天使と死神と福音と

第陸章 〔神楽の舞〕
V

presented by 睦月様


ネルフ本部の一室
シンジは制服に着替え、左右にレイとアスカが座った状態でイスラフェルとの戦闘記録をスライドで見ていた。
暗くした室内の白いスクリーンにホームシアターのように映写機の光がイスラフェルの写真を映し出す

室内の雰囲気は部屋の暗さよりもさらに暗い。
最強の組み合わせであったシンジと初号機をもってしても殲滅にいたらなかったのだ。
自然と空気も重くなる……しかし

(なんでわざわざ映写機で映してるんでしょう?)
(さあ?雰囲気じゃないかい?)

当の本人達はまったく気にしていなかった。
はっきり言って負けたとも逃げたとも思っていない。

なぜなら自分達は生きているし、エヴァ3機はまったく問題ない状態だ。
そもそも”逃げる”と”戦略的撤退”はまるで違う。
逃げるとは単純に問題の先送りであって解決方法がないという状態の事だ。
対して戦略的撤退とは自分に有利な状況を作り出すために後方に下がる事である。

ブタでストレートフラッシュと勝負するなんてバカな真似はしない。
手札を変えてストレートにロイヤルをつけてから勝てばいいだけだ。

「本日、午前10時05分、ネルフは使徒にたいし攻撃を開始」

マヤが映像の内容を報告する。
同時にエヴァの戦闘シーンがスライドで映された。

スナップのように初号機や弐号機の攻撃とイスラフェルの姿が映される。

「しかし有効な効果が認められず午前10時25分、国連第二方面軍にN2の使用を要請」

マヤが操作すると胴体に大穴の開いたイスラフェル達の映像が出た。
ゲオルギウスで胴体を抉られた後だ。

その瞬間、アスカが音がしそうな勢いでそっぽを向く

「……時田さん?なんですかこれ?」
「ふっ」

シンジのあきれた声に今まで壁際で黙っていた白衣姿の時田が前に出てくる。
どうやらお呼びがかかるのを待っていたらしい。

時田はマヤに一枚のスライドを渡す。
マヤがスクリーンに映し出したのはゲオルギウスの設計図だった。

「驚いたかねシンジ君?これが試作型ではあるが投擲槍ゲオルギウスだ!!」

時田はかなり嬉しそうだ。
シンジとしては目の前で見たのだ。
威力に関しては言う事ないが……

「ゲオルギウスは普通の投げやりと違い”刺さる”事が目的ではなく”抉る”事を目的とした武器だ。」
「抉る?」
「そうだ、エヴァの筋力によって投げられたゲオルギウスはブースターからの噴出により回転し、そのまま目標を抉る。」
「ミサイルじゃダメだったんですか?」
「推進用の燃料まで積んでしまうとあのサイズに収まりきれず巨大化して速度が遅くなるんだよ。その点エヴァで直接投げれば回転させるための燃料だけですむしね」

時田の説明を聞いていたリツコが質問した。
彼女はエヴァの兵装に関しても開発責任者だ。

「ドリルは流体力学的なものと対象物を抉るという点から理想的だったわけですね?」
「赤木博士はやはり鋭いですな、弾道などから見てもコンセプトから見てもドリルの形が理想だったわけですがそれ以上に……」

科学者同士通じる物があるのだろう。
次の言葉にシンジだけでなく室内の”2人”をのぞいて思考停止した。

「そう!!ドリルこそは科学者にとってのロマンなのだ!!我ながらいい仕事したと思うよ!!!」

どこかの鑑定士のような事を言う。
シンジが何とか復活して話しかけた。

「……ロマンですか?」
「そうだ!!科学者にとってドリルと「こんな事もあろうかと…」と言うセリフはロマンなのだ!!」
「ハア・・・・・・」
「その二つを達成できた今日は今までで最良の日だよ!!」

心底愉快そうに笑う時田を見ながら皆一歩引いている。
唯一人を除いて……

「おめでとうございます、時田博士!!」
「ありがとうございます、赤木博士!!」

そう言って時田とリツコは硬い握手を交わした。
周囲の人間がもう一歩引く。

(((((マ、マッド?)))))

その光景は二人がマッドだと言う事を雄弁に語っている。
……ただしマヤはなにやら悔しそうだ……なぜ?

気を取り直した一同が再び画面を見ると映像が変わった。
画面に半分地面に埋まりながら黒焦げになっている二体のイスラフェルが映る。

「同10時30分、N2爆雷により目標を攻撃」
「なんで使徒は海岸に埋まっているんだ?」
「おそらくは海岸線の地面が使徒の重みに耐えられず沈下したものかと、特にあの場所は初号機との戦闘で振動を受けていたために液状化現象が誘発されたものと思われます。」
「また地図を書き直さんといかんな・・・・・」

冬月がN2でえぐれた海岸線の映像を見ながらつぶやいた。

「構成物質の28%の焼却を成功」
「まあ・・・・・こんなもんでしょう」

マヤの報告を一通り聞いたリツコがつぶやいた。
あっさりやられたのならともかく初号機の戦闘映像を見た後では何もいえない。
あれで撃退出来なかったのなら仕方ないと誰もが思う。

