Even if everything that reflects in these eyes is a counterfeit

Even if everything felt in this skin is a mistake

Even if the pain that sticks in this mind is a conviction

Everything there is my truth.


This is a story of a boy and the god of death






天使と死神と福音と

禁書目録
偽神之章 〔封じられし神話〕
T

presented by 睦月様







『おつかれさま、三人とも調子いいわよ』

通信機からの言葉にシンジは目を開けた。
目に映るのはエントリープラグの内部構造・・・
定期のシンクロテストの終了がリツコから告げられた。

『『「…了解」』』

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「このところ皆すご〜い!!こんな高いシンクロを維持できるなんて〜」

上機嫌のマヤが配ったプリントにはさっきのシンクロテストの結果が載っていた。

Shinji ikari 99,89%
S Asuka Langley   78,37%
Rei ayanami 75,21%

内容を確認したシンジはチラッと左右に立っている少女たちを見た。
自分達の後ろにはマナたちが控えている。

(彼女達もエヴァの中の人格を受け入れたってことですかね?)
(まだ完全に納得したわけじゃないようだがね…)
(それは仕方ないでしょ、いきなりあんな事を聞いて「はい、そうですか」とは行きませんよ)

と言ってもシンクロ率の上昇の理由は他に考えられえない。
今はエヴァの中に人格が存在することを知った事でそれを意識した結果だろう。
この先に進む為には彼女達がエヴァの人格を受け入れる必要がある。
それはシンジにはどうすることも出来ない彼女達の問題だ。

シンジが考え事をしているとマヤが話し掛けてきた。

「あれ〜?シンジ君?女のこをそんなじろじろ見たら失礼よ?」
「「え?」」

マヤの言葉を聞いたレイとアスカが真っ赤になる。
じっと見られていたことを初めて自覚したらしい。

「なななななな、なんで見てんのよシンジ!!」
「…それはおいておいて、マヤさん?なにかご機嫌ですね?」

アスカが真っ赤になるがシンジは話がややこしくなるとスルーしてマヤに話を振る。
シンジに話を振られたマヤが少し沈んだ表情になった。

「うん、ちょっと今までしていた仕事がパアになちゃってね…」
「それにしてはうれしそうですが?」
「え?そ、そうかな?」

自分がいつになく上機嫌だったのを自覚したマヤが慌てて頬に両手を当てる。
そんなマヤにシンジは笑いかけた。
あくまで自然な感じになるように気をつけて

「なにか気の乗らない仕事だったんですか?」
「え?」
「マヤさん、仕事がお釈迦になったって言うのにまったく残念そうに見えませんから」

シンジの言葉にマヤはレイの方を一瞬だけ見て目をそらした。
普通ならそれだけで何があったのか分かるわけがないが事情を知る子供たちにとってはそれで十分だ。
マヤがポツリとしゃべりだす。

「そうね…はっきり言っちゃうと嫌な仕事だったわ…いろいろとしてはいけない事もしちゃったし…」
「マヤさん…」

よく見るとマヤの目が潤んでいる。
心底後悔していているのだろう。
潔癖症なマヤが自分そのものに嫌悪を抱いている事はたやすく想像できる。
シンジはため息と共に俯いたマヤの頭をなでてやった。

「え?シ、シンジ君?」
「間違ったと思うならやりなおせばいいと思いますよ。まだ手遅れじゃないんでしょう?」
「で、でも…」
「やりなおせなくなる前に引き返せてよかったじゃないですか…」

その言葉の意味は深い。
もちろんマヤはシンジが自分がしてきたことを知っていることを知らない。
だからこそ純粋にシンジの言葉はマヤの中にしみこんでいく。

「…そうね…やりなおせるうちに…ね」

俯き、次に顔を上げたマヤの瞳には涙のきらめきがあった。
にっこりとした笑みを浮かべたマヤは涙を拭うとシンジから離れる。

「えへへへ、ご免ねシンジ君、慰めてもらって、私大人なのに・・・」
「いいんじゃないんですか?マヤさんは学生って言っていっても通りそうだし〜」
「あ!ひどいわ〜シンジ君?セクハラよ!?」
「うわっ、現代の会社組織の抱える問題がとうとうネルフにも〜」

少々どころかかなりわざとらしい会話だ。
二人とも勤めて明るく振舞っている。
虚勢だと分かっていても張らなければならない時、張りたい時は存在する。

シンジとマヤはしばらく笑いあう。
笑いを収めたとき、 さっきまでの沈痛な雰囲気が払拭されてマヤ本来の笑顔に戻っていた。
とても魅力的だ。

「じゃあそろそろ行くわ、まだ仕事残ってるの」
「そうですか、がんばってくださいね」
「ありがとう、シンジ君もがんばってね」
「は?」

今日の訓練はこれで終わりのはずなのにマヤはなぜがんばれと言ったのかシンジには理解できなかった。
…背後を振り向くまで…

「…何で三人そろって睨んでるんだよ?」

そこにはレイとアスカとマナの怖い顔があった。
般若と言うべきか・・・なんとも恨めしげに皆そろって半眼でシンジを見ている。

「…このたらし」
「浮気はダメよ?シンジ君?」
「…」

泣き出す直前の子供のような雰囲気がある。
自分は悪くないはずなのになぜか罪悪感が・・・

「なんでだよ…」
「油断も隙もあったもんじゃないわね…自覚無いの?」
「…一応今フリーなんだけれどな…」

実際シンジは誰か特定の相手と付き合っているわけではない。
そもそも誰かと付き合う気も今のところはない。
アスカやレイ、マナとは付き合いがあるし、かなり秘密も共有したがこれが恋人の関係だと言うのなら恋とはまさに命がけの行為と言うことになるだろう。
具体的には戦友と書いて彼女と読むような・・・
それはちょっと嫌だ

「…まっいいわ…それよりマヤだけれど…」

アスカはマヤの去っていった通路を見た。
その視線が少し厳しいものになる。

「…いい気なもんね…」

アスカの言葉にとげが含まれる。
それも仕方がない。
自覚していようがなかろうがマヤのやってきたことは命に対する冒涜で・・・その事実は何一つ変わらない。

「マヤさんも苦しんでいたんだよ。だからあれはその反動ってところでしょ?」
「でも…」
「それにそんな話こんなところでするもんじゃあないよ?誰が聞いているか分かりやあしない。」
「それはそうだけれど…」

アスカが不満なのも理解できる。
しかしそれは終わったことだ。

「それに・・・」

シンジが横目でレイを見る。
最大の被害者であるレイがなにも言わないのに他の人間が何か言う資格はないとシンジは思っている。

その時マナがあることに気がついた。

「ね、ねえシンジ君?」
「ん?マナ、どうかした?」
「シンジ君の家って盗聴とか大丈夫なの?」

マナが気づいたことに皆が青くなる。
もしシンジの家に盗聴器があるとしたらかなりまずい。
相当に重要なことまでぺらぺらしゃべっていたのだ。
他に、それもネルフにばれれば危険分子とされて消されてもおかしくない。

「マナ…」
「な、なに?」
「あの面子相手にそんなことやり切れると思うか?」

言わずと知れたブギーポップと凪の事だ。
ついでにシンジも入れた三人相手にそんな小細工…FBIでも無理な気がする。


「最初のうちは何度か仕掛けなおされたりしてたんだけれどね…」
「ど、どうしたの?」
「盗聴器をプレーヤーにつないで般若心経にホラービデオからとった悲鳴をミックスしてさらに黒板とガラスを引っかく音のスペシャルブレンドを24時間エンドレスで送ってやったんだ。」
「へ、へ〜」
「次の日にちょっとノイローゼ気味の諜報部員を捕まえてぼこぼこにしたらやっとやめてくれたんだよ。しつこいったらありゃしない」
「そ、そう…」

全員シンジを敵に回す無謀さを悟った。
盗聴していた諜報部の人間のほうに同情するのは人間として正しくはないだろうか?

「ミサトさんの家やマナ達の家にも仕掛けていたんだよ?念の入ったというか・・・バスルームとトイレのは真っ先にはずしといたからあんし…」

シンジは最後まで言うことが出来なかった。
アスカとマナの顔がやばい感じにつりあがった笑みになっている。
背後に炎が見えそうだ。

「「…殺す…」」

冗談ゼロの言葉をつぶやいて諜報部に乗り込もうとするアスカとマナをシンジが必死で止めた。
ムサシとケイタはそれを助けることすら出来ない・・・彼らは思春期特有の妄想に沈んでいた。

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「くくくっそれは災難だったな〜シンジ?」
「笑い事じゃありませんよ、凪さん」

シンジの話を聞いた凪が笑った。
子供達の反応があまりにも初々しくてつぼにはまったらしい。

「まったく…」
「すまないシンジ…」
「ごめんねシンジ君…」

夕食の食器をならべていたシンジにムサシとケイタが謝る

アスカとマナは罰として今日の食事当番だ。
実は最近2人ともシンジに料理を習っている。

これには理由があって…ある日、シンジとレイが訓練の都合で帰りが遅れたことがあった。
そうすると食事を作れる者がいないと言う事になる。

「よっしゃ!今日はあったしの得意料理を作るわ!!」

…だれかはあえて言わないが一人が名乗りをあげた。

深くは語るまい…
ただ……途中で合流した凪と一緒に帰宅したらアスカとマナがそろって料理を教えてくれと泣きついてきた。
室内にはカレー臭とおいしそうにカップめんの中身を捕食する妖怪一匹…しかもなぜかカップめんからカレー臭がするというミステリー・・・

「そういえばミサトさんは?」
「あれ?そういえばいないね、今日は普通に帰ってくるはずなのに」

シンジの言葉にケイタが答えて首をひねったとき、台所からアスカとマナの声が聞こえた。

「「できたわよ!!」」

アスカとマナが運んできたのは餃子、春巻、麻婆豆腐・・・実に中華なメニューだ。
シンジがアスカに教えているのは中華料理・・・これにもちょっとした理由がある。
最初はシンジと同じ洋食を教えていたのだがマナはともかくアスカが細かい火力調節を面倒くさがってうまくいかなかった。
それならとシンジが選んだのは文字どおり火力が決め手の中華だった。
イメージカラーも赤かったし・・・・・・

中華はその火力を操る手さばきが重要なのだがアスカはさすが大学卒と言うべきか覚えも早かった。
伊達に天才少女と呼ばれてはいない。
アスカとマナの料理が食卓に並ぶと全員が席につく。

「じゃあいただこうか」
「「「「「「いただきます」」」」」」

ガタン!!

凪の言葉に全員が合唱するのと同時、玄関で扉が開いた。

「ごっめ〜ん!!遅くなっちゃったぁ〜」

入ってきたのはやはりミサトだった。
急いで夕食に間に合わせようとしたのか息が切れている。
ルノーをとめた駐車場からここまで走ってきたのだろう。

「あっと、おいしそ〜も〜らい!!」

入ってくるなり春巻を一本口に放り込む。
かなり行儀が悪い。

「ん〜おいしい〜」

ミサトは春巻きの美味しさに舌鼓を打つ。
それを見たシンジがあきれたような声を出して

「ミサトさん・・・もうちょっとマナーとかをですね…」
「でもおなかすいちゃって〜」
「…とにかく荷物置いてください!!」
「は〜い」

ミサトが素直に従うと押し殺した笑いが聞こえた。
どっちが子供かわかりゃしない。
それをたしなめるシンジの姿は・・・

「…なんですか?凪さん?」
「くくくっいや、お前将来いいお父さんになるぞ?今でも十分所帯じみている。」
「言わないでくださいよ。気にしてるんですから」
「後は相手だな、そろそろ決めたらどうだ?」

