もし何かを望んで手に入れようとするなら・・・その手から零れ落ちるものはなんだろうか?






Once Again

第五話 〔其の希望と現実の差〕

presented by 睦月様







特務機関ネルフ本部・・・それは広大なジオフロントの中心にある白亜のピラミット・・・
これからこの地に来襲する使徒に対抗するために組織された秘密組織だ。
その存在意義は人類の滅亡を防ぐこと・・・

組織の中心ともいえる三台の有機コンピューターMAGI、それが据え置かれている場所は使徒殲滅の司令塔となる発令所・・・・

「本日付でここに配属になりました日向マコト二尉です。」

そう言ってめがねをかけた青年が敬礼をする。

「まあそんな堅苦しくしなさんな」
「そうよ、気楽にね」

応えたのは長い長髪の青年と童顔のショートカットの女性だ。
三人とも同じようなデザインの服、ネルフ職員の制服を着ている。

「俺は青葉シゲル、こっちは伊吹マヤ、二人とも同じ二尉だよ。」
「よろしくね、日向君」
「ちなみにマヤちゃんを侮る無かれ、こんな高校生みたいに見えるが二十歳だ。」
「ちょ!青葉君!!なによそれ!?」

ほほを膨らませるマヤはやはり二十歳には見えなかった・・・もちろんいい意味でだ。
年上に見られて嬉しいのはせいぜい20歳までだろう。

青葉の冗談に自然と三人の顔に笑みが浮かぶ。
全員、初対面だが雰囲気は悪くない。

「日向君は作戦部なのよね?」
「あ、はい・・・えっと伊吹さん?」
「マヤでいいわよ」
「マヤさんじゃなくてマヤ”ちゃん”な」
「また青葉君はそんなことを言って!」

再びほほを膨らませるマヤはやはりかわいくてたしかに”さん”というよりも”ちゃん”のほうが似合っている。
イメージ的にハムスターのように見える。
ぷんぷんと言う擬音が見えそうだ。

「もう!話がそれちゃったじゃないですか!?」
「はは、悪い悪い、俺は諜報部所属で直属の上司は副司令だ。」
「私は技術部所属で上司は先輩」
「先輩?」
「あ、ごめんね〜技術部長の 赤木リツコ博士、私の大学の先輩なの」

リツコのことを語るマヤは誇らしげだ。
どうやら彼女にとって赤木リツコは尊敬というか崇拝の対象らしいというのは初めての日向にも分かった。
青葉がやれやれと言う感じに苦笑しているところを見ると毎度の事なのだろう。

日向は二人の話を聞いていてあることに気がついた。

「あの、そういえば作戦部の、俺の上司の人は?」

作戦部に配属された日向だがいまだ上司に当たる人物の事は聞かされていない。
本来ならば同じ階級の青葉達より先に挨拶をするべき人物だ。

「ああ、その人ならまだドイツだ。」
「ドイツ?」
「数ヶ月先には日本に来るらしい。それまでお預けだな」
「お預け?」

青葉はにやりと笑うとまことを引き寄せて耳元に口を寄せる。
日向のほうはいきなりであわてた。

「実はな、作戦部の部長は赤木博士の大学時代の同級生らしい。」
「へ、へ〜」
「しかも美人で巨乳なんだと」
「き、巨乳!!」

思わず真っ赤になり、大きな声を出して日向は飛び退る。
天然記念物ものの初心な反応だ。
いまどき中学生でもこんなに分かりやすい反応はしまい。
そんな日向の反応を見た青葉は大爆笑を始めた。

「・・・不潔」

ボソッと、しかし聞き逃さないくらいの冷えた声が二人の耳に届く。
横を見るとマヤが二人を半眼で見ていた。
その瞳はどこまでもジト目だ。

「マ、マヤちゃん?」
「・・・・・・私、ジュース買ってきますね・・・なんでもいいでしょう?」
「あ、ああ・・・お願いします。」

マヤはずんずんと擬音がしそうな足取りで発令所を出て行った。
その後姿を日向が呆然と見送る・・・なんとなく声をかけづらかったのとタイミングをはずしたので見送ることしか出来ない。
ふと日向が横にいる青葉を見れば額に手を当てて罰の悪そうな顔をしていた。

「マヤちゃんが潔癖症なのをすっかり忘れていたな〜」

いまさら気づいても後の祭りである。
そんな青葉を見ながら日向はこいつとは友人になれるかもしれないと場違いなことを考えていた。

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「男の人って何であんな・・・」

ぶつぶつ言いながらマヤは自販機に硬貨を入れる。
マヤだって青葉の冗談くらい分かっているがそういう融通が効かないのが実に彼女らしい。
根がまじめすぎるのだろう。

ガコン

音とともに缶ジュースが一本取り出し口に落ちた。
マヤは取り出し口からジュースを取り出すと先に買っておいたもう一本と合わせて片手で持つ。
残りは後一本だ。

「あ!」

しかし片手に二本の缶を持っていたために手をうまく使えなかったマヤは自販機に入れようとした硬貨を落としてしまった。
ころころと転がっていく硬貨をマヤは追いかけるが硬貨はなかなか止まらない。

転がっていった硬貨は誰かの靴に当たってやっと止まった。

「あ、ごめんな・・・・」

靴の主を見たマヤはその場で固まった。
そこにいたのは絵本から抜け出してきたような魔法使いそのものだった。
普通なら誰何の声をかけるべきだがあまりの浮世離れした目の前の人物に呆然としている。

いきなり現れた人物は身をかがめて硬貨をひろうと無言でマヤに差し出す。

「あ、ありがとう・・・」

あまりに場違いな格好をした人物の登場にマヤの頭はこんがらがっているようだ。
じっと目の前の人物から目を離せないでいる
硬貨を受け取ったのも無意識に近いのだろう。

「あ、あの・・・あなただれ?」
「我の名は予言者だ。」
「よ、予言者?ってあのノストラダムスとか?」
「・・・近いものがあるかもな」

予言者は思う。
世界の終焉を予言した彼の大予言者・・・それはセカンドインパクトとして現実のものとなった。
そして世界の終焉をつげに来た自分・・・皮肉というべきだろうか?

フードにかくれた顔で唯一見える唇が笑みの形にゆがむ。
顔の半分が隠れるているために不気味だ。

それを見たマヤの顔に軽いおびえの色が浮かぶ。

「な、何かの仮装?」
「仮装・・・いや、すべて本気の話だ・・・仮なのは我の名前とここにいる理由だな・・・」

マヤは迷った。
はっきり言って不審人物だ。

見た目、中学生くらいの身長だから職員というのも考えにくい。
しかも話していることがどうも芝居がかっているように思う。
言っている事も良くわからない。

マヤは関わらないほうがいいと判断した。

「あ、あの・・・私発令所に戻らないと・・・」
「好きにするといい・・・我の予言を聞いてからな・・・」
「よ、予言?」

予言者はコクリとうなずく。
その間も唇は笑みの形のままだ。
何がおかしいのか三日月型に開いた口がさらに裂けたような気がする。

「伊吹マヤ・・・お前は人の道に外れた研究に巻き込まれる。」
「え?私の名前を知っているの?って言うか人の道に外れた研究ってなに?」
「人として守るべき倫理、それを逸脱した研究だ。」
「な、なにそれ・・・私はそんな・・・」

いきなり自分が人の道を外れると言われたマヤは明らかに混乱して狼狽していた。
しかし予言者はマヤが狼狽しようが混乱しようが関係ない。
淡々と話を続ける。

「お前はそれを断れない・・・なぜならばそれを指示するのは赤木リツコだからだ。」
「せ、先輩が!?そんなはず無いわ!!先輩がそんなこと・・・」
「彼の者はすでにそれに携わっている。お前は表向きにも裏の意味でも赤木リツコが助手にするためにネルフに呼び込んだのだ。」
「そんな!!」

予言者はマヤの言葉を完全に無視している。
まるでBGMとでも思っているかのようだ。

「そして伊吹マヤ・・・お前だけではなく日向マコト、青葉シゲルも含めたネルフの職員は使徒殲滅のために集められたわけじゃない。」
「え?」
「それは通過点だ・・・真の目的はサードインパクトを起こすこと、そのためのネルフだ。」

もはやマヤからの反論は無かった。
いきなりいろいろな情報を告げられて混乱のピークに達している。
思考が情報を処理し切れていない。

「そしてすべての終わりに繋がる殺戮の中・・・血臭の漂う暗闇で、お前は自分を殺そうとしてくる者達を殺すことすらためらうだろう。人道的にはほめられるかもしれんが己の道を他者に委ねるという事でもある。結果としてお前は最後まで現実を認められないままに原初に帰るだろう。」
「な、なによそれ?」

マヤは笑おうとした。
言われたことは衝撃的だったがなにも証拠がない。
子供の妄想・・・案外そういう類のドッキリかもしれない。
どこかで自分が困っているのを見て皆で笑っているのかもしれない。
マヤは思ったことを口にしようとして

「伊吹マヤ・・・」

・・・出来なかった。
フードのしたから覗いた赤い瞳に言葉どころか動きさえ封じられたのだ。
身じろぎどころか視線をそらすことさえ出来ないような畏怖
それでいてどこかに懐かしささえ感じさせる真紅の瞳

「・・・すべては真実だ。お前が信じる信じないに関わらず。ネルフがやろうとしていることは変わらない。赤木リツコがやろうとしていることもな、その上で聞くが・・・お前はこれからどうする?」
「ど、どうって・・・」
「ネルフがやろうとしていることが正しいか正しくないかはこの際問題じゃない。他人の目にどう写ろうと本人にとっては正しいなどということは良くあることだ。しかし、お前たちの言う人の道に外れているのは間違いがない。お前はそれを許せるのか?」

マヤは信じられないといった顔になる
荒唐無稽な話だ。
むしろ信じるほうが異常ともいえるが、それにマヤの問題はもう一つある。

「お前にとって赤木リツコがどういう存在かは知っている。しかしだ、ただ言われたことを聞いて実行するだけなら赤木リツコの中でお前は都合のいい部下でしかない。人形やコンピュータと同じだ。」
「そ、そんな・・・」
「友人だって友が間違ったことをすればいさめる・・・お前にそれが出来るか?」
「それは・・・」

即答できない問題だ。
マヤはリツコを尊敬している。
それは信仰に近いほどに・・・いざ彼女が道を誤ったときに自分にそれをいさめることが出来るかどうか・・・

「何でそんなことを・・・」
「・・・伊吹マヤ、間違ったことをしていると知っていながら・・・なお見過ごすのは尊敬でも友情でもない・・・だとすればお前はやはり赤木リツコにとって都合のいいだけの存在だ。お前はそれでいいのか?」

予言者は驚愕の瞳で自分を見てくるマヤを無視するとローブから左手を出した。
そこにはすでに光球が浮かんでいる。

「ここに真実がある。」
「え?」
「・・・ある意味世界を変えることの出来る真実・・・だがそこにはお前の意思が必要だ。」
「私の?」
「覚悟と言い換えてもいいだろう。真実とは、世界とは本来不可侵なる流れだ。その流れに歪みを生むためには大きな力が要る。少なくとも自分を殺そうとする人間におびえる程度の意思では波紋を起こすことも出来はしない。・・・さて、伊吹マヤ・・・話が長くなったがこの真実・・・受け入れるか否か?」

予言者の左手に浮かぶ光球をマヤはじっと見た。
まるで白雪姫に毒リンゴを勧める魔女のような構図だ。

正直なところ予言者の言うことは半分も理解できなかったがこれだけは分かる。
予言者は冗談でもなんでもない。

彼の言う通りに世界が進めばとんでもない事が起こる。
それを知るゆえに予言者はマヤに問いかけているのだ。
中途半端な思いつきでは無い答を求めている。

「わかったわ・・・でも貴方はいったい・・・」
「・・・今の我はかりそめの存在だ。名前もここにいる理由も・・・」
「え?どういうこと?」
「我は代理でしかない。本来ならこれを行うはずだった彼の代わりにな・・・そんなことは今はどうでもいいことなのだよ。」

呆けているマヤにかまわず預言者はマヤの鳩尾に光球を押し込む。
瞬間的に全身をたとえようも無い感覚に貫かれた、マヤは足元がおぼつかなくなって予言者に向かって倒れこんだ。
自分の胸に倒れこんできたマヤを予言者は優しく受け止める。

意識を刈り取られる瞬間にマヤが見たのはフードの隙間から覗く赤い瞳と白髪の髪、そして・・・

「妄信・・・崇拝・・・尊敬・・・信頼・・・その差はどこにあるのだろうな?」

その短い一言と少年のあどけなさを残した顔だけだった。

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「マヤちゃん遅いな・・・」

青葉がマヤの出て行った扉を見ながらつぶやく。
マヤが出ていってすでに30分

ジュースを買いに行ったにしてはちょっと時間がかかりすぎていた。

「まあジュース何を買うかで悩んでいるのかもしれないし」
「そうだな、ところでマコトでいいよな?年もおんなじだし、俺のこともシゲルでいいから」
「え?ああ・・・」

青葉の気さくさに日向は苦笑しながら頷いた。
こういう物事を気にしない人間は嫌いじゃない。

「しかしここが人類を守る前線基地で俺たちはその職員、まるで正義の味方って感じだよな〜」
「そうだな、子供のときに見たヒーロー番組のようだ。」
「でもこれって現実なんだよな・・・」
「ああ・・・」

その意味は重い。
正義が勝つなど漫画かアニメ、要するにテレビの先の話だ。
現実はもっとシビアで世知辛い・・・負ければ単純に死ぬ。
しかも世界の人類すべてを巻き添えにしてだ。

人類を守るための戦い・・・それがネルフに勤める者達の誇りでもある。

「人類を守るための砦か・・・」
「それは素敵で完全な勘違いだな・・・」

日向のものでも青葉のものでもない声が聞こえた。
今の発令所にいるのは二人だけだ。
ほかの職員はいない・・・と言うことは・・・

「だれだ!?」

二人はそろって背後の扉を見た。

そこにいたのはもちろんマヤじゃない。
魔法使いのような真っ黒のローブを着た小柄な人物だ。

青葉の誰何の言葉を無視してその人物は歩を進める。
中に入ったのと同時は背後の扉が自動で閉まった。

「我は予言者」
「予言者?」
「そうだ。」

言葉と共に予言者は左手を振る。
下から上に
何かが二つ、マコトとシゲルに向かって飛んで来た。

「あ、え?」
「おっと」

二人は何とか自分に飛んできたものを受け止める。
手の中に飛んできたものを見ればジュースの缶だった。
それが意味するところを理解した日向と青葉の瞳が吊り上る。

「・・・お前・・・マヤちゃんに何をした?」
「何も、ただ予言をしただけだ。今は自販機の横のベンチで眠っている。」

二人は目の前にいる人物に対する警戒を強めた。
目の前にいる謎の人物は明らかに普通じゃない。
なんと言ってもネルフは国連の非公開組織、その心臓ともいえるこの発令所に簡単に進入してきた時点で異常だ。
どこかのスパイか工作員の可能性もある。

いろいろと敵の多いネルフにとっては見過ごせない事態だ。

「・・・・・・」
「そう緊張するな・・・伊吹マヤには何もしていない。ベンチに寝かせるくらいはしたがな・・・だから青葉シゲル、警報装置を鳴らそうとするな」
「くっつ!!」

自分の名前と行動を読まれて青葉が呻いた。
非常警報装置に延びそうになっていた手が止まる。

「用が終われば我はすぐに出て行く、それに人を呼んでも我をどうこうすることは出来んよ。殺す気はないがけが人を増やすだけだ。それはお互い本意ではあるまい?言っておくが我がその気になれば誰かがここに駆けつけるより早くおまえ達を亡き者に出来るぞ」

出来ないと否定できる要素は無かった。
あのローブの下にならなんだって隠す事が出来るだろう。
サブマシンガンの一丁もあれば二人は蜂の巣だし、手榴弾の一つもあればMAGIをお釈迦にするのはわけが無い。

苦々しく予言者を睨む青葉では警戒心が先にたって話しが進まないと判断した日向が代わりに口を開く。

「それで、用って何なんだい?ここは一般人立ち入り禁止なんだが。」
「賢い判断だ。日向マコト、青葉シゲルより冷静に話しが出来そうだ。」
「俺の名前まで・・・」
「些細なことだな・・・我の名前を考えれば当然だろう?・・・今の我は予言者、未来を知り、それを伝える者としてここにある。名前など知っていてあたりまえだ。」

言い切った予言者に日向と青葉が顔を見合わせる。
いくらなんでも予言をするためとは何の冗談だろうか?
あるいは新人の日向に対する余興なのかとも思うが少なくとも青葉は聞いていない。

「悪いがこれでも忙しい身でな・・・」
「え?わあ!!」
「う!!」

いつの間にか予言者は二人の至近にまで迫っていた。
二人がお互いを見た瞬間に近づいてきたらしい。
まるで空中を滑ってきたかのように足音すら立てずに・・・

「お前たちも含めて後8人に予言を伝えなければならない。」
「8人?マヤちゃんには伝えたって言っていたな?」
「全部で15人だ。お前たちに伝えれば半分は終わったことになる。」

困惑する二人を無視して予言者は語る。

「ネルフは世界を滅ぼすための組織だ。」
「「な!!!」」

日向と青葉がそろって驚きの声を上げた
しかし予言は止まらない。

「ネルフはすべての使徒を倒した後・・・自分たちの手でサードインパクトを起こす。」
「そんな!!出来るわけが無い!!だって俺たちは人類を守るために集められたんだぞ!?」
「建前上はな、しかし真実は変わらない。使徒のコピーであるエヴァを使った人為的サードインパクト、それが連中の目的だ。そしてお前たちはその手伝い・・・確かに人類を守ることにはなるだろうが、同時に世界終焉の手伝いをすることでもある。」
「ふ、ふざけた事言うなよ!!」

シゲルが予言者のローブを掴んで揺さぶった。
その拍子にフードがずれ、白髪と赤い瞳の少年の顔が現れる。

「え?」
「こ、子供?」

予想外の容姿と少年だったと言う事実に二人が意表をつかれた。
特にそのルビーのような瞳から目が離せない。

「・・・離せ」

その赤い瞳にまっすぐに射すくめられた青葉がその威圧感に負けて手を離す。
何か逆らってはいけない物を感じて二人は黙った。

「日向マコト、青葉シゲル・・・そして伊吹マヤも、お前たちは原初に帰る。」
「な、なんだよそれ・・・死ぬってことか?」
「厳密にはちょっと違うが・・・まあ似たようなものだな・・・」
「ふざけるなよ・・・なんでそんな・・・」

二人は気づかなかった。
自分たちが目の前にいる予言者の言葉を信じ始めていると言うことに・・・
あるいはその神秘的な赤い瞳の中に抗いがたい何かを感じたのかもしれない。

「真実を教えてやろう。」
「真実?」

予言者は無言でうなづくとローブの下から左手を出した。
そこに浮かぶのは光球・・・

「これを受け入れれば我の言葉の真偽が理解できるだろう。しかし真実とはやさしく甘いものではない。時にはそれが毒となる事もある。それに、受け入れれば多少のショックで寝込む事になるしな。」
「・・・ひとつ聞かせろ、マヤちゃんは?」
「ああ、意識を失ったのはそのためだ。軽いショック症状と言ったところだ。」

そういって予言者はいたずらっぽく笑う。
そんな仕草は年相応のものだが対する二人は真剣だ。
何か冗談で済ませていいものではない気がする。

「どうする?真実を知る事が出来るチャンスが目の前になる。まあ、1〜2日は意識をうしなうだろうが安い物だろう?」
「脅迫じゃないか・・・」
「自由意志を尊重していると言ってほしいものだ。これでも最大の譲歩だぞ?無理やりにしたって我は構わない。」

二人は顔を見合わせて困惑する
目の前の少年には何か抗いがたいものを感じる。
しかし安易にその言葉に乗るのもまたためらいがある。

しばらく悩んだ後、日向が予言者の前に立った。

「・・・わかった。」
「お、おいマコト!」
「シゲル、たしかにこの子の言葉を信じないのは簡単だ。でも内容は無視出来ない・・・俺たちが世界を滅ぼす手伝いをするなんて・・・」
「そりゃ・・・」

たしかにその一言だけは納得できないししてはいけないことだ。
そうでなければ自分達がここにいる意味が無い・・・彼らとて遊びでここに来たわけじゃないのだ。
世界を救う事に誇りを感じていた以上、世界を滅ぼす手伝いをするなど認める事は出来ない。

「・・・さあ、やってくれ・・・でも勘違いはしないでくれよ・・・君の言葉を信じたわけじゃない。」
「上等だ日向マコトあえて危険かもしれないのに前に出る・・・リリンの言葉で勇気と言うのか?」
「おまえ・・・マコトになにかあったら許さない。」

飄々とした予言者と対照的に青葉は予言者を睨んでいる。
しかしやはり予言者は気にしない。
青葉のことなど路傍の石のごとく無視して左手に持つ光球を日向の鳩尾に添える。

「うぐ・・・」
「マコト!!」

いきなりうずくまった日向に青葉が駆け寄った。
湯じゃ部倒れこんだ日向は全身を流れる電気のような不思議な感覚に流されそうになって返事も出来ない。

脂汗をかいてもだえる日向を青葉が揺さぶった。

「それがお前たちの友情か?いや、お前達は今日会ったばかりのはずだから博愛と言うべきなのかな?」
「貴様!!」

青葉が立ち上がって予言者に殴りかかった。
それに対し予言者は微動だにしない。
じっとその拳を見ている。

ガン!!
「ぐっ!!」

硬いものに拳が当たった打撃音、決して肉で肉を殴打する音じゃない。
同時に青葉の体が背後に弾き飛ばされる。

「な!なにが!!」

あわてて起き上がった青葉が見たのはオレンジ色の壁・・・

「なんだよそれ・・・」
「知らんのか?これこそお前達の言うATフィールド、おまえ達がこれから闘おうとする者達があたりまえに持っている心の壁だ。」

次に動いたのは予言者でも青葉でもない。
動いたのはオレンジ色の壁、ATフィールドだった。
かなりの速度で青葉に迫った壁は立ち上がったばかりの青葉に衝突し、そのまま勢いを殺さず壁に押し付けた。
二つの壁にはさまれた青葉は標本のように身動き取れない。

「おまえもだ青葉シゲル・・・個人的にこういった強制は望むところでは無いがいまさら素直に我の言う事を聞くまい?・・・大人のほうが暴力的なのはどうかと思うな子供達はもっと素直だったぞ?」

気がつけば予言者は青葉のすぐそばに来ていた。
すでにその左手には光球が浮かんでいる。

「な、なにを、がっく!!」

青葉を壁に押し付けているフィールドを透過して予言者の左手は青葉に迫った。
ATフィールドは拒絶の意思だ。
己で己を拒絶することなどありえない。

問答無用で鳩尾に押し当てられた光球が体の中に沈んでいく、同時にフィールドが消えて青葉は自由になる。
しかしシゲルは全身を襲う言い表せない感覚に抵抗できず床に沈んだ。

「無理に耐えても無駄だ。リリンが抗えるものじゃないし抗っても意味が無い。それにこれはお前たちに必要なことだ。絶望の未来を回避したかったら受け入れろ」

床に沈んでいながら自分を恨めしげに見上げてくる二人に予言者は無慈悲な言葉で応えた。
フードをかぶりなおして二人に背を向ける。

「そのうち別の職員がおまえ達を見つけるだろう。伊吹マヤもな、そうなれば騒ぎになる。面倒なことになる前に後三人・・・このネルフの中で予言をしなければならない。」

二人は発令所を去っていく黒いローブの後姿を見送ることしか出来なかった。

「そしてあと6人・・・」

かろうじてその一言を聞き取ったところでシゲルとマコトの意識は闇に沈んだ。






To be continued...

(2007.05.13 初版)
(2008.02.03 改訂一版)
(2008.04.26 改訂二版)


次回予告

それは憧れだったのだろうか?

「知らないと言うことは幸せなものだな、赤木リツコ?まあ実際今のおまえではわからないのもしかたないが・・・」

手を伸ばしてもあの人の背中には絶対に届かない・・・

「おまえがそれを言うのか?綾波レイを人形扱いし、碇ゲンドウの妄想のために人の道を踏み外しているおまえが?いまさら偽善にでも目覚めたか赤木リツコ?」

だってあの人はもういないから・・・

「お前は赤木ナオコの何に勝ちたかったのだ?」

でも・・・それでもあの人を超えたいと・・・

次回、Once Again 第六話 〔其の届かない背中にむけて〕

(あとがき)

やっと半分まで来ました。
基本的にこの話はサキエルが来る前までの話ですので原作に関係する部分ははっきりいって出てきません。
気が向けば続編を書くかもしれませんが今のところそこまでのアイディアがなかったりします。
今現在はラストに向けていろいろと仕込みをいれながらネルフ関係者のに対する対応の違いみたいなものを中心に話を進めています。
次回からはいよいよ主要メンバーに入っていきますのでご期待ください。

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