天使と死神と福音と

終之章 〔神児〕
W

presented by 睦月様


「第六ブロック突破されました!!」

日向が叫びながら報告する。
外の戦闘もかなりのものだが本部内の戦闘も負けてはいない。
なんといっても数が違う。

「ちっ!ムサシ君?霧間さん達は?」
「無事です・・・でも戦自は二人を迂回する形で本部に近づいてきていますね・・・」
「本部の地図を手に入れていたわけか・・・」

ミサトは唇をかむ。
本部内で起こっているのは戦闘ではなく戦争だ。
なにが違うかというと戦闘は相手を倒さなければ終わらないが戦争は目的を遂げたほうが勝つ。
具体的に言えばわざわざ面倒な凪と亨を相手にせず多少時間がかかっても回り道をして本部を先に占拠してしまえば彼らの勝ちだ。
そして凪と亨の足止めをする人員には事欠かない。

「このままじゃジリ貧か・・・」

そもそも数で負けている以上、こちらの不利は前提条件だ。
それを覆すのが司令官の腕の見せ所かもしれないが一個大隊レベルの人員をどうにかするには状況が悪すぎる。

「今思うと対人用のセキュリティー予算が削られたのはこれを見越していたのかもな・・・」
「ありえる話だ・・・笑えないけどな・・・」

日向と青葉の軽口にも余裕は見えない。
それだけ今の状況の危険度が増している証拠だ。

「・・・どうする六分儀?」

冬月が眼下で必死に作業しているスタッフを横目にゲンドウに話しかけた。
ゲンドウは少しだけ考えた後、席を立つ。

「・・・本部を破棄する。」

ゲンドウの一言で全員の視線がゲンドウを見上げた。
戸惑うの視線が大半を占めていた。

「し、司令・・・しかし・・・」
「葛城三佐・・・命令だ。」
「は、はい」

有無を言わせぬゲンドウの迫力にミサトがおもわず直立不動になって敬礼する。

「応戦している人達にも撤退命令、撤退が完了したブロックは閉鎖しなさい。硬化ベークライトをありったけ使って!!」
「了解!!」
「赤木博士・・・」

ゲンドウがリツコを呼んだ。
リツコがキーボードから顔を上げてゲンドウを見る。

「はい?」
「・・・本部の爆破コードを・・・」
「ちょっと待ってください!!!」

ゲンドウの言葉を聞きとがめたミサトが叫んで二人の会話に乱入する。
かなりあせっていた。

「MAGIは!!」
「いいのよミサト・・・」
「リツコ!!でもMAGIはあなたの・・・」
「・・・いいの・・・」

リツコはミサトを有無を言わせぬ強い視線で見返してくる。
それを見ればミサトもそれ以上何も言うことは出来ない。

「・・・爆破時間はどうしましょうか?」
「一時間くらいでいいだろう・・・それくらいあれば退避も完了するはずだ。」
「了解しました。」

それだけ言うとリツコは作業に戻った。
他の皆はなんともいえない顔でそれを見ていたが今は退避することが先決と考え直し、急いで撤退の準備に戻って行った。
それを確認したゲンドウは再び椅子に座りなおす。

「いいのか?」

冬月が横から聞いてくる。
その視線はゲンドウでなくモニターに映る初号機たちを見ていた。
どうやら量産機達にもに何か動きがあるようだ。
さっきまで無残に倒れていた量産機が次々に復活している。

「・・・かまわん、どのみちMAGIをここから移動させるためには時間がない。命には代えられませんよ。」
「赤木君は・・・つらいな・・・」
「・・・・・・彼女も解き放たれるべきでしょう。」

ゲンドウは椅子から立ち上がると冬月の横を通って後ろにある直通エレベーターのほうに歩いていく。

「どこに行く?」
「後のことはお願いします。・・・冬月先生・・・」
「お前が私のことを先生と呼ぶときはいつも面倒を押し付けるときだけだな・・・」
「・・・ユイによろしく」

ゲンドウはそれだけ言うとエレベーターに入る。
最後まで背後の冬月を振り返ることはなかった。
エレベーターの扉が閉まると冬月が深いため息をつく。

「・・・あいつなりのけじめか・・・」

冬月は去っていったゲンドウの後姿が消えたエレベーターから視線を下で作業しているスタッフに移すと撤収の指示を出した。

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気が狂うと書いて狂気と読む。
シンジ達が見ているのはその類のものだ。

ガリ!!バリ!!

形容しがたい音が第三新東京市中に響いている。
同時に立ち込める濃厚な匂いとそれが辺りに飛び散る水音・・・生命の循環を司る血・・・それが周囲に飛び散って地獄絵図を描く。

『な、なに?』

アスカのおびえた声が通信機から漏れる。
レイとカヲルは言葉もないらしい・・・それも仕方ないだろう。

ダミープラグを作動させた量産機はその本能のままに行動に移った。
そのウナギのような顔には似つかわしくない生々しい歯をむき出しにして襲い掛かったのだ。
しかし襲い掛かったのはシンジ達ではない。

ベキ!!ガリ!!ゴキン!!バリ!!

肉を引き裂き骨ごと肉を噛み千切る音は量産機達からしていた。
量産機たちはお互いの体に噛み付きあって食らいあっている。

「共食い?」
(いや・・・これは違う。)
「え?」

ブギーポップの言葉に思わず疑問符がでる。
目の前の光景を共食いといわずなんと呼べばいいのだろうか

(初号機がS2機関を取り込んだときのことを覚えているかい?)
「はい?・・・そ、それじゃあこいつらお互いのS2機関を食い合っているんですか?」
(ひとつはそれだが・・・どうやらそれだけじゃない。)

シンジたちの視線で量産機達に更なる変化が起こった。
お互いが相手に歯を突きたてている場所から肉が盛り上がってお互いを吸収し始める。

「『『『な!!!」』』』

シンジを含めた4人の口から同時に驚きの声が漏れた。
量産機たちの変化は装甲がはがれて茶色の皮膚が露出している部分を中心に起こっている。
お互いの触れ合っている部分から融合を始めたのだ。

人間と同じような姿をしている量産機たちの体はお互いを食らい、食われながら膨張するように膨らんで行った。
気がつけば地面には量産機たちの装甲とロンギヌスコピーが転がっている。

そしてその中心にあるのは・・・

「これがあなた達の望みなんですか?・・・キールさん・・・」

それは人だった。
二本の手、二本の足、その顔には目のようなくぼみが二つ・・・鼻があり口があり耳まである。
頭髪や眉毛はないが間違いなく人間の姿だった。
唯一人間でないのはその大きさだ。
エヴァと比べても巨人というほどに大きい。

「・・・・・・」

褐色の肌の巨人は生まれたばかりの目でシンジたちを見た。
その顔は老人の様にも赤子の様にも見える。
賢者のそれにも似て愚者にも似ていた。

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発令所の放棄を決めたオペレーターたちの動きはすばやかった。
必要な資料をまとめるとそれを持ってケージに集合して作業をしている。

「葛城さん?」

ミサトとリツコの隣で作業を見ていたマユミがミサトに話しかける。

「ん?どうかした?」
「なにをしているんですかアレ?」

マユミが指差したのは数人が入れるであろう長方形のコンテナ、普通のコンテナとちがってその外側には何か妙な機能がありそうな装置が取り付けられている。
取っ手と扉があるところを見るとやはりあの中に乗り込むらしいが、そのコンテナを職員達がエヴァを地上に射出するためのリニアレールのところに取り付けていた。

「あれはね・・・脱出装置」
「脱出装置?あのコンテナがですか?」
「まあ信じらんないのも仕方ないけど、ネルフはその設立当初からテロや使徒のドグマ侵入って言う最悪の状況は想定されていたの。」

想定していなければそもそも自爆装置など本部に取り付けたりはしない。
意味もなく自爆装置をつけるのはマンガの悪役だけで十分だ。

「まあそんなわけで、最悪サードインパクトを回避するために本部を爆破するにしてもその巻き添えで職員全部道連れってわけにもいかないっしょ?」
「そのための脱出装置ですか?」
「そうよ」

ミサトに変わってリツコが口を挟んできた。
マユミやムサシの前だが気にせずタバコを取り出して火をつける。

「あのコンテナはね、エヴァ用のリニアレールで地上に射出された後に空中でパラシュートが開くようになっているわ、同時に各所からエアバックが飛び出てきて地上に降りるときも安心・・・」
「リツコ・・・」

淡々と説明するリツコにミサトが近づいた。
その表情は緊張している

「なに?ミサト?」
「いいの?MAGIはあんたの・・・」
「いまさらそれ?・・・仕方ないじゃない。重すぎて連れて行けないんだから、それともあなた一瞬で母さん(MAGI)のダイエットを成功させてくれるの?」
「他の支部のMAGIは全部破壊されたのよ?」
「まだ・・・松代のがあるじゃない。」

ミサトはリツコの表情からやはり無理していると感じた。
本部のMAGIは他の支部のものとは違って彼女の母が直接作り上げたものだ。
そして長年付き合ってきたリツコにも愛着がある。

「・・・茶化さないでよ・・・そんなことが言いたいんじゃない・・・」
「茶化してないわ・・・言いたいこともわかるけど」

ミサトはそれ以上の追求をあきらめた。
リツコの思いは理解できるし譲れない思いが分かる。
それを理解できるからこその親友なのだろう。

「・・・松代のMAGI2号機・・・ぜったい取り戻すから・・・」
「期待しているわ、作戦部長さん。」

ミサトとリツコはお互いを見て軽く笑いあう。
そんな二人に日向と青葉が近づいてきた。

「準備完了しました。」
「了解、ムサシ君?凪さんたちは?」
「加持さんや他の諜報部や保安部の人たちと一緒にここに向かって来ているみたいです。」
「そう、分かったわ、準備の出来た物から順に射出して頂戴、それと外に出ても油断はしないで」
「了解」

『私はネルフ総司令六分儀ゲンドウ』
「「え?」」

ミサトとリツコだけでなくほかのみんなの口からも疑問の声が出た。
全員がそろって無言になる。

『私は今司令執務室にいる・・・以上だ。』

回線の切断される音と共に放送は終わった。

「な、何考えているのよ司令は!?」

最初に硬直をといたのはミサトだった。
思わず全力で叫ぶ。

周りを見回すがやはりゲンドウの姿はない。

「たぶん本当に司令執務室にいるわよ。」
「そんな・・・」

今から執務室にまでゲンドウを助けに行けば戦自と鉢合わせすることになる。
どうすることも出来ない。

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天井と床にセフィトロの樹の描かれた司令執務室・・・
そこにいるのはこの部屋の主、六文儀ゲンドウ

「・・・・・・」

放送を終えたゲンドウは椅子に座っていつものポーズをとる。
その顔の表情はサングラスと手に隠れて分からない。

ガコン

その視線の先にあった扉が開き始めたのを見てゲンドウが眉をひそめる。
ここに戦自がなだれ込んでくるのは予想していたがあまりにも早い。
しかもこじ開けるのではなく扉は自動的に開いていく

「やはりここにいたか」

そこにいたのは冬月だった。
自分のIDを使って扉を開けたらしい。

「・・・冬月先生・・・なぜここに?」
「長い付き合いだ。お前の考えは分かっている。」
「・・・・・・」
「少しでも他の職員の脱出時間を稼ぐつもりだな?自分をおとりに・・・」
「・・・いままで責任者としての責務を放棄してきましたからね、そのつけは払わねばなりません。」
「たしかにな。」

冬月は苦笑すると机を回りこんでいつもの位置に移動する。
そしてこれまたいつものように直立不動の姿勢になった。

「・・・何のつもりです?」
「なに、あの世への道行きに一人くらい付き添いがいても変わるまい。」

おそらく自分達は殺されるだろう。
非戦闘員まで殺せという命令も出ている。
シンジたちに対する人質になりえないことは連中も知っているはずだからなおのこと生かしておく理由はない。

「つけは払わねばならんか・・・たしかにな、我々は許されざることをしてきた。・・・責任は取らねばならん。」
「・・・先生は私に利用されていただけです。」
「いまさらお前に罪をすべてかぶせて生き延びようとは思わん、余計な気を使うな・・・どの道お前の口車に乗ったのは私の意志だ。」

そう言われれば何もいえない。
ゲンドウはいつものように無言になった。
その雰囲気に安堵が混じったように感じるのは冬月の勘違いじゃないだろう。

「お前こそいいのか?ユイ君にあえなくなるんだぞ?」
「いまさら会わせる顔など持っていません。何もかもを利用し、シンジすらも利用しようとしてきました。・・・母親であるユイが私を許すはずがない。」
「シンジ君は我々が利用するどころか利用されていたんだがな・・・」
「それにどれほどの意味がありますか?結果だけで物事がすむなら苦労はしませんよ。」
「たしかにな」

冬月はゲンドウの言葉に苦笑した。
まったく持ってその通り、勝てば官軍など戦国時代でもあるまいに・・・しかもユイは母親だ。

女、母といった存在は時々理屈が通じない事がある。
愛情によって動く部分があるからだ・・・悪い意味ではないが男と女の差はそういったところにあるのかもしれない。
あるいは男は攻撃することに、女は守ることに特化しているというべきか・・・

「そろそろ時間か・・・」

扉の向こうに大勢の足音が聞こえてきた。
撤退の準備にかかっているネルフ職員にここまで来る余裕はあるまい。
明らかに戦自の隊員達だ。
同時に何かを壊そうとしているような音も聞こえる
扉をこじ開けるつもりだろう。
一応ロックなどはあるがそう長くは持つまい・・・案の定数分で扉が開き始める。

「司令の六分儀と副司令の冬月だな?」

扉の先にいたのは武装した集団だった。
全員が自分達に銃口を向けている。

「抹殺指令が出ている。」
「当然だな、それでどうするつもりだ?」
「死んでいただく」

全員が銃の引き金に手をかけた。
数グラムの力を加えれば銃弾が発射されてゲンドウと冬月の体を貫くだろう。
そして二人は死ぬ。

「まちなさい!!」

不意に横から聞こえてきた声、ゲンドウたちから見えない位置から発せられた声に戦自の”視線”が集まる。

魔・眼・開・放

少女を認識した瞬間、それを見た戦自の隊員達の中で何かが終わった。
いきなりほうけると自分達がなにをしていたのか、何故ここにいるのか、そして自分は何者かということすら忘れ去っていた。

「う・・・」

少女・・・山岸マユミがひざをつく。
両手で目を押さえていた。

「山岸!!」

ムサシがあわてて駆け寄ってマユミの状態を確認する。
マユミは苦しげに両手で自分の目を覆っているが命の別状はないようだ。

「な!!なにをした!?」

いきなりの怒声にムサシとマユミが硬直する。
どうやら能力で打ちもらしたやつがいたらしい。
ムサシが見ると数人がこっちに銃口を向けてきている。

「くっつ!!」

ムサシはマユミをかばって前に出る。
弾道の予想くらいは【Logical intuition】(論理的な勘)で出来なくもないが後ろにはマユミがいる。
避ければ彼女に当たるということは能力を使うまでもなく分かりきったことだ。

さっきまでゲンドウたちの命を狙っていた銃口がムサシ達を殺すために構えられた。

「悪く思うなよ」

引き金に指がかかる。

「どの口でそれを言っている?」
「え?」

今まさに撃とうとした瞬間、戦自の男は気がついた。
自分の腹から何かがはえている。
それは刀身だった。

しかも明らかに普通のものではない・・・なぜならそれは炎でできていた。

「がっ!!」
ボン!!

男は断末魔の叫びとともに破裂するように炎に包まれた。
さらにその炎を突き破って人影が現れる。

「炎に踊れ!!」

焔剣を振り回すのは凪だ。
生き残りの隊員達を一瞬で炎の塊に変えていく。
全員を灰にしてしまうと凪はマユミ達に駆け寄った。

「お前たち、なぜこんなところに!?」
「すいません・・・ほかの人たちは退避の準備で・・・俺たちはその・・・」
「いや、聞くまでもなかったな・・・」

ゲンドウの放送は本部のあっちこっちのスピーカーから流れていた。
凪自身もそれを聞いてここに駆けつけてきたのだ。

凪は横目でゲンドウたちをにらんだが、すぐにマユミに視線を戻す。

「山岸・・・無茶をしたな・・・」
 
マユミの【The Index】(禁書目録)はそもそもこんな使い方をするための能力ではない。
記憶の消去など一対一でも難しいのに複数相手に同時に、しかも一瞬でそれをやるなど完全に限界を超えている。

そんな無茶な使い方をすれば反動がくるのは当然だ。
閉じたマユミの瞳から涙のように赤い血のしずくが流れた。

凪はつなぎのポケットを探ると包帯を取り出してマユミの目を傷つけないように巻いていく。

「今はこのくらいしか出来ない。」

マユミの応急処置が終わった凪はゲンドウたちを見た。
二人は何も応えられず木偶のように立ち尽くす。

「・・・さて、あんたたちはどうする?」
「「・・・・・・」」
「死にたいというならとめはしない。これを見てまだ死にたいって言うならその覚悟も本物だろうしな・・・」

目に包帯を巻いたマユミの姿が痛々しい。

「俺たちは行く」

凪はそういうとマユミを背負おうとした。
ムサシでは体力的に難しい。
目の見えないマユミは凪が背負うしかないだろう。

「・・・待ってくれ」

ゲンドウの声が凪をとめた。
机を迂回して凪たちの下に駆け寄る。
冬月もそれに続いた。

「・・・・・・彼女は私が連れて行く。」
「あんたが?どういう風の吹き回しだ?」
「彼女を背負ったままでは襲われたときに危険だ。我々が死ぬのは仕方がないが彼女までその巻き添えにするわけにはいかん、彼女の安全のためにも・・・私に彼女を連れて行かせてくれ。」

凪はゲンドウの言葉を聞くとムサシを振り返った。
迷いは一瞬、凪はマユミをゲンドウにおんぶさせる。

「ムサシ?」
「はい」
「壁をぶち抜くルートでもかまわん、【Logical intuition】(論理的な勘)でケージまでの最短ルートを・・・邪魔な障害は壁だろうが人間だろうが俺が排除する。」
「了解しました。」

マユミを背負ったゲンドウは凪とムサシに先導されてケージに走った。
その後ろから冬月もついてくる。

ネルフ本部爆破までの時間は少ない。

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ドン!!

ケージに銃声が響く。
しかも一発じゃない。
何度も連続した発砲音が響く。

「あーもう!!難聴になったらどうすんのよ!!!」

ミサトが物陰に隠れて自分の銃で打ち返しながら叫ぶように悪態をつく。
叫ばなければ他に聞こえないほどにうるさいのだから仕方がない。

「そう言うなよ葛城!!」

答える加持も大声だ。。
ミサトと同じように物陰に隠れながら応戦している。

「他の皆は!?」
「リッちゃん達が先導して脱出したよ。後は俺達だけだ!!」
「凪さん達もね!!!」


ミサトと加持が守っているのは最後に残ったコンテナだ。
他の皆はすでに別のコンテナで脱出していた。

ミサトと加持がここに残って殿をしてくれている。
凪達を待って脱出するためだ。

しかし先にケージに到着したのは戦自の隊員の方が早かった。
それからはコンテナを守るミサト達と彼らを捕まえよようとする戦自の隊員達で銃撃戦が始まるのは当然のことだった。

「・・・あんまり持たないわよ。」
「分かっちゃいるんだがここをあけ渡すわけにもいかんだろう?」

ゲームと違って銃弾というものは消耗品だ。
撃てば撃つだけ減っていく。
ミサトも加持も残りの弾が心もとなくなってきていた。

「・・・これはいよいよ自分の心配をしなきゃならんか・・・」
「霧間さん達を見捨てるっていうの!?出来るわけないっしょ!!?」
「分かっちゃいるんだがこうまで一方的だとな・・・」

単純に銃口の数が違う。
こっちが2つなのに対して相手は10以上・・・これだけの差で一気に攻め込まれないのは自分達を人質にする意図があるためだろう。

しかしいずれは押し切られる。
そうなれば凪達どころか自分達も危険だ。
なにせ脱出しなければ本部そのものが消えるわけだから投降して人質になっても生きられない。

「実際問題残り時間もな・・・」

腕時計で確認すると残り時間は5分を切っている。
あのエヴァの巨体を数秒で地上に射出できるリニアレールだ。
ぎりぎりまで待つ事は出来るがそれにも限界がある。

「・・・一分だ。・・・それがデットラインだからな・・・」
「・・・・・・分かったわ。」

凪と亨には携帯で連絡してある。
分かってくれなどという気はないがやむをえない。

「ぐわ!!」

いきなり聞こえてきた悲鳴にミサトと加持が顔を見合わせて前を見る。
戦自の陣形が崩れていた。
その中心には日本刀を振り回す亨の姿・・・

「高代さん!!」
「間に合ってくれたか・・・」

戦自の隊員達は亨に銃を乱射するが・・・当たらない。
そこに来るのが分かっていると言う感じで避けられる

亨は銃弾を避けながら肉迫すると刀をふるう。
なんと言っても回りは全て敵なのだ。
目をつぶって振っても当たる。
しかし、亨の刃は血の花を咲かす事はなかった。
全ての斬撃は彼らの銃だけを的確に切り裂く。
程なく丸腰になった戦自の隊員は降伏する。

「・・・行け。」
「え?」
「ここはまもなく爆破される。生き残りたかったら逃げろ。」

亨はそう言うと通路の先を刀で示す。
隊員達は怪訝な顔だったが見逃してくれるならこれ幸いと駆け出してケージを出て行く。
それを見届けた亨はミサト達に近づいた。

「良かったの?」
「今は余計な事にかかわっていられない、発令所は占拠されたようだ。」
「予定通りね」
「他は?」
「凪さんと司令・・・それにムサシ君達が・・・」

ズン!!

いきなりケージの壁が爆発した。
三人が思わず構える。
煙の中から出てきたのは凪だった。
その後ろにムサシ、さらに後ろにマユミを背負ったゲンドウと冬月がついてくる。

「間に合ったか・・・」

加持がほっと胸をなでおろす。
これで本部に残っているいのはここにいる人間だけだ。
ミサトがゲンドウに背負われているマユミを見て顔をしかめた。

「山岸さんはどうしたの?」
「力の使いすぎだ。ここではどうにもならん」

凪が悔しそうに呟いた。
それでおおよその事態を飲み込んだミサトがゲンドウを睨む。

「・・・・・・」
「・・・いろいろ言いたい事はありますが時間がありません。急いで脱出の準備を・・・」
「わかった。」

ゲンドウはマユミを背負ったままコンテナに向かう。

「・・・すまなかった。」

ミサトと凪の横を通り過ぎるとき、ゲンドウはそれだけを呟いた。
無用な言葉は言い訳にしかならないことを知っている男だから

ドン!!

一発の銃声がケージ内に響いた。

「「「「「な!!?」」」」

同時にゲンドウが倒れた。

「きゃ!!」
「くお!!」

ゲンドウが背負っていたマユミが背中から落ちそうになるが痛みに顔をしかめながらもゲンドウが地面に叩きつけられる前に受け止めた。
慌ててムサシとミサトが駆け寄る。

「くっ!!」

凪が銃声の方向を見ると戦自の隊員達が駆けて来る。
先頭にいるのはさっき亨が見逃した隊員だ。

「ふざけるな!!」

凪の両手に特大の火球が現れた。
躊躇なく迫ってくる隊員達に投げつける。

「!!!!」

隊員達は火球に呑まれて悲鳴すらも灰になった。

「司令!!」

ミサトの悲鳴に我に帰った凪達もゲンドウの元に駆けつける。

「ぐ・・・っくぐ・・・」

ゲンドウは太ももを抑えてうなっていた。
ズボンが血で赤く染まる。

「弾は貫通しているのか?」
「まずいな、出血の量が多い・・・どこか太い血管が撃ちぬかれたんだ。」

床に赤い水溜りが広がっていく。
しかし、ゲンドウはそれに構わず床に倒れて状況がつかめないでいるマユミを血に濡れた指で指した。

「な、何が起こったんですか!?」
「わ、私はいい・・・時間がない、早く彼女を連れて脱出しろ」
「六分儀!?」

冬月が呼びかけるがゲンドウの顔色は悪くなっていく。
急速に血を失っているため貧血になりかけていた。

「この傷ではたすからんだろう・・・」

ゲンドウの傷は致命傷に近い。
すぐに処置して輸血すれば何とかなるがこの状況ではそんな物は望めない。
治療が出来る能力を持つレイは外で戦闘中だ。
すぐにコンテナに載せて脱出したとしても傷をふさがない限りゲンドウは死ぬ。

「すまない・・・俺のせいだ。」

亨が沈んだ声を出す。
その顔は悔しそうにゆがんでいた。
彼らを逃がさなければゲンドウが撃たれる事もなかったかもしれない。

「いや・・・もともと捨てた命だ。」

ゲンドウの声は穏やかだ。
死を覚悟した者の顔になっている。
しかしその顔に怒りの表情を向ける者がいた。

「捨てた命ならそれを俺が拾っても文句ないな?」
「なに?」
「出血さえ止めれば助かるかも知れん。」

声の主は凪だ。

「お前は色々な責任を取らなきゃならん、世界にも子供達にも・・・そしてシンジにも・・・」
「シンジか・・・いまさら許されたいと思うことさえおこがましい。」
「許されるなんていう時点はとっくに過ぎている。俺は責任を取れと言ったんだ。」

凪が何をするつもりか悟った亨が刀でゲンドウのズボンを切り裂いて傷口を露出させる。
それを見た凪の両手に炎が宿った・・・他の人間も凪のする事を悟る。

「責任か・・・」
「そうだ責任だ。死んだくらいで許されるほどお前の罪は軽くない。傷口を焼いて出血を止める。」

ゲンドウは凪の言葉を一瞬だけ考えた。
しかし、答はすぐにゲンドウの口から漏れる。

「頼む」
「分かった。」

凪はつなぎから包帯を取り出すとゲンドウの口に詰め込む。
痛みで舌を噛み切らないための用心だ。

「・・・まさか保健医の分際で野戦病院の真似事をする事になるとはな・・・」

両手に灯した最小限の炎で太腿の前後に開いた傷口を同時に抑える。

「■■■!!!」

包帯を詰め込まれたゲンドウの口からくぐもった声が漏れた。
数秒間、傷口を焼いて出血がとまったのを確認するとゲンドウは冬月に肩を借りて立ち上がる。
気絶しなかったのはさすがというしかない。

ゲンドウはもうマユミを背負うことは出来ないので代わりに加持がマユミを背負って全員がコンテナに乗り込んだ。

「何時も思っていたけどこれってジェットコースターみたいよね、ちょっち興味あったのよ・・・こんな状況で乗る事になるとは思わなかったけど・・・」

ミサトが震えた声を出す。
恐怖を無理やり軽口で押し込んでいるようだ。
全員がシートに座ってベルトを締めた。

「シンジがいうにはしゃべっていると舌を噛むらしいぞ」
「了解!!」

射出レバーを引くと同時に全員に縦方向のGがかかった。
わずか数秒後には地上に射出され、放り上げられた上空でパラシュートが開く、さらに連動して下部のエアバックが開いてコンテナは安全に地上に着陸する。

ズン!!

ミサト達が外に出てリツコ達と合流した瞬間、射出口から炎が上がった。
それを見たネルフ職員達は本部の完全消滅を悟る。

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「ちっ!!」

シンジは舌打ちと共に初号機を後方に飛ばす。
真正面には巨人が自分を捕まえとうと手を伸ばしてきていた。
その巨大な腕を寸前でかわしす。

「なんなんだよ、このタフさは!!」

思わずシンジが叫んだのも仕方がない。

巨人は全身に槍や斧をはやしていた。
自分に刺さったソニックグレイブやスマッシュホーク、マゴロクEソードさらにはロンギヌスコピーまで刺さっているがそれらを抜こうともせずにただ初号機を捕まえようと愚直に手を伸ばして来る。

どんな攻撃をしてもその歩みが止まらない。
しかもなぜか他の皆には目もくれずシンジの初号機だけを狙っている。

『シンジ君!!避けて!!!』

通信機からの声に聞き返す事もなくシンジは初号機を横に飛ばした。
さっきまでいた場所をミサイルが飛んでいく。

ズガン!!

色々な破壊音が一度に響き、それにふさわしい衝撃が来た。

『大丈夫?』
「マナ?」

モニターを見るとガンヘットの武装の全てから煙が出ていた。
全弾打ち尽くしたガンヘットが後部ウエポンラックと腕の4連装ミサイルポットを破棄して近づいてくる。

『ありったけのミサイルを発射したわ・・・これでいくらなんでも・・・』
「いや・・・無理だろうね・・・」
『え?そんな・・・』

風がミサイルの爆煙を押し流した。
煙が晴れた先にいたのは爆発でぼろぼろの巨人・・・しかしミサイルで受けた傷は急速に修復を始めていた。

『S2機関!?あれだけの爆発でも修復するの!!?』
(無限の再生か・・・別に珍しくもない能力だが少し厄介だな・・・)
「あの大きさに加えて再生能力も尋常じゃないって詐欺っぽくありません?少しどころの厄介さじゃないと思うんですけど・・・」
(まさかあれほどとはね・・・)

さすがにブギーポップも呆れている。
どうやらこの巨人・・・見た目は人間みたいな姿をしているのだが内情はどうもバクテリアに近いらしい。
頭や心臓の位置に衝撃波をぶち込んでもまったくこたえず即座に再生してしまうのだ。
腕や脚をフィールドのワイヤーで切断してもトカゲのように生えてくるために埒が明かない。

「多分S2機関9つがそれぞれ補完しあっている結果だと思うんですが・・・・」
(その全てを一度に黙らせるのは難しいな・・・)

さすがに切り離された部分が自己再生して巨人の数が増えると言うことはない。
おそらくは体内に取り込んだS2機関が補完しあっているためにその循環から外れてしまった部分には再生の恩恵が働かないのだろう。
しかし同時にその循環の中にある本体だけは文字通り不死身だ。

(物理的な破壊力では無理だな・・・)
「物理的じゃない・・・概念的な力ならいけるって事ですか?」

どんなに破壊しても再生するのだから物理的な力で殺しきれないのは確かだ。
そしてこの場にそういうことの出来る概念能力の使い手は一人しかいない。

「・・・【Impact of nothing】(無の衝撃)ですか・・・」
(君にしか出来ない。)

アスカ、レイ、カヲルの能力は物理的な破壊の域を超えていない。
もちろんガンヘットも問題外だ。
この不死身の巨人を文字通り消し去る事が出来るのはシンジの初号機しかない。

「・・・アスカ、レイ、マナ、カヲル君」
『何!?』
『はい?』
『シンジ君・・・どうしたの?』
『何かあったのかい?』

シンジの呼びかけに全員がこたえた。

「これから【Impact of nothing】(無の衝撃)をつかう」

通信機の先で息を呑む音が聞こえた。
シンジから話を聞いて存在する事だけは知っているがシンジ以外誰もそれを使った事を覚えていないある意味究極の能力・・・【Impact of nothing】(無の衝撃)

『ち、ちょっと大丈夫なの?それってかなり危険なんでしょう?』
「たしかに危険だしあんなわけのわからないものの存在をなかった事にしたらどんな影響が出るか想像もつかないけれど他に方法もなさそうだし」
『惣流さん、一体なんなんだい?その【Impact of nothing】(無の衝撃)っていうのは?』

唯一その能力の存在を知らないカヲルが会話についてこれずに聞き返してきた。
レイがカヲルに説明を始める。

『シンジ君の持つ最後の能力・・・その存在の全て・・・記憶、記録を問わずいたと言う事実すらも消し去る能力らしいわ。』
『それは・・・すさまじいね・・・驚異的って事さ、たしかにそのくらいの能力じゃないと無理か・・・でもなぜ「らしい」なんて曖昧なんだい?』
『誰もそれを使った事を覚えていられないからよ・・・』
『なるほど・・・それで?僕達は何をしたらいい?』

理解の早いカヲルの言葉にシンジは頷いた

「あいつの動きを止めてほしい、一瞬でいいんだ。その一瞬で【Impact of nothing】(無の衝撃)を作り出してあいつの中心に叩きこむ。」

【Impact of nothing】(無の衝撃)を確実に使うためにはかなり接近する必要がある。
そうなるとあの巨人の腕をかいくぐらなければならない。
さすがにあの巨大な腕に捕まったら初号機でも持たないだろう。
しかも【Impact of nothing】(無の衝撃)はかなりデリケートな能力だ。
制御を誤れば自分が消滅してしまう。
どうあってもあの巨人の動きを止める必要があった。

『わかった。道は僕達が作ろう』
『ひとりで勝手に言っているんじゃないわよ。』
『シンジ君は私が守るわ。』
『私も〜』

カヲル、アスカ、レイ、マナがそれぞれの言葉で承諾する。
そのあまりにいつも通りのやり取りにシンジは苦笑してしまった。
今までの経験でかなり神経が図太くなったらしい。

「・・・じゃ、行くよ・・・無理はしないで」
『あんたばかぁ〜無理をしなければこの世界がどうにかなっちゃうでしょうが!!』
「違いない」

左右非対称の笑みが自動的な口調で応えた。

「さあいこうか・・・全てを終わらせに・・・」

同時に全員がかけだした。
いまさら呼吸をあわせる必要もない。
先行する赤と鋼鉄の風はアスカとマナ

百鬼夜行

弐号機の周囲に【Tutelary of gold】(黄金の守護者)が現れた。
12体全てがソニックグレイブを持っている。

『いっけえ!!!』

アスカの号令の元【Tutelary of gold】(黄金の守護者)達が飛ぶ。
ねらうは巨人の左足

ズドドドドドドド!!!

連続して肉を貫く音が響く。
ソニックグレイブが左足の甲を貫いて地面のコンクリートに突き刺さった。
12本のソニックグレイブで地面に縫いつけられた巨人の左足が封じられる。

『無理すんじゃないわよマナ!!』
『そんなこといまさらでしょう!?ケイタ!!』
『任せろ!!』

弐号機を追い越してガンヘットが巨人の右脚に迫る。

『どっせい!!』

ガンヘットはそのまま巨人の脚に体当たりしてしがみ付く。
メインアームが悲鳴をあげるが問答無用に締め上げる。

『ケイタ!!』
『分かっている!!』


ガンヘットのコックピットブロックがスライドして射出された。
きっかり5秒後に、轟音と共にガンヘットが大爆発を起こす。
零距離での爆発は巨人の右脚を膝上まで吹っ飛ばした。
さすがに巨人も耐えられずに体が後ろに倒れ始める。

『次は僕たちか・・・行こうかリリス?』
『綾波レイ』
『ん?』
『私は綾波レイよ・・・タブリス・・・』
『そうか・・・そうだね、すまなかった。なら僕の事もカヲルと呼んでくれないか?レイさん?』
『わかったわ、カヲル・・・』

零号機と参号機が前に出る。
零号機はその手にポジトロンライフルを構えている。
参号機はその左手にオレンジの輝く光が集まりだしていた。

『・・・先、行くから』

鎧袖一触

レイの零号機がポジトロンライフルの引き金を引いた。
【Power of good harvest】(豊穣なる力)によって強化されたエネルギー弾は巨人の右手を肩の部分から削り取る。

『いくよ!!!』

カヲルの参号機が左手を開くそこにあったのは光り輝く光球

『は!!』

振りかぶった参号機の右手に篭手のようなフィールドが発生する。
躊躇なく振るわれた右拳のストレートが光球を殴り飛ばし、砲弾となったフィールドが巨人に迫った。


ドン!!


狙いたがわず、左のひじの部分に命中したフィールドが腕を削り取った。


ズズン!!


四肢の自由を失った巨人が仰向けに倒れた。
地震のような揺れが第三新東京自然体に波紋のように広がる。
すぐさま巨人の失った四肢の再生が始まるが・・・間に合わない。

仰向けに倒れた巨人は青い空から自分に向かって舞い降りてくる紫の死神を見た。


パン!!


白く輝く両手を拍手のように打ち鳴らす。
開いた両手の間には白い光球が浮かんでいた。

舞い降りてくる初号機は光球を振りかぶると巨人の鳩尾に叩きつける。
光球が当たった部分を中心に光が溢れ出し巨人の体全体に広がっていった。

徐々に巨人の体が光に消えていく・・・

「ん?・・・こいつ・・・」
(ほう・・・)

完全に消え去る一瞬にシンジ達はある事に気づいた。

しかしそれもほんの瞬きの瞬間、確かめる間もなく巨人は白く輝きながら消え去る。
あとには何も残らなかった・・・何一つ・・・そして全てが無に帰り・・・終わった。






To be continued...

(2007.09.22 初版)
(2008.01.19 改訂一版)


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