・・・会いたい人の一人くらいいてもいいだろ?






Once Again

第七話 〔其の思いは誰がために〕

presented by 睦月様







ネルフにおいて最も重要な人物がいる場所、司令執務室でゲンドウと冬月が向き合っている。
ゲンドウはいつものポーズで椅子に座り、手を組んで冬月の話を聞いていた。

「セカンドチルドレンの件だがつい先ほど意識が戻ったらしい。精神的なものにも問題は見られない。」
「そうか・・・」

セカンドチルドレンが原因不明の昏睡状態に入ったという報告が入ったのが数日前、そしてその昏睡から目覚めたという報告が入ったのが数時間前だ
世界中で今はまだ”二人”しか見つかっていないとされるチルドレン、だがそれだけでは無い。

肉親とのA-10神経によるシンクロ、愛情を司るA-10神経をかいする以上、チルドレンはエヴァに取り込まれた人物の肉親でなければならない。
弐号機に取り込まれているのはアスカの母の惣流・キョウコ・ツェッペリン
彼女には他に子供がいない。
もしアスカの意識が戻らなければ弐号機を動かせる者はいなくなり、ただでさえ不足気味な戦力が削られる事になる。

将来的に見ればダミープラグなどの方法もありはするが今すぐには無理だし、なんと言っても原因不明のアスカの昏睡がダミーにどんな影響を与えるか知れない。

しかも問題はそれだけではなかった。

「セカンドだけでなく葛城君や加持君までとは・・・偶然で片付けるには無理があるな、ドイツで何があったんだ?」
「問題ない」

ゲンドウの言葉に冬月がやれやれといった顔になる。
相変わらずの即答に本当に考えて発言しているのか疑問だ。

「・・・しかし何者かが関与していないとも言い切れまい?マインドコントロールなどされていたらことだぞ?」
「所詮は予備だ・・・どうとでもなる。」
「おまえがそういうなら口出しはせんがな・・・」

目の前でいつものポーズを取っているゲンドウ・・・その答えもまたいつもの通りだった。
冬月はため息を着きながら報告用の書類をまとめる。

組織の長が問題ないと言ったからには何か問題が起こったとしてもゲンドウの責任だし、実は目の前のやくざ顔の男はこれでなかなか優秀なのも冬月は知っている。
あまり表立って評価されることはないがゲンドウは有言実行タイプだ。
問題ないといった以上問題なく”する”のだろう。

おそらくはそのあたりの事も含めた調査が秘密裏に行なわれているはずだ。
冬月にさえ知られる事も無く。

それは用心深いのか臆病なのか・・・少なくともそちらのほうが長生き出来るのは間違いが無い。
人間は条件さえ揃えば簡単に死ぬ

だからこその臆病であり用心深さだろう。
自分達の目的を遂げるまで死ねないのはゲンドウも冬月も同じだ

「ところでシンジ君はいつ呼び出すのだ?」
「・・・ぎりぎりになってからだ。」
「いいのか?訓練もせずにいきなり実戦になるかも知れんぞ?レイによる零号機、起動実験もまだだというのに」
「第三使徒は初号機の暴走によって殲滅しなければならない・・・シンジが初号機に乗りなれていれば暴走の可能性が減る。」

彼らの組んだシナリオではサキエルを倒すのは暴走した初号機であり、それによって初号機の中にいる碇ユイにシンジという存在を認識させなければならない。
このプロセスを経ることでシンジとユイの絆を強くするのが狙いだ。
そもそも何の訓練も受けていないシンジが使徒を倒すためにはその方法しかない。
あとはシンジを初号機に乗せることが出来ればお膳立ては整う。

「しかしそれでも危険には違いあるまい?場合によっては初戦で計画が崩壊するかもしれん。暴走など不確定なものに期待しすぎるのは危険すぎじゃないか?」
「問題ない・・・」
「ほう、そこまで言い切るからには根拠はあるんだろうな?」

冬月の言葉にゲンドウは何かを懐かしむような遠い目になった。
サングラスに隠れていて分かりにくいが長い付き合いの冬月には分かる。
おそらくユイの事を思い出しているのだろう。

「・・・ユイはシンジを愛していた。シンジが危険になることなどユイが許すはずがない。」
「そうか・・・」

冬月はそれ以上無駄な言葉を重ねない。
さっさと書類を整理して執務室を出て行く。

「まったく・・・」

背後で扉の閉まる音を聞きながら冬月はひとり深いため息をついた。
ゲンドウもシンジを無視は出来ない。
自分の息子であると同時にユイの息子でもある彼を邪険に扱う・・・冬月はその理由をなんとなく分かっていた。
理由を知るからこそあきれるしかないのだが・・・

「不器用な奴め・・・」
「不器用だからといって許されることと許されないことがあるだろう?そうは思わないか冬月コウゾウ?」
「何?」

気がつけば目の前に小柄な人間が立っていた。
まるでいきなり降ってわいたように現れたその人物は魔法使いのようなローブを着ている。
フードで顔が隠れていてどんな顔をしているかは分からないが身長と声から考えておそらく少年だろう。

いきなり意表を突かれた冬月だがさすがに副司令を勤めているのは伊達ではないらしい。
すぐに現状を思い出した冬月は目の前の人物に声をかけた。

「・・・君は誰かね?」
「我は予言者・・・」
「予言者?誰かは知らんがここには職員でも一般の者は立ち入り禁止だ。まして君は見たところ一般人のようだな?」
「・・・完全に部外者というわけでもないが、そんなことは些細なことだ・・・我は予言を告げるためにここに来た。」

予言者の物言いに冬月が一瞬呆ける。

「予言・・・ばかばかしい。」
「ほう・・・お前たちがそれを言うか?」
「一体何が言いたいのかね?」
「さっきから言っているだろう・・・我は予言をしに来た。・・・それとも・・・」

フードから唯一覗く唇が三日月のように裂けた。
明らかに嘲弄の笑み。

「裏死海文書があるから予言は間に合っていると言うことか?」

一言で冬月の顔色が変わる。
予言者の言った裏死海文書
これから来襲する使徒の名前やいつ来るかなどのタイムスケジュール、まさに予言書だ。
しかしその存在はトップシークレットでネルフの上位陣とゼーレしか知らない門外不出の代物で他に知る者はいないはず。

「顔色が変わったな、我の話を聞く気になったか?」
「ど、何処でその名前を・・・」
「冬月コウゾウ・・・ひとつだけ聞こう・・・人類補完計画、碇ユイとの再会・・・それは子供たちをつらい目にあわせて・・・すべてのリリンを生贄にしてまで目指す価値のあるものか?」
「な、何を言って・・・」
「とぼけても無駄だ・・・冬月コウゾウ」

その声は静かに・・・しかし反論を許さない力を持って冬月に届く。
思わず冬月は動揺を抑えるためにポーカーフェイスになるが内心、冷たい恐怖を感じていた。

ただ得体がしれないだけでは無い。
本能的な何かが目の前の人物の格の違いを冬月に警告している。
絶対に逆らうなと全身の細胞が警鐘を鳴らしているようだ。

しかし、内心はどうあれ冬月は長年の交渉をこなしてきた。
今すぐに逃げ出さないのはその経験の賜物だろう。
少なくとも外面はポーカーフェイスを維持している。
伊達に年は食っていないらしい。

「・・・何が言いたいのか分からんね・・・」
「とぼけるなよ・・・殺したくなるから・・・」

その言葉に微塵の冗談もうそも含まれてはいない。
含まれているのは殺すという殺気だけだ。
余計なことを言ったり嘘を言えば即座にここで殺すと語っている。

「執念深いかもしれんがお前も我を利用した者達の一人だ・・・殺意を覚えたとしても仕方あるまい?」
「何のことかね?」
「お前には関係ないことだ。・・・今のお前にはな」

冬月の言葉を切って捨てた予言者はまっすぐ冬月に近づく。
自分に近づいてくる予言者にどう対応するか迷ったが冬月は黙って直立不動を貫いた
背後を振り返った瞬間に殺される気がする。

「お前たちは使徒との戦いに子供たちを向かわせ、危険にさらすだろう。そしてすべての使徒を滅ぼした後、ぼろぼろになった子供の心にすがって人類の救済という茶番を起こす。そしてお前は碇ユイに会うだろう。」
「なに?」

冬月にとって最後の一言は聞き捨てならなかった。
碇ユイとの再会・・・それはゲンドウの願いであり冬月の願いでもある。
それがかなうと目の前の人物は言ったのだ。

しかしそんな冬月に予言者は冷笑を投げかける。

「幻だがな」
「なに?」
「本気で会えると思っていたのか?心底おめでたい男だな」

思わず聞き返してくる冬月に予言者の口から押し殺した笑いが漏れる。
明らかに冬月を馬鹿にしていたが冬月からの反論は無い。
ここまで自分達の計画と本心を言い当てられたのだ。
恐怖と同時に興味が湧く。

「そして・・・おまえ達のやった事によって完成するのはすべての命と心の混ざり合った世界・・・・・・今一度問う、お前たちの願うものは子供たちや人類を犠牲にする価値があるのか?」
「・・・・・・私はそう信じている。それに君が言うことが真実とは限らんだろう?」
「真実だよ、これ以上ないくらいのな・・・しかしお前も頑固だな、それが信念というやつか?・・・くだらない。」

ゲンドウの、そして自分の信じるものをくだらないの一言で一蹴された冬月が反論しようとするがその動きが止まってしまった。
いきなり予言者からのプレッシャーが強くなったのだ。
冬月は金縛りになったかのように身動きが取れなくなった。
同時に冷たい汗が全身を流れる。

「お前たちはもう少し方法と結果を考えるべきだった。お前の信じるもののせいで碇シンジは世界に取り残されたぞ、たった一人の少年に何もかもを背負わせて・・・何処までもぶざまな話しだ。」
「なに?碇シンジだと?・・・シンジ君がどうした?君は何を言っているのだ?」
「もはや語ることはない・・・後は自分で判断しろ、おまえ達が求めたものの答を・・・はたして犠牲を払っても手に入れるに足るものだったかをな」

予言者の黒いローブから左手が突き出される。
その手のひらに浮かぶ光球が冬月の鳩尾に叩き込まれた。
冬月の言葉など無視している。
受け入れるかどうかの伺いすら立てない問答無用だ。

「う!がっく!!」

全身に走った形容しがたい衝撃に冬月が倒れ込む。
自分を見下ろす予言者のフードの隙間から白髪と赤い瞳が見えた。

「ユイ君!?」

地面に倒れこむのと同時に冬月の意識は闇に沈んでいった。

---------------------------------------------------------------

プシュー
「ん?」

書類に目を通していたゲンドウは扉が開く音を聞いた。
しかしその視線は書類から離れない。
この部屋に来る人間の顔ぶれは大体決まっている。

その人間の中でインターフォンの問いかけも無くこの部屋に入ってくる人物は付き合いの長い冬月だけだ
視線を上げて確認するまでも無い。

「冬月か?何か書類に不備でも・・・」
「残念だが人違いだ。お前の言う冬月コウゾウはここでのびているいるぞ。」
「なに?」

聞き覚えのない声にゲンドウが書類から目を離して正面を見た。
それを見たゲンドウの眉間に皺が寄る。

そこにいたのは魔法使いのようなローブを着た小柄な人物だった。
フードに隠れていて顔は見えない。
しかしそのフードの下からじっと自分を見つめている視線をゲンドウは感じた。

その足元に冬月が倒れている。
生きているか死んでいるかこの距離ではわからないが意識が無いのは間違いない。

「お前は誰だ?」
「我が名は予言者・・・予言を告げに来たものだ。」
「予言者だと?予言とは何の事だ?」
「碇ゲンドウ・・・・・・」

ゲンドウの見ている前で予言者は大きなため息をついた。
おそらくは少年だろう予言者のため息は深く重い。

「我は今悩んでいる。・・・この場でお前を殺すべきか否か・・・」
「なんだと?」

いきなり自分を殺すかどうか迷っていると言われたゲンドウの視線が鋭くなる。
普通の人間ならその威圧感にたじろぐだろう。
さすがネルフのトップと言うだけはある

しかし予言者はそんな物は気にしない。
むしろゲンドウのほうが予想外の反応に訝しげな顔をしている。

「お前は我を道具として扱った張本人だ。しかし、我はお前を殺すことさえままならん・・・約束のためにな・・・実際の所、お前くらいいなくてもいいんじゃないかと思うのだが・・・」
「私がいなくても?約束とは何の事だ?」
「・・・お前が”選ばれて”戻ってきたものかそうでないか我には判断できない。ゆえに安易にお前を殺すことが出来ない。・・・残念だ。」
「何を言っている?」

さすがにゲンドウも面食らった。
何を言っているのか全く理解出来ない。
堂々と自分を殺すと言っておきながら約束のためにそれは出来ないという。
矛盾した論理だが、一つだけ確かなのは目の前の怪人物は見た目を含めて普通じゃない。

このネルフ本部の、それも司令執務室に入りこんできた事だけで目の前の人物の異常さは分かる。
おそらく殺すと言った事に関しても冗談ではあるまい。
油断など出来る相手ではなかった。

「・・・どこの組織のものだ?」
「どこの組織でもない、あえて言うなら雇われ人だ。」
「雇ったのは誰だ?しかもここまで入り込めるとは・・・」
「些細なことだ。」


ドン!!ドン!!


予言者が肩をすくめた隙を狙ってゲンドウが銃を取り出し発砲した。
目の前の人物は自分を殺すと言った。
自分を殺すことが出来るかどうかはこの際問題ではない。
出来ると考えて行動するべきだろう。

一般の人間なら銃は嫌悪の対象だろう。
しかしゲンドウのような立場の人間にとって戦争だろうが武器だろうが交渉の道具の一つに過ぎない。
この発砲によって自分も予言者を害することができると言うことをアピールし、膠着状態を作り出す。
その後に交渉なり保安部を呼ぶなりすればいい。

冷戦時代のアメリカとソビエトのような関係だがれっきとした交渉術の一つだ。
そもそもガンジーのような無抵抗主義は相手が自分を害さないと言う前提の下でしか成り立たない。
相手が銃を構えているなら自分も銃を構えることでしか対等になれない。

自分の言葉を吐く前に殺されてしまっては交渉以前の問題だ。


キン!!キン!!


しかしゲンドウの目論見は外れた。
もともと当てる気はなく、すぐ近くの地面に当たるはずだった銃弾はオレンジ色の壁に阻まれて床に転がっている。
それがなんなのかゲンドウは知っている。

「ATフィールドだと・・・」

さすがのゲンドウも驚きを隠せない。
予言者の目の前に展開されたオレンジ色の8角形の壁は存在のみが確認されている段階でしかないATフィールドだ。
それを張れるはずのEVAでさえ展開に成功していないそれを生身の人間が展開した。
それが示す事実はただ一つ。

「使徒か?しかし裏死海文書では・・・」
「碇ゲンドウ・・・」

フィールドの向こうで予言者はゆっくりと頭にかかっているフードをずらした。
その下から現れた顔にゲンドウが息を呑む。

「シンジ・・・」
「さすがに息子の顔は分かるか?確か3年前まではあっていたはずだしな・・・」

ゲンドウの目に映るのは白髪で瞳の色が赤くはあっても自分の血を分けた息子の顔だった。
自分の最愛の妻の面影を残したその顔を見間違うわけがない。

それが今、目の前で自分の息子がATフィールドを張っている。
いくらゲンドウでも問題ないで済ませることは出来ない。
何一つ理解できなかった。

「・・・なぜここにいるシンジ?」
「くくくっお前、そんな顔も出来たのだな・・・残念だが我は碇シンジではない。」
「ふざけるな・・・」
「自分の息子の顔を見間違えないのは親として当然だが・・・お前にそんな感情が残っていたとは素直に驚きだよ。少しだけ好きになれそうだ。」

何が楽しいのか予言者は笑いをこらえられないらしい。
体が小刻みに揺れている。
よほどゲンドウの反応が面白かったのだろう。

「いいだろう、やはり予言をするとしよう。そして全ては最後の審判に持ち越す。」
「・・・何を言っている?」
「碇ゲンドウ・・・お前は初号機に食われて死ぬ。」
「・・・・・・何?」

予想外の事を言われてゲンドウが一瞬だけ呆けるがそれを見た予言者は再び低く・・・くぐもった笑いをした。

「本望だろう?会いたかった碇ユイが溶け込んでいる初号機に殺されるのだから・・・」
「何を言っている?」
「お前はこれからネルフのトップとして使徒を殲滅していくだろう。そして最後にお前は裏切られる。」
「・・・どういうことだ?」
「綾波レイはお前ではなく碇シンジを選ぶ。」

予言者の一言を聞いたゲンドウが椅子を倒して立ち上がる。
その顔に驚きと・・・恐怖を貼り付けて。
冬月でさえこんなに取り乱したゲンドウは見たことがない。

「お前は綾波レイを何だと思っていたのだ?自分の都合のいい駒か?碇ユイの元にお前を連れていく使者か?残念だが綾波レイはお前でも碇ユイでもない。自分の進む道は自分で選ぶ・・・碇ユイも言っていただろう?流れのままに・・・」
「っつ!なんで貴様がそれを知っている!?」

ゲンドウは目の前のシンジと同じ姿をした何者かがシンジでは無いと確信した。
知りすぎているということもそうだが何かが違うのだ。
本質的に何かがずれている。

それどころかATフィールドを使ったことを考えれば人間かどうかすらも怪しい。

「くくっ・・・・・・・・・一つ聞きたい。」

いきなり笑いを収めた予言者は真剣な顔をゲンドウに向けた。
息子と同じ顔だが別の何か・・・その赤い視線にゲンドウがたじろぐ。

「何故碇シンジを捨てたまま放っておいた?」
「・・・何が言いたい?」
「お前が碇シンジを自分の駒として考えていたのならある程度は自分の言う事を聞くように干渉しなければならない。それなのに何年も放っておいてこの三年は顔も見ていないだろう?なぜだ?」
「必要ないからだ!!」

ゲンドウは怒声に近い大声で予言者の言葉をさえぎる。
しかし予言者は動じない、じっとゲンドウの変化を観察している。

どうやら触れられたくないことなのだろう。
今のゲンドウは勢いで何かを隠そうとしているように見える。
やがて何かに得心がいったのか予言者は頷いた。

「碇シンジのためか?」
「何?」
「碇シンジの安全性を上げる・・・・・・そのために自分から碇シンジを離したのか?自分が碇シンジを捨てて恨まれることですべての愛情が碇ユイに向くように?」

エヴァは愛情によって繋がっている。
だとすればチルドレンがエヴァに取り込まれた母を思うことでもつながりは強くなるはずだ。
両親の片方に愛情を受け入れられなかった子供の愛情がどこにいくか・・・たとえその相手が死んでいたとしても求めずにはいられまい。
最初にシンジが初号機に乗ったときに40%を超えるシンクロ率を出したことも無関係ではないだろう。

「それがお前の愛情か?歪んでいるな・・・しかし碇シンジをまったく気にしていなかったわけでもないのか・・・」
「・・・くだらん」

ゲンドウの答えは短かった。
予言者も追求しない。

「問おう、人類のすべてを巻き込み、息子すらも危険な目にあわせてまで・・・それほどまでして会いたいのか?碇ユイに?」
「・・・・・・ユイに会うこと・・・それが私の全てだ。」

もはやゲンドウもごまかしの言葉を吐かない。
今までの会話で目の前の予言者が自分達の目的を知っているのは間違いない。
それなのに嘘で覆い隠そうとしてなんになるだろう。

不意に、ゲンドウの言葉を聞いていた予言者の顔に憐憫の感情が浮かぶ。

「お前はもっと視野を広げるべきだった。」
「何?」
「碇シンジはお前が応えれば・・・碇ユイの代わりにはなれないかも知れないが・・・綾波レイも・・・彼らなりにお前を愛したはずだ。」
「・・・ユイの代わりなど何処にもいない・・・いるはずが無い。」
「お前が認められないだけだ・・・哀れだな・・・碇ゲンドウ・・・」

悲しみの言葉にゲンドウがたじろぐ。
目の前にいる息子の姿をした何かは自分を哀れんでいた。

今までゲンドウを受け入れたのは妻のユイだけだ。
こんな感情を向けられることに慣れてはいないゲンドウは戸惑いの表情を浮かべる。
それを見た予言者はため息と共に左手をフードから出した。
その手の上で輝く光球がゲンドウの目にとまる。

「何だそれは?」
「碇ゲンドウ・・・碇ユイとて絶対の存在では無い。過ちを犯す人間だ。・・・そして碇ユイは取り返しのつかない過ちを犯している。」
「どう言うことだ?ユイが何を間違ったと言うのだ?」

予言者はゲンドウに向けて足を踏み出す。

「ひとつはお前と碇シンジを残して初号機に溶けてしまったこと・・・」

ゲンドウは動けなかった。
ただじっと自分に向かって歩いてくる予言者を見ている。

「もうひとつは子供たちの未来に希望を残せなかったこと・・・」

ゆっくりと・・・早くも遅くもないスピードで予言者はゲンドウに近づいていく。
まるで死刑執行が行われるかのように静かに、でも確実に両者の距離は削られていった。

「・・・・・・真実の予言をしよう。お前は遠くない未来に碇ユイと再会する。サードインパクトなどではない生身の姿でな・・・」

数秒後、司令執務室で何かが倒れこむ音が響いた。
さらに数十分後、ネルフ本部の各所で意識を失った幹部とオペレーターが発見され病院に搬送される騒ぎが起こる。

その騒ぎの中・・・予言者の姿を見たものはいない。







To be continued...

(2007.05.19 初版)
(2008.02.03 改訂一版)
(2008.05.03 改訂二版)


次回予告

残る予言はあと三つ

「悲しい・・・か、そうか・・・これが悲しいか・・・未練だな・・・」

少女は自分の未来を聞く

「そして、お前はすべてを捨ててでもその人間の元に向かうだろう。」

14の予言は告げられた。

「気づいたか?なかなか違いの分かるやつがいなくてな」

最後の予言・・・15番目の予言は誰のために・・・

次回、Once Again 第八話 〔其れは遠き過去の思いの残滓〕

作者(睦月様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで