天使と死神と福音と

第玖章 〔激神降臨〕
V

presented by 睦月様


「ええぇぇっ!!!!手で受けとめる〜〜〜〜っ!!!?」

シンジはとなりに立っているアスカの絶叫に顔をしかめた。
時間的にはまだ夜中だ。
ミサトに呼び出されて寝ぼけ眼のまま発令所に来たのだが、今回のミッションについて聞いたとたんの絶叫である。
ニワトリがわりのアスカの絶叫は心臓に悪い 。

「そう、落下予測地点にエヴァを配置、ATフィールド最大であなた達が直接使徒を受けとめるのよ」

ミサトの言葉を聞いてもシンジに動揺はなかった。

(まあ予想通りですね)
(他に方法はないだろうからね)

シンジ達が驚かなかったのはあらかじめ使徒に対抗する方法を話し合っていたからだ。


(しかし特化型だろうとおもってはいたけれど爆弾として特化していたとは…)
(もっとも効果的ではある)
(確かにシンプルで効果的ですね、文字通りの渾身ってやつですか?)
(…あの位置からラミエルのように狙撃されていたらさすがに手が無かったわけだからまあ最悪の事態ではないね)
(これはこれで相当に厄介な気もしますけれどね)

だからミサトの作戦に関しても他に方法がないことがわかる。
一応ミサトに作戦の問題点を言ってみた。

「使徒が大きくコースを外れたら?」
「その時はアウト」

あっさりミサトはいいきった。
次にアスカが不安そうな声で質問する。

「機体が衝撃が耐えられなかったら?」
「その時もアウトね」

レイもいつもの口調でミサトに質問した。

「・・・勝算は?」
「神のみぞ知る・・・っと言った所かしら?」

ミサトはレイの質問に苦笑いで答えた。
神の使いを殺すのに神にお伺いを立てると言うのも変な話だ。

「これで成功したら奇跡ね・・・」

アスカの率直な感想に皆が頷く。
ここまでアウト要因の多い作戦は作戦と呼べないだろう。
ストライクゾーンが狭すぎてシビアだ。

「奇跡ってのは起こしてこそ、初めて価値が出るものよ」
「つまり、何とかして見せろって事?」
「すまないけど、他に方法が無いの、この作戦は…」
「・・・こんなの作戦って言えるの?」
「・・・言えないわね・・・だからこの作戦は辞退出来るわ・・・」

ミサトの言葉にシンジが手を上げて質問した。

「拒否したらどうするんです?」
「もち、尻尾巻いて逃げるわヨン!!」

なんともあっけらかんと言い切るミサトにシンジ達だけでなくオペレーターたちも絶句した。
リツコだけは声を殺して笑っていたが・・・

ミサトは苦笑しながら周りを見回した。
誰も辞退を申し込んでこない。

「一応規則では遺書を書く事になってるけれど?」
「死んだ後のことには興味ありませんが、ぼくがいなくなった後で掃除をする人のいないミサトさんの部屋が腐海に沈みそうなのが気になりますね」
「結構・・・作戦の説明を続けます。」
「おう・・・なんて豪快なシカト・・・」

シンジの言葉を冷や汗と共に無視したミサとはモニターに向き直る。
みんなの視線が背中にグサグサと刺さるがミサトは振り向かない。
振り向いたらきっと負ける・・・どんな風に負けなのかは追及してはいけないと思う。

冷えた視線の集中砲火にさらされながらもキーボードを操作するとモニターに第三新東京市の地図が出た。
その中心部が赤く色づけされる。

「ミサトさんこれは?」
「このどこに落ちても本部ごと持っていけるわ・・・」
「それはそれは・・・」

赤く色づけされた部分は町のほとんどをおおいつくしていた。
このどこに落ちても本部を持っていけるとなると実際落ちたらどれだけの被害になるかわかりゃあしない。
次にそのモニターに三つの点とそれを囲む大きな円が重なった。

「この3箇所にエヴァを配置して待ち構えます」
「根拠は?」
「女の勘よ」
「ミサトさんクジ運悪いでしょ?」
「うっ・・・」

目の前の硬直したミサトの背中を見ながらシンジはため息をついた。
じっと地図を見て何か考える。
シンジはミサトが勘で決めた配置の一箇所を指し示した。

「ミサトさん、初号機はこの位置に配置してもらえませんか?」
「ん?なんで?」
「男の勘です。」
「え?・・・まあいいけれど・・・」

そう言ってミサトはシンジの初号機を言われた位置に配置して残りの零、弐号機を残った場所に置くよう配置の割り振りを指示した。

(まあどこにいてもあんまり関係ないんだけれどね・・・)
(そうですね・・・)

これにはもちろんちゃんと理由がある。
シンジ達は別に勘で配置場所を申し出たわけじゃない。

なぜならばシンジ達は”サハクィエルが落ちてくる場所“が分かっている。
まさにピンポイントで・・・絶対に外れない自信がある。

「ごめんなさいね、終わったら皆にステーキをおごるわ」
「だめですよ」
「え?シンジ君なんで?」
「レイが肉を食べれないでしょ?」
「あ・・・」

ミサトはそのことを忘れていた。
レイはいまだに肉そのものは苦手だ。

「ごめんね、レイ・・・その代わり他のおいしいとこに食べにいきましょ」
「ほ〜う、それは厨房を預かるぼく達に対する挑戦ですね?」
「え?」
「最低でもいつも食べてるぼくたちの料理よりおいしいところに連れて行ってくれるんですよね?」
「あう・・・」

すでにシンジを中心とした料理部隊は和、洋、中と何でもござれの無敵集団と化していた。
皆かなりの腕前に到達していてそん所そこらの食堂では勝負にならない。

「しかももちろんマナ達も一緒ですよね?」
「あう〜」

もはや涙声のミサトに親友のはずのリツコが止めを刺した。

「無様ね・・・」
「リツコ〜」
「貸さないわよ、私も給料日前なんだから・・・」
「う〜〜」

うなりながら涙目で財布の中身を確認するミサト・・・発令所は使徒との戦いが近いのに笑い声に包まれた。

ミサトには悪いが緊張はほぐれたらしい。
これも作戦部長の仕事だろう。

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「せまい…」

シンジは不機嫌に呟いた。

今シンジ達がいるのはケージに向かうエレベーターの中だ。

「何であんた達がまだここにいるのよ!!」

アスカの言葉は一緒に乗っているマナ達に向けられたものだった。

「何でって護衛が離れるわけには行かないでしょ?」

今,狭いエレベーターの中にシンジ達は6人で鮨詰めになっていた。
無理やり人数を詰め込んだ為に結構すごいことになっている。
特に女の子との密着にケイタなどは茹蛸のごとくなっていてそのうち貧血になるんじゃなかろうか?

「退避命令が出ているでしょ!!」

アスカの言う通りD−17が発令された時点でマナ達にも退避命令が出ていた。
この状況ではガンヘットの活躍の場は無い。
つまりここにいても出来る事が無いのだ。

「…だからって私達だけ避難するわけには行かないでしょ?」
「そうだ、俺達でもいる事くらいは出来る」
「シンジ君たちを信じているんだ…」

マナだけでなくムサシとケイタも同じ意見のようだ。
アスカは呆れ顔だがシンジは笑っていた。

「そういえばマユミと凪先生は?」
「もちろん退避したわ、あの2人は一般人だもの、ついでにペンペンも一緒」

2人の事を知る皆は一般人という言葉には違和感があるが退避しとくに越した事は無い。
死ぬ気などはさらさらないがそれでも万が一はある。

「シンジ君?」

ふいにレイがシンジに話し掛けてきた。
シンジはレイに頷く。

「レイ、もってきてくれた?」
「ええ…」

レイが右手を差し出して手を開く。
そこあったのはロザリオ…アダムの魂を封じたロザリオだ。

「これをどうするの?」
「ぼくが持っておく…」

そう言ってシンジはロザリオを受け取った。
そのまま自分の首にかける。

「そんなもの持ち出してどうすんの?」
「使徒を呼び寄せる…」
「「「「「な!!」」」」」

シンジの言葉に皆が驚く。
考えもしなかったという感じだ。

「使徒はこいつを求めて降りてくる。だとしたら正確にこいつめがけて来るはずだ」
「「「「「あ!!」」」」」

シンジとブギーポップの考えた作戦はそう言う事なのだ。
アダムの魂の波動を使ってサハクィエルが落ちてくる場所に行くのではなく自分の真上に落ちてこさせる。
そうすれば少なくとも間に合わない事は無い。

「だからさっきアンタ自分の配置を指定したのね!!」
「大当たり、あの場所は再開発地区で人家はない。しかも山が近いから被害が最小限ですむ」

シンジが話している途中でレイがシンジに手を差し出した。

「レイ?」
「…私が囮になる…」

レイの瞳は真剣だった。
本気でシンジの代わりに囮役を買って出ようとしている。
その思いはありがたいが・・・

「悪いけれどダメ」
「…どうしてそんな事言うの?」
「これは冷静な分析だよ」

機体の耐久力、フィールドの強さなどを考えると初号機が受け止められる確立が一番高い。
真正面からサハクィエルを相手にするのは初号機こそが理想だ。

「だからって・・・」
「一番成功の確率が高い方法だよ。」

平然としたシンジの言葉にアスカが言葉で噛み付いた。

「あんたまた一人で話し進めてんじゃないわよ!!能力でどうにかなるの!?」

シンジは少し考えて口を開く。

「…無理だろうね、逃げるくらいは出来るかもしれないけれど・・・」
「なんで!!」

サハクィエルはATフィールドをまとってくる。
対するシンジの能力は触らないと相手に影響をあたえられない。
ATフィールドがある限りサハクィエル本体に触る事は出来ないだろう
自分のほうもフィールドを張って受け止めるからなおさらだ。
しかも破壊力を考えるとおそらく受け止めてから能力を使う余裕はあるまい。

「…今回は純粋な力勝負になるよ。小細工は効かない。」
「それでもやるの?」
「他の方法は無いと思う」

シンジの決意は固い。
他に方法がない以上覚悟を決めるくらいしか出来ないのだ。

「ねえ?」
「なに?」
「何でアンタはエヴァに乗るの?」
「…アスカは何で?」

アスカはシンジの質問に少し考えた。
自分の目標はエヴァのエースパイロットになることだがそれはつまり・・・

「自分のためよ」
「周りの人に見とめてもらうため?」
「…そうね」
「アスカは強いね」
「な、なによいきなり」

なぜかシンジに誉められてアスカは慌てた。
予想外に誉められた事で照れたようだ。

「そ、それよりなんであんたは戦うのよ?使徒や世界の敵ってやつと…」
「…自分のため…」
「あの死神のためじゃなくて?」
「最初はそうだったんだけれどね…」

苦笑しながらシンジは続ける。

「多分好きなんだ…」
「「「え?」」」

なぜか赤くなって驚くアスカ、マナ、レイの三人…
ムサシとケイタは真剣な顔でシンジの言葉を聞いている。

「ぼくはこの世界がすきなんだと思う。この世界が好きな自分も含めてね…」
「あんた…ナルシスト?」
「かもね…だから戦うんだよ…」
「あんたはそれでいいの?」
「ぼくの好きな碇シンジはここで逃げたりはしない」

自分は自分を裏切れない
シンジはそれをよく知っている。

やがてエレベーターが止まりケージへの道が開いた。

「…行こう」

シンジの一言に皆が頷く。

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無人となった第三新東京市は静かだ。
人の気配がまるでない。

そんな静寂を破る警報音と共に地面のシャッターが開いて3体のエヴァが地上に現れる。
拘束台から解き放たれた3機はじっと空を見上げた。
その視線の先にいる敵を睨んでいるように見える。

「シンジ君、落ち着いていますね」

日向がモニターに映るシンジを見ながら言った
シンジは軽く目を閉じている
体調をモニターしている数値にも変化は無い。

「…そうね、それに比べて…」

リツコはアスカとレイの映っているモニターの数字を見ながらつぶやいた。

「2人とも緊張してるみたいですね」

マナの言葉にリツコは頷いた。

アスカは見るからに不快そうな顔をしているし、レイは見た目は変わらないが数値を見るとアドレナリンの量が多い事がわかる。
二人とも軽く興奮しているようだ。

「仕方ないわよ、この状況で緊張しないシンちゃんのほうが稀なのよ。」

ミサトの言葉にリツコも頷く。
神がかり的な運が必要とされるこのミッションにおいて平常心でいろというのも無茶な話だ。
そんな作戦しか出せなかったミサトが唇を噛む。

「子供たちに命をかけさせてばかりいる。俺達って無力ですね」

青葉の言葉が発令所に重く響く。
それは誰もが思っていて言い訳の出来ない事実

「大丈夫よ、あの子達はエヴァの中にいる。なにかあってもATフィールドがあの子達を守るわ」

ミサトはその点に関しては自信があった。
少なくともこの発令所よりは安全だろう。
ATフィールドと分厚い特殊装甲が彼らを守るはずだ。

その時、ミサトの背後の扉が開いてマナ達が入ってきた。

「霧島さん?退避しなかったの?」
「どこにいてもサードインパクトが起こったら同じですから…」
「…そう」

ミサトは短く言うと正面モニターに向き直った。
いまさら逃げても無駄だろう。
むしろ外に出たほうがサハクィエル落下の衝撃で危険だ。

「使徒出現!!」

日向の一言で発令所に緊張が走った。

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『使徒接近!!距離25000!!』

発令所からの通信にエントリープラグの中でシンジが顔を上げる。

(来たか…)

シンジは胸元のロザリオを握り締める

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「距離10000までは…シンジ君?」

説明の途中でモニターの中の初号機に変化があった。
自然体で立ちあがったまま動かないのだ。

しかも黙って空を見ている。

「シンジ君どうしたの?」

ミサトが通信を送るがシンジは答えない。
後ろで見ていたマナ達は緊張した。
シンジはやるつもりだ。

「どうなってるの?」
「初号機側から通信をロックされています。」
「なんで…」
『スタート!!』

日向の椅子に手をついてモニターをのぞき込むミサトの耳にアスカの声が届いた。

「なんなの!?」
「弐号機と零号機がアンビリカルケーブルを排除して走っています!!」
「なんですって!!どこに向かってるの!!」
「これは…初号機の所に向かっています!!」
「リツコ!使徒は!!」

ミサトはとりあえず使徒の情報を求めた。
シンジ達がどういうつもりかわからないが今はサハクィエルが落ちてきているのだ。
問題はどこに来るのかだが・・・

「どうなの?」
「まちがいないですね…」

リツコはマヤとMAGIを使って使徒の軌道計算をしていた。
どうやら結果が出たようだが二人の顔が困惑している。

「どうなってるの?」
「…いい知らせよ」
「なにが?」
「使徒はシンジ君の初号機に向かってるわ」
「そんな…シンジ君達はこれを予想してたって言うの?」
「わからないわ、でもいまは作戦を成功させることが重要よ。このまま行けば三体で使徒を受け止める事が出来る」
「…そうね、勝率は?」
「42,3%にはねあがったわ」

ミサトはモニターに向き直った。
シンジ達がどうやってそれを知ったのかはわからないがこのまま行けば最高の状態で作戦に入れる。
全員の胸にわずかながらも安堵の想いが浮かぶ。

しかし、それも長くは続かなかった。

「使徒が加速!!」

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シンジはモニターの中の光景に顔をしかめた。

エントリープラグから見える空に大気との摩擦で真っ赤になっているサハクィエルが見える。
その大きくなってくるスピードが速くなったのだ。

「加速した?」
(ATフィールドの反発を利用したか・・・)

ブギーポップのつぶやきは感情が含まれていないだけに事態の深刻さがわかりづらいがかなりまずい状況である。
落下速度が上がったということはそれだけ地上に落ちた時の破壊力も上がるということだ。
しかも…

「アスカとレイは間に合わないか…」

本当ならエヴァ三機が同時にATフィールドを張って受け止めるのが理想なのだがサハクィエルが加速した事によって間に合わないようだ。
やはり初号機一機で受け止めなければならないらしい。

シンジは覚悟を決めた。

(…はじめようか)
(はい)

シンジは精神を集中し始めた。
同時にブギーポップとのシンクロも並行して行う。
ブギーポップもシンジに力を貸して初号機に限界以上の力を出させる。

それにあわせて初号機の周囲の風が起こった。

巻き上がる砂埃が螺旋を描きながら空を舞う。

徐々に近づいてくるサハクイエルにあわせるように風は速度を上げた。

「ATフィールド!!全開!!!」

シンジの叫びと共に初号機の周囲の建物が吹っ飛んで更地になる。
そのまま真正面からサハクィエルにフィールドをたたきつけた。

ズン!!!!!!
「があ!!!」

シンジの口から獣の声が漏れる。
予想以上の衝撃だ。

目の前にはサハクィエルの単眼がこちらを見下ろしている。

「くお!!」

しかしシンジは初号機を踏ん張らせて一歩も引かない.

