ザザ〜ン
ザザ〜ン



シンジの目の前には青い海が広がっていた。
視界の端には水着姿の男女が戯れている。
皆がさんさんと降り注ぐ日の光の下ではしゃいでいた。

「・・・・・・」

だがシンジの顔は厳しい。
泳ぎのスキルを持たない彼にとってプール、川、海などは天敵と言っていい。

そんな彼がなぜ相性悪いはずのこんなところにいるのか・・・

シンジは右手に持っているものを握りこんだ。
・・・・・・カラフルで大きなパラソルを・・・・・・






天使と死神と福音と

第漆章 外伝 〔時には安らぎを・・・〕
前編

presented by 睦月様







「よっしゃムサシ!!あの岩場まで競争や!!!」
「望むところだトウジ!!」

照りつける日差しに野生に戻ったのかトウジとムサシが海に駆け出していく。
二人とも水着姿だ。

「・・・あいつらサルか?」

カメラのレンズを拭きながらケンスケがあきれた声を出す。
シンジはそれには答えず手に持っていたパラソルを地面に刺した。

「ケイタ、こっちに敷いてくれる?」
「うんわかった。」

ケイタがパラソルの日陰になる位置にシートを敷く。
ここは第三新東京市から程近い海水浴場・・・

なぜシンジ達が海にいるのか?
ケンスケのカメラが発端だった。

すべての始まりは数日前・・・

「「な、なんだとぅ!!」」

沖縄から帰ってきたトウジとケンスケの絶叫がクラスに響いた。
完璧なユニゾンをした絶叫に周囲の皆が何事かと注目している。

「「ネルフのプールで綾波、惣流、霧島だけでなく保健の霧間先生の水着を見ただと!!!」」
「あ、ああ・・・」

なにやら使徒をしのぐプレッシャーで二人が迫ってくる。
今、二人のシンクロ率を測ればとんでもない数値が出るだろう。

同時にシンジも自分の失敗を悟った。
二人が沖縄での話をしているときにレイやアスカ、マナの水着姿を写真に取れなかったのが残念だとつぶやいたのに律儀に答えてしまったのだ。
そこからは芋ズル式・・・

「で、でもムサシとケイタも一緒だったし・・・」
「なんだと!!!」

トウジたちが何かやばいものに取り付かれた目で周囲を見てムサシとケイタをロックオン・・・神速の勢いで襲い掛かる。

「「ノ〜!!!」」

・・・あっさりつかまりました。

「ム〜サ〜シ〜」
「ななななななな、何だトウジ!?」

真正面からトウジの目を見たムサシが引こうとするが襟首掴まれてどうにも出来ない。

「ケ〜イ〜タ〜」
「ななななな、なんでしょう?」

隣で同じようにケイタも襟首掴まれている。
ケンスケのメガネが怪しく光った。

「「今度の日曜は暇だな?」」
「「は、はい」」

二人の返事を確認するとトウジの目とケンスケのメガネが背後のシンジを見る。

シンジは戦闘態勢をとって腰を浅く沈ませる。
なんとなく悪魔や妖怪が二人に取り憑いていると言われても信じてしまいそうな雰囲気だ。

「「シンジ・・・」」
「・・・何さ?」
「「今度の日曜は暇だな!?」」
「・・・まあね」

確かに今度の日曜はネルフも休みだ。
だからどうしたと言うのだろう?

「「よっし、今度の日曜・・・」」

何か二人とも気を溜めているっぽい・・・光線でも出すつもりだろうか?

「「海に行くぞ!!!」」

二人の宣言に教室の時が止まる。

数秒後・・・

「「「「「「「「「「「「「「・・・は?」」」」」」」」」」」」」

クラス全員が二人に聞き返した。

「あの後トイレから帰ってきたアスカ達に聞いてみると一瞬で了承・・・委員長も巻き込んで今に至ると・・・」
「何ひとり言つぶやいてんだ?」
「いや、現状確認・・・かな?」

荷物をシートの上に置きながら独り言をつぶやくシンジにケンスケが話しかけた。

「そういえば女性陣は?」
「まだ着替えているようだな・・・って何だありゃ?」

ケンスケの素っ頓狂な声に、浜辺を見るとなぜか集団が出来ている部分がある。
何かを中心に人が集まっているようだ。

「ちょっとごんめんなさいね〜」

人垣を割って出てきたのはアスカを先頭にレイ、ヒカリ、マナだった。
アスカとマナはちやほやされてまんざらでもないようだがレイは迷惑そうだしヒカリは戸惑っている

四人とも水着姿になっていた。
アスカは赤と白のストライプハイレグ、レイは白のワンピース、マナはオレンジビキニ、三人はそれぞれネルフのプールできていた水着を今回も着ている。
ヒカリだけは初見だが青と白のフリルのついたセパレートだ。

「ねえ?どっからきたの?」
「中学生?」
「一緒にお茶しない?」

・・・・・・どうやらナンパされているらしい。
あの面子なら仕方ないが・・・

アスカの顔に少々めんどくさそうな色が出る。
ちやほやされるのは悪い気はしないがそろそろ鬱陶しくなって来たのだろう。
もともとこらえ性のある性格をしていない。

その時、アスカの視線がシンジを見つけた。
青い瞳がシンジを確認すると同時にアスカが笑った・・・・・・ニヤリと・・・

「シンジ〜」

嬉しそうにシンジに手を振ってかけてくる。
猫かぶり100%の笑顔は普段の彼女を知っているものたちからすれば胡散臭いことこの上ない。
その後ろにはレイ、マナ、ヒカリの順番で続く

「まった〜?ごめんね遅れちゃってぇ〜」
「ア、アスカ?」

などと言いながらシンジの腕を取る。

「シンジ君おまたせ〜」
「マナまで何?」

マナもアスカの意図を悟ってシンジの反対側の手を取る。
二人とも何かえらく嬉しそうだ。

「シンジ君?」
「何、レイ?」
「あの人たちは何?」
「何といわれてもなあ〜」

シンジがそう言って彼女達の背後を見るとシンジのことを彼氏と思ったのか男達が離れていく。
中には三人も美少女に囲まれているシンジに相当ヤバ目な流し目を残していく輩までいやがった。
簡単に言うとぶっ殺すぞと目で語っている・・・いやなアイコンタクトだ。

「アスカァ〜」
「なぁ〜にぃ〜?」
「ぼくをだしにするのはやめてよ。夜道に気をつけなきゃならない生活は勘弁してほしい。」
「な〜にいってんだか、こんな可愛い子にサービスしてもらうなんてあんた幸せ者よ?」
「そ〜よ、シンジ君?」
「マナまで・・・」

パシャパシャ

「ん?」

シンジが横を見るとケンスケが夢中でカメラのシャッターをきっていた。
怖いくらいに集中していて声をかけるとのろわれそうな空気をまとっている。
・・・・しかし潮風がカメラにいいとは思えないんだが・・・今のケンスケに突っ込めるならかなりの強心臓か相当の猛者だ。

「ねえ?相田君?」

そんな彼にヒカリが話しかけた。
シンジはおもわずヒカリを尊敬のまなざしで見る。

「今ちょっと手が・・・よっしこんなもんか、何、委員長?」

いい仕事したと言わんばかりの顔とキラリと太陽を反射するカメラのレンズにさすがのヒカリも引いてしまう。

「す、鈴原どこにいたか知らない?」
「トウジ?あいつならムサシと・・・」

ケンスケが見た方向を見ると・・・

「まっけへんで!!ムサシィィィィィィィ」
「ふざけんな!!勝つのは俺だトウジィィィィィィィ」


鬼のような勢いでクロールの競争をしている二人がいた。
息継ぎの合間に会話しているようだが器用な事だ。

「・・・ところで委員長?」

二人の様子にうんざりしたケンスケがヒカリに振り返った。

「え?相田君?どうかしたの?」
「ああ、その水着、沖縄のときと違うね?」
「そ、それは・・・」
「なるほど、トウジのためか・・・」

ヒカリが真っ赤になってうつむいた。
それが何より明確な答えだ。

「ヒカリ…」
「え?ア、アスカ?」

振りかえるとアスカとマナが笑っていた。
もはや、からかう気まんまんである。

「そう…奮発したのね…」
「洞木さん勝負に出たわね…」
「あ、アスカ!!霧島さんも!!そんなんじゃないわよ!!」

ヒカリ、必死の反撃……

「「勝負水着を用意してんのに言い訳が聞くか!!」」
「なによ勝負水着って!!」


女子が三人集まればかしましい…
こう言う事なのかもしれない…

「シンジ君?」
「?、なに、レイ?」
「どういうことなの?」

レイがいまいち理解できないらしく首をかしげて聞いてきた。
シンジはそれに対して大きく頷く。

「それはね、トウジと委員長をなるだけ二人っきりにしてあげようって事」
「どうして?」
「馬に蹴られたくないから、簡単に言うとね二人を温かく見守ろうと・・・」
「い、碇君!!綾波さんに変な事教えないで!!綾波さんも本気にしない!!」
「あ、トウジ」
「え?」

シンジが指差した方向を見ると海から上がってきたトウジとムサシがいた。
なぜか二人とも肩を組んでいる。
暑苦しい光景だ。

「ふっ、俺の勝ちだなトウジ・・・」
「今度は勝つ!浪速のど根性舐めんなや」

二人そろって歩いてくる様子は一勝負終えて友情を高めあった親友達のものだ。

「え?え?ええ?す、鈴原?」

気が動転しているヒカリが逃げ出そうとしたが・・・・・・

ガシ!!

両腕と肩を掴まれて止められた。
左右にはニヤケた笑いを浮かべるアスカとマナ・・・

「何やってんのヒカリ?あいつに見せないで誰に見せるってんのよ?」
「そうよ、洞木さん?女は度胸よ!!」

ものすごいコンビネーションでヒカリの退路を絶った。
ユニゾン以上の息の合いようだ。

ヒカリは状況についていけてない。
うろたえて周りを見回すが皆面白がっていて助けはないようだ。

「ありゃ?委員長?何しとるんや?」

そうこうしている間にトウジが目の前まで来ていて、アスカとマナに拘束されてうろたえているヒカリを不思議そうに見ていた。
まるで捕獲されたエイリアンだ。

「え?こ、これは・・」
「鈴原ぁ〜あんたヒカリを見てなんか言うことあんじゃない?」
「さあ鈴原君?思ったことを言ってみて・・・」

なにやら真ん中でうろたえているヒカリはともかく左右のアスカとマナの目が尋常ではない。
下手に考えなしに答えると・・・・・・・・・・・・・・ヤバイ

「え?そ、そうやな・・・」

なにやら抜き差しならない空気にトウジが緊張する。
隣にいたムサシもなんとなく状況を理解したらしく巻き添えを食わないように一歩下がって観戦していた。

「あ〜委員長?」
「え?な、何かしら?」

たった一言で空気が緊張した。
アスカとマナも手を放して観戦組の仲間入りをする。
残されたのはトウジとヒカリだけだ。

「その水着なんやけれど・・・」
「う、うん・・・」
(((((((おお!!))))))

ギャラリーも緊張感が高まる。

「あ・・・っとなあ〜」
「う、うん・・・」
((((((行くか?))))))

みんなの感想は同じだった
どこに行くのかは知らないが・・・

「え〜っと〜なあ・・・」
「うん・・・」
((((((とっとと決めやがれ!!))))))

別の意味で物騒な緊張も高まる。

「・・・その水着アイスみたいな色しとんな〜」
「「「「「「「・・・は?」」」」」」」
「いやあ〜思いっきり泳いだらのどかわいてしも〜たわ、どっかでアイスで・・・」

ガス!!
 ドス!!
  スブ!!


トウジは言いかけたことを最後までいえなかった。
左右からアスカとマナの絶妙な角度のフックが両頬に決まったのだ。
しかもみぞおちにはヒカリの正拳突きがえぐるように入っていた。

ドサッ

トウジは砂浜に崩れ落ちた。

「な、何でやねん・・・」

お約束なセリフがはける辺り余裕があるみたいだ。
アスカとマナは仕留め損なったと言うような顔をしている。
ヒカリはそっぽを向いていた。

「トウジ・・・お前が悪い・・・」
「鈴原君、ある意味尊敬をとおりこして崇拝の対象だよ・・・」
「トウジ、お前の遺影は自分で用意しろよ?男を撮る趣味はないからな・・・」
「トウジ・・・バカな事を・・・」

ムサシ、ケイタ、ケンスケ、シンジの順番に毒を吐く
さすがに今のはトウジが悪い。
フォローのしようがないほどに・・・・

「シンジ君?今のは鈴原君が何かいったのがいけなかったの?」
「いや、それもあるけれど言うべきことを言わなかったのも悪い・・・」
「?・・・そうなの?」
「そうなの・・・」

シンジはレイの不思議そうな顔に笑い返した。
とにかく笑ってごまかすべきところだろう。

「そういえばアスカ?」
「なに?シンジ?」
「凪さんは?」
「ああ、車を置きに行ってからだからちょっと遅れているのよ。」
「ふ〜ん」

・・・なぜここに凪がいるのか・・・

最初はミサトが車を出して来るはずだったのだが・・・

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ネルフ本部


「ああ〜あたしも行きたかったな〜」
「ミサト、さっさと仕事しなさい!!」

発令所でミサトとリツコはビルのように高く聳え立つ書類の山と格闘していた。
書類の内容はすべてにおいて抗議文だった。

「でもまだこんなにあんのよ〜」
「仕方ないでしょう?A−17の発動は個人資産の凍結も含まれていたんだから、」
「でもその命令ってあたしが出したわけじゃないのに〜」
「まあね、でも日本中の資産家から抗議文が届くなんていうのは確かに予想してしかるべきだったわね・・・」
「あら珍しい、天下の赤木博士が反省?」
「茶化す余裕があるんならさっさと書類を片付けなさい!!」
「う〜いっす」

しばらく書類整理の音だけが響く・・・果てしなく暗い。
というか潤いがない・・・三十路とはいえ妙齢の美女二人がそろっているというのに・・・

「ところでリツコ?」
「なによ?」
「この状況の原因は?」
「原因?・・・ああ、司令なら司令室で副司令と一緒に同じくらいの量を相手にしているはず・・・」
「シンジ君の言葉じゃないけれどほんっとうに余計な事しかしないんだから・・・」
「あら?体制批判?」

リツコが書類から目をそらしてミサトを見る。
応えるようにミサトもリツコを見た。

「したくもなるっしょ?使徒は結局殲滅しちゃったんだからさ、危険を犯して回収しようとしたのが無意味じゃない・・・」
「学術的には興味あるサンプルだったんだけれどね・・・」
「リツコ?あんたそっちに傾きすぎると戻ってこれないわよ?」
「・・・どういう意味かしら」

リツコの額に#マークが現れた。
それを見たミサトの全身から冷や汗が出る。
どうやら墓穴を踏んだらしい。

二人の間の微妙な緊張感を破ったのは・・・

「せんぱぁ〜い、追加で〜す。」

二人そろって見るとマヤが山盛りの書類を持って立っていた。
呆然とする二人にかまわず、マヤはそのまま適当なところに書類を下ろす。

「ふう、重かった」
「マヤ?これは?」
「ですから追加です。」
「・・・・・」

ミサトとリツコは書類の山に恨めしげな視線を向ける。
左右に積み上げられた書類の高さは見上げるほど・・・まったくへりゃあしない。
しかもマヤが持ってきた分も合わせればとんでもない数だ。

「さて、そろそろ終業時間なのでこれで・・・」

言葉の途中でミサトとリツコに詰め寄られた。

「マヤちゃん?」
「は、はい?」
「ちょ〜っち手伝っていかない?」
「え?で、でも・・・」

マヤは必死に腕時計を見せて終業時間をアピールする。
しかし二人にはそんなこと関係ない。

「マヤ?人手がいるのよ・・・」
「で、でも先輩?この書類には先輩か葛城一尉のサインが必要なんじゃ?」
「大丈夫、いちいち確かめる暇人なんていやしないわ・・・」

リツコも長時間の書類相手でかなりてんぱっているっぽい。
かなり問題なことを言っている。

「「いいわね?」」
「は、はい〜〜」

どうやら逆らってはいけないらしい。
ミサトとリツコは問答無用でマヤを椅子に座らせ、後はひたすら3人で書類を殲滅していく。

「ところでシンジ君たち今日は海にいるんですよね?」
「「だから?」」

マヤの言葉に仕事をしながらミサトとリツコが答える。
一瞬も書類から目をそらさない。
とんでもない集中力だ。

「ええ、それでシンジ君の学校の先生が引率で連れて行くっていってネルフの中型バスを借りていったんですよね?」
「ああ、そういえばそうだったわね・・・」

ミサトがマヤの言葉に相槌をうった。
バスの貸し出し許可を出したのはミサトだ。
修学旅行に同行しなかった凪は学校から特別に有給をもらっていたので子供たちのお目付け役を頼んでいたのだ

「あの人凄いですよね、大型の免許だけじゃなく重機の免許も持っているみたいですよ?」
「え?そうなの?」
「はい、自動二種(タクシーなどの免許)以外は大抵そろっているようですよ」

ミサトは凪の事を実はあんまり知らなかった。
一応の身辺調査はしたし、シンジの知人の知り合いという事は知っていた。
本人もあまり自分事を話すことはなかったので気にしてはいなかったのだ。

「それにあの人が海で水着になったら注目の的でしょうね〜」
「・・・・・・そうね」

凪はクールな感じの美人だ
体のラインも申し分ない・・・

最近服のサイズを気にしている某作戦部長にはうらやましい事この上なかったりする。

「若いっていいわよね〜」

リツコがぼそっとつぶやいた。

「あら〜リツコ?あんた気にしてるの?」
「ミサト?あなたも似たようなもんでしょう?」
「あ〜ら、あたしは十分若いわよ?」
「・・・体重、ちゃんと管理しないとダメよ?」
「ぬなっ」

その一言にミサトが椅子から立ち上がって飛びのく。
それを見たリツコは余裕の表情

「何であんたそんなことを・・・」
「この前、健康診断あったでしょう?」
「くっ、あん時か・・・」

ミサトは唇をかむ
しかしすぐに薄ら笑いを浮かべて・・・

「やっぱり三十路は人生経験が違うわね〜」
「・・・なんですって?ミサト・・・あんたも同い年でしょう?」
「私はまだ二十代だし〜」
「29でしょう?」
「いや〜二十代と三十路はこれはもう10歳の差があるわよ〜?」

リツコが椅子から立ち上がった。
うつむいて表情が読めないがその全身から立ち上る雰囲気が彼女が今どんな顔をしているか物語っている。

「せ、せんぱ〜い」

リツコはマヤの声を完全に無視してミサトを血走った目(長時間書類とにらめっこしていたため)でにらんだ。

「ミサト・・・いい度胸してるわね・・・」
「あんたもね・・・・・・」
「「クックックックックックックック・・・」」

二人とも何かに取り付かれたような声で笑う・・・
どうやらかなり精神が病んでいるらしい・・・

「リツコ!!!!!」
「ミサト!!!!!」


「せ、先輩〜〜〜葛城一尉〜〜〜〜」

もはや怒りに囚われた二人を止めるすべはマヤにはなく・・・

発令所が崩壊しかけるという有様になった。

・・・・・・深夜、うめくみたいな泣き声と書類になにか書き込む音が二つ・・・独房で聞こえたという。
これが後にネルフ七不思議と呼ばれる物の一つ目になったとかならないとか・・・・・・

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「ん?」
「シンジ君どうしたの?」
「え?いや、マヤさんの悲鳴が聞こえたような・・・」

シンジは辺りを見回すが当然マヤがいるはずない。
彼女はネルフ本部にいるはずなのだから・・・

「気のせいだよ多分・・・」
「そう・・・」

シンジはレイに笑いかけた
答えてレイも笑う。
それを面白くなさそうに見ていたアスカの額に怒りマークが浮かぶ。

「あんたたち・・・恋人みたいよ?」
「そんな気は今のところないけれどね、アスカ?妬いてるの?」
「な、何バカな事言ってんのよ!!」
「冗談だよ、それより凪さん遅いな・・・」

シンジが更衣室のほうを見ると・・・

「なんだかな・・・」

そこに見えたのはアスカ達の登場のときと同じ、いやそれ以上の人の塊だった。
その先頭にはもちろん・・・・

「お姉さんどこから?」
「お前にいう必要はない。」
「お嬢さんお茶でも?」
「いらん。」
「一緒に泳ぎ・・・」
「連れがいるから却下だ。」

凪もプールで着ていた黒のワンピースにパーカーを着ただけのシンプルさだがそれがむしろ彼女にはぴったりあっていた。
潮風に黒髪をなびかせながら言い寄ってくる男達を一刀両断にしながら歩いてくる。
凪の後ろにはたたっ切られた男達の死屍累々・・・

もちろんケンスケのカメラはうるさいくらいにシャッター音を響かせていた。

「「「かっこいい!!」」」
「かっこいい・・・?」

シンジが嫌な予感を抱いて声の主達を見るとアスカ、マナ、ヒカリが凪を尊敬の目で見ている。
レイだけはよくわかっていないみたいだが・・・・・

「悪いが子供たちが待っているからこのあたりにしてくれ」
「「「「「「「「「「な、なに!!子連れぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」」」」」」」」

しつこく凪にいいよっていた男達が吼えた。
どうやら一児の母とでも勘違いしたのかもしれない。

凪は年齢不肖な部分がある。
凛とした表情や物腰は30代のキャリアウーマンといってもとおるかもしれない。
しかし・・・・・・ちょっと考えればシンジ達のような大きな子供がいるわけない事ぐらいわかるはずなのだが・・・暑さにのぼせたか?

これも夏の魔力という奴だろうか・・・・・
一年中夏のこの国ではその魔力が解ける事はないのかもしれない。
その証拠に無残に敗れた男達が魂が抜けたように去っていく。

「「「「「あわれな・・・」」」」」

シンジ、ムサシ、ケイタ、トウジ、ケンスケは去っていく後姿に同情の視線を送る。
願う事はひとつ・・・・・・・強く生きてくれ・・・・・・・

同じ男としてはもっと励ましてやりたかったが女性陣の前でそんなことをやらかせば後が怖い。
特にアスカとマナ・・・何言われてされるかわかったもんじゃない。

さすがにそれはごめんだった。






To be continued...

(2007.06.23 初版)
(2007.09.29 改訂一版)


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