母は時として夫にとことん冷たくなることがある。
・・・あるいはそれも愛の形か?
第四話 〔夫婦のかたち〕
presented by 睦月様
「使徒再来か・・・あまりに唐突だな」
「15年前と同じだよ。災いは何の前ぶれもなく訪れるものだ」
「幸いとも言える。我々の先行投資が、無駄にならなかった点においてはな・・・」
「そいつはまだわからんよ。役に立たなければ無駄と同じだ。」
「さよう、いまや周知の事実となってしまった使徒の処置、情報操作、ネルフの運用は全て適切かつ迅速に処理して貰わんと困るよ?」
ネルフ本部の一室にてゼーレの老人達がゲンドウを囲んで詰問していた。
詰問されているほうのゲンドウは自分のテーブルにひじをついてゲンドウポーズをしている。
続にこの状況を四面楚歌といったりするかもしれない。
しかし、これが女の子や子供だったなら助けようとか思うのだろうが中心にいるのがむさいおっさんでは助ける気などかけらも起こらない。
話の内容は前回のサキエル戦に関してだ。
本来ならばサキエル戦終了の翌日に行われるはずだったのだが・・・”何故か”ゲンドウが”瀕死に近い重症”を受けたことで延期されていたものだ。
回復し切れなかったのか前回のレイよろしく包帯だらけである。
しかし何度でも言うがむさいおっさんのゲンドウに萌え要素や助けてあげたい要素など皆無であるから他から見る分には見苦しいことこの上なかったりする。
ゼーレの老人達もあえてその件には触れないようにしているらしい。
『その件に関しては既に対処済みです。ご安心を』「zzz・・・」
ちなみにゲンドウ・・・さっきから何かおかしい。
元からまともな人間の部類に入るかどうか疑問だったが・・・特にあの髭とか・・・しかしそれを引いてもまだ何かが変だった。
「それに君の任務はそれだけではあるまい。人類補完計画。これこそが、君の急務だぞ」
「さよう。その計画こそがこの絶望的状況下における唯一の希望なのだ。・・・我々のね。」
「いずれにせよ、使徒再来における計画スケジュールの遅延は認められん。予算については一考しよう」
老人達の中心、バイザーをつけたキールの言葉にほかの老人達がうなづく。
今回は前回と違ってサキエルの殲滅は一方的かつ即効で終わったために第三新東京市はもちろんエヴァにもたいした被害は出なかった。
少なくとも国が一つ傾くことはない。
簡単に言うとゲンドウに言う嫌味のネタが尽きたのでキールが話を打ち切ったのだ。
「では、あとは委員会の仕事だ」
「碇君、ご苦労だったな」
次々にホログラムが消えていく。
残ったのはゲンドウとキールだ。
「碇・・・後戻りは出来んぞ?」
そういってキールのホログラムも消える。
「zzz・・・ん?ああ、終わったのか・・・」
大きく伸びをしたゲンドウは懐のレコーダーのスイッチを切る
リツコとユイが暇な時間に片手間で共同開発した高性能音センサーつきのレコーダーだ。
これに自分の言葉を入力して老人達の会話に受け答えさせて、本人は授業についていけない生徒よろしく居眠りをしていた。
この会議にしてもゲンドウにとっては二度目だし、老人の愚痴が長いことは経験で知っている。
ぶっちゃけめんどいのだ。
居眠りでもしていたほうがはるかに有意義な気がしても責められはしないだろう。
幸いトレードマークのサングラスで目元は隠れるし、ゲンドウポーズにしたって口元を隠して表情を読まれないようにするというよりは寝ぼけて頭を机に打ち付けないように支えていたのだ。
「さて、帰るか・・・」
・・・これでだまされてしまうあたり老人たちにうっかり属性があるのかアルツハイマーが始まっているのかは微妙なところだと思う。
---------------------------------------------------------------
翌日・・
食事は大事だ。
その日一日の活力現になるし血となり肉となる。
文句を言わず飯粒一つにいたるまで食すのが人の道であろう。
「はい、サキちゃん、あーん」
「あーん」
ユイがかわいらしくあけたサキの口にスプーンに掬った朝食を入れる。
「ん」
「おいしい?」
「おいしいーよユイバーバ」
サキは子供用の背の高い椅子に座って上機嫌だ。
両足をばたつかせて喜びを全身で表している。
それを見るユイの顔はなんと言うか感無量?
