天使と死神と福音と

終之章 〔神児〕
U

presented by 睦月様


「はい?ネルフの支部が占拠された?」
「ええ・・・」
「何処の国の?」
「日本以外の全て・・・」

各国のネルフ支部が何者かに攻撃されて占拠されているらしい。
呼び出されたシンジ達が聞かされたことは一言で言うとそういうことだった。
話の内容が内容なだけに発令所でうかつに話すこともできず、司令執務室に全員が集合していた。
シンジ達はもちろんゲンドウと冬月に加えてカヲルや能力者ということで凪とマユミも同席している。

「どういう事よミサト!?」

このメンバーの中でレイと同じくらい長くネルフに携わっているアスカが一歩前に出て声を荒げる。
占領された支部の中には当然ドイツ支部も含まれていた。
彼女にとって半生を過ごした場所が襲われていると聞けばいい気分はしないのだろう。

「どうもこうも・・・それしかわからないのよ・・・」
「何処の連中の仕業よ!?」
「それもわからないわ・・・」
「そんな!!」

アスカに任せていると話が進まないと判断したシンジが興奮しているアスカの前に出る。

「支部のある国の軍と言う可能性は?」
「それはないわ、嫌な話だけどね・・・」

ネルフ支部にはMAGIコピーと量産型エヴァンゲリオンが存在する。
おそらく襲撃者の目的はそのあたりだろう。
だからこそ支部のある国がわざわざ力で手に入れようとするのはおかしい

ここ数日で各国の支部は散々な状態だ。
幹部連中は夜逃げのごとくいなくなり、責任の所在を明らかにするので手一杯、職員の殆どが辞表を出し、受理されるされないにかかわらず職員達はネルフを離れて退職者となった。
はっきり言ってしまえば支部は組織として最低限の体裁を整える力も無くしていたのだ。
そんなネルフ支部が今後どうなっていくかだが、おそらくその支部がある国が権利を主張するだろう。
なにせ場所を含めていろいろな支援をしてきたのだから当然といえば当然の話・・・つまり彼らは黙っていてもMAGIコピーと量産型エヴァを手に入れる事が出来る。
自動的に手に入るもののために盗賊の真似事をする必要はない。
むしろ支部のある国家は早々に警備という名目の元、人員を派遣しMAGIコピーと量産機を自分達のものと暗に主張していたほどだ。

「それなら余計におかしいじゃないですか?どうせその派遣された人員って言うのは軍関係者でしょう?」
「ええ、当然ね・・・他の国に奪われたり破壊されたら元も子もないもの・・・」
「一国の軍関係者と支部のガード機構を考えればそれを占拠するために結構な人員が必要になります。そんな人数が動いたのに情報も何もなくすべての支部が占領されて襲撃者は不明なんて信じられませんよ。」
「それが・・・どうやら少数精鋭での事らしいのよ・・・多分」
「・・・・・・それって・・・」

シンジには思いつく事があった。
数日前に同じ事を自分達がやったのだ。
そしてそれが出来る存在など他にいくつも無い。

「合成人間・・・統和機構がそんな事をするメリットは無いから・・・ゼーレ?」
「そうね、私もそう思うわ・・・」

シンジの言葉にミサトが頷いた。
消去法で考えれば他に残る可能性は無い。
リツコが今までに入ってきた情報をまとめた書類を見ながら口を開く。

「シンジ君・・・彼らの狙いはどっちだと思う?」
「両方・・・ですがどちらかといえば量産型の方でしょう。MAGIを手に入れてもいきなりどうこうは出来ないでしょうし。」

MAGIはその演算能力は驚異的だが所詮はコンピューターだ。
物理的な力にはなりえない、即戦力にならない以上余裕の無い彼らに危ない橋を渡るほどのメリットはMAGIにはない。

「・・・問題は量産機のパイロットの方でしょう?」
「そうね、私もそこが気になっているのよ・・・パイロットがいなければエヴァなんて意味が無いし」
「あのダミープラグって奴は?」
「完成していないわ、誰かさんが研究途中でデーターの全てを壊したから」

皮肉っぽい話だがお互いそんな事を気にしていないしどうでもいい事だと思っている。
しかし、そうなると逆にゼーレの目的が読めない。

「・・・あの暴走した時のままって事ですか?」
「そうなるわね・・・でも、量産機にはS2機関が搭載されているわ、一度暴れ出せば手がつけられないわよ」

リツコの言葉に全員が考えこむ。
手に入れても文字道り制御の出来ない代物などどうしようと言うのだろうか・・・

「・・・シンジ?」

不意に今まで何も話さなかったゲンドウがシンジを呼んだ。
応えるようにシンジが振り返る。

「なに?」
「連中は窮鼠だ。最悪の状況を起こすと考えた場合・・・S2機関を使うぞ」

ゲンドウの言葉を理解できたものと理解できなかったものが別れた。
技術面や戦略のエキスパートであるミサトやリツコ、加持はもちろん凪と亨も経験からなんとなくその意味が分かった。
しかしやはり年季の差か子供達にはいまいちゲンドウの言う事がわからない。

「量産機のS2機関を暴走させて爆弾にするって事?」
「「「「「「なに(なんですって)!?」」」」」」
「・・・どうかな、あのキールさんがそんな自棄になった行動をするとは思えないな・・・」
「なっ、シンジ君?君は委員長と面識があるのかね?」

冬月が素っ頓狂な声をあげた。
しかしそれも仕方が無いことだろう・・・ゼーレのトップとシンジに面識があったなどとは夢にも思っていなかったのだから、同じようにキールを知っている加持は口笛を吹いて感心している。

「以前、あの人が直接会いに来ましたんでレイと一緒にお茶した仲ですよ。」
「お、お茶・・・」

冬月は唖然としてしていた。
世界を裏から牛耳るゼーレのトップがわざわざ生身で自分からこの町に来てシンジとお茶をしたと言うのが信じられないらしい。
仕方ないことだろうが

「へー、シンジ君はキールのご老体と面識があったのか」

カヲルが感心した声をだす。
ゼーレに送り込まれてきたカヲルは当然キールとの面識もあった。

「渚さん?さっきから話に出てくるキールとは誰ですか?」

マユミが話しについていけないほかのメンバーを代表してシンジに聞いた。

ゲンドウと冬月以外ではミサトやリツコもキールの名前を知らない。
会議に呼び出されたときは例のモノリスだったので名前を聞いた事は無かったのだ。

「ゼーレのトップの老人だよ。」
「それって・・・」

さすがにゼーレの総大将が直接シンジに会いに来ていたと知って皆がざわつく。

「・・・話を戻せ」

ボソッとたしかにもっともな事をゲンドウが言った。
さすがに裏表問わずさまざまな人間を相手にしてきただけの事はある。
その威圧感に衰えは無い。

思わず全員が黙ってしまった。

「シンジ?お前は連中の最終目的はなんだと思う?」
「連中はここにアダムがまだあると思っている。・・・・・・そのための力としての量産機・・・アダムがもう無いのを知っているとしたら自棄になってS2機関を暴走させてセカンドインパクトの再現も考えられるけど・・・」
「他に残された道はないからな・・・無理やりにでもサードインパクトを起こしてすべてをリセットするつもりだろう。中途半端に希望が残っていると思っているのがたぶん歯止めになっている。」
「希望か・・・確信の無いままに人を動かす思い・・・」
「希望は人の本能だ。今はその本能に感謝すべきだろう。」

シンジもゲンドウも無表情で話し続ける。
本人達はどうだか分からないが二人の間の重い空気に他のみんなが居心地を悪くしていた。

プルルル

会話の途中でいきなり携帯電話の電子音が響いく。
無意識に緊張していたらしくシンジとゲンドウ以外がびくっと反応した。

「え?あ・・・私の・・・」

ミサトがあわてて自分の携帯を取り出した。
通話ボタンを押して耳に当てる。

「日向君?今会議中で・・・え?それ本当なの!?」

電話で話しているミサトの表情が一変したことで何かが起こったことが他のみんなにも伝わった。
携帯を切ったミサトが全員に向き直る。

「・・・ついさっき、各支部からエヴァ輸送用のキャリアーが飛んだわ」

ミサトの言葉はすでに皆予想していたために誰も驚くことは無い。
しかし思ったより向こうの動きが早いのは少し問題だ。

「支部から発進したキャリアーは全部で9台・・・これは今まで建造されていたエヴァ量産機の数と一致します。連中がどう言う方法を使って量産機を使うつもりかはわからないけれど”使える”と考えて行動するしかないでしょうね・・・」
「到着時間は?」
「そうね・・・戦略的なものを考えるなら一機ずつ来るということはないでしょう。こっちには同じS2機関を搭載したエヴァが数体あるし、一旦合流してからここに来るとして・・・およそ9時間・・・」
「9時間か・・・打ち落とすことはできなかったんですか?」
「それが・・・」

ミサトは言いにくそうにリツコを見た。
それで大体の状況が理解できたリツコが口を開く。

「コピーMAGIで空軍施設にハッキングしたのね?」
「ええ・・・ご丁寧にウイルスまで仕込んでね、おかげでキャリアーは素通り、各国の軍部はシステムの回復に必死でとても撃墜にまで手が回らないらしいわよ。」
「コピーMAGIは?」
「ご丁寧に破壊して行ったらしいわ、残っていたならシステムの回復に役立ったかもしれないけれど・・・」
「徹底しているわね・・・」 

なりふりかまっていないのが見て取れる。
たしかに連中は窮鼠のようだ。
しかもかなり計算高い。
下手に侮るとしっぺ返しをくらいそうな気がする。

シンジはゲンドウを振り返った。
 
「・・・まあ、まだ予想範囲内か・・・」
「おいつめられた人間は選択肢が残っていないから行動もよみやすい。」
「どうするわけ?9時間後にはこの町はまた戦場になるよ?」
「・・・第三新東京市の全市民を避難させる。」

ゲンドウの決断は早かった。

「・・・ネルフのBランク以下の全職員を誘導に当てる。」
「六分儀・・・しかし、なんと言うつもりだ?わけも分からず避難しろと言っても・・・」
「他の支部と同じようにテロの危険があると発表しろ」
「いいのか?」
「問題は時間だな・・・」

ゲンドウたちは実務的な話し合いに入った。
こうなるとシンジたちの出る幕はない。
ゲンドウ、冬月、加持、ミサト、リツコの5人を残して部屋を出る。

「シンジ?」

司令執務室を出ると凪が話しかけてきた。

「お前はどう思う?」
「・・・・・・ぼくがあったキールさんの印象では勝算も無く博打に出る人じゃなかった。何かあると思います。」
「目的はアダムとしても・・・」
「・・・技術的な問題を考えなければここに量産機で乗り込んできてカヲル君を殺して無理やりサードインパクトをやらかすつもりでしょうね・・・ヨリシロは量産機で代用するつもりか・・・」

やはり可能性だけで考えればそれが一番高いのは事実だ。
もっともダミーさえ完成していない現状でどうやって量産機を使うのかは見当がつかない。

「ねえシンジ君?」

不意に話しかけてきたのはマナだ。
何か不安そうな顔をしている。

「ん?どうかした?」
「さっきの司令・・・なにか前より穏やかになったって言うか・・・」
「ああ・・・」

シンジは苦笑する。
ゲンドウの変化に思い当たることがあるからだ。

「まあ、いろいろとね・・・肩の荷が降りたんじゃない?」
「そう?」
「でも許さないけどね・・・」
「え?」

シンジの言葉にマナだけでなくほかのみんなも呆気に取られた。
言い切ったシンジは平然としたものだ。

「・・・あの人は自分が間違ったことをしているって分かっていながらやってきたんだ。覚悟は出来ているはずだ。」
「・・・・・・シンジ君?」
「きっとあの人は許されることを望んじゃいないし、ぼくもあの人を許す気はないからさ・・・もし許してほしいとか言い出してたら・・・今生きていない。」

そレは率直に自分がゲンドウを殺していたと言う事・・・
シンジはすでにその覚悟を決めていたのだ。

「多分ぼくは、一生あの人を恨む・・・」
ガシ!!
「げ!!凪さん!?」

シンジの後頭部を凪が鷲づかみしている。
ぎりぎりと締め付けてくる手の握力を知るのが怖い。

「あだだ!!凪さん!!後頭部は間違いなく急所ですから!!!ミソが出ますって!!!」」
「つまらん事を言うお前が悪い。ガキがシリアス気取るな。」
「つまらんって人生とか将来とかに関わってくる重要な・・・って何でそこで指の力を上げるんですか!?」
「たしかにお前達の問題かも知れんが断定することもないだろう?人の心は変わっていくもんだ。時間と出会いによってな・・・」
「それはそうですが・・・それからぼくはもう大人ですよ・・・もう14ですから、昔なら元服の年です。」

凪はシンジの反論に深いため息をつくと指を離してシンジを開放した。

「子供は皆自分がガキだって言うことを理解していないもんだ。」
「ひどい話ですね、自分の行動が大人気ないとか思いません?子供と言いながら暴力をふるうなんて児童虐待で訴えますよ?」
「俺はやり過ぎない限り体罰推進派だ。よかったな」

何が良かったのか疑問だが何がしたいのかはシンジにも分かる。

時に会話よりも実力を行使する事で痛みを紛らわせる事が出来るのだ。
しかしそれが所詮一時の麻酔でしかないことも分かっている。
いずれ決着はつけねばなるまい・・・この戦いも・・・

次に変化が起こったのはわずか数時間後・・・それは発令所にて・・・

「本部への出入りは禁止、第一種警戒態勢のままか・・・ま〜ったく・・・」

ミサトはぼやきながら正面モニターを見た。
住民の避難誘導は順調に進んでいる。
これから起こる戦闘に住民を巻き込むことだけは避けなければならない。
その傍らで着々と戦いの準備も進んでいた。

「相手は量産機のエヴァ9体・・・総力戦ね・・・」

皮肉なものだと呟いてミサトは苦笑した。
今までこの町を守っていたのはエヴァンゲリオンだ。
しかしこれから攻めてくるのも同じエヴァンゲリオン・・・使徒がこの町に来ることが運命だとするならやはり人間は18番目の使徒ということになる。
闘争という人間の本質でそれを確認するというのも洒落にならない話だ。

モニターには市民の避難状況とともに各支部から飛び立ったキャリアーの位置が世界地図に表示されている。
赤い光点がキャリアーの位置だがそれはすでに一箇所に固まって日本を目指していた。

「このまますんなり来るかしら・・・」

だとしたらなめているとしか思えない。
日本には戦略自衛隊というものがある。
打ち落とされるのが落ちだ。
そして案の定ミサトの危惧は現実のものとなる。

「か、葛城さん!!」

日向の緊張した声が全員の注目を集める。
かなり切羽詰った声だ。

「どうしたの?」
「日本政府からです!!内容はネルフに対してA−801の発令!!」
「なんですって!!」
「し、しかも松代のMAGIがハッキングをしています!!」

ミサトとリツコが日向のシートに駆け寄った。

「ハッキング先はここ?」
「いえ・・・これは!!戦自の基地!!!ここにはN2を搭載したミサイルがあります!!!」
「な!!」

日向が口にした事実に発令所にいたスタッフの全員が驚愕した。

「・・・予想以上に日本政府に対するゼーレの影響が根深かったということか・・・」

冬月が眼下の混乱を見ながら呟いた。
いつものように司令の席に座っているゲンドウが答える。

「われわれを信用していなかったということだろう。ここには連中の目的に必要なものすべてがそろっていたからな・・・」
「お互い様か・・・ほかの支部と違って松代が表立って占領されていなかったのはこちらの油断を誘うためか?」

おそらく松代は当の昔にゼーレのものだったのだ。
それを今まで隠していたのはネルフに対抗するため・・・最初から信頼関係も信用も無かった両者の関係を考えればむしろ当然のことだった。

「たしかに奇襲にはなったな・・・」

呟くゲンドウの言葉をかき消すように戦自の基地からN2を積んだミサイルが発射されたという報告が入った。

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「そのA-801って一体何なんです?」

しばらく乗る事はあるまいと思っていた初号機のエントリープラグの中で数日ぶりに嗅ぐLCLの血のにおいに顔をしかめながらシンジはモニターに映るリツコに聞いた。
正直状況がいまいちよく分からない。

『簡単に言うと日本政府がネルフを保護する義務を放棄したと言うことよ』
「保護義務の放棄?って言う事はネルフどこかの組織に襲われても関与しないって事ですか?」
『それどころか自分達で襲うことも出来るようになるわね・・・』
「宣戦布告って事ですか?」

シンジの顔に疑問が浮かぶ。
わざわざ宣戦布告する意味がわからない。
そんなものをせずにいきなり襲った方がいろいろな手間が無いはずだ。

『日本政府の言い様は私達とゼーレが密接に繋がっていて非人道的な事をしていた証拠が見つかったためだって言っているわ』
「その証拠の出所と証拠の内容は?」
『発表されてはいないわ・・・』
「かなりの力技ですね・・・何が目的なんですか?」
『・・・たぶん一応の手順を踏まないと納得しないんでしょうね・・・下の・・・実行関係の人間は・・・』
「心理誘導のためですか・・・」

昔の独裁者は言った。
「戦争を始めるときにはまず大声で「我々は正義だ!!」と叫べ」
戦争においてもっとも重要なのは兵器でも食料でもない。
一番重要なのは実は人間だ。

いくら最新式の銃を渡して戦争に行けと言っても思想教育がなされていないなら無駄だ。
そしてわざわざ自分達が悪い事するから協力しろと言ってもまともな精神を持った人間ならまず協力などしない。
そのために自分達は正しい事をしていると言い聞かせる事で人殺しすらも正当化させなければならないのだ。
軍隊や組織でも上下関係をはっきりさせるのはこういった意味合いもある。

『悪いけど今は哲学的な事を論じている暇は無いの・・・』
「そうですね、飛んで来ているN2ミサイルの数は?」
『6機』
「あ、みえました。」

エントリープラグのモニターの上方に飛行機雲が見えた。
数は6、リツコの言ったミサイルに違いあるまい。

『方法は任せるわ』
「この映像記録は残さないでくださいね」
『・・・分かったわ』

リツコが少し悔しそうな声を出す。
以前のシンジ達の能力の記録を消してしまって落胆していた事を知っているシンジは苦笑して初号機を前に出す。
横に零号機と弐号機機が並んだ。

同時にウィンドーが開いてレイとアスカの顔が映る。

『ま〜ったく、悪あがきしてくれるわよね〜大体あのN2どっから持ってきたの?確かN2は全部レリエルの時に使ったんじゃなかったっけ?』
『・・・あれはその時まだ建造中だった分・・・そして今世界にあるN2の全てでもあるわ。』
『え?どう言うことレイ?』
『レリエルの時、全てのN2は使いきってしまったけどその後で完成した分のN2は対使徒の名目で戦略自衛隊に徴発されたらしいの』
「それを考えると最初からN2をこの町に打ち込む予定だったのか・・・何処まで先を読んでたんだか・・・」
『感心している場合じゃないでしょう?来るわよ。』

アスカの言う通りモニターに移るミサイルがこっちに迫ってきている。

シンジは初号機を背後に振り返らせた。
そこにいたのは漆黒のエヴァ・・・参号機だ。
カヲルの騒動の後、竪穴の壁に半ば埋もれていたものを回収したのだ。
もちろんパイロットは・・・

『どうかしたのかい?シンジ君?』

開いたウィンドーに映ったのはカヲルの顔だった。
別にエントリープラグに入らなくても操る事は出来るらしいが安全面とあまりに目だつと言う理由から今回はちゃんとプラグの中に入っている。

モニターに映るカヲルは黒いプラグスーツ・・・しかもきっちり女性用・・・
最初はレイかアスカのプラグスーツを借りる予定だったが・・・サイズが合わなかった・・・とくに胸・・・もともとカヲルはスーツなしでもシンクロ出来るので問題は無かったのだが、しかし時田が「こんな事もあろうかと」と叫んで取り出したのがこの黒いスーツ・・・一体何を予想して作ったのかは謎だ。

「参号機の調子はどう?」
『問題は無いよ、魂が入っていないから同化するのもたやすいさ』

参号機は他のエヴァと違ってコアの中に人を取り込ませていない。
しかし、生粋の使徒であるカヲルは参号機の肉体と直接シンクロする事によって自分の体として扱うことが出来る。
むしろ誰かが取り込まれていた方が操作し難い位なのだ。
もちろん直接シンクロしているためにカヲル自身のS2機関のエネルギーが参号機に還元されているのでアンビリカルケーブルも必要ない。

『おしゃべりの時間は終わりのようだよ。どうする?』
「三人はフィールドを全力で展開して」
『『『了解』』』
「レイはもちろん【Power of good harvest】(豊穣なる力)でフィールドの強化」
『わかったわ、シンジ君は?』
「N2が爆発したところで【Left hand of denial】(否定の左手)を使う。なるだけ町に被害を出したくない。爆発と言う現象を否定してやる。」

エヴァ三機はシンジの言葉に頷くと初号機を中心に正三角形の場所に移動する。

『『『フィールド全開!!』』』

三人の声が唱和して聞こえた。
同時に展開されたのはドーム上の光る半球・・・S2機関を持つエヴァ2機と使徒であるカヲルの力を受けた参号機のフィールドが互いに共振し合ってその密度を高めている。
加えて【Power of good harvest】(豊穣なる力)によって強化されたフィールドは次元断裂すら引き起こしかねない最強の結界を形作った。

オレンジに光り輝く最強の守りに鉄製の無粋なミサイルが突き刺さる。
同時に起こった全てを焼き尽くす黄金の光・・・しかし、その鉄壁の守りも全てを焼き尽くす光さえも突き抜けて純白の輝きが天を刺した。
突き出された初号機のプラチナのように輝く左手の前に意味を無くしていく。
全てが終わった町に4機のエヴァだけが残った。

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「よっしゃー!!」

モニターの中の光景にガッツポーズでミサトが叫ぶ。

「エヴァに乗っていても能力が使えるなんて凄いわね・・・」

リツコも素直に感心していた。
すさまじい破壊力を持つN2ミサイル6機に対して町にまったく被害を出さなかったのだ。
あらためてエヴァの凄さに感心する。
いや、シンジ達の乗ったエヴァというべきだろう、他の誰であってもこんなことは不可能だ。

『ミサトさん』
「あ、シンちゃんご苦労様」
『いえ、それより何が目的だったんでしょうか?』
「え?」
『さっきのN2はあまりにも安易過ぎます。』
「・・・そうね・・・」
『キャリアーの方はどうなっています?』

シンジの言葉にミサトはモニターに表示されているキャリアーの到着時刻を確認した。
残り時間は30分少々と表示されている。

「・・・あと30分程ね・・・悪いけどこのまま対応してもらうことになるわ。」
『了解です。避難の方はどうなっていますか?』
「ついさっき、ミサイルが来る直前に終了したわ、ぎりぎりだったけど避難誘導していたネルフの職員も一緒に避難しているわよ。」
『そうですか・・・』

シンジの声に安堵がにじむ。
避難した住人の中にはトウジやケンスケ、ヒカリ達も含まれている。
彼らが無事なところに避難しているならば戦闘に巻き込む心配は無いだろう。

「ペンペンも洞木さんにつれて行って貰っているわよん」
『ははっそれなら安心・・』

ズン!!

シンジの言葉が途中で切れた。
いきなり飛んできた砲弾が初号機の肩にぶつかって爆発する。

「「「「な!!」」」」

いきなりの事に全員が驚く。
すばやく切り替わったモニターに映っているのは砲身から煙を出している一台の戦車・・・その周りには他にも数台の戦車が展開している。
ぱっと見で10台はいるだろう。

「あ、あれは戦自の!!なんで!?」
「これは・・・第9から第14までのレーダーサイト、沈黙!!」
「特科大隊、強羅絶対防衛戦より侵攻してきます!!」
「御殿場方面からも2個大隊が接近中!!」
「なんですって!!」

思わずミサトが叫ぶ。
切り替わったモニターには第三新東京市に進行してくる戦車の群と戦闘機にVーTOL・・・

「何で今まで気づかなかったの!?」
「・・・MAGIね・・・」
「リツコ!?どういうことよ!!?」
「第三新東京市の防衛はMAGIが中心になっているわ、そのためにあらゆるセンサーからMAGIに情報が送られてくる。連中、松代のMAGI2号機を使ってそのセンサーにアクセスして偽の情報を流したのよ・・・完全に裏をかかれたわ・・・」

リツコが悔しそうに唇をかむ。
今までMAGIに頼りっぱなしだったのがあだになった。
MAGIの第一人者であるリツコが完全に出し抜かれたのだ。

「・・・総員第一種戦闘配備、兵装ビルを起動しろ」

ミサト達の頭上からゲンドウの声が振ってきた。

「反省なら後にしろ、今は現状をどうにかするのが最優先だ。」
「「「「は、はい!!」」」」

全員が慌てて自分の仕事に戻っていく。
たしかにゲンドウの言う通り今はそんな事にかかわっている暇は無いのだ。
うかうかしていたら後で反省する事も出来なくなる。

スタッフ達が自分の仕事に戻ったのを確認したゲンドウの視線がリツコに移動した。

「赤木博士?」
「はい?」
「おそらく次はここのMAGIオリジナルにハッキングして来るだろう。我々の動きを封じるためにな・・・同じMAGI同士の戦いになる。」
「汚名変上のチャンスと言うことですか・・・承知しました。」

リツコの瞳に熱いものが宿る。
踏みにじられたプライドを回復するチャンスをみつけたようだ。
白衣を翻すと自分の端末をMAGIに繋いで戦闘準備を始める。

「・・・相変わらず人を乗せるのが上手いな・・・」
「時田博士と山岸博士も呼んでサポートをさせましょう。下手なところにいられるよりここにいてくれた方が安心だ。」

ゲンドウは頷くとさっさと内線に手を伸ばして時田と山岸を呼び出すように指示を出した。

「・・・シンジ君達はどうする?」

ゲンドウの背後で一部始終を見ていた冬月がゲンドウの背中に語りかける。

「・・・・・・あっちこそどうにもなりませんな・・・量産機も近い・・・シンジ達に任せるしか無いでしょう。」

そう言ってゲンドウが見上げたモニターの中では戦車の砲撃に晒される。
シンジの初号機が映っていた。

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「なんなんだ?」

シンジは思わず疑問の言葉を呟く。
初号機だけでなく零、弐、参号機も砲撃に晒されていた。
しかし追い詰められたと言う感じはまるで無い。

エヴァの装甲は全て1万2千枚の特殊装甲だ。
N2の直撃ならともかく戦車の砲弾などではダメージにならない。
初号機達の背後に回りこんだ歩兵達がお飾りにつけたアンビリカルケーブルを切断しようとしているが無駄だ。
S2機関をもつ以上消耗戦も意味が無い。
シンジ達が本気になればこの程度の戦力を無力化するのに大した時間はいらないだろう。

しかしこれを考えたのはキール・・・意味が無い事をするとは思えない。
シンジはキールの事を過小評価していなかった。
むしろ今回の襲撃で一番危ないのはあの老人だと思っている。

「N2ミサイルにしてもこの攻撃にしても意味も無くしているとは思えない・・・なにが・・・」
(・・・シンジ君?ちょっとまずいな)
「え?」
(連中が求めているものはなんだい?)
「それは・・・アダムとカヲル君の命・・・」

シンジはチラッと背後を見る。
そこにいるのは漆黒の参号機・・・そしてそのエントリープラグの中にカヲルがいる。
同時にアダムの体はカヲルが取り込んだのだから連中の求めるものは二つともここにある事になる。

(彼らはそれを知らないだろう?ドグマにあると思っているはずだ。それにあそこには君らに対する切り札も”いる”)

ブギーポップの言葉を聞いたシンジの脳裏で疑問のパズルが一つの絵のように重なった。
重大な見落としをしていた事に気づいたシンジは発令所に回線を繋ぐ。

「まずい・・・」

シンジの顔には明確な焦りがあった。

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『ミサトさんまずった!!』

通信が繋がって開口一番のシンジの言葉がそれだった。
いきなりの事に皆が驚いた顔になる。

「ど、どうしたのシンジ君!?」
『N2もこの戦車隊も全部陽動だ。』
「陽動ですって!?」
『ゼーレは発令所の占拠が失敗した事でこっちにMPLSか合成人間がいると確信していたはずだ。そしてぼくがその一人であると言うことも、だから最初にN2を発射してぼくをエヴァに乗せたんだ。』

合成人間を倒すことが出来るのはMPLSか同じ合成人間だ。
一般人でも出来ない事はあるまいがあれだけの数の合成人間やトールと言う化け物クラスの合成人間を倒したと言うことになればネルフの職員を総動員しても足らない。
だとすると残る可能性はMPLSか合成人間、そして一番可能性が高いのはやはりシンジと言う事になる。

「で、でもそれがどうしたの?」
『エヴァは対使徒用の兵器だ。人間相手の物じゃない。量産機も迫っているしエヴァは一度降りるとすぐに再出撃も出来ないんだ。』
「え?・・・まさかネルフ本部に!?」
『多分間違いない。ぼくをエヴァに乗せて外の連中の相手をさせている間にアダムを奪取、そしてついでに”人質”も捕まえるつもりだ。ネルフ本部に入られたらエヴァじゃ大きすぎて対処できない!!』

この場であえて人質とは誰かを問う必要は無いだろう。
今現在発令所にいる人間はシンジ達とのつながりが深い。
それを人質にする事はまともにやって勝てない以上十分に意味がある。

「日向君!!」
「はい!!・・・これは・・・西と南のハブステーションにいるはずの保安部員に連絡がつきません!!」
「すでに進入されたか・・・」

ミサトの指示で本部内を映し出したモニターに武装した集団が映った。
通路をかけぬけていく連中の一人が監視カメラに向き直って発砲するとモニターがサンドストームになる。

一瞬だったが通路の床に倒れているネルフ職員も見えた。
その下に赤い水溜りが広がっていた事を考えれば生きてはいないだろう。

「台ヶ丘トンネル、使用不能!!」
「西、5番搬入路にて火災発生!!」
「侵入部隊は第1層に突入しました!!」
「南ハブステーションは閉鎖!!」
「全職員を下がらせなさい撤退不可能なら投降も認めます。」

・・・どちらでも良かったのだ。
第一段階でN2を打ち込む・・・あれがター二ングポイント・・・エヴァのATフィールドで防ごうとすればシンジがでてくる。
そうなるとN2の到着時間からシンジを初号機の中に拘束できる。
おそらくは強力なMPLSであるシンジを・・・

別に防がれなくてもそれはそれで構わない。
もともとN2ミサイル6発程度じゃドグマまでの縦穴を開けられれば御の字だろう。
しかしそうなればV−TOLがドグマの中に入っていけるし、後続の量産機の進入口にもなる。

同時に全てが陽動・・・本命はその騒動の混乱にまぎれて進入した工作員・・・その目的は発令所の占拠とアダムの確保・・・そして同時に人質の確保だ。

さらに発令所のモニターのカウントがゼロになる。
第三新東京市の上空に無骨な鋼鉄の翼が現れた。
そこから投下される9つの人型をした白い狂気の産物・・・量産型エヴァンゲリオン・・・ナンバー5から13までの9機・・・空中で白い羽を広げて神話の天使のごとく舞い降りてくる。

ハルマゲドンの開始を宣言するかのごとく・・・






To be continued...

(2007.09.22 初版)
(2008.01.19 改訂一版)


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