その言葉に女性達が反応した(ミサト含む)

「まだ早いでしょ?」
「いや、こういうもんは早いも何もないんじゃないか?お前も好みくらいあるだろ?」
「え?そうですね…」

ムサシとケイタがシンジの言葉に聞き耳を立てる女性陣から食料を死守するために移動させた…かなり慣れてきたらしい。
この後の展開の予想が出来るくらいには全員のことを理解している。

「う〜ん」
「なにかあるだろ?まあ男がいいなんていわれても困るがな?」
「言いませんよ、そうですね、とりあえずぼくも料理しますけれどやっぱり料理の出来る人とかいいですよね」
(((よっし!!))))

なぜか”ミサト”も含む女性陣が手ごたえを感じた・・・・しつこいようだがミサトも含む・・・

「あとはあまり歳が離れてると遠慮とかしちゃいそうだな・・・」
(((クリアー!!)))

再び”ミサト”を含めた皆が心の中でガッツポーズをとる。
何でそこにミサトが入ってくるのだろう?
ちなみにシンジとの歳の差は二対一・・・シンジの倍といったところだ。

「やっぱりやさしい人が理想かな?」
(((フッ当然よね…)))

アスカ、ミサト、マナは勝利?を確信した!!!

「でも実際はよくわからないんですけれどね〜」
「「「なんじゃあ!!そりゃあ!!!!」」」

シンジの一言に爆発する3人、テーブルが回転しながら中を舞う。
料理はすでに退避していたので問題はない。
ムサシとケイタのナイスフォローだ。

「…なんでそんなこと気にするんだよ?」
「「「うっ」」」

それを説明するにはいろいろ・・・主に羞恥心が許さない
3人は互いに顔を見合わせばつの悪そうな顔で椅子に座る。
同時に空中に飛んでいたテーブルが元の位置に落下してきた。

「くくくっ」
「・・・凪先生どういうことなんですか?」
「ん?綾波か、お前シンジのお嫁さんになれたら嬉しいか?」
「え?……はい…」

顔中真っ赤になって消えてしまいそうな声で返事をするレイを凪は笑いながら頭を撫でてやった。
レイは凪にされるままうつむいている。

「凪さん…レイをからかわないでくださいよ?」
「からかっていやしないよ。なんなら俺もお嫁さん候補に入れてくれるか?」
「十も年下の子供のお婿さんですか?」
「歳の差カップルってのもいいかも知れんぞ?」
「思ってもいないこと言わないでくださいよ。大体、結婚に向いてるとは思えませんね」
「くくくっ違いない、しかし言ってくれるな〜シンジ?」
「もう知らない仲でもないですしね」

二人ともその程度で動揺する性格はしていない。
このくらいはほとんど挨拶代わりだ。

しかし、そんなシンジと凪のやり取りになんとなく面白くない女性陣…

その後、ムサシとケイタが避難させていた食料を戻して食事が再開した。

「そういえばミサトさん?」
「え?なに?」
「今日はちょっと遅かったですね?」
「あ、うん、じつはねお客さんが来ることになって、その準備って言うかそんな感じ?」
「客?」
「うん、戦自から」

ミサトの言葉にマナ、ムサシ、ケイタが反応した。
自分達がいた場所からの客とは気になる。

「何しにくるんです?」
「え〜っと技術交換かな、お互いの技術をあわせて使徒に対抗しましょうって事」
「へ〜」

表面的に見ればいいことだが・・・
ここにいるメンバーでミサト以外はこの前の停電がその戦自の仕業だと知ってるし地下に行けば彼らの”残骸”がある事も知っている。(ミンチになった肉片が部屋中に飛び散っているのをどう処理しろと?)
だが内心がどうあれここで言っても意味のないことだし、こじれさせる理由もない。

「ミサトさん?」
「ん?なに?」
「その人はなんて名前なんですか?」
「え?名前?」

ミサトが記憶の中の名前を引っ張り出すのに数秒…

「たしか…山岸…ユウ…」

それが彼女を中心とした奇妙な運命の始まりだった

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数日後
シンジ達はネルフ本部のホールに集まっていた。
目的は出迎え、もうすぐここに戦自の技術者が来る。

シンジも一緒なのは戦自に対する誠意だ。
まあ表面的な物でかなり薄っぺらいが・・・

「・・・ねえリツコ?」
「なによミサト?」
「なんで時田博士までいるの?」

ミサトの言うとおりメンバーの中には時田が混じっていた。
出迎えに出ているのはミサトにリツコ、しかもシンジまでいる。
ゲンドウと冬月は執務室で書類整理の為にここにはいないがそれでも十分な豪華さだ。

わざわざ時田までいる必要は無いと思うが・・・

「技術交換なんだから当然でしょ?ゲオルギウスは有効な武器だもの?」
「う、そりはそうなんだけれど・・・」

当の本人はボーっとしているがミサトはなんとなく時田が苦手だった。
どこまでもマイペースでゴーイング・マイ・ウェーなのが自分に似ていて逆に苦手なのかと思う。
しかし、さすがにあの飛びぬけた一面は自分は持っていないと思いたい葛城ミサト29歳

「あら?いらっしゃったようよ」

リツコの言葉と共にドアが開いて白衣の男が入ってきた。
身なりは科学者然としていて黒いスーツを着ている。
人のよさそうな男だ。

「こんにちわ、山岸博士」
「こんにちわ、赤木博士」

リツコと挨拶を交わした男・・・山岸が今度はシンジ達を見る。

「これは皆さんおそろいで、光栄ですな」
「みんな、このかたが山岸技術士官、戦自から来られたの」
「「「「「「「「はじめまして」」」」」」」」

子供達が そろって挨拶をすると山岸も頭を下げて答えた。
どうやら山岸と言う男は腰の低い男らしい。
子供であるシンジ達にも深々とした挨拶をする。

「こちらもよろしく、君がシンジ君だね?」
「え?はい」

ふいにかけられた声にシンジは戸惑った。
初対面の人間にじっと見られればそれは戸惑っても仕方ないと思う。
女性なら心拍数が上がるのだが男相手では汗しか出ない・・・がまの油じゃあるまいに

「ATフィールドを自在に操るという君の才能、勉強させてもらうよ」
「…はあ…」

シンジは目の前の男を油断できないと判断した。
やはり戦自から来ただけのことはある。
間違いなくシンジ達の調査も含まれているのだろう。

正直なところ正しく人類のための行為ならシンジだっていくらでも協力するのだが事、ネルフと戦自と言う縄張り争いや先日の停電騒ぎの工作などが絡んでくるとなると嫌気もさす。
人類が滅ぶかどうかと言うときにそんな小さなことでいがみ合っていられるあたり暢気なものだ。

