天使と死神と福音と

第玖章 〔激神降臨〕
W

presented by 睦月様


「な、何が起こっているの!!」
「電磁波、光学、すべてのセンサーを受け付けません!!」

発令所のモニターには初号機と零号機のいた地点を中心にドーム状にオレンジ色の壁があった。
そしてそれに覆いかぶさるように巨大なサハクィエルの姿がある。

それ以外のことは何も分からない。
視覚以外のどんな情報もセンサーが振り切れてしまっている。
零号機が初号機に接触したように見えた次の瞬間にはこの有様だ。

「ATフィールドなの?」
「…まさに結界ね…」

ミサトのつぶやきにリツコが答える。
ABSOLUTE TERROR FIELD・・・その名に恥じぬ絶対の防壁・・・

「弐号機が接触します!!」

モニターの中で赤い弐号機がまったく速度を緩めずに突っ込んでいく。
このままでは激突する。
いくら弐号機でもあの速度でまともにぶち当たればただではすまない。

「あ、アスカちょっと待って!」

ミサトがあわてて指示を出すが無視された。
弐号機はとまらない。

「弐号機、ATフィールド展開!!」

弐号機の前に八角形のオレンジのカベが現れ露払いのように目の前のフィールドに干渉する。
そのままわずかに中和した隙間に体を滑り込ませるようにして弐号機はフィールドの中に飛びこんで行った。

「なんなの…」

その答えは誰にもわからなかった。

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「なんなんだこれ?」

シンジは呆然として周りを見た。
ATフィールドが傘状に自分たちの周りを覆っている
今まで自分が張っていたATフィールドがいきなり強くなったのだ。

「…初号機?」
(いや、違うみたいだ)
「どう言う事ですか?」
(これの原因は綾波さんらしい)
「レイ?」

シンジは首を回して零号機を見る。
フィールドに手をかざしたまま零号機が固まっていた。

「レイ?」

シンジは通信を零号機につないぐ。
ウインドウが開いてレイの顔が映った。

『シンジ君!!』

モニターに映ったレイは放心していたがシンジの言葉に反応した。
あわててシンジの映っているモニターを見るとその無事な姿に安堵する。

「これはレイがやったの?」
『わ、わたし?…わからない…』

レイはこの状況を自分が起こしたと言われて戸惑っている。
どうやら自覚してやったことではないらしい。

(どう言う事なんですか?)
(それはわからないだろうね、彼女の能力はなかなか一人では自覚しにくい)
(レイの能力が何なのかわかってるんですか?)
(まあね…ちょっと代わってくれるかい?)

シンジはブギーポップと入れ替わる。
まとう雰囲気が一瞬で変わった。

「綾波さん?」
「…碇君じゃない…」
「すまないね、それより聞いてほしいんだ。この状況は君が起こしている。」
「わたしが?」
「そう、君の能力はおそらく【強化】と【増幅】だ」
「【強化】と【増幅】?」
「そうだ。これは君がATフィールドを増幅して強化した結果だよ」
「これが…」

レイは周りを見まわした。
あの圧倒的なサハクィエルを受け止めるどころか押し返している。
これが自分の能力のせいだとは信じられない。

「ブースターのようなものだ。対象がないと意味を成さない能力・・・こんな能力一人では気づくわけが無い。」
『そう言う事ですか…』

いきなり飛びこんできた通信はシンジのものでもレイのものでもない。
フィールドを突き破って初号機の隣に弐号機が走りこんできた。
シンジがブギーポップと交代する。

「アスカ?」
『残念ですが今は違います』

モニターに映ったアスカの目には光沢が無かった。

「…歪曲王?なんで出てきたんだ?アスカに危険は無いはず」
『あなたの死に反応したんですよ。彼女はあなたの死を否定しました。』
「ぼくの…」

シンジがなにか言おうとするより早くレイが口を開いた。

『あなた誰?アスカじゃない・・・』

レイがいぶかしげに誰何した。
彼女はシンジとブギーポップの違いにも気がついていた実績がある。
アスカと歪曲王の違いにも気がついたのだろう。

『はじめまして綾波レイさん、私は歪曲王、惣流・アスカ・ラングレーの一部であり独立した存在、ブギーポップと同じ様なものですよ。」
『・・・ブギーポップと?』

レイは不思議そうだ。
アスカじゃないことを見抜いたのはさすがだが事情の説明もされてないのに理解は出来ない。

「自己紹介はそのあたりにしてほしいな、上にいる彼をどうにかしてくれないか?」

シンジと入れ替わったブギーポップの言葉に弐号機の四つの目が頭上を見上げ、自分達を見ている巨大な目と交差する。

『わかりました』
「頼むよ」

ブギーポップの言葉と共に初号機がひざをつく。
両手足のダメージはかなりひどい。
立ち続けることも出来ないほど・・・中のシンジがどれだけのダメージを受けているか計り知れない。

『シンジ君!!』
『レイさん、彼は大丈夫、それよりフィールドの強化を維持してください』
『で、でも・・・』
『一撃で決めて見せます』
『・・・わかった』

二人の頼もしい言葉にシンジの顔に笑みが浮かぶ

『行きます』

弐号機の前に八角形の壁が出現した。
間をおかずに歪曲王の能力が発動する。

『初号機?』

レイの信じられないという声が聞こえた。
そこにいたのはオレンジ色ではあるがまさに初号機だった。

『なんで・・・』
『これが私の能力、【Tutelary of gold】ですよ。詳しい事はシンジ君に聞いてください』

【Tutelary of gold】は歪曲王の作り出したソニックグレイブを持って構える。
狙いは頭上のサハクイエルの単眼

『本来ならこれでいいんですがこの強化されたフィールドを貫くには力不足ですね・・・だから・・・』

歪曲王の言葉と共に【Tutelary of gold】が光り始める。
徐々に光は強くなっていき、その色がオレンジから黄金となった。
まさに【Tutelary of gold】(黄金の守護者)の名前の通りである。

『こちらもATフィールドを限界まで圧縮しました。・・・この一突きはあらゆるものを貫くでしょう』

黄金色になった【Tutelary of gold】が神速の突きでサハクィエルを突き刺した。
その勢いはただ刺さるだけでなく目の部分を中心にサハクィエルに大穴をあける。

胴体の中心を貫かれたサハクィエルの体は地面に落ちようとするが強化されたフィールドはそれすらも許さず。
サハクイエルの体を空中にはじき返した。

ズドン!!!

次の瞬間、サハクィエルは爆発したが爆風はやはりフィールドにさえぎられて地上には届かなかった。
とんでもない防御力である。

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「・・・それ本当なの?」
「とても信じられないわね」

ミサトとリツコが胡散臭そうな目で正面のシンジ達を見ている。
サハクィエルを殲滅したあと、シンジ達はシャワーを浴びて学生服に着替えてから発令所に来ていた。

「本当ですよ。使徒が来るな〜って見ていたら本当に来たんですよ。」
「うっそでしょ〜」

ミサトとリツコはシンジに今回の作戦でなぜ使徒が来る場所がわかったのか問いただしていた。
さすがに今回はまずかった。
なにせ自分の真上に降って来るのを予想していたと言わんばかりの状況だ。
シンジも苦しい言い訳に困っている。

「本当はわかってたんじゃないの?」
「それじゃあどうやってそれがわかったって言うんですか?」
「う、それは・・・」

リツコとミサトは返答に困った。
結果から言えばシンジがあらかじめ使徒の来る場所を予想していたというのは限りなく黒だろう。
しかしそこにいたるまでの過程の説明はできないのだ。

これが実証できない限りミサト達の言い分は予想の域を出ない。
まあ、アダムの魂の宿ったロザリオを餌にしたなどとは考えもしないだろうが・・・

(でもそろそろこのいいわけも限界かもしれませんね、他の言い訳のレパートリーを考えとかないと・・・)
(たしかにね)

ミサトとリツコはシンジへの追求をあきらめた。
そもそもこういった論争で自分たちが勝ったためしは無いしシンジの言うことを否定する明確な証拠も無い。
確実なのは使徒が殲滅できたということだけだ。
今はそれで十分だろう。

「じ、じゃあアスカとレイはどうなの?なんで指示の前にシンちゃんのところに駆け出したの?」

ミサトはアスカとレイに矛先を向けた。
これは一歩間違うと命令違反にあたる。
だが結果的に二人の行動のおかげで何とかなったのも事実・・・
それだけに命令違反は問わないが命令系統はある程度きちんとしなければいけない。
そうしないと混乱の元だし何かのときにシンジ達が責任の矢面に立つことにもなりうる。

ミサトとしては作戦部長としての公とミサト個人としての私の両方で今回のことは見逃せないとおもっている。

「え?ああ、なんっていうか・・・なんとなく落ちてくる方向からシンジのほうに落ちそうだな〜って思って・・・」
「私もそう判断しました。」

二人の言葉にミサトはあきれた。
リツコが絶句したミサトから話しを引き継ぐ。

「そんなことで・・・」
「う〜ん、大まかなところにいれば後はMAGIで調整すればいいかな〜って」
「間違ってたらどうするつもりだったの?」
「それは〜ほら、女の勘って奴?」
「あんたね〜」
「ミサトだって勘でエヴァの配置決めたじゃない」
「あうっ」

ミサトがいたいところを突かれてうめいた。
人類を救うための作戦で勘に頼るのは確かに問題だ。
と言うかクジ運の悪い自分が勘に頼るのはやはりまずい気もする。

「ま、女の勘は偉大だって事でしょ!!」
「そ、そうよね!!」

なぜか引きつった笑みで笑うミサトとアスカ・・・
人類の明日は・・・・・・・

「…ぶざまね」
「そう言うリツコさんこそなんでここにいるんですか?」
「うっ」

今度はリツコが冷や汗をたらしてあさっての方向を見た。
実は使徒の後始末などいろいろしなければいけなかったのだがシンジの事が気になって後回しにしてきたのだ。
シンジの秘密はもちろん気になるがそれ以上に200%以上のシンクロ状態でのダメージがどんな影響を及ぼすのかはわからない。
ぶっちゃけシンジの事が心配だったのだ。

「ロ、ロジックじゃないのよ…」
「なんですかそりゃ?」
「ま〜いいじゃない」

アスカが強引に話しに割り込んできた。
そのせいでいろいろとうやむやになった感がある。

「そんなことよりミサト!!」
「はい?」
「ミサトのおごりでご飯食べに行くんでしょ〜が」
「あう・・・」

そこのところはうやむやにならなかったらしい。

ガシ!!

ミサトの両腕が誰かに掴まれた。
見るとムサシとケイタだ。

「今日はありがとうございます。」
「作戦部長じきじきにおごってくださるなんて〜」

満面の笑みでしっかり拘束する。
まるで捕獲されたエイリアンだ。

「え、でもあたしまだ仕事が・・・」
「さあ行きましょう!!」

マナの号令で子牛のように連れて行かれるミサト
シンジは一瞬横目で振り向いたマナの目が笑ってないことに気づいた。

(どうやら彼女達も協力してくれるらしい)
(ありがたいことですね)

どうやらマナ達はシンジ達の追及をはぐらかしてくれるようだ。
強引な力技でうやむやにするつもりだろう。
当事者であるシンジ達が同じことをやれば妖しさ倍増だがマナ達ならそれも薄い。

「ちょっと待ちなさい!!まだ司令に報告とか・・・」
「何言ってんの!!リツコも付き合いなさい!!」
「はあ!?」

リツコの抗議を無視してアスカはリツコの腕を取って歩き出した。
中学生とはいえ毎日のように戦闘訓練を受けているアスカとキーボードより重いものを持ったことのない技術屋のリツコでは勝負にならない。

「・・・行きましょうシンジ君」

そう言ってレイも皆を追いかけて歩き出した。

「・・・本当にありがたい人たちだ・・・」
(大事にするんだね)
「・・・・・・はい」

シンジも笑いながら皆について歩き出した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・

「で?・・・なんでここなの?」

ミサトは目の前にあるものを見ながら隣に立っているアスカに聞いた。
アスカは何やら得意げに鼻を鳴らす。

「ミサトの財布の中身なんてわかってるわよ!!」

目の前にあるのはラーメンの屋台だった。
確かに財布には優しい。

「それとも本当にフルコースに行く?」
「さあおいしいラーメンを食べましょう!!」

真っ先にミサトが暖簾をくぐった。
現金なものだ。

他の皆も苦笑してそれに続く。

「・・・なんでわたしまで・・・」

半ば以上拉致に近い形でここにいるリツコがぼやくが無視された。
その後、それぞれラーメンを注文したがさすがに8人は屋台に入らず
外にテーブルを用意して分かれることになった。

外のテーブルの組の中にシンジとリツコの姿があった。
ちなみにリツコはちゃっかりシンジの横に陣取っている。
シンジを見る瞳が怪しい。

「シンジ君?」
「なんですか?」
「あなた何者?」
「・・・またそれですか?」

その言葉に妙な緊張状態が生まれる。
何度もはぐらかされてきたくせに、どうやらまだ諦めていなかったらしい。

「碇シンジですよ」

シンジの一言でアスカとマナ達は噴出しそうになった。
・・・確かに嘘は言っていない。
レイはただ静かに緊張している。

「・・・それだけじゃなくあなたの秘密が知りたいんだけれど?」
「知ってどうするんです?ストーカーにでもなりますか?」
「それもいいかもしれないわね」

シンジの嫌味をあっさりかわすリツコ、いつもやられてばかりじゃないらしい。
さすがにこの程度は軽くかわすと思っていたシンジもどうということはないがリツコはこのままでは引き下がらないだろう。

ちょっとだけ考えるように頭上を見ると口を開く。

「・・・一つだけ、ぼくは世界の敵じゃありませんよ」
「・・・・・・ネルフの味方ではなくて?」
「それはぼくが決めることじゃないでしょ?」
「・・・どういうことかしら?」

シンジが横目でリツコを見た。
その視線はかなり鋭い、まるで刃のようにリツコを射抜く。

「ネルフがぼくの敵に回るかどうかって事です。」

シンジは笑いながらリツコに話すがやはり目が笑ってない。
しかしリツコも慣れがあるのか引き下がらない。

「何が言いたいの?」
「前に言ったでしょ?覚悟を決めろって」
「・・・それは脅し?」
「中学生に脅される国連組織もめずらしいですね」

リツコは油断なくシンジを観察した。
エヴァのあるなしではなくシンジの存在はネルフにとって大きすぎる。
その根源は一体何なのか・・・

「・・・いいわ、でもこれだけは答えてちょうだい」
「なんですか?」
「なぜ使徒はあなたに向かったの?」
「・・・どうしてそう思うんですか?」
「女の勘って奴かしら・・・」
「説得力ありますね」

シンジは使徒の来る場所を予想したではなく使徒がシンジに向かっていった。
この意味は大きい。
それはシンジが使徒を惹きつける方法を知っているということだ。

そうでないとすればシンジの勘がMAGIの計算能力を超えたことを意味する。
第一人者のリツコとしてはいろんな意味で前者であってほしい。

シンジはあえて否定しなかった。

「・・・多分恨んでるんじゃないですか?ぼくは何体も使徒を殲滅して来ましたから」

ミサトとリツコが息を呑む。
言い表せない妙な空気がシンジの周りに漂いだした。

「・・・誰かから恨まれても戦う理由が君達にはあるかい?」

その言葉をつむいだシンジの顔は片方の目が細く開けられていた。

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「・・・報告は以上です。」
『・・・ご苦労・・・』

通信機の前で加持がサハクィエル戦の被害を報告していた。
今まで使徒の影響で南極にいるゲンドウたちとの通信はできなかったがサハクィエルの殲滅により、電波の状態が回復してゲンドウ達に連絡がついたのだ。

しかし、本来報告をするべきミサトはおろかリツコもチルドレンすらいない。
簡単に言うと報告する人物がいない。
加持が報告をしているのはミサトとリツコがシンジ達に拉致られ退場したあと、彼が一応一番階級が上ということで白羽の矢が立ったからだ。

「初号機が大破しましたがサードチルドレンにはこれといって問題はないようですね〜しかし200%以上の高シンクロでのダメージは前例がないもんで、肉体的な影響の可能性を考えて赤木博士から休養の指導がされています。」
『問題ない、エヴァはシンクロで動かすものだ。肉体的な影響は関係しない』
((((このくそおやじ!!))))

発令所のオペレーターたちの心の声がシンクロした。
確かにエヴァは意思で動かすものだから体に障害があっても問題なく起動できるが必死で戦うシンジの姿はモニターしていた者の心を打つ
今回もシンジは血を吐いた。
それは記録に残っている。

それでも彼は戦ったのだ。
決して「問題ない」で済ませていいことではない。

『サードチルドレンはどうしている?』
「ただいま療養中です。」
『作戦部長と赤木博士は?』
「今は使徒戦の後始末とD−17の解除で忙しいようですよ」

本当はラーメンの屋台にいるのだがそれは言わない。

(後で口裏あわせとかないとな・・・葛城ぃ〜この埋め合わせ頼むよほんと・・・)

ゲンドウからの通信がしばらく沈黙した。

『・・・・・・ファーストチルドレンを呼べ』
「そりゃまたどうして?」

加持は平静を装って話すがシンジとゲンドウの確執の発端の一部が彼女の扱いにあるのはすでにみんなの周知の事実だ。
発令所のスタッフが顔が見えないことをいい事にあからさまにいやそうな顔になる。

『・・・レイにはやらなければならない事がある。子供のわがままにいつまでも付き合っていられない。』

どうやら最後のレイとなった今のレイにちょっかい出すつもりのようだ。
シンジが療養中と聞いてチャンスとおもっているらしい。

その言葉に加持が半眼になる。

「ありゃ〜何か通信の声が遠いですな〜」
『何?』
「すいませんよく聞こえなかったのでもう一度お願い出来ますか?」

そう言いながら通信機に近づく加持・・・

『だからレイを・・・』
「使徒の影響でしょうかね〜やはり磁場が安定してないみたいですな〜」

加持は通信機の裏から伸びているコードを手に取った。

『こちらには問題ないぞ?』
「そうですか?こちらの状態はかなり悪いですよ。これじゃあいつ切れても・・・」

そう言ってコードを引き抜く。
ブツという音と共に通信が切れた。

「・・・使徒の影響で電磁波が発生、通信は司令が帰るまで復旧しなかったと言う事でヨロシク」
「「「「了解!!」」」」

加持の言葉に皆が頷いてそれぞれの作業に戻っていく。
皆の思いは同じらしい。

手に持ったコードをつまらなさそうに一瞥すると加持は通信機を片付けた。

「・・・あの人も俗物だな・・・」

独り言なのにまったく声量を抑えていないので他の皆に丸聞こえだ。

「しかしあの顔に加えてロリコンのけまであるとは・・・そのまんまだな・・・」

加持の一言で発令所に爆笑が起こった。
ゲンドウのカリスマさらにマイナス・・・

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「・・・どう思うかね?」

薄暗い部屋に浮かび上がるホログラムたち・・・
バイザーをかけたキールの言葉に全員がうなづく

「・・・やはり碇シンジは何か知っていると見るべきでしょう」
「たしかに、そうでなければまったく動くことなくサハクィエルを受け止める事など不可能だ。」
「さよう、そもそも初号機の配置はかの者が事前に指定していたと聞く」
「最初からあの場所に来ることが分かっていたと?どうやってだ?死海文書にすらそこまで詳細にはしるされてない。」
「サードチルドレンがより詳細な死海文書を手に入れていたとすればどうだ?死海文書は我等にとっての羅針盤だが他にも存在してないとは言い切れまい?」

口々にシンジの不可思議な行動について話し合う。
しかし答は出ない・・・出る筈がない。

それは彼らが無知だからではなくシンジとブギーポップのような異質な存在と相対したことがなかったからだ。
自分たちとあまりにも違いすぎる者だからこそ彼らには理解できない

「あのATフィールドはどう見る?」
「零号機との相乗効果の結果と見ていいのではないか?」
「報告書にもそのように記載されてはいたが・・・」
「信用は出来んな、特にサハクィエルの落下地点にいたのはたまたまだと記載されていたぞ?子供だましにもほどがある。」
「他のチルドレンたちの動きも碇シンジが関係していたと考えれば合点がいくというもの・・・」

おのおのの意見が出きった後、一旦沈黙が降りる。
それを待っていたキールが口を開いた。

「碇シンジを召喚する」

その言葉に場がざわめいた。

「よろしいのですか?」
「調査を重ねても実のある結果は見えてこない。この上は直接問いただすしかるまい」
「・・・承知しました。では早速六分儀に手配させましょう。」
「まて・・・」

キールがゲンドウへ連絡を入れようとしたメンバーを止めた。
召喚するといいながら呼び出しを止める・・・この場にいる全員がキールに疑問の顔を向ける。

「六分儀に知らせる必要はない」
「それは・・・どういうことでしょうか?」
「かの者と六分儀が結託している可能性も捨てきれん」
「しかし報告では二人の関係は・・・」
「碇シンジの報告を君はどこまで信じられる?」
「・・・」

確かに・・・その可能性は捨てきれない。

「碇シンジに関しては時期を見て遣いを出す。」

キールの一言でシンジへの対応が決まった。

「ではご苦労だった。・・・すべてはゼーレのシナリオのままに・・・」
「「「「「「ゼーレのシナリオのままに・・・」」」」」」

いっせいにホログラムが消える。
後にはキールだけが残った。

「碇シンジ・・・何者だ・・・何を考えている・・・」

そういうとキールのホログラムも消えて暗闇だけが残った。

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ザパ〜ン
  ザパ〜ン


サハクィエルを殲滅してから数日たったある日の夜・・・
ドグマの地下に青い巨人の姿があった・・・零号機だ。
右の手に捻じ曲がった螺旋で構成された二又の槍がある。
零号機は足元のLCLを掻き分けながら進んでいく。

「・・・」

レイは不快だった。
今回のことは直接ゲンドウからの指示ではなかったが冬月経由での指令だ。

「ドグマの巨人にこの槍を指してほしい」

これが実験だったら断固拒否だったのだが「シンジ君にも益になる事だ」といわれれば無碍にも出来ない。
それに・・・・・・

やがて十字架に貼り付けられた白い巨人が見える。

レイは無言で槍を構え、一気に貫いた。

「・・・」

それが終わったあとレイは視線だけで十字架の上のほうを見る。
そこには筒のような奇妙なシルエットがあった。
ドグマ以前のネルフ本部に入ったときからずっと見守っていたのだ。
レイは頷くときびすを返し、来た道を戻り始めた。

「・・・・・・」

それを見ていたシルエットが不意に飛ぶ。
突き立てられた槍の柄に危なげなく飛び降りる。

「ロンギヌスの槍か・・・どこまでいっても聖書をなぞるとは・・・神にでもなりたいのかな・・・」

シンジは立ち上がって背後の巨人と向き合う。
七つの目を持つ仮面が正面に見えた。
はっきり言って悪趣味以外の何物でもない。

「・・・まあいいさ・・・せいぜい利用させてもらおう・・・」

そう言って方膝をつくと夜色のマントの中からあるものを取り出して槍に近づけた。

「問題ないようだね・・・これは使えそうだ・・・折を見て仕込むとしよう。」

どうやら何かの確認らしい。
数秒で終わらせると立ち上がって零号機を追って走り出す。
この一件が後のゲンドウたちのシナリオを根底から破壊してしまう事は誰も知らなかった。

・・・ただそれをなした死神と少年以外は・・・

すでにシナリオはゲンドウや死にぞこないの老人達の手を離れている。
今シナリオを司っているのは少年と死神・・・・・・

それを知るものはまだ一人もいないが・・・

理由だけははっきりしている。


これは少年と死神の物語






To be continued...

(2007.07.14 初版)
(2007.07.28 改訂一版)
(2007.10.06 改訂二版)


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