「やったの!?」
「足止めにすぎん!!再度侵攻は時間の問題だ!!!」

アスカの暗い声に冬月が多少いらついた声で答える。
その気持ちは分からなくもないが組織の上層の人間が感情的になっていい事など何一つない。

「何か不満ですか?冬月さん?」

シンジが体をひねって冬月を見ながらしゃべった。

「シンジ君?」
「正体不明の使徒の能力が判明して、さらにN2で足止めも成功、何よりエヴァ3機は無傷でいつでも発進可能、これ以上は罰が当たりますよ?」
「む?これから方々に頭を下げる事になる我々の苦労も考えてほしいな。」
「 頭を下げるだけで人類救えるなら安いでしょう?」
「……確かにな……」

冬月はシンジの言葉に素直に引き下がった。
シンジの説明で上っていた血圧が下がって冷静さを取り戻したらしい。
危機的な状況であればあるほど上の人間は大きく構えて下の者達に安心感を持たせねばならないのだ。

「パイロット3名……」
「「はい」」

アスカとレイが答えて立ち上がる
シンジは無言だが一応立ち上がって背後のゲンドウに向き直った。

「君達の仕事は何か解るか?」
「・・・・・・エヴァの操縦です」
「人類を救うこと」
「・・・・・・」

レイは無言……

「使徒を倒す事だ「そりゃ違う」・・・なに!?」

ゲンドウの言葉をシンジが否定した。

「ネルフの目的は人類滅亡を防ぐ事でしょうが?手段が目的になってどうするんです?」
「……しかし使徒を倒さねば人類は滅びるぞ?・・・こんな醜態をさらすために我々ネルフは存在している訳ではない」
「ネルフに取ってはそうでしょうね、しかし目的を履き違えてはいけませんよ。それとも使徒を倒せばそこで何もかも終わりですか?」

ゲンドウと冬月はすぐに答えられなかった。
彼らとしては使徒を倒すことにこそ意味がある。
シンジの指摘は意図的にでは無いにせよ痛い所をついた。

「……言葉のあやだ」
「結構ですね、嘘や紛らわしいとジャロに訴えられます。ついでに強がりの一つも言って皆を鼓舞してもらえませんか?」
「……」

シンジのとぼけたような対応に二人の間で緊張感が高まる。

やがてゲンドウは黙って席を立ち、冬月を連れて無言で出て行った。
その瞬間張り詰めた空気が解除される。

「あ、あんたね〜〜」

シンジの隣にいたアスカが恨めしげな視線を向けてきた。

「なに?」
「何じゃないでしょうが!ネルフの司令に向かって何言ってんのよ!?」
「別にいいんじゃない?司令の仕事ってなんだと思う?」
「え?そりゃ〜司令なんだから……」

シンジはニッコリ笑った。
まるで子供を諭すように話し始める。

「責任者の本業って言うのは責任を取る事なんだ。」
「はあ〜あんたばか〜そんなのあたりまえじゃない」
「そうだね、でも考えてみてよ?あの人たちはミサトさんたちみたいに作戦を立てたしないよね?」

シンジをミサト達作戦部が興味深そうに見た。

「……そうね…」
「そしてリツコさんたちのように整備もしない」

今度はリツコとマヤが聞き耳を立てる。

「あったりまえじゃない、あんたあたしをバカにしてんの?」
「いやまったく、それでぼく達は戦場で命を張っている。ここまではいい?」
「あたしたちは人類を護るチルドレンなんだか当然でしょう?」
「う〜ん、言いたいことはあるけれど、とりあえずぼく達はそうやって人類を守っているわけだよね?」
「……なんか気になるけれどそうよ」
「じゃあ作戦を立てない、整備もしない、命を張らないあの人たちはぼく達より高い給料もらっているくせにどうやって人類を守る?重要書類に判子押したりするだけなら事務の人で事足りるんだよ?」
「う……」

シンジの言葉にアスカが詰まる。
難しい問題だ。

「頭を下げるだけで人類が救われるんなら額が磨り減るまで床にこすり付けてほしいもんだね、ふんぞりかえって置物のように居りゃいいってもんじゃないだろう?…いやあの司令の置物なんてあったら即日燃えないゴミ行きだが……なんとなく夜中戻ってきそうだな〜〜」

ミサト達は噴出すのを抑えるのに精一杯だった。
たしかにゲンドウの置物などあったら怖い。

案外、一人暮らしの女性の防犯用に玄関にあったらかなりの成果を上げるんじゃないだろうか?

「で、でも上司に……」

アスカがさすがにそれで良いのかと言った感じにシンジに聞いたが逆にシンジに訝しげに見返された。

「……さっきから気になっていたけれど……知らないの?」
「何をよ?」
「アスカ、彼はネルフに所属してはいないんだよ」

アスカの質問に答えたのはいつの間にか隣に現れた加持だった。

「あ〜加持さ〜ん〜……え?でもさっきなんて?」
「だからシンジ君はネルフに所属してはいないんだ。まあアルバイトみたいな感じかな?だから厳密にはチルドレンでもない。」

アスカはあわててシンジを見る。

「シンジ!本当なの!?」
「ま〜ね、加持さん?ぼくがネルフに所属してない理由は知っていますか?」

シンジはアスカを無視して加持に話しかけた。
聞かれた加持が苦笑しながら頷く。

「一応ね…」
「なら説明は不要でしょう?」
「しかし父親に対して厳しいんじゃないか?」
「……縁は切ってますよ?正直母さんが浮気でもしてくれていたら血が繋がってないっていう希望も持てるんですが…」

とんでもない事を言い出すシンジに周りの皆がなんとも言えない視線を送る。
当のシンジは笑っていたが……

この場で状況についてこれていないのは事情を知らないアスカだけだった。

「え、なんなの?一体?」
「……司令はちょっと前まで碇と言う姓だったわ。」

アスカの疑問に答えたのはレイだった。

「ファースト?……イカリ……碇ですって!?」
「そう、シンジ君の血のつながった父親……」

唖然とするアスカにシンジが苦笑して話しかけた。

「もう縁は切ってるから」
「一体どう言う事よ!!」
「う〜ん、身内の恥ってやつだからノーコメント」
「なんですって〜〜!!」
「おいおいアスカ?追及しないのもマナーだぞ?」

加持の指摘でアスカは自分を取り戻す。
どうやらかなりプライベートなことらしい。
父親と縁を切るなど相当な物だ。
他人が無遠慮に立ち入っていい物では無い。

「あ……加持さん、ごめんなさい……」
「え〜っとぼくには?」
「何でシンジに謝んなきゃいけないわけ?」
「……さいですか…」

子供達の言い合いにミサト達が退席しようとしたところ……

パン!!

手を叩く音が聞こえてみんな振り向いた。
両手を合わせているのはシンジだ。

「さて、そろそろ反省会を始めましょうか?」
「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」

皆呆けたような表情になる。

「まさかあんな状況の確認だけで反省会なんていうつもりじゃないですよね?」

今どんな状況かなどここにいる皆が知っている。
それの確認だけでは反省会とは言えない、今の時点で分かっている事から使徒の対抗策を模索してこそ反省会と言える。

「そ、そりゃ〜まあ」

ミサトが頭をかきながら席に戻る。
他の面々もつられて席に戻った。

シンジはみんなの前に出て振り向くと話し始める。

「今回の使徒をどう思いますか?」

シンジの質問にリツコが答えた。

「汎用型と言う事ね?」
「「「「「「「汎用?」」」」」」」

全員の声が重なった。
ミサトがシンジに質問する。

「シンジ君?汎用ってどういうこと?」
「どうってそういうことですよ。見た感じ使徒には汎用型と特化型がいるようですね。」
「……説明してもらえる?」
「はい、汎用型と特化型の違いは応用が利くかどうかということですね、汎用型はある程度攻撃の幅がありますが特化型は一点突破です。」

シンジはブギーポップと使徒の分類に対して一定の基準を考えていた。
あまり頼りすぎるのも問題だが目安はあったほうがいい。

その基準を数日前にリツコと話していた。

「でも海の奴はどうなのよ?」

アスカがシンジに質問した。

「あれは水中適応の汎用型だね、はっきりとはいえないけれど生物の外見を持つののは汎用型と思っていいんじゃないかな?」
「今のところ特化型は第五使徒のラミエルだけよ。」

ミサト達はシンジとリツコの説明を黙って聞いている。
冬月の愚痴混じりの小言よりはるかに建設的だ。

「マヤさん、つぎに分裂したところを・・・」
「わかったわ」

イスラフェルが二体並んだ映像が出た。

「こいつは能力強化の汎用型のようです。」

皆黙ってシンジの話を聞く。
実際戦った当事者だ。
何か自分達が見落としていたものに気がついたかもしれない。

「戦闘中に気づいたんですがこの二体、分裂しても本質は一体のようですね」
「はあ?もっとわかりやすく説明しなさいよ!!」

意味が分からず不機嫌になったアスカをリツコがたしなめた。
そのままリツコがシンジの説明の補足を始める。

「アスカ、つまり二つで一つ、それぞれがコピーでありオリジナルということよ。片方に不備があった場合にもう片方が自分の情報を相手に送りそれをもとに復元すると言う事ね」
「そんな、どうすりゃいいのよそんなもん!!」
「逆を言えばオリジナルをなくせばいい」
「え?」

シンジの答えにアスカが呆けた表情をするが大人たちは真剣にシンジの話を吟味している

「シンジ君、具体的にはどうしたらいい?」

本来作戦を立てるべきミサトがシンジに意見を求めた。
シンジに意見を求める事自体には抵抗はない。
あるとすればシンジに余計な負担を掛けている自分の不甲斐なさにだ。

「方法は二つ、両方を同時に攻撃可能な広範囲攻撃……」
「……だからN2なのね?」
「はい、でも殲滅は無理でしたね…」
「もう一つは?」
「弱点であるコアに同時に攻撃し、オリジナルとコピーを同時に破壊する。」
「なるほど……」

ミサト達はシンジの洞察力を心の中で賞賛した。

「これを元に有効な作戦をお願いできますか?」
「もちろんよ!!期待しててねん!!!」

室内の空気が明るくなった。
シンジとリツコの指摘によって何とかイスラフェル攻略に糸口が見えてきた。

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「ってどうすりゃいいのよ!!!!!!」
「無様ね……」

ミサトが自分の執務室で吼えた。
彼女が突っ伏した机には苦情の書類がビルのように積んである。
あの後執務室に戻り、苦情の書類を掻き分けてスペースを作ると真っ先に作戦立案に没頭したミサトだが今ひとつこれと言ったものが出てこない。

しばらくなれない頭を酷使していたところに様子を見に来たリツコがそれを見てため息をついた。

「関係各所からの抗議文と被害報告書、UNからの請求書、広報部からの苦情と凄い量ね・・・。」
「リツコぉ〜っ!!」

ミサトが哀れな声でリツコを見る。

「一応は目を通した方が良いんじゃない?」
「読まなくても、解ってるわよぉ〜・・・。喧嘩をするならココでやれって言うんでしょぉ〜・・・?」
「ご明察」
「言われなくったって、ココでやるわよ!!使徒は必ず私が倒すわ・・・」
「そりゃあんなにタンカ切ったんですもの、倒せなかったらなに言われるかわかんないわよ?」
「あ〜う〜」

リツコの言葉に復活しかけたミサトが再び沈む

「副司令はカンカンよ?今度、恥をかかせたら左遷ね。間違いなく」
「解っているわよぉ〜、で?私の首がつながるアイディア持ってきてくれたんでしょ?」
「1つだけね…」

リツコが差し出したディスクをひったくるように受け取った。

「さっすが!!赤木リツコ博士!!!持つべきものは心優しき旧友ね!!!!」
「残念ながら旧友のピンチを救うのは私じゃないわ、このアイディアは加持君よ」

ディスクの表面に【マイ・ハニーへ】と書かれている。
ご丁寧にハートマークつきだ。

「え?か〜じ〜?」

ミサトは嫌な顔をしたがさすがに自分の首にはかえられず。
素直にディスクをパソコンに挿した。

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シンジとレイはいつもの通りに帰りに待ち合わせて一緒に帰り、葛城邸の扉の前に立っていた。
すでにシンジは帰ってきたら夕食を作るために自分の家に入るより隣のミサトの家に先に入る習慣がついている。

カードキーでロックをはずし扉を開けると……一面のダンボールだった。

「……なにこれ?」
「……さあ……」

レイがシンジに質問するがさすがにシンジも答えられない。

「ファースト?あんたまだ居たの?」

シンジとレイが声の方向を見るとタンクトップにジョギパン姿のアスカがいた。
肩に掛けたタオルで髪を拭いている。
シャワーでも浴びていたのだろう。

「何でシンジまでいるのよ?」
「隣がぼくの家だからだよ……」
「あっそ」

アスカはシンジに簡潔に答えるとレイに向き直る。

「あんた、今日からお払い箱よミサトはあたしと暮らすのホントは加持さんと一緒が良いんだけど〜〜〜」
「はあ?」

シンジはいきなりの状況に間抜けな声を出す。
レイはいつもの無表情だ。

「あんたの荷物はあそこ」

アスカが指差した場所には別のダンボールが一個置いてあった。
どうやらレイの私物を詰め込んであるらしい。

「そう・・・」
「え?ちょっとレイ?」

レイはアスカに運び出されていた自分の私物の入ったダンボールを抱えた。
そのままシンジに向き直る。

「シンジ君?」
「なに? 」
「今日とめてほしいの……」
「「え?」」

シンジとアスカは予想外のレイの言葉に固まった。

「……だめ?」

レイが悲しそうな顔で聞いてきた。

「い、いや「何言ってんのよ!!あんた!?」」

シンジがレイに答えようとすると横からアスカが乱入した。
怒りで顔が真っ赤だ・・・なぜそこで怒る?

「あんた!自分が何言ってんのか分かってんでしょうね?」
「?・・・・・・シンジ君の家に泊めてもらうの」
「だ〜か〜ら〜こいつも男でしょうが!!」
「?……シンジ君は男よ?何でそんな事言うの?」
「うっき〜〜〜!!!!」

レイの理解できないという言葉にアスカが切れた。
そもそも話がかみ合ってないのだから当然だが……
その後、シンジを締め出してアスカの男についての個人授業が始まった。

なんだかんだでアスカは面倒見のいい子なのだろう。
シンジはそんなことを締め出された扉の前で思い、笑った。

ちなみにミサトが帰ってきて扉を開けたとき、中で息を切らすアスカと意味のよくわかっていないレイが向き合っていたらしい。

決戦日まで・・・・・・あと7日

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「なんや、今日もシンジ達休みかいな?」
「ああ、なんかあったのかな?」

第一中学2−Aでトウジとケンスケは無人の3つの席を見ながらつぶやいた。
イスラフェルが襲来してからすでに3日が経っていた。

しかし、シンジ・アスカ・レイの3人はそれからまったく登校してきていない。
トウジたちはシンジ達が大怪我をして登校してこないんじゃないかと心配していた。

「鈴原ぁ〜」

不意にトウジが自分の名前を呼ばれて振り向くとヒカリがプリントを持って立っていた。

「なんやねん委員長?」
「悪いけれど碇君と綾波さんにプリント届けてくれない?」
「プリント?」
「そうよ、ちょっとたまっているのよ。碇君の自宅にはよくいくんでしょう?」
「ああ、そうやな・・・・・・」

トウジは隣にいたケンスケ見た。

これはシンジのところに行く格好の機会だ。
それをわかっているケンスケもうなづく。

「よっしゃ!!わいにまかしときいー」
「そう?じゃ頼んだわよ?」

そう言ってヒカリは二人分のプリントをトウジに渡した。

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「・・・・・・なんで委員長がここにおんねん?」
「鈴原こそ?」

トウジ・ケンスケ・ヒカリの3人はシンジ達のマンションでばったりあって驚いていた。
学校で分かれてから真っ直ぐにプリントを届けに来たところに出くわしたのだ。

「わしはシンジ達の見舞いとプリントを届けに・・・」
「俺はトウジのつき合いでね・・・」
「私はアスカにプリントを・・・」

トウジ・ケンスケ・ヒカリが順番に話した。
そろって横を見ると表札に【碇シンジ】とある。

「鈴原、アスカは葛城さんという人のところに一緒にいるみたいなの、知っている?」
「ああ、そんならそっちや」

トウジが親指で自分の後ろを指した。
表札にはミサトのほかにアスカとレイの名前もある。

「そう、ありがとう」
「とりあえずわいらはシンジやな・・・」
「そうだな」


トウジがシンジの家のチャイムを鳴らす。
しばらく待ったがまったく返事がない。

「・・・・・・留守か?」
「かもしれないな・・・・・・」

ピンポ〜ン

隣でヒカリがミサトの家のチャイムを鳴らした。

「は〜い」

中から聞きなれた声が返事をする。
それに気がついたトウジとケンスケが振り向いた。

「・・・・・・トウジ?」
「ああ、シンジの声やったな・・・・・・」

トウジとケンスケが顔を見合わせた。
扉の開く音に二人が隣を見ると家の中からエプロン姿のシンジが現れた。

「あれ?委員長、なんでここに?」
「え?碇君?」

ヒカリはアスカが出てくると思っていたところになぜかシンジが出てきたので意表をつかれた。
シンジもなぜヒカリがここにいるのか分からず二人そろって頭にはてなマークを浮かべている。

「何でシンジがミサトはんの家におるんや?」
「シンジ〜だれ?」
「シンジ君どうかしたの?」

トウジがシンジに声をかけると同時に別の声がシンジの背後から響いた。

家の奥から声がしてアスカとレイが出てきた。
おそろいのレオタード姿・・・・・・
それを見た三人が石のように固まる。

「そ、惣流と綾波?」
「い、今時ペア〜ルック!」
「「いやぁんな感じぃ!」」
「なにがだ!!」

とりあえずシンジは突込みを入れた。
意味が分からない。

「ア、アスカ!どういうことこれ?ふ、不潔よ!!」
「こ、これは、日本人は形から入るもんだって、無理矢理ミサトがぁ……」


ヒカリの言葉にアスカがしどろもどろになって弁解するが妄想モードになったヒカリの暴走は続く

「碇君!大体いっぺんに二人と付き合うなんて間違っているのよ!!どっちかはっきりさせなきゃダメじゃない!!」
「・・・・・・ちょっとまった、聞き捨てならないんだけれど・・・」
「碇君がはっきりしないからいけないのよ!!わかってるの!?」
「いやだから・・・・・・」
「だからもなにもないでしょう!!ち、中学生から同棲なんて早すぎるとおもわないの!?ってきいているの碇君!?」
「全力で聞き流しているよ・・・・・・」
「ダメじゃない!!!!!」

シンジはさすがに女の子相手に拳で熱く語り合うわけにも行かず(男なら実力行使で黙らせる)いわれのないお説教を聞く羽目になった。
その後ミサトが様子を見に帰ってくるまで続き・・・・・・ミサトが場を収めたときにはシンジはミサトの背中に天使の羽が見えたとかどうとか・・・

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「それならそうと、早く言ってくれれば良かったのに・・・」
「一方的に盛り上がってたのは委員長だけだよ・・・・・・」
「 ご、ごめんなさい・・・」

ヒカリが申し訳なさそうにうつむいた。
シンジも別に気にしていないので軽く水に流す。

「ということは使徒の弱点は分離中のコアに対する2点同時の荷重攻撃ということですか?」
「そういうこと、」

ケンスケとミサトの声にシンジが見るとケンスケがミサトに作戦の内容を聞いているらしい。

「いいんですかミサトさん?」
「ん?だいじょうぶっしょ、使徒にばれて対策されるってんならともかく、そうじゃない限りあたし達のやることは変わんないわよ」
「まあそりゃ〜そうですけれどね・・・・・・」

作戦がばれて困るのは相手に漏れたときにその対策をされることだ。
機密漏洩は戦争ならそれこそ民間人だろうと軍法会議物だが相手が使徒である限りその心配は無い。
ミサトはケンスケに向き直った。

「つまり、エヴァ2体のタイミングを完璧に合わせた攻撃よ、その為には二人の協調、完璧なユニゾンが必要なの、これはそのための訓練よ。」
「なるほど・・・ところでシンジは何やっているんだ?」

ケンスケはいまだにエプロンをつけたままのシンジを不思議そうに見た。
少なくとも訓練のための服装ではない。

「ぼく?今回はサポートだよ。」
「サポート?」
「そうよ!!」

いつの間にかアスカが立ち上がってこちらを見下ろしている。
何故そこまで自信満々に仁王立ちするのか理解できない。
胸を強調したいんだろうか?

「今回はあたしたちが主役!!シンジはせいぜい邪魔にならないようにしなさいよ!?」
「はいはい」

アスカとシンジの話を聞いていたミサトは苦笑した。
たしかに今回の作戦においてシンジはサポートだ。
だがそれは決してシンジが能力不足ということではない。
むしろその能力が飛び出ているために協調が必要なユニゾンにおいてはレイとアスカのペアがよいと判断されたためだ。
さらにいうならシンジは最悪の場合の保険にもなりうる。
イスラフェル相手に一対一(一対二?)でどうにかできるのはシンジと初号機しかいまい。

もちろんアスカはこのことを知らないが・・・・・・・
 
「だとするとシンジは今何やってんだ?」

アスカとレイは納得がいったがシンジも一緒にずっと学校を休んでいるのはおかしい。
シンジはちょっと考えて・・・・・・

「・・・家政婦?」

シンジの言葉にみんなずっこけた。

「なんだよそれは?」
「訓練で忙しいアスカとレイにご飯作ったり掃除したり洗濯したり・・・・・・」
「「な〜に〜!!」」

トウジとケンスケが叫んで詰め寄る。
そのあまりの迫力にシンジが引いた。

「シ、シンジ・・・おおおおおおお前」
「落ち着け!!」
「そ、そうやな・・・・・・おっし、シンジ?」
「なにさ?」
「せ、洗濯っちゅうとあれか?、下着とかも・・・・・・」

トウジとケンスケの言葉に女性陣から表情が消えた。
レイは元から無表情だが・・・・・・

「あ〜〜〜トウジ?ケンスケ?」
「「なんや?(だ?)」
「回れ右」
「「?」」

振り向いたらそこには素敵な笑顔の般若がいました。
しかも複数形で・・・

「「ああああああああああああああ!!!!!!!」」
「す〜ず〜は〜ら〜!!不潔よ〜〜〜〜!!!!!」
「洞木さん、ほどほどにね〜〜〜血ってこびりつくとなかなか取れないの〜〜」
「この3バカトリオが〜〜〜」
「・・・・・・アスカ?何でぼくまで数に入れる?」
「・・・・・・」

もはやカオス・・・・・・

このあとトウジとケンスケは加持が陣中見舞いに来るまで教育的指導(リンチ)を受けた。

ちなみにシンジはちゃっかり安全地帯に避難してたりする。

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「あ〜葛城?」
「な、なにかしら?」

加持がミサトに話しかけたが彼女はあさっての方向をむいている。

「あんまり子供をいじめるなよ……」
「うっ」

加持は横目で部屋の隅でころがっているトウジとケンスケを気の毒そうに眺めて嘆息した。
時折ピクピク反応しているから生きてはいるようだ。

さすがにミサトの顔も引きつっている。
隣のヒカリもちょっとやりすぎたという顔だ。

・・・・・・当然だがアスカは憮然としている。
むしろまだ二人を許していないらしい。

「やっぱりお茶はいいのを使うと違うね〜」
「ええ、シンジ君の入れてくれたお茶はおいしい……」
「ありがとう、レイ」

なんとも場違いな声にみんなが見るとシンジとレイが向き合ってお茶を飲んでいる。
ひじょ〜にアットホームでマイペースな空間を作り出す二人だった。

「さてファースト!!」
「なに?」
「なにじゃないでしょうが!!加持さんも来てくれたし、特訓の続きよ!!!」
「そう、わかったわ」

そう言ってレイは湯呑を置いて立ち上がった。
代わりにミサトが第三新東京市の地図を持ってシンジの隣に座る。

「よっし、シンちゃん?」
「はい?」
「作戦でちょっと相談があるの」

ミサトの言葉に驚いたのは加持だ。

「葛城?シンジ君に作戦の立案手伝わせているのか?_」
「う…しかたないのよ、サポート役のシンちゃんはいろいろな状況を想定しなければいけないんだから…」
「まっそりゃそうか」

そう言ってミサトは第三新東京市の地図を広げた。
兵装ビルとリニアカタパルトの射出位置が載っている。
アスカとレイの二人と違ってシンジに求められるのは臨機応変だ。
独自判断で動いてもらう必要があり、その重要度も高い。
シンジ以外には任せられないミッションと言える。

「せいぜいあたしの足ひっぱんないでよね!まっ今回アンタの出番は無いだろうけれど〜」
「はいはい」

シンジは苦笑して地図に向き直る。
アスカも気持ちを切り替えてレイと一緒に訓練に望んだ。

「シンジ君、ここはどうかしら?」
ブ〜
「そうですね、それならこっちに追い込んでみるというのも手では?」
ブ〜〜
「なるほど……それは考えなかったわね〜」
ブ〜〜〜
「このルートならここの兵装ビルを…」
ブ〜〜〜〜
「な〜る、でもこれもすてがたいわよ?」
ブ〜〜〜〜〜
「ああ、そうですね…さすがミサトさん」
ブ〜〜〜〜〜〜
「まあねん〜〜」
ブ〜〜〜〜〜〜〜
「「ふう〜〜〜」」
ブ〜〜〜〜〜〜〜〜

シンジ達があきれた顔で横を見るとアスカが不機嫌そうにレイを見ている
今アスカ達がやっているのはツイスターゲームのような形をしたしたダンスゲームだ。

ミサトが二人の呼吸を会わせるためにリツコのところから借りてきた。
何でそんなものを常備しているのか聞いたところ遠い目をして「トップシークレットよ…」といわれたが・・・ミサトは気づいている。

その理由が彼女の脂肪に関係していることに・・・・・・
なんだかんだいってもお互い三十路・・・・・・
しかしあえて追求しない親友の優しさ・・・・・・
口に出さなくても理解しあえる。

とりあえず今は訓練だ。

「あっちゃぁ〜、二日かけて全体の1/5もダメとはねぇ〜〜。」

深い溜息をつくミサト。
ここ数日で二人のダンスは平均で50点を下回る。
最低でも90以上ないとこの作戦は成功しない。

「う、うるさいわね!!ファーストが鈍くさいからいけないのよ!!!」
「・・・・・・・」

レイは反論しなかった。
だまってアスカを見ている。
どうやら少し怒っているようだ。

「じゃあ、止めとく?」
「他に人、いないんでしょ?」
「シンジくん?」

ミサトはシンジに向き直った。

「なんですか?」
「おねがい」

シンジはアスカを横目で見るとためを息一つついて立ち上がった。
アスカと交代してツイスターの上に立つ。

「一応振り付けは覚えてるけど、よろしくね、レイ」
「ええ、よろしくシンジ君」

二人が構えると同時に音楽が流れた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・82点

その点数に観客から拍手が起こる。

「これは作戦変更してレイと組んだ方が良いかもね」
「っく、やってらんないわよ!!」

アスカは叫んで玄関から飛び出していった。

「ミサトさん?」
「あっちゃ〜言いすぎたかしら・・・・・・」

ミサトが頭を掻いていると・・・

「い〜か〜り〜くん!!」
「ん?」

ヒカリが大声でシンジの名前を呼んだ。
シンジが見るとヒカリが詰め寄ってきて玄関を指差す。

「おいかけて!!」
「え?」
「女の子泣かしたのよ!!責任取りなさい!!!」

だがシンジはあわてずお茶を入れた。
アスカを追いかける気はないらしい。

「なにしてんのよ!!おいかけなさいよ!!!
「これ飲んだらね〜〜」
「なんですって!!」
「落ち着いてよ、今は時間をおいたほうがいい、委員長も座って」

ヒカリはまだ興奮してはいたが憮然としたままシンジの言葉に従う。

「なあシンジ?ワイも追いかけたほうがいいと思うんやが?」
「そうだぞシンジ?」

いつの間にか復活していたトウジとケンスケがヒカリの言葉に賛同する。
しかしシンジは落ち着いて口を開いた。

「・・・・・・さっきなんでアスカ達は失敗していたんだと思う?」
「え?それは・・・・・・」

シンジの言葉にヒカリが困った顔をする。
トウジとケンスケも顔を見合わせているがミサトと加持はシンジの言いたいことが分かっているらしい。
黙って次の言葉を待っている。

「それはね、アスカが率先して合わせようとしていなかったからなんだ。ずっと自分のペースで踊っていたからレイもついていけなかったんだよ。」
「「「え?」」」

ヒカリ・トウジ・ケンスケが驚きの声を上げた。
ミサトと加持は何も言わない。

「アスカはプライド高いからね〜、現実を見せたほうが理解も早かったんだ。」
「で、でも・・・・・・」
「委員長?ぼく達は命のやり取りをしてるんだ。中途半端な状態は危ない。」
「そ、それは・・・・・・」
「それにね、アスカは大丈夫だよ。頭いいからきっとわかってはいると思う。でもどんな天才だって興奮したときに人の意見なんてわずらわしいだけだからね、今はちょっとだけ時間を置くべきなんだ。」

ヒカリはシンジの考えに嘆息した。
シンジは別にアスカを見捨てたわけじゃない。
それどころか彼女のために心を砕いていたのだ。
ここまで考えていたなんて・・・・・・思わず叫んでしまった自分が恥ずかしい。

「・・・・・・ごめんなさい、言い過ぎたわ」
「いいよ・・・」

シンジが空の湯飲みを見ながら立ち上がった。

「さてそろそろかな・・・・・・」
「シンジ君・・・・・・私も行く・・・」
「レイ?」

シンジと同じように立ち上がったレイがじっとシンジを見ていた。

「彼女は私のパートナーだから・・・・・・」
「わかった。じゃあミサトさん行って来ます。」
「おねがいねシンジ君」
「アスカを頼むよ」

シンジとレイはミサトと加持の言葉に手を振って玄関に向かう。

「ああ、ミサトさん?」
「?何シンジ君?」

扉を開けようとしたシンジが振り向いてミサトを見た。
その顔は笑っている。

「あんまり人をだしにしないでくださいね」
「げ」

ミサトが絶句したのを見たシンジはくすくすと笑いながらレイと一緒に出て行った。

「かなわないわね」
「作戦部長も形無しだなぁ〜葛城?」
「うっさい!!」

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「割と解かりやすいところにいたな・・・」
「ええ・・・」

シンジ達はアスカがレオタード姿と言う事を考えて遠くへはいってないだろうと考えた。
おそらく一人になりたいだろうということで近くにある公園に行ってみるとベンチに腰掛てペットボトルを飲んでいるアスカを見つけた。

シンジ達が無言で近づいていくとそれに気づいたアスカが顔を伏せる

「アスカ?」
「何も言わないで、言いたい事はわかってる・・・・・・」

アスカの言葉にシンジは半眼になる。

「結局あたしにはエヴァしか「アスカ?」・・・・・・なによ?」

アスカが顔を上げるとシンジが見下ろしていた。
その顔は無表情だ。

「・・・・・・嘘つき」
「な、なんですって?」
「アスカはさっきぼくが何言いたいかわかったようなこと言ったよね?」
「それがどうしたのよ?」

シンジの顔は真剣だ。
じっとアスカを見下ろす視線はゆるぎない。

「アスカはさ、ぼくたちのこと見てないでしょ?なのになんでわかったような事言うの?」
「な、あんたにあたしの何がわかるって言うのよ!!」
「そんなのわかるほうがおかしい、でも一つだけ判っていることがある」

シンジは腰をかがめてベンチに座るアスカと同じ目線になる。
真正面からアスカを見た。

「アスカはさ、誰かに自分を見ていてほしいんじゃない?」
「ッ・・・・・・」

アスカは激しく動揺した。
その反応は図星を指されたと雄弁に語っている。

「いつも人の目を自分に向けるような派手な事しているしね」
「・・・・・・うるさい」
「いつも自信満々なのはその裏返し?」
「・・・・・・うるさい」
「自分に価値がなくなるのが怖いからエヴァにすがるの?」
「うるさいっていってんでしょう!!!」

アスカが叫びながらシンジに殴りかかってきた。
後ろにいたレイが息を呑む声が聞こえる。
急いでシンジの事を守ろうとするがシンジが手でそれを制してレイを止めた。

ヒュン

シンジはアスカの攻撃を余裕でかわす。

訓練を幼いころから受けていたアスカは当然だが素手での戦闘訓練も受けている。

しかし、シンジは実戦を経験しているのだ。
両者には明確な差が存在している。
しかもただの実戦じゃない。

文字通り生きるか死ぬかに加えて相手は人外の力を持った世界の敵や合成人間達だ。
訓練での格闘しか学んでいないアスカと比べるだけ無駄だろう。

「なんであたんないのよ!!」
「当たってあげる理由はないねぇ〜」
「くっそー!!!」

打ち出された拳をシンジは手のひらで受け止めた。

「なんで・・・なんでよ!!」

アスカは泣いていた。
ぼろぼろと子供のように・・・・・・

「きらい、みんなきらい」

シンジはアスカの顔を両手のひらで挟んで自分のほうにむける。

「アスカ・・・・・・ぼくの目を見て・・・」
「グスッなによ?」
「ぼくの目には誰が写っている?」
「え?」

シンジとアスカはお互いを見ている・・・・・・・だとしたらシンジの瞳に映るのは・・・・・・

「・・・あたし?」
「そうだよ、今はアスカを見ているからね、そしてアスカの目にはぼくが写っている。」
「え?」

アスカはシンジの言葉の意味がわからなかった。
何故だか知らないが顔が急速に赤く熱くなっていく。

「ぼくがアスカを見るようにアスカもぼくを見ている。きっとね誰かに見てほしいと叫んでばかりじゃダメなんだよ、自分も相手を見ることではじめて他人と向き合う事が出来るんじゃないかな?」
「向き合う?」
「そう、自分を見てほしいのはアスカだけじゃないんだよ、だからアスカも誰かを見てあげなくちゃね」
「・・・・・・」

シンジの優しい笑顔が目の前にある
アスカは鼓動が早くなるのを感じた。

「とりあえずぼくとレイを見てほしいな」
「あんたとファーストを?」
「レ・イだよレイ、お〜け〜?」
「う、わかったわよ」

シンジの後ろにいたレイがアスカの前に立った。
アスカが立ち上がってレイの前に立つ。

「・・・・・・なに?」
「いや、そのぉ〜」

アスカは右手を前に出した。

「よ、よろしくね”レイ”」

レイは突き出された右手を不思議そうに眺めたあと・・・・・・
不意に笑って自分の右手を出した。
その笑顔はとても魅力的で思わずアスカほうが照れた。

「よろしくアスカ・・・」
「あ、あんたそんな風に笑うのね・・・・・・」
「?・・・・・・変?」
「そ、そんなわけないでしょう!?そ、それより特訓に戻るわよ!!!」

そう言ってアスカはレイの手を引いて走っていった。

シンジはそれを笑って眺めている。

(・・・・・・なんとかなりそうじゃないか?)
(当然です。)
(自信家だね、根拠を聞いていいかい?)
(あの二人はぼくたちと似ているからですよ)
(・・・・・・なるほどね)

何かに思い至ったブギーポップはシンジの中で苦笑した。

「何してんのよシンジ!!さっさと来なさい!!」
「はいはい」

シンジはアスカ達を追いかけて歩き出した。
ただ・・・・・・心の底から愉快そうな笑顔を浮かべて・・・・・・






To be continued...

(2007.06.16 初版)
(2007.09.29 改訂一版)


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