歪曲
わい‐きょく【×歪曲】
1 物をゆがめまげること。また、ゆがみまがること。
2 事実をわざとゆがめて伝えること。
これは少年と死神の物語
第漆章 〔神子の胎動〕
T
presented by 睦月様
「本日、私、霧島マナは、シンジ君のために、午前六時に起きてこの制服を着てまいりました!、どう?、似合うかしら?」
そう言って彼女はシンジに話しかけた。
それが彼女、霧島マナとの出会い・・・・・・始まりは数分前・・・
「今日は転校生を紹介します」
朝のホームルームで担任の利根川がいきなりそんな事を言った。
シンジが首を回してケンスケを見ると手をひらひらと振っている。
どうやら情報網に引っかからなかったらしい。
「では入ってきてください」
利根川が促すと扉を開けて3人の男女が入ってきて教壇に並ぶ。
まずはじめに栗色の髪をした少女が自己紹介した。
「霧島マナです。よろしくお願いします。」
ショートカットの少女の元気な挨拶にクラスの男子がざわめく
今までいなかったタイプのボーイッシュな美少女だ。
もちろんケンスケのめがねとカメラのレンズがきらりと光った。
「ムサシ・リー・ストラスバーグだ」
マナのとなりにいる背の高い少年がぶっきらぼうに自己紹介した。
少し黒めの肌をしていてどうやらハ−フのようだがきつめの顔立ちが印象的だ。
「浅利 ケイタ です。よろしくお願いします」
最後の一人が自己紹介を済ませる。
柔和な顔立ちが人のよさそうな印象を与える少年だ。
「では皆さん仲良くしてあげてください。席は・・・碇君と鈴原君、それから洞木さんの隣が空いてますね。手を上げて教えてあげてください」
「「「はい」」」
シンジ達は手を上げてこたえる。
するとマナと名乗った少女が一直線にシンジに近付いて来た。
目の前に立つと右手を上げて宣誓するようなポーズをとる。
「本日、私、霧島マナは、シンジ君のために、午前六時に起きてこの制服を着てまいりました!、どう?、似合うかしら?」
「え?う、うんにあうと思うよ」
いきなりの質問にシンジは条件反射で答えた。
意表をつかれて頭がうまく働かない。
「ほんと〜〜〜」
なにやらうれしそうなマナに次の瞬間、クラスの男子の声がユニゾンした。
「「「「「「「「「「「「なんで碇(シンジ)ばっかりなんだーーー!!!」」」」」」」」」」」」」」」
いとあわれ・・・だれがとは言わないが・・・
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放課後、シンジたち三人は連れ立ってネルフに向かっていた。
隣に並んでいるアスカが不機嫌そうにマナのことを聞いてくる。
「それで、説明してもらいましょうか?」
「だから知らないって」
「な〜に言ってんだか、とても初対面とは思えなかったわよ?」
「だ〜か〜ら〜知らないってば・・・」
シンジはいいかげんうんざりしながら答えた。
あのあとクラスの男からやっかまれたのだ。
もういい加減勘弁してほしい。
「レイはぼくのこと信じてくれるよね?」
「シンジ君のこと?ええ、信じているわ」
そういってレイはシンジに微笑んだ。
最近レイはよく笑う
ただ・・・その笑顔の比率がシンジと一緒のときが一番多いためシンジはレイちゃんファンクラブの男子生徒からは目の敵にされたりしているのだが・・・レイは気づかずシンジに笑いかける。
シンジも笑うのをやめてくれなんてそんな無粋なことをいったりはしない
せっかくレイが笑っているのだそのくらい甘んじて受けましょう。
「だから本当のことを言ってほしいの」
笑顔のままレイがシンジに言った。
よく見ると額に怒りマークが見えるような気がする。
「・・・レイも最近言うようになったね・・・・」
シンジの言葉にレイが関係ない方向を見る。
横顔が赤い・・・
恥ずかしかったのかすねているのかビミョ〜なところだ・・・
「あんたたち、公道でいちゃつくんじゃないわよ」
「そんな気はないけれどね、じゃあアスカといちゃつくのはありなのかな?」
「な、何言ってんのよあんた!!」
「冗談だよ、公道で大声を上げるなんてはしたないよアスカ?」
「うぐぅ〜〜〜〜」
アスカは無念にも敗退した。
やはり口でシンジに勝つにはまだまだ修行が足りないらしい。
「それにしても本当に覚えが無いんだよな・・・」
シンジは首をひねるがやはりマナの顔も名前も覚えが無い。
ネルフという狭いが広い世界でシンジの名前は結構有名だ。
だからシンジが知らなくても向こうが一方的にシンジを知っているというのはありえる・・・主に加持とかがいい例だ。
やがて三人はネルフの正面玄関の前に着いた。
「・・・・・・あんたたちいつまでついてくるの?」
アスカが後ろを振り返りながら訪ねた。
そこに居たのはさっきの話の中心人物達、転校生3人組。
実はずっと後ろについてきていたのだが、あえて気にしないようにしていた。
マナが一歩前に出てアスカの疑問に答える
「え〜っと私達もネルフに用事があって…」
「あんたたちが?一体何のようなのよ?」
「それは〜」
「でも残念ね」
アスカが腰に手を当てて仁王立ちのポ-ズをとった。
中学生にしては発育のいい胸をそらす。
「ネルフに入るにはこれが必要なのよ。」
そう言って自分のIDカードを見せる。
これが無ければネルフに入ることは出来ない。
「わかった?部外者はお断りって事」
「ふっ、惣流さん甘いわね」
「な、なんですって!?」
アスカがマナの言葉を聞いて声を荒げる。
なぜかマナに対して対抗意識みたいなものを感じているらしい
マナはアスカを無視してシンジに近づいていく。
「おいマナ?」
ムサシがマナに呼びかけるがこれも完璧に無視・・・・・・
シンジの前に立ったマナがニヤリと笑う。
「な、なんでせう?」
「てい!!」
マナはシンジの背後に回りおんぶの様にシンジに抱きついた。
「あ、あんた何やってんのよ!!」
「こうすれば一緒に入れるじゃない?」
マナはシンジに抱きついた格好でアスカにニヤリとした笑いを向ける。
すべて分かった上での行動だ・・・なかなか侮れない。
「い、いや霧島さん?」
「シンジ君、マナでいいわよ」
「え?じ、じゃあマナさん?」
「う〜ん呼び捨てでいいんだけれど・・・まあいいわ、なに?」
「いやー出来れば降りてくれない?」
「え?ああそっか」
マナは気づいた。
背中におんぶされた状態とはすなわち密着しているという事・・・・・・
もちろん自分の胸も・・・・・・・
「あははははごめんね?ちょっとドキドキした?」
「いやちよっと重いから・・・」
ギリッ
マナが無言でシンジの首に回した腕を閉めた。
細い腕ががっちりとシンジの首をロックする。
「シンジく〜んなにかいった?ぷり〜ず・りぴ〜と・わんすもあ?」
「いやすいません!!ごめんなさい!!!何も言っておりません!!!!」
シンジはぎりぎりと容赦なく気道をつぶしにかかっている腕にちょっといい気分になりかけていた。
・・・・・・客観的に見ると落ちかけているとも言う。
さすがにアスカも今回はシンジを助けようとしない。
マナと同じ女として体重と言うタブーに触れたシンジを許す気はないらしい。
同じ男のはずの二人は論外・・・助けるどころかマナの形相にかなり引いておられる・・・
シンジがその気になれば振り払う事など簡単だがさすがに女の子を弾き飛ばすのは気が引ける。
だいたいシンジの失言が原因だし・・・そうこうしている間に気が遠くなり始めた。
「やめて!!」
いきなりマナが突き飛ばされた。
救いの女神はレイだ。
「シンジ君にひどい事しないで・・・」
「え?・・・あっごめんね、ちょっと悪乗りし過ぎちゃった。」
マナは舌をちょっとだして謝った。
なかなか可愛い仕草ではあるがさっきのを見た後ではむしろその笑顔が怖い・・・・・・どうやら変わり身は早いようだ。
「ほんとごめんね〜最初からこれを見せてれば良かったね」
「何で出さなかったんだよマナ?」
ケイタが突っ込むとマナはちょっと赤くなってポケットからカードを取り出した。
「あれ?それってネルフのカード?」
「シンジ君、大あた〜りぃ」
マナが取り出して見せたのはシンジ達のと同じネルフのIDカードだった。
見るとムサシもケイタも同じものを取り出している。
「あ、あんたたちネルフの関係者だったの?」
「そう、今日からねよろしく惣流さん」
アスカの言葉にマナは笑顔で答えた。
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発令所でミサトとリツコの前にマナたち3人が並んでいる。
「3人ともよくきてくれたわ、ネルフ作戦部長の葛城ミサト一尉よ」
「「「は!!」」」
ミサトの自己紹介を聞くとマナたちがそろって敬礼をした。
ネルフではなく軍隊式の敬礼だ。
どうやら三人はそっち方面の人間らしい
「ちょっとミサト、説明してよ!!」
アスカがいらだってミサトに質問した。
アスカも含めてシンジ達三人は事情が分からず、状況についてこれてない。
「え?ああごめんね〜〜では改めて自己紹介を、こちらの霧島マナさん、ムサシ・リー・ストラスバーグくん、浅利 ケイタ くんは戦自からの出向者なの」
「出向者〜?なんで戦自から?」
「あなた達の護衛のためよ」
「護衛?」
アスカだけでなくシンジとレイもいぶかしげな顔をする。
護衛なら諜報部で事足りるし、特にシンジにはある理由から必要かどうか疑わしい。
「そ、同い年の子たちのほうが目だたないっしょ?」
「いきなりですね?なぜいまさら?」
「あ〜そりはね〜」
ミサトは笑いたいが我慢するといったびみょ〜うな顔をした。
どうやら戦自となにかあったらしい。
「ぶっちゃけて言っちゃうと・・・シンジ君のせい?」
「ぼくの?」
「まあね〜ん、この前の使徒戦で戦自に協力してもらったの覚えてる?」
「あの海岸に誘導してもらった事ですね?」
「そ、あのあと戦自が共同作戦なんだからって言ってエヴァの資料を要求したの」
まあ当然と言えば当然だろう。
その裏にエヴァの情報を手に入れたいと言う意図が見えるがおおむね予想できることだ。
ネルフがそのあたりを考慮していなかったとは思えない。
どの道、使徒との戦いが続けば最前線に出るエヴァの情報は漏れるものだ。
ならこちらからある程度の情報を渡して関係を密にしておくのは悪くない。
「・・・それで?どうしたんです?」
「もっちろん渡したわよ。シンジ君の浜辺での戦闘記録」
「あれを?」
シンジだけでなくアスカも戦自に同情した。
あんな別次元の戦闘なんぞ見せられたらたまったもんではないだろう。
「今回はそれがいい方向に働いたみたいよ。」
「どういうことですかリツコさん?」
シンジだけでなくマナたちも事情を知らないようだ。
リツコの言っている事がまったく理解できない。
それに気がついたリツコが説明を始める。
「彼ら三人は戦自のトライデントのパイロット候補生だったの・・・・」
「トライデント?」
リツコの言葉にマナたちが緊張する。
どうやら知っているらしい。
「簡単に言うと”すばやく動ける戦車”というところね、JAの計画が失敗したからその後・・・開発が進められていた対使徒戦兵器」
「まだ諦めてなかったんですね〜でもそんな貴重な人材がなぜ護衛なんですか?」
「だからシンジ君の戦闘を見てさすがに気づいたのよ。トライデントではエヴァも使徒もどうする事も出来ないってね」
その言葉でシンジ達は納得した。
イスラフェル戦の初号機はまさに無敵というべき戦闘力を見せた。
近くで見ていたアスカ、レイ、ミサトはよくわかる。
さらにその初号機と引き分けたイスラフェルの能力も無視は出来まい。
あんな戦場に入っていくのは同じエヴァのパイロットであるアスカやレイでも不可能だ。
トライデントがどんなものかは知らないがこれだけは言える。
巻き込まれただけで一秒かからず燃えないごみ行き。
戦闘で役に立たない兵器ほど意味の無いものは無い。
そうなればパイロット候補達の処遇が問題だ。
人は兵器と違って食事の必要などもあるのでいるだけで金を食う。
マナたちがここに来たのは要するに厄介払いということだ・・・・・・
「霧島マナさん?」
「はい」
リツコの言葉に直立不動だったマナがリツコのほうを向く。
「あなた達も命拾いしたようよ」
「え?ど、どういうことでしょうか?」
「あなた達が乗るはずだったトライデントね、とんでもない欠陥品だったわ。」
「「「け、欠陥品!!」」」
マナだけでなくムサシとケイタも驚きの声を上げる。
自分達が乗せられていたかもしれないものが欠陥品だったとは思っていなかったと言う感じだ。
「高速機動時のパイロットに対する衝撃や反動をまったく考慮してなかったのよ。あんな物を使おうとしたら内臓にたいするダメージが大きすぎて悪くすれば破裂よ?」
「そ、そんな・・・」
3人はリツコの説明に青くなった。
動かしただけで内臓破裂の可能性のある代物など戦う以前の問題だ。
「実際使おうとしたらパイロットを使い捨てにする必要があるわね・・・」
「最悪・・・・・・そういえばリツコ?そのトライデントの試作品も押し付けてきてたわよね?どうしたの?」
「時田博士が持って行ったわ・・・」
「と、時田がーーー!!あいつ今度は何するつもりよ!!」
「・・・”戦車の無骨さ”は男のロマンとか言っていたわよ」
「ロマンで仕事すんな!!あいつ最近境界線飛び越えすぎよ!!」
「でもちゃんとゲオルギウスとか実績を残しているのよ。あの人、本来そっちのほうに才能あったみたいね。技術部のほうはいい人材を手に入れたわ。」
「頼むからあんたは踏みとどまってよね・・・」
ミサト達の会話に事情を知らないマナたちはついて行けなかったが逆に事情を知る者達はミサトの意見に賛成だった。
特に一度ゲオルギウスに巻き込まれかけたシンジは切実かもしれない。
気を取り直したミサトが子供達に向き直った。
「まあそういうことだから皆仲良くしてね、一応担当とかは決めておいたほうがいいかしら?」
「あ、それなら私シンジ君がいいです」
マナがシンジの手を取って宣言すると一瞬で場の緊張が高まった。
主にアスカとレイのプレッシャーが凄い。
「ああ、あんたなに言ってんのよ!!」
「だってこれなら恋人のように見えてカムフラージュになるじゃない?」
「何いってんのよ!!大体シンジに護衛なんて必要ないじゃない!!」
「え?どうゆうこと?」
アスカの言葉にミサトがあさっての方向をむく。
当然ではあるがエヴァの訓練には格闘訓練なるものもある。
人外の人の姿すらしていない相手に人間相手の訓練がどれほどの意味があるのかは疑問だが・・・
指導”していた”のはミサトだった。
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「さあシンジくんどっからでもかかってらっしゃい!!」
「いいんですか?」
「だいじょ〜ぶよん、手加減はしてあげる」
この時点でミサトは大きな間違いを3つ犯していた。
その1
シンジは初号機とほぼ100%でシンクロしている。
つまり生身の状態でもあの戦闘の動きを再現できるのだ
その2
シンジは数年間にわたって世界の敵や合成人間相手の実戦をしてきた。
その経験はミサトをしのぐ、むしろ手加減してもらうのはミサトのほうなのだ。
その3
シンジが相手してきた連中は人間の限界を超える動きや再生能力などは当たり前のように備えていて標準装備に近かった。
この場合シンジの師であるブギーポップ流の対応は・・・”再生できないくらい細切れにする””再生できない急所を一撃で倒す”の二者択一だった。
さらに言うならシンジはこういった連中しか相手にしたことがない・・・・・・
結果から言えば3秒で後頭部に一撃を食らったミサトが撃沈・・・
シンジも手加減をしたのだが手加減のレベルが高すぎたらしい
その後指導員はミサトから諜報部の猛者に代わり・・・これも一日ともたず交代・・・この時に一悶着あったのだがそれは別の話だ。
最終的にアスカとレイにはシンジが格闘訓練をつけている有様。
しかも大抵2対1での訓練・・・1対1では相手にならない。
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「わかった?護衛より強い保護対象なんて護衛の意味ないでしょう?」
アスカが胸を張って説明した。
なぜか誇らしいらしい・・・何故?
「ふ〜んシンジ君凄いんだ?」
「いや〜それほどでもないけれどね・・・」
シンジが頭を掻いているとマナがまたにやりと笑って・・・
「じゃあ私、シンジ君に守ってもらう!!」
「あんたばか!?どこの世界に守ってもらう護衛がいんのよ!!」
「ここに、それにつかれた心を癒すのも護衛の仕事だったり・・・」
「するか!!大体なんであんたが癒せんのよ!!」
「愛の力?」
「疑問形で言うな!!」
さらにやめとけばいいのにミサト達が・・・
「それならあたしも守ってもらっちゃお〜っと」
「な、ミサト?」
「あらいいわね、それなら私も守ってもらおうかしら?」
「リツコまで何いてんの!!」
「シンジ君・・・わたしも・・・」
「レイ!!」
一人で律儀にみんなの言葉に反論して大声を出すアスカは肩で息をしている。
横で見ていたムサシ達にはわかる。
ミサトやリツコがシンジをだしにアスカで遊んでいるのが(レイは本気のようだが)
さらにその中心で孤立している少年・・・・
男としては羨ましくもあるがあそこまでもみくちゃにされていると逆に哀れだ。
この後、噴火したアスカの矛先はシンジに向かうだろう。
初対面だがなんとなくわかる。
彼は苦労性な人間だ。
ムサシ達はシンジと深く分かり合えそうな気がしてため息を突いた。
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マナたちがネルフに来て数日が経ったとある休日
第三新東京市のショッピングセンターにて・・・・
「らっきぃ〜加持さんにショッピングつき合って貰えるなんてぇ〜〜」
「ア、アスカ?ここ水着コーナーじゃないか・・・。」
アスカはあこがれの加持に買い物に付き合ってもらって有頂天だが反対に加持は居心地が悪そうだ。
さもありなん、周りが女性用の水着だらけの中ではしょうがない。
彼も男だ・・・色々な意味で現役の・・・
「ねぇねぇ、これなんかどお?」
アスカがハイレグで赤と白のストラップの水着を加持に見せた。
かなりきわどいデザインのそれを見た加持の顔が引きつる。
「いやはや・・・中学生にはちと早すぎるんじゃ無いかな?」
「加持さん、おっくれてるぅ〜今時こんくらい当たり前よ〜〜〜」
そう言ってアスカは再び水着の品定めを再開する。
かなり楽しそうだ。
「そう言えば修学旅行は何処行くんだ?」
水着選びに夢中のアスカの背中を見ながら加持がアスカに聞いた。
「お・き・な・わ♪メニューにはね、スクーバダイビングも入ってんの♪♪」
「スクーバね・・・もう三年は潜ってないな・・・」
「ねえ、加持さんは修学旅行。何処行ったの?」
「ああ、俺達そんなの無かったんだ」
「どうして?」
「・・・・・・セカンド・インパクトが「あれ?シンジ〜!!」…なに?」
いきなりアスカが加持の言葉をさえぎった。
加持もアスカと同じ方向を見るとシンジだけでなくレイやマナ、ムサシにケイタまでいる。
「あれ?アスカ?なんでここにいるのさ?」
「アンタこそなんでいんのよ?ここは女性用の水着しかないわよ?」
それを言えば加持も場違いなのだが。
アスカとシンジが不思議そうに見つめ合っているとその中間にマナが入り込んできた。
しかもビシッと擬音がつきそうな勢いでアスカを指差す。
「アスカ?沖縄の海で新しい水着を披露したいのはあなただけじゃないわ!!」
「ぬな!!何言ってんのよ!!何で人に見せるために新しい水着なんて買わなきゃなんないの!!」
「少なくとも私と綾波さんはそうよ!!」
「なに!!」
「ね〜シンジ君?ムサシ?ケイタ?」
「「「なぜそこで振る?」」」
マナの言葉に男子中学生三人衆は半眼で答えた。
思春期の男子が女性用の水着売り場に連れてこられるだけで厳しいのにどんな答えを期待しているんだ?
「ちっ、綾波さん?」
「なに?」
「綾波さんはシンジ君に見てほしいわよね?」
「マナ…そろそろ黙れ…」
シンジが剣呑な視線でマナにストップをかけるが遅かった。
すでにレイの赤い瞳がシンジをロックオンして近づいてくる。
もはや逃げ道は無い。
「シンジ君?」
「……なに?」
「シンジ君は私の水着……見たいの?」
「……ここでうんと言ったら人間失格になりそうだな…」
「……いやなの?」
レイが悲しそうな顔をする。
この切なそうな顔をされるとシンジは嫌と言えない。
雨の中に置いてきぼりにされた子犬を連想してしまう。
「いや、レイならどんな水着もよく似合うと思うよ」
「本当?」
「うん、レイの水着姿みたいな〜〜」
シンジは理性を総動員して逃げ出したいのを我慢した。
レイの後ろでマナがにやりと笑っている……本物の悪魔か?
「ふん!!な〜にいってんだか!!」
「あら?アスカ、殿方に自分の魅力をアピィ〜ルするのは女の義務だと思わない?」
「な〜にがアピィ〜ルよ、何でシンジなんかに!!」
「おやおや?アスカにとっての殿方はシンジ君の事なのね?」
「あ、あんたが言ったんじゃない!!」
「私は殿方と言っただけで限定しなかったわよ?」
「クウッ、この女狐め〜〜!!アンタ本当は戦自のスパイじゃないの!?」
アスカが悔しそうに地団太を踏んだ。
ムッキーと奇声を上げ始めたアスカはいやな意味で周りの視線をくぎづけにしているが・・・本人まったく気にしていない。
と言うか今の自分が回りにどう見えるか気がついていない。
「アスカ?マナちゃんのいうことにも一理あるぞ。」
そんなアスカに加持が助け舟を出す・・・売り場の店員さんの視線がちょっと痛いから。
「か、加持さん!!わ、私シンジのことなんてなんとも思ってません!!ほんとうです!!!」
「わかったわかった」
加持は笑いながらアスカをなだめた。
これ以上騒がれたら店員さんからレッドカードが来て退場させられかねない。
加持はニヤニヤ笑ってシンジを見る。
「使徒を倒すようには行かないみたいだなシンジ君?」
「使徒相手のほうが楽ですよ。これでも小心者なんですから」
「ははは、あの司令から10億もふんだくった君が小心者なのかい?」
「「「「え?」」」」
アスカ、マナ、ムサシ、ケイタが加持の言葉に驚きの声を上げる。
シンジは余計な事をいった加持を半眼で睨んだ。
「か、加持さんどういうこと?」
「あれ?言わなかったか?シンジ君は初号機に乗る時に条件として10億要求したんだよ。まあ契約金といったところかな?」
その言葉に沈黙が落ちる。
全員の視線がシンジに集まった。
一番早く正気に戻ったアスカがシンジに詰め寄る。
「ど、どう言う事よシンジ?」。
「あ〜なんと言うか…ぼくが初号機に初めて乗ったときのことは知っているだろ?その時にあんまり無茶ばっかり言うからさ、言う事聞かせたいなら10億だせって言ったら本当に出したんだよ」
「…うそ」
「本当」
シンジは頭を掻いた。
要求したのはブギーポップだったが、なんと言っても世界で三人しかいないチルドレンの契約金だ。
今思うともっとふっかけてもよかったかもしれない。
「よっし、シンジ?」
「なにさ?」
「今日はあんたのおごりね」
「な、べつにお金を出すのはかまわないけれど…なんでさ?」
「黙っていた罰よ、あたしほしい服があったのよね〜」
「ちょっとまった、「シンジ君ありがとう!!」…はい?」
見るとマナが嬉しそうな顔でシンジを見ている。
とてもいい笑顔だ。
「さ、綾波さんもこっちきて」
「わたしも?」
「シンジ君もかわいい服を着た綾波さんを見たいはずよ。」
「そうなの?」
「トーゼン、男の子って言うのはそんなモンよ。だからシンジ君がお金を出すのも当然なの。」
シンジがあっけにとられている間にさっさとレイをつれて水着を選びに行ってしまう。
おごってもらう気まんまんだ。
人の話を聞く気はないように見える
思わずシンジはうなだれた。
「マナ、ぼくを引き合いに出すのはやめてくれ・・・」
お金の面は問題ないがレイに妙な自分のイメージを植え付けられるのは困る。
レイは純粋で疑うと言う事を知らないから完全に信じてしまう・・・後でフォローを入れておかねば・・・
「シンジ・・・諦めが肝心だ・・・」
「シンジ君・・・強く行こう・・・」
ムサシとケイタがシンジの肩に手を置いて慰める。
男同士の友情万歳
加持もシンジにフォローを入れようとした。
「そうだぞシンジ君」
「どの口がそんな事言うかな・・・」
帰ってきた言葉にシンジを見ると素敵な笑顔をしている。
その視線は加持から離れない。
「シ、シンジ君?」
加持は本能でシンジの笑顔の危険性を悟った。
じりじりと肉食獣のように距離を詰めるシンジ……
じりじりと草食獣のように距離を取ろうとする加持……
観客もそのただ事ではない雰囲気にのまれている。
バッ!!!
緊張が崩れたのは一瞬
加持がシンジに背を向け駆け出した。
ガッツ!!
・・・しかし5メートルほどで襟首を掴まれ急停止する。
考えてみれば単純な話なのだが、加持はシンジに対し振り返って走り出す必要がある。
しかしシンジは真っ直ぐに走り出せばいいだけだ。
さらに瞬発力だけで見るなら30男と14のシンジ、短距離ならシンジに分があるのは当然だろう。
かくして加持はシンジのニッコリ笑顔をひっくり返った状態で頭上に見ているというわけだ。
「シ、シンジ君?」
「な〜んで〜すかぁ?」
「あんまりけちだと女の子にもてないぞ・・・」
「よ〜け〜い〜な〜ことぺ〜らぺ〜ら言うのはこ〜の〜く〜ち〜で〜すかぁ?」
ブチブチブチ・・・・・
シンジは加持の無精ひげを掴んで引き抜いていく
「■●×●▲◎!!!!」
言葉にならない叫びがフロアーに響く。
ムサシとケイタはシンジの切れっぷりに冷や汗を流しながら距離をとった。
巻き込まれるのは絶対にいやだ。
店員達もさすがに今のシンジの危険さが見ているだけで分かるのか近づこうとさえしない。
「それに加持さんには言いたい事あったんですよ」
「いたたた、な、なにかな?」
「海のときですが敵前逃亡は銃殺刑です。」
「あ、あの時は大事な届け物が合ったんだ。」
「な〜んですか〜」
「き、企業秘密…それに今更…」
「ではだめです。」
シンジは当然アダムの輸送の事を知っているがわざと知らないふりをする。
かなりいろいろと溜まっていたらしい。
不精髭抜きを再開すると加持が哀れな悲鳴を上げた
ちなみに加持の絶叫を無視してを女性陣たちは(アスカ含む)買い物に集中している。
頭の中には目の前の商品が自分に似合うかどうかしかない。
時として女性とは分かっていてもやめられない事があるのだ。
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30分後・・・
「これはちょっときついな・・・」
「あんたのせいだろ〜が!!」
加持の愚痴にシンジが反論した。
かなりご機嫌斜めのようで加持の額に冷や汗が浮かぶ。
おもわず不精髭を引き抜かれてツルツルになったあごをなでた。
「彼女とは彼方の女性と書く、男には理解出来ないこともあるさ」
「加持さんが何言っているのかのほうがわからないですね、電波でも受信しましたか?」
かなり切れかけているらしい・・・それも仕方のない事だろう。
シンジ、加持、ムサシ、ケンタはアスカ達の買った商品を入れた紙袋を持ってある場所に立っている。
「・・・もう無理だ・・・シンジ、後は頼む・・・」
「ぼ、僕も・・・」
そう言って逃げ出そうとするムサシとケンタの肩をシンジと加持が掴んでとめた。
「どこに行くのさムサシ?」
「そうだぞケイタ君?まだ女性方は買い物の途中だ。」
ムサシとケイタが振り向いたところにはシンジと加持の顔があった。
二人とも”死なばもろとも””道づれは多いほうがいい”と目で語っている。
彼らがいるのはランジェリーショップの前・・・
女性陣は男性陣を荷物もちにして買い物を楽しんでいる。
アスカもマナも容赦が無い、しかもレイの分まで二人が選んでいてとことん買い物を楽しむつもりらしい。
その間シンジ達は店の前で放置プレイ中…
シンジ達を見る視線がイタイイタイ
なかには指差す人までいる。
1人でも多く道づれを作って周りから突き刺さってくる女性の視線を分散させたいと思うのは当然ではないか?
「うらむならこの加持さんを恨んでくれ」
「そうだなシンジは悪くない」
「そうだね、シンジ君のせいじゃないさ」
「あははははは、シンジ君もきっついなー」
加持はもう笑うしかなかった。
その夜・・・
碇邸の食卓にはシンジ、レイ、アスカ、ミサト、凪の5人に加えてマナ、ムサシ、ケイタの三人も参加している。
護衛という仕事上、三人はシンジ達の近くにいるのが望ましい
そのためマナたちはシンジ達と同じマンションに住むことになった。
部屋割りはシンジの隣の部屋にムサシとケイタが住み、ミサト達のとなりの部屋にマナが凪と一緒に住んでいる。
なぜ凪とマナが同じ部屋にいるかと言うとミサトが頼んだのだ。
ミサトはその仕事上、残業や出張などがある。
子供達の数も多くなったので保護者としては自分のいない間に万が一の事が起こった時には困る。
そこで凪に自分がいない間の保護者役をお願いしたのだ。
保健医でもある凪は学校でも彼らを見守る事が出来るのでうってつけだった。
そのお礼と言うわけでは無いが凪の分の家賃はネルフが負担している。
しかし、ここで問題が一つ上がった。
食事時になると最高8人で食事を取るためミサトの家では狭すぎたのだ。
そのため今では一人暮らしのシンジの家で食事を取るのがセオリーになっている。
「えぇ〜〜っ!!修学旅行に行っちゃダメぇ〜〜〜っ!!!」
「そっ」
夕飯後の碇邸にアスカの叫が響いた。
興奮して身を乗り出すアスカにミサトはビールを飲みながら答えた
「どうしてっ!!」
「戦闘待機だもの」
「そんなの聞いていないわよっ!!」
「今、言ったわ」
「誰が決めたのよっ!!」
「六分儀司令」
「ぐっ!!」
アスカが悔しそうに唇をかむ。
さすがに相手がネルフの最高権力者では相手が悪い。
うなだれるアスカの肩をマナがぽんと叩く。
「残念ね〜アスカ?」
「なにいってんの霧島さんも一緒に残るのよ?」
ミサトの言葉にマナがこの世の終わりを見たような顔になる。
「な、なぜですか!?葛城一尉!?」
「当然でしょう?護衛が保護対象からはなれてどうすんの?」
「ヴッ!!」
痛いところをつかれたマナがアスカと同じように唇をかむ
正論だけに反論の余地が無い。
「そういう問題じゃないでしょうミサトさん?」
「え?シンジ君なぜ?」
「なんで前日に言うんですか?・・・・・・忘れていたんでしょう?」
「あうっ!!」
ミサトもシンジの突っ込みで追い詰められて唇をかむ。
シンジがあきれて・・・
「どうせそんなことだろうと・・・」
「「クックックックック」」
「なに?」
いきなりの暗い笑い声に皆が視線を向けると・・・アスカ達より暗く沈んでいる二人組みがいた。
「クックッあのランジェリーショップで待たされたのが無駄になったな・・・あんなに恥ずかしい思いしたのに・・・」
「クックックそうだね〜荷物重かったな〜」
なにかムサシとケイタが壊れている。
どうやら思春期の男子中学生には拷問に近かったようだ。
頭をたれて前髪で目が隠れているのでさらに怖い。
さすがに皆引いてしまっているが特にアスカとマナはでっかい冷や汗を頭に貼り付けている。
シンジは加持でストレス発散してきたし下着自体は珍しいものではない。
理由は簡単でいまだにシンジは葛城邸の掃除をしているのだ。
ときどき誰のかわからないものが転がっている。
ただし、レイだけはシンジに教えられて自分でちゃんと管理しているが・・・
「ま、いいじゃないか」
一人だけ食後のお茶をすすっていた凪が一人だけ落ち着いた声を出して場を収める。
「霧間先生はいいですよね、沖縄にいけて・・・」
「俺が?」
アスカのうらやましそうな言葉に凪が苦笑した。
「俺も残るぞ」
「「「「「「「え?」」」」」」」
「何で不思議そうな声を出すんだ?お前達がそろっていかないとなると6人も残る事になる。クラスの1割以上が残るとなるとさすがに教師全員で行くわけにも行くまい?」
凪が逆に不思議そうな顔で聞き返す。
言っていることは間違いではないし納得も出来る。
「それで凪さんが?」
「まあな、それより惣流?霧島?」
「「は、はい!!」」
「いい機会だからお前達には暇つぶしをやろう」
「「え?」」
凪の言葉にミサトが二枚のディスクを見せる。
そこにはアスカとマナの成績表の文字・・・
「あんた達、ばれないと思ったら大間違いよ。ネルフの諜報部を甘く見ちゃ〜いけないわよ!!」
「ミサトさん、堂々と職権乱用を宣言するのはどうかと思いますよ?」
「うっ!!」
シンジの容赦ない突っ込みにミサトがうめく
それを見たアスカの目がキラリと光った
「そ、そうよミサト!他の皆はどうなのよ?」
「他の皆はそれほど悪くないわよ?」
「だ、大体、日本の減点制度なんかで何がわかるって言うのよ!!」
「そ、そうです。アスカの言うと〜り!!」
マナがアスカを応援している。
この二人のタッグは珍しいかもしれない。
「だったら赤点なんか取るんじゃないわよ・・・」
「「うっ!!」」
二人はぐうの音も出なかった。
ミサトの言う事はこれ以上なく正しい。
そんな漫才を似ながらシンジは凪に話しかける。
「すいませんぼく達のせいで・・・」
「いいさ、気にするな・・・」
「でもせっかくの沖縄が・・・」
「気にするなといったぞ?」
「は、はい」
言葉は穏やかだが反論できないプレッシャーのこもった声にシンジがうなずく
・・・・・・同じマンションにある凪とマナの家・・・・・・
その家にあるテーブルの上に一つの紙袋があった。
紙袋のロゴはシンジ達が行ったショッピングセンターのもの。
開いた口から布製品が見える。
中身は新しい水着だった・・・・・・
To be continued...
(2007.06.23 初版)
(2007.09.29 改訂一版)
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