天使と死神と福音と

第捌章 〔明かされし神実〕
V

presented by 睦月様


「・・・殺せ」

殴られた勢いで壁まで転がっていったフォルテッシモが壁に寄りかかりながら立ち上がった。
体の中心を思いっきり打ち抜かれたくせに意識があるのはさすがだ。
足に来ていてまともに立てないようで、その顔はうつむいている。

「やめておこう、面倒くさいし」

そう言ってブギーポップはフォルテッシモに背中を向ける。
言葉の通り殺す気はないらしい。

「なに!?貴様!!俺をバカにするのか!?」

しかしフォルテッシモは納得しない。
・・・彼の性格なら当然だが。

「生憎と今はあまり時間が無いんだ。それに君を殺す理由が僕には無いしね」
「ふざけるな!!」
「ふざけているのは君だろう?敗者の命は勝者の物だ。だったら殺さないのも僕の自由じゃないか?君が自分が負けたとおもうんなら特にね」
「ぐっ」

フォルテッシモはうめいた。
たしかにブギーポップの言う通りだ。
敗者には何も語る権利はない。

立ち去ろうとしていたブギーポップがあることに気がついて振り返る。

「・・・そういえば君はなぜここにいるんだ?」
「・・・・・・」
「敗者は勝者に従うもんだろう?」
「けっ・・・指令だよ。アクシズの尻拭いだ。」
「尻拭い?」

ブギーポップはフォルテッシモに向き直った。
どうやら興味が沸いたらしい。
フォルテッシモは心底不満そうに話し始める。

「・・・統和機構だって一枚岩じゃない。脱走した合成人間がいる。」
「あのマリオネット君か?しかしゼーレに作られたといっていたぞ?」
「あいつは統和機構の合成人間じゃない。脱走した合成人間が接触した組織がゼーレだ。俺も詳しくはしらないがな」
「・・・君の任務とやらはその脱走者の始末じゃないのか?」
「ハン!!」

フォルテッシモは鼻で笑った。
馬鹿にしたような笑いだがブギーポップは気にしない。
無言でさっさと話せと促す。

「そいつらはもうこの世にはいね〜よ」
「いない?」
「ああ、ゼーレの連中・・・そいつらを徹底的に解剖して合成人間のノウハウを解析したらしい。」
「ほ〜う」
「・・・動じないんだな?」
「僕には関係ないからね」
「ああそうかよ・・・」

二人とも他人の不幸に共感して涙を流すようなそんな殊勝な感情は持ち合わせてはいない。
せいぜい「ご愁傷様」と投げかけるくらいだ。

「まっゼーレという組織の作った合成人間の様子見と可能ならサンプルの回収が俺の仕事だった。」
「なら完全に失敗じゃないのかい?」

周囲は完全に破壊されている。
もちろん床に転がっていた死体ごとだ。
もはや戦自の工作員の死体もマリオネットの死体もミンチになってしまって判別不能になっている。

「知った事か、そもそも俺にこんな指令をだしたアクシズが悪い」
「そうかい」

ブギーポップは再び背中を向けて歩き出した。
聞くべき事は聞いたのでこれ以上ここにいる理由は無い。

「・・・本当に俺を見逃すつもりか?」
「言ったろう?君を殺す理由が無い」
「俺が後ろから不意打ちしたらどうする?しかも統和機構に報告すればお前には安息のときはなくなるぞ?」
「それはないだろう?」

ブギーポップは首だけを振り返ってフォルテッシモを見る。
その顔には左右非対称の笑みが浮かんでいる。

「そんなことをして万が一にも僕が殺されて困るのは君だ」
「・・・なんだと?」
「僕が死ねば君には汚名返上の機会は一生なくなるからな,それは困るだろう?」

それを聞いたフォルテッシモの顔に満面の笑みが浮かぶ。
・・・ちなみに笑顔とは肉食獣が獲物に襲い掛かるときの喜悦から来ているらしいのだが・・・今のフォルテッシモを見ているとなんとなく納得が出来る。

「それは再戦を受けるという事か?」
「さあね」
「くくくっ」

フォルテッシモは首に下げていたアンクをむしりとって放り投げた。
ブギーポップは左手で受け止める。

「”そいつ”がなんだか覚えているな?今度はそれが俺からの挑戦状だ!!」
「”エンブリオ”・・・まだ持ってたか・・・」
「当然だ、お前が約束手形として置いて行ったんだろうが」
「この時期にこの場所にエンブリオまで来るとは、これも”運命”かね?」
「運命?」

ブギーポップの言葉にフォルテッシモはあることをおもいだしてポケットに手を入れた。
取り出したのは一つの封筒・・・

「ん?なんだいそれは?」
「俺にもよくわからん、そら」

フォルテッシモの投げた封筒を右手の人差し指と中指で挟んでとめる。
別に妖しいところなどなく、ごく普通の封筒のようだ。
感触から中に手紙のようなものがあるのが感じられる。

「俺が渡すべきとおもった人物に渡せだと」
「統和機構もよくわからない指令を出すもんだね?」

封筒を確認しているブギーポップをにらみつけながらフォルテッシモがしゃべった。

「とにかくエンブリオが俺からの約束手形だ」
「・・・捨ててしまうかもしれないぜ?」
「それは”そいつ”の運命だ。」
「そうかい、ああそういえばこれからここに巨大なものがくるが手出し無用だ。」
「なんだそれは?」
「君のことだから突っかかっていきそうだからな、あれは僕の獲物”世界の敵”だ。」
「ほう」

フォルテッシモの顔に面白そうな笑みが浮かぶ
悪いくせが再燃したらしい。

「そいつは面白そうだ」
「手出し無用といったはずだ」
「わかっているさ」

そう言って肩をすくめたフォルテッシモの姿が透けていく。
周りの空間に溶けていくようにその姿が薄くなっていった。

「次は・・・俺が勝つ」

その言葉を残してフォルテッシモは完全に消えた。
後には静寂だけが残る。

「空間を渡ったか・・・」
(ところでブギーさん、エンブリオってなんですか?)
「ああ、”紹介”がまだだったね」

ブギーポップは左手のアンクを目の高さに持ち上げた。

「久しぶりだね?元気だったかい?」

シンジはブギーポップの行動がわからなかった。
なぜアンクに話しかけるのだろう?
まるでアンクが知り合いのような言葉だ。

『ヒヒヒッ久しぶりだなぁ〜死神野郎』
「なに!!」
『ん?お前さんさっきの死神とちょっと違うな?』

シンジは思わずブギーポップから主導権を取り戻すほどに驚いた。
装飾品から直接頭のなかに声がひびけばそりゃー驚く。

(シンジ君?これがエンブリオだ。)
「な、なんですかこれは!?」

思わず会話が口から出る。
さすがのシンジも物をしゃべるアンクなど初めてだろう。

(前に教えた事があるね?生物は波長だと、彼はそういった存在の極端な例だ。)
「え?って事はひょっとしてブギーさんがこのアンクに入れたんですか?」
(そうだよ、シンジ君に会う前の話だけれどね)
『なあ坊主?俺の声が聞こえているのかぁ〜』

いきなりアンクから声が聞こえたのでシンジがアンクを見た。
その顔は引きつっている。
アンクと話すのは初めてだ。

「一応聞こえてますけれど?」
『そりゃーいい!!』
「何がですか?」

訳がわからなかった。
話を勝手に進めるこの装飾品にどう対応していいか分からない。

『俺の声は”聞こえる奴”にしか聞こえねぇ、文字どおり”選ばれた奴”って事だ。」
「はい?」
『じれったい奴だな、死神の奴から聞いてね〜のかぁ?』
「い、いや・・・」

エンブリオのテンションにシンジはついていけてなかった。
何でこんなにテンションが高いのか疑問だ。

『俺の声が聞こえているって事はお前が何かの能力に目覚めているか目覚めかけてるって事だ』
「つまりあなたは自分の声を聴いた人の中にある能力を引き出すことが出来るという事ですか?」
『頭いいじゃねぇ〜か、それでお前は何かに目覚めかけてんのか?』

エンブリオの言葉をシンジは整理した
心当たりはある。
ブギーポップの存在もそうだし【canceler】もそうだ。

『もしそれが不安定なら俺を殺せばその能力は確定するかも知れんぜ』

エンブリオが『ヒヒヒッ』と笑った。
シンジの片方の目が細められてブギーポップが出てきた。

「相変わらずの死にたがりかい?」
『ヒヒヒッお前に殺されるのは勘弁だがな』
「そうかい」

ブギーポップは相変わらず左右非対称な笑みでエンブリオを見ている。
顔は皮肉げだがその内心は読めない。

(どういうことなんですか?)
(彼は”声”という形で人の可能性を引っ張り出す。そしてその能力はエネルギー体である彼のエネルギーを浴びる事で確定するらしいんだ。そのためには彼のエネルギーを保持している器を破壊すればいい、彼は拡散して死と呼べるかどうか知らないがそんな状態になる。そのエネルギーによって能力を完璧なものにするらしいんだが・・・)
(そりゃ〜また難儀な話ですね)

エンブリオを懐に入れるとブギーポップは落ちていたバックを拾って歩き出した。

(そういえばもう一つの悪いニュースってなんですか?)
(ん?ああ・・・)

ブギーポップは目の前にある通路の先をじっと見つめた。

「・・・・・・見られたな・・・・・・」

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彼らは走っていた。
理由はわからない。
さっき自分達が見たものも信じられない。

「な、なんなのよあいつら」
「「「「・・・・・・」」」」

アスカの言葉に皆無言、答えなど知らないし言う気にもなれない。

シンジがあまりに遅いのでアスカがいらついて「シンジを迎えに戻る」と言い出した。

その言葉に反対意見は出なかった。
むしろいつまでも追いついてこないシンジのことを心配して自分達も迎えに戻ると言い出したほどだ。

戻ってきて最初に見た光景はシンジが五人の迷彩服の男に囲まれていたところだった。
当然マナたちは救出するために銃を構えたが・・・

シンジは殺到する男達の頭上を飛び越え、いつも持っているバックから黒いマントを取り出して体にまとった・・・そこからが異常だった。

壁に張り付く男・・・
常識はずれな攻撃に翻弄されるシンジ・・・
そして瞬間に移動したシンジの力・・・
そしていつもは見せないシンジの殺気・・・

極めつけは後から乱入してきた男との戦いだった。
”あれ”は人間の介入できる戦闘ではなかった。
理解すらも出来ない。
シンジも別人のようになっていた。
唯一つだけわかるのは・・・・・・シンジはあの常識はずれな男と”互角に戦えていた”と言う事だ。

「なんなのよ一体・・・」

アスカの声は暗い通路の闇に飲み込まれた。

答えられるものはいない。
シンジの秘めた謎は自分たちの走るこの闇のように深く暗い。
・・・・・・・・・・・・・・・・・いまはまだ。

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「なんであかないのよこいつ!!!」

アスカの絶叫に他のみんなが耳をふさいだ。
狭い通路では反響して余計に声が響く。

彼女達の前にあるのは巨大な扉、ここを過ぎれば本部の中に入れるのだが電力が無い状態では単なる壁と代わらない。

「・・・それじゃ開かない・・・」
「んな事はわかってんのよ!!じゃあどうしろっての!?」

レイの冷静な声にアスカが噛み付いた。
混乱しているので少し見境がなくなっているようだ。

「大体あんた司令のお気に入りなんでしょ?何とかしなさいよ!?」
「・・・無理だわ・・・」
「はん、贔屓されている特別な子は違うわね!!」

アスカは歯止めが効かなかった。
原因はシンジの戦闘を見たからだ。
昨日までシンジと自分には差こそあれ追いつけるとおもっていた。

しかしさっきの戦闘はそんな次元ではない。
理解できない事にアスカだけでなくほかの皆もショックを隠せなかった。

「贔屓なんてされてないわ!!」

珍しくレイが声を荒げた。
彼女も表には出さないだけで平常心とは言いがたい。
売り言葉に買い言葉で感情が暴発している。

「特別扱いもされてない、自分でわかるもの・・・」
「ふ、ふん!・・・・・・悪かったわね・・・」

アスカも言い過ぎている事に気づいて黙る。
その様子に護衛のマナたちがほっと胸をなでおろした。

「と、とにかく他のルートを探そうよ」
「そ、そうだなケイタの言うとおりだ。」

ムサシとケイタがこの場を取り繕うために出来るだけ笑いながら話をあわせる。

「そ、そうよねこのままここにいても・・・」
「いや、その必要は無いんじゃないかな?」

マナが同意しようとしていたところにみんなの良く知った声がさえぎった。

全員の視線が集まる場所には・・・

「シ、シンジ・・・」

アスカのつぶやくような言葉の示すとおりにそこにいたのはいつものスポーツバックを肩にかけたシンジだった。

「おまたせ、ちょっと野暮用があってね」

そう言っていつもの温かな笑顔で笑いかける。
それはいつもと変わらない・・・皆の知るシンジだった。

「この扉さえ開けば本部には入れるんでしょ?」
「で、でも電気がきてないから開かないのよ。」

シンジの言葉にマナが答えた。
他の全員もうなずく

「ようは”開ければ”いいんでしょ?」
「そ、そうだけれど」

マナの疑問には答えずに、シンジは扉に近づいていく
片手でふれた次の瞬間・・・

「開け」
「「「「「え?」」」」」

シンジがボソッと言った言葉の通りに扉が左右に開いた。
あまりの出来事に全員の口から驚きの声が漏れる。
電力が来てなく、開くはずのない扉がシンジが触れてつぶやいた瞬間にあっさりと開いたのだ。

「な、なにをしたの?」

レイが思わずシンジに聞いた。
シンジはちょっといたずらっぽく笑う。

「ん?ちょっとした魔法だよ。それより早く行かないか?どうやら使徒が近づいているみたいだ。」
「「「「「な!!」」」」」

言われた言葉にみんなの時間がとまる。
軽く笑ってシンジは歩き出した。

「ち、ちょっと待ちなさいよ!!」

アスカがあわててついていくのにしたがって他のみんなもシンジの後を追った。

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カツン・・カツン・・

非常等の明かりの中をシンジを先頭に6人は歩いていた。
誰もしゃべろうとはしない。

いや・・・正確にはわからないのだ・・・
目の前にいる少年の存在が・・・・・・

問いただしたら何かが終わってしまう。
そんな予感に誰も動けなかった。

しかしこのままではいけない・・・・・・

「ね、ねえ?・・・シンジ?」
「ん〜?な〜に?」

アスカの問いかけにいつもよりのんびりした声が返ってきた。
明らかに何か含んだもののある返事だ。

「あ、あんたさ・・・」
「ん?・・・あ、ちょっと待った」
「え?」

いきなり話を中断させられてアスカが呆けた顔になる。
シンジは真剣な顔で辺りを見回していた。
何か探しているらしい。

「・・・こっちか・・・」

そう言ってシンジはケージまでの通路とは別の方向に歩き出す。
皆あわててそれを追った。

『ちょっと〜誰かいないの〜』

とあるエレベーターの前でシンジが立ち止まるとなにやら聞き覚えのある声が中から聞こえた。

「ミサトさんですか?」
『あ、シンちゃん?よかった〜閉じ込められちゃったの!!誰か呼んで来て〜』
「出れればいいんですよね?」
『え?そりゃあそうなんだけど〜』

シンジはエレベーターに手をつくと再び能力を開放した。

ギギギギ・・・

ゆっくりと開いていく扉を見て二回目だというのに皆驚きの顔になっる。
電力も無く軽く触れたとしか見えなかったのにエレベーターの扉が開いたのだ。

「ああ〜やっと出られた。アリガト〜シンちゃん」
「やれやれまいった」

エレベーターの中からミサトと加持が出てきた。
どうやら二人してずっとここに閉じ込められていたようだ。

「あれ?加持さんも一緒だったんですか?」
「ああ葛城と一緒に閉じ込められちまって・・・ん?アスカ?どうしたんだ?」

呆けた顔のアスカを見た加持が不思議そうに聞くとアスカに意識が復活した。
加持とミサトに見えない位置でシンジが人さし指を唇に当てる。
黙っていろと言うことだろう。

「な、なんでもないのよ加持さん!!」
「そうか?」

加持はいまいち納得してないようだ。

「それより今使徒がここに向かってきているようですよ?」
「な、なんですって!!」

シンジの言葉にミサトが絶叫する。
はっきり言って一大事だ。
シンジのように平然と言えることではない。

「い、一大事じゃない!!」
「そうですね」
「こうしちゃいらんないわ!!」

そう言って駆け出そうとしたミサトの足が止まる。

「・・・その前にちょ〜っちトイレへ」

などといいながら方向転換してトイレに向かうミサトをシンジと加持は苦笑で見送った。
・・・・・・他の面々はシンジから目をそらさなかった・・・いや、そらせなかった・・・

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「ミサト!!あんたなにしてんの!!」
「ご、ごみん・・・」

ケージにつくなりリツコの怒声がとんだ。
それも仕方ないだろう。
今現在かなりの緊急事態に加えて使徒がここに向かってきているのだから

「やることは鬼のようにあるのよ!!大体!!」
「わーってるって、・・・使徒が来てるんでしょう?」

おちゃらけた雰囲気が一新され作戦部長の顔がのぞく。

「・・・いいわ保留にしときましょう」
「きっついわね、それでエヴァの発進準備は?」
「進んでいるわよ。」
「え?電力もなしにどうやって?」
「人の力で、司令の発案よ」

そう言ってリツコが指差す場所には技術部のスタッフに混じってゲンドウがいた。
エントリープラグを動滑車を利用して吊り上げている。

「あら珍しい、司令が率先して指揮を執っているのね。」
「ええ、あの人もやるときはやるみたいね」

ミサトとリツコの横でシンジが黙ってゲンドウを見上げた。
それに気づいたリツコが話しかける。

「シンジくん?どうかした?」
「いえ、何かとても珍しいもの見てるな〜と思って」
「え?」
「あの人がちゃんと仕事らしい仕事をしているのはじめてみた。」

シンジの一言に周りの皆が吹きだしてしまいゲンドウのサングラス越しににらまれた。

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『各機実力で拘束具を除去して発進しろ!!』

エントリープラグの中にゲンドウの声が届いた。

(まあ間違った指示じゃないけれど今回は率先して指揮を執ってるな)
(大方人心掌握だろうよ、彼はビジュアル的に愛されるような顔してないからね、頼れる指揮官を演出したいんだろうさ)
(・・・時々こんな風に人の裏側を簡単に見抜けると夢も希望もないなって気になりますよ)
(君の場合はそれはプラスな事だからね)
(まあその通りなんですが・・・)

シンジは初号機を操って拘束具を押しのけた。
鋼鉄の拘束台がひしゃげて破壊される。
横を見ると零号機と弐号機も出てきているのが見えた。

「さて、行きますか」

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『かっこわる〜い』

アスカが今の状態に不満を漏らした
エヴァ3機はダクトの中を匍匐前進の様な格好で進んでいる。
肩のウエポンラックの後ろには携帯用の電池を搭載してパレットガンをくくりつけていた。

『こんな格好、加持さんには見せらんないわ・・・』

何かを振り払うかのようにいつにもましてアスカは饒舌で陽気だった。

「仕方ないさアスカ」
『そ、そうね・・・』

アスカはシンジの言葉にどこかよそよそしく答える。

「・・・・・・」

レイはそんなやり取りを黙って聞いていた。
しかしその視線はエントリープラグに映ったシンジの顔から離れない。

レイはシンジのことを警戒してはいなかった。
むしろシンジの背負っているものの一端が見えたことでさらにシンジのことを意識していた。

ガン!!

ダクトの端についたところで先頭の弐号機がダクトの端を蹴り飛ばしてエレベーターシャフトに出た。
ここからはロッククライミングだ。

『よっしこの上ね?』
「らしいけれど・・・ちょっと待った!何か変だ!!」

シンジの言葉にアスカが上を向くとエレベーターシャフトの天井の様子が変だ。
黄色いしみが広がっている。

ドロリ

黄色い色の液体がしずくとなって落ちてきた。

ジュワ!!

エヴァの装甲についた液体から煙が上がる。

「ちい酸か!!戻れ!!!」

シンジが叫ぶとレイとアスカは出てきたダクトに入り込む。
その時、溶解液でパレットライフルの固定帯が溶けて落ちていった

ダクトの中でシンジが背後を見ると黄色の液体がどんどん下に落ちていく。

「まいったな・・・」

シンジは初号機にプログナイフを抜かせるとエレベーターシャフトに差し出した。

ジュウウウウ!!

寒気のする音と共にプログナイフが溶けた。
シンジは溶けたナイフを放り捨てる。

「この溶解液でドグマに行くつもりか?気の長い話だ」
『落ちついてる場合じゃないでしょう?』

アスカから通信が入った。
開いたウィンドーを見ると怒ったようなアスカの顔があった 
少しいらついているらしい。

『作戦があるわ』
「どんな?」
『一人がここでディフェンス、使徒からの攻撃を防ぐ、その間にサポートが下に下りてパレットライフルを回収してオフェンスに渡し一斉掃射、どう?』
「ディフェンスは誰?」
『もちろん私よ!!あんたには借りが貯まっているからそろそろ返しとかないと気持ち悪いのよ。』
「・・・却下」
『な!!』

シンジのだめ出しにアスカが面食らった。
レイもその赤い瞳を大きく見開いている

『な、何でよ!!』
「アスカが危険だ、だからダメ」
『そ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!!』

モニターに映るアスカの顔は赤かった。

『ほ、他に方法があるっての?』
「あるよ」
『『え?』』

アスカだけでなくレイも驚きの声を上げた。
その様子にシンジは計器をチェックして発令所との通信が切れていることを確認する。
さすがに電力の回復してない今はそこまでの余裕はないらしい。

「今は発令所もほとんどぼくたちをモニターしきれてないはずだからね、都合がいい」
『ち、ちょっと待ちなさいあんた何するつもりよ!!』
「アスカ?」

名前を呼ばれたアスカがモニターを見るとシンジは真剣な顔をしていた。

「見たんでしょ?」
『『うっ』』

二人の少女が言葉に詰まる。

「ちょっと行って来るよ、すぐに終わる」
『え?ち、ちょっと待ちなさいよ!!』

アスカが弐号機で初号機を掴もうとした瞬間・・・

スカ!!

初号機の姿が消えて弐号機の腕は空を切った。

『そ、そんな!!』
『・・・・・・』

アスカとレイは呆然と初号機のいた空間を見ていた。

ドン!ドン!ドン!

『『え?』』

いきなりの音にあわてて音の方向を見た。

その方向は黄色い溶解液が滴り落ちてきているエレベーターシャフト・・・・・・
そこに落ちてきている黄色い溶解液に別のどす黒いものが混じる。

二人は瞬間に理解した。
これは使徒の血であると・・・
何をしたのかはわからないがシンジが使徒を殲滅したのだ。
それは間違いない事実・・・・・・

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地上ではいきなり現れた初号機と穴だらけのマトリエルの残骸があった。
地上に出た瞬間にブギーポップの衝撃波がマトリエルを穿ったのだ。

まさに瞬殺である。

「なるほど、あれが世界の敵とやらか」

初号機から少し離れたところにフォルテッシモの姿があった。

「くくくっ、面白くなりそうだ」

その言葉を残してフォルテッシモの姿は再び空間に溶けた。

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『なあ?お前何してんだ坊主?』
「見てわかりませんか?それとぼくの名前は碇シンジです。」
『そりゃあ悪かったなシンジ?』
「いきなり呼び捨てですか?」

シンジはテーブルの上に”6人分”のお茶の用意をしていた。
シンジと話しているのはその首元に下げられているアンク・・・エンブリオだ。

『しっかしお茶会か?マッドティーパーティーかよ?』
「あなたはエンブリオ(卵)だし、ちょうどいいですね」
『おいおい、俺はハンプティ・ダンプティか?』
「ハンプティ・ダンプティ塀の上、ハンプティ・ダンプティ落っこちた、王様の馬と大さまの兵士全部でも、二度と元には戻せない」
『マザーグース・・・皮肉かよ?』
「さてね・・・」

エンブリオと話しながらも6人分の茶菓子を用意するとシンジは一息ついた。
その表情には余裕がある。

『来ると思ってんのか?』
「はい、間違いなく」
『あいつらの事わかってんだな?』
「・・・どうでしょうね、所詮人間は自分のことで手一杯ですから全部わかりあうことは出来ませんよ。でもこれだけは言えます、彼らは子供だからその好奇心を抑える事が出来ないでしょう・・・解からない事をそのままにしておけるような性質じゃない」
『だからここにくるって〜のか?それだとお前は子供じゃないように聞こえるぜ?』
「子供ですよ、だから反対の立場ならここに来るでしょうね」
『ヒヒヒッそういうところはガキとは思えね〜な』

ピンポ〜ン

玄関のチャイムが鳴った。
誰か来たらしい。

「は〜い」

シンジは歩いて玄関に行き、扉を開けた。
そしてその先にいる皆を見るとシンジの顔に微笑が浮かぶ

「いらっしゃい、待っていたよ」






To be continued...

(2007.06.30 初版)
(2007.07.14 改訂一版)
(2007.10.06 改訂二版)


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