天使と死神と福音と

禁書目録
偽神之章 〔封じられし神話〕
U

presented by 睦月様


「ここが音楽室で奥のほうは美術室・・・」

シンジは利根川に言われたとおりマユミに校内を案内していた。
もちろん見送るクラスメート達の視線が痛かったのは言うまでもないだろう。
中には明らかに呪詛っぽいものを呟いている奴もいたし。

ちなみにその問題の中心人物であるマユミは横に並んできているがなぜか顔が赤い。
あらためて見る彼女の容姿はメガネをかけて口の右端の下にあるほくろが印象的だがおどおどしていてどうも小動物のようなイメージがある。

(どうですか?)
(やはりダメだね、彼女の中にいる事は間違いないんだけれど特定が出来ない)
(まいったな・・・)
(下手に打ち抜くわけにも行かないし・・・面倒なものだね・・・)
「あ、あの・・・」

シンジ達が頭を悩ませているとマユミがおずおずと話しかけてきた。
やはり小動物っぽい。
イメージとしてはハムスター

「え?な、なに?」
「き、昨日はどうもありがとうございました!!」

そう言って頭を下げるマユミにシンジはとまどう。
戦闘中に助けたことだとすぐに分かった。

「あ、いや、頭を上げてくれない?そんなたいした事はしてないんだからさ?」
「でも・・・」
「え〜っとじゃあ代わりって訳じゃないんだけれど・・・」
「なんですか?」
「友達になってくれないかな?」
「え?」

予想外のシンジの言葉にマユミが真っ赤になってあわてる。

「わ、私がですか?」
「うん、迷惑?」
「い、いえそんな・・・」

どう反応したらいいかわからないらしい
こういう経験が少ないのか かなりあわてて挙動不審だ。
そんな彼女にシンジはデジャブーを感じる。
彼女はまるで昔の・・・それに思い至ったシンジの顔に笑みが浮かぶ。

「…ひょっとして深読みさせちゃった?」
「え?いや・・・」
「まずはお友達からとかそういうんじゃなくて純粋に友達になりませんか?って事なんだけれど?」
「そ、そうですよね・・・」

マユミが多少残念そうにうなずく
あえてどうしてと追求してはいけない・・・そんな空気だ。

(シンジ君?ナイチンゲール症候群って知ってるかい?)
(怪我をしたときにやさしくされるとそれを恋と思い込むあれですか?)
(戦場で生まれた恋は熱しやすく冷めやすいらしい)
(・・・ブギーさんまで・・・)
「あ、あの・・・」
「え?」

不意にマユミが話しかけてきた。
やはりおどおどしている。

「なに?」
「図書室ってどこですか?」
「図書室?それならこの先だよ」

シンジはマユミのリクエストで図書室に向かった。
程なく図書館の標識が見えてくる。

「ここだよ。」
「あ、ありがとうございます」

図書室に着くなりマユミは本を物色し始めた。
そんな様子をシンジは興味深そうに見ている。

「・・・本好きなの?」
「ええ、とっても・・・」

そういいながら視線は本から離れない。
どうやら本心から好きなのだろう。

「本は…人を傷つけませんから…」
「……」

そこにどんな意味が込められているのかシンジはわからなかった。

---------------------------------------------------------------

「シンジぃ〜今日はどうすんの?」

放課後のホームルームが終わるとアスカがシンジに話しかけてきた。
他の皆も一緒だ。

今日はネルフの訓練もない。
理由は簡単、昨日消えてしまったとはいえ使徒戦があったのだ。
ネルフは後始末で忙しい。

シンジ達の訓練や実験どころではない。

「ゲーセンなんかどうだ?シンジ?」
「おお、そうやな!!新しい筐体が入ってるんや」

ケンスケとトウジがシンジをゲーセンに誘うが…

「悪いけれど今日はパス」
「え?」
「やんなきゃいけないことあるんだ…」

そういうと彼女が教室を出て行くのを横目で確認して自分もかばんを持って教室を出る。

「「「「「「「「怪しい…」」」」」」」」

---------------------------------------------------------------

シンジはマユミを尾行していた。
理由はいうまでもないが使徒の動向だ。

もし人の間を移動するようなタイプだったら被害が広がる恐れがある。

(映画の”エイリアン”のような奴じゃない事を祈りますよ)
(それはないと思うがね…やれるならとっくに学校でやっているさ)

人から乗り移るとすれば学校のような人が大勢固まっている場所で実行しない理由がない。
感染のように広まっていくタイプではないのがせめてもの救いだ。
その中心であるマユミだけはすくわれないが・・・

シンジの尾行は続く
前を歩くマユミは当然シンジに気がついていない。
程なくマユミはとある店の前で足を止めた。
どうやら書店に立ち寄るようだ。

(本当に本が好きなんだな・・・)
(物語というのはそれだけで一つの世界と言える。案外彼女はこの世界に不満があるのかもしれないな…)
(不満ですか…)

図書館で言ったマユミの言葉が思い出される。
不満を抱かずに生きている人間のほうがまれなのは間違いのないことだが・・・彼女の不満とはなんだろう?
やがて書店からマユミが出てきた。

「ワァァァァァァ」
(?…なんだ?)

いきなりの泣き声にシンジが見ると小さな男の子が泣いていた。
マユミの方に歩いていく。

「ど、どうしたの?」

目の前で泣いている子供をほうって置けなくてマユミが話しかけた。

「う、ううう」
「泣いてないで話してくれる?」
「う〜お財布落としちゃった〜」

そう言ってまた泣き出す子供、マユミも困っているようだ。
周囲を見回すが大人たちは関わるのを避けて視線をそらして歩き去っていく。

「大事なものなの?」

子供はぐずりながら頷く。
財布をなくしたというのは問題だ。
子供だけに大金が入っていたわけでもないだろうが大人にとってはわずかでも子供にとっては大金と言うことはある。

「そう…どこで落としたかわからない?」
「わからない・・・」
「…そう」

マユミは少し悩んだ後、子供の目を覗き込んだ。

「…それは今日落としたの?」
「うん」
「どのくらい前?」
「さっき…」
「形とか色とかいえる?」
「うん、青い色で熊さんの形をしてるの〜」
「そう・・・」

しばらく見詰め会うとマユミは一旦目を閉じた。
どこか疲れているような印象を受ける。

「ユウタ君?」
「え?ぼくのお名前知ってるの?」
「…あなたのお財布はさっき座ったベンチにあるわ、ポケットから取り出したときに自分で置いたでしょ?」
「う〜んそうなの?」
「ええ、すぐに行ったほうがいいわ」
「ありがとうおねえちゃん」
「いいのよ、でもひとつだけお願いがあるの…」

マユミの声が他の人に聞こえないくらい小さくなる。
同時にその瞳がユウタと呼ばれた少年の瞳を覗き込んで・・・

「なに?おねえちゃん?」
「”私にあった事は忘れて”ね」

そう言うと男の子の瞳が一瞬震える。
何か放心したようになったユウタにマユミは笑いかけた。

「さ、早く行ってらっしゃい」
「…うん」

ユウタは何か大事な事を忘れてしまったような感覚を味わったがそのままマユミに聞いたとおりベンチに引き返す。
そのときにはすでにマユミに会った記憶は消えていた。

「何だ今の?」

物陰から見ていたシンジはさっきのマユミの行動になにかの違和感を感じた。
傍目にはただ泣いてる子をあやしただけに見えるがそれだけではないように思える。

(…驚いたな…彼女もか?)
(え?って事はまさか能力者なんですか彼女?)
(多分ね)
(参ったな…)

それはいろいろな意味でまずい。
使徒だけでも厄介なのに能力者とは・・・迂闊に近づいていいかどうかすらわからない。

(とりあえずそれを確かめるのが先決だよ)
(わかりました)

シンジは再びマユミが歩き出すのに気づかれないように尾行を続ける。

(やっぱり使徒のせいですか?)
(断定は出来ないな…まず彼女が能力者だという証拠がほしい)

確かに正論だ。
願わくばどんなタイプの能力か分かれば・・・

その時シンジはあることに気がついた。

(…あるじゃないですか…)
(何がだい?)
(確かめる方法、ひょっとしたらどんな能力かもわかりますよ)
(それは?)