顔のラインが崩れて抽象画みたくなっていた。
これで世界最高峰の頭脳の持ち主というのだからこの世界はどこか狂っていないだろうか?
「・・・母よ?」
「何、シン?」
「楽しいか?」
「とっても」
アダムの言葉に平然と答えるユイは心底楽しそうだ。
サキにバーバといわれても堪えない所を見るとその点に関してはクリアーしたらしい。
おそらくはバーバと言われることよりもサキを愛でるほうが優先したのだろう。
何故子供というのはナチュラルに癒し系のスキルを保持しているのだろうか?
「・・・シンジ?」
「何?」
「いきなり僕はいらない子なんだなんて言い出すなよ?」
「は?何のこと?分けわかんないんだけど?」
「いや、サキに嫉妬しないかなーって」
「兄さん・・・」
シンジが何かかわいそうな人を見る目で見てくる。
アダムとしてはとっても心外だ。
「確かに僕は母さんと離れていた時間が長いけど、いくらなんでもサキちゃんみたいな子に嫉妬なんて沸かないよ。」
「・・・そうだよな・・・」
それが普通、人としての道なのだが・・・”前回”を知っているものとしては断言できないものを感じるのは考えすぎだろうか?
まあ、この世界のシンジは家族の存在をえて前向きだ。
多分大丈夫だろう。
「ところで母よ?」
「なに?」
「まだ許さんのか?」
そういったアダムはゲンドウとユイの部屋を見る。
今頃ゲンドウが一人寂しく食事をしているはずだ。
多分「拒絶されることには慣れている。」とか言いながら滂沱の涙を流していることだろう。
・・・慣れてねーだろ?
「当たり前です」
「当たり前と来たか・・・自分のことをバーバといわせた私怨が入っているっぽいが・・・ちなみにどのあたりが当たり前だ?」
「サキちゃんの教育に悪いでしょう?あのサングラスもやくざのような髭も明らかに悪のボスですって言う態度も」
犬の遠吠えみたいな泣き声が聞こえた。
音源はゲンドウとユイの部屋のほう・・・えらくもの悲しい遠吠えだった。
「・・・夫じゃないのか?」
「だから何?」
「・・・・・・ゲンドウ・・・泣くぞ?いや、もう泣いているっぽいが・・・」
「だから何?」
「いいのか?」
「だから何?」
ユイの極上の笑みにアダムは追及をあきらめた。
これ以上何か言ったところで何かが変わるわけじゃないだろう。
ゲンドウ一人を生贄に差し出せば事が丸く収まるというのならこれ以上言うこともない。
「これが倦怠期というやつか?」
「は〜い、サキちゃ〜ん」
「あう〜」
アダムは内心リリンが自分の子供達の中でもっともたくましいのではないだろうかと思い始めた。
それこそサードインパクトでも起こさない限り絶滅しないようなレベルで・・・
---------------------------------------------------------------
ネルフ本部の実験場、目の前では初号機が天井から吊るされてパレットライフルを構えている。
エントリープラグではシンジが「目標をセンターに入れてスイッチ・・・」と教えられたことを素直に実践してモニターに映る標的を撃破している。
・・・・・・しかし機関銃系のものはそんなライフルのように悠長な使い方をするものではなくただ標的に連続してダメージを与えればいいわけだから視界に入ったとたん撃てばいいんじゃないかと思う。
アダムはシンジの訓練をじっと見ていた。
もちろんミサトやリツコ、マヤも参加しているが二回目だけに「まるでエヴァに乗るために〜うんぬんかんぬん」の台詞はない。
その代わり・・・
「ね、ねえシン君?」
「なんだ?伊吹マヤ?」
「あれは何かしら?」
「何って・・・」
マヤが指差す方向をアダムがいやそうに見た。
見えるのは黒い何かの塊・・・何故かサングラスとひげがついている。
視覚的にもいるだけで絶賛発散中の威圧感にしてもうっとおしいことこの上ない。
「・・・気にするな」
「気にって・・・あれが何か知っているの?」
「本気で気がついていないわけじゃないよな?」
「なんとなく気がつかないほうがいいような気がするんだけど・・・」
マヤの言うことは正しい。
あんなものは気がつく前に生ごみに出したほうがいいだろう。
実際呼びかけても返事がないのだからただの屍のようだ。
「気になるとは思うがあえて無視してやってくれ、もうすぐ出張に出るはずだから、それまでな・・・」
「なんって言うか・・・何があったの?」
「追求するな、出張から戻ってくるまでに碇ユイの機嫌が直ればいいのだが・・・」
「た、大変なのね・・・夫婦って・・・一寸怖いかも・・・」
「そんなことを言っているといずれああなるぞ」
アダムは無言で作業中のリツコと訓練を見ているミサトを指差した
それを見たのマヤの顔色が変わったのは見なかったことにしておく。
アダムは大きく頷くとマヤを励ますようにその肩を叩くとミサトの隣に歩いていって並んで立つ。
「ところで、シャムシェルはどうするつもりなのだ?」
「簡単よ、相手の攻撃方法が分かっているって楽なもんね〜ゲームの攻略本を読んでから挑む感じ?」
ミサトはよほど自信があるのか胸を張っていた。
相変わらずの牛のようなボリュームのバストがさらに張り出して男性職員の視線を釘づけにする。
違う意味でも熱いバトスを刺激しているようだ。
「・・・何を考えている?」
「シャムシェルの武器はあの二本の鞭でしょう?」
「だから?サキエルのようにはいかないぞ?サキエルの攻撃は一直線だったがシャムシェルの攻撃は早く鋭利で応用も効く。囲んだからってうまくいくとは限らない。」
「ここにはエヴァが三機あるわ。」
なんとなく読めた。
鞭が二本しかないのなら三機のエヴァでもって対処できる。
一機が一本ずつ鞭を抑えればこちらにはエヴァが一機残る計算だ。
前回、初号機の手のひらに受け止められたような代物だ。
A・T・フィールドを手に集中すればしのげない事もないだろう。
「そう、三機のエヴァを一直線に並べて連続攻撃をかけるの、名づけてジェット・・・」
「それはやめておけ」
「な、何故そこでダメだし!?」
「縁起が悪いだろうが・・・踏み台にされたらどうする?」
「だってイカじゃん、足ないじゃん、踏めないじゃん」
「じゃんって・・・葛城ミサト?」
「何?」
大きなため息をついたアダムの口から決定的な言葉が発せられる。
「三十路の女が若い連中のまねをしても痛いだけだぞ?はっきり言ってキモイ・・・」
びしっと言う感じに空気が凍った。
ミサトの額に青筋が浮かぶ。
「あ、あんただって似たようなもんじゃない。って言うか何歳よ?」
「15だ。盗んだバイクで走り出す年齢だな」
「ザケンナ!!このザ・年齢不詳が!!」
「この体は15歳だろうが」
くうっと言う感じにミサトがうめく。
確かにアダムの肉体年齢は15だろう。
その中身がどんなに老成していようが重要なのは”見た目”である。
漫画の主人公やヒロインが好き勝手やっても許されるのはかっこいい、あるいはかわいいからである。
それ以外に意味があろうか?
いや、ない(反語)
じゃなければ散々敵機を撃墜しておいて「殺したくなかったのにー!!」なんていわれて説得力があるわけねーのである。
「で、でも私はまだ29よ!」
「・・・誕生日はいつだ?」
「あ、明日・・・」
「あと24時間きっているな、もうすぐこんにちわ新しい私。さようなら昔の私か・・・大差あるまい?」
「言うな!!!!」
「「「「「「「やかましい!!!!!」」」」」」
リツコ達に実験場からたたき出されました。
その後、結局ミサトの案が採用され、シャムシェルはジェットストリームで殲滅された。
もちろんトウジやケンスケが戦場にしゃしゃり出てくることもなかったわけだから問題などあるわけがない。
具体的には、一番手のカヲルが一本目の鞭を止めて、レイが二本目をとめる。
そんでