第一印象は大事だ。

なぜならその人間の判断基準になるから・・・






Once Again Re-start

第二話 〔出会い、あるいは邂逅と呼ばれるもの〕

presented by 睦月様







朝・・・それは一日の始まり・・・

朝・・・それは何かが始まる予感・・・

朝・・・それは間違っても遅刻寸線でパンを口にくわえてあわてて出て行くためのイベントではない。

シンジとアダムが片方は望まぬ、もう片方は青天の霹靂的な出会いをした翌日・・・第三新東京市、コンフォート17
前回シンジがミサトやアスカと一緒に暮らした場所にて

「〜♪〜♪♪」

その一室の台所から陽気な鼻歌が聞こえてくる。
リビングのテーブルで新聞を広げているのはゲンドウだ。

「ゲンドウさん?早く準備をしてくださいな」
「ああ・・・」
「もう、さっきからそればっかり・・・冬月先生にお小言をもらうのは私なんですからね」
「君は人気者だからな」

ちなみにこのゲンドウ・・・さっきからまったく新聞を読んでいない
ユイの言葉に生返事をしているのもこの〔ザ・平凡な家庭の朝の風景〕を少しでも長く味わっていたいからだ。

・・・いい年をした中年親父が何新婚夫婦みたいなことをしているのかと突っ込む場所には事欠かない。

「おはよう、父さん・母さん」

そう言いながら部屋から出てきたのはシンジだ。
夏用の学生服を着ている。

「おはようシンジ」
「ああ」

ユイは台所からゲンドウは相変わらず新聞を見たまま挨拶を交わす。
ちなみにゲンドウが新聞をおろさないのはいまだ照れくさいからだったりするのだがそれを知るのはユイだけだ。

「・・・おはよう」

シンジと別の部屋から出てきたのはシンジと何もかもが対照的な人物、白い髪に赤い瞳・・・そしてなぜか朝だというのにそのすがすがしさを台無しにするような影を背負ったアダムだ。
こちらも学生服を着ている。

「兄さん?どうかした?」
「いや・・・なんでもないぞ・・・」
「体調が悪いなら病院にいかないと」
「そういうのではないから安心してくれ」
「そうなの?」
「ああ・・・」

朝の光よりもアダムにはシンジのほうがまぶしかった。
程なくユイが台所から持ってきた朝食がテーブルに置かれ、食事が始まる。

「それじゃあ行ってきます。」
「シンジ、学校の場所はわかっているわね?転校初日から遅刻はまずいわよ?」
「わかってるよ母さん。」

食事を終えたシンジがかばんを持って玄関から出て行く。

「・・・行ってくる。」
「待ってくれ」

シンジについて玄関を出て行こうとしたアダムをゲンドウの言葉が止めた。

「なんだ?」
「・・・シンジを頼む。」
「是非もない。そっちこそ契約を忘れるなよ?」
「ああ・・・しかし・・・」

ゲンドウが言いよどんだ。
隣に立っているユイも心配そうだ。

「あんなことを言った私が言うのもなんだが・・・できるのか?」
「可能・不可能でいえば可能だろうな・・・かなりの危険を伴うがそれだけの価値はあると思う。・・・危険に関しては主に我のことだから気にするな。」
「すまない。」
「謝るな、これは正当な取引だ。我はそのために行動しているに過ぎない。・・・ほかに言うことはないな?じゃあ今度こそ行くぞ」

そう言ってアダムは今度こそ出て行った。
見送るゲンドウとユイはその後姿を見送って盛大にため息をつく。

---------------------------------------------------------------

朝の通学路、そこを学生服の中学生が歩くのは何も間違っていない。
そして今、通学路をよく似た容姿の男子生徒が並んで歩いている。

「え?兄さんも僕と同じ学年なの?」
「ああ、留年というやつらしい。体が弱くて登校できなかった日数がたまっていたということだ。」
「ご、ごめん・・・僕何も知らなくて・・・」
「謝る必要はない。」

実際謝られても困る。
アダムが言っていることは嘘八百なのだから、体は碇シンジのものであってもアダム自身は学校など行ったこともない。

「なあシンジ?」
「何、兄さん?」
「お前は何で私のことを兄と呼べるのだ?」
「え?」

アダムの質問の意味がわからなかったのだろう。
シンジがきょとんとした顔になる。

「昨日までは顔も知らなかったのにいきなり会って兄弟ですといわれてもはいそうですと受け入れられるのか?」
「それは・・・で、でもこんなにそっくりなんだし・・・それに正直に言うとうれしいんだ。」
「嬉しい?」

アダムの目の前でシンジが照れくさそうに頭をかく。

「僕って小さいころから父さんと母さんのことでいろいろ言われてきたから・・・」

妻殺しの男の息子・・・それがシンジにかせられたいわれのない中傷だというのはアダムも知っている。
はっきり言ってそのことに関してシンジには何の罪もない。
ゲンドウとシンジは血が繋がっているだけの別の人間なのだから・・・しかし社会というのはそれだけですまないところがあるのもまた事実

何かと連帯責任や同類項でつなげたがるのは群れで行動する人間という種の性だろうか?

親がどうだから子供も・・・と考えてしまう大人がいる。
表面的にはいわなくてもそういった内心を子供は感じてしまうのだ。

そしてその子供達はさらにたちが悪い。
大人と違って”遠慮”というものが存在しないから直接的に相手を傷つける。
自分の言葉の意味を深く考えもせずはっきりという彼らは無邪気に残酷だ。
中には笑顔でそれを言う者までいる。

「でももう良いんだ。父さん達にも事情があって母さんが死んだことにしていたんだし、兄さんだってわざと知らせなかったわけじゃないんでしょ?」
「それはな・・・でも良いのか?お前が一人でいたとき、私は何もしなかったのだぞ?」
「うん、それより僕に兄弟がいてしかも兄さんだったってことのほうが嬉しい。」

そうやって混じりけのない笑顔を向けてくるシンジを見るアダムの顔がまぶしいものを見るような表情になる。

前回の世界ではシンジはいつも後ろ向きだった。
だがこの世界のこのシンジの変化はいったいなんだろうか?
ぎこちないながらも前を見据えている。

(これが碇シンジの本来の性質なのだろうか?)

このシンジならサードインパクトは起こらなかったかもしれない。

前回との違い・・・このシンジには本当の家族がいる。
血のつながりが家族のすべてではないだろうが他人同士が家族になるためには努力と歩み寄りがどうしても必要だ。
しかしそれを成すためにはあの世界のミサトもシンジもアスカも子供過ぎた。
他人を求め、家族を求めながらそれと同じくらいに失うことを恐れてもいたのだから・・・最後にはそれが足かせとなってシンジを追い詰めてしまった。

今のシンジには確かな家族という絆が存在する。
それがこの変化を生み出しているのだろうか?

(まあ悪い変化じゃないな・・・)
「兄さんのことも教えてよ。」
「・・・私のことか?」

正直その類の質問は困る。
腹芸ができなくもないがあまり大風呂敷を広げすぎて収拾がつかなくなるのは考え物だ。

「そういえば昨日言っていた人のことだけど・・・」
「昨日?」
「あの・・命を削ったって・・・」
「ああ・・・」

確かにそんなことを話したなと思い出す。

「その人はどうなったの?」
「・・・生きてはいる。」

あの状態を”生きている”と定義していいものかどうかはわからない。
少なくともみんなの存在を望んだ碇シンジが存在するかどうかといわれれば答えはYESだろう。

「・・・彼の為に何人もの人間が動いている。」
「助かるの?その人・・・」
「わからない。結構厳しい状態だからな・・・確実なことは言えない。」

実際のところ問題は山積みだ。

「そうなの・・・」

シンジも話がかなり重いことだと気がついたのだろう。
それ以上自分から聞いてこない。

「だがな・・・何もしなければ運命は変えられない。流されるようにあるべきところに辿り着く。その先に不満があるなら何かをしなければ・・・お前が初号機に乗るということもそうだ。」
「僕がエヴァに乗ることも?」
「・・・確実とは言えないが戦わなければこの世界が終わるみたいだからな・・・」

いまさらながらに昨日自分が決めたことの重さに気がついたのだろう。
シンジの顔が見る見る青くなる。

「まあそんなに深く考えることはない。そのためのネルフだからな」
「え?」
「ネルフはお前たちパイロットのサポートのために存在する。苦しくなったら誰かを頼れ」
「う、うん・・・分かった。」

どうやら少しは落ち着いたようだ。
多少引きつった笑みをシンジが浮かべる。
それを見たアダムはシンジに向けてしっかりと頷いた。

「昨日から思っていたけれど兄さんの話し方って中学生じゃないみたいだね、もっと年上の人みたいだ。」
「まあこれも癖のようなもので・・・ん?」

いきなり立ち止まったアダムに追い越して前に進んでいたシンジが振り返る。

「どうかしたの?」
「シンジ・・・一寸ここにいろ」
「え?・・・うん」

わけが分からなかったが一応頷いて立ち止まったシンジを確認するとアダムが前に出る。
そのまま歩いて交差点に差し掛かった。

「遅刻遅刻〜!」

なにやら軽快な足音とともにそんな声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声だ。
しかもどこか棒読みな口調・・・アダムは無言で交差点に歩を進める。

その途端曲がり角に狙ったようなタイミングで人影が現れた。

「・・・・・・」
「あ!」

ぶつかりそうになった瞬間、アダムは身を翻してよけると人影の襟首をつかんで猫持ち状態で確保する。
もう片方の手には反動でとんだ食パンをキャッチしていた。

「・・・何をしているんだ?綾波レイ?」
「・・・・・・シンジ君じゃない。」

不満そうにほほを膨らませているのは綾波レイその人だった。

しかしその格好はいつも着ているトレードマークの第一中の制服ではない。
サマーベストにミニスカート・・・しかもアダムが確保した食パンには明らかに食いかけと分かる歯形がついていると来れば・・・

「・・・何故碇シンジが最後の瞬間に見た夢と同じ姿をしている?」
「シンジ君の望み・・・私はそれをかなえたいだけ・・・」
「それでこれか?大体その制服はどこから手に入れた?」
「自作したの」

誇らしそうなレイを見たアダムは軽い頭痛を感じた。
つまりこういうことだろうか?
この世界は前回に無い人も使徒も狂わせる電波のようなものが飛び交っているのだろうか?

これは確かめねばなるまい。

「・・・この世界に戻ってきて性格がかわっていないか?」
「問題ない。セカンドがいないこのチャンスを最大限に生かすの・・・」

アダムの視界に写るレイに重なって何か黒いものがレイから立ち上っているように見えるのは気のせいだろうか?

「昨日から姿が見えないと思っていたらそんなことを考えていたのか?」
「ファーストインパクトから始まる二人の恋のヒストリー・・・」
「初印象は大事ということか?」
「もう後悔はしない。今度こそシンジ君を守ってみせる。」

レイの赤い瞳の中に決意の色がにじむ。
彼女の後悔というのはおそらく前回リリスと融合した彼女がシンジの元に駆けつけたときのことだろう。

仕方ないといえば仕方ないのだがあんな状態のレイを受け入れろというのは無理だ。
しかもシンジ自身まともな精神状態ではなかったし・・・拒絶するのはむしろ自然な反応とも言えた。
それでもレイはシンジを守るという。

(綾波レイも彼女なりに変わり始めているのか・・・)

アダムの胸に妙なしこりが引っかかったがアダムはあえてそれに気がつかないふりをした。

「そういえば渚カヲルも昨日から見ないな?」
「あそこ」

レイが指差す方向から走ってくる足音が聞こえてきた。

「遅刻遅刻〜」

軽快なリズムで走ってくるその存在・・・もちろん口には食パンをくわえている。
それを見たアダムは・・・


「この馬鹿息子が!! 」


地を這うように低い位置から放たれたアッパーカットが正確にあごを捉え、カヲルを頭上高くに殴り飛ばす。
銜えていた食パンと一緒に・・・空中に舞い上がったカヲルの姿は感動的でさえあったが長くは続かない。
漫画のごとき滞空時間を経て重力につかまったカヲルが落下してくる。


ドグワッシャ!!


肉の塊を地面に思いっきり叩き付けたときのような水っぽい音が朝のすがすがしい空気を血なまぐさいものに変えて行く。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・

ズル・・・ズル・・・

アダムはその両手の”荷物”を引きずったまま通学路をのっしのっしという感じに歩いていた。
周囲の奇異の目が突き刺さってくるがアダムは気にしない。
むしろその後ろをついてきているシンジのほうが居心地が悪そうだ。

「に、兄さんって力持ちなんだね、本当に体弱かったの?」
「おかげさまで今ならN2の直撃にも耐えられる自信があるぞ」
「す、すごいんだね・・・」

シンジは冷や汗ものだがアダムのほうは100%でマジだ。
冗談でもなんでもなく一発くらいならフィールドで耐えられるだろう。

「何故・・・私は引きずられているの?・・・これは悲しい?・・・そう、私は悲しいのね・・・」
「奇遇だなあ綾波レイ、私も悲しいぞ。」
「・・・ぶったね・・・父さんにだってぶたれたことないのに・・・」
「さっきやっただろうが・・・ついでに言えばぶつじゃなくて殴るというんだ。ご希望なら何度でも殴ってやるぞ渚カヲル・・・」

アダムが引きずっているのはレイとカヲル
二人は襟首をつかまれて進行方向とは反対を見ながらおとなしく連行されている。

「そろいもそろって・・・私を憤死させるつもりか?」
「ふっ・・・人間は心に痛みを感じている。・・・しかし他人を知らなければ、裏切られることも、お互いに傷つくこともない。」
「わけが分からん・・・大体渚カヲル?」
「ん?なんだい?」
「その格好は何だ?」

アダムは二人を解放した・・・襟首をつかんでいた手を離したのだ。
不意を突かれた二人が後頭部をしこたま地面に打ちつけたがアダムは気にしない。
立ち上がったレイとカヲルは涙目でアダムを見るがこれも気にしない、二人は並んでアダムの前に立つ。

カヲルはおそらくゼーレに対する変装の意味があるのだろう。
銀髪だった髪を黒く染めている。
瞳の色も黒いのはカラーコンタクトだろうか?

「綾波レイの意図はわかるがお前のそれは何だ?」

二人はまったくそっくりの格好をしていた。

すなわち・・・カヲルのほうもサマーベストに”ミニスカート”をはいているのだ。
アダムの言葉を聞いたカヲルはふっと笑って隣のレイを見る。

「抜け駆けはよくないと思うんだよ。」
「どういう意味だ!!その姿にどんな意味がある!?」

叫びながらアダムの中の冷静な部分が考える。
何故我はこんな風に突っ込みをしているのだろうか?
碇シンジの願いをかなえるために時間をさかのぼったのがそもそもの間違いだったのだろうか?
取り留めのない思いが矢継ぎ早に思い出されてくるが根性でカットした。

「シンジ君?」
「え?」

そんなアダムの葛藤を無視してカヲルはいつの間にかシンジに迫っていた。
当のシンジはいきなり急接近してきたカヲルに面食らっている。

「僕はカヲル、渚カヲル・・・君と同じ仕組まれた子供さ」
「ぼ、僕の名前を?」
「もちろん知っているさ、僕は君に会うために生まれてきたんだ。」

二人の距離は息がかかるほどに近い。
そのあまりの近さに他人とのふれあいに慣れていないシンジはたじたじだ。

「震えているのかい?ガラスのように繊細だね、君は・・・好意に値するよ。」
「こ、好意?」
「好きってことさ」

いきなり好きだといわれたシンジが真っ赤になる。
何せいきなりの告白だ。
人生初の快挙に喜ぶべきかどうかでシンジが思考停止に陥った。

「シンジ?ちなみにそいつそんなナリだが男だぞ?」
「ぬな!!」

アダムの一言でズザザザ!!と音を立てながらシンジが盛大に地面を削ってあとずさる。
その表情は信じられないものを見たという感じに固まっていた。

「か、確認したいんだけど・・・君、男の子だよね?」
「ああ、僕にとっては男も女も等価値なんだ。」

シンジがさらにカヲルから距離をとった。

周囲から黄色い声が上がる。
見れば第一中の女生徒たちが妙にきらきらした目でシンジとカヲルを見ていた。
忘れてはいけない。
ここは通学路なのだ。
学生がいることはなんら不思議なことではない。

ゆっくりとシンジとの距離を詰めるカヲルに女生徒達がヒートアップする。
男子生徒たちは彼女らの上げる超音波の嵐に耳を押さえてうなっているのだからその威力はすさまじいの一言だ。

彼女らは間違いなく腐女生徒だろう。

「まって!」

この異様な空気の中で行動できたのは一人だけだ。
シンジとカヲルの間に割り込んで二人を引き離したのはレイだった。

「・・・何のつもりだい?」
「シンジ君は私が守る。」
「え、ええっと・・・ありがとうって言えばいいのかな・・・この場合?」
「・・・いい」

ぽっとほほを染めるレイを見たシンジが訳もわからずどぎまぎしだした。

しかしそんな甘酸っぱい空気も一瞬・・・再びレイとカヲルがにらみ合う。
二人の背後に竜とトラが立ち上っているのは目の錯覚だろうか?
両者本気と書いてマジだ。

シンジはあまりのことに話しについていけないでいる。
騒ぎの中心は台風の目のごとく無風状態だ。
同時にそこから動けないのだが。

周囲はいきなりの持ち上がった変則三角関係に好奇心ありありで見守っている。
そのいろんな意味で緊張した空間を壊したのは・・・


「貴様ら天下の往来で何をやっとるか!!」


アダムの怒声だった。

---------------------------------------------------------------

シンジとアダムは老教師に連れられて学校の廊下を歩いていた。
外見的にも対照的な二人だが今はさらに白い方・・・アダムが背負っている影がその差を顕著にしていた。
シンジのほうはそんなアダムを心配そうに見ている。

「・・・私の感じているこのやるせなさは一体何なんだろうな?」
「に、兄さん」

隣を歩くシンジが心配そうな声をかけてくれるのがなぜか嬉しかったりするのはかなり末期っぽいと思う。

結局あの後アダムがカヲルとレイの脳天に拳骨を叩き落して正気に戻し、強制的に着替えに行かせたあと、シンジを連れたアダムは全速力でその場を離れた。
あれ以上あの場所にとどまって精神力を消費するのはいやだったからだ・・・と言ってもアダムのメーターはすでにレットゾーンに突入している。
一日の始まりの朝からすでにクライマックスモードに入ってしまっては夜までの残り時間をどうしろというのか・・・

「ね、ねえ兄さん?渚カヲル君と綾波レイさんだったっけ?いったい何?」
「何って・・・言っていなかったか?」
「う、うん」

そういえば昨日からあの二人がいなかったので説明する機会がなかったと思い出す。

「あの二人はそれぞれファーストチルドレン・綾波レイとフォースチルドレン・渚カヲルだ。」
「チルドレン?」
「エヴァのパイロットのことをチルドレンという。そしてお前はサードチルドレンということになっている。」
「僕が三番目?」
「ああ、二番目は今ドイツにいるからここにはいない。いずれ会うことになるだろうがとにかく気の強い女だ。」
「女の子なの?」
「お前と同い年のな・・・油断したら旦那を尻に敷くタイプだ。あれは間違いなくドSだな・・・」
「そ、そうなの?」

本人が聞けば怒り狂うであろうことをアダムは平然と言ってのけた。
ばれたら事だがばれなきゃいいのである。

シンジはシンジで思考の海にどっぷりはまっていた。
通学路で自分に迫ってきたカヲル・・・そして何故か初対面のはずの自分を守ってくれるといった綾波レイ・・・そして今は日本にいない兄の言うところのドSな少女・・・

「・・・何って言うか個性的な人達だったね。」
「・・・・・・ちなみにそのくくりで言えばお前も含まれるということを忘れるなよ?」
「う・・・それを言うなら兄さんもじゃないか!?」
「私はまともだ。しかもチルドレンに登録されてはいないしな。」
「くっ」

何を思ったのかシンジがうめいた。
まあその顔色からなんとなく予想はつくが・・・追求はしたくない。
おそらくは似たようなものだといいたいのだろう。
キチガイは自分のことをキチガイとは言わない。

「ちなみにあの二人は私達と同じマンションの隣の部屋に住んでいる。」
「そうなんだ。」
「昨日は今朝の準備で顔を出さなかったようだが・・・」
「なんだったのあれ?」
「簡単に言えば少女漫画みたいな運命的出会いを演出したかったらしいのだ。本人達曰くファーストインパクトから始まる二人の故意(
誤字にあらず)のヒストリーらしい。」
「そ、そうなの?」

シンジが引きつった笑いを浮かべた。
自分がそんなに思われるのか理由が思いつかないのに加えてどういう風に反応したらいいかわからないでいるのだ

ところで何故二人が一緒に住んでいるかというとこれにはちょっとしたわけがある。

レイが住んでいた廃墟一歩手前のマンションはすでに取り壊されている。
前回と違ってレイがあの部屋に住む理由は何一つないからだ
そこで引っ越すのならシンジの隣の家がいいとレイが言い出した。
さらにカヲルも同じ意見だった。

ちなみに、シンジ達の一家がコンフォートマンション17に住んでいるのはシンジの記憶の回復に前回と同じ環境のほうが良いだろうと判断されたからだ。
ついでに護衛やとっさの緊急事態に対処するためにミサトの隣の家になった。

となると空いている家は一つしかない。
そこでレイとカヲルの同居が決まったというわけだがこれにもひと悶着が当然あったわけでそれをアダムが腕に物を言わせて納めたりした経緯がある。

「さらに私達と同い年で同じクラスだ。そういえば渚カヲルも数日前にこの学校に転校してきたことになっていたな」
「そ、そうなの?」
「っと・・・2−A・・・ここか・・・」

いつの間にか目的の教室の前に来ていたようだ。

「では二人ともちょっと待っていてくださいね」
「「はい」」

シンジ達を待たせて教師はさっさと教室に入っていった。
転校生のことをみんなに話してから呼ぶつもりなのだろう。

「緊張しているのかシンジ?」
「そ、そうかも・・・兄さんは?」
「私もこういうのは初めてだからな、期待はしている。」

アダムもまんざらではないらしい。
なんといっても初めてのことはたとえどんな些細なことであれ緊張するものだからだ。

「では碇君、入ってきてください。」
「「はい」」

呼ばれたシンジとアダムがそろって教室に入っていく。
髪と目の色が対照的で双子のようにそっくりな二人に教室中が驚きに包まれる。
いっせいに集中する視線の中で・・・何人かは別の感情のこもった視線を向けてくる人間がいた。

うち二人はレイとカヲル・・・そして・・・

(ああ、そういえばこいつらも居たんだったな・・・)
「な、何であんさんがここにいるんや!! 」
「しかもシンジと同じ制服を着て!?」
「うるさいぞ鈴原トウジ、相田ケンスケ」

騒ぎ出したジャージとメガネの少年に対してアダムのとった行動は簡潔にして最速・・・自分の履いている上靴をどこかの妖怪小僧よろしく下駄を飛ばす感じで二人に蹴り飛ばしたのだ。

「「はぐ!!」」
「鈴原!!」

もろに眉間にそのつま先を受けたトウジとケンスが転び、それを見たヒカリがあわてて駆け寄った。
倒れているのは二人なのに名前を呼んだのは一人だけというのは突っ込みどころだが・・・哀れケンスケ・・・見向きもされていない。

しかしほかの生徒達はそれに突っ込むどころじゃなかった。
一連のことに言葉もなく唖然としている。

「ちっ・・・今日は厄日か?」

盛大なため息をついたアダムに教室中の視線が集中する。

「・・・何というか・・・初対面の自己紹介は大事らしいので私は碇シン、こっちの色違いが碇シンジだ。みんなよろしく。」
「に、兄さん・・・簡潔すぎるよ。」
「そうか?・・・リリンの文化というのは難しいな・・・」

第一印象を気にするのならまずいきなり同級生を実力行使で黙らせるべきではないだろう・・・そんな自己紹介は古今東西存在しないのだから。
忘れてはいけない。
何かと突っ込み役に回ることの多いアダムだが決して常識人の範囲に入ってはいないのである。

「ではお二人の席はあそこで」

そしてこの状況にも動じない老教師は鈍いのか大物なのか・・・・・・その後、アダムはトウジ、ケンスケ、ヒカリにも事情を聞かせて納得させるのに精神力を使い果たすことになった。
やはりアダムにとっては昨日のことも含めて厄日のようだ・・・しかも現在進行形の・・・事情を話し終えたアダムはトウジ達をちょっとした友人とシンジに紹介し、やはりというかトウジが先陣を切って友達になろうと言い出した。

最初は友人というものに慣れていないシンジがおどおどしていたがはにかみながらもうなずき、ケンスケとヒカリとも同じように友人になることができた。
レイやカヲルともども急速にその親交を深めていくことになる。

サキエル襲来の数週間前の話だ。

ちなみに転校初日の数分で一クラスを支配下に置いた英雄として碇シンの名が末永く語り継がれたとかどうとか・・・真剣にどうでもいい話だ。






To be continued...

(2008.02.03 初版)
(2008.02.10 改訂一版)
(2008.03.09 改訂二版)


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