シンジはかばんを開けて中に手を入れる。

『けっ、やっと外に出れたぜ!!』

取り出したのはエジプト十字架、アンクだった。
言うまでもないがエンブリオだ。

首にかけておくわけにも行かないのでかばんに放り込んでいた。
万が一にも声が聞こえる人間にエンブリオの声を聞かせるわけには行かないし聞かれたら聞かれたで大変だ。
少なくとも使徒と同じ存在であるレイと歪曲王が発現しているアスカにはエンブリオの声が聞こえる可能性が高い。

シンジはにこやかにエンブリオに話しかける。

「ちょっとお願いがあるんですけれど?」
『ん?シンジがそんなこと言うなんて珍しい事もあったもんだ。』
「ぼくの代わりにあそこの女の子に話しかけてくれません?」
『そりゃまたなんでだ?』

シンジのマユミを見る目がほそまる。

「彼女は能力に目覚めてる可能性があります。」
『ほ〜う』
「しかも彼女の中に使徒が間借りしているみたいなんですよ」
『無断借家かぁ〜?ヒヒヒッ』
「笑い事でなくお願いします。」

言葉と共にシンジはアンクを首にかけた。

『しっかしそんなことしてなんになる?』
「彼女の能力が使徒が体に入った事で発現したものならその力ごとどうにかしなきゃなりませんからね」
『な〜るほどな』

シンジは物陰からマユミをじっと見る。
周りに人がいなくなるのを待って物陰から出てマユミに近づいた。

「山岸さん?」
「え?碇君?」

いきなり知った顔が現れたことでマユミが戸惑った顔になる。

『ヒヒヒッ、ネーちゃんかわいいね〜おじさんと遊ばない?』
ブチ!!

シンジは胸のエンブリオの紐を引きちぎると問答無用で近くの電柱に投げつける。

キン
『おわ!!』

澄んだ金属音と共にエンブリオが地面に転がった。
さらにシンジは地面に落ちたエンブリオを簡抜をいれずに駆け寄って踏んだ。
しかもぐりぐりと踏みしめる。

「あんたは親父か…?」
『シ、シンジ!!何すんだ!?』
「なんだじゃないでしょ…」
『引導渡そうって言うのかよ!!』
「大丈夫、このアンクは一枚の鉄で出来てます。単純なだけに壊れたりしません。」
『っていう〜と?』
「余計なこと言うあんたを踏みつけたいだけですよ」
『せ、殺生な!言われたとおりにしただけじゃあね〜か!!』

シンジの顔に邪悪な笑みが浮かぶ。
その額の怒りマークは目の錯覚じゃあるまい。
いきなりの事に引いてしまっていたマユミが復活した。

「あ、あのシンジ君?」
「え?」
「さっきから誰と話してるの?」

その言葉に一瞬だけシンジの顔色が変わるがすぐに元に戻る。
ここでぼろは出せない。

「こ、これはね、腹話術の練習、もうすぐ文化祭近いし…」
「そ、そうなんですか?」

マユミはどうも不審げだ。
まあいきなりこんなことを言われれば当然なのだが・・・
シンジはきつい言い訳を何とか笑顔で押し通す。

「そ、それより山岸さん?」
「は、はい?」
「そろそろ帰らないと日が暮れちゃうよ?ここ人通り少ないし…」
「そ、そうなんですか?」
「うん、暗くなる前に帰ったほうがいいよ。」
「わ、わかりました。じゃあ碇君さようなら…」

シンジはマユミの後姿に手を振りながら見えなくなるまで見送ると足の下のエンブリオを拾う。
・・・実はずっと踏んでいた。

「で、わかりましたか?」
『…お前もかなりいい性格してるよな…』
「誉めてくれてありがとうございます。それで?」

問答無用らしい。
エンブリオの言葉など聞く気はないようだ。

『…まあいいか、あの嬢ちゃんは黒だよ。』
「やっぱり…」
『しかも使徒のせいじゃねえ、天然物だ。』
「…能力は?」

シンジの声が低くなる。
それが一番重要だ。

『他人の記憶を”読む”みて〜だな、しかもそれだけじゃあねえ、ある程度”記憶を消したり書き足したり”出来るみて〜だな。』
「記憶の捏造ですか?」
『ああ、まあ記憶にしか働かね〜みて〜だから感情や思想なんかには影響しね〜よ』
「……」

とりあえずマユミには使徒は直接影響してないとわかってほっと一息つく
場合によってはマユミを世界の敵として処理しなければならなかったのだ。

シンジは無言でマユミの去っていった方向を見る。

(…という事は偶然なんでしょうか?)
(どうかな、彼女の力に使徒が引き寄せられたのかもしれない)
(使徒が人に?)
(ありえない話じゃないだろう?)
(……)

ブギーポップの言葉を聞きながらシンジは眉根を寄せる。

実際の所、何にも状況は進展してないのだ。
彼女の中に使徒がいる限り最悪、彼女ごと……などという気はまったくないが他に打開策がないのも事実だったりする。

「ど〜したもんかな…」

シンジはマユミのことを考えていて、ブギーポップはただでさえマユミの体をフィルターにしていて感じにくい使徒の気配に集中していたため気づけなかった。

自分の背中に突き刺さるジト目の視線に…

---------------------------------------------------------------

マユミが転校してきた次の日…
その昼休みにシンジは屋上にいた・・・・・・・・・・・正座して・・・・・・・・・

彼を中心に仲間達が立っている。

まず正面にアスカを中心にヒカリとマナが左右にいる。
左にはケンスケ
後ろにはムサシ、ケイタ、トウジ、レイが並んでいた。
右側は……無人だ。

どういう状況なのかと言うと……

裁判官
惣流・アスカ・ラングレー、洞木ヒカリ、霧島マナ

検察官
相田ケンスケ

傍聴席
ムサシ・リー・ストラスバーグ、浅利ケイタ、鈴原トウジ、綾波レイ

弁護士
……………なし

アスカがコホンと一回せきをして話し始めた。
なぜか重い空気が立ち込めたように感じるのは気のせいじゃないはず・・・

「ではこれより開廷します」
「異議あり!!」
「被告人の発言は許可されていません」
「裁判長!一体何の罪で裁かれるんでしょうか!?」
「自分の胸に聞きなさい」
「しかも弁護士なしなのはWhy?」

昼休みになると同時にシンジは拉致されてこの法廷に引っ張り出された。
どうやら昨日自分もつけられていたらしいと気づいたのはさっきだ。

屋上に上がってきた生徒たちはど真ん中で開催されている異様な裁判に回れ右をして帰っていくために彼ら以外屋上に人はいない。
ちなみに裁判官が3人なのは高裁以上の刑事裁判の形式だったりする。

「検察官!!」
「はい!!」

アスカの言葉にケンスケが勢いよく答える。
メガネが異様に光を反射していて不気味だ。

「被告人、碇シンジは昨日転校生の山岸マユミに対しストーキング行為を働き、しかもいきなり彼女を怯えさせました。罪名、罰状、ストーカー禁止法」
「ちょっとまてや!!」

シンジの言葉を聞く奴はいなかった。

「判決!!死刑!!!」
「何だよそのスピード判決は!!自己弁護なしか!?」
「うっさい、アンタ見そこなったわ!!」
「聞けよ!!ぼくの話!!」

シンジの言葉にアスカがそっぽを向く。
代わって両隣のヒカリとマナがズズイ〜っという感じで前に出てくる。
二人の表情は対照的だ。

「い〜か〜り〜くん!不潔よ!!」
「シンジ君…私ならいくらでもつきまとってくれてよかったのに…」

ヒカリの怒りの声とマナの言葉にシンジは肩を落とす。
これだけは言える・・・裁判官の意見は一致しているらしい。
救いがない。

「せ、せめて陪審員制度を…」
「ほう…」

シンジの言葉にアスカがニヤリと笑う。

「じゃあシンジが有罪だとおもう人は手を上げて」

同時に・・・8本の右手があがった。

「う、裏切り者〜…ってレイもなの?」

シンジの驚いた声にレイがそっぽを向く。
何かいろいろなものがガラガラと音を立てて崩れていく・・・ああ・・・無常・・・

「…もういいや、とりあえずはそういうことにしといて」
「あら?認めるの?」
「…いろいろと忙しいんだ。ちょっと面倒な事になりそうだし」

その言葉を聞いたアスカとマナの瞳がギラリと光る。
次の行動まで一瞬の躊躇もない。

「ムサシ!ケイタ!」
「「は、はい?」」
「シンジ君を捕まえて!!」
「「り、了解」」

マナの剣幕に慌ててシンジの両腕を押さえる。
あわてたのはもちろんシンジだ。

「え?ち、ちょっと?」
「そのままついてきて!」
「「り、了解!!」」

マナの指示のもとシンジが拉致られた。
両腕を掴まれたシンジが捕獲されたエイリアンのごとくマナを先頭に連れ去られる。

「え?マ、マナさん?」
「ヒカリ、悪いけれどまた今度ね、行くわよレイ!!」
「…わかったわ」

アスカもヒカリに短く言うと屋上から駆け出した。
その後ろをレイがついていく。

「な、なんなんや?」

トウジの呟きにケンスケとヒカリも同じ思いだった。

---------------------------------------------------------------

「なんなんだよいったい!?」

シンジは体育館の倉庫に連れこまれていた。
半円状に周囲を固められた状態で目の前にアスカが仁王立ちになる。

「…なにがあんのよ?あの子に?」
「……なんのことさ?」
「とぼけんじゃあないわよ。またなんかあんでしょ?」
「別に、根拠でもあるの?」
「女の勘よ」
「それはそれは…」

シンジはとぼけるが他の皆は真剣だ。
シンジが何か隠していることに全員が気づいている。

「また一人で何でも抱え込むつもり?」
「マナ?」
「そんなに頼りないかな私達…」
「それは…」

違うと言いかけてやめた。
シンジがマユミの事を黙っている時点で当てにしてないと言う事と同意なのだから……

「シンジ君?」
「レイ?」
「おしえて…」
「でも…」

レイはシンジが答えるより早く首を振って拒絶した。

「シンジ君だけにつらい事を背負ってほしくない…」
「……」
「私達にも背負わせてほしいの…」

周りを見まわすと皆うなずいている。
シンジの口から肺の空気をすべて吐き出すような重いため息が漏れた。

「…しょうがないな」
「あんたがなんでも一人でやっちゃうからでしょうが!!」
「そうかもね」

シンジは苦笑して話し始める。

「彼女、山岸マユミさんはぼくとおなじ能力者だ。」

皆が唖然となる。
予想外の答えだ。
アスカが震える声で聞く。

「ほ、本当なのそれ?あの子もあんたの…なんって言ったか…」
「【canceler】?」
「そう、それ!!」
「ぼくとは違うタイプだけれど彼女が能力者なのは間違いない」
「じ、じゃあ地下の奴のように危ない奴なの?」

沈黙が落ちる。

シンジが皆に話したのは特殊な能力をもつ存在がいる事と自分やブギーポップのことだけである。
統和機構や合成人間の事を詳しく話してはいなかった。
さすがにそこまで引っ張り込む事は出来なかったのだ。
地下で戦っていたのはマリオネットもフォルテッシモも人間の能力者といっている。
両方とも工作が目的でネルフに侵入したと言いくるめるのに少し骨を折った。

「いや、彼女の能力はそういったものじゃないみたいなんだ。積極的に関わらない限り問題はない。」
「え?じゃあ何でそんなに気にすんのよ?」
「……彼女の中におととい現れた使徒の本体がいる。」

シンジの気配が変わった事と言った事の内容に緊張が走る。

「あんた・・・死神ね?」
「ご名答、わかってきたじゃないか?」
「フン、お世辞はいいわ。それよりさっき言ったことはどういう意味なのよ!?まさかあの山岸マユミって子が使徒なの?」
「いや、どこでそうなったのかは知らないが彼女の中に使徒の本体が潜伏している。」
「・・・つまり寄生してるって事?」
「まあそんなところ」

それで会話は途絶えた。

---------------------------------------------------------------

山岸マユミは図書室にいた。
適当に選んだ本を読んでいる。

彼女が自分の能力を自覚したのはやはり本を読んでいたときだった。
不意に本から視線を上げたときに他の人と目が合ってしまいそこからその人物の記憶を読んでしまったのだ。
そこからが大変だった。

自分で能力を制御できるようになるまで無差別に記憶を読んでしまったのだ。
他人の記憶など本人以外が読んでいいものじゃない。
知りたくない事、知らなくていい事、知ってはいけない事を知ってしまう事は彼女には重かった。

さらに他人の記憶は膨大過ぎてそのまま読むと自分と相手の記憶が混ざって発狂してしまうため相手に質問して知りたい記憶に意識を向けさせる事で必要な記憶を読む。
相手がこちらの言葉を理解できる限りこのやり取りは有効だ。
しかも、逆に自分の瞳から相手に嘘の記憶を流して記憶を上書きしたり、自分の取り込んだ記憶を消去して送り返す事も出来る。

カチャ

マユミはメガネをかけ直した。

このメガネはそんな彼女の能力の安全装置だ。
遠視用の度が入っているがそれ以上に重要なことがある。

マユミはこの能力を使うときに相手の瞳から記憶を読む
そのためかどうかわからないがメガネを通すと能力が使いにくくなるのだ。
意識的に見ようとしない限り、少なくともメガネごしなら無遠慮に他人の記憶を覗く事は無い

そうやって自分のものにした能力を彼女は【The Index 】(禁書目録)と呼んだ。

「ふう・・・」

マユミがため息をつく
彼女はこの能力が嫌いだ。
他人の領域に無遠慮に入り込んでしまう
それはのぞきよりたちが悪い
唯一の救いはこの能力が事実にしか効かない事だろう
それが事実ならばたとえ本人が忘れていてもその記憶を読み出すことが出来る。
しかし感情などはダメだ。
その時本人がどんな思いでそれをなしたかどうかはわからない。
そしてそれは本人だけが知っていればいいことだと思う。

マユミはふと一人の少年の事を考えた。
自分を助けてくれた少年・・・
物語の主人公とヒロインのようだと思うがあのような劇的な出会いもあるまい。
だがそれだけでなくなぜか妙に魅かれる・・・
小説で言うところの恋なのかもしれない・・・

そこまで考えたときにマユミの顔が真っ赤になってしまい、あわてて本に視線を落とす事で隠した。

「どう?」
「う〜ん」

図書室の扉に隠れながらマユミを見ているのはアスカとマナだった。
レイが隣に立っていたシンジに話し掛ける。

「ねえ?シンジ君、本当に山岸さんの中に使徒がいるの?」
「間違いはないよ。ブギーさんのお墨付きだからね」
「そう…」

レイはシンジの答えにうつむいた。
自分も使徒である彼女にとっては他人事ではない。

「やっぱりネルフに教えて検査してもらったほうがいいんじゃないかな?」

ケイタがおずおずと発言するがシンジはため息をつくだけだ。

「却下」
「な、なんで?」
「ぼくはネルフを信用してはいない。トップがあれだしね」

シンジの言葉にムサシが反論する。

「でもなシンジ、結局はそれが彼女のためじゃないか?このまま使徒に体の中に居座られるよりは・・・」
「逆だよ、彼女のためにネルフには言わない」
「なぜだ?」
「使徒のサンプルがほしいって言って火口に潜らせるような連中だぞ?目の前のサンプルを放っておくわけ無いだろう?これ幸いに何するかわかったもんじゃないよ」
「「「「「……」」」」」」
「…彼女をモルモットにはしたくない」

それはたやすく予想できる事だった。
全員がシンジの意見にうなづく。

「しかも彼女の能力に気づかれるとさらにまずい」
「なんなの?」

レイがシンジに不安げな視線を送る。

「どうやら彼女…記憶を読めるらしい」

全員が息を飲んだ。
それは彼女に対して隠し事が出来ない事を意味する。
特にシンジなどは秘密の塊だ。
ゲンドウ達ならシンジの秘密を知るために彼女の能力を使う事は間違い無い。

「シンジ?あんたの能力でもどうにもならないの?結構なんでもありなんでしょう?」
「…無理、ぼくの能力は自分以外に影響を与える時にはそれに触らないといけない。解剖でもして使徒を外に出さないと影響を与えられない」
「…死神の奴はどうなのよ?」
「無理だね」

シンジからブギ‐ポップの顔になる。

「彼女の体がフィルターになっているから使徒の位置が特定できない。下手に彼女に手は出せないよ」
「…つかえないわね」
「面目無いね」

アスカの言葉を軽く流すとブギーポップに変わって再びシンジが出てきた。

「とにかく様子を見るしかないよ」
「でもシンジ君一人じゃ…」

マナが不安げな声を出す。
確かにその通りだ。
シンジはエヴァパイロットとしての訓練などもある。
四六時中マユミについているわけには行かない。

「…そうだね、マナ?」
「なに?」
「付き合ってくれる?」
「…え?」

予想してなかった言葉に一瞬マナが呆けるが…

「よ、よろこんで!!!!」
「ちょっとバカシンジ!!こんなときに何言ってんのよ!!!」
「何勘違いしてるか大体わかるけれど山岸さんの監視だよ」
「「あ…」」

考えてみれば当然だ。
アスカとマナは顔を赤くしてそっぽを向く。

「…とにかく山岸さんに対しては対症療法しかない。」

シンジはそう言うと皆を見まわした。

「……力を貸してくれるかい?」

全員がしっかりと頷いた。






To be continued...

(2007.07.07 初版)
(2007.07.21 改訂一版)
(2007.10.06 改訂二版)


作者(睦月様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで