の認識はすでにレイVSアスカ、シンジ争奪戦第一ラウンド開始である。

当の本人のシンジは今ひとつ状況がつかめずボーっと見詰め合っているレイとアスカの成り行きを見ていた。

ちなみにレイとアスカの心情は・・・・・・・

(え?なに?こいつシンジのなに?)
(・・・・・何か・・・嫌・・・・・・)

・・・・・・であったりする。

先手はレイ
シンジのもとに歩いていきシンジの手を握ってアスカをすねたような目で見る。

「え?レイ?どうしたの?」

状況が理解できないシンジがうろたえた。
アスカはレイの行動から一つの答えを導くと真っ赤になる。

「・・・・・・え?はっ、ちょ、ちょっと待ちなさい!!あんた何勘違いしているのよ!!」
「勘違い?・・・なに?」
「あ、あたしはシンジにそんな感情持ってないわよ!!」
「・・・・・・そんな感情?」
「そ・・・・そうよあ、あたしはそいつに・・・・・」

次の瞬間・・・・・アスカは深い深い墓穴を掘った。
しかもシンジを巻き込んで

「そいつに責任を取らせたいだけなんだから!!」

ピシッ

空気が固まった・・・・・・
時が止まった・・・・・・・
シンジは逃げ出したいが・・・・・・無理っぽい・・・

「・・・・・二股?」
「あんな美少女を二人も?」
「綾波さんだけでは足りないのか!?」
「綾波VS惣流、は7・3で綾波有利!!」

明らかに聞こえる声で話す同級生の頭の中はなかなかいい具合にゆがんでいるようだ。
仕方ないので視線に「朝っぱらの学校で何言ってんだ!!」と思いを込めアスカを見る。
一瞬アスカはいぶかしげな顔をしたがシンジが周りを視線で示すと状況を理解した。

「ちっ、ちがうのよ!!シ、シンジが悪いのよ!!」
「ちょっと待てアスカ!!」

シンジは数々の死闘を抜けてきた洞察力でアスカの状態を見抜いた。
すなわち・・・パニックでとんでもない事口走ろうとしている、しかもシンジも巻き込まれる可能性が高い・・・だった。
しかし、シンジの制止の声もアスカには届かない。

「シンジがあたしに無理やりするのが悪いのよ〜〜!!」

・・・・・・・・・・・どうフォローしろと?

シンジは頭を抱えた
こうなると男は不利だ
問答無用で男は加害者、女は被害者にされる
少なくともそれが男女差別と言われた事はない

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・不条理だ。

「・・・強姦?」
「あの碇が・・・」
「・・・・・・野獣!!」
「・・・・・・・・・・殺っちまうか?」

周囲の空気がかなり物騒になってきた。
しかも男女問わず。
シンジはその中心で冷や汗をかきながらひどく居心地を悪くしている。

(ブギーさん?)
(・・・・・・なんだい?)
(ぷり〜ず、へるぷ、み〜〜〜)
(・・・・・・仕方ないね・・・・・・)

ブギーポップがシンジとシンクロする。
本来のブギーポップの能力のひとつ、体を借りているだけに宿主の体の限界まで力を使える。

レイの手を握り返し、驚くレイにかまわず、いきなり一歩目からの全力疾走
目標はアスカ、シンジは二人の腰を引き寄せて持ち上げると・・・・・・・・逃げた。

「あ!にげやがった!!」
「しかも二人ともお持ち帰りだ!!」
「なんて贅沢な!一人置いていけ!!」
「不潔よ!!」
「まだもどれる!!人の道を踏み外すな!!」


「おもいっきり人聞きの悪い事いうな!!!!!!!!!」

シンジの声を聞くものはいなかった
逃げるものを追う・・・・・・それは狩猟をしていた時代からの名残だろうか・・・・・
逃げるシンジ
追うクラスメート
死神の力を盛大に無駄使いして逃亡者は疾走する。

「はっ、あ、あんたなにしてんのよ!!」
「・・・・・・・シンジ君・・・・・」

アスカは暴れるし、レイはしがみついてくるしで走りにくいことこの上ない。
しかし止まると後ろから追いかけてくる連中に何言われるか分かったもんじゃない。
シンジは必死で両足を前後に振った。

(・・・明日からどんな顔で学校に来れば・・・・・・・)
(ご愁傷様、シンジ君)

集団心理で追いかけてくるクラスメートの数が増えているのを背中越しに感じながらシンジは逃げた。
逃げる、逃げなきゃ、逃げるとき、逃げろ・・・・・・・呪文のようにつぶやきながらシンジは逃げた。

・・・・・・・・・・・・・・・ほかに選択肢はない。

そのまま校舎に突っ込んで自分のクラスまで一直線・・・閉じている扉を足で蹴破って逃げ込んだ。

「し、シンジ君?いったいどうしたの?」

いきなり飛び込んできたシンジにヒカリがあわてて聞いてきた。
さすがに友人の男の子が両手にクラスメートの女の子を抱えて暴走機関車のごとく教室に突っ込んでくれば驚く。

「ゼィ・・・ゼィ・・・いや、ちょっと強姦魔にされかかって・・・」
「・・・え?強姦?」
「いいかげんおろせ!!」

アスカの声と共にシンジのみぞおちにひざが刺さった。
息が切れているところに鳩尾への膝はしゃれにならない・・・呼吸が出来なくなってさすがのシンジも崩れ落ちる。

「ぐう!」
「 フンッ!!」

崩れ落ちるシンジから軽やかにアスカが飛び降り、地面に降り立つ。
颯爽としたみのこなしは10点満点だがその顔は赤い。

「シンジ君・・・・・大丈夫?」

レイが心配して声をかけた。
シンジは呼吸が苦しくてそれどころではない。
それを見たレイがアスカをにらむ。

「・・・・・・なんでこんなことするの?」
「シンジが悪いのよ!!何度も何度もあたしを抱いたんだから!!」

ガタッ

教室中の生徒が立ち上がる音が重複する。

「え?・・・あっ」

アスカは今の状況を理解した。
廊下側では追いかけてきた生徒が目を丸くしている。
つまり・・・・・・・・・・・

(あ、あたしの一週間が〜〜〜〜)

何かずれた認識とともにアスカが落胆する。
・・・重要な部分がずれ込んでいる気がするがとりあえず、アスカの猫かぶりはこうして終わった。

「あ・・・・あの〜〜惣流さん?」

何か落胆しているアスカにヒカリが話しかける。
その後ろでクラスメート達が興味しんしんでこっちを見ていた。

「え?・・・・・・なに?」
「あ・・・あのさっき碇君に抱かれたって・・・・・」
「・・・・・そうね・・・・・・・船の上で二回も・・・・」
「「「「「「「「「「船の上で二回!!」」」」」」」」」」

アスカの沈んだ声に周囲が沸き立つ。
妄想が暴走していた。
具体的には初号機ぐらい。

「?、あたし何か変な事言った?」
「い、いえ・・・・・続けて・・・・」
「そう?とにかくこいつが悪いのよ!!二回目は紳士的だったけれど一回目はひどかったわ・・・」
「・・・そんなに?」
「いきなり蹴ったのよ!!」
「「「「「「なに!!」」」」」」」
「ちょっとまった!!」

視線が声の主であるシンジに集中した。
もはやこれ以上話が進むと学校にいられなくなる。
ダメージの残っている体を奮い立たせたシンジが待ったをかけた。

「アスカ!!日本語わかってないだろう!!」
「何言ってんのよ!とぼけるつもり!!」
「そうじゃなくて”抱く”の意味がわかってないだろう?」
「はぁあんたばか?抱くって言ったらこう手で抱き上げる事じゃない!!」

アスカの言葉とジェスチャーに周囲の生徒が呆けたような表情になる。
シンジはそれを見て大いにうなずいた。
言葉の壁は分厚いが人は理解しあえる動物なのだ。

「大体女の子の足を払うなんて非常識よ!!」
「いや、悪いとは思っているよ、でもいきなり平手打ちしょうとするアスカも悪いじゃないか!!ぼくはアスカが地面に叩きつけられないように受け止めただけなのに!!」
「言い訳するなんて男らしくないわよ!!」

シンジとアスカの言い合いを聞いていたほかの生徒たちは拍子抜けしていた。
どうやらアスカが日本語に慣れていないための勘違いだったらしい。
アスカの本性は驚きだがそれ以上にさっきまでのやり取りが衝撃的だったためすんなりと受け入れられた。
気が抜けた生徒達が自分達のクラスに帰ろうとする。
誰もが一件落着と思った・・・・・・・次の言葉を聞くまで・・・・・・・

「あたしの初めてを奪ったくせに!!」
「「「「「「「なに!!」」」」」」」

また周囲の視線がシンジ達に集中した。
シンジは顔が真っ赤になる。
こればっかりは弁解の余地が無い。

「あ・・・いや悪かったと思うよ・・・初めてだったんだね・・・」
「そ・・・そうよあんた責任取るって言ったじゃない!!」
「も、もちろんそのつもりだよ・・・」

周囲はさっきまでのお開きムードから一転していた。
内容がただ事ではない。

【碇シンジ、大人の階段を上がる!!】疑惑が全員の胸に浮上してきていた。

「で、でもひっぱたくよりは・・・」
「あ、あたりまえでしょ!!そんなことする男なんてさいって〜〜〜よ!!」
「あ〜〜〜うんそうだね・・・・」

それっきり二人は赤くなってうつむいた。
アスカが言っているのはもちろんあのときのキスのことだ。
初対面の女の子の唇を奪うなど・・・さすがのシンジも気まずい、唇を奪われたアスカはさらに赤くなったがシンジをしっかりにらみつけるのはさすがだ。
それを見ていたレイがシンジの袖を引っ張った。

「え?レイ?どうしたの?」
「シンジ君?」
「な、なに?」
「弐号機パイロットに何かしたの?」

直球ど真ん中で聞いてきた。
聞き耳を立てている皆も黙ってシンジの話を聞く。

「え・・・っとね・・・大した事じゃないよ・・・・」
「な、あたしにキスした事は大した事じゃないって言うの!?」
「「「「「「「な〜に〜!!」」」」」」」

もはや何度目かの大絶叫が響いた。
予想していたよりいくらか健全だが驚くには十分すぎる内容に学校の隅々まで絶叫の声は届く。

「アスカ・・・・・・あれはパニックになった君を正気に戻すために・・・・・」
「だ、だからってもっとムードとか・・・・・」
「いや生きるかどうかって時に・・・・・・」

シンジ達の会話に徐々に混乱が収束していく。

同時に観衆達は納得した。
エヴァという非日常の中にシンジ達がいることは皆知っている。
だとしたら具体的なことは分からないがシンジはアスカを救うために唇を奪ったのだ。
しかもその事を負い目に感じて責任を取るといったのだろう・・・実にシンジらしい

「・・・・・・・シンジ君?」

レイが沈んだ声で聞いてきた。

「レ、レイ?」

だれもが修羅場を想像した。
もはや止められるものはいない・・・

「シンジ君・・・・・・・・」
「な、なに?」

緊張が一気に高まる・・・

「キスって・・・・・」
「う、うん・・・・」

ゴクリとつばを呑む音が聞こえるようだ・・・・・

「・・・・・・・・なに・・・・・・・?」

・・・・・・・・・・・・何もかもが真っ白になった。

---------------------------------------------------------------

その後・・・・・・・
シンジの必死の説明によりアスカの一件は非常事態の為のノーカン(アスカは不服そうだったが)ということになった。
ついでにアスカの猫がばれたために今では素のアスカで過ごしている。
もっともその姿がいいと逆にファンが増えた。

さらに第一中ではレイとアスカのどちらがシンジを落とすのかで話題になっている。
本人達は知らないが・・・・・・賭けが成立しているほどだ。

ちなみにレイはキスの事をミサトに聞いたらしい・・・とんでもない選択をしたものだ。
ミサトはレイをどこかに連れて行き、説明をしたらしいが・・・
帰ってきたレイはなぜか赤い顔をしていた。

・・・どうやらミサトがとんでもない説明をしたらしい
ちらちらとシンジを見ている。

その後ろで笑っている悪魔一匹・・・・・・・・・

シンジは笑顔で悪魔に致命的な一言を投げかけた。

「・・・・・・・・一週間ビール抜き!!」

悪魔(ミサト)はテーブルに突っ伏して滅んだ(死んではいない)

その一週間後・・・
第七使徒・・・イスラフェルが現れた。

---------------------------------------------------------------

カタッカタタッ……

薄暗い一室でリツコはパソコンのモニターに向き合っていた。
仕事の内容はガギエル戦の資料整理である。

(……惜しい事したわね……)

リツコはミサトがまとめた報告書に目を通し嘆息した。
ミサトの報告書の内容はまるでSF小説である。
しかし事実だ。

不完全ながら弐号機をコントロールした……これだけでも驚きだがさらに……

(……海を割ったか……)

報告書にはもちろんシンジが【canceler】を使ったとは書いていない、その代わりシンジが言ったようにATフィールドの応用と明記されているだけだ。
普通は一笑にふしてミサトに文句を言うところだが、弐号機にシンジが乗っていたというだけで状況が変わる。
なんとなく彼なら海の一つ二つ割りそうな気がする……言い過ぎか?

(……おそらく本当でしょうね……)

リツコはシンジについてオーバー・ザ・レインボーにいかなかった事が悔やまれる。
なにせ聖書に書かれている有名すぎるほどに有名な奇跡……
その再現などこれから千年生きていたとしてもめぐり合う事はあるまい。
科学者としてはそんな一世一代のイベントを見逃したのが悔やまれる。

「フゥ…」

リツコがキーボードから手を離し、一息入れた瞬間、後ろから伸びてきた手が、リツコの首に絡みついた。

「少し、やせたかな・・・」
「・・・そう?」

久しぶりに聞いた友人の声は相変わらずのようだった。

「悲しい恋をしているからだ・・・。」
「ピクッ……どういう意味かしら?」

背後からの声にリツコが連想したのはサングラスの中年親父ではなかった。
すでにゲンドウの居場所はリツコの中には無い。

「それはね…涙の通り道にほくろがある人は、一生泣き続ける運命にあるからだよ・・・」
「……言ってくれるわね?これからくどくつもり?」
「お望みとあらば……」

そう言って目の前に回りこんできたのはやはり加持だった。
加持の顔が視界の中で大きくなってくる。
唇はこちらの唇に……

「・・・でもダメよ,怖ぁ〜〜い、お姉さんが見ているから」
「え?」

加持がリツコの視線をたどり背後を振り向くと……

「やあ、葛城じゃないか!こっちこないか!?」

そこには部屋のガラスにへばりついたミサトがいた。
……えらく怒っているようだ。

「迂闊ね、加持君?」

プシュウ〜

自動ドアが開くと共に大股でミサトが加持に迫った。
目の前に立つと腕を組んで加持を見下ろす。
額に血管が浮き出ているように見えるのは気のせいだろうか?

「……えらく手の早い事で……」
「美人を口説くのは男としての義務だと思うぞ?」
「あら、光栄ね」
「けっ!あんたアスカの随伴できたんでしょう?いつまで本部にいるのよ!?」
「いや〜今度本部詰めになったんだ。また三人でつるめるな、昔みたいに・・・。どう、今夜あたり三人で飲みに行かないか?」
「ゲッ!!リツコ!!あんた知ってたの!?」
「ま〜〜ね」
「何で言わないのよ!!」
「聞かなかったでしょう?」

ミサトが頭を抱えているのを見た加持が苦笑する。
なんと言ってもミサトとは昔”いろいろ”あった仲だ。
それだけお互い相手のことを良く知っている。

「それにしてもちょうどよかった。葛城がここに来てくれて、手間が省ける。」
「あら?加持君、私の後にミサトも口説きに行くつもりだったの?生憎そんな趣味はないけれど若いわね〜〜」
「な、なななな何言ってんのよ!!リツコ!!」
「ハッハッハ八、それも一興だけれど俺も歳だし、二人に聞きたいことがあったんだよ。」
「「聞きたいこと?」」

ミサトとリツコの声がハモッた。
加持はそれを見てにやりと笑う。

「そう……碇シンジ君……彼は何者だい?」
「「……ッ」」

二人は予想もしなかった質問に声をつまらせる。
いや……この男がシンジに興味を持つことなど予想してしかるべき事だった。
二人は顔を見合わせるとリツコが加持に話しかける。

「……あなたの事だからとっくに調べてるんじゃないの?」
「多少はね…しかしそれだけとはとても思えなくてね〜〜」

リツコとミサトは大体の事情を理解した。
加持の言っている事はわかる。
要するに信じられなかったのだろう。
それも仕方が無い。
むしろ実際に見ている自分達でさえ信じられないことをあの少年はやってのけてきているのだ。

「……いいわ……」
「ちょっとリツコ!!」
「ミサト、どっちにしてもわかることよ……」
「……そうね……」

加持は二人の話がまとまるのを待った。

「……悪いねリッちゃん」
「いいのよ……」

リツコはキーボードを操作してファイルを開き、加持に場所を譲る。
加持はその画面をじっくりと見た後、落胆のため息をついた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・リッちゃん」
「なにかしら?」
「出来れば本当の記録を見せてくれないか?」
「…どういうことかしら?」

加持の見たファイルはシンジの戦闘記録だった。

【初の搭乗でシンクロ率99,89%】
【初戦で戦場に迷い込んだ少女を救出】
【初号機をシンクロゼロにおいて起動】
【第三使徒を圧倒的なまでのスピードで瞬殺】
【第四使徒戦でクラスメート3名を救出】
・・・・・・・・・ets

「これを信じろというのは無理があると思わないか?」
「信じないつもり?」
「ま〜ね」

加持がおどけた言葉と共に振り向くとミサトとリツコが自分を真剣な表情で見ているのに気がついた。
多少でも笑うとかのリアクションを期待していた加持は予想外の二人の反応に訝しげな顔になる。

「「……」」

無言の二人の様子に加持は悟った。
自分の勘違いに・・・

「…まさか……本当なのか?」

加持の言葉に二人が頷く。

「加持?あんたシンちゃんのことどんな風に聞いてきたの?」
「……いきなり現れてそのシンクロ率は最高でエヴァを手足のように操り、さらに三体の使徒を殲滅した…実質、使徒殲滅の急先鋒……どこまでが本当だ?」

ミサトが深いため息を吐いた。
加持の言いたいことはわかる。
おそらく本部が他の支部に対して優位に立てるようにシンジの話を誇張したと思っているのだろう。
だが現実は加持の想像の上を行く。

「……それはね加持、嘘じゃないの…」
「……含みのある言い方だな?」
「ええ、それじゃ足りないのよ……」
「足りない?」

加持のいぶかしげな声に応えるようにリツコがキーボードを操作して映像ファイルを開いた。
最初はじっと見ていた加持が目をむく。

サキエルを滅多打ちにする初号機……
やりに貫かれても不動を貫く初号機……
いきなりサキエルの背後に現れ片手を振っただけでバラバラにした初号機……
シャムシェルを翻弄する初号機……
・・・・・・・・・・・

映像は続く。
加持は食い入るように見ている。

「……わかった?」
「ああ…普通は噂のほうが誇張されるもんだが…こいつは…」

加持はモニターの中の初号機の強さに戦慄さえ覚えた。
これならうわさのほうがずいぶんとおとなしめだ。

「・・・・・・・・・・・・・・リッちゃん?」
「なに?」
「一つだけ確認したいんだが…」
「何かしら?」
「シンジ君はここに来るまでエヴァの事はおろかネルフのことさえ知らなかった…これは本当かい?」
「……ええ」

