天使と死神と福音と

第拾参章 〔神友〕
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presented by 睦月様


第二支部の消滅から一日後・・・ゼーレの議長であるキールがメンバーを召集した。

『これは予想外の出来事だ・・・』

相変わらず薄暗い部屋にモノリスが円状に並んでいる。
その中心には机でいつものように腕を組んで座っているゲンドウがいた。
いつものようにサングラスをかけているので表情は読めない。

『さよう。第二支部が消滅するなど寝耳に水だよ』
『結果、君の元にはもう1機、エヴァンゲリオンが渡る事になったしな…』

ゼーレからの言葉にゲンドウは無言
口出しする気はないらしい。

『・・・しかし参号機にはパイロットがいない』
『たしかに、せっかくの機体も動かす者がいなければ無用の長物だ。』
『ダミープラグの開発は頓挫していると聞く』

最後の言葉にサングラスの下でゲンドウの瞳がわずかに開かれた。
どうにも話が回りくどい。
何か遠まわしに言いたいことがあるようだがここまでの会話では何も見えてこない。

「……何がおっしゃりたいので?」
『参号機の起動実験にはダミープラグを使うわけには行かないだろう?』
『エヴァ参号機には万全の状態で実験に望む事が望ましい』
『エヴァ一機でも天文学的な金額の代物だ。四号機のてつをふむわけには行くまい?』

ゼーレの面々の言葉をゲンドウはいぶかしんだ。
確かに言っていることは正しいがわざわざこの場に呼び出してまで行う必要があるとは思えない。
書類一枚ですむことをなぜこんな手間をかけるのか疑問だ。
もちろんそれを表に出すことはないが疑惑は深まる。

「…新しいパイロットを使えと?」
『そうだ、マルドゥックからは追ってチルドレンのデータが送られるであろう。』

ゲンドウは内心で笑った。
マルドゥックなど名前だけで存在しない。
そんな事はこの場にいる誰もが知る事だ。
なのにわざわざマルドゥックという名を出すというプロセスを経て指示を出すあたり茶番以外の何物でもない。

「…そのパイロットを乗せるとして…“適正”の方はどうしましょう?」
『そのためのネルフだろう?』
「……分かりました」
『…それと念の為ダミーのプログラムは搭載しておいた方がいいだろうな』
「……承知しました。ではそのように」

キールの言葉が気にはなったがゲンドウは聞き返すことなく頷いた。
彼らの目的は自分の望みと近い場所にある。
おそらくこれも何らかの布石だろう。
ならばわざわざ反論して心象を悪くする必要はない。

『全てはゼーレのために…』
『『『『『全てはゼーレの為に』』』』』

モノリスが消えて暗闇にゲンドウだけが残った。

「…………」

その口から言葉が生まれる事はなく、ゲンドウもまた闇に消えた

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薄暗い実験室の天井から鎖につながれて一本のエントリープラグが下がっていた。
シンジ達がいつも乗っているものと違い赤い色をしている。

「…これがダミープラグか…」

声の主はゲンドウ、ネルフのトップだ。
ゲンドウの背後から手に書類を持ったリツコが説明する。

「試作されたダミープラグです。これにレイのパーソナルを移植する事ができはしますが…ご存知の通りドグマはあの状況ですのでこれ以上は…」

リツコはいまだに破壊されたまま閉鎖されているドグマの一室のことを思い出した。
一応データーのバックアップには成功したがそこから先はない。
そんな状況で完成したのがこのプラグである。

残った最後のレイに関してはもはや無理、性格の変化が激しすぎて歪んでしまっている。

歪んでいるといっても当初の無感情なレイからかけ離れてしまっているというだけである意味好ましくもあるのだが・・・。

「・・・パイロットの思考と経験を真似する、ただの機械です。」
「信号パターンをエヴァに送りこみ、エヴァがそこにパイロットがいると思いこんでシンクロさえすればそれで良い・・・。」
「・・・一応起動はしますが・・・ただそれだけです。その後はおそらく本能にしたがって敵と認識したものを手当たり次第に破壊してしまうでしょう…」
「構わん。エヴァが動けば良い・・・。」
「・・・しかし」
「初号機にはデーターを入れておけ」
「・・・・・・初号機に?しかしあれは・・・」

ゲンドウの言葉にリツコが反論するがまったく取り合ってもらえない。
リツコもそれが分かっているために自分から折れると黙って頷く。

「…参号機の件はどうしましょうか?」
「機体の運搬はUNに一任してある。週末には届くだろう・・・あとは君の方でやってくれ」
「はい・・・調整ならびに起動試験は松代で行います…テストパイロットはどうしましょうか?」

それが一番の問題である。。
“パイロットにするための条件”を満たすためには必要なものがある。
そのため誰でもいいと言う訳には行かない上にかなり人道から外れたことをする必要がある。

ゲンドウはすぐには答えなかった。

「……その件に関しては老人たちから指示があった…」
「ゼーレから?」

リツコの眉が跳ねあがった。
確かにパイロットのことは問題だがあの連中がわざわざ口を出してくるような重大事とは思えなかったからだ。

「コード707を使う」
「…シンジ君達の学校を?」
「そうだ、すでに候補も上がっている…」

リツコは確信した。
ゼーレを含めたゲンドウ達は何かを考えている。
しかもおそらくはシンジ達がらみだろう。

「・・・・・・」

ゲンドウは無言で一つのファイルを差し出した。
リツコは黙って受け取ると中身を確認する。

「・・・こ、この子は・・・」

そこにあった人物の写真を見たとたんリツコが軽く驚きのこもった声を上げる。
リツコにも見覚えのある顔だ。

「・・・・・・つらいでしょうね、シンジ君達…」
「…パイロットは望むと望まざるとにかかわらず乗れる限りエヴァに乗ってもらう」

リツコはここにシンジがいたならどう反論するだろうかと考えた。
おそらく冷笑をたたえた軽蔑しきった目でこの男を見て言うに違いない。
「あんたの妄想に付き合うほど暇じゃありませんよ」っと・・・皮肉げに片方の目を細めるところまで予想できる。
そこまで想像したリツコは思わず笑ってしまいそうになるのを必死でこらえた。

「……」

ゲンドウはリツコが笑いをこらえているのには気づかずにきびすを返した。
黙って部屋を出て行こうとしたゲンドウの歩みが不意に止まる。

「…念を入れるか・・・」

振り返ったゲンドウは新たに一つの指示をリツコに与えると今度こそ振りかえらずに部屋を出ていった。

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ゲンドウの指示を済ませるとリツコは自分専用の執務室にミサトを呼び出した。
部屋はパソコンを中心としてかなり散らかっている。

ミサトの部屋とはまた違った散らかり方だ。
リツコの場合は処理すべき書類や資料が多すぎてかたづいていない。
そのところどころに猫グッズが紛れ込んでいたりするのが彼女らしいといえばらしいだろう。

「何よ、改まって・・・」
「松代での参号機の起動実験、テストパイロットは4人目を使うわよ」
「4人目っ!?フォース・チルドレンが見つかったのっ!!?」

ミサトが自分の椅子に座ったリツコに詰め寄る。
今まで見つからなかった4人目がこのタイミングで見つかるとは偶然にも程がある。

「昨日ね・・・。」
「マルドゥック機関からの報告は受けてないわよ?」

リツコもマルドゥックから報告を受けたわけではない。
ゲンドウから直接受けたのだ。

もっともリツコは機関の正体を知っているのでいまさらな気もするが

「正式な書類は明日届くわ」
「赤木博士・・・私に何か隠し事していない?」
「・・・別に」

リツコはそういうと立ち上がって愛用のコーヒーメーカに行き二人分のコーヒーを入れた。
振り返って片方をミサトに差し出す。

ミサトは黙って受け取った。

「ま、いいわ・・・で、選ばれた子って誰?」

リツコはコーヒーを飲みながらパソコンにキーボードを一回叩く
すぐにモニターに一人の人物のファイルが出てきた。

「えっ!?・・・・・・よりにもよって、この子なの?」

それを見たミサトがうめいた。
それはミサトにも浅からぬ因縁がある人物だったからだ。

「話し辛いわね。この事・・・」
「でも、私達にはそういう子供が必要なのよ。みんなで生き残る為にね」
「綺麗事は止めろ・・・と言うの?」

二人の間に沈黙が下りた。

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・・・夕日が町を茜色に染める。
それは血の赤より淡く
町も山も空さえ安らぎの満ちる光景・・・

「街・・・人の造り出したパラダイスだな」
「かつて楽園を追い出され、死と隣り合わせの地上という世界に逃げるしかなかった人類 ・・・・・・その最も弱い生物が弱さ故に、手に入れた知恵で造り出した自分達の楽園だよ」

リニアレールの窓からその光景を見ながら呟いた冬月にゲンドウが答えた。
それを聞いた冬月はただ頷く。

「自分を死の恐怖から守る為、自分の快楽を満足させる為に自分達で作ったパラダイスか・・・・・・この街が正にそうだな。自分達を守る武装された街だ」
「敵だらけの外界から逃げ込んでいる臆病者の街さ・・・」

ほどなく地下にもぐったリニアとレインの窓は無機質なコンクリートだけになる。
それを見た冬月が軽く顔をしかめた。
少なくともこの無機質なコンクリートの塊よりは町のほうが綺麗だと思う。

「臆病者の方が長生き出来る。それもよかろう・・・第三新東京市、ネルフの擬装迎撃要塞都市、遅れに遅れていた第七次建設も終わる・・・いよいよ、完成だな」
「・・・町だけはな・・・」

たとえ第三新東京市が100%で稼動しようが使徒を倒す事は出来ない。
あくまでこの町は補助でしかないのだ。

そしてメインであるエヴァはほとんど自分達の手を離れている。
いや、むしろ自分達の脅威になっているといっていいだろう。

ゲンドウもそのあたりを理解してはいた。

「四号機の事故・・・委員会になんと言って説明したんだ?」
「事実の通り、原因不明だよ」

ゲンドウの答えは簡潔でなんの意思も読み取れない。
うまくいけばS2機関の搭載も可能になるはずの実験だったが、ゲンドウは落胆しているのかすら疑問だ。

「しかし、ここに来て大きな損失だな」
「四号機と第二支部はいい・・・S2機関もサンプルは失ってもドイツにデータが残っている。 ここと初号機が残っていれば十分だ・・・我々のシナリオが1つ繰り上がっただけにすぎない」
「まあ、そうだが・・・委員会は血相を変えていたぞ?」
「予定外な事故だからな」
「ゼーレも慌てて行動表を修正しているだろう」

ゲンドウの表情は相変わらずサングラスに隠れて見えない。

「死海文書にない事件も起きる。・・・老人には良い薬だよ」
「そうだな。良薬は口に苦しとも言うしな」

冬月はその唇に冷笑を称えた。
だが次の瞬間再び無表情になる。
はっきり言って他人事にばかり構ってもいられない。

「たしかに老人たちにはいい薬だが・・・私たちが笑う事も出来ないだろ?」
「なに?」
「シンジ君の存在・・・あれは我々にとっても予想外だったのだから・・・」
「・・・・・・」

ゲンドウは答えることが出来なかった。

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「せっかくここの迎撃システムも完成するってのに、祝賀パーティーの1つも予定されてないとは、ネルフってお堅い組織だねぇ」

加持が飲み終わったコーヒーの空き缶をゴミ箱に放り投げる。
しかしすでにあふれていた空き缶に当たって床に転がってしまった。

「司令がああですもの」

加持の隣のベンチに腰掛けていたマヤが苦笑しながら答えた。
長くここにいてゲンドウの性格も少しはわかってきたということだろうか?

「君はどうなのかな?」

腰をかがめながら加持はマヤの顔を正面にとらえてニッコリと笑いかける。

「いいんですか? 加持さん。葛城さんや赤木先輩に言っちゃいますよ」
「その前にその口を塞ぐ・・・。」

加持の唇がマヤに近づいていくが唐突に後ろから咳払いが聞こえてその動きが止まってしまった。

「モテモテね〜加持」

その声には二人とも聞き覚えがあった。
マヤは冷や汗を掻きながら加持から離れる。
加持も冷や汗を掻きながら意を決して背後を振り向いた。
そこにいたのは案の定ミサト・・・腕を組んで仁王立ちしている。
鬼より怖い素敵な笑顔でいらっしゃる。

それを見たマヤはそそくさと頭を下げてこの場から離脱した。
巻き込まれるのを嫌がって逃げ出したらしい。

加持もマヤに倣って逃げ出したいがそうも行かないのでマヤの後姿をうらやましそうに見送る。

「・・・・・・まあ、あなたのプライベートに口を出すつもりはないけど、この非常時にウチの若い娘に手ぇ出さないでくれる?」
「君の管轄ではないだろう?葛城なら良いのかい?」

加持は苦笑してミサトに向き直る。
それに対してミサトは深いため息を吐いた。
救いようが無いとでも思っているのかもしれない。

「これからの返事次第ね。・・・地下のアダムとマルドゥック機関の秘密、知ってるんでしょ?」
「はて?」

ミサトの真剣な言葉と視線に加持は苦笑で答える。
しかしそのばればれなとぼけ方は知っていると言うようなものだ。

「とぼけないで」
「他人に頼るとは君らしくないな」
「なりふり構ってらんないのよ。余裕無いの、今 ・・・参号機の本部輸送にあわせたように都合良く見つかる新しいフォース・チルドレン・・・この都合のよさは何?」
「・・・・・・1つ、教えとくよ」

少し考えた後、加持はミサトに近づいて耳元で話しかけた。
どうやら他に聞かれたくない話らしい。
一見抱き合っているようにも見える。

「マルドゥック機関は存在しない。・・・影で操ってるのはネルフそのものだ」

その声は内容にふさわしく小さい言葉でミサトにしか聞こえないように気を配っていた。

「ネルフそのもの・・・?碇司令がっ!?」
「・・・コード707を調べて見るんだな」
「707?・・・シンちゃんの学校を?」
「特に2年A組には面白い共通点が見つかるぞ。あの世代では当たり前の事だが、それでもだ・・・。」
「共通点・・・・・・」

加持は一旦ミサトから離れると今度はミサトの顔に自分の顔を近づけていく

「ち、ちょっと・・・」
「情報料だよ」

加持の言葉にミサトの体から余分な力が抜けた。
二人の唇が触れ合いそうになる瞬間・・・

「・・・通路のど真ん中で何やってるんですか?」

不意に横合いから来た呆れた言葉にミサトが真っ赤になって離れる。
あわてて声の主を見るとシンジだった。

「シ、シンジ君!!」
「通路の真中でそんな事していれば跳ね飛ばされても文句は言えないですよ?」
「はははっ野暮な事言うなよシンジ君」
「アンタは黙ってなさい!!」

ミサトの叫びとともに硬い拳が加持をとらえた。
きりもみ状に飛びあがった加持は次の瞬間には床とキスをする。

「ふん!!」

ミサトは哀れな加持には目もくれず大股で去っていく。
怪獣のような足音が聞こえそうな勢いだ。

「…ではぼくもこれで」

シンジもこれ以上ここにいる意味は無い。
身を翻したシンジの足首を誰かが掴んだ。
視線をおろすとずたぼろの加持だった。

「ま、待ってくれないかシンジ君…」
「なんですか?」
「ち、ちょっと付き合ってくれないかな?」
「…ぼくは男ですよ?」

シンジの言葉に加持がなんとか立ちあがった。
しかしまだ足元がふらついている。
脳が揺さぶられたらしい。

「はははっシンジ君が女の子ならなおよかったんだけれどね〜」
「…つまりどっちかと言えば女の子よりの両刀だと?」
「シ、シンジ君?」
「鼻血出しながら言われても…」

シンジの言葉に慌てて加持は自分の顔に手を当てる。
生ぬるい液体の感触があった。
床に激突したときのものだろう。

「…ではそういうことで」
「ま、待ってくれシンジ君!!」

さっさと立ち去ろうとするシンジを鼻血をたらしながら引き止める姿に保安部をよばれそうになったりしたのはどうでもいい話だ。

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「・・・スイカですか?」
「ああ、可愛いだろ?俺の趣味さ。・・・みんなには内緒だけどな」

ジオフロントの一角に場違いにも畑があった。
育てているのはスイカらしい。

加持が如雨露で水をあげているがえらく楽しそうだ。
鼻にティッシュを詰めて鼻血を止めていなければなおよかったのだが…

「でもここってネルフの私有地でしょ?」
「気づかれなければいいのさ」
「つまりばらすなってことですか?」
「出来ればね」

にっこり笑う加持はいい笑顔をしている。
諜報員よりこっちの才能があるんじゃなかろうか?

「何かを作る。何かを育てのは良いぞ。いろんな事が見えるし、解ってくる・・・楽しい事とかな」
「何かって事は…たとえば子供を作る方法とかでも?」
「ははっ皮肉が利いているな〜」
「皮肉だけって訳でもないんですけれど…」

加持はシンジを振り向いた。
ちょっと笑顔が引きつっている。

「どういう意味だい?」
「…気づいてないわけじゃないんでしょ?ミサトさんですよ」
「……ああ、って言うか葛城を孕ませろって言うのか君は?」
「別に、あくまで同意での結果なら問題ないでしょ?いまどき結婚が先なんて時代がかった事言う人もいないですし」

シンジの言葉に加持は苦笑した。
言いたいことは分かる。
伊達にミサトと付き合いが長いわけじゃない。

「なるほどね、君の方はどうなんだい?君の周りには魅力的な子が多い」
「未成年ですからね、不純異性交友になるでしょ・・・それにぼくは・・・」
「・・・何か理由があるようだが、まあ君の場合はまだまだ未来があるからな、アスカにレイちゃんにマナちゃんだっけ?それとあのめがねの子はマユミちゃんって言ったよな〜あれだけ粒ぞろいだと誰を選んでも外れはないだろ?もっとも穏便に選ぶのが難しいと思うがね」
「そんな結論に直結するなんてミサトさんが相手してくれないんですか?」
「き、きっついな・・・まあ、男としてはあこがれるがね、だがハーレムエンドは難しいぞ?」
「・・・何が言いたいんだアンタ?」

シンジが半眼になって加持にプレッシャーをかけた。

如雨露の水が切れて雫がぽたぽた落ちる。
同じように加持も冷や汗がぽたぽた落ちている。
なにやら調子に乗ってわけのわからんことを言ってしまったようだ。

「・・・結局、何か言いたい事があったんじゃないんですか?」
「ああ・・・シンジ君、気をつけたほうがいい」
「・・・・・・なにを?」
「・・・友達を大事にな・・・」

それっきり加持は畑仕事に没頭した。

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「・・・エヴァ参号機?」

シンジの疑問の声に全員の視線が集まる。
いつもの学校のいつもの昼休み、そしていつものように屋上に集まったメンバー
そこでシンジは始めて参号機の話を聞いた。
情報元はもちろん目の前にいるケンスケ

「知らなかったのか?アメリカで建造中だった奴さ。完成したんだろ?」
「知らないな・・・」
「隠さなきゃならない事情も解るけど・・・。なあっ!!教えてくれよ!!!」
「本当に知らないんだよ・・・」
「松代の第二実験場で起動実験やるって、噂を知らないのか?」
「ちょっと待てケンスケ・・・どこからその情報を仕入れた?」

シンジの瞳が鋭く細められる。
それに気おされてケンスケの腰が引けた。

「あんまり深入りするなよ」

シンジは深いため息をついた。
おそらくまた父親のパソコンに侵入したのだろう。
懲りていないらしい。

「まったくネルフも何やっているのかしら・・・こんな中学生に出し抜かれるなんて・・・」

アスカがあきれた声で呟いた。
確かにケンスケはネルフ職員の息子ではあるがそれでも中学生の子供に機密が漏れているあたりネルフの情報管理能力のずさんさが見て取れる。

(・・・わざとかな?)
(どうだろうね、今の時点ではどうともいえないが・・・)

参号機の件はシンジ達には寝耳に水だった。
その話が本当だとすると新しいチルドレンが必要になるはずだが・・・

「なあシンジ、パイロットはまだ決まってないんだろ?」
「たぶんね、参号機なんて初めて聞いたし・・・」
「俺にやらせてくんないかなぁ〜ミサトさん、なあっ!?シンジからも頼んでくれないか?乗りたいんだよ!エヴァに!!」

シンジはケンスケの言葉を完全にスルーしていた。

ケンスケがエヴァに憧れを持つのはわかる。
だがもしそんなときがくるならシンジはケンスケをとめようとするだろう。
あれは命のやり取りをするための物だ。
憧れで乗れるものではないし・・・なによりそのパイロットに”なる”ためには生贄が必要だ。

「そういえば四号機が欠番になったのは知っているか?」
「欠番?・・・なにかあったのか?」
「第二支部ごと吹き飛んだって、パパの所は大騒ぎだったみたいだぜ・・・」
「・・・吹き飛んだ!?」

ケンスケの言葉にネルフ関係者であるシンジ達は素っ頓狂な声を出す。
参号機よりこっちのほうがよっぽど驚きだ。

「どういうことだケンスケ!!」

ムサシがケンスケに詰め寄る。
その剣幕にケンスケがびっくりしながら説明した。

「な、何でも根こそぎ無くなったらしいぞ・・・。」
「どうしてだ!!」
「そ、そこまでは知らない、でも参号機の配備も関係あるんじゃないか?時期が時期だし・・・」

ケンスケの言葉に全員が視線を交し合う。
誰もが知らなかったという顔だ。

「や、やっぱり、末端のパイロットには関係ないからな、知らされないって事は知らなくて良い事なんだろ?」

ケンスケはしどろもどろになって弁明したが誰も聞いていなかった

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「・・・どう思う?」

保健室で椅子に座ったシンジが正面で椅子に座っている凪に質問した。
その瞳は片方が細く空けられた皮肉げな笑いになっている。
ブギーポップだ。

「・・・当面の問題は参号機だな・・・」

凪の言葉に同じように椅子に座っているマユミが頷いた。
三人は正三角形のような配置になっている。

この3人が今話し合っているのはさっきの屋上でケンスケが言った参号機についてだ。
エヴァの秘密を知っているこの3人が集まったのは今後の事を話し合うためである。

「・・・エヴァのパイロットになるためには生贄が必要だ。」
「問題はそれが誰かだが・・・」

ブギーポップの言葉に凪が頷く。

「でも、生贄は誰でもいいわけじゃないんでしょ?そのパイロットの人に近い人じゃないと・・・」
「A10神経を使っている以上単純に肉親だとも言い切れないな、愛情を使うシンクロなら恋人でもシンクロ出来ない事もない・・・」
「しかしやはり肉親を使うんじゃないか?そうすれば単純な愛情に加えて肉親の情や本能的な愛情も利用出来る」

三人はそれぞれの意見を出すがいい結論はなかなか出てこない
結局パイロットが誰になるかがわからない以上手のうちようがないのだ。

「・・・できればこれ以上犠牲者は出したくない」

ブギーポップに変わってシンジの顔が出てきた。
シンジのしずんだ声に凪とマユミが頷く。

「しかし直接聞くわけにも行かないしな・・・それにあまりあからさまだとどこから情報が入ったのか追求されるぞ?」
「わかってはいるんですけどね・・・」

シンジは唇をかんだ。
たしかに直接的な方法で候補者を調べるのはたやすい。
しかしそれをすればネルフに弱みを握られる事になる。

敵対しているといってもおおっぴらに敵対する事は出来ない。
そんなことをすればネルフと直接対決になるだろう。

たとえそうなったとしてもまず負けはしないがこれからも使徒が来る事を考えればエヴァとそれを管理できるネルフとの敵対は面白くない。
こちらは全員能力者と言っても10人に満たないのだから・・・

「・・・結局は対症療法しかないか」

シンジの言葉には悔しさがにじんでいた。

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人気のない廊下を一人の少年が歩いていた。
制服の代わりにジャージを着ているその少年の名前は鈴原トウジ…

「一体何なんやろ…」

いきなり校内放送で呼び出されたのだがなぜ呼び出されたのかまったくわからない。
やがて目的の部屋の前に到着する。

プレートには校長室の文字…
一度も足を踏み入れた事のない部屋だ。
深呼吸をするとノックをして数秒、中から入るように声をかけられて扉を開く。
その先にいたのは何度か会ったことのある人物だった。

「…鈴原トウジ君ね?」

金髪に染めた髪と白衣を着たその人物はリツコだった。






To be continued...

(2007.08.18 初版)
(2007.08.25 改訂一版)
(2007.10.20 改訂二版)
(2008.02.17 改訂三版)


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