人は己が信じたものしか信じない。
人は己で見たものしか信じない。
たとえそのためにどれほどの犠牲が払われようと・・・
第三話 〔幼女襲来〕
presented by 睦月様
「総力戦だ。厚木と入間も全部あげろ!!」
「出し惜しみは無しだ!!なんとしてでも目標を潰せ!!!」
発令所の中心で戦自の将校たちが叫ぶのをその炎のような赤い目の色とは対照的に冷えた視線で見るものがいた。
「・・・碇ゲンドウ?」
「なんだ?」
「これにはどんな意味があるのだ?」
アダムの目の前には司令専用のいすに座ったゲンドウの後姿、そしてとなりには冬月がいる。
正面のメインモニターに映るのはサキエルだ。
その周囲には戦自の戦闘機やV-TOLが飛んでいてサキエルに攻撃を仕掛けているがまったく効いていないのは明らかだった。
「なぜだ!?直撃のはずだっ!!!」
「戦車大隊は壊滅・・・誘導兵器も砲爆撃もまるで効果無しか・・・。」
「駄目だ!!この程度の火力では埒があかん!!!」
モニターの中でまた一機戦闘機がサキエルのやりに貫かれて撃墜された。
爆発する機体を見たアダムが顔をしかめる。
あれではパイロットは助からないだろう。
「・・・・・・確かサキエルに関する資料は連中に渡したのではなかったのか?」
「渡しはした。しかし連中は一笑にふしてまともに取り合おうとしなかったのだ。「こんな生き物はありえない」と言っていたな・・・」
「その結果がこれか?」
モニターの中のサキエルに戦自の戦力が蹴散らされていく。
まるで紙を破くようにあっさりと・・・今は多少わずらわしいのかサキエルもハエを追い払うような感じで相手をしているようだがその気になれば無視して第三新東京市に直行するだろう。
「彼等の死に意味があるとは思えんな・・・」
「・・・人と言うものは痛みを伴わなければおろかさを学ばないものだ。・・・我々もかつてはそうだった。」
「愚かさか・・・遺族への補償は十分なのだろうな?」
「ああ、ついでにこの作戦が失敗すれば彼らも責任を負うことになる。伊達に高い給料を取ってはいないからな」
アダムとゲンドウの会話に将校達の顔色が青くなる。
どうやらきっちり聞こえていたようだ。
「なぜだ!?直撃のはずだっ!!!」
「戦車大隊は壊滅・・・誘導兵器も砲爆撃もまるで効果無しか・・・。」
「駄目だ!!この程度の火力では埒があかん!!!」
もはや叫びに近い声で怒鳴る将校たちに背を向けたアダムは静かに発令所を出て行く。
「どこに行くのだ?」
「ケージだ。ここにいて難聴になるよりシンジたちといたほうがはるかに有意義だからな。」
「私も行こう。」
「お前は連中から指揮権を受け取る役目があるだろうが、暇だからって逃げようとするな」
実際二度目なのだ。
この先の展開もその結果も知っているのだから目新しい物もない。
しかも指揮権がこないと何も出来ないと来た。
それは暇だろう。
「・・・シンジ達によろしくな」
「ああ」
アダムが発令所を出て行っても将校たちは必死で指示を出していた。
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「シンジ」
ケージについたアダムはプラグスーツを着たシンジ、レイ、カヲルの三人が並んでいるのを見つけて声をかけた。
それに気がついたシンジがアダムに向けて手を振る。
「どうだ?」
「う、うん・・・大丈夫」
「緊張しているのか?」
「た、たぶん・・・」
前回と違って今回のシンジにはサキエルに備えるための時間があった。
初号機の起動にも成功しているしATフィールドの展開にも成功している。
なんと行ってもすぐそばに優秀な教師が二人もいるのだ。
「シンジ君・・・」
「あ、綾波さん」
「いや・・・」
「はい?」
なぜか瞳を潤ませてシンジににじり寄るレイ・・・
「レイって呼んで」
「レイさん?」
「ううん、・・・レイでいい。」
「はう・・・」
レイのような美少女に潤んだ上目遣いでお願いされて断れる男がいるだろうか?
少なくともシンジにはできない。
「レ、レイ?」
「なに?」
シンジが息を呑んだ。
目の前にいるレイは微笑んでいる。
前回のヤシマ作戦のときにシンジに見せたあの微笑だ。
普段寡黙な少女のこんな表情を見たら男なんて・・・男なんて・・・
「ちょっと待て・・・」
しかしその甘酸っぱい空気の中に待ったをかける猛者がここにはいる。
アダムだ。
「綾波レイ・・・なんだその格闘ゲームの必殺コンボのような流れは・・・誰に教わった?お前が自分で考えたわけじゃあるまい?」
「・・・葛城一尉と赤城博士・・・」
「あの三十路コンビは・・・自分に未来がないからといって余計なことを・・・」
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「「そっちこそ余計なお世話よ!!」」
「「「わ!!」」」
発令初ではいきなり叫んだミサトとリツコにオペレーター三人衆が驚いた。
そりゃあ脈絡も何もなく叫ぶのはそれだけで十分怖い。
「ど、どうかしたんですか葛城さん?」
「先輩?」
「「いえ・・・何故か突っ込まないととんでもなくいやなレッテルを貼られそうだったから・・・」」
二人の言葉は同じだった。
妙なところでユニゾンしている二人・・・こういうのも虫の知らせというのだろうか?
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「ふ・・・なかなかの技だね・・・」
「渚カヲル・・・お前までこの状況を引っ掻き回すつもりか?」
「しかし僕にもシンジ君との絆があるさ」
「聞けよ」
アダムが無視して指差したのはケージに拘束されている銀色のエヴァ・・・4号機だ。
しかしその頭部は4号機のものじゃない。
初号機と同じ一本角を持った顔だ。
初号機と違ってこっちはボディーの色に合わせて銀色に塗られている。
「どうだい?初号機とおそろいさ!!」
4号機はいろいろな意味でそのまま表には出せない。
まず第一にまだアメリカで建造中ということになっている。
しかももとの頭部は量産型エヴァの正式採用モデルなので今ネルフにあるのはおかしい。
ついでにカヲルを確保するためにゼーレの施設を破壊するのにも使われた。
あのときの生き残りがいないとも限らないし少なくともそのまま使える代物じゃない。
そこで頭部装甲の取替えとなったのだ。
幸いにして本部には初号機用の予備パーツが存在したので都合がついた。
頭部以外は共通の装甲をしているので頭部装甲を交換して色を銀色に変えれば初号機の同型機の一丁上がりである。
ちなみに本部での名称はシンジの乗るほうを初号機ライト、カヲルのほうを初号機レフトと呼称していた。
ゼーレには破棄されたプロトタイプ零号機の部品を使ってでっち上げたものだと苦しい言い訳をしている。
「・・・・・・ずるい。」
レイがぼそっとつぶやいた。
「私も頭部装甲を換えたい。」
「綾波レイ・・・それは無理だ。」
「・・・どうしてそんなことを言うの?シン?」
「あのな・・・初号機と4号機は二つ目だろう?零号機は単眼だ。」
互換性などあるわけないのである。
しかしそれで納得するレイでもない。
「・・・私がレフトに乗る。」
「零号機はどうするんだ?」
「あなたが乗ればいい。」
カヲルを指差すレイにアダムが深いため息をつく。
この世界に戻ってきて遅ればせながらの反抗期なのか最近いろいろとわがままを言うのだ。
しかしそれがシンジ関係に関してだけというのだからかわいいものである。
「ふふっ・・・確かに僕なら可能だけど答えはノンさ」
なぜかイタリア風の発音で返したカヲル。
同時に展開される一触即発な空気・・・にらみ合う二人に遠慮や手加減の概念はない。
『え〜ご報告ぅ〜ただいま戦自がN2を使徒に向かって使用中ぅ〜町の住人の退避は完了しているので死者は戦自隊員以外はゼロ、使徒は健在っぽいのであのえっらそうな高官連中にザマミロといってみたい気分だけどあえて言おう無駄無駄無駄無駄無駄!!であると・・・チルドレンは速やかに搭乗してください。』
「誰だこのふざけた放送は・・・葛城ミサトか?」
アダムはテンション高いな〜とつぶやきながらいまだににらみ合っている二人の襟首を引っつかむとそれぞれのエントリープラグに投げ込んだ。
二人のエントリープラグからゴンと言う感じの音がしたところでアダムが「ああ、そういえばまだLCLが入っていなかったな」といまさらながらに気がつく。
まあそれはそれ、これはこれということでアダムはシンジに向き直った。
「に、兄さん?」
「シンジ・・・すまないな・・・」
「ううん、僕が決めたことだし・・・がんばるよ。」
「まあそんなに気負うことはない。いざとなればあの二人がお前を守るだろう。」
「な、何でそんなに必死に僕のことを気にしてくれるのかわからないけれど・・・」
「シンジ・・・」
兄の真剣な顔を見たシンジが黙る。
「いずれ・・・その答えもわかるだろう・・・」
「え?ど、どういうこと?」
「いずれな・・・そろそろ行ったほうが良い。」
「あ、うん・・・」
アダムに促されてシンジは自分のエントリープラグに入っていく。
それを見送ったアダムはケージに背を向けた。
「・・・アダム」
ケージから出たところにユイが待っていた。
その手にはアダムの黒いローブを持っている。
無言でそれを受け取ったアダムがローブを翻しながら身にまとう。
「気をつけてね・・・」
「・・・行ってくる。」
ケージから聞こえる発進準備の音を聞きながらアダムは振り返らずに歩いていく。
一時間後、N2によってすり鉢状になった大地にチュドーンという感じに炎が上がった。
はい?・・・戦闘シーン?
アンビリカルケーブルパージして即効エヴァ三機で囲んで再生中のサキエルのフィールド中和してフルボッコにしましたが何か?
ちなみにその光景を描写したらいじめ問題でR指定くらいそうですが何か?
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「昨日はお疲れさんやったな」
翌日、登校したシンジ達にトウジが話しかけてきた。
「大丈夫やったんか?」
「うん、ありがとうトウジ」
初の実戦だったシンジはあまりにもあっさり終わったことでまだ実感がわかないらしい。
「ところで鈴原トウジ?」
「ん?何やシン?」
「お前の妹のほうは大丈夫だったんだろうな?」
「もちろんや」
トウジも馬鹿ではない。
前回、第一次直上決戦と呼ばれたサキエル戦において自分の妹が大怪我をしたことは当然覚えている。
だからこそ今回は自分の妹から決して目を離さずちゃんと面倒を見ていた。
「へ〜トウジって妹がいたんだ。知らなかったよ。兄さん?トウジの妹がどうかしたの?」
「シンジ・・・実はな昔こいつの妹が大怪我したことがあってな、まあ事故というかなんと言うか・・・その妹のほうも不注意だったとは思うんだが・・・」
グサ!!
「どうかしたの?」
「こいつ、妹が怪我したからって八つ当たりに当事者をぶん殴ったんだ。明らかに不可抗力だったのだが頭に血が上って・・・その場ののりというやつは怖いな、しかも言ったことが「お前を殴らなければ気がすまん」だぞ」
グサ!!
「そ、そんなことしたの?嘘でしょう?」
「その後に仲直りに自分を殴れと恥ずかしいことを言ったんだが自分が二発殴ったところを一発で済ませるというチキン野郎だ。」
グサ!!
「ちょっとトウジそれはあんまりじゃ・・・ってトウジ、大丈夫!?」
見ればトウジは床に沈んでいる。
どうやら言葉の刃に切り刻まれて半死半生のようだ。
周りの皆は事情を知っているので同情はするが手は出さない。
今のトウジを助けることは本人のプライドを傷つけることになる。
「ト、トウジ?どうしたのさ?」
「シンジ・・・ワイを殴ってくれ・・・」
「はい?」
「ワイはチキン野郎や・・・頼む、ワイをもう一発殴ってくれい!!」
「ト、トウジが何を言っているのかわからないよ!?」
「・・・うるさいわ」
いきなり二人の間に入り込んできたレイがトウジのほほをひっぱたいた。
その反動でトウジの体が右に一回転した。
「鈴原君、君の覚悟には敬意を表すよ。まるでメロスみたいって事さ。」
さらにカヲルが反対側のほほをたたく。
今度は左回転で一回転した。
「まあ我でもかまうまい?元は同じものなのだから、答えは聞いていないがな」
そう言いながらアダムの18番のアッパーがトウジのあごを捕らえて縦に一回転させる。
どべしゃ!!
なにやら人体が立てる音としてそれはまずくないですか?的な音とともにトウジが床に沈む。
同情の視線を向けてくる人間はいても誰も手を出さない。
この面子に逆らうと怖いし・・・トウジとしては同情するなら助けてくれな気分かもしれないが・・・しかしこれを食らっても生きているのはたいしたものだ。
魂が上書きされて防御力が上がっているのだろうか?
「パァ〜パァ〜」
「「「「「「はい?」」」」」」
静寂に包まれた教室になにやら幼い声が聞こえてきた。
何度もパパと呼びながらその声は近づいてくる。
しかも大勢の人の気配と一緒に・・・やがて声はシンジたちの教室の前でとまった。
ガラ!!
おお・・・見よ、子供のあどけない無垢に包まれたあの姿を・・・そのコンパクトさを・・・思わず「お持ちかえりー」といってさらってしまいそうなキュートさを・・・誘拐という名の犯罪だがな
扉を開けたのは小さな女の子だった。
全体的に丸い手足、ふっくらとしたほほ、水色の髪を左右でお団子にしている。
さらに黒のゴスロリスタイルの幼女・・・彼女はその”赤い瞳”で教室中を見回している。
その背後にいる女生徒たちはなんだろうか?
まるで子猫を見るときのように目をきらきら輝かせている。
「あ、パパ〜」
どうやら目当てのものを見つけたらしい。
テテテという感じに走る姿もかわいい幼女が向かった先は・・・
「パパ!」
いきなりアダムの胸の中に飛び込んだ。
その旨にほお擦りしている光景は神クラスだ。
ドサ!
あ、かわいさに当てられた女生徒が一人撃沈されて沈んだ。
気を失ったようだ。
「・・・サキ?」
「うん」
「何でここにいるんだ?一人で来たのか?」
「うん!」
ほめてほしいのだろう。
小さな子供が笑いながら頭をなでてほしがっている姿はやたらと和む。
マイナスイオンの癒しの効果があるんじゃないだろうか?
「あ、ママ」
「え?」
サキと呼ばれた幼女は今度はレイの胸に飛び込んだ。
教室中の生徒が驚きの声を上げる。
「に、兄さん?」
「シンジ?」
「どういうこと!?パパって・・・しかもレイがママ!?」
「落ち着けシンジ・・・あの子はどう見ても4歳か5歳だろう?妊娠期間って大体一年くらいらしいな・・・10歳の子供が妊娠させる能力なんてあるわけがあるまい?あの子は親戚の子で綾波レイとも面識があって私たちのことをパパ、ママと呼んでいるだけだ。」
「そ、そうだよね・・・」
ほかの生徒達も納得したのかほっと胸をなでおろした。
この騒動の元凶はレイにすがり付いてご満悦の笑みを浮かべている。
レイは困っているようだが傍目にはなんとも和む光景だ。
「・・・アダム?」
「何だ渚カヲル?」
「あの子から感じる気配・・・これはまさか・・・」
「ご名答、あれはサキエルだ。」
「やっぱり・・・」
ほかの面子はいきなりの来訪者に注目していてカヲルとアダムに会話に気がついていない。
「な、何であんな姿に?」
「碇ゲンドウとの契約でな、いろいろ協力する代わりに綾波レイの予備の体を貰い受けた。あれは魂が入っていないからな、そこにサキエルの魂を入れたのだ。」
「そ、その結果があれかい?」
「どうも魂に肉体のほうが引かれたらしくてな、気がついたときにはあんな有様だ。」
改めて見ようと何度見ようと完璧に幼女だ。
「で、でもどうやってサキエルの魂を?」
「戦闘中に乗り込んでいってこっそり回収した。」
「そんな・・・何時・・・まさか・・・」
「多分あたりだ。認識阻害のフィールドを使った。」
「なんて無茶を・・・」
認識阻害のフィールド・・・自分の存在を気づかれないように出来るアダムの得意技の一つ。
しかしこれは欠点がある。
認識されようとされなかろうとそこにいることには変わりない。
つまり流れ弾が飛んでくる可能性は十分にあるのだ。
今のアダムは元はシンジの体だ。
戦闘に巻き込まれれば怪我をするし悪ければ死ぬ。
アダムもそれくらいは知っているはずだ。
「・・・そこまでして・・・どうして・・・」
「理由なんか必要あるまい?」
そういってアダムの見つめる先にいるのはレイとサキ・・・アダムの視線はどこまでもやさしかった。
「私はあなたのお母さんじゃないと思うのだけれど・・・」
「んう?ママじゃないの?」
泣きそうになったサキをレイが必死で慰めている。
ここまでうろたえているレイというのも初めて見た。
「それにしてもなんでサキエルがここに・・・」
「サキちゃーん」
「碇ユイ?」
現れたのはアダムが呟いたとおりの人物・・・碇ユイだ
「こんなところにいたのね・・・」
「碇ユ・・・母さんが連れてきたのか?」
「ええ、ごめんなさいね、あなたに会いたいって言うものだから連れてきたの、ごめんなさい」
いきなり現れた同級生の母、それを見た同級生達の視線がシンジとアダムの間を行き来する。
それも仕方がないだろう。
どう見ても親子に見えないくらいユイは若い。
実際エヴァの中にいて年をとっていないのだから当然だ。
「サキちゃん?ここにいるとみんなに迷惑がかかっちゃうの。」
「あう・・・ごめんなさいユイバーバ」
びきっと空間に亀裂が走った。
錯覚ではなく教室中の人間がその動きを止めている。
「え?」
特にユイなど笑顔のまま何か信じられないことを聞いた風に固まっている。
「サキ?」
「何パパ?」
さすがにアダムも驚いている。
「バーバって何のことだ?」
「ジージが言っていたの」
「ジージ?」
「おひげのジージ」
周囲の空気が別の意味で固まった。
全員の脳裏に浮かぶのは共通の男・・・ゲンドウだ。
「パパのパパだからジージ、パパのママはバーバって聞いた。違うの?」
「いや、違わないが・・・」
どうやって説明すればいいかわからない。
いくら同性でもこんな小さな子に女心の機微をわかれというのは無理だ。
そんなことを考えていたらサキがいつの間にかユイの目の前に移動していた。
「ユイバーバはバーバじゃないの?」
「え?」
現実に戻ってきたユイがサキの言葉に戸惑った。
「ジージが言っていたよ。ユイバーバはバーバだって・・・」
「えう・・・」
周囲からユイに向けられる同情の視線が突き刺さる。
同時に無言の励ましも・・・がんばれ碇ユイ、ファイトだ碇ユイ、負けるな碇ユイ
「そ、そうよ、私はサキちゃんのバーバよ〜」
周囲からおお〜という感じの感嘆の声が上がる。
勇者をたたえる歓声だ。
「ユイバーバ〜」
「ふふふっ」
ユイの笑顔が怖い。
暴走時の初号機並みのプレッシャーだ。
しかしサキは子供ゆえの無邪気さでバーバを連発する。
「シンジ、よく見ておけ、あれは母じゃない。」
「か、母さんじゃないって・・・それなら何?」
「あれはな、女という名前の修羅だ。女というものは生まれたときから大なり小なり似たようなものを持っている。」
実際ユイの発散しているものは人間の気配じゃない。
むしろ獣のそれだ。
「く、詳しいんだね」
「ふっ・・・」
アダムがどこか遠くを見つめているだその心中は誰にも理解できない。
リリスとの間に何かあったのだろうか?
「シン、シンジ?」
「な、なに?母さん?」
「なんだ?」
「私ちょっと用事が出来たんでサキちゃんを預かってくれない?すぐ代わりの人をよこすから」
「わ、わかったよ母さん」
「用事とは何だ?」
「うふふふ・・・」
これ以上はさすがのアダムにも突っ込めない。
そんなことしたら巻き添えを食う可能性が高い。
そもそも聞くまでもないだろう。
「・・・ほどほどにな」
「9割にしておく」
「せめて5割で半殺しにしておけ。」
「間をとって7.5でどう?」
「・・・好きにしろ、夫婦のことだからな・・・しかしこっちに飛び火してくるのは困るぞ?」
「わかっているわ」
そう言って教室を出て行くユイの後ろ姿は戦場に赴く戦士・・・いやむしろ鬼のそれだった。
「バイバイ、ユイバーバ」
サキの言葉にブチンと何か切れた音が聞こえた気がするのは気のせいじゃないだろう。
振り返ったユイの顔は極上の笑みだった。
見えなくなるまでそれを崩さなかった精神力はたいしたものだ。
「兄さん?か、母さんはどこに行くんだろう?」
「シンジ・・・いまどき母子家庭は珍しいものじゃないだろう?」
それはしゃれになっていなかった。
誰もがさっきのユイを見ているのだから
「パパ、ジージいなくなっちゃうの?」
「遠くに行くかもしれないな・・・私たちにも手の届かないところに、しかしまあそこにいけるとすればいずれ再会できるだろう。」
「ん〜わかんないサキにもいける?」
「そこは誰もが人生の終わった後に行く事になっているらしいからたぶんな」
つまりあの世だと?
その日・・・ゲンドウは家に帰ってこなかった。
対照的に何かすっきりした感じのユイが目撃されている。
・・・うわさでは死んではいないらしい。
「ううう・・・私はいらない夫で父親でジージなのか?」
「やかましいやつだな・・・自業自得だろうが・・・」
ネルフ直下の病院、その個室の一室で包帯ぐるぐる巻きの中年男と見舞いに来た老人の姿が見られた。
To be continued...
(2008.02.10 初版)
(2008.02.17 改訂一版)
(2008.03.09 改訂二版)
(あとがき)
笑いって難しいですね・・・週間連載のギャグ漫画家ってすごいな〜って実感しています。
作者(睦月様)へのご意見、ご感想は、または
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