名前、霧間 凪
性別、女
年齢、24歳
3サイズ、不明・・・しかし、かなりスタイルは良し
職業、中学校の保健医
備考、最近とある悩みあり






天使と死神と福音と

第拾伍章 外伝 〔求める者〕

presented by 睦月様







霧間凪の表向きの本業は学校の保健医である。
学校のある日には白衣を着て保健室で怪我をした生徒や体調を崩した生徒たちを待つのが彼女の毎日だ。
そして今日もまた保健室に訪問者が現れる。

「・・・それで?一体どこが悪いのかわかるか?」

凪はカルテとボールペンをその手に持って正面でパイプいすに座っている人物に聞いた。

「胸が・・・」
「ほう・・・どんな風に?」
「ある人を見るとちくちくと痛むんです・・・」
「ほう・・・」ピシ!

ふくろうのような生返事を返す凪だが手に持ったボールペンにひびが入る。
その無表情が逆に彼女の感情を表していた。

「何が原因かわかるか?」
「はい・・・これは自分の心に燃える情熱が原因かと・・・」
「情熱なぁ〜消すことは出来ないのか?」
「無理です!!」バキ!!

カルテを挟んでいるボードが割れた。
プラスチック製のボードは象が踏んでも壊れないがキャッチフレーズの一品だ。

「・・・・・・なあシゲルさん?」バキ!!

とうとうボールペンが砕けた。
凪は半眼で正面の男を見る。
そこに座っているのはネルフオペレーターの青葉だった。
ちょっとむかつくほどにニコニコ笑ってやがる。

「はい!!なんですか!?」
「・・・なんでここにいる?・・・ここは中学校だぞ?」
「凪さんに診察してもらおうと思いまして」
「そんなぶっちゃけられても困る。部外者はお引取りを・・・大体、からだの調子が悪いならネルフの病院に相談すればいいだろう?」

それは真実、物を上に投げれば落ちてくるというくらい当たり前のことだ。

「俺はあくまで保健医だ。医者じゃないんだぞ?」

学校の保健医とはそういうものである。
医者というには知識も能力も足らない。
素人よりは多少の怪我の手当てや非常時の応急処置の知識を持っていはするがそれだけだ。
ほかにも生徒の成長や健康の記録をとるなどの仕事があるがその程度のことしか出来ない。

それに対してネルフの病院は医者は常時いるし検査器具なども豊富だ。
100人いれば99人までがそっちに行くだろう。

・・・残りの一人は目の前にいる・・・

「自分のこの胸の痛みは凪さんにしか治せないんです。」
「・・・医者でも草津の湯でも治せないっぽいが・・・」
「だからこそ凪さんなんです!!」

凪は取り合えず予備のボールペンを取るとカルテの病名の欄に「色ボケ」と書き込んだ。
「恋の病」と書かないのはそれほど上品なものではないからだ。

「ご期待に添えそうにない・・・」
「きっと、凪さんが抱きしめてくれたら・・・」
「豪快なシカトだな・・・」

いつの間にか夢の世界に旅立ったらしい。
何か妙な妄想に取り付かれている。
とりあえずトリップしている青葉にむかついたのでボードを投げつけた。

「ご!!」

見事に角が額に当たって青葉が帰還する。

「生憎、俺の方にはその気が無いからな、あんたのやっていることは果てしなく不毛だと思うぞ?」
「そんな!!見捨てるんですか?」
「そういう問題でもない、一言で言うと帰れ、二言で言えばとっとと帰れと言う意味だ。大体俺のどこがそんなにいいんだ?自分で言うのもなんだが俺に女としての魅力を求められても困るぞ?」
「そんなことはありません!!凪さんは魅力的な女性です!!」
「って言ってもな、こう見えて24だし、シゲルさんより一つか二つ年上だし」
「十分ストライクゾーンですから!!」
「力説されても困るが・・・」

青葉の目が輝いている。
これはいくら口で言っても無駄だろう。
凪はため息をついた。

「とにかく、俺には「シンジ君が好きなんですか」」
「なんでそこにたどり着く!!」

思わず凪は叫んだ。
さすがにその結論は無茶が過ぎる。
しかし・・・やはり青葉はこっちの話を聞いていない。

「確かにシンジ君は魅力的だが自分も負けません!!」
「話を勝手に進めるな!!十も年が離れていたらさすがにアウトだろ!!」
「世の中には小学生位がど真ん中って人も!!」
「俺はショタコンじゃ無い!!」

言ってから凪は自分の言葉に気が付いて咳払いをする。
青葉は真っ赤になって否定する凪と言うレアな物を見れてご満悦だ。
なかなかにめげない男らしい。

「あ〜っとシゲルさん?俺を好きだって言ってくれるのは正直悪い気はしないんだがな・・・」
「そ、それじゃ!!」
「勘違いしないでくれ、アンタが俺を好きと言ったのは俺がアンタを助けたからだろう?」
「はい!!あのときの姉御は!!」
「頼むから姉御はやめてくれ・・・」

凪は俯いた。
まったく話しが進まないのは自分の話し方が悪いのかそれともこの男が話をまともに聞かないからなのか・・・

「そうですか?似合っていると思いますけど」
「次に言ったら保健室をたたき出すぞ・・・」
「り、了解・・・そう!!あのときの凪さんは今でもはっきり思い出せます。あの時俺と加持さんを救ってくれました。」
「そう、それだよ!!」

何とか話しのきっかけにたどり着いた凪が俯いていた顔を上げる。

「どれですか?」
「人ってものはな、死に掛けると種を残そうっていう本能が働くらしい、だから戦場で結ばれたカップルはさめやすいとかどうとか・・・」

凪は内心で頷く。
完璧な理論だと自画自賛する。

「多分それと同じものだったんだよ、まあ一時的な錯乱だったのさ、それに俺は誰かと付き合う気はないし、そういうのに向いてない。」
「・・・誰か好きな人でもいるんですか?」
「好きな人か・・・そういった対象がいないからといって俺がシゲルさんと付き合う理由にはならないだろう?」
「そ、そんな〜」

がっくりとうなだれる青葉にの周囲に哀愁が漂っていた。
しかし次の瞬間いきなり顔を上げて復活する。

「シンジ君に勝てば付き合ってくれるんですか?」
「え?・・・ああ、あれか・・・」

とっさの逃げでそんなことをいった気がする。
凪はいやな予感がした。

「俺はシンジ君より強くなります!!」
「・・・そう来たか」
「見ててください霧間さん!!」

青葉は急に立ち上がると保健室を出て行った。
凪がとめる暇もない。

「・・・すまんなシンジ」

凪はとりあえずここにいないシンジに謝った。

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校舎裏〜

「まいどど〜も〜」

ケンスケはニコニコしながら営業スマイルでお礼を言った。

「相変わらず売り上げは好調やな」

ケンスケの隣に座ったトウジがつぶやく。
いつものケンスケの写真販売・・・

「いうことないね〜被写体と俺の腕がいいから」
「誰のが売れているんや?」
「男はシンジの一人勝ちだな」
「ほかの男を並べても売れんやろ?」
「まあね〜、女子は常連の綾波、惣流、霧島さん、山岸さん、それと霧間先生」
「なに?」

トウジは思わずケンスケを見た。
ケンスケのバイトは生徒限定だったはず。

「何で先生のまであんねや?」
「知らなかったのか?霧間先生は男女問わずファンがいるんだぞ、特に女の子にファンが多いな」
「何でやねん」
「あのクールさが憧れなんじゃないのか?下手な男より頼りがいが有りそうだし」
「納得や」

なんというか説得力がありすぎる。
凪の立ち振る舞いや凛とした表情などは男女を問わず魅力的だ。
女生徒のファンが多いというあたりに百合っぽい物を感じるが・・・

「すいません・・・」
「ん?」「へ?」

目の前に男が一人立っていた。
いうまでもなく青葉だ。

いつの間にいたのか二人とも気がつかなかったらしい。
目の前の本人はなにやら妙な威圧感を振りまいている。

「青葉さん?」
「写真買いたいんだけど・・・」
「は、はいどれにしましょう」

学園祭のときにバンドの指導をしてくれたときとは別人のようだ。
見た目に不振人物っぽいが逆らうと何かやばい感じがする。
自分たちでなく青葉のほうが・・・

「霧間凪さんの写真を・・・」
「ど、どれにしましょうか?」
「全部・・・」
「「ぶっつ!!」」

思わず二人は噴出したが財布から万札を取り出そうとしているあたり本気のようだ。

「ま、まいどあり〜」

写真を受け取った青葉は擬音をつけるならドスン!!とかつきそうな感じで足を踏みしめながら遠ざかって行く。

「青葉さんだよな?」
「ああ、間違いないわ」
「なにかあったのか?」
「分からん・・・それにしてもなにやら意気込んでるが空回りしている気がするのう〜」
「ああ、相当幸薄そうだ・・・」

