天使と死神と福音と

禁書目録
偽神之章 〔封じられし神話〕
V

presented by 睦月様


マユミが転校して来て数日が経った。
その間使徒は現れず穏やかな日々が続いている。

あくまで表面上は・・・

「・・・っと言う事なんだよ」
「・・・厄介すぎるな・・・」

保健室で凪とブギーポップがマユミのことを話していた。
一応、凪は保健医で仕事時間中なので白衣を着ている。

「しかし、惣流達に話してよかったのか?」
「仕方ないよ、僕だけじゃ限界あるしね、正直、数があるのはありがたい」

凪は息抜きのために備え付けのコーヒーメーカーから二人分のコーヒーをついで片方をブギーポップに渡す。

「まあそうだがな、しかしその山岸という生徒は記憶を読むんだろう?知りすぎてると読まれたときにまずくないか?」
「彼女の能力は大まかな事しかわかってないから予防のしようがないんだよ。」
「・・・頭の痛いことだ」
「まったくだね。」

シンジと凪はカップの中のコーヒーを一口含んだ。
正直話が進まない・・・使徒をどうにかする方法がないのだ。
しかも彼女は自分たちの記憶から自分の中に使徒がいる事実を知ってしまうかもしれない。

地雷原でタップダンスを踊っている気分だ。

「今は霧島さんに頼んで山岸さんを見てもらっている。」
「女同士が警戒されにくいか?」
「ああ、男だといろいろとね・・・」

シンジに言われたマナはマユミに親しげに話しかけて何かと世話を焼いている。
最初は戸惑っていたマユミだがマナの明るい性格に感化されたのか徐々に心を開き始めていた。

しかし・・・一番問題であるマユミの中の使徒はいまだ何の動きも無い。
油断するわけには行かないが…打つ手もない。
八方塞だ。

「話はわかった。出来るだけの事はしよう」
「頼むよ」

ブギーポップは椅子から立ち上がって出口に向かう。

「おそらくまた使徒は動き出すだろう。その時、僕はエヴァの中にいる。」
「わかっている。山岸と言う女生徒の事はまかせておけ。」
「すまないね」
「なにをいまさら」

二人はそろって苦笑した。
ほんとうにいまさらだ。

ブギーポップが扉に手をかけたところで動きを止める。
後ろの凪を振り返らず言葉をつむぐ。

「最悪の場合覚悟する必要があるな・・・」
「・・・必要ない・・・」

短く言葉を交わすとブギーポップは今度こそ保健室を出て行った。

ブギーポップの言う覚悟・・・それは方法が見つからなければ使徒をマユミごと殲滅すると言うことだ。
もちろん凪はそんなことをさせる気はないが同時に分かってもいる。

ブギーポップがやるといった以上・・・そのときが来ればあの死神は容赦をしないということを・・・

---------------------------------------------------------------

「地球防衛バンド?」
「そうだ、もうすぐ文化祭だろ?そのときの出し物にさ!」

シンジはいぶかしげな顔で目の前のケンスケを見た。

確かに文化祭が近いのは本当だし、まだシンジが何をするかは決まっていないのも事実だ。

「バンドか…」
「楽器とかは何とか都合が付きそうなんだ。それで…」

そう言ってケンスケは近くにいるマユミを横目で見る。
最近ケンスケはマユミに視線を向けていることが多い。
レンズごしではなく・・・

(…そういうことか…)
「マナ?山岸さん?一緒にどう?」
「「え?」」

シンジの言葉にマナとマユミが驚く。
いきなりバンドに誘われてびっくりしたようだが、話を理解したマナの顔に笑みが浮かぶ。

「おもしろそうね!!」
「マ、マナさん、わたしは〜」
「女の子が混じっていたほうが花があるとおもうんだけれど?」

シンジの言葉に横でケンスケが拝むような顔でシンジを見てる感謝しているようだが…むしろ怖い

結局バンドはマナが押し切るかたちでマユミの参加も決まった。

ケンスケが「せっかくだからマナとデュエットしたら?」と言った。

本心がみえみえな条件だが問題なく了承、どうやらマナもケンスケの本心に気がついたらしい。
と言うよりあからさまにマユミを見る視線が違えば気がつく・・・どうやらマユミだけは気づいていないらしいが・・・もちろんマナがこんなイベントを見逃すはずは無い。

---------------------------------------------------------------

「……どういうこと?」

アスカが理解できないと言う声でシンジに聞く。
シンジの顔もアスカと同じように理解できていない顔だ。

「それはこっちが聞きたい。何でアスカとレイまでここにいるんだよ?」
「いちゃ悪いの?」
「いや別にそういうことじゃないんだけどさ」

シンジ達がいるのは音楽室、バンドの練習のために集まったのだがなぜかそこにアスカとレイ、さらにムサシとケンスケも混じっていた。

「惣流達も誘ったらOKやったんや」
「トウジの仕業か…」

どうやらいつのまにかデュオじゃなくてカルテットになったようだ。
まあ・・・それはそれで面白いかもしれない

「委員長は誘わなかったのか?」
「ああ、なんかクラスのほうでやる喫茶店のほうに手伝いにいっとるわ、委員長の料理の腕は戦力やからな」
「なるほどね」

シンジは納得した。

クラスの出し物のことは気になっていた。
文化祭でやるバンドのほうに集中しなければ間に合わない。
だからクラスの喫茶店を手伝えないことが申し訳なかったのだがヒカリが仕切るなら問題あるまい。

家事万能の彼女がいれば問題ないだろう。
むしろいなければ滞るはずだ。

「さて、始めるか・・・」

まずは基本的な役割分担
アスカ、レイ、マナ、マユミの四人がボーカル
トウジとムサシがギター
ケンスケがベース
ケイタがドラム
シンジがキーボード
となった。

女の子達の歌の伴奏を男5人でする形だ。

「そう言えばシンジ、バンドを指導してくれるって人は誰なんだ?」
「ぼくも知らない」

ケンスケの言葉にシンジも首をひねる。

ミサトにバンドの話しをしたところ詳しい人がいるから教えてもらったら?と言われたのだ。
記憶に間違いが無ければそろそろ来るはずなのだが…

「おまたせ〜」

音楽室の扉を開けて入ってきたのは青葉だった。
肩にギターケースをひっかけている。

「青葉さん?もしかしてミサトさんの言っていた詳しい人って青葉さんのことなんですか?」
「うん、葛城さんにお願いされてね」

青葉はギターケースからギターを取り出す。
マイギターを持っていると言う事は見た目どおりバンドの経験があるのかもしれない。

「さて、じゃあはじめようか?」
「「「「「「「はい」」」」」」」

シンジ達はそれぞれの楽器や歌の練習に入った。

そして…………一週間が経った。
その間、青葉の指導の下、何とかバンドは形になり明日の文化祭を控えている。

「皆大分うまいくなったじゃないか、こりゃあ教える必要無かったかな?」
「そんな事ありません、すごく助かりましたよ」
「そう言ってもらうと嬉しいな。」

シンジの言葉に青葉が笑いながら照れた。
彼としても満更じゃない様だ。

「すごいじゃないマユミ!」
「そ、そんな…」
「まさかこんなにうまいなんてビックリよ」

マナとアスカがマユミのことを誉めている。
案外そっち方面の才能があったのかもしれない。

4人の歌がいい感じに合わさっていたとおもう。
ボーカルは何とかなりそうだが、そうなると逆に無様な演奏も出来ない事になる。
シンジは苦笑してもう一度自分のパートをおさらいしようとした。

「え?そ、そん…な……」

急に・・・本当に唐突にマユミが胸を押さえて苦しみ出した。
立っていられないらしく蹲ってしまう。

「ち、ちょっとどうしたの!!」
「む、胸が…」

シンジ達も慌てて駆け寄る。

その時、シンジ達の携帯が鳴った。

「シンジ君!」

青葉の鋭い言葉が緊張を生む。
その着信音は一つの事実を伝えていたからだ。

……使徒の出現……

シンジは胸に手を当てて苦しむマユミとそれを支えるマナを見る。
おそらく無関係ではあるまい・・・だとすれば・・・

「シンジ君…」

マナはシンジの顔を見ながら無言で頷いた。
ここは任せろと暗に語っている。

実際シンジがここにいても出来ることはなかった。

「…たのむ…」
「わかってる」

その言葉を聞いたシンジはアスカとレイの顔を見る。
2人とも思いは同じだ。

シンジは頷くと立ち上がって駆け出した。
戦場へ……

---------------------------------------------------------------

『この使徒は前回と同じ奴よ。どうやら倒しきれていなかったらしいわ』

通信でミサトの声が苛立っているのがわかる。

だがシンジ達はほとんど聞いてはいなかった。
実際問題としてこの使徒に対する打開策が無いのだ。
本体はマユミの体の中にいてさらにシェルターの中…まさか彼女を犠牲にするわけにも行かない。
……ジレンマだ。

『エヴァ各機!発進!!』

ミサトの声とともにもうなれた感のあるGが襲ってきてシンジ達は地上に打ち出された。

地上に出たシンジ達が見たのは前回と同じ姿の使徒だった。
あいかわらず光るリングが縦に並んでいる。

勝利条件が不明なまま戦闘は第二ステージに突入した。

---------------------------------------------------------------

「大丈夫?マユミさん」
「ええ・・・」

本人の言葉とは裏腹にあまり大丈夫そうには見えない。

マユミとマナだけでなく全校生徒はまだ学校にいた。
本来ならばシェルターに行くべきだが今回の使徒はいきなり町のど真ん中に現れたのだ。
そしてシェルターは学校より町に近い場所にある。

こんなときに率先して誘導する教師たちは使徒に接近する危険とシェルターの安全性のどちらをとるべきかで混乱していた。

「霧島?」

自分の名前を呼ばれてマナが振り向くと白衣を着た凪がいた。
事情はすでに把握しているらしい。
無言でマナに近づいてくる。

「・・・どうだ?」
「あまり良くは・・・」
「そうか・・・」

凪は頷くとマユミに近づいていって脈を取る。
事情を知る凪からすればこんなことに意味は無いが少しでもマユミを落ち着かせたい。

「安心しろ、保健医の霧間凪だ」
「保健の先生ですか?」
「そうだ気分はどうだ?」
「あまり良くは・・・」
「そうか・・・」

凪は一旦マユミから離れる。
マナが凪に近づいてマユミに聞こえないように小声で話しかけた。

「凪先生・・・」
「シンジから話は聞いている。体調的にはこれといって問題ないようだがおそらく使徒の影響だな・・・」

二人はそろって外を見る。
その先ではシンジ達が戦っているはずだ。

---------------------------------------------------------------

「くっそ・・・」

初号機の中でシンジがうめく
やはりまともな攻撃は効かない。

『シンジ君、兵装ビルで援護するわ!!』

ミサトからの通信と共に近くの兵装ビルからミサイルが飛ぶ

ズドドドド!!

全弾が命中して煙があがり、使徒の姿が見えなくなった。

『やったの?』

アスカから通信が入るがシンジは油断なく距離をとる。
この程度でどうにかなるならここまで苦戦していない。

(実際なんなんですかこいつ?えらくタフですけど防御に特化した使徒?)
(いや、違うだろうね。寄生する事に特化しているのかとおもっていたけれどそうじゃないらしい)
(それじゃあなんですか?)
(さっきからこの使徒の気配が変わっている・・・おそらく・・・)

その時、使徒に変化がおきた。

『な、何?』

レイのあわてた声が通信機から聞こえた。

シンジも同じものを見ているからその驚きは理解できる。

使徒が今までの姿を変え始めている。
リングの部分が一箇所に集まって回転し始めたのだ。

『え?な、何?』

アスカも状況についていけてない。

やがて変化は終わり、そこにあったのは黒い楕円形の何かだった。

「な!」
(やはりそういうことなのか・・・)
(な、なんなんですか!?)
(あの使徒は・・・)

空中に浮かぶ黒い卵状の使徒は”今のところ”変化していない。

(・・・進化に特化している)

ブギーポップの言葉にシンジは寒気を覚えた。

---------------------------------------------------------------

「くう!」

マユミがうめいた。
使徒が変化した事によって何かの衝撃が彼女を襲ったようだ。

「マユミ!大丈夫!?」

マナがあせった声を出した。
マユミは脂汗を流している。
かなり苦しそうだ。

カシャン

マユミが身をよじった拍子にメガネが外れて床に落ちる。

「大丈夫か?」
「すいませ…え?」

凪がめがねを拾ってマユミに渡そうとした瞬間…マユミの顔色が変わった。

「どうかしたか?」

マユミのメガネを受け取った手が震えている。
凪は“マユミの目を見ながら“不思議そうに聞いた。

「…使徒?」
「なに?」
「私に寄生している?」

その瞬間凪は自分の失態を悟った。
目の前の少女は自分の記憶を読んでいる。

「あ…ああ…」
「や、山岸?」

凪が声をかけようとした瞬間、マユミは背を向けて走り出した。

「ま、待つんだ!」
「どうしたんですか!?凪先生!!」
「まずった…どうやら俺の記憶を読まれたらしい…」
「そんな!!」

2人は走り去ったマユミを追いかけて走り出す。
それを見たムサシとケイタがあわてた。

「どうしたんだマナ!!」
「なにかあったの?」
「ムサシ、ケイタ、手伝って!!」
「「わ、わかった」」

普通じゃないマナと凪の様子にただ事じゃない事が起こっている事を悟ったムサシとケイタが二人に続いて走り出す。

---------------------------------------------------------------

「ハアハア・・・」

意表をつかれた凪達を引き離したマユミは女子トイレに逃げ込んでいた。
目の前には鏡がある。

「・・・・・・よし・・・」

意を決して鏡の中の自分と視線を重ねる。

その瞬間、マユミの中に流れ込んできた記憶・・・
第三新東京市に向かっていた電車の中・・・
いきなり窓の外に現れた光・・・
そして次の瞬間自分の中に入り込んできた何か・・・

マユミは口元に手を当て後ずさった。

おそらく入り込んだ使徒が何かしたのだろう。
マユミ自身にはこの記憶は覚えがない

しかし【The Index】は事実しか伝えない。
たとえ本人が忘れた記憶であっても読み取る事が出来る。

それゆえに伝える真実は善も悪もない純粋な真実・・・

「あ・・・あああああああ・・・」

さっき読んだ凪の記憶からシンジがこの事を知って何とかしようとしていた事も断片的に知っている。
メガネをかけていなかったため制御も出来てはいない状態だったためすべてが読めた。

「シ・・・シンジ君・・・」

マユミはよろよろと・・・青い顔でトイレから出て行った。

---------------------------------------------------------------

「・・・どこに行ったんだ・・・」

凪はマユミを探しながらぼやいた。

完全に油断した。
おそらくメガネが彼女の能力を抑えていたに違いない。
それが外れたときに不用意に近づいてしまったのは自分のミスだ。

「霧間先生!!」
「?、相田?」

凪の名前を呼んだのはケンスケだった。
かなりあわてている様子を見た凪にいやな予感が走る。

「どうした?」
「マユミさんが!」
「なに!?」
「学校を出ていちゃったんです!!」
「・・・相田、この事は誰にも言うな・・・」
「え?」
「山岸を連れ戻してくる」
「ぼ、ぼくも行きます!!」
「・・・悪いがお前の面倒を見る余裕はない、お前はここにいろ」
「そんな・・・」

ケンスケの言葉を無視して凪はまた走り出した。
実際今の凪のどこにも余裕はなかった。
マユミの居場所は大方の予想がつく。
おそらく使徒の近くのどこか・・・ケンスケまで連れて行くことは出来ない

「凪先生!」
「霧島か」

マナたちが凪に気づいて追いかけてくる。

「山岸の居所が割れた。連れ戻してくる」
「私達も行きます!!」
「死ぬぞ?」
「死にませんから大丈夫です。」

その言葉にムサシとケイタも頷く

「物好きな奴らだ・・・」

そう言いながら凪は自分も当てはまるとおもって苦笑した。

---------------------------------------------------------------

「どうなってんのよあれは!!」

ミサトは発令所のモニターに映る映像を見ながらうめいた。

そこには黒い卵のような形の使徒が映っている。
しかも針のような形の触手を周りのビルに突き刺して体を固定しているようだ。

「…どうやらあれは実体じゃないわね…」

ミサトが声の方向を見るとリツコがマヤのモニターの情報に眉をひそめている。

「どういうこと?」
「あれはATフィールドを利用した物だって事、おそらく本体は別にいるわね・・・」
「そんな・・・」

ミサトは愕然とした。
それ以上に出来る事がなかった。

---------------------------------------------------------------

シンジは初号機の中で頭を抱えていた。
全然打開策が思いつかない。

『・・・どうするのシンジ?』

弐号機からの通信でアスカが聞いてきた。
彼女も事情を知ってはいるが直接言うわけにもいかないので遠まわしな言い方になる。

(実際こちらの攻撃は効かないし・・そういえば進化に特化してるって言いましたよね?)
(ああ、あの黒い状態、おそらく繭だよ。)
(繭?)
(進化の前段階、今までこちの攻撃を”体験”してたんだろうね、それが進化の引き金になってしまったんだ。)
(・・・さっきまでの攻撃を元にしたってことは?)
(多分、今までの攻撃は効かないよ)

ブギーポップは相変わらずにべもない。
不利な要素がひとつ増えた。

(…シンジ君?)
(山岸さんを犠牲になんてのは無しです)
(しかし手がないよ?)

その時使徒に変化が起こる。
繭が変化を始めたのだ。
みるみる色と形を変えていく

「蝶?もしくは蛾か?」

そこに現れたのは光り輝く蝶の姿だった。

「きれいになって羽ばたくって事かな?醜いアヒルじゃあるまいに・・・」
『何のんきに言ってんの!!』

アスカの叫びが響くと共に使徒が飛んだ。
そのままシンジ達の頭上を越えていく

目の前のエヴァと言う敵を完全に無視していた。

「なに?どこに行く?」

使徒はそのまま飛んでいってある場所で旋回している。

「あそこに何が…あ!!」

シンジは初号機の拡大されたモニターで彼女を確認した。

---------------------------------------------------------------

マユミはビルの屋上の柵を越え、縁に立っていた。
頭上には旋回している使徒が見える。

「これが私の中にいる・・・」

マユミは自分の胸を押さえた。
そこにはっきりと異質な存在を感じる。

使徒が進化したことによって本体の存在感も上がっているようだ。

「山岸!!」

背後からの声に振り向くと凪たちが屋上に出てきていた。

「待つんだ、方法はある!」
「嘘です。そんな方法、先生は知りません!!」


凪は舌打ちした。
マユミはメガネをかけてない。
今のマユミには嘘が効かないのだ。
希望を与えてやることさえ出来ない。

「わたしごと使徒を倒す事しかないんでしょう?」
「だが、お前が犠牲になることはない!!」
「でも!!」

悲壮な覚悟を決めている。
下手に近づくと勢いのまま飛び降りそうだ。

「嫌なんです、人に傷つけられるのも傷つけるのも・・・」
「だから消えるっての!!」

マユミの言葉にマナが叫んだ。
その顔には誰も見たことのない怒りの表情が浮かんでいる。

「だから自分が消えればいいって言うの!!」
「マナさん・・・」
「そんなのは認めないから!!」
「ありがとう・・・」
「え?」

予想もしない言葉にマナが呆ける。

「私のこと、監視してたんですよね?使徒があばれださないように・・・」
「そ、それは?」

凪とマナは今のマユミはすべてを知ってしまっているとわかった。
マユミは軽く笑って続ける。

「…私なんにも知らなくて…こんな私にもお友達が出来たって舞い上がって…」
「そんな…」

マユミの能力は感情を読む事は出来ない。
それゆえに彼女はマナたちのおもいを知る事は出来ない。

「でもいいんです。最後にいい思い出が出来ましたから・・・」
「ダメ!!」

マユミの腕が屋上の手すりから離れる。
マナと凪は必死に駆け寄って腕を掴もうと手を伸ばす

「掴んだ!!」

マナがマユミの手を掴むが走りこんできた勢いで自分も柵を越えてしまう。

「チッ!!」

凪があわててマナを掴もうとするが間一髪で届かない。

「なんで!!」
「このバカ!!」

二人の少女は驚きの言葉と叱責の言葉を交わしてビルの屋上から飛んだ。






To be continued...

(2007.07.07 初版)
(2007.07.21 改訂一版)


作者(睦月様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで