「今日君らにきてもらったのは他でもない!」

時田が大声で話す。
かなりテンションが高い。

「君達にお願いしたい事があるのだよ!!」

演説をかます時田の前には3人の少年少女
マナ、ムサシ、ケイタの3人である。






天使と死神と福音と

禁書目録
偽神之章 外伝 〔スタンピード〕

presented by 睦月様







マナ達の目の前には大きな"なにか巨大な物"がシートに覆われていた。

ここは旧東京、周りには崩れかけたビル以外更地と言うなんとも世紀末な風景が広がる場所だ。

なぜマナ達がここにいるのかというと原因は時田にある。
以前彼が持っていったトライデントが山岸の協力もあって一応の完成を見たのだ。

それを聞いたミサト達が大改装をしたと言っても元がトライデントなだけにテストパ
イロットとしての訓練を受けていたマナ達にテストをしてもらおうと言う事になった。

「ではご開帳!!」

時田が叫ぶとシートが外れる。

「「「え?」」」

マナ達はそこにあるものを見て唖然とした。
3人はトライデントの改装という事で元の形をとどめているとおもっていたのだが…

「戦車?」

ケイタが呆然と呟く

それにはキャタピラがあった。
砲塔があった。
ミサイルポットがあった。

総合すれば戦車とは言えるかもしれない。
しかし戦車にしては異様だった。

まずはその大きさがすでに規格外だ。
全長が40M近い
左右のキャタピラの前半分が装甲ごと突き出して槍のようになっている。
砲塔は本体後方から一門、20Mくらいありそうな砲身が本体右側についている。
反対側には八連装ミサイルポット
そして本来戦車の砲塔がある部分にも一門……破壊力のありそうな口径だ。
さらに車体の左右の側面には長方形の物体、長距離砲撃用の4連装ミサイルラン
チャーという代物だ。

「あの〜?」
「ん?なにかね?ムサシ君?」
「はい、自分たちは確かトライデントの改良型のテストパイロットとして呼ばれたは
ずですが?」
「その通りだ」
「……トライデントはどこに?」
「ここに」

時田が親指で背後を指す。
それはどうしようもなく戦車のような“なにか“だった。

「これがトライデントなんですか?」
「いや〜思う存分改造したら……」
「改造したら?」
「……原型無くなっちゃってね……」

時田の言うことは本当だろう。
この男ならやる。

しかし、てへっと言う感じに舌を出してもまったくかわいくない。
かわいい女の子がすればかなりの破壊力のその技はおっさんがやっても不気味なだけだ。

「一から作ったほうが早いくらいになってしまったよ」

なぜか爽快に笑う時田に冷や汗が止まらない。
完全に趣味に走っている。

唖然としている三人は顔を見合わせた。
ケイタが覚悟を決めて口を開く。

「し、しかしこれではシンジ君達の戦闘の速度について行けないのでは?」
「ケイタ君?」
「はい」
「君をここでエヴァの大きさにして彼らの戦闘に放りこんだとする」
「…はい」
「生き残れると思うかね?」

ケイタは無言になる。
脳裏にフラッシュバックする戦闘記録・・・

「しかも機体を操縦しながらという事を考えたらデット・オア・アライブ?」
「・・・・・・デット」
「ファイナルアンサー?」
「…ファイナルアンサー」
「正解ィィィィィィ!!」

今日の時田はいつにも増してテンションが高い。
どこからそのテンションが来るのか気になる。
何か妙なスイッチが入ったようだ。

「まあそういうわけだよ。接近戦をしないならすばやく動く必要ないしね、そのため
こいつには長距離からの支援兵器をこれでもかというほどに積んである。実際はエ
ヴァがATフィールドを中和したところに遠距離からの狙撃だよ」

時田は自分の作ったものをうっとりしながら見つめている。
中年男がうっとりしているところなど傍目には怖いだけだが……このままでは話が進
まない。
マナが勇気を振り絞って話し掛けた。

「そ、装備の説明をお願いできますか?」
「おお、わるいわるい」

妄想から帰還した時田が説明をはじめる。
……いまだににやけているが……

「まずこいつの名前だが“ガンヘット”と名づけた。装備に関しては左右のアームに
4連装長距離貫通型ミサイルランチャー・・・」
「「「え?」」」

マナたちが疑問の声を上げる。
今の時田の説明でおかしな部分があった。

・・・戦車にアーム?

「さらに背部バックパックには75MMポジトロンライフルと八連装ミサイルポッ
ト、そしてヘットランチャーは中距離支援用の30MMレールガン・・・」
「あ、あの・・・」

マナが時田の口上に口を挟む。

「ん?なにかね?」
「さっきからなぜガンヘットの説明に体の部分の名前が入ってくるのですか?」
「なんでって・・・ああそうか」

時田は肝心な事を説明していなかった事に気づいた。
時田の笑みがさらに濃くなる。

「ふふふっではお目にかけよう。ガンヘットの真骨頂を!!準備いいですか!!山岸
博士!!」

その言葉にガンヘットの上に山岸が現れた。

「ひどいですね〜忘れていたんでしょう?」
「わははは面目ない、用意はいいですか?」
「いつでも」

時田がいったん呼吸をとめた。
気合をためているらしい。
カッと目を見開いてその口から出た言葉は・・・

「トランスフォーーーム!!」
「「「なに!!」」」

いきなりわけもわからないことをのたまった時田にマナ達が唖然となる。

「ポチッとな」

応えてガンヘットの上にいた山岸がなにやら端末を操作する。

ギギギギ・・・

金属同士がこすれるような音と共にガンヘットが変化していく
突き出ていたキャタピラの部分が後退するのにあわせてガンヘットの車高が上がって
いくのだ

その高さが今までの倍ほどになったとき、4連装ミサイルランチャーの部分がスライ
ドして3本の指を持った腕に変わった。

やがて、その変形が終わるとそこには鋼鉄の巨人が立っていた。
そのシルエットはこれ以上なく無骨
頭の部分など中央にあった砲台がそのまま頭の位置にある。
まさに戦車の装甲で人形を作ったらこうなるだろうという見本だ。
エヴァと比べるとまさに兵器としかいえない代物である。

おそらく格闘戦などはほとんど考慮されてはいないのだろう。
パンチくらいは出せるかもしれないが高速で動いたりけりを放ったりはできまい。
キャタピラの部分が変形した異様に太い足を見ればわかる。

「みたかね?変形だよ。タンクモードは移動時のスピードアップのための形態、スタ
ンディングモードは射撃時の視界の確保と安定性を高められる。あと、お勧めは出来
ないが殴り合いも出来なくはない」
「「「・・・」」」

3人は声もない。

「本当は合体させたかったのだが・・・」

時田は悔しそうだ。
おそらくマジに合体変形を考えていたに違いない。
それがマッドだから・・・

「まあ話を戻すとこいつのテストに付き合ってほしいんだ。操縦方法は前のトライデ
ントとそんなにかわんないからね」

時田だけでなくガンヘットの上にいる山岸も笑っている。
自分の作品を発表できてご満悦らしい。

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ブロロロロロロロロロ!!

かっての花の都と呼ばれた場所を爆走している物があった。
砂煙を上げて走る姿は戦車のようだが実際はちょっと違う。

もちろん時田達の作ったガンヘットだ。

「しっかし言うだけのことはあるなこいつ」

ムサシが外部を映すモニターを見ながら言った。
今、ムサシがいるのはガンヘットの人間で言うと胸の部分にあるコックピットだ。

ガンヘットはその操縦を上半身と下半身に分かれて行う。
一人ですべての行動を制御するのは人間の身体と反射速度では無理がある。
上半身で腕と火器管制の制御を、下半身で移動とレーダー関係の制御をそれぞれ行う
事で対応する形を取っていた。

下半身にいるのはケイタ

「どんな感じケイタ?」

ムサシの後ろからマナが顔を出してケイタの映っているモニターを覗き込んだ。
マナもムサシと一緒に乗り込んでいたのだ。

「おいマナ、危ないじゃないか!!」
「何言ってんのよ、変形しないとこっちで出来る事はほとんどないじゃない?」
「そりゃあそうだが・・・」
「じゃあいいじゃない、それで?ケイタのほうはどうなの?」

マナの声にモニターの中のケイタがはっとなって答える。
何か考え込んでいたらしい。

「も、問題ないよ」
「そう?」
「うん、これいま110KMで走ってるんだよ。加速も凄いや!!」
「え?そんなに出てるの?もうちょっと落としたほうがいいんじゃない?」
「何言ってんだよマナ!?こいつその気になればもっと早くなるよ!?」
「え?そ、そうなの?」

マナとムサシはケイタが変化に気づいた。
初めての搭乗で興奮しているのかもしれない。

大体、何かあったとしてもケイタのいる下半身のコックピットはガンヘットの腹部に
あるので物理的にどうしてやる事も出来ないのだが。

「あれ?時田博士が併走してるわよ?」
「なに?」

横のモニターに映っているジープに時田と山岸の姿があった。

『きみたち〜私達は先に目的地まで行っているからゆっくり来ていいよ〜』

そう言ってジープは加速していく。

『フフフッ』
「「ん?」」

いきなり聞こえてきた声にマナとムサシが見るとモニターの中のケイタが笑ってい
る。
なぜか視線がどっか遠くに行っていた。

「「ケ、ケイタ!?」」
『フッ俺様の前を走るとはいい度胸だ』
「「え?」」

次の瞬間、いきなりかかってきたGに二人は面食らう。
どうやらケイタがアクセルをあげたらしい。

『俺の前は何人たりとも走らせねえ!!!』

さらに加速するガンヘット
何秒もしないうちに時田のジープに追いついた。

『『ナンデスト!!』』

時田と山岸の驚きの声を外部マイクが拾う。

『『のわ!!』』

キャタピラが巻き起こす砂煙にあおられてジープが吹っ飛んでいった。

「「・・・・・・」」

マナもムサシも言葉が出ない。
生身の人間が空を飛んだ。
重要なのは自分で飛んだんじゃないと言う事実

『俺のこの手が真っ赤に燃えるぅ!!アクセルあけろと轟き叫ぶぅ!!』

そう言ってケイタは”足”でアクセルを踏み込んだ。
手が燃えようと関係はないはずだが・・・さらにガンヘットは加速する。

「ちょっとどうにかしなさいよムサシ!!」
「どうにもなるか!!」

実は変形の操作はケイタがいるほうのコックピットでしか出来ない。
走行途中で変形してしまうとバランスを崩すという問題からだがこの場合ありがた迷
惑だ。

火器を撃つことなら出来はするがこの状況で撃ってもどうしようもない。

「ま、前見て!!」
「なに?うを!!」

正面モニターにはビルの残骸が映っている。
それが真正面に見えるということはそのビルに真っ直ぐ突っ込んで行っているという
ことだ。

「止まれケイタ!!」
「止まらないとぶつかるわよ!!」
『わ〜ははははっ無問題!!』

・・・戦車とは本来方向転換をするときには左右のキャタピラを前後反対に回転させ
てその場で曲がる。
そもそも車とは違うのだ。

だから間違っても”ドリフト”などというものは戦車の辞書にはない・・・

ギャギャギャギャ!!

「「うそだ!!」」

正面のビルを見事なドリフトでかわすガンヘット・・・
今、物理法則を無視した脅威の走行が目の前で展開されている。

・・・・・・実はケイタは能力に目覚めていた。
原因はエンブリオ、これはエンブリオ自身も気づかないうちに発現させてしまった能
力だ。

シンジにかかわるものたち全員はシンジの家で食事を取る。
そのためエンブリオの近くにいることでケイタの眠っていた能力が引き出されてし
まっていた。

しかし、マナ達はこの事を知らない。
シンジがエンブリオのことを教えてなかったのだから当然だ。
下手に教えて声を聞いてしまうのを恐れての事だがまさか誰にも気づかれずに発現し
てるとはさすがのシンジとブギーポップも予想外だった。

『ガンヘット!!お前に命を吹き込んでやるぜ!!』
「「ちょっと待て!!」」

そのままガンヘットは日が沈むまで走り続けた(燃料が切れたから止まったとも言
う)

その後、降りてきたケイタは妙に晴れ晴れとした顔になっていたがマナとムサシにぼ
こられてボロボロになってしまう
ちなみに時田と山岸は傷一つなかった。

「こんな事もあろうかと白衣に衝撃吸収剤を縫いこんでいたのだよ!!」
「備えあれば憂いなし、ビバ科学者の備え!!」

どういう事に対する備えなのかは疑問だ。

その後なぜかガンヘットのパイロットは正式にムサシとケイタに決まった。
時田と山岸がケイタの走りっぷりにほれ込んだのだ。

ムサシは必死でパイロットの交代をマナに頼んだが拒否られた。
ちなみにマナは交代要員として登録されているためムサシに何かあったら代わりに乗
ることになっている。

ただ一人、ケイタが嬉しそうだったのは言うまでもない。


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能力  【スタンピード】
乗り物を走らせることで発現する能力
逆に乗り物がないと発動すらしない。
乗り物の持つ能力を限界以上に引き出すことが出来る。
時には物理的に無理な道を走ったり、不可能な走行を可能に出来たりする。
ただし自転車のような動力のないものとは相性が良くない。
副作用があって能力を発動させている間は性格がかなり荒っぽくなる。
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ケイタの能力は地味すぎて誰も気づくことはなかった(シンジとブギーポップも)が
以来ハンドルを持つと性格が変わるとか言われることになる。

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「災難だったね」
「「まったくよ(だ)」」

シンジの家でしみじみと生きて帰った喜びをかみ締めながらシンジが入れたお茶をす
するマナとムサシ、ケイタはおしおきとして窓の外につるしている。
蓑虫のように縄で縛っている状態がなんとも哀れだがシンジも助けようとはしなかっ
た。

2人はもはや速度でびびることは無い。
ジェットコースターなど最前列で両手を上げても平気だろう。
嫌なスキルの手に入れ方だと二人はため息をついた。






To be continued...

(2007.07.07 初版)
(2007.07.21 改訂一版)


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