なぜか同情する二人と同情される青葉だった。

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「っと言うことでシンジ、お前がどうにかしてくれ」
「どうにかって言われても・・・」

シンジは困った。
大体の事情を凪から聞いたが正直自分が介入していいものかどうか迷う。

「あそこまで一途だと俺が下手なことをすれば立ち直れんかもしれん・・・」
「でも・・・何でぼくなんでしょうか?」
「ネルフの情報集めやらいろいろと協力しているんだ。たまにはいいだろう?このままあの人がストーカーになるのはちょっとな・・・」
「それは・・・協力するのはかまいませんけれどはっきり言ってこれは凪さんと青葉さんの問題でしょ?」
「言いたいことはわかるんだが・・・」

凪の横顔には憂いがある。
何か悩んでいるようだ。

「シンジ・・・お前はまだ子供だから誰かと付き合ったり結婚する自分をそんなに強くイメージしたりはしないだろ?」
「それは・・・確かにそうですが・・・」
「だがな、俺たちくらいの年齢になるとそうもいかん、ほとんどイコールのような感じでイメージがくる。」
「・・・いったい何が言いたいんですか?」

シンジは凪の言いたいことが見当がつかなかった。
それが凪のいう子供の部分だということはわかる。
まだまだ大人の・・・それも女性の心理をわかるには経験が足りないようだ。

「なあシンジ、付き合うって言うことは相手のすべてを許容することだと俺は思う。」
「・・・そうですね・・・」
「だが、俺たちのような能力者を受け入れてくれるかどうかと言われればどうだ?」

返す言葉がなかった。
自分たちのような存在は今の世界では異端だ。

「惣流や綾波、霧島たちは間違いなく少数派だ。山岸は俺たちの側の人間だしな、それに俺の場合は・・・とてもじゃないが世界の敵と戦っているなんて言えんし、それを隠し通して付き合っていけるほどの器用さもない。」
「凪さん・・・」
「・・・頼めるか?」

シンジは一瞬だけ迷う。
しかしそれは拒否するためのものではない。
これは凪が始めて自分を頼った瞬間だ。
ならば答えは話を聞く以前に決まっている。

「・・・ぼくに出来ることなら・・・」

ただシンジは凪のことを案じていた。
自分が異端だからと言う理由で幸せを遠ざけようとする凪・・・シンジはそんな凪にどういう言葉をかけたらいいのか分からなかった。

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数日後、青葉はシンジにネルフの武道場に呼び出された。

「・・・っということで、以前に申し込まれていて決闘の件・・・お受けします。・・・よろしいか?」
「お、オス!!」

青葉は気合の篭ったいい返事だが・・・
シンジは青葉から視線をそらした。

「その前にあんたら何やっているんだ?」

シンジが半眼で見たその先にはミサト達が並んで座っている。
武道場らしく正座しているならまだしも完全に宴会モードだ。
ちらほらアルコールの類が見える。
ちなみに今は勤務時間中・・・

「だってこんな面白そうなもの見逃す手はないでしょ?凪さんの心境はどう?自分をかけて男二人が戦うなんて女冥利に尽きない?」
「いや、俺としては・・・」

さすがの凪もたじたじだ。
なぜかシンジが青葉を呼び出したことが知れると同時に凪が原因というのもばれていた。
おそらく情報の発信源はこの宴会状態を作り出した作戦部長の仕業に違いない。
よく考えるとあの場に彼女もいたのだ。
そこからこの事情を逆算したのだろうがその才能はほかに使い道がないのだろうか?

「一般人の凪さんをここに入れていいんですか?」
「別にここは立ち入り禁止ってわけでもないし、あたしが招待したんだから問題ないわよん」
「・・・いいでしょう。百歩譲ってそれは不問にします・・・ですが・・・」

シンジは青葉を見た。
正確にはその後ろにいる人物を・・・

「・・・なんであんたらがその位置にいる?」
「ははっシンジ君、このままでは青葉君があまりにも不利だと思ってね〜セコンドについたわけだ。」
「われわれのモルモット・・・もとい、新発明に協力してもらったのだよ。」
「・・・今モルモットってはっきり言わなかったか?」

青葉の後ろにいるのは時田と山岸・・・
この二人がそろっていながら物事がまともにいくはずが無い。

「青葉さん、今ならまだ間に合う、引き返しなさいな」
「いいんだよシンジ君、この二人のおかげで勝つ確率が上がるなら俺は悪魔にだって魂を売る。」
「いや、そんなさわやかな笑顔で言われても・・・その二人がかかわること自体危険なんだと思うんですがどうですか?」

シンジはギャラリーにお伺いを立てる。
全員が高速で頷いて二人から距離をとった。

「・・・なんで離れるんです?」
「いや〜、なんかあったら怖いし・・・」
「そのなにかありそうな人とこれから決闘しようとしているぼくの立場は?」
「がんばってね〜シンちゃん〜」
「・・・そんな薄情なミサトさんには一週間・・・禁酒の刑です。」
「げ!!そんにゃ〜」

とりあえずミサトに八つ当たりして多少溜飲の下がったシンジは青葉と向き合う。
視界の中の青葉はなにやら黒いボディスーツを着ている。
頭にも同じようなヘッドギアをしていて青葉の顔以外はすべて真っ黒だ。
武器を持っている風でもないのであのボディースーツが曲者らしい。
対するシンジは一応空手着を着ている。

「シンジ君、このスーツは対弾対刃で防御力は折り紙つきだ。」
「しかもエヴァのシンクロシステムを応用した人工筋肉を使ったことで通常の3倍までの力が出せる優れ物!!」
「その名も・・・」
「「キンニクン一号」」
「センス悪!!」

シンジの突っ込みにギャラリー一同から拍手が来た。
全員の思いは同じらしい。

しかし当の二人はまったく聞いていない。
自分の言葉によっている。

「さあシンジ君!!」
「どうする!?」
「行くぞシンジ君!!」

時田が吼え。
山岸が開始の合図となり。
青葉が駆けた。

対するシンジは向かってくる青葉に対して・・・

「ふっ」

その唯一覆われていない顔面にこぶしを叩き込んだ。

「あ・・・やば・・・」

結果・・・開始3秒で決着
おそらく世界でも例を見ない最速の決着だろう。
シンジは後に語る。
「いや〜あんまり隙だらけで突っ込んでくるもんだから思わずこっちも素直に殴り返しちゃいましたよ。ちょっといい感じに入りすぎて殴った瞬間やばいって感じましたね〜」・・・何がやばかったのは教えてくれなかったがその額には脂汗が浮いていた。

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「ううう・・・」

青葉は目が覚めたとき自分が寝ていることに気がついた。
どうやら病室のベットらしい。

「知らない天井だ・・・」
「まだ動かないほうがいいぞ」
「あ、霧間さん・・・」

ベットの横には凪が椅子に座っていた。
どうやら見舞いに来てくれたらしい。

「多少の武器で埋められる実力差じゃないことくらい気がついていただろうに、あの場合の正しい選択肢は戦わないことだったんだ。」
「で、でも・・・」
「負けるとわかっているのに挑むなんて獣でもしないぞ?・・・あんまり無茶するな・・・」

凪はそういうと立ち上がった。
振り返って出口に向かう。

それを見た青葉はあわてた。

「待ってください、俺・・・助けてもらったときに・・・よくわからないんですけど、とにかく霧間さんの力になりたいと思ったんです。」

その言葉に凪は足を止めて振り返った。

(・・・山岸の能力の限界か・・・感情には作用しないらしいからな、おそらく感情の元がどこから来るのかわかっていない、そのせいで自分が何を言いたいのか理解できてないのか・・・まさか俺が能力を使ったところを見たからとはいえないし・・・)

凪の内心の悩みを青葉は気がつかない。
そのまま話し続ける。

「だからその・・・恋人とかそういうんじゃなくてもいいです・・・何か霧間さんの力になれることは無いですか?」
「・・・シゲルさん・・・」

凪はため息をついて諦めた。
なんとなく分かってしまう。
この頑固者にはもはや何を言っても無駄のようだ。

「そうだな・・・友達でよければ・・・」
「え?」

青葉が凪の言葉に呆ける。
それを見た凪が苦笑した。

「恋人にはなれないが友人として・・・どうかな?」
「は、はい!!ぜひ!!」

凪と青葉は握手をした。
二人の手が硬く握られる。

「よろしくお願いします!!姉さん!!」
「・・・その極道の女みたいな呼び方だけはやめてくれ・・・」
「それなら自分のことは犬と呼んでください!!」
「・・・・・・お前俺を何だと思っているんだ?」

追記・・・・・・青葉の入院期間が大幅に伸びた。
主にシンジとの決闘よりそのあとで行われた凪の教育的指導のダメージが大きかったらしい。






To be continued...

(2007.09.01 初版)
(2007.11.17 改訂一版)


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