天使と死神と福音と

第拾漆章 〔神羅万象に等しき友よ〕
[

presented by 睦月様


「・・・決着がついたようですね・・・」

シンジ達を見下ろしながらカヲルが呟いた。

「ああ・・・」

隣の凪もうなずく・・・その視線はシンジに向いていた。
笑っているシンジを痛々しいものを見る目で見ている。

「シンジ君だけかと思っていたけれど・・・」
「なにがだ?」
「興味深いという意味ですよ。あるいはリリンそのものが・・・」
「そうか・・・それで?お前はこれからどうするんだ?」

凪は視線をシンジから隣のカヲルに移した。
カヲルは考え込むような顔で首をかしげると凪のほうを向く。

「・・・そうですね、とりあえずシンジ君の言うことを聞くということになっていますから・・・」
「そうか・・・」

カヲルの答えに凪がうなずいた。
そろそろ締めに入らねばなるまい。

「それで?あんた達はどうするんだ?」

凪は背後を振り返るとそう問いかけた。
そこにいたのはゲンドウと冬月、黙ってこちらを見ている。

「凪さん」
「ん?」

名前を呼ばれた凪が振り返ると何時の間にかシンジがコンソールの端に立っている。
一歩踏み出せば赤木ナオコのように下にまっさかさまだがまったく自然体だ。
鎌を解いてもとに戻したマントを羽織っている姿に危ないところはない。
ただ、いつもかぶっている筒型の帽子はつけていないようだ。

「帽子が見つからないんですよ。戦っている間にどこか行っちゃったらしくって、見ませんでした?」
「いや・・・」

凪は発令所の下のほうを見る。
さっきの戦闘で瓦礫だらけだ。
この中から探すのは骨が折れるだろう。

「これは一筋縄じゃいかんな・・・後で一緒に探してやる。」
「ありがとうございます。」
「シンジ・・・」

名前を呼ばれたシンジの顔から表情が消える。

「なに?司令殿?」

声の主はゲンドウだった。
他の皆もじっとシンジを見ている。

「お前は一体何者だ?」
「碇シンジだよ。」
「それだけか?」

シンジは肩をすくめた。

「なら納得できる答えを上げようか?」

シンジの纏う気配が一変する。

「ぼくの名前は碇シンジ・・・」
「僕の名前はブギーポップ・・・」

それは同じシンジの口から発せられたもの・・・しかしその口調はまったく違った。
最初の言葉はシンジのものだがもう一つのほうは感情の感じられない自動的のものだ。

「ぼくは死神の従者・・・」
「僕は彼の友人・・・」
「彼はぼくの恩人・・・」
「彼は僕の主・・・」

その言葉を聞くものたちは混乱していた。
行っていることが理解できないうえにまるで別人が交互に話しているような奇妙な違和感・・・

「・・・演出が過ぎるぞ・・・」

呆れた凪がぼそっとつぶやいた。
事情を一応理解しているカヲルは苦笑している。

「ぼくは彼の協力者・・・」
「僕は世界の敵を打つもの・・・」
「それが使徒か?」

ゲンドウの質問にシンジはうなずく。

「あんな手紙ひとつでのこのこ来るわけないじゃないか、知っている通りぼくの目的は最初から世界の敵である使徒だよ。」
「シンジ君は僕の願いを聞いてこの町に来てくれただけさ」
「もっとも、それが使徒だって分かったのはこの町に来てからだけど・・・さすがにあの大きさ驚いた。」
「補完計画の阻止はついでだよ。あれも一応は世界の危機だからね」

ゲンドウの後ろで冬月が唖然としている。
自分達の10年にわたる計画がついでで潰されたと聞かされれば仕方がない。
それを表に出さないゲンドウはさすがというべきだろう。

「シンジ・・・それとさっきからシンジと一緒に話しているお前は誰だ?ブギーポップとか言ったな・・・」

ゲンドウはシンジではなくブギーポップに質問してきた。
シンジの中に別の何者かがいることに気がついたようだ。
周りのスタッフの何人かはわけが分かっていない。

「ね、ねえリツコ・・・どういうこと?」
「せ、先輩?」

ミサトとマヤもシンジの話している意味が分からず困惑してリツコに聞いてきた。

「黙って聞いていなさい・・・二人とも・・・そう、そういうことだったのね・・・」

リツコは二人の会話の内容から気が付いたようだ。
今までにも何度かリツコはブギーポップと話したことがある。
そのためにシンジとブギーポップの違いにいちはやく気がつけたようだ。

「道理で・・・分からないはずよね・・・」

その顔には喜悦が浮かんでいる。

「「まあ、いわゆる二重人格というやつだよ(だね)」」

唖然とする一同を見下ろすシンジ・・・その顔に浮かんだ皮肉げな笑いはどちらのものだっただろうか・・・呆然とした空気の中、最初に反応したのはリツコだった

「・・・証拠はあるのかしら?」
「証拠?」
「今の貴方がシンジ君自作自演で無いと言うことは?」

全員を代表してリツコが一歩前に出る。
ここにいるメンバーの中でシンジに突っ込みを入れられるのは彼女だけだ。
彼女自身はシンジとブギーポップの言葉を疑ってはいないが確証があるに越した事は無い。
シンジの顔に左右非対称の笑みが浮かび、リツコを見た。

「君は僕と何度も話しているし、証拠と言うならば明確な数字で記録があるじゃないか?」
「なにかしら?」
「初号機とのシンクロ率、あれが時々0%になった事があっただろう?あれは僕が表に出てきたときだ。少々特殊なシンクロをしていたのでね」
「なるほどね・・・」

リツコは頷いた。
明確な理由はまだわからないがシンジのシンクロにおいて最高シンクロ率と最低シンクロ率が混在していた事の説明にはなる。
パイロットがそのままそっくり入れ替わっていたのだから無理も無い。

「他に聞きたいことは?」
「貴方の性別は?二重人格の前例では別人格にも性別が存在しているらしいけど・・・」
「性別は無いな・・・泡のように自動的な僕にはそんな物は必要ないから・・・」
「泡?・・・心理学的には二重人格は本人の抑圧された思い、可能性が無意識に擬似的な人格を作り出すこととされているわ。その泡と言うのが貴方の根本でありシンジ君の抑圧された可能性と考えていいのかしら?」
「抑圧された可能性ね・・・まあそう考えるのは当然か・・・抑圧される原因には事欠かないし・・・」

そう言ってブギーポップは横目でゲンドウを見た。
事情を知っているミサトなどは顔をしかめているがゲンドウは無言でシンジを見返している。

「残念ながらそれは違う、僕はシンジ君の可能性ではないし抑圧された擬人格でもない。」
「なら何者なの?何のためにシンジ君の中に現れたの?」
「僕が可能性だとするのならそれはこの世界そのものの可能性だ。そしてその目的は世界の危機を回避するため、さっきそう言っただろう?」

聞いていた全員の顔に曖昧な表情が浮かぶ
どう判断していいのか迷っているようだ。
それも仕方がない、いきなり二重人格といわれてもそれを信じろというのは無理が過ぎる。
確実な証拠は本人のなかにしかない。

それが現実的なものの考え方・・・しかし先ほどまでの戦闘でその常識もがたがたに崩れてかなりほころびが生まれているが駆けつけてきた亨やアスカ、レイたちも微妙な顔になる。
こちらの場合はどうやって信じさせるか迷っているらしい。

全員が動けない中でミサトがブギーポップの前に進み出た。

「シンジ君?」
「今はブギーポップだ。」
「・・・わかったわ、ならブギーポップ・・・貴方の言う世界の敵って何?」
「世界の危機を招く者達・・・今回はたまたま使徒が世界の敵になっただけの話だ。」

これ以上ない明確の答だ。
ひょっとして馬鹿にしているのかと思うほど簡潔な答にミサトの沸点が越えそうになるがその肩に手が置かれて冷静さを取り戻す。
ミサトが振り向くと凪がいた。

「あいつは前からああいう奴なんだ。まともに相手をしても疲れるだけだよ。」
「霧間さん・・・あなたも知っていたの?」
「知っていた・・って言うよりあいつとの付き合いの長さだけなら俺はシンジより長い」

ミサトが二の句をいえないでいると別の人間が変わって会話に入ってきた。

「シンジ・・・お前は何が目的なのだ?何がしたいんだ?」

会話に入り込んできたのはゲンドウ、その言葉を聞いたブギーポップがシンジに変わる。
しかしゲンドウを見る視線はブギーポップより冷たかった。

「・・・右手をだせ・・・」

シンジは無表情でゲンドウに宣言した。
その言葉はどこまでも機械的で感情を押し殺していた。

「・・・それは・・・出来ん・・・」

ゲンドウがシンジ達から一歩下がった。
右手を左手で包むように守っている。

「・・・お前はこれが何なのか知っているのか?」
「まさか気がついていないと思っていた?弐号機と一緒に太平洋艦隊でアダムを持ってきたことくらいお見通しだよ。ブギーさんは世界の敵の気配に対して敏感なんだ。」

背後で加持がげっとうめいた。
話の中心になっているアダムを持ってきた張本人だ。
加持の反応を見咎めたミサトが加持に噛み付いていく。

「どういうことよ加持!!」
「あ、いや・・・実はアダムって言うのは最初ドイツにあってな・・・ここで十字架に貼り付けられているのは彼の言うとおり第二使徒なんだよ。使徒がドイツに来ると戦力が分散するからって極秘に俺が第三に輸送してきたんだが・・・」

太平洋艦隊の上で加持がシンジと会ったときすでにアダムの存在に気がついていたと言うことになる。

(そう言えばあの時シンジ君だけ食堂に来るのが遅かったな・・・)

敵の目を欺くには味方から・・・どうやら自分達も欺かれていたらしい。
あのシンジがアダムの存在を知っていながら何もしなかったと考えるのは楽観的過ぎるだろう。

「なら分かるはずだ・・・場合によっては世界が滅ぶ・・・」
「それはない。・・・アダムにはすでに手を打ってある。」
「なに・・・・なにをした?」
「さあね、それより往生際くらいはよくしようよ。その右手のアダムにはサードインパクトを起こす力は無い・・・」

ゲンドウは即答出来なかった。
理由もロクに説明されず自分達の最大の切り札は役立たずだから差し出せと言われてもはいそうですかとは行かない。
同じように何とか復活した冬月も困惑の色が隠せないでいる。

「シンジ・・・」
「なにさ?」
「サードインパクトはおきないのか?」
「六分儀!!」

冬月が横から大声で名前を呼ぶがゲンドウは無視した。
その視線はサングラス越しにシンジだけを見ている。

「・・・どうなんだ?」
「起こらない。当然あんたの望んだインパクトも・・・」
「・・・そうか・・・わかった。」

ゲンドウは頷くと右手の手袋を外す。

「「「「「「「うっつ!!!!」」」」」

それを見た誰もがうめいた。
ゲンドウの右手には癒着・・・いや、融合している奇形の胎児の姿があった。

「これでいいのか?」
「ああ、カヲル君?」

シンジはずっと状況をみていたカヲルを呼んだ。
呼ばれたカヲルは黙って前に出てくる。
二人に近づいて来たカヲルはゲンドウの手に融合しているアダムを覗きこむ。
じっと見つめること数秒・・・

「確かに・・・本物のアダムだ。」

カヲルが認めた瞬間、周囲の空間が凍った。
とうとう使徒がアダムに触れるほど近くに来たのだ。

「・・・どういうつもりだい?」
「なにが?」
「これはドグマと同じだ。君はぼくがアダムに接触してもインパクトが起こらないことを前提に話をしている。」
「カヲル君も疑い深くなったもんだ。」
「シンジ君には前科があるからね」

シンジとカヲルはニヤリと笑い合う。

「でもこれは間違いなくアダムだ。さすがに司令の体をフィルターにつかっていたのは予想外だけどこの距離では間違え様は無い。」
「そう思うなら接触すればいい。それが望みだったんだろう?」
「それはそうなんだが・・・」

カヲルは再びアダムを見る。
間違いなく本物だ。
カヲル自身の感覚だけじゃない。
共にある他の使徒の魂も本物だと言っている。
早く一つになれとうるさい他の使徒達を黙らせてシンジを見た。

シンジは余裕で腕を組んで笑っている。
やはりシンジはカヲルがアダムに触れてもサードインパクトが起こらないと確信しているらしい。
そのままさらに数秒が経った。
誰も動けない。

カヲルは意を決するとゲンドウの右手に手をかざす。
思わずミサトと加持がホルスターの銃に手を伸ばすが凪と亨に止められた。

「ぐっ・・・」

自分の中からナニかが奪い取られる感覚にゲンドウがうめいた。
同時にカヲルの顔に怪訝な物が浮かぶ、その顔が次の瞬間わかりやすい驚愕の表情に変化した。
カヲルが慌てて右手を戻してその手のひらを見る。
残されたゲンドウの右手にアダムの姿は無く、普通の手に戻っていた。

「ア・・・アハハハハ!!!!!」

いきなり笑い出したカヲルに全員がギョッとする。
いつものアルカイックスマイルじゃなく心の奥から搾り出すような喜悦の笑い。
やがて息が続かなくなったカヲルは咳をしながら笑いを治めた。

「呼吸が出来なくなるほど笑わなくてもいいじゃないか・・・」
「くくくっご、ごめんよシンジ君・・・まさかこんな事が出来るなんて・・・予想すらし無かったよ・・・フフッ」

やっと笑いが納まったカヲルは元のアルカイックスマイルに戻ってシンジに向き合う。
少し引きつった笑いになっていたのは感情を抑えきれないからだろう。

「このアダムは抜け殻だ。魂が入っていない。これではインパクトは起こせないよね。」
「「「「「「なに!!?」」」」」

全員がが驚きで混乱した声をあげた。
声をあげなかったのはこの事を知っていた凪達だけだ。

「・・・・アダムの魂は何処だい?」

シンジは黙って懐に手を入れるとある物を取り出した。
それは銀製のロザリオ・・・今度は逆に凪達の顔色が変わる。

「ちょっと待てシンジ!?」

凪の声が切羽詰ったものになった。
事情を知らないミサトたちが怪訝な顔になるが説明する間も無く、凪の言葉を無視してシンジはロザリオをカヲルに放る。
それを受け取ったカヲルはじっくりロザリオを見た。

「・・・このロザリオからもアダムの気配がする・・・これにアダムの魂を保管していたのか・・・いつからだい?」
「太平洋で、こっそり忍び込んでアダムの体から魂をそれに移しておいた。」
「ここに輸送される直前じゃないか・・・よくそんなことが・・・」
「やったのはブギーさんだよ。あの人を舐めちゃいけない。いまだにぼくはあの人のやる事に驚かされっぱなし、あの人の不可思議さを理解できたためしがない。」

ゲンドウや冬月を初め全員が唖然となる。
とくに実際輸送を担当していた加持は完全に出しぬかれていた事にいまさらながらに気づいて諜報員の面目ぼろぼろだし、技術的な方面のリツコなどは「嘘でしょ」などとぶつぶつ呟いている。
それとは別に凪達は緊張していた。

「シンジ!!あんたなにしてんのよ!!アダムの魂まで渡しちゃうなんて!!?え、な!!?」

興奮したアスカにカヲルがロザリオを投げ返した。
慌ててアスカがロザリオを受け止める。

「それも抜け殻」
「・・・え?」
「それで?魂は何処だい?」

シンジに向き直ったカヲルに対してシンジは笑って右手で天を指す。

「星の海、正確には38万4千400キロの空の彼方・・・」
「38万キロ?・・・それは月の距離と同じじゃないか?」
「正解」
「「「「「「「なに!!!!!?」」」」」」

全員の口から同じ言葉が飛び出した。
唯一の例外はレイだ。

「やっぱり・・・」
「ちょっとレイ!?あんた知っていたの!!?」
「ええ・・・たぶんロンギヌスの槍をつかったときに・・・」

レイの言葉を聞いたカヲルがあることに気がついてはっとなる。

「アラエルの・・・彼の感じたひきつけられるような感覚は・・・」
「そう、アダムの魂だよ・・・ゼルエルとサハクィエルの時もおとりにつかったね、アラエルの時は都合よく槍を使うって言うんで魂を移し変えて空の彼方に行って貰った。ぼくもあの時は槍がオリジナルってのは知らなかったけどあっさり魂の入れ替えができたのはそれが理由だったんだね〜まあ元が使徒の体でもアンチ ATフィールドになって半ば鉱物化していたから、そのロザリオと同じでアダムの体としては役不足だったみたいだよ。まあ、ご先祖様達にとっては本望じゃない?アダムと一つになれたんだし〜」

シンジは傍目にも上機嫌だ。
いたずらが成功して喜んでいるさまは14歳より子供にも見える。
とてもさっきまで命のやり取りをしていた人間と同一人物とは思えない。

「槍を持って帰ってくるのは無理、でも君が月まで行ってサードインパクトを起こしたいって言うなら人類の力で出来なくも無い。まあなんと言っても38万キロ・・・地球の直系が1万3千キロ弱だからおよそ地球の三十倍の距離だね、これだけはなれていれば地球にも影響は無いだろうし・・・どうする?月までアダムを追いかけていく?」

シンジのいたずらっぽい問いかけにカヲルが笑った。

「いや、遠慮しておくよ、アダムの体を手に入れただけで十分だ。」
「それでいいの?確か他の使徒の魂が許さないとか言ってなかったっけ?」
「彼らは補完されて消えてしまったよ。」
「補完されて消えた?」

カヲルの言葉にシンジが少し戸惑った。
さすがにこれは想定していなかったらしい。

「彼らの願いはアダムとひとつになること・・・さっき器であるアダムの体を手に入れたことで”アダムとひとつになる”という彼らの願いはかない、魂は完全にひとつとなって彼らの人格は消えたということさ。」
「・・・カヲル君は消えないの?」

シンジの疑問にカヲルは笑ってうなずいた。

「僕は融合した魂たちを統率する存在・・・仮初のアダムって事さ、本物のアダムの魂が戻ってくるまでね、それに消えるには少々もったいないのも事実だし」
「生と死は等価値じゃなかったっけ?」
「生きているほうが面白そうだ。特に君が・・・」
「さいですか」

まあ死ぬ気がなくなったということはいいことだろう。
ちょっと屈折している気がするがとりあえずストーカー行為はまずいと言う事を教えておけば問題あるまい。

「それでこれからどうするんだい?」
「これから?」
「ゼーレの老人達は君をほうっておかないと思うよ」
「君もだろう?」

とりあえずシンジには最優先抹殺指令が出ているらしいし、補完計画を起こすためにはカヲルを殺す必要がある。

「ね、ねえっシンジ君?」
「はい?」

振り返ると不機嫌な顔のミサトだ。
その後ろには他のスタッフ達も控えている。

「説明してくれるんでしょうね?」
「・・・ええ、そうですね・・・一通り終わりましたし・・・どこから話しましょうか?」

シンジは自分の知っていることのすべてを話し始めた。
最初は黙って聞いていたミサト達だが話が進むにつれて顔が真っ青になる。

「これがぼくの知る全てです。」
「そんな・・・ネルフがサードインパクトを起こすための組織だったなんて・・・」

さすがにこの事実は効いたらしい。
一番真っ青なのはマヤだ。
彼女は他のみんなよりネルフの暗部に関わってきていた過去があるので仕方がない。

「司令!!」

ミサトが怒声とともにゲンドウに詰め寄る。

「今の話は・・・」
「・・・事実だ。」

ゲンドウの一言でミサトの顔が絶望に変わる。
よろよろとあとずさって倒れそうになったところを加持が抱きとめた。

「この馬鹿が・・・」
ドス!!
「ぐう!!」

言葉とともに正拳突きがゲンドウのみぞおちに突き刺さる。
放ったのはいつの間にかゲンドウの前に立っていたシンジだ。

体がくの字に折れ曲がったところに右のフックがゲンドウのほほめがけて飛ぶ。

ガシ!!
「が!!」

人体が立てるには少々危険な打撃音と共にゲンドウが床を転がる。

「ろ、六分儀!!」
「あなたもですよ冬月さん」
「がっつ!!」

フワリと飛んだシンジが容赦の無い蹴りで冬月の横っ面を蹴飛ばした。
老人である冬月にも容赦がない、ゲンドウと同じように床をごろごろと転がっていく。
手加減がまったく感じられなかった。

「・・・悪いけどあなた達にはまだやってもらうことがある。」

シンジは黙って加持に手を出す。
なにを求めているか分かっている加持は頷いて一枚のディスクを取り出した。
外の畑で凪に渡そうとしたものだ。
それを受け取ったシンジはそのままリツコにディスクを渡した。

「・・・何かしら?」
「ぼく達の知るセカンドインパクトやゼーレの情報・・・これをMAGIで全世界に発信してください。」

その一言で全員が緊張する。
しかし凪達だけは涼しい顔だ。
もともとこのために発令所を抑える必要があったのだから当然だろう。

「・・・本気?世界が揺れるわよ?」
「知りませんよ、それは大人が考えることでしょ?いつまでも甘えないでくださいね、子供の仕事はここまでです。」

シンジは周りの大人を見回した。

「全てのお膳立ては整っています・・・そろそろ子供に頼っていないで大人の仕事をしてください。」

その日・・・あらゆるメディアによって真実が世界に向けて暴露された。

世界は混乱の中に突入する・・・しかしそれは避けえない運命・・・


これは少年と死神の物語







To be continued...

(2007.09.15 初版)
(2007.12.01 改訂一版)


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