天使と死神と福音と

第捌章 〔明かされし神実〕
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presented by 睦月様


綾波レイがいる、あや波レイがいる、綾ナミレイがいる、アヤナミれいがいる、あやなみレイがいる、アヤ波れいがいる……アヤナミレイガイル…

シャッターの先にあった水槽、そこに満たされたLCLの中にアヤナミレイと呼ばれる存在がいる。
まったく同じ綾波レイ達が数十人・・・全裸でLCLの中を漂っていた。

水槽の中の彼女達が一斉にシンジ達を見た。

「「「「ひっ」」」」

アスカ達が短く悲鳴を漏らす。

シンジと凪は不愉快そうにそれを見ていた。
彼女達が自分達を見たのはただの反射だろう。
ここにあるのは魂の無い存在なのだから……ただ目の前に現れたシンジ達に反応したに過ぎない。

だがその意思の無い瞳が出会ったばかりのレイを思い出させてシンジは顔をしかめた。

「レ、レイ…あんた…」

アスカが恐る恐るレイに聞いた。
レイは顔をうつむかせたままそれに答える。

「私は作られた存在…エヴァと…そして使徒と同じもの…そしてこれは私の予備の体・・・クローン・・・」
「「「「……え?」」」」

アスカ達はレイの言葉の意味を理解するまでに数秒かかった。
同じ時間をかけてその顔が恐怖にゆがむ。
全員がレイから一歩距離をとる。

「そ、それじゃ・・・あんた・・・」
「アスカ!?」
「シンジあんたなんでこんな事黙っていたのよ!!」
「アスカ!!!!」

珍しくシンジが声を荒げてアスカをとめる。
その剣幕にアスカだけでなく他の皆もびくっと硬直した。

表情を消したシンジが口を開く。

「・・・それでもレイはレイだ。それでいいじゃないか・・・」
「で、でも・・・」
「それ以上に何がいる?」
「・・・・・・」

アスカは反論できなかった。
シンジは横目でうつむいたレイを確認すると愕然として二の句が告げられないでいる4人と向き合う。

「あとエヴァは使徒の細胞から造られてるって言ったよね?」
「ええ・・・」
「正体不明のはずの使徒の細胞を使って人類を守るための最終兵器を作るなんてネルフは神様かなにか?」
「え?」
「・・・人間と使徒は遺伝子の配列の差が0,11%しか違わない、さらにエヴァも同じ遺伝子配列をしているって知ってた?誤差を入れたら使徒とエヴァの遺伝子配列は人間のものだ。」
「な、何が言いたいの?」

全員を見回したシンジは深呼吸を一つついて覚悟を決めた。
これが本題だ。

「ぼくたち人類は・・・使徒だ・・・」
「「「「「え!?」」」」」

この一言にレイを含めた5人が驚愕の叫びを上げる。
どうやらレイもそのことは知らなかったらしい。
シンジの言葉に純粋に驚いている。

アスカが呆然としたまま口を開いた。

「何言ってんのあんた・・・」
「残念だけど冗談でも嘘でもないんだなこれが・・・」
「そんなはずないわよ!!だって大きさがあんなに違うのよ!!!」

シンジは黙ってレイを見る。
その意味に気づいてアスカが言葉に詰まった。
目の前に人間サイズの使徒がちゃんといる。
体の大きさで単純に判断できないいい見本だ。

シンジはレイに向き直る。

「レイ?」
「シンジくん・・・」
「わかっているね?」

レイはシンジの言葉にうなずいて手の中のリモコンを見た。
やはりレイもシンジが何をしてほしいのか理解している。
そしてこのリモコンはそのための物・・・

「ちょっとシンジ・・・何するつもりよ?」
「ん?ああ、ここのレイのクローン体を処分する。」
「な、なんですって!!!」

アスカの絶叫に皆うるさそうに耳をふさぐ。
無理もない・・・アスカはさらに大声で怒鳴り倒した。

「何でそんなことすんのよ!!」
「理由からいうとこれを残しておくと今後レイが殺されるかもしれないからね」
「なんですって!!なんでそんな・・・」
「やかましい!!・・・静かにしてくれ・・・」

怒声でアスカを黙らせたシンジはレイを見る。
今一番苦しいのは誰でもなくレイだ。

「レイ・・・つらいと思う、でも・・・」
「シンジくん・・・わかっている」

レイの肩が震えているのをシンジは見逃さなかった。
これからやるのは彼女にとっては自分の分身を殺すことだ。
つらいと思う。
しかし彼女が唯一無二の”綾波レイ”になるためには必要な事だ。
それにこれを残しておくとあのバカがちょっかいを出してこないとも限らない。

「・・・ごめん・・・」
「・・・いいの・・・」

そう言ってレイは一歩前に踏み出す。

水槽の中の”綾波レイ達”の視線が自分達と同じ”綾波レイ”に向けられる。
しかし両者の間には大きな差があった。
自分の道を決めることの出来る自由と意思を持つ綾波レイ・・・
自分の意思どころか魂も持たない本能だけの綾波レイ・・・
同じ”綾波レイ”であるはずなのに多くは無へ・・・一人は未来へ・・・

それは目の前の水槽のガラスのごとく・・・明確に・・・単純に・・・・・・無慈悲に・・・・・・・・
大勢の綾波レイとただ一人の綾波レイを別っていた。

境界線の前に立つ”綾波レイ”は”自分達”をその赤い目でみている。
境界線の先にいる”綾波レイ達”は感情の篭らない瞳で見返してくる。

「・・・ごめんなさい」

レイの言葉と共に水槽の中に気泡が現れる。
手の中に収めているリモコンのスイッチをレイが操作したのだ。

・・・この場にいる全員の視界の中で綾波レイたちは崩れていった。

「ごめんなさい・・・」

レイは崩れていく自分達を見送った。
その瞳は潤んで雫がほほを流れていく。

他の皆は黙ってそれを見ていた。
その光景は恐ろしいが不思議と嫌悪はない。

なぜなら崩れていく”綾波レイ達”はそろって微笑んでいるのだ。
まるでやっと籠から出られて自由になった鳥のように穏やかだ。

彼女達は目の前のレイに感謝しているのかもしれない。

自分勝手な感傷かもしれない。

魂のない彼女達がそんなことを思うはずはないとは思う。

でも彼女達がつながれていた鎖を切ったのは目の前にいるレイだ。

崩れていく彼女達を見ながらシンジは一つの思いを抱いた。
彼女達の魂がレイに宿るのなら・・・

そうすればレイのスペアーとしてしか存在していなかった彼女達にも未来が与えられるのかもしれない。
レイと一緒にこの世界を生きていけるかもしれない。

最後の一人が無に帰って・・・彼女はただ一人のレイになった。

レイはじっと彼女達が消えて言った水槽を見つめていた。
不意にその両肩に手が置かれる。

振り返るとシンジと凪だった。

「ごくろうさん」
「そしておめでとう」

レイはシンジの胸に飛び込んで泣きじゃくった。
生まれたとき、最初に泣く事を産声と言う。
だとしたらこの涙と泣き声が彼女の産声なのだろう。
14歳で二度目の生誕を経験した少女は少年の腕の中に守られながら産声を上げ続ける。
自分の存在をこの世界に示すかのように・・・

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「すまないな、そろそろ時間だ・・・」
「いえ・・・」

レイが泣き止むのを待って凪が話しかけた。
さすがにいつまでもこんなところにぐずぐずしていられない。

それにいつまでもいたい場所でもなかった。

「じゃあ凪さん、みんなのことお願いします」
「?お前はどうするんだ?」
「もうちょっとしてから別口で帰りますよ」
「何でだ?」
「監視カメラにひっかかっとかないとリツコさん達困るでしょ?」

シンジはまだ気絶しているリツコ達を見た。
ネルフの最深部にいきなり現れた侵入者・・・警備が緩かったと言っても普通ならありえないことだ。

このままではリツコ達が疑われて罰を受けるかもしれない。
そうならないようにここに不審者がいたという証拠を作るつもりだ。

「サービス精神旺盛じゃないか?」
「他にもここ、適当に壊しといたほうがいいですしね」
「わかった。シンデレラの魔法が消える前に退散するとしよう。・・・ん?」

凪がレイを連れて皆の所にいこうとしたとき、リツコが操作していた端末のディスプレイが目に留まった。
その項目に”Ayanami Rei”の文字があったからだ。

「ちょっとすまん」

凪はモニターの情報を見る。
どうやらレイの健康診断の結果らしい。

凪も専門家であるリツコ達ほどではないがそれなりの知識があった。
表示されている内容を見た凪の顔が何かに気づいたものになる。

「これは・・・ほう・・・」
「どうかしたんですか?」
「ああ・・・いや、帰ってから話そう・・・」
「そうですか・・・」

凪は今度こそ皆を連れて部屋を出て行った。

その後ろについていくアスカ達は皆うつむいている。
いつもの覇気と言うか・・・普段無意味に明るいマナでさえじっと地面を見つめたまま去っていく。
皆・・・この数時間で自分の信じているものが正しいのかわからなくなっているのだろう。

「無理もないな・・・さて・・・」

シンジは凪たちが去った後、リツコとマヤを適当な部屋に押し込め戻ってきた。
部屋を一通り見回すと好戦的な笑みが浮かんだ。

遠慮も何も必要ない。
ここまで思いっきり力を使えることは早々ないだろう。
しかもまったく罪悪感がわかないどころかむしろ完膚なきまでに破壊し尽くすべきだとシンジとブギーポップは満場一致で決定していた。

「さて、そろそろ・・・始めようか・・・」

その言葉の前半はシンジ、後半はブギーポップのものだった。

『いいのかぁ〜?ここぶっ壊して?』

胸元のエンブリオが話しかけてきた。
ブギーポップの左右非対称な笑みが自分の胸に下がっているアンクを見下ろす。

「おや?そういえば持ってきてたんだった、よく今までしゃべらなかったね?」
『けっ!しゃべれる雰囲気じゃなかっただろうが!?』
「静か過ぎて忘れていたよ。」

その言葉を言い終える前にブギーポップの両腕から衝撃波とワイヤーが飛んだ。

・・・・・・その後
意識を取り戻したリツコとマヤが部屋に戻ってみるとそこはすでに廃墟になっていた。
あらゆるものが穿たれ切り刻まれ、潰された部屋はまるで八つ当たりされたように容赦がなかった。
これをやったのはあの死神以外ない。
あらためてリツコとマヤは彼のリストに載らなかった幸運を感謝した。

リツコとマヤが自分の命が助かった安堵を噛み締めているのと同時刻・・・

『なあ?』
「なんですか?」
『これって普通ぅ〜は男と女反対じゃないか?』
「男女差別ははやりませんよ?ぼくはフェミニストじゃありませんから」

シンジは胸元のアンクに話しかけた。
その先にはレイの寝顔がある。

今どういう状況かというとシンジの太ももを枕にしてレイが眠っている・・・膝枕だ。

あの後、適当に監視カメラに映ってから帰宅したシンジの部屋にはなぜか・・・というか当然というか・・・凪とレイがいた。

特にレイの場合はシンジの顔を見ると問答無用で泣き付いてきた。
散々泣かれた後でシンジの太ももを枕にしたレイが泣き疲れてしまって今に至る。

「シンジ?」

自分の名前を呼ばれたシンジが見上げると声を絞った凪だった。
レイを起こさないように気を使っているようだ。

レイが寝付くまで待ってから話しかけてきた。

「凪さん?どうかしましたか?」
「ああ、ちょっと家に帰りづらくてな、今日は泊めてくれないか?」
「ええ、どうぞ、でもいいんですか?」
「霧島のことか?あいつなら大丈夫だろ・・・俺なんかいるだけ邪魔だよ。」

凪はマナと同居している。
さすがに今日くらいは彼女を一人にしてやりたいのだろう。

おそらく混乱しているだろうがマナは強い、自分で自分の答えを出せる強い子だ。
しかしそれでも・・・マナだけでなく子供たちが知ってしまった真実は重くて深い。

そこにすべてを知っていた凪がのこのこ顔をだしても混乱させるだけだろう。


「ところでさっきから誰と話してる?」
「…え?」

シンジはあまりの意外さに一瞬呆けた。
独り言でなく”会話”として聞こえたと言う事は・・・

『ありゃ?アンタも俺の声が聞こえるのか?』
「だれだ…」

凪は警戒して周囲を見まわす。
シンジは凪の目の前にアンクを差し出した。

「これは何だシンジ?」
「エンブリオって言うらしいですよ。ブギーさんの知り合いらしいですよ。このアンクにいれたのもブギーさんの仕業だそうです」
「何?エンブリオ?」
「知ってるんですか?」
「むかし間接的にかかわった事がある。人の可能性を引き出す卵…見つからないわけだ・・・あいつ、こんな特技まであったのか…」

エンブリオが『ヒヒヒッ』と笑った。
彼なりの挨拶かもしれないが不気味なことこの上ない。

『あんたも俺の声が聞こえるって事は何かの能力に目覚めているか目覚めかけてるんじゃあね〜か?』

エンブリオからの声に凪が少し考え込む。
その顔は真剣だが・・・何かに思い至った凪がどこかつらそうな顔になる。

「・・・思い当たる事はある。」
『ほ〜う、そりゃ〜なんだ?』
「昔の事さ、原因不明の内臓疾患になった事がある。もう治ってはいるがそれか?」
『クククッそりゃあ間違いだ。あんたは治ってなんかいね〜よ』
「なに?」
『あんたの中でその内臓疾患とやらの残り火がまだ燃えてるじゃあねえか、いつまた燃え上がってもおかしかぁ〜ね〜ぞ?』
「・・・・・・」

エンブリオは「ケケケッ」と笑った。
凪はエンブリオの言葉を少し考えた後シンジを見た。

「…まあいい、それよりシンジ?」
「なんですか?」
「よかったのか?あんな事まで話して?」
「まあ、ぺらぺらしゃべったら命が無い事くらい彼らもわかっているでしょ?これ以上かかわるようならただのバカですよ」

シンジは軽く笑った。

「…お前はあいつらにそのバカを期待してるんじゃないか?」

凪の一言にシンジの笑いが止まる。
まるで映画のコマ送りのような唐突な変化。
珍しく動揺しているようだ。

「…なんでそう思うんです?」
「わざわざドグマまであいつらを連れて行く事は無かった。あいつらが信頼できると思ったから連れて行ったんだろう?」
「……」
「別に責めているわけじゃない、あいつらも自分の身は自分で守るべきだ。特に綾波と惣流はな、それに…」

凪はシンジの顔を正面から見た。
二人の視線が交差する。

シンジが凪を・・・凪がシンジを真正面から見る。
二人とも決して目をそらそうとしない。

「…おまえも誰かに頼るべきだ。」
「ぼくは…」
「おまえが綾波や惣流、他の皆も含めて守ろうと必死になっているのはわかる。しかしドグマで惣流が言った様にあいつらは守られているだけじゃ満足しない。たとえお前がどんなに必死でも指の間からこぼれていく雫はあるもんだぞ?」

凪はそう言うと立ちあがって部屋に向かった。

「お前は最強でも万能でもない、今お前が感じている力不足はお前一人でどうにかなるもんじゃないんだよ。」
「凪さん…」
「少なくとも綾波はお前の事を信じているよ。じゃないならそんな寝顔はしない。」

そのまま凪は部屋の中に消えた。
シンジはその後姿を見送るとレイの寝顔を見下ろす。

とても安らかな顔だ。

『いぃ〜寝顔じゃねぇ〜か?』
「いくら信頼していても女の子がこうも無防備だとちょっと困るな…」
『ケケケッもてるなぁ〜シンジ?』
「嫌味を言うなら捨てますよ?卵らしく殻に閉じこもっていてくださいよ。」
『お前が言っても説得力ねぇ〜よ』

エンブリオの言葉にシンジは何か含むものを感じた。
この卵・・・何かに気がついているようだが・・・

「何か言いたい事あるんですか?」
『おう!お前なんで自分の能力に殻を作ってるんだ?』
「え?殻?」
『そうだ、精神的なモンがお前の能力を歪めて本来の能力の形を覆い隠してやがる』

予想もしなかった言葉にシンジが驚く。
しかしレイを起こさないために声は出さない。

『ケケケッお前やっぱり気づいちゃいなかったな?』
「どう言う事なんです?」
『さ〜な、俺がわかるのは“お前の今の能力は本来のものじゃない”って事だ。』
「それは…」
『お前、能力にかなり制限があるだろう?』
「え?まあ…」
『それがおかしいと思わなかったのか?自分の中から生まれたはずの力なのにそんな不自由をしなけりゃ使えない時点でおかしいだろう?呼吸をするのに制限があるか?動く事に制限があるか?』
「……」

エンブリオは本当に愉快そうに笑う。
授業中に教師のうっかりを見つけてやり返した生徒のような笑いだ。

『お前が気づいてなかったって事は考えてやったんじゃねぇ〜ようだな?まあそんな器用な奴にも見えないし』
「だからあなたを壊して能力を完成させろって言うんですか?」
『ヒヒヒッそりゃ〜無理だ。残念だがよぉ〜』
「え?」
『お前の能力は“自前”だろ?それに能力は完成しちまってるよ。』
「それは…興味があるね」

