天使と死神と福音と

第拾肆章 〔揺るぐ事無き神念〕
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presented by 睦月様


「み、見舞いにきてもろうて感謝や」
「・・・ああ」

シンジとトウジは病院の屋上に移動していた。
横目でトウジを見ると頬にもみじがある。
何があったのかあえて聞かないのが友情だ。

「タイミング悪かったな、まさかトウジにあんな素敵イベントフラグ立ってるなんて思いもしなかったからさ〜」
「な、なにゆうてまんねん!!」
「何だよその似非関西弁は」

シンジのからかいに面白いようにトウジは反応する。
対するトウジも不満そうではなく、このやり取りを楽しんでいるようだ。
ひとしきりトウジをからかった後、シンジの顔がフッと和らぐ。

「・・・生きててよかった」
「ああ・・・サンキューな・・・」

二人は柵にもたれながら並んで街を見る。
言葉は少ないがそれ以上重ねる必要はなかった。

「・・・ごめん」
「・・・・・・なんでシンジが謝るんや?」
「零号機を止めるのが遅れた・・・」
「・・・シンジはワイを助けようと命令無視までしたんやろ?」
「関係ない。ぼくは命令無視しても構わなかったからね、それでも・・・」

初号機の中で見た零号機が一方的にバルディエルを蹂躙する姿が思い出された。
まるで獣の荒々しさ・・・その光景を思い出したシンジは硬く拳を握りこむ。

「なあシンジ〜」
「ん〜?」
「これからも・・・エヴァに乗るんか?」
「・・・たぶんね」

ゲンドウはああ言ったがおそらくまた乗る事になるだろう。
どうも自分はそういう運命の元にあるらしい。
それもゲンドウの計算のうちに違いない。

気になるのはシンジがこの町を出るのにあの男が反対しなかったことだが・・・

(にしてもなに考えてるんだ?)
(多分本意じゃないね、何か裏があるな・・・)

シンジもブギーポップもゲンドウを過小評価してはいない。
ゲンドウ達が何の考えも無しにあんな事を言ったとは考えられなかった。
おそらく何かあったのだろうがそれにしても思い切りがよすぎる。

いや・・・思い切りよく決断しなければいけない事態が起こったとすればどうだろうか?

(・・・ゼーレか)
(たぶん・・・)

シンジ達の結論は加持と同じだった。
ゲンドウ達の本意でないとしたら指示したのはネルフの上位組織しかない。

「・・・トウジはどうするの?」

シンジはゼーレのことを一旦置いておいて今一番気になる事を聞いた。

一人のパイロットに一体のエヴァ・・・参号機をなくしたトウジは戦えない。
シンジはそれが絶対ではないと知っているがネルフがエヴァが専用機で子供しか乗れないという偽善を掲げている以上、トウジがネルフを離れたいと言っても引き止める事は出来ない。

「な、なあシンジ・・・」
「トウジ・・・」
「な、なんや?」

何かを言いかけたトウジの言葉をシンジがさえぎる。
トウジは軽くあわてたがシンジは澄ましたものだ。

「別に死ぬのが怖くなったからってチルドレンを辞めても恥じゃないと思うんだ」
「え?」

シンジは柵の上に置かれたトウジの手の振るえに気がついていた。
おそらく思い出したのだろう・・・戦場の恐怖を・・・
戦闘訓練も受けていない素人なら当然だ。

「死ぬ気でとか命をかけてとか・・・本当にそんなことしている奴はいないよ。もし実践してるならそいつは頭が何処かおかしい精神異常者だ。ケンスケの様に実態を知らずにあこがれだけで言っているうちはそんなことわかりはしないんだよ」
「・・・・・・シンジ」
「同じようにね、簡単に『戦って死ね』とか言う連中に限って自分は戦っていないもんだよ。そんな連中に何か言われて死ぬなんてぼくはまっぴらだし。」

ここにミサトやリツコがいたら耳の痛い思いをしていただろう。
実際シンジを最初に初号機に乗せるときには似たような事を言ったのだから。

シンジの言葉にトウジはうつむく

「で、でもシンジは・・・」
「ん?」
「シンジにはその資格あるやろ?」

いつでも最前線で戦いつづけているシンジ・・・
たしかに言う資格だけならあるかもしれないが・・・

「・・・言ってほしいの?」
「わいは・・・」
「ぼくはゴメンだ。」
「・・・・・・」
「他人の人生背負えるほど強くないしね」
「・・・十分強いやん・・・」
「買い被りだよ」

なぜか夢に見た昔の自分の答えが気になる。
自分があの時どんな答えをブギーポップに告げたのか覚えていないが・・・思い出すことすら出来ないあの時の答えに一歩でも近づけているんだろうか・・・

「・・・なあシンジ?」
「なに?」
「今だから言うんやけどな・・・」
「・・・ん?」
「わい・・・お前に憧れとるんや・・・」
「ぼくの・・・・・・どこに?」
「・・・多分全部や・・・」

トウジはシンジを見ない。
シンジもトウジを見ない。

「・・・背伸びしとったのかもな・・・男の嫉妬って奴や・・・見苦しいか?」
「それを決めるのはぼくじゃない・・・」

シンジは柵を離れて屋上の出口に歩き出す。
そこにはすでに加持が待っていた。
時間切れらしい

「トウジ?」
「なんや?」
「好きにしたらいいと思う。チルドレンを続けるのもやめるのも・・・どっちにしてもトウジはぼくの親友だ。」

シンジはそれだけを言うと屋上を後にした。

「・・・わいもや」

トウジの言葉は屋上の風とともに流れていった。

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数時間後、シンジは駅のベンチに座っていた。
足元には簡単にまとめたシンジの荷物がある。

「っで・・・なんでこんなところにいるんです?」

シンジはとなりに座っている凪にジト目で聞いた。
凪はその言葉に肩をすくめる。

「何でと言われてもな、原因だけ言うなら葛城さんだ。」
「ミサトさん?」
「お前がこの町を離れるんで見送ってやってくれって連絡が来た。」
「なんで本人が来ないんです?」
「・・・惣流達に捕まったらしい。」
「・・・・・・お気の毒に・・・」

シンジはミサトに同情した。

アスカに詰め寄られるミサト、ゲンドウに文句を言うが暖簾に腕押し、かくしてミサトはストレスをためてビールを飲むのであった・・・いやストレスなくても飲むか・・・中間管理職の悲哀な姿が見えるようだ。
日向と言う下っ端・・・もとい、優秀な部下がいるがアスカ達には役不足だろう

「葛城さんも大変ですよね」

シンジの心の言葉を代弁したのはシンジの反対側に座っているマユミだ。
この三人は結構いろいろな意味で一緒になって行動する事が多い。

3人ともネルフに所属していないので自由の幅が違うのだ。

「にしても実際どうするんだ?このまま使徒を放っておくわけにはいかんだろ?」
「・・・・・・当然だよ」

シンジの言葉遣いが自動的になった。
出てきたブギーポップに凪も挑戦的な口調になる。

「だと思った。お前が世界の敵をこのまま放っておくとは思えんしな・・・だがどうするんだ?」
「とりあえず電車には乗るさ、次の駅で降りて戻ってくる。」
「で?」

凪はブギーポップに向き直る。
問題はその後のことだ。
ただ戻ってくるだけじゃなくこの先使徒をどうするのか?
ブギーポップはいつもの歪な笑みで笑っていた。

「いろいろとやり様はある、姿を隠すなんてわけはない」
「・・・しかしシンジがいなくなれば騒ぎになるぞ?」
「それはそれ、ネルフが血眼になって探している間に君の家にでも転がり込むさ・・・何だよその顔は?」

凪はあらかさまに嫌そうな顔をした。
なに言ってんだこいつ・・・と目が語っている。

「あ、あの・・・よかったら私の家にはどうですか?」
「マユミさんの?」

ブギーポップからいつものシンジに戻る。

「はい!!」
「で、でも・・・マユミさんはお父さんと同居しているはず」
「必要とあらばたたき出します!!」

なにやら物騒になってきた。
マユミの瞳はマジだ。

「・・・マユミさん?いくらなんでもそりゃ・・・」
(シンジ君?)
「え?あ、はい」
(どうやら心配は要らなかったみたいだ。)
「はあ?そりゃどういう・・・」

ウ〜・ウ〜

「「「え?」」」

三人そろって疑問の言葉を吐く。
それはいい加減耳慣れた警報の音だった。

「使徒?」
「3日でか?えらくせっかちだな?」
「どうします?」

シンジ、凪、マユミの順でしゃべると顔を見合わせる。
その顔は緊張すらしてなかった。
もはや三人にとって驚くべきことじゃない。

「・・・とりあえずここを出るか?」
「そうですね」

凪の提案にシンジが賛同してマユミも頷いた。
間違いなくここにいても電車は来ないだろう。
だったらいるだけ無駄だ。
三人そろって駅を出る。

「お〜い、シンジ君〜」
「ん?」

駅を出たところで名前を呼ばれたシンジが振り向くと加持がこっちに駆けてくる。

「加持さん?」
「やあ、使徒が来ているのに気がついて戻ってきたんだが・・・」
「にしてはタイミングばっちりですね、まるでぼくを監視していたように・・・」
「はははっバレバレ?」
「まあわりと、司令あたりの指示でしょ?」

シンジの答えに加持は苦笑した。
やはりこの程度の事は見通されている。

「それで、君達はどうするんだい?」
「どうしましょうかね?」
「おいおい・・・」
「そんな事いわれてもぼくはネルフからクビにされましたからね〜いまっさら〜」
「ハハハハ・・・」

加持は乾いた笑いで答えた。
確かにシンジの言うとおりだ。
なんと言ってもネルフのほうから三行半を突きつけたのだから弁明のしようがない。

「まあどっちにしろ避難しといた方がいいな、一番近いシェルターは・・・」

その時、全員を影が覆った。

「「「「え?」」」」

4人がそろって頭上の影を向く。

「・・・早すぎるだろ?」

シンジがさすがに驚いた声を出した。
予想外にも程がある。

「・・・使徒を肉眼で確認?」

全員がその姿に唖然とした。

「土偶?埴輪?」
「表面は埴輪っぽい?」
「遮光器土偶だよな?」
「みんな余裕だな〜」

加持が半ば呆れながらシンジ達に感心する。
おびえるどころかじっくり観察するなど並みの胆力じゃない。

「たのもしいかぎりだ。」

そういって加持も頭上に浮かんでいるものを見た。

確かにデザイン的に一番近いのは遮光器土偶だろう。
白と黒でデザインされた体には腕と足のような部分はあるが棒のようになっていて本来の腕や足のようには使えないだろう。
移動手段はやはり浮遊する事のようだ。
頭は無く、その胸にあたる部分に仮面のような頭がくっついている。

「ん?何かするのかこいつ?」

体の中央にある仮面の目に鋭い光が光った。

ズウウウンンンンン

「「「「え?」」」」

その一撃で第三新東京市の中央に大穴が空いた。
爆風がシンジ達の所まで届くほどの威力がある。

さすがにシンジ達もびっくりだ。

それは『力』を司るとされる使徒
その名をゼルエルと呼ばれる存在・・・

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『第1から第18番装甲まで損壊』

その振動は発令所を振るわせた。
ラミエルが十数時間をかけて突破した特殊装甲20枚のうち18枚を一瞬でぶち抜いたのだ

「18もある特殊装甲を一瞬に・・・」

リツコが呆然とつぶやくのも無理ないことだろう。

「次の一撃で全部もっていかれるわね・・・」

ミサトも厳しい顔だ。
これだけ問答無用だと下手な策では返り討ちになる。

『だっからあたしを出しなさい!!』

発令所にアスカの声が響く。
その大声に顔をしかめながらモニターを見るとアスカの顔が大写しになっていた。

今彼女は弐号機の中にいる。

「アスカ、気持ちはわかるけれど・・・」

ミサトは横目で背後を見る。
ゲンドウに動きは無い。
弐号機の凍結が解除されないことには出すわけにはいかない。

『だったらどうすんのよ!!零号機は使えないでしょ!!』

ミサトは頭を抱えた。
アスカの言うとおりである。
零号機はバルディエル戦で破損したアンビリカルケーブルの修理が終わっていない。
3日しか経ってないのだから当然ではあるのだが・・・

『だったらシンジを連れて来なさいよ!!』

アスカの言葉は全員が望むものだった。
しかし同時にシンジがネルフを追い出されたということも知っている。

「・・・リツコ、諜報部に・・・」

ミサトは諜報部にシンジを連れてくるように指令を出そうとした。
それが現状でできる唯一の可能性だったから

「・・・初号機のパーソナルパターンをレイに変更・・・」
「「「「「え?」」」」」

全員が背後を振り向く
ゲンドウが身を乗り出して指示を出していた。

「し、しかしレイでは・・・」
「今は可能性が少しでもあるならそれを試すべきだろう?」
「了解しました。」

発令所が初号機の起動準備であわただしくなる。
それを見ながらゲンドウは椅子に座りなおした。

「いまさらレイで動くかね?」

斜め後ろの冬月がゲンドウの背中に問い掛ける。
失敗するのが分かっていると言う感じだ。
ゲンドウも本気で起動するとは思っていないだろう。
さすがにそこまで問題ないで済ませる男ではない。

「・・・加持一尉に連絡を・・・」
「シンジ君を呼び戻すつもりか?ゼーレには何という?」
「非常事態だ。使えるものは何でも使うさ、そもそも弐号機の凍結で動かせる機体が初号機しかない。弐号機を凍結したのは連中だ。文句は言わせん・・・このままサードインパクトが起これば連中も困るしな・・・」
「もとからそのつもりか?」
「いつまでも言うなりではない・・・シンジは連中にとってのジョーカーだ。早々手放すわけにはいかん」
「・・・・・・我々にとってもジョーカーだというのを忘れるなよ?」

冬月はそういうと電話の受話器を取って外線につないだ。

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ズン!!!!
  ズン!!!!


ゼルエルの目が光るたびに第三新東京市に大穴があく。
その穴に向かってゼルエルが第三新東京市の上空を移動していた。
セントラルドグマに進入するつもりだろう。
兵装ビルが応戦しているが足止めにもなっていない。

「派手な花火じゃあるけど効いていないか・・・まずいな・・・」

シンジ達は離れたところでその光景を見ていた。
その視界の中で空中に浮かぶゼルエルに地上から近づくものがある。

「ガンヘット!?エヴァもなしでか!?」

シンジの視線の先でスタンディングモードに移行したガンへットがゼルエルに攻撃を仕掛ける

「ケイタ君とムサシ君は大丈夫でしょうか?」

シンジの隣に並んだマユミも心配そうだ。

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「くらえ!!」

ムサシは引き金を引いて8連装ミサイルポットを発射した。
しかし狙いはゼルエルではない
その横に立っているビルの根元だ。

ドドドドドドドド!!!!!!!

8つの爆発音がしてビルが傾く
その倒れる方向はゼルエルの真上

スウウウウウウウウ!!!!!

何百トンというコンクリートにゼルエルが押しつぶされる。
砂塵が舞い上がって何も見えなくなった。

『やった!!』

通信機からミサトの歓声が聞こえる。
しかしムサシは油断してなかった。
まだ終わってないと勘が伝えている。

次の瞬間、警戒していた感覚が一気にレットゾーンを振り切った。

「ケイタ!!下がれ!!」
『了解!!』

ムサシの指示で下半身担当のケイタが後方に急発進した。
ガンヘットが後方に下がった次の瞬間に砂塵の中から白いものが飛び出して今までいた場所に突き刺さる。

「あれは・・・」

地面のコンクリートに刺さっているのはきしめんのような薄っぺらい紙のような物だ。
突き刺さった部分をアンカーのようにして瓦礫の中からゼルエルが出てきた。

「あれが腕かよ!!」

白い紙のようなものはゼルエルの腕のような部分から生えていた。
ゼルエルは立ち上がると地面から腕を引き抜いてガンヘットを威嚇する。

「ちっ、なめんな!!」

ムサシの言葉とともに両腕の4連装ミサイルランチャーが火を噴いた。
8本のミサイルがまとめて飛ぶ。

「当たれ!!」

しかし、ミサイルはゼルエルに向かってはいない。
わずかに狙いをずらしている。
その目指すものはさっきと同じようにゼルエルの両隣に立っているビル
しかし今度はただのビルじゃなく兵装ビルだ。

ドン!!!!
   ドン!!!!


それぞれ4本ずつビルに命中したミサイルはその内部にあったミサイルや火器に誘爆する。
爆発に挟まれた形のゼルエルの姿が閃光と爆炎に消えた。

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炎に飲まれたゼルエルをシンジは厳しい目で見ていた。
ガンヘットの火力がまったく効いていないのは明らかだ.
それでも凌いでいられるのはムサシの先読みとケイタの操縦技術のおかげだろう。
限界が近い。

「・・・シンジくん、山岸さん」

背後から声をかけられてシンジとマユミが振り向くと加持だった。

「まだいたんですか?」
「つれないね〜」

笑いながら加持はシンジの隣に並ぶ。
この男もかなりの強心臓だ。

「逃げなくていいんですか?」

マユミの疑問に加持は笑って頷いた。

「子供を残して逃げられるほど外道でもないんだなこれが」
「それだけですか?」
「他に何が?」
「いや、マユミさんも守備範囲だから〜とか女性関係じゃないんですか?」

その言葉にマユミがあとずさる。
シンジは笑っていた。
加持はそんなシンジを半眼で見る。

「・・・今度シンジ君とはじっくり話す時間がほしいな・・・ひとつ言っておくと俺はそこまで守備範囲は広くない」

割と剣呑な笑顔をシンジにむけると加持は正面に視線を戻す。

「まだ動くか・・・やはり通常火力ではATフィールドを突破できないようだな・・・」

炎の中から無傷のゼルエルの巨体が現れた。

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「やっぱだめか・・・」

モニターの中で立ち上がるゼルエルを睨みながらミサトは唇をかむ。
もともとATフィールドを持つ使徒相手に通常兵器で固めたガンヘットでは勝負にならない。
基本コンセプトはエヴァが至近でフィールドを中和し、そこに火力を叩き込む支援兵器なのだ。

「初号機はどうなっているの?」
「ダメです・・・起動数値に到達しません。」

ケージにはいまだ固定されたままの初号機が映っている。
エントリープラグにはレイが乗り込んでいるがまったく反応しない。
何度起動させようとしても無駄だった。

「リツコ!!」
「こっちもだめね・・・当然ダミーにも反応しない」

ミサトの言葉にリツコはあくまでクールに答える。

「やっぱりシンちゃんしか受け付けないか・・・このままじゃムサシ君と浅利君が・・・」
『そんなこともあろうかと!!』
「「「「「・・・え?」」」」」

全員が一瞬あっけに取られた。
あわててモニターを見ると時田が映っているその横には山岸もいた。

『手持ちのもので出来るだけの事をした。』
『後は頼みます』

モニターが切り替わりあるものが映った。
それを見たミサトの顔色が変わる。
喜びに・・・

「青葉君、これを使うわ、準備して!!」
「了解です。」
「日向君!!」
「F−23が理想です。」
「よっしゃ!ガンヘットに通信を繋いで!!」

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「こいつ!!」

ガンヘットは後退しながら弾ををばら撒いた。
かなりの火力だがゼルエルの進行を遅くすることすらできない。
残弾のカウンターがどんどん減っていく

『ムサシ君!!』

発令所との通信がつながってミサトの顔が出る。

「な、なんですか!?」
『使徒をこのポイントに誘導して!!』

モニターに地図が映った。
光点である場所が示される。

「ここにですか!?」
『そう、頼んだわよ!?』
「り、了解・・・」

ムサシはミサトの指示に従ってケイタに指示を出す。
ゼルエルもガンヘットが鬱陶しいのか追いかけてきた。
どうやらこっちを先にしとめてからドグマに下りるつもりのようだ。

「あと50です!!」
『了解、カウント行くわよ!!3・・2・・1・・・・・発射!!』

ミサトのカウントとともにゼルエルの真下から天に向けて一本の線が走った。

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「・・・誘導している?」

ガンヘットの動きを見ながらシンジは呟く。
その動きはたしかにゼルエルを挑発しながら後退していた。

「何かあるのか?・・・あれは」

ゼルエルの真下に突然穴が空いた。

「エヴァを出すのか?」

シンジは呟く。
それ以外この状況で考えられることはないが

次の瞬間出てきたものはシンジの想像よりはるかに凶悪なものだった。

ガン!!
  ドン!!


それは出てきたと同時に直上にいたゼルエルに向かって放たれた。
とっさの事にATフィールドを張る暇さえない。

ギャリリリリ

それは回転しながらゼルエルに迫る。

「すごい」

マユミが呆気にとられた声を出す。
それはゼルエルの体を削り取って空に抜けた。

「・・・ゲオルギウス?」
「考えたな葛城・・・」

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足元から放たれたゲオルギウスを受けてゼルエルが吹っ飛んだ。
ゲオルギウスはそのまま一直線に空を目指す。

「よっしゃ!!」

思わずミサトは歓声を上げた。
時田が急造したもの、それは単純にして強力なものだった。
ゲオルギウスを一本、エヴァの拘束台を利用して固定しのだ。

千トン以上あるエヴァを高速で射出することの出来るリニアレールを利用してゲオルギウスを放つ。
その威力は普通にエヴァによる投擲に近い。
しかも真下から放たれるため奇襲にもなる。

問題は真上にしか放てないということだ。
そのためにミサトはムサシ達に誘導の指示を出した。

モニターの中でゼルエルがゆっくり立ち上がる。

「ちっコアははずしたか・・・」

ミサイルすら跳ね返す体躯にわだちのような傷跡が刻まれている。
しかしその傷跡はコアのある中心をわずかにそれていた。

ミサイルのように狙うことのできるような代物ではないから仕方ないがコアを打ち抜けなかったのは痛い。
出来ればここで仕留めたかった。

「ムサシ君、畳み掛けて!!」

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「了解!!」

ミサトの指示に答えてムサシが引き金を引く。
ガンヘットに残された火力が一斉にゼルエルを襲った。

「まだだ!!」

【Logical intuition】(論理的な勘)はうるさいほどに危険を訴えていたがここでひけば勝機はない。
次の瞬間、ゼルエルの両手がガンヘットを襲う。

「まずい!!ケイタ、避けろ!!」

ムサシの指示にケイタが反応した。
ガンヘットが高速で横に移動したが・・・

斬!!

ガンヘットのライトアームが飛んだ。
伸びてきたゼルエルの腕に切られたのだ。
しかし、ムサシの【Logical intuition】(論理的な勘)とケイタの操縦技術が無ければ胴体を両断されていただろう。

「くっそ!!」
『うわ!!』

腕を切られた反動でガンヘットが弾き飛ばされた。
地面のコンクリートを削りながら転がっていって近くのビルに激突して止まる。

「うう、ケイタ?」
『こっちは無事だ』
「いけるか?」
『そいつは無理だ。足回りの駆動が31%の損傷、立つ事すら出来ねえ』
「ちくしょう!!」

ムサシは正面モニターを殴りつけた。
モニターに映るゼルエルは興味はなくなったといわんばかりにガンヘットを無視して侵攻を続ける。

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「ガンヘット沈黙、パイロット両名は無事のようですが戦闘続行は・・・」

青葉の報告にミサトが唇をかむ。
これで手持ちの札は使い切った。

「隔壁突破されました!!」

日向の声が絶望的な状況を伝えてくる。
ジオフロントがゼルエルの閃光でむき出しになったのだ。
ミサトはリツコを振り返る。

「リツコ!!どうなの!?」
「・・・・・・だめね・・・」

リツコはあくまで冷静に答える。
モニターに映るレイは軽く目を閉じて集中しているが初号機はまったく応えない。

「・・・・・・零号機はどうなの?」
「本体に破損はないから出すことはできるわ、でもアンビリカルケーブルがつなげないから内部電源の5分だけね」

ミサトは現状の状況から次の一手を模索した。
しかしどれも絶望的な作戦ばかり・・・ミサトは焦りと焦燥から唇をかんだ。

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ガンヘットが行動不能になったのはシンジ達も見ていた。
どうやらコックピットに損傷はないようなので一安心だ。

「どうしたらいいと思う?」

シンジと並んで立ちながら加持はシンジに聞いてくる。
二人の視線はガンヘットから離れない。
ムサシとケイタは無事だろうがこれ以上の戦闘は無理だ。

「さあ、ネルフがどうにかするんじゃないですか?」
「多分どうにもならないだろうね」
「なぜ?アスカの弐号機があるでしょ?」
「残念ながらいまだに凍結は解除されていない」
「何考えてるんだあの馬鹿・・・」
「司令を馬鹿呼ばわりできるのは君くらいのもんだろうな・・・」

加持は苦笑した。
マユミは会話に入れずおろおろしている。

「零号機はまだアンビリカルケーブルの修理が終わっていない、初号機は君しか受け付けない。」
「追い出したその舌の根も乾かないうちにネルフに戻れと?」

シンジの言葉に加持は手にもっていた携帯を見せることで答えた。
その通りと言う意味だろう。
おそらくシンジをつれて来いとでも連絡が入ったのだ。

「で、でもシンジくんを追い出したのはネルフじゃないですか!!」

マユミが加持に向かって怒った声をあげる。

「まあそうなんだけどね、本意じゃなかったのはたしかだよ。」

加持は苦笑するとシンジに向き直る。
笑っているがシンジを見る目は真剣だ。

「非常に勝手だとは思う・・・ここからは、個人的なお願いなんだが・・・助けてくれないか?」
「ぼくに?」
「君にしか出来ない」

たしかにシンジにしか出来ない事ではある。
いつものとぼけた加持じゃない。
その真剣な顔にマユミは口をつぐんでシンジに任せた。

「なぜぼくならできると思うんです?」
「君が強いからさ、それで十分だろ?」
「・・・やっかみですか?」
「それは多分にある・・・君を見ているとあのときの自分と比べてしまって・・・よくないな」
「あの時?」

加持はしゃべりつづけた。
その顔にはいつもの笑いどころか表情がない。

「・・・俺には弟がいたんだがね・・・」
「いた?」
「ああ・・・これは葛城も知らないんだが・・・」

そこからの話にシンジは聞き入った。
セカンドインパクト後の混乱期・・・世界は混迷を極めた。
そんな中で加持はシンジと同じ14歳だった。
世界情勢は崩壊し、この日本でもそれは例外にならず、食べるものにも事欠く有様の毎日・・・
そんな世界でたかが14歳の少年達が生きていくのは難しかった。
そして生きていくための選択肢はさらに少なかった。

当時の加持達は似たような境遇の少年少女と徒党を組んだ。
力のないこと、弱いことは何のアドバンテージにもならない時代だ。
結果として軍の食料を盗むしかなかった。

しかしある日加持はどじを踏む。

いつものように盗みに入ったところで兵士につかまったのだ。

「そのあと俺は隠れ家をはかされてね・・・逃げ出した俺が戻ったときには皆殺しになっていたよ・・・」

加持は空を仰ぐ。

「・・・俺は弟たちを売って生き延びた・・・まあお涙ちょうだいな話だな・・・・あの時代、おれよりひどい思いをして生き残ったやつだっているわけだし・・・」
「・・・・・・」
「あの日のガキで無力だった自分と君を比べると・・・な、だから恥も外聞もなくたのむよ・・・助けてくれ」
「・・・・・・ネルフの人間てのは面倒なこと人に押し付けるのが得意なんですよね」
「面目ない・・・」
「出来れば・・・でも、気づいてるんでしょ?」
「まあね」

シンジ達のいる位置は駅の近く。
第三新東京市のはずれだ。

それに対してゼルエルは町の中心部に進行している。

それがどういうことかというとシンジがどんなに急いでもゼルエルのほうが先に本部についてしまうということだ。
ゼルエル自体の移動速度は決して速くは無い。
しかし町のど真ん中に突貫した縦穴がジオフロントまで続いている。
これを追い越すにはシンジがその穴に飛び込むくらいしか術が無いがシンジには翼は無い。
もちろん忍者のムササビの術なんぞという特殊なスキルも無い。
落ちたらミンチ確定

しかも何とか半死人で辿り着いてもエヴァの起動には数分かかる。
使徒がまってくれるかと言えば限りなく否
その間に突っ込まれてバットエンドだろう。

「わかっちゃいるがそれでも君ならどうにか出来そうなんでな・・・っていうよりも君以外にはどうしようもないように思える。」
「えらくかいかぶられたもんですね」
「さっき霧間さんに何か頼んだのはそのためのものだろう?」

目ざとい・・・
シンジが凪に頼み事をしたのに気が付いていたらしい。

マユミがシンジに目配せをしてきた。
シンジが凪に頼んだ事はかなり重要なことだ。
場合によってはここで記憶を消したほうがいいか考えているらしい。

加持もマユミの気配が変わったのに気が付いたようだ。
重心が軽く沈んだのをシンジは見逃さない。

シンジはマユミに視線で何もしないように言うと加持と真正面から向き合う。

「使徒を倒す事なんて今のぼくには出来ませんよ・・・できるのは・・・」

凪のバイクの音が聞こえてきた

「足止めくらいかな」

シンジの顔に左右非対称の笑みが浮かぶ。

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『使徒の動きが止まりました!!』

ゼルエルはその目の部分からの光線で開けた穴の直上で動きを止めていた。
ゆっくり背後に向き直る。

「何かに反応している?日向君、使徒の真正面に何かない?」
「はい」

ミサトの指示で日向が街に設置されたカメラにアクセスする。
町の様子がモニターに映された。

「・・・別にこれといって・・・あ!!!」

それを見つけた日向が思わず叫ぶ。

「な、なに!?」
「み、見てください!!」

キーボードを操作するとメインモニターに日向の見たものが映る。
それを見た全員が絶句した。

「シ、シンジくん?」

スポーツバックを肩にかけ、ビルの屋上で使徒を見ているのはシンジだった。
その顔は左右非対称の皮肉げな笑みを浮かべている。

発令所は大騒ぎになった。

「使徒が移動・・・シンジ君のいる方向に向かっていきます!!」

もはや理解不能だった。
サードインパクトを起こすためにここを目指していたはずの使徒がいきなり反転して一人の中学生を目指して動き出したのだ。

その理由を知るのはこの場では二人だけ。
エヴァの中で見ていたアスカとレイはその理由を理解した。
シンジの映像には胸元でゆれるロザリオがはっきり映っている。

「・・・・・・葛城三佐」
「え?はい」

ミサトが名前を呼ばれて振り返る。
声の主はゲンドウだった。

「初号機を射出しろ」
「し、しかし初号機は」
「かまわん射出するのはシンジから一番近いポイントだ」
「「「「「「「え?」」」」」」」

予想外の指示に全員から疑問の声が上がる。
しかしゲンドウはそんなことにお構いなしだ。

「シンジが乗り込むまでの時間は兵装ビルで稼げ。」
「は、はあ」
「・・・何か問題があるかね?」
「い、いえ申し訳ありません」
「レイを出せ」

ゲンドウの指示でモニターにレイが現れる。
その顔は不満を通り越して睨んでいるようだ。

「・・・聞いたとおりだ。時間がない、そのまま射出して外でシンジと交代しろ」
「・・・・・・それは命令ですか?」
「シンジに初号機を届けるのに命令がいるのか?」
「・・・いえ、了解しました。」

レイは聞くことだけ聞くと即座に通信を切った。
話をするのも嫌だと言うことだろう・・・事情を知るものたちはそれも仕方ないとおもう。
悪いのはゲンドウの方だ。

冬月が指示を出し終えたゲンドウに声をかける。

「・・・レイがあんな顔でお前を見る日が来るとはな」
「私をどう思おうと構わん」
「どういう風の吹き回しだ?」

ゲンドウは黙ってモニターに映る初号機を見た。

「それがあれの意思だ。」

その視線は初号機から離れない。

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ゼルエルはシンジに向かって一直線に移動していた。
その移動速度は決して速くないがその巨大さもあってかなりのプレッシャーを感じる。
シンジはそれをビルの屋上からじっと見かえした。
その顔には相変わらず左右非対称の笑みが浮かんでいる。

(本当に振り向きましたね・・・)

シンジが頭の中で呟く
今からだの主導権をもっているのはブギーポップだ。

(当然だよ、何より餌がいい)

そういうとブギーポップは胸元に揺れているロザリオを指でつまむ。
使徒の目的であるアダムの魂を封じたロザリオだ。
さすがに持っていくわけにもいかないので凪の家に預けていた。
それを凪に頼んでもってきてもらったのだ。

サハクィエルのときと同じようにゼルエルをひきつける為に

ちなみに凪には届けてもらった後マユミを連れて避難してもらっている。

ゼルエルとブギーポップはかなりの距離を間にはさんで見つめ合った。

(・・・なにか顔があったらにらんでそうな感じですね)

残念ながらゼルエルの顔は仮面のようでそこから感情を読むのは難しいが妙な威圧感を感じる。

(ふむ、あながち間違いじゃないかも」
(・・・え?)
(世界の敵である彼らにとってそれを狩る為の存在である僕は無視できないだろうし、不倶戴天の敵ってやつだよ。アダムと同じくらい無視できないんじゃないかな)
(もしかしてそのために交代したんですか?あいつをひきつける為に?)
(ここにアダムがなかったら問答無用であの光線を撃っていたかもしれないね)
(・・・本当撃って来てたらどうするつもりだったんです!?)

シンジは内心で冷や汗をかいた。
いまさらながらにブギーポップの常識外れに呆れる。

(・・・まあそれはおいておくにしても、あれ・・・如何するんです?)

ゼルエルがふたたびこちらに向かって移動を開始した。

(目からビーム(遠距離攻撃)じゃなく拳骨(接近戦)でアダムを手に入れるつもりですよ?)
(まあ当然だろう)
(じゃあ当然どうにかするんでしょうね?)
(さて・・・)
(そこで考えるんですか?)

シンジが近づいてくるゼルエルを見ていると横から緊張感のかけた声がかかる。

「さてどうしたもんかな・・・」
「・・・いや、だからなんであんたがまだここにいる?」

シンジの隣に並んで立っているのは加持だ。
凪に引っ張っていくように押し付けたが抜け出してきたらしい。

「どうせサードインパクトが起こればどこにいても同じだしね、それならシンジ君の隣にいたほうが生存率高そうだし」
「なんですかその理屈・・・」

加持の言葉にシンジはゼルエルを指差した。
兵装ビルの火力は相変わらず足止めにもならない。
むしろその破片やら爆発はシンジ達のほうに危険だ。

「現在進行形でかなりまずくないですか?デット・オア・アライブじゃなくてデットオンリーな感じですよ、死亡フラグ立ちまくり」
「ところで使徒がこっちに来ている理由はやっぱりそのロザリオにあったりするのかい?」
「人の話聞けよ、おっさん」

シンジの言葉に三十路の加持の顔が引きつるが我慢する。
中学生の安い挑発だ。

加持は無視してシンジの胸元に揺れるロザリオを指差した。
見られないように注意していたが・・・凪から受け取るところを見られたようだ。

「ノーコメントです。あんまり好奇心が強いと後悔しますよ」
「生憎と猫じゃないからリッちゃんは悲しんじゃくれないだろうな〜」
「じゃあなんですぐにここからいなくならないんです?」
「そうだな〜」

加持はとぼけるが横目でシンジを見る視線は油断のかけらもない。
シンジの一挙動すらも観察している。
シンジはため息をついた。

「ん?」

ガッシャン!!!

「初号機?」

シンジ達のいるビルから程近い所に拘束具に固定された初号機が射出された。

「・・・乗れって事ですよね?」
「司令がいよいよ泣き付いてきたって所だな・・・どうする?」
「生き残れたらまた10億くらいふっかけます。」
「まあそうだな、あいつが待ってくれれば・・・」

ゼルエルはすでにシンジ質の目の前に迫っている。
おそらくアダムのせいだろう、光線こそ放たないがその薄い紙のような腕がうねって攻撃の意思を示している

(・・・ここまでか)

シンジはスポーツバックに手をかけた。
中にはブギーポップのマントが入っている。
その気になれば生身でも使徒相手にどうにかならないこともない。
勝てなくとも初号機に乗り込むくらいは出来るはず。

問題は堂々とそれをやったあとのことだ・・・周りのモニターが見ているだろうし、特に加持がそばにいるのは致命的かもしれないがこの際仕方あるまい。
死ぬよりはいい

ズガン!!

「「は?」」

いきなりのことにシンジと加持が呆ける。
目の前に迫ったゼルエルが真横に弾き飛ばされたのだ。

今は目の前に紫の初号機がいる。
拘束台を破壊して飛び出したらしい。

シンジのいるビルに高さを合わせるようにしゃがんで片膝をつく。
その姿は騎士のする臣下の礼のようだった。

「レイ?」
「いや、違うようだ。」

加持がシンジの疑問に答えて指差す。

それはハーフイジェクトされたプラグだった。
シンクロどころかエントリープラグすら挿入されていない状態で動いたことになる。

「また勝手に動いたのか?どんどん常識外れになっていくな・・・」

加持が面白そうに言った。
この状況を楽しんでいるような感じさえするのはきのせいじゃあるまい。

「・・・・・・」

しかし対照的にシンジはじっと油断なく初号機を見ていた。

(・・・・・・こいつ・・・ぼくを見ている)


初号機はシンジ達と正面から向き合うような形になっている。
シンジはその頭部装甲の下の初号機のひとみが自分に向けられているのを感じた。
間違いなくこの紫の鬼は自分を見ている。

「シンジくん!!」

名前を呼ばれて顔を上げるとハーフイジェクトされたプラグからレイが顔を出している。
プラグから初号機を伝ってビルに飛び移るとシンジの元に駆けて来た。

「・・・シンジくん・・・」
「わかってる」

レイは自分の頭のヘットセットをはずしてシンジに渡した。
無言でそれを受け取るとシンジは首にかかっていたロザリオをはずしてバックと共にレイに渡す。

「これ、お願い」
「わかった」

ヘットセットをつけるとシンジは初号機に向かって歩き出した。
その背中に加持の声が届く。

「行くのかい?」
「行かないわけにはいかないでしょ?」
「結局は元の鞘か・・・」
「剣は鞘に納まるべきだし・・・鞘は剣の為に存在するものでしょう?」
「なるほど」

加持の笑みが濃くなる。

「なあシンジ君?君と初号機・・・どっちが鞘でどっちが剣なんだい?」

その言葉にシンジが立ち止まって初号機の顔を見た

「・・・・・・さあ・・・どっちなんでしょうね・・・」

初号機に動きはない・・・しかしシンジはその紫の装甲の下の顔が笑ったような気がした。
それがどんな感情からきたのかはわからないが・・・






To be continued...

(2007.08.25 初版)
(2007.10.20 改訂一版)


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