初号機とサハクィエルの周囲では余波だけで台風並みの風が渦巻き。
地面はえぐれて吹き飛ばされていく。

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モニターに映る光景にアスカはうめいた
サハクィエルの落下速度が上がったのは見ていてわかった。
しかし・・・

「まだ遠い…」

弐号機と初号機の間には残酷なまでの距離がある。
このままでは間に合わない。

「くっそ・・・」

シンジの予想の通りになっている。
誤算は使徒が加速した事だろう。

いくらシンジでも受け止められるかどうか・・・

「それほどに…シンジを…怖がって…殺したいのね」

アスカはレバーを握りなおした。

「またなの…」

いつでもシンジは自分たちの先頭で戦っている。
そのために人一倍傷ついている。

今回もシンジが無事に切り抜けるとは限らない。
シンジが“死ぬ“ことも考えられるのだ。

アスカの視線の先で初号機がサハクイエルの巨体を受け止めた。
同時に必死の表情の形相のシンジがモニターに映る。

「認めない…」

アスカの重いつぶやきがもれる.

そう…認めるわけには行かない。

「シンジ!!アンタの“死”など認めない!!」

その瞬間、アスカの瞳から光沢がなくなった。

「シンジ君…あなたを死なせはしない…それが彼女の意思…」

弐号機の速度が上がった。

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「シンジ君・・・」

零号機のなかでレイがつぶやいた。
初号機がサハクィエルを受け止めるのを彼女も見たのだ。
このままではシンジが・・・

「シンジ君・・・今行く・・・」

いつでもそうだった。
自分が彼を意識してすらいなかった頃からシンジは自分の為に心を砕いてくれていた。
綾波レイの正体を知ってなお拒絶はしなかった。

レイはそんなシンジの力になりたいとずっと思っていた。
しかし現実としてシンジとの実力の差はまったく埋まらずいつも守ってもらっていた。

「シンジ君・・・」

モニターの中の初号機の四肢が裂けて血が噴出す。
初号機が衝撃に耐えられなくなってきているのだ。
それを見たレイの中で何かが切れた。

「・・・シンジ君・・・あなたは死なない・・・私が守るもの・・・」

零号機が更なる加速を見せる
残像すら残さないほどのスピードで町を突っ切る。
それは明らかに零号機のスペックを越えた速度だった。

「・・・力が・・・ほしい・・・」

レイは初号機だけを見ていたために気づかなかった。
すでに”力”は自分の中で目覚めていた事を。

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発令所でモニターを見ている者達は全員言葉をなくしてモニターを凝視している。

「何なのこれ?」

ミサトが発令所でつぶやく
モニターにはたった一機であの破壊を支える初号機とまさに神速と呼べるほどの速度で初号機に向かう赤と青の巨人がいた。
とくに零号機の速度は驚異的だ。
もはや一本の青い矢と言ってもいい

計測器に出ているシンクロ率が・・・

Shinji ikari 231,9%
S Asuka Langley   152,8%
Rei ayanami 176,3%

「これがエヴァの可能性?」

リツコも呆然としている。
発令所の誰もが目にしているものが信じられない。

三人とも100%を超えるシンクロ率をたたき出し、さらに機体の限界を超えているんじゃないかと思うほどのすさまじい加速と膂力・・・誰がこの光景を予想しただろうか?
目の前に展開されている光景はまさに神話にある神々同士の戦いだ。

「シンジ君・・・」
「惣流・・・」
「綾波さん・・・」

マナ、ムサシ、ケイタが祈るように手を組んでモニターの中の友人を見る。
自分達には思う事しか出来ないがそれでも思いは届くと信じて・・・

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「がはっ」

シンジは血の塊を吐き出した。
200%を超えるシンクロ率でのダメージは尋常ではない。
あまりの激痛に意識が飛びそうだ。

(大丈夫かい?シンジ君?)


「な、なんとか・・」

シンジは息も絶え絶えに答える。
シンクロしている状態ではブギーポップもシンジとおなじ痛みを感じているはずだがブギーポップの声はいつものように淡々としていてよどみがない。

いつもと変わらないブギーポップの声がシンジの意識をこの世界につないでいた。

(もうすこしだ。今、綾波さんが来る)

シンジが横目で見ると尋常じゃないスピードで零号機が走りこんでくる。
明らかに異常な加速だ。
零号機の周囲にソニックブームまで起きている。

「な、なんだあれ?…」

その光景に疑問は沸くが思考が働かない。
気を抜くと一気に押し切られてしまいそうな状況で余裕がないのだ。

『シンジ君!!』

外部スピーカーからレイの声が届く

初号機のそばに来た零号機が一緒にサハクィエルを支えようとしてATフィールドに手を伸ばす。

零号機の青い手がATフィールドに触れた瞬間、“それ”は起こった。






To be continued...

(2007.07.14 初版)
(2007.07.28 改訂一版)


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