「山岸技術士官…」

見詰め合うシンジと山岸に割り込んでくる声・・・時田が山岸に話しかけた。

「なんですか?」
「マジンガ○−Zとガン○ムはどっちがいいと思いますか?」
「「「「「「「「…は?」」」」」」」」

何か白いものが通った……
最初に復活したのはミサトだ。

「と、時田ぁ!!!あんた何言ってんのよ!!!!」
「そうですね…私はマ○ンガーZのほうが…」
「まともに答えんな!!!」

ミサトが叫ぶ
少々、礼儀に欠けてはいるが本心以外の何物でもない。
その思いはここにいる全員が分かる。

しかし二人はそんなミサトを完全に無視していた。

「やはりそうでしたか…」
「しかしなんと言ってもゲッ○ーロボでしょう。合体はロマンです。」
「なるほど…あなたとはいい仕事が出来そうだ」

二人は固い握手を交わす。
バックに炎か稲光でも背負えば完璧だろう。

「なんなのよ一体…」

ミサトの頭を抑えたつぶやきに皆がうなずいた。
なんというか・・・コメントに困る。

「いいんですかリツコさん?」
「いいのよ、科学者が夢を語らずに誰が語るの?」
「さいですか…」

結局は似たもの同士という事なのかもしれないなとシンジは思った。
つまり深く関わっちゃいけない類の人間と言うことだ。

ビー・ビー

「「「「「「「「使徒!?」」」」」」

のんきな空気がかんしゃく玉のごとく吹っ飛んだ。
空気が変わる。

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発令所に乗り込んできたミサトがスクリーンに見たのは光る輪が筒状に並んで立っていると言うわけのわからないものだった。

一見した感想、間違いなく使徒だ。
あんな常識はずれな代物が使徒以外に存在するわけがない。

「…状況は?」
「退避完了まで後十分!!」
「急いで!!使徒に動きは!?」
「今だ目標に動きありません!!」
「威嚇攻撃を用意!!退避完了と同時に攻撃開始!!」
「了解!!」

ミサトの指示に発令所が動く。
すばやく各所に指示が伝達され、必要なものの手配が始まった。
さすがに使徒戦を何度もこなしてきただけのことはある。

「リツコ、どう思う?あれ?」
「…まだ情報が少ないけれどシンジ君の分類を使えば特化型ね、何に特化しているかはわからないけれど…」
「うかつにエヴァは使えないか…シンジ君たちは?」

ミサトの言葉に日向がうなづいてコンソールを操作する。
モニターにエントリープラグ内のシンジ達が映った。

『準備完了…』
『いつでもいいわよミサト!!』
『使徒はどんな感じです?』

ミサトは日向に現在の情報を伝えるように指示した。
エントリープラグの中にさまざまな情報が表示される。

『…なるほど…特化型ですか…』
「ええ、まだ外見だけで断定は出来ないけれどシンジ君の分類だとそうなるわね・・・」
『問題はどんな感じに特化しているかなんですよね』
「そうね、とりあえずこちらから仕掛けてみるけれど反応がない場合はすぐに出すわ。」
『了解』

その時、ミサト達の頭上後方では…

「…六分儀?この出現はシナリオにはないぞ?」
「……」
「すぐに情報管理に入らなければならんな…」
「修正は可能だ…」
「本気じゃないよな?…すでに修正どころではないような気がしてならんが?」
「……」

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ガン ガン ガン

「まったく効いてないなありゃ…」

戦闘を見ながらシンジはつぶやいた。
結局通常火力は効果が薄いとわかってエヴァ3機で包囲攻撃に入ったのだが使徒はその不可思議な体をくねらせるだけでまったく変化というものがない。
ダメージを食らっていないようだ。

ちょうどアスカの弐号機がソニックグレイブで突っかかっているところだが軟体動物のように体をくねらせるだけで見事なまでに効いていない。

『なんなのよこいつ!!』

アスカの言う事ももっともだと思う。
使徒とは人間の亜種・・・シンジ達はすでにそのことを知っているが正直自信が揺らいでいた。
これを見て人間の同類と思う奴はどこか狂っていると思うのはしかたがない。

「でも事実は変わんないんだよな…」

初号機も早々にパレットライフルを捨ててマゴロクEソードを手にしている。
隣に立っている零号機はスマッシュホークだ。
兵装ビルの攻撃が効かなかった時点で火力は意味がないと判断して武装を切り替えている。

『なんでゲオルギウスを使わないんだ?』
『あんなもん街中でほいほい使えるか!!』

バキ!!!

発令所で時田がまたいらん事言って張り倒されたようだが無視した。
弐号機がちょっと体勢を崩したようだがおそらく同じものを聞いたのだろう。

実際,破壊力だけは折り紙つきのあれならどうにかできるかもしれないが街中での水平投擲は何が起こるか予想も出来ない。

(シンジ君?)
(ブギーさん?)
(どうやらあれは実体じゃないらしい)
(え?)
(惣流さんの歪曲王と同じさ、実体を伴った映像ってところだ)
(マジですか?)
(攻略方法としては本体に一撃がお勧めだね)

戦闘を続けながら初号機が左右を見回す。
しかしビルばかりで使徒の本体らしきものは見えない。

(どこなんですか?)
(それなんだが…気配自体は感じるんだけれど何かフィルターにかかったみたいにはっきりしないんだ)
(フィルター?)

シンジが視線を前に戻すと戦闘が続いていた。
アスカとレイは波状攻撃をかけているがやはり効果がない。
シンジは初号機で牽制しながら時間を稼ぎ、ブギーポップはその感覚で使徒の気配を探す。

しばらくその硬直状態が続く。

(……見つけた…)
(どこですか!?)
(…シンジ君?そのまま動かずに右足の所を見てくれ)
(はあ?)

言われたとおりシンジが初号機で下を見ると…シンジの頭はフリーズした。

「なんでだよ…」

そこにいたのは黒髪でメガネをかけた女の子だった。
明らかに一般人、戦場に非戦闘員が紛れ込んだのは三度目だ。
シンジの頭の中で保安部や諜報部に対する不満が渦巻く。

『マユミ!!!!!!』
「おわ!!」

あまりの大声にシンジがよろめいた
同時に初号機もシンジに倣ってふらつく。
あわてて初号機の体勢を整えたが下手したら足元の少女を踏み潰してたところだ。

『何でマユミがここにいるんだ!?』
「え?その声はさっきの山岸さんか?何で発令所に?」
『シ、シンジ君とりあえずその子を救助して!!』
「り、了解・・・」

初号機で潰してしまわないように注意しながら右手を下ろす。
目の前にいる使徒は零号機と弐号機が相手をして時間を稼いでくれていた。

「悪いけれどここは危ない、早く乗って・・・」

外部スピーカーの声にうなずいた女の子、マユミが初号機の右手に乗って体を固定するのが見えた。

『シンジ君一旦引いて頂戴、アスカ?レイ?その間使徒をお願い』
『『了解』』

シンジはアスカとレイに任せて一旦引く
しかし意識は別の方向に向いていた。

(どうですか?)
(間違いないこの子だ…)
(この子が使徒?)
(いや、使徒がこの子の中に入り込んでいる。巧妙だよ、人間の体をフィルター代わりにしてるんだ。この距離に来るまで僕にもわからなかった)
(姑息な…どうにか出来ますか?)
(むつかしいな、彼女の体をフィルターにしているだけに正確な位置が確認できない。)
(…まずいですね…)
『あ、あれ?』

アスカからの通信に背後を見ると使徒がその姿を霧散させていく
倒したわけじゃないのは明らかだ。

(どうやら自分の本体を抑えられて警戒したか…ここで戦闘を続ければ本体を巻き込むからな…)
(頭がいいというべきですかね?)
(悪くはないだろうさ、少なくとも状況を読める程度にはね)

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「マ〜ユ〜ミ〜」
「お父さん…」

ケージに戻ってきたとたんダッシュで駆け寄ってきてマユミに抱きつく山岸ユウ・・・親子じゃなかったら変質者と思っていただろう。
顔中からいろいろな液体を出しながら走ってくる男・・・マユミも良くぞ受け止めたものだ。

「ご、ごめんなさい…」
「いや、いいんだ。初めての場所に一人にしたのが悪かった!!」

なんともアットホームな光景に怒る事も出来ない。
どうやら山岸は案外わかりやすい男のようだ。

呆れながらもそんな二人を温かく見守るシンジにミサトが近づいた。

「お疲れ様みんな」
「…ミサトさん?」
「な、何かしらシンジ君?」

シンジのニッコリ顔の危険性を知るミサトが逃げ腰になる。
なぜか怒っているらしい。

「助けられたからいいようなものの、民間人が戦場に入ってくるなんて保安部と諜報部は何してらしたんでしょうね?三度目ですよ?」
「そ、そりは…」
「…後で保安部と諜報部の責任者は訓練場に来るようにいってくださいね?」
「…え?」
「格闘訓練の相手になってもらいます…1対1で…」
「…マジ?」
「ミサトさんは一週間アルコール禁止ということでいいですね?」
「そんにゃ〜」
「…訓練…参加します?」

ミサトの脳内でシンジの訓練相手をする事とえびちゅ禁止が天秤に乗った。
両者が拮抗したのは一瞬にも満たない。

「ゴメンナサイ」
「よろしい」

少なくともえびちゅ禁止なら怪我をすることはない。
一度一撃で床に鎮められた経験のあるミサトにはシンジに勝てないと言うことは十分分かっていた。
もはや泣くしかないミサトをアスカとレイは笑っている。
特にアスカは大爆笑だ。

「シンジ君?」
「え?」

ニコニコと邪悪に笑うシンジが名前を呼ばれて振り向くと山岸親子がいた。

「娘を救ってくれてありがとう!!」
「は、ハア…」

中年の男に涙目でお礼を言われてもちょっと困る。
逆に引いてしまうし…

それにシンジはマユミをすくっていない。
使徒はいまだマユミの中に存在する。

「あ、あの…」
「ん?」

表情はあくまで友好的に、内心では使徒への対応に頭を悩ませていたシンジが見るとマユミが赤くなって顔をうつむかせている。

「あ、ありがとうございました」
「え?ああ、当然のことをしただけだよ。怪我がなくてよかったね?」

何度も頭を下げる女の子にシンジは笑って答えた。

・・・その時・・・
シンジは使徒の事とかを考えていたため気づかなかった。
それを面白くなさそうに見つめる視線を……

---------------------------------------------------------------

「……なんってベタな…」

シンジはぼそっとつぶやいた。
彼の視線の先には担任の利根川が転校生の紹介をしている。

「山岸マユミさんです。皆さんよろしくお願いします」

「「「「「「「「「「「「オオ〜」」」」」」」」」」」

おとなしそうで長い黒髪…しかもメガネの可愛い転校生に教室の男子がヒートアップする。
マユミのほうはそんな男子の視線と熱気に驚いてなみだ目になっていた。

・・・おびえさせてどうする。

「では・・・そうですね碇君?」
「・・・・・・・・・・・・・・・え?」

いきなりの名指しにシンジが戸惑った。
男子生徒たちの視線がいたい。

「山岸さんに校内の案内をお願いできますか?」
「な、なぜでしょう?普通はクラス委員とかがすべきことでは?」
「それが、山岸さんのお父さんからのご指名です。」
「あの人が?」

シンジの脳裏に昨日の事が思い出される。
そういえばシンジにお礼を言うマユミをなにやら感慨深げな顔をしていたような…

「あのおっさん…わかりやすすぎるぞ…」

誰にも聞こえないように口の中で毒を吐く

「では碇君お願いしますよ?今日のホームルームはこれまで…」

そう言って教室を後にする利根川…

「「「「「「「「「「「「「「碇!!貴様いつの間に転校生と親公認になりやがった!!!」」」」」」」」」」」」」」
「知るか!!!!!!!!!!!!!!」


シンジだって教えてほしかった。
もう一人の当事者・・・マユミはそのやり取りの間もずっと顔を赤くしてうつむいていた。






To be continued...

(2007.07.07 初版)
(2007.07.21 改訂一版)
(2007.10.06 改訂二版)


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