未来はわからないから面白い?

それは最悪の未来を知らないからだろう?






Once Again

第二話 〔其の名は予言者〕

presented by 睦月様







上下左右真っ白な空間・・・虚数空間・・・
距離すらもあいまいで何ものも存在しえない空間にありえないものがいた。

「時空の流れとゆがみを考えればこのあたりに”流れてきている”はずなのだが・・・」

シンジの体に入ったアダムは虚数空間の中でありながら普通に周囲を見回していた。
空気すらない場所で両手をカヲルのようにポケットに入れて平然としている。
しかしその顔には多少あせりのようなものが見受けられた。

「この体ではそれほど無理も出来ない。碇シンジの肉体は他のリリンより我に近いといっても限界がある。・・・一旦出直すべきか・・・」

どうやらアダムはこの世界で何かを探しているようだ。
おおよその当たりをつけてこの世界に来たのはいいが空間が広すぎて目的のものが見つからないらしい。

「やむをえんか・・・ん?あれか?」

あきらめようとしたアダムの視界にぽつんと点のようなものが目に止まった。
アダムは周囲のフィールドを調整して点の方向に進んでいく。
かってカヲルがドグマでやったのと同じ原理だがそのスピードは比較にならない。
時間もないことであせりもあるのだろう。

小さな点でしかなかったそれが急速に大きくなってくる。

「まちがいない・・・これだ」

それは大地だった。
直径数キロに渡る半球状の地面だ。
球状の部分は滑らかにくりぬかれたようになっている。

「この上か・・・現存しているかは賭けだな・・・」

アダムは半球の面の部分に移動する。
円状の面の部分はもともと平原の一部だったのだろう。
石やら木やらがそのままの形で残っていた。
そして円の中心には明らかに人工の建築物・・・

「さて・・・完全な形で残っていればいいが・・・」

アダムは建物の近くまで移動する。
正面のゲートに降り立ったアダムはそこに書かれている文字を見た。

大きなロゴで書かれた文字は〔USA/NERF・NOU〕・・・

以前、四号機のS2機関搭載実験でディラックの海に呑まれたアメリカの第二支部だ。
しかしアダムはそんなことはどうでもいいと言わんばかりに足を進める。
実際興味は無い。

ケージの前に来たアダムは周囲を確認して電力が供給されているのを確認する。
自家発電機能は基本のようだ。
まだ電力が供給されているのはありがたい。
カヲルと同じようにカードリーダーを見るだけでシャッターが開き始めた。

アダムは開いたシャッターの中に入る。

「ふむ・・・」

そこには男がいた。
驚愕に目を見開き、苦しそうに喉を押さえている。
その何も写していない瞳がアダムの赤い瞳と交差する。

「ここにいた職員達か?」

周りを見回せば他にも数人漂っている。
男女は問わないが全員に共通することは全身の穴から血や体液を流していると言うことだろう。
ミイラ化しているものまである。

虚数空間は宇宙空間に近い、空気も何もない世界だ。

人間はそんな空間で生きていけるようには出来てはいない。
流れ出した血が黒く変色してひび割れているのはかなりの時間が経っている証拠だ。
おそらく虚数空間に呑まれた時点で死んだのだろう。

すべての死体が腐敗せずそのままの姿でミイラになっているのは腐敗させるバクテリアすらも死んだからだ。
生前そのままの格好の死体はリアルな蝋人形のように宙に漂っている。
まるでゾンビ映画のように今にも動き出しそうだ。

「さて・・・あれはどこにあるんだ?」

しかしアダムはそんなことは気にしない。
もともと見知らぬ他人の死を悼むような殊勝さは持ち合わせていなかった。
哀れな犠牲者達を完全に無視して目的のものを探して進む。

第二支部の入り組んだ通路は本部と似ている。
テロ防止のためだろう。

アダムはところどころにある案内板を頼りに邪魔になる職員の死体を無造作にどかしながら目的の場所を目指した。

それは四号機を置いてあるケージ・・・

「これか・・・」

多少は道に迷ったもののアダムは四号機のケージにたどり着いた。
ミサトとは違うらしい。
拘束台にあるのは銀色の巨人・・・エヴァ四号機だ。
その周囲に浮いている職員の死体はS2機関搭載実験をしていた職員のものだろう。
しかしそんなものはアダムの興味を引かない。

「やはりフィールドの発生によるディラックの海の展開か・・・これなら本体は無事だな・・・」

見たところ四号機に目立った傷は無い。
アダムの予想は当たっていたようだ。

一通り確認するとアダムは四号機に近づいていく。

赤い海でシンジたちと共有した記憶を元に四号機の延髄あたりに降り立つとその装甲にある取っ手を引いた。

ピー!!・・・プシュ!!


軽い電子音とともに装甲の一部がスライドして簡易コンソールが現れる。


アダムは再びそれを睨んでロックを解除すると四号機のエントリープラグが排出された。
アダムは空中を移動してエントリープラグにたどり着く。

「やはり無人か・・・都合がいい、下手に異物が入っているとやりにくくなってしまうからな・・・」

アダムの言う異物とは近親者によるエヴァの制御方法だ。
本来はその方法を取らなければエヴァは起動しないがアダムは使徒だ。
そんな面倒なプロセスを経る必要は無い。
むしろ近親者など取り込んでいたほうが扱いづらいほどなのだ。

幸いこの四号機にはまだパイロットの近親者は取り込まれていなかったようだ。
近親者のインストールされたコアにいきなりS2機関を載せるよりまずはS2機関のみを搭載したコアを作り出す実験だったのだろう。
そもそも、近親者をインストールすればそのパイロットはチルドレンに登録される。
しかしチルドレンは全部で5人しかいない。
そのすべてに専用のエヴァが存在していた。
唯一それが無かったのはカヲルだが彼の場合、アダムと同じように誰かを取り込んだコアのほうが扱いづらいだろう。

パイロットとなるべき人間がまだ決まっていなかったのだから、この四号機に人間が取り込まれていないのは当然だった。

アダムはエントリープラグの中に入ると再び視線を走らせた。
同時に自動でエントリープラグが収納される。
ここで本来ならLCLがプラグ内を満たすのだがアダムにその必要は無い。
カヲルと同じようにその気になれば魂の無い四号機など外からでも操れる。

「さて・・・ここまでは順調か・・・シャムシェルのコアを再生して使っているのだったのだな・・・まずは我と同調させねば・・・」

四号機の瞳に光がともる。
中にアダムを取り込んだことでS2機関が活性化しているようだ。

GUAAAAAHAAAAAA!!!

鍔部ジョイントを破壊して四号機が吼える。

「うまく行ったか・・・しかし望んで自分から起こすことになるとはな・・・」

アダムは苦笑した。
その間も四号機の変化は続く。
アダムとシャムシエルのコアを取り込んだ四号機が相互に干渉しあって内包するエネルギーを高めあっているようだ。

「さあ、碇シンジ・・・ここからはじめよう・・・」

GUARRRUAAAA!!!!

四号機の吼声と共に内包されたエネルギーが解放された。
その力はすさまじく、空間に穴を開け、時間の因果すらも狂わせた。
フォースインパクトだ。

アダムは自分のやったことの成功とその結果にニヤリと笑った。

「せめてこの苦労の分くらいは楽しませてくれよ、リリン?」

膨大な力はアダムに制御され、ただひとつの目的のために使われる。
それは過去への時間逆行・・・すべてのやり直しを望んだシンジの願いをかなえる唯一の方法・・・

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2014年某月某日・・・ドイツ

『『かんぱ〜い!!』』

とある酒場で数人の男女がジョッキを掲げた。

『おめでとうミサト、本国に栄転だなんて』
『ありがと〜ん』

輪の真ん中にいるのは紫の長髪を揺らす女性・・・葛城ミサト
彼女は数ヵ月後、日本に向かう事になっている。
それを今日伝えられたのだが、酒を飲む口実のほしい友人達に捕まり、ちょっと気の早い送別会ということになった。
もちろん出国前にはまたきっちり送別会がある。

『もうすぐこのドイツビールとソーセージを食べれなくなるなんて悲しいわ〜』

ミサトはことさら陽気だ。
友人達には内緒だがミサトは日本に帰るとネルフと言う組織に所属する事になる。
役職は作戦部長・・・戦闘を指揮する立場だ。
戦うのは使徒・・・セカンドインパクトを起こした元凶であり自分の父の仇でもある。

使徒を殲滅する事は彼女の長年の夢だった。
それに続く道が示された事で多少どころかかなりハメが外れているらしい。
飲み過ぎでろれつが回っていないらしい。
足元もフラフラしている。

ドン!!
『あ、ごみ〜ん』

誰かにぶつかってしまいミサトは慌ててあやまった。

『あり?』

ぶつかった相手を見たミサトの顔に疑問が浮かぶ。
そこにいたのは小柄な人物だった。
いまいちはっきりしないのはその人物は頭からすっぽり魔法使いのような黒いローブをかぶっていてフードで顔が隠れていて見えないからだ。

(こんな人店内にいたかしら?)

少なくとも自分の知り合いじゃないがこんな目立つ格好の人間に今まで気づかなかったなんて・・・

「気にするな、葛城ミサト」
「あら?」

ミサトは二重の意味で驚いた。
一つは目の前の人物が自分の名前を知っていた事、もう一つは・・・

(日本語?)

目の前の人物の言葉は日本語だった。
ここはドイツだ。
基本はもちろんドイツ語で日本語を話す人間などそうそうお目にかかれるものでは無い。

「・・・ねえ、貴方私の事知っているの?」

ミサトは日本語で返した。
この時点ですでに自分の知っている人間と言う可能性は消えた。
小柄な体格的なものと日本語を話すという事実の二つを満たす知り合いはいない。
酒に酔っていてもその程度は分かる。

「良く知っている。葛城ミサト、おまえもあの時あの場所にいたからな、一瞬だがお互い目があったのを覚えているか?」
「え?・・・ゴミン、全くわからないわ・・・あの時って何時?あの場所って何処?」
「お前が片時も忘れられない場所と記憶、その中に我がいる。」

理解出来なかった。
案の定ミサトは首をひねっている。

謎の人物は肩をすくめた。

「し、、仕方ないでしょう?全く見覚えないんだから!!」
「ふむ、まあ仕方ないか・・・どうせいずれ知ることだしな・・・焦る必要もない。」
「なにそれ?まるで予言ね・・・」
「予言か・・・」

ミサトの言葉に何か考え込むと頷いた。

「それはいいな、予言・・・予言者・・・我は予言者と名乗ろう。」
「へ?どう言う事?」
「気にするな、今からそれを教えてやる。向こうの席に来い。」
「偉そうね・・・」

かなり不審な人物だがここまで言われれば引き下がれない。
ミサトはしぶしぶ予言者について歩き出す。
この時点で何も気づけなかったのはミサトが酒に酔っていたからだろうか?
周りの人間が誰も二人の事を気にしなかったのだ。
まるでその一帯が周りから”拒絶”されているかのように・・・明らかに異常だった。

「こちらもわりと急ぎでな、お前の後に13・・・いや、14か・・・に予言をして回らなければならん。」
「え?なにそれ?宗教の勧誘かなんか?」
「まったく違う。」

ミサトは予言者の言っていることがまったく理解できなかった。
しかしそんなミサトを無視して勝手に予言者は話を進めていく。

目的の椅子にたどり着くと予言者はさっさと座ってしまったのでミサトも対面に座る。

「それで?私の未来を教えてくれんの?」

予言者の対面の席に座ったミサトは挑戦的な視線を預言者に向けた。
ここまでされてドッキリでしたなどといわれればさすがにミサトでも怒るかもしれない。
帰ってきた答えは予言者の苦笑だった。

「そうなるな」
「とびっきりの予言を一丁頼むわよ」

陽気な口調でミサトが促した。
ミサトの言葉を聞いた予言者の唇が邪悪に歪む。

「葛城ミサト、お前は世界の終焉の引き金を引く事になる。」
「な!!」

ミサトが叫んだのも仕方が無い、目の前の人物は自分が世界を滅ぼすことになるなどと言ったのだ。

しかしそれに気づくものも気にとめるものもいなかった。
二人の周囲は周りのすべてを”拒絶していた”から・・・興奮したミサトが予言者に食って掛かる。

「何言ってんのよアンタ!!」
「日本に帰ったお前は自分の復讐のために必要なエヴァンゲリオンを見る事になるだろう。」
「な!・・・あんた何処でそれを・・・」

ミサトの酔いが一気に冷めた。
予言者が言った事はまだネルフの上層部など一部の人間しか知らない事実だ。
少なくとも一般人が知っている情報ではない。

「いずれ分かる。今は黙って聞け、続けるぞ・・・エヴァはお前を受け入れない。だからお前は自分の身代わりに乗れる人間、チルドレンと呼ばれる子供達を使う事になる。」
「まさか・・・アスカの事まで知っているの!?」
「些細なことだな、お前は自分の復讐を世界を守ると言う大義名分で覆い隠して彼らを戦場に送り込むだろう。仕方ない、他に方法がないと免罪符を振りかざしてな」
「ど、どう言う事よ!!そんな・・・わたしは・・・」
「自分はそんな事しないとでも言うつもりか?お前は確実にそれをやる。・・・なぜならば他にお前の復讐を成し遂げる方法がないからだ。」

ミサトは反論できなかった。
自分が日本に帰ってやる事は正に予言者の語る通り、子供達を戦場に送り出す仕事だ。
今までは世界のため、人類のためと言う事で考えないように・・・気づかないようにしていたがそんな言い訳は予言者に免罪符だと切って捨てられた。
もはや自分の復讐と言う動機を覆い隠すベールは一つもない。
残りは剥き出しの復讐をさらけ出した自分だけだ。

「お前は結局それに終始して子供達や周り、そして自分を傷つける。そして最後は子供達の一人を戦場に送り込む事で最後の引き金をひき、自分は暗い地下深くで誰にも見とってもらえないままにおまえは死ぬ。」
「それが私の運命?」

なぜか「嘘だ」とは言えなかった。
目の前の人物には冗談の気配も嘘の気配もない。
感情の変化すらない様に思う。
ただ自分の知っている事を淡々と口にしているだけと言う感じだ。

予言者は黙って頷く。

「・・・しかしそれは本来お前の意思なのか?」
「え?」

予想もしない言葉にミサトが意表をつかれた。
予言者も首をひねっている。
何か腑に落ちないことがあるらしい。

「お前は父親の事をどう思っていたのか・・・愛していたのか憎んでいたのかすらわからないはずだろう?それなのに15年も復讐を忘れずにいる事が出来るものなのか?限られた時間しか持たないリリンにとって決して短くは無いだろう?」
「な、何が言いたいの?」
「お前・・・失語症に陥った時期があるはずだな?」
「っつ!!そんな事まで知ってるの!?」

ミサトの叫びが叩きつけられた。
しかし、予言者は全く気にせず話しつづける。

「あるいはその時か?」
「なにがよ!?」
「葛城ミサト・・・お前は確かにセカンドインパクトを起こした使徒を恨んでるかも知れん、しかしただそれだけでもなかろう?リリンは時間と共に記憶や執着が薄れていくものらしいからな・・・洗脳ではここまで自由意志が残っているわけがないから暗示のほうか?」
「あ、暗示ですって!?」
「おそらく憎しみを忘れないように・・・使徒に対する恨みが色あせないようにしていたというところか。」

ミサトの顔が青ざめる。
予言者の言葉を認める事は出来ないが否定も出来なかった。
なんと言っても失語症の頃は記憶が曖昧なのだ。
何者かにマインドコントロールをされていたとしても抵抗すら出来なかっただろう。
失語症で心を閉ざした状態の自分に暗示をかける事はたやすい。

しかし、そうなると・・・

「ち、ちょっと待ってよそれじゃ私の15年は・・・この忘れられない気持ちもみんな・・・」
「見当違いの復讐を抱いて生きてきたということだ。それもすべては他人の書いたシナリオの上と言う事になる。まあ洗脳じゃなく暗示なら自分が自覚した時点で徐々にとけていくだろう。大した問題じゃない。」
「そんな・・・嘘よ!!」
「別に信じる必要は無いが・・・これから言う事をよく聞くんだ・・・葛城ミサト」

予言者の口調が変わる。
さっきまでの威圧的な物ではなく、親が子供に言い聞かせるような穏やかで・・・しかし反論できないような奇妙な雰囲気
ミサトはびくっと体をこわばらせた。
まるで親に悪さを注意される子供のような気分だ。

「お前達は群体として進化した種だ。それゆえに他の単体に進化した種には絶対持ち得ない感情を持つ。」
「え?他の種に持ち得ない感情?」
「それは共感、あるいは連帯感、強い意思はえてして周りを巻き込む。お前達は群になったときにこそその真価を発揮する。・・・単一で唯一のほかの使徒には持ち得ない感情だ・・・しかし・・・」

予言者はため息をつく。
ミサトはそのため息に哀れみが含まれているのを感じた。
それはミサトに向けたものではない・・・人類という種に向けた哀れみ。

事情を知らないミサトには理解出来ないが予言者は知っている。
この世界はゼーレ、そしてネルフと言う人間の集団の力によって滅ぶと。
すでに人類はこの世界を滅ぼす可能性を自分達の中に内包しているのだ。

「ど、どうかしたの?」

いきなり黙った予言者にミサトがいぶかしげな声で聞いた。
予言者も思考の海から引き戻される。

「・・・いや・・・話を戻そう・・・葛城ミサト?強い思いは周りの人間を巻き込む、役職などがつくと特にな・・・しかし・・・強い感情は往々に置いて負の感情からもたらされることが多いのを知っているか?」

ミサトは予言者の言葉に息を呑んだ。

予言者はミサトの復讐心がまわりにいる人間達を巻き込むといっている。
そしてミサトもそれを理解した。
彼女の願う復讐は自分以外の周りを巻き込まなければ成立しない。
果たして自分の抱いている使徒への復讐は周囲を巻き込んで命を賭けさせるだけの価値があるのか・・・予言者に使徒への復讐を暗示のせいじゃないかといわれたミサトには自分の心に自信がもてなかった。

「葛城ミサト・・・お前はその復讐心は周りの人間を巻き込むのに十分だ。そしてその共感は大きな力となって悲劇を加速させる。」
「わ、私は・・・」
「それを止める事が出来るのもお前だけなのだよ。お前の復讐心から生まれる連鎖はお前にしか断ち切れない。自分が本当は何を守りたかったのか・・・本当に大事な物は何なのか・・・全てが終わってしまったあの世界では何もかもが遅すぎた。しかし今なら・・・まだ間に会う。」

その言葉に含まれる感情の名は憐憫・・・予言者は初対面であるはずのミサトに同情している。
ミサトはなぜかその言葉に反論できなかった。
まるで自分が悪いことをした相手に許されるようなそんなやるせなさを感じる。

「・・・考えろ、葛城ミサト・・・このままではあの葛城の起こした悲劇よりも大きな悲しみを生む事になる。それを回避する答を探し出せ。」
「え?あの葛城って・・・まさか!父さんを知っているの!?」
「良く知っているさ、あまりいい思い出ではないがな・・・」

不機嫌に言い捨てると予言者は席を立った。
もはや語ることはないという明確な態度だ。
それを見たミサトもあわてて立ち上がる。

「待って!!まだ聞きたい事があるのよ!!」
「最初に言ったはずだな我はこれでも忙しい・・・後は・・・」

予言者はローブから左手を出した。
掌の上に白く淡い輝きをもつ光球が浮かび上がる。

「自分で思い出せ」
「え?っきゃあああ!!!」

予言者は光球をミサトの鳩尾に叩きこんだ。
その瞬間全身に広がった形容も出来ない感覚、快楽でも苦痛でもあるそれがミサトを内側から犯す。
感覚がおさまるとミサトは放心した。
椅子に崩れ落ちてテーブルに突っ伏す。
急速に意識が奪われていく感覚に必至に抗いながらミサトは予言者を見上げた。

「あ、貴方は・・・」
「ん?まだ意識があるのか・・・思ったよりタフだな・・・」
「だ、誰なの?何処で私と会ったの?」

それだけは聞いておきたかった。
自分の事をこれほど知っている目の前の人物は誰なのか・・・言っている事を信じれば自分もこの人物を見た事があるらしい。

「・・・まあいいか」

予言者はフードをはずした。
その下から表れたのは白い髪と赤い瞳・・・

「だ、だれ?」

やはり見覚えがない。
こんな印象的な人物を見忘れるわけがない。

「言っただろう?自分で思い出せ、親子2代に渡って悲劇の引き金をひかないために・・・考えるんだ。今ならまだ間に合う。まだ何もはじまっていない。復讐に固めた手を開いて誰かを救うことも出来るだろう。それこそが彼の願ったやりなおしだ・・・彼が命をかけて作ったこのチャンスを無駄にするな・・・そのために今は”未来を知れ”」

それを聞いた瞬間、ミサトの意識は闇に落ちた。
予言者は机に突っ伏してピクリとも動かないミサトを無表情で見下ろす。

「・・・他の誰を裏切っても彼の期待を裏切る事だけは許されない。お前だけで無く、他の誰にも・・・おまえ達にはそんな権利はすでに無いのだよ。」

予言者はそう言うとミサトに背を向けて酒場を出て行った。
しかしそれを見咎めたものは誰もいない。

『あれ?葛城は何処だ?』

予言者が出て行くと同時にパーティに参加している友人がミサトの姿が見当たらないことに気がついた。

『ああ、あそこにいるぞ』

全員の視線が一箇所にあつまる。
そこにはテーブルに突っ伏したミサトの姿があった。
傍目には酔いつぶれているように見える。

『なんだ、葛城らしくないな、もうダウンしたのか?』
『浮かれすぎたんだろう?そっとしておいてやろうぜ』
『そうだな』

友人達の暖かい気遣いによってミサトは眠りつづけた。
三時間後、店の店員が閉店をつげるためにミサトの肩を揺さぶるが完全に意識の無いミサトに驚いて救急車が呼ばれることになる。

「・・・う・・・シンちゃん・・・」






To be continued...

(2007.04.28 初版)
(2007.06.30 改訂一版)
(2008.02.03 改訂二版)
(2008.04.19 改訂三版)


次回予告

予言者は告げる・・・

「しかし、結局その好奇心がお前を殺す。」

予言者は告げる・・・・・・

「誰も来ないとある工場の片隅で腹を撃たれ、ドブネズミのように一人死んでいく、それがお前の死に様だ。」

予言者は告げる・・・・・・・・・

「惣流・アスカ・ラングレー、お前のそのプライドがお前を追い詰める。」

予言者は告げる・・・・・・・・・・・・

「我から見れば死ぬのと大差ない状態になる。」

次回、Once Again 第三話 〔其れは連なる鎖のごとく〕

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