人が逝き…
声は誰にもとどかず

人が泣き
流す涙大地に落ちて誰にも知られず

過去の重石を胸に秘め…
過去の人を置き去りに…
それでも人は前に進む…

それが生きる意味だと叫びつづけて


これは少年と死神の物語






天使と死神と福音と

第玖章 〔激神降臨〕
T

presented by 睦月様







それは絶望・・・
それは破壊・・・

海の上に浮いた救命ポットの中から一人の少女が顔を出した。
その瞳が見るのは大いなる力の具現・・・
天を突く4枚の光の翼・・・

「くっ・・・」

少女は血のにじむ自らの腹部をおさえながら必死に記憶に呼びかける。

切れ切れに思い出されていく記憶・・・
自分を抱えて走る父親・・・
背後で立ち上がる光の巨人・・・
カプセルに自分を入れて微笑む父親・・・

「おとうさん・・・」

短い一言が少女の口から漏れた。
そのあと、自動的にポットの蓋は閉じられて狭い室内が闇に落ちる。

次に見た光景が今も眼前にある光の翼だ。

「・・・おとうさん・・・」

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「・・・久しぶりに見たわね・・・」

ミサトは下着姿で布団から上半身を起こした。
かなり気だるげだ。

「・・・いまさらあんな夢を見るなんて・・・まだこだわってるのかしらね・・・」

苦笑したミサトは布団から這い出る。
今日は遅番だからこれから仕事だ。
重い体と萎えそうになる意識を奮い立たせて布団から立ち上がる。

その時自分の腹部の大きな古傷が鏡に写った。

「・・・14年か・・・」

一瞬だけ表情を曇らせるとミサトは制服を手に取った。

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ザアアアアアアアアア

その日は大雨だった。
まるで地上の汚れを洗い流すかのように容赦なく無数の雨が降ってくる。

「かなわんな〜」
「うわ、濡れて気持ち悪い」

シンジ、トウジ、ケンスケの3人がマンションに入ってきた。
帰ってくる途中で雨に降られてしまい3人ともずぶぬれ状態だ。

「まってて、今あけるから・・・」

シンジがカードキーを取り出して自分の家のドアを空けようとした。

ガシャン
「ん?」

隣の扉が開いてミサトが出てきた。
いつもの赤いネルフのジャケットを着ているところを見るとこれから出勤のようだ。

「あれ?ミサトさん、これから出勤ですか?」
「ええ、皆は今帰ってきたのね、3人ともずぶ濡れじゃない。はやく着替えないとかぜひくわよ」

ミサトはにっこり笑うとシンジ達のことを心配した。

「「はい」」
(ん?)

トウジとケンスケはミサトの笑顔にほほを赤らめるがシンジはその微妙な違和感を感じ取った。
伊達に付き合いは長くない。

「あ!し、昇進おめでとうございます!!」

シンジが違和感の元を考えている横でいきなりケンスケがミサトに敬礼をした。

「ケンスケ、どう言うこっちゃ?」
「ミサトさんの襟章!構図が変わって線が三本になっているだろ?三佐に昇進したんだよ!」
「そ、そうなんでっか?おめっとさんです。」

二人はそろってミサトに頭を下げた。
それを見たミサトは軽く苦笑する。

「ありがと」

そう言うとミサトは颯爽とシンジ達の脇を通り過ぎて行った。
隙のない凛々しさだ。

「はぁ〜やっぱミサトさんはええな〜」
「ああ、仕事の出来る女性って感じだよな〜」

トウジとケンスケが口々にミサトのことを誉めるがシンジは浮かない顔だ。

(昇進したから?・・・でも、何か変でしたね・・・なんであんなにぴりぴりしているんでしょう?)
(そうだね、何か悩み事でもあるのかな?後で聞いてみるといい)
(そうですね)
「シンジィ〜そろそろ開けてくれんとまじめにかぜひきそうや」
「え?ああ、ごめんごめん」

シンジはあわててカードキーを通した。
軽い電子音と共にロックが外れる。
真っ先に中に入ったシンジはバスタオルを取るために奥に向かう。

「シンジの家が近くて助かったわ」
「本当だよな」

シンジの家の玄関でトウジとケンスケがずぶぬれのまま待っていると程なくシンジがバスタオルをもってきた。

「はい、タオル」
「おお、すまんな」
「サンキュー」

シンジの持ってきたバスタオルで一通り体を拭くと3人は居間に入った。
いくらタオルで拭いても一度濡れてしまった服を着ていれば風邪をひく
そのまま服を着替えようと洗面所に続く扉を開けた瞬間・・・

「「「え?」」」
「は?」

そこにいたのはアスカだった。
彼女がここにいるのは不思議な事ではない。
シンジの家は皆が食事に来るため誰のカードキーでも開けられる。
アスカだけでなくほかの誰がいてもおかしくはない。

しかし、今のアスカはちょっと違った。

・・・バスタオルを体に巻きつけた状態・・・
明らかに風呂上りの格好だ。

「き・・・」
「「「き?」」」
「キャアアアアアア!!」

アスカの絶叫が響く。

「どうしたのアスカ!!」
「「「なに!!」」」

アスカの声に反応してバスルームから出てきた声の主はシンジ達のよく知る人物だった。

「「「委員長!?」」」
「え?鈴原?」

そこにいたのはアスカと同じようにバスタオルを巻いたヒカリだった。

「ふ・・・」
「「「ふ?」」」
「不潔よ!!!!!!!」

・・・・・・もはや収拾は不可能な阿鼻叫喚状態・・・


・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「・・・・・・で?」
「何よ!?」
「何と聞くか・・・」

シンジ達は両方のほほに赤いもみじを貼り付けて居間に座っている。
正面には私服を着たアスカとヒカリ、ヒカリの着ている服はアスカが貸したものだ。
二人とも顔が赤い

ヒカリはなにやらうつむいてる恥ずかしがってるがアスカは堂々としたものである・・・・・・逆に怒っているらしい。
ちなみに頬のもみじは彼女達がご丁寧に片方ずつつけたものだ。

「どうしてシャワー浴びてたの?」
「あんたばか!?雨で濡れちゃったからに決まってんでしょうが!!」

シンジは額に手を当てた。
頭が痛い。
風邪じゃないといいな・・・

「……なんで自分の家で入らないんだよ?」
「ここで浴びれば夕食のときにわざわざ来る必要ないじゃない」
「・・・一応ここ男の家なんだけれど?」
「あんたが男だって事は知ってるわよ?」
「じゃあなんで?」
「アンタそんな甲斐性あったの?」

…マジに襲ってやろうか?
シンジがそう言うより先にアスカが赤い顔をさらに赤くして詰め寄る。

「と!とにかくあんた達は見たんだから責任取りなさい!!」
「責任って・・・」

シンジの隣でトウジが立ち上がった。

「そんなに見たちゅうんならこっちも・・・」
「「やめんか!!」」

ガス!!


何をするつもりか予想できたシンジとケンスケがトウジの後頭部をぶん殴って黙らせた。
机に突っ伏して気絶したトウジを無視してシンジとケンスケは椅子にすわりなおす。
ヒカリはおろおろしているが他の3人はトウジの前科を知っているだけに同情すらしない。

「大体着替えはどうしたのさ?わざわざ持ってきたわけ?」
「何言ってんの?ここに置いていたに決まってんでしょうが?」
「何?」
「家に取りに行くわけには行かないでしょ?バスタオルだけで外に出すつもり?」
「いや、そうじゃなく何時の間に置いてたんだよ!!」
「フ・・・女の秘密よ」
「…女って怖いな…」

家主のシンジに気づかれずに着替えを持ちこむとは油断できない。
その技術にも驚きだが男の家に着替え・・・おそらく下着も一緒に持ち込むとは・・・そっちのほうが女としてどうだろうか?

(彼女達もなかなかやるね)
(ブギーさんも気づいていたんですか?)
(もちろん気づいていてたよ)
(何で教えてくれなかったんです?)
(聞かなかったから)
(知らなかったんですから当然でしょ?)

アスカが仁王立ちになって胸を張った。
何故この状況でそんな尊大な態度が出来るかその秘密をぜひ教えてほしい。
今後の参考にさせてほしいものだ。

「もちろんマナとレイも着替えを常備しているわ!!」
「そりゃ半同棲って言うんじゃないか?」
「「「ぶっ」」」

ケンスケの何気ない言葉にシンジ、アスカ、ヒカリの3人が噴出した。

「な!相田!!何言ってんのよ!!!」
「ァ、アスカ!!そこまで進んでいたの!!」
「誤解よ!!」


必死で自己弁護をするアスカとヒカリを遠くに見ながらシンジは達観していた。
今、下手にしゃべれば自分も巻き込まれる。
関わらないが吉だ。

「シンジ?」
「なにさ?」
「お前も苦労するな・・・」
「他人事みたいに言わないでくれる?」
「・・・すまん」
「この借りは大きいよ?」

そう言ってシンジは立ち上がった。
いいかげんどうにかしないとさすがに近所迷惑だし・・・

(なにかぼくこの町に来てから人の世話ばかりしているような…)
(将来の職業は保父さんで決定かな?)
(言わないで下さいよ、何かその予想・・・当たりそうな気がします。)

ブギーポップはただ苦笑するだけで答えなかった。
シンジはため息と共に自分の部屋に向かう。

「シ、シンジ?」

シンジが部屋から持ってきたのは1,3Mもある・・・ハリセンだった。
この町に来てからなぜか突っ込む事の多いシンジのお手製だ。
しかも横に《ものほしざお》と書いてある。

アスカとヒカリはシンジには気づいていない。
いまだに言い合いが続いている。

二人に気づかれずに間合いを取るとシンジは・・・

「秘剣 ツバメ返し!!」

一振りで二人の頭をはたいた。

「シ、シンジ君?」
「何すんのよシンジ!?」

シンジは半眼で「ものほしざお」を背中に担いだ。

「近所迷惑だろーが」
「だからってたたく事無いでしょ!!」
「そ、そうだぞシンジ?」

ケンスケもさすがにアスカに同意した。
たとえハリセンでも女の子の頭を叩くのはやはり関心出来ないらしい。
しかし、シンジの答は壮絶なまでのニヤリ笑い。

「ほう、つまりミサトさんクラスの対応をしろと?」
「「「え?」」」

シンジの言葉にケンスケとヒカリは疑問の表情になるがアスカはその意味を知っている。

にっこり笑いのシンジが左手を上げるといつのまにか握った人差し指から小指までの指の間に三本の包丁があった。
出刃が二本、柳刃が一本、それがまたぎらぎらとやけに光を反射して怖い…

「最近は一度に三本まで投げられるようになったんだ」
「「「そ、そう」」」
「何でかかなり時間食って夕食の準備遅れちゃった…」
「「「ご、ご愁傷様です」」」
「手伝ってくれるよね?…って言うか手伝え」
「「「イ、イエッサー」」」

戦闘だけでなく実生活でも最強なシンジだった。

「う〜ん、なんでやねん…」

…ちなみにトウジはいまだに気絶している。
寝言で突っ込みを入れるとは大阪人のDNAのなせるわざか?

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暗闇に浮かび上がる男たち…ゼーレのメンバー
バイザーをかけた老人、この集まりの議長を務めるキールが一堂を見回しながら口を開いた。

「皆ご苦労…」
「議長、緊急の召還で驚きましたが何事なのですか?」
「うむ…今日集まってもらったのは他でもない…サードチルドレン、碇シンジの事についてだ…」

場の空気が緊張したものになる。
全員がキールの呼び出しの理由を理解した。

「…確かにいささか異常な存在だ」
「さよう、初号機とのシンクロ率の高さはおいておくにしても尋常ではない」
「何らかの組織の関与があるのではないか?」
「不明だ、過去においてそのような組織が彼奴に接触した事実は無い。・・・だが・・・」

口々にシンジの事を話すメンバー達、その様子が碇シンジが起こしている波紋の大きさを語っている。
すでに彼の存在が彼らゼーレの中でも無視できなくなり始めているのだ。

キールがそのざわめきをさえぎるように口を開く。

「さらに諸君達にはこれを見てほしい」

そう言って映し出されたのはマユミに寄生していた使徒が初号機で殲滅される場面だ。

「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」

誰も言葉を発しない。
初号機の放った自己の保身さえ無視した壮絶なまでの破壊力
地面さえ両断する一刀の前にはあらゆるものが断ち割られるだろう。

「・・・初号機の力も問題ではあるがそれ以上に・・・」

キールの言葉が示すのは使徒が見苦しいほどに暴れている場面だ。

「・・・使徒は・・・初号機に恐怖を感じたかもしれん・・・」
「「「「「「「な!!!」」」」」」」

今まで黙っていたゼーレのメンバーの顔に驚愕が張り付く
それは完全に予定外の事態だ

「ま、まだはやい!!」
「さ、さよう!!使徒が今の段階で人の心を知るなど!!!」
「・・・シナリオよりも早すぎる!!」
「やはりサードの少年が!!」

あせりの声が交わされるなか、キールが話を続けた。

「サードチルドレンの戦闘力を含めた過去の調査は継続中だが彼の者の存在が計画にずれを生んでいるのは間違いない」
「六分儀はなんと言っているのですか?」
「わからんといっている。・・・報告によると精神的にもかなり安定して強靭だと・・・今のままではヨリシロとするのは難しいかもしれん・・・」

メンバーが唖然とした。
それは計画にとって致命的な事が進行中だと言うことを意味している。

「議長、サードチルドレンを召還してはどうでしょう?」

ゼーレのメンバーの一人がキールに提案した。
たしかにこの場にシンジを呼び出して直接話しを聞く事が出来れば何らかの進展があるだろう。
しかしキールはその意見に首を横に振る。

「いや、今はまだ早い…その背後関係も不明なものをこの場に召還するのは危険だ。しかも問題はそれだけではない…」
「議長、それは?」
「統和機構が動いている」
「「「「「「な!!」」」」」」

その一言で一気にあわただしくなる。
統和機構の名前の意味する物は重い。
それを知る彼らに取っては十分動揺するに足る事実だ。

「な、なぜだ!?かの組織はわれわれの行動に対して無関心だったはずだ!!」
「さよう、いままでまったく手だしをしなかったのになぜ今更…」
「しかもよりによってこの時期に、まさかサードチルドレンの不可解な行動にも関与しているのか?」
「だとするとネルフに放ったマリオネットの消息が消えたのも・・・」
「静まれ・・・」

口々に憶測を飛ばすメンバーがキールの一言で静まりかえる。
さすがは議長と言う事か、他のメンバーとは存在感から違うらしい。

「サードチルドレンと統和機構との接触の事実はない」
「・・・しかし議長、あまりにもタイミングが良すぎるのでは?」
「わかっておる。統和機構についてはいまだ敵対行動はとっていない。しばらくはお互いの様子見だ。」
「サードチルドレンとの関係については?」
「・・・わからん、最悪の場合我等は統和機構とサードチルドレンの両方を敵にまわす事になる。」

会議の場は再び騒然となった。
統和機構の力は強大だ。
ゼーレにとっても無視出来ない。

しかも初号機まで・・・
あの圧倒的な破壊神が自分達に標的を定めたら果たして生き残れるかどうか・・・

「ぎ、議長、ならばサードチルドレンだけでも・・・」
「どうしろというのだ?」
「え?」
「どうしろというのだと聞いている?」

質問したメンバーが自分の発言に何か間違ったのかと周りを見回すが他のメンバーも困惑顔だ。

「そ、それは…パイロットを解雇するとか、最悪の場合消してしまう事も・・・」
「その後君が初号機に乗るかね?」
「は?」
「今、彼奴を排除したあとに現れる使徒をどうするのかね?」
「そ、それは・・・零号機と弐号機で・・・」
「・・・今では両パイロットともサードチルドレンのことを心の支えにしていると聞く。さらにいうならあの二機と初号機・・・戦力としてどちらを取るかね?」
「う・・・」

あらためてシンジのおかれた状況に頭を悩ませる。
そもそも自分達にとって有利か不利か以前に危険か安全かすらわからないのだ。
爆弾よりたちが悪い・・・

爆弾は少なくとも触らなければ爆発はしないがシンジは勝手に爆発する恐れがある。
しかも自分たちの計画にとっては彼に触らないわけにも行かない・・・
爆発する可能性は大いに有るといってもいい。

その結果シナリオが根底から崩壊する事も考えられる。
何せシンジは計画の中心にいるのだから撤去する事も今となっては出来ない。

記録映像で見た紫の鬼・・・あの後姿を見ているうちはこれ以上ない心強さを覚える。
しかし同時に絶対に真正面から見られるのは嫌だ。
何かの間違いでも敵と認識されれば・・・

「あの戦闘力は確かに脅威だがこれからも使徒が来襲する以上あの力は我々になくてはならない」

キールの言葉に全員が頷く。
認めたくは無いが事実は覆らない。

「し、しかし何もしないというわけには・・・」
「わかっておる・・・」

場に静寂が降りた。

「今度来襲する使徒は"鉄槌"を司る使徒、サハクィエルだ・・・小細工はきかん・・・それによってサードチルドレンの力の程を計る・・・」

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ゼーレがその存在を恐れたシンジは同時刻・・・ミサトの運転する愛車のルノーの助手席にいた。

「おめでとうございます。」
「ありがとう」
「昇進のお祝いパーティーをしましょうね」

ミサトの昇進は今日、ネルフの広報によって正式に各部署に伝えられた。
しかし当の本人は浮かない顔だ。
昨日見た時と同じように少しぴりぴりしている。

「昇進か・・・」
「・・・どうかしたんですか?」
「まね・・・」

普通なら最も喜ぶべきのミサトだがなぜかその顔は優れない。
何か悩んでいるようだ。

「何か問題でも?」
「命をかけてるシンジ君たちを差し置いて一人だけってのもね・・・」
「アスカとレイならともかくぼくには気遣い無用ですよ?そもそもネルフに所属していませんし」
「それでも・・・ね」

正直一番評価されるべきはシンジだろうとおもう。
彼の存在を無視して使徒殲滅の功績はありえなかった。
本来ならミサトよりもはるかに目に見える形で評価されるべきだろう。

「・・・まだぼく達を復讐の道具にしてることが苦しいんですか?」
「・・・・・・ないとはいえないわね・・・」
「別にぼくもミサトさんの道具になってるつもりはありませんよ?」
「わかっちゃあいるんだけれどね、あなたが自分の意思で戦ってるって事も、そのついでに私の復讐にも付き合ってくれてるって事も・・・」
「ならいいじゃないですか?大人って何かと子供に罪悪感抱きすぎですよ?」
「・・・大人ってね・・・子供たちに負担をかけたくないって思うものなの・・・なのに私達は・・・」

ミサトの顔は苦しそうだ。
その言葉に嘘はないのだろう・・・だから苦しむ。
そんなミサトの横顔を見たシンジは肩をすくめた。

「それを仕方ないで済ませてしまったらそれこそ大人失格になっちゃう気がすんのよね」
「・・・考えすぎですよ」

ルノーは夜の街を走る続ける。
微妙な静寂が車内に満ちた。

「少なくとも親とは名ばかりだった人よりましです。」
「・・・司令のこと?」
「最初から頭を下げて「お願いします」って言えばいいのに拒絶されるのを恐れて小細工するからこじれる」

シンジはため息をついた。

「あの司令がシンジ君を恐れているか・・・」

ミサトは内心分からなくもないと思った。
そう思わせるだけのものが隣に座る少年にはある。
もしミサトがゲンドウの立場なら・・・やはり恐れたのだろうか?

「シンジ君を見てるとどんな大人も子供っぽく見えちゃうのよね」
「買い被りですよ。これでもまだ14です。」
「そうなのよね、でも若作りしてるだけで本当は年上って言われても信じちゃうかも」
「う〜ん、年齢を倍に見られるほどふけ顔じゃありませんよ?」
「そうよね、女の子って言っても通りそうだし〜今度女装してみない?」
「母親似の顔ですけれど遠慮しときますよ。」

二人は軽く笑った。
そうこうしてる間にマンションの駐車場に到着する。

「にしても本当にあの司令と半分遺伝子がつながってるってのが信じらんないわね」
「母さんの遺伝子に感謝・・・ってところでしょうか?」
「それ・・・ちょっち司令がかわいそうになってくるわね」

ミサトはシンジの顔を見て数秒・・・ゲンドウとの共通点を探す。
結論・・・とてもあの悪人面と血が繋がっているとは思えない。

「・・・シンジ君、よかったわね・・・」
「ありがとうございます」

何が良かったのかはまったく不明だ。
そのまま二人は笑いあいながら駐車場を出て行った。






To be continued...

(2007.07.14 初版)
(2007.07.28 改訂一版)
(2007.10.06 改訂二版)


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