シンジ達が死闘を繰り広げている時、その足元よりも下で人類の存亡をかけた決戦があった。

『人工知能メルキオールより、自律自爆が提訴されました』

電子音が響く。
モニターに映るMAGIの状態を表す三つの表示のうちひとつが赤くなっていた。
MAGIを構成する三台の内の一機、メルキオールがイロウルに乗っ取られて本部の自爆決議を推奨したのだ。

『『否決』』

しかし残る二機、カスパーとバルタザールが否決を出す。
自爆決議は否決された。

「こ、今度はメルキオールがバルタザールをハッキングしています!!」

青葉が叫ぶ瞬間にもメルキオールからのハッキングは続いていた。
モニターのバルタザールの表示が赤く塗り換わっていく。
このままでは三台ともイロウルにのっとられてしまうだろう。
そうなれば問答無用で自爆決議が可決される。

「くそぉ~~っ!!早いっ!!!」
「なんて、計算速度だ!!」
「ロジックモードを変更!!シンクロコードを15秒単位にして!!!」
「「了解!!」」

リツコの指示が飛ぶ。
応えてオペレーターたちがキーボードを操作する。
演算能力を落とす事によってハッキングのスピードが落ちた。

「どのくらい持ちそうだ?」
「今までのスピードから見て、2時間くらいは・・・。」
「MAGIが・・・敵にまわるとはな・・・」

冬月が唇をかむ
MAGIが乗っ取られるという事はネルフそのものの無力化を意味する。
同時にネルフのほぼすべての施設の管理を司っているMAGIが敵にまわったということはネルフそのものが敵に回ったようなものだ。






天使と死神と福音と

第拾章 外伝 〔衣〕

presented by 睦月様







司令執務室にゲンドウをはじめ、幹部集団が集まっていた。
リツコがまとめたイロウルの調査報告を聞く為と今後のことを話し合う為だ。

「彼らはマイクロマシン。細菌サイズの使徒と考えられます。 その個体が集まって群を作り、この短時間で知能回路の形成に至るまで、爆発的な進化を遂げています」

リツコはミサトと並んで詳細を説明していた。
結論だけ言えばかなりまずい。
もっと言うならイロウルはこの瞬間も進化を続けていてせっせとMAGIをのっとろうと励んでいる。
完全にMAGIを手中に収めれば問答無用で本部の自爆を決議するだろう。

「進化か・・・」
「はい、彼らは常に自分自身を変化させ、いかなる状況にも対処出来るシステムを模索しています」
「正に生物の生きるシステム、そのものだな・・・。」

冬月の言葉に全員が黙る。
進化を続ける敵にどう立ち向かえばいいのか・・・下手なことをすればそれをもとに進化を加速させてしまう。
沈黙を破ったのはミサトだった。

「自己の弱点を克服・・・進化を続ける目標に対して有効な手段は・・・死なばもろとも 、MAGIと心中して貰うしかないわ・・・MAGIシステムの物理的消去を提案します。」
「無理よ!!MAGIを切り捨てる事は本部の破棄と同義なのよ!!!」
「では、作戦部から正式に要請するわ!!」
「拒否します。技術部が解決すべき問題です。」

お互い一歩もひかない。
至近距離でミサトとリツコがにらみ合う。

「なに意地はってるのよ!!」
「・・・私のミスから始まった事なのよ」

視線をはずしたリツコを見ながらミサトがため息をつく。
親友である彼女の頑固さは良く知っている。
こうなったらてこでも動くまい。

「あなたは昔からそう、1人で全部抱え込んで・・・他人をあてにしないのね・・・」

結局ミサト達はMAGIの物理的破棄を放棄して使徒に自己進化プログラムを送り、進化の最終形である死に追い込む作戦を取る事になった。

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「・・・な、なんですか、これ?」

せまいMAGI本体の内部にびっしりと張られたメモにマヤが驚く

「開発者のイタズラ書きだわ・・・。」

狭い内部をはって進むリツコがそっけなく言うが本心は結構嬉しかったりする。
これを書いたのは彼女の母だ・・・自筆の文字など見たのはどれくらいぶりだろう。

〔イカリのバカヤロー〕という書き込みを見たときはおもわず頬が緩む。
しかもこの書き込みだけは紙のメモではなくパイプに直接マジックで殴り書きしてあった。

「す、凄い!!裏コードだ!!!MAGIの裏コードですよ。これ!!!!」
「さながらMAGIの裏技大特集って訳ね?」

マヤはなにやら嬉しそうだがミサトはまったくわかっていないらしく首をひねっている。
技術者でもない彼女が理解できないのも仕方がないがこれはかなりすごいことだ。
全部理解できればMAGIを思い通りに出来るほどに、それはネルフそのものを手中に収められるということでもある。

「ありがとう、母さん・・・確実に間に合うわ」
「これなら、意外と早くプログラム出来ますね!!先輩!!!」

マヤの言葉にリツコは微笑んで答えた。

「葛城三佐!」

自分の名前を呼ばれたミサトが振り向くとマナ達がこっちに歩いてきていた。

「霧島さん、どうだった?」
「やっぱりダメです。重要な通路はロックされていて外に出ることも出来ません。」
「そう・・・」

ミサトはあまり落胆しなかった。
もともとダメ元でマナ達に退路を探すように指示を出したのだ。
しかしそうなると腹をくくらねばなるまい。

(いよいよまずいわね・・・)

出来れば技術関係以外のスタッフは退避させたかったのが本音だ。
ここが自爆すればかなりの犠牲がでる。
被害を最小限に抑えたいと思うのは上に立つものとして当然の判断だろう。

「これはとうとうリツコの手腕に世界の命運がかかってきたわね・・・」

ミサトの視線の先にはキーボードを叩いてプログラムを作っているリツコの後姿があった。
十年近い付き合いの親友の背中がこんなときはとても頼もしい。

「「ノ~プロブレム!!」」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

なにやら聞き覚えのある声が二つ発令所に響いた。
思わず全員の視線が集まるそこにいたのは時田と山岸の両博士

二人ともかなりおかしな格好をしている。
着ている物は白のワイシャツにネクタイ、そしてスーツのズボンと・・・・・・白衣?を着ていた。
何がおかしいかというと白衣が・・・なぜか黒かった。

「と、時田博士に山岸博士!!ど、どうしたんですか?」

ミサトは何か嫌な予感がしていたが聞かないわけにもいかない。
特に今は時間がないのだ。
無駄でくだらない事でリツコ達技術系のスタッフの手を煩わせるわけにはいかない。

「使徒に対して自己進化プログラムを注入して自滅を誘うため赤木博士ががんばっていると聞いて救援に来ましたよ。」
「は、はあ・・・」

背後を見るとリツコが横目でこちらを見ている。
その間も手が休んでいないのはさすがだ。
今の状況は猫の手も借りたいほど忙しい。
手を貸してくれるというのなら素直に喜ぶべきだろう。

「で、ではリツコのサポートに?」
「もちろんです。しかしそれ以上に新兵器が完成したので赤木博士に届けに来ました。」
「新兵器?」

ミサトは訳がわからなかった。
ネルフにおいて新兵器といえばエヴァ用の物だろう。
だが、この状況で届けに来る意味がない・・・というか邪魔だ。

「い、今はエヴァは外にあって・・・」
「無問題!!これは赤木博士用の新兵器です!!」
「「「「「「「「「・・・・・・・・・へ?」」」」」」」」」

まったく言っている意味が分からなかった
何故個人用の新兵器が必要なのか?

全員がそう思っていると山岸が手に提げた袋からあるものを取り出す。
それは時田と山岸が着ているのと同じ黒い白衣・・・・・・

「あ、あの・・・」
「なんですかな?」
「その黒い白衣が何か?」
「の~う!!」

いきなりの絶叫に全員が三歩ほど退く。
何かただならない雰囲気だ。

「これのことは黒衣(くろい)と呼んでください!!」
「く、くろい?」
「そう、さあ赤木博士!!これを!!」

そういって黒衣をリツコに向かって放り投げた。

リツコはそれを片手で受け取る。
もう反対はいまだにキーボードを叩いていた。

さすがリツコ、技術部のトップは伊達ではない。
雑魚〈ザコ〉(一般職員)とは違うのだろう・・・雑魚〈ザコ〉とは・・・

「これは?」

リツコの疑問に時田と山岸はフッと笑う。
なぜそんな満足げなのだろうか?

「「それを着れば我等は黒衣(黒い)三連星です!!」」
「「「「「「「ちょっとまてや!!!」」」」」」」

息の合った二人の言葉に発令所中の職員がユニゾンで突っ込みを入れる。
皆の思いは一つだ。

「か、葛城三左?」
「な、なにかしら?」

なぜかダメージを受けて膝をついてうつむいていたミサトがマナの言葉に顔を上げる。

「クロイサンレンセイって何ですか?」

後ろにいるムサシとケイタも訳がわかってないらしい。
不思議そうな顔でおろおろしている。

「セ、セカンドインパクト後の世代には分からないわよね・・・」
「「「はい?」」」
「い、今はちょっと待って・・・」

ミサトは気力を奮い立たせて前にいる二人をにらむ
何度でも言うが時間がないのだ。

「時田!!あんたこの非常時に何言ってんの!!」
「何を言う!!急ぎのときこそテンションが大事なのだよ!!見てみたまえ!!!」
「う、リツコ・・・」

見ると黒い白衣をいつの間にか着ているリツコがいた。

「ミサト?今は使徒戦滅が最優先です。そのためには利用できるものは何でも利用しないと、それになかなか着心地がいいわよ」
「・・・そうね」

なにか違う。
何か間違っている。
そう心が叫ぶがミサトはあえて突っ込まない事にした。
実際今は使徒の殲滅が最優先だし、何か突っ込むとどこまでも沈んでいきそうな予感がする。
底なし沼感覚だ。

「我々も行こう」
「はい!!」

時田と山岸が適当な端末からMAGIにアクセスする。

「ではいくぞ!!」
「「はい!!」」
「え?・・・ちょっと待った!!」

時田の号令に答えるリツコと山岸に何か嫌な予感を感じたミサトは思わず突っ込んでしまった。
そのことにミサトは後悔していない・・・むしろ後悔しているのは実力行使で黙らせるべきだったと言うことだ。

「ジェット!!」

時田の一言でミサトの背筋に寒気が来た。

「ストリーム!!」

山岸の一言で発令所の全員が脱力した。

「アタック!!」

リツコの一言で全員が白くなった。

「え?な、なに?」

マナ達は状況についていけてない。
この精神攻撃が効かなかったのはほんの数名・・・

「凄いです先輩!!」

マヤが言うとおり三人の速度はすさまじかったが他のスタッフはほとんどあっちの世界に旅立っていた。

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「まずいわね・・・」

リツコがつぶやく
その顔は険しい。

「このままだとちょっとだけ間に合わないわ・・・」

主に間に合わない理由はこの3人がスタッフがしばらくあっちの世界に吹き飛ぶような精神攻撃をかましたためであるのだが。
現実は認めた上であえて言おう・・・時間がねえ!!

「どうすんのよリツコ!!」

なんとか自分を取り戻したミサトがリツコに詰め寄るがリツコは何も答えずにキーボードを高速で操作する。
そんな時間も惜しい、まだリツコはあきらめていないようだ。

「ノ~プロブレム!!」
「こんな事もあろうかともう一つの秘策がある!!」

時田と山岸がこれまたキーボードを操作しながら叫ぶ。

「な、なんですか?」

正直いやな予感がする。
というかいやな予感しかしないがこの際他の方法はなさそうだ。
時田達がまじめに何かしてくれるのを祈るしかない。

「この服はリバーシブルなんだよ!!」
「それを裏返せば!!」

ミサトはそれを見たとき拳で突込みを入れたいのを我慢した。
ここで殴り倒すのは簡単だがそれでは人類が滅亡する。

深呼吸でぶん殴りたい衝動を抑えるとミサトは目の前の現実と向き合った。

そこにいたのはさっきまでの黒衣を裏返しに来た三人・・・・・・
その色は・・・赤かった・・・・

「と、時田博士?これはなんでしょうか?」
「黒衣あらため赤衣(あかい)、いや、あえて赤衣彗星と呼ぼう!!」
「「「「「「また駄洒落かよ!!」」」」」」
「これで三倍の速度で作業が出来る!!」
「「「「「「嘘つけ!!」」」」」」

どうやら全員のユニゾンした突っ込みはスルーされたらしい。

三人は周りを完全スルーして端末に戻った。
ミサトはフラフラしながら親友のもとに行く。

「リツコ~」
「認めたくないものね、若さゆえのあやまちなんて・・・」

話にならなかった。
しかしその腕の動きは確かに早かった。
あるいは本当に三倍で打っていたのかもしれない。

「せ、先輩!!」

ミサトが振り向いたそこにはマヤがリツコの脱いでいた白衣を着て立っていた。

「・・・・・・まさかそれで白衣(しろい)モビルスーツなんていわないわよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・言いませんよ、言うわけ無いじゃないですか~」

ミサトの言葉にマヤは声が上ずっていた。
そんなこんなで作業は続く・・・・・・

「マヤ!!いまよ!!!」
「はい!!」

リツコの指示でマヤがリターンキーを押すとモニターの中でほぼ真っ赤になっていたMAGIの表示が急速に白くなっていく。
自滅プログラムが効いたのだ。

「何とか間に合ったわね・・・」
「ふっ・・・坊やだから・・・」
「無視して聞くけど・・・どれくらい余裕がったの?」
「余裕?一分くらいあったわよ。この服のおかげね」
「・・・・・そう・・・・・」

納得はいかない
それは発令所全体の総意だが人類が救われたのも事実だし・・・
この際目をつぶるという事も時には必要かもしれない。

ミサトの思いは結構切実だった。

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「冬月・・・」
「わかっている。今から一時間前までの全ての記録を破棄、その上でMAGIの復旧を急げ!!」

司令の席から聞こえた冬月の鶴の一声で発令所のメンバーが動き始める。

「それと・・・」

ゲンドウが見下ろす先には時田と山岸がいた。

「・・・・・・ほしいのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ・・・」

ニヤリとゲンドウが笑った。

「三連星の後二人はどうする。」
「問題ない。」
「ほう・・・言っておくが私は付き合わんからな?いまさらそんな年甲斐もないことは出来ん。イメージ的なものもあるしな・・・」
「・・・冬月先生?」
「その反応・・・やはり頭数に入れていたな?私はそんなはしゃげるほど若くは無い。たとえリアルタイムでオリジナルを見ていたファースト世代とはいっても何十年前の話だと思っている?」
「・・・・・・時が見えるな・・・」

その後・・・ゲンドウが他に二人見つけて三連星を結成できたかどうかは誰も知らない。

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「それマジ?」
「おおマジ」
「「「「「「「「う~~~~~~~~~ん」」」」」」」」

シンジの家のいつもの朝食風景
全員がそろえば昨日のイロウル戦の事が話題に上るのは必然だった。
しかし、マナが事細かに語るほどにシンジ達の顔に疑問の色が出る。

「まあ俺達も分けわかんなかったしな~」
「なんだったんだろうね、一体・・・」

ムサシとケイタも訳がわからないらしい
とにかく固有名詞が多すぎるのだ。

(・・・ネルフは魔窟か?)

一人だけセカンドインパクト以前の世代である凪が引きつった顔と冷や汗をかくが幸い他の皆は気づかなかった。
正直質問されても困る。
そんなに詳しいことを知ってるわけじゃないのだから・・・

この疑問は後日シンジがネットで調べてセカンドインパクト前にはやったガン○ムの事を知るまでみんなの頭を悩ませた。


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To be continued...


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