会話の途中でブギーポップが出てきた。
どうやらエンブリオの話に興が乗ったようだ。

『よ〜う死神!!死ねるかどうか知らんがさっさと死ね!!』
「いきなりご挨拶だな」

ブギーポップは特に気にせず片目を細めた。
この程度のやり取りは二人にとって挨拶に近い。

「それよりシンジくんの能力に殻があってその中味は完成してるのは本当かい?」
『おうよ!シンジの能力が何かはわからね〜が今の状態が殻を通す事で歪んじまってるのは間違いね〜よ。俺を壊しても能力が完成しちまっていたらそれ以上はどうしようもねえ〜しなぁ〜』
「なぜ殻なんてものがあるんだい?」
『知らねぇ〜同居しているお前も知らん事聞くな!』

ブギーポップはエンブリオに聞くのをあきらめた。
おそらく嘘は言っていないだろう。
それだけで十分だ。

(どう言う事かわかるかい?)
(いえ、ぼくは自分の能力がどうやって目覚めたのかも知りませんし)
(そうだったね)

シンジ自身にもエンブリオの言葉は意外だった。
能力に関係した能力を持つエンブリオが言うんだから間違いはあるまい。
しかし本人にすら記憶の無い殻とは…

「……とりあえずは保留か……」
『ヒヒヒッそれがいいさね、あせってもお前が殻の正体を理解しねぇ〜事にはどうしようもねぇ〜よ』

シンジのつぶやきにエンブリオが愉快そうに答える。
何がそんなに面白いのか疑問だ。

『お前が殻の正体に気づいて能力を使えばその時点でお前の能力は固定される。そうすれば今の能力は使えなくなるだろ〜な、その代わりお前は自分の本当の能力を使えるようになるはずだぜぇ〜』
「ぼくの本当の能力・・・?」

シンジのつぶやきにレイが身じろぎした。
どうやら起こしてしまったらしい。

「ん?あ、ごめんレイ、起こしちゃった?」
「ん〜」

どうやら寝ぼけてるらしい
手の甲で猫のように目元をぬぐっている。
そのしぐさが愛らしくてシンジは思わず笑ってしまった。

「?」
「ああ、ごめんごめん、まだ眠いならもう一度寝たら?」
「ん〜」

レイはシンジの首に手を回してきた。
どうやらシンジに抱きつくつもりらしいが・・・

「なにぃぃぃぃ!!」

シンジの視界いっぱいにレイの目をつぶった顔がある。
しかも唇にはやわらかい感触・・・・・・っとくれば当然・・・・・・

レイはシンジにキスをしていた。
もちろんこれはやろうとしたわけじゃない。
レイはあくまでシンジの首に抱きつこうとしたのだ。
しかし彼女は寝ぼけていたため・・・・・・目標がずれた。

シンジも不意打ちのキスにあわてているが程なくレイの体が崩れ落ちたのでそれを抱きとめた。
見れば姫君は再び夢の国に旅立っていらっしゃる。

「・・・・・・」

シンジは思考を再起動させるとレイをお姫様抱っこして自分の部屋のベットに運ぶとレイを寝かせた。
布団をかけてやるとレイは身じろぎをする。
シンジの温もりがなくなって探しているようだが程なく寝息を立て始めた。

「はぁ〜〜〜」

シンジの口から深いため息が漏れる。

ファーストキスはアスカと(シンジも初めてだった)血のにおいのするLCLの中で・・・・・・
セカンドキスは寝ぼけたレイに奪われた・・・・・・

「もうちょっとロマンチックなキスはいくらでもあると思うんだけどな・・・」

男だってそのあたりの理想がないわけじゃない。
シンジだって思春期の健全な男子だ。

「・・・経験だけありゃあ〜いいってもんじゃないだろうに・・・」

レイとのキスは誰にもいわないことに決めてシンジは部屋を出た。

胸元から聞こえた『ヒヒヒッ』という笑にシンジはまじめな殺意を抱いたらしい・・・・・・






To be continued...

(2007.06.30 初版)
(2007.07.14 改訂一版)
(2007.10.06 改訂二版)


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