加持は自分の中の常識が崩れ去っていくのを感じた。

「…さすがにそれは嘘だと思ったんだけれどな…アスカに付き合ってエヴァの事は多少勉強したつもりなんだが、あれはそんなほいほい使えるものじゃない」
「私もあなたの立場なら大声で否定したでしょうね……」
「…どっかの組織が彼に干渉した形跡は?」
「「ないわ!!」」

ミサトとリツコはそろって答えた。
実はミサトもリツコも冬月たちとは別口でシンジの過去を洗っていた。
冬月が諜報部をつかったのに対し、ミサトは家族のことを知っておきたいという思いから興信所を使い。  
リツコはシンジの持つ底知れぬ秘密への興味からMAGIを使った。
だが三者の結論は一致していた。

〔碇シンジの過去に戦闘の経験および訓練の経験は皆無〕

これがいまだにネルフ上層部を悩ますシンジの秘密である。
戦闘経験も訓練も受けていないはずの少年がなぜ?
リツコも何度か問いただしたのだがいまだにシンジはその真実をつかませない。

「加持?」
「……なんだ?葛城?」

ミサトの呼びかけに加持が首だけをひねってミサトを見る。
加持の目に映ったミサトの顔は真剣だ。
それを悟った加持も姿勢を正して聞く体勢になる。

「彼はネルフに所属してはいない……」
「なに!?初耳だぞ、それは!?」

加持はおもわず叫んでいた。
まさかこれだけ噂になっているシンジがネルフに所属していないとは思ってもいなかったようだ。

「……いったいどういうことなんだ?」
「……実は……」

ミサトはサキエル戦の前、シンジとゲンドウのやり取りを話した。
すべて聞き終えた加持が納得したようにうなづく。

「……成る程な…シンジ君もよくここに残る気になったもんだ」
「……まったくね」

ミサトはあえてサキエル戦後の自分とシンジとのケージでのやり取りを言わなかった。
あまり話したくない・・・恥ずかしいから
特に加持に知れたら何言われるかわかったもんじゃない。
まあ・・・いずれ知られるとは思うが・・・ミサトがシンジにすがって泣いたのは有名な話だ。

「だからこそ彼には敬意を持って接しなければいけない、これは本部の暗黙の了解よ?」
「……中学生に大した気の使いようだな?」
「ネルフが彼に植え付けた不信感はいまだにぬぐえていないわ……」

その言葉にリツコは先日のシンジの言葉を思い出した。
ミサト達個人は信頼していてもネルフそのものはいまだに不振の塊というシンジの言葉は十分に理解できる。

「別にね、必要以上に気を使えというわけじゃないわ、彼は理不尽な人物ではないし、ただね・・・嘘つきと偽善者は嫌いみたいよ?」
「……何かの皮肉かいリッちゃん?」

リツコの言葉に加持が苦笑した。
心当たりの数は腐るほどある。

「あなたもシンジ君を敵に回したくないでしょう?」
「まあ、そりゃね」

モニターにはラミエル戦できらめく光の中に立ち尽くす初号機が映っていた。
カメラのアングルは背後から写しているようで初号機の背中しか見えない。

(これが振り向いて自分達の方に牙をむく?)

加持は考えるだけで冷や汗が出てきた。
それだけは是が非でも遠慮したい。

「……彼がその気ならとっくにネルフは消滅しているかもな?」
「「……」」

加持の言葉に答えられる者はいない。
無いと言い切れないところがシンジにはある。
実際シンジはゲンドウを嫌っているのだから・・・いつその気になるとも知れない。
場を沈黙が支配した。

ビ〜ビ〜

「「「使徒?」」」

三人の声は重なった。
すぐさまミサトとリツコは発令所に向かう。
加持は残ってモニターの中のシンジを見た。

「興味深い少年だな、本当に……」

加持は苦笑してモニターに表示されているファイルを閉じた。






To be continued...

(2007.06.16 初版)
(2007.06.23 改訂一版)
(2007.09.29 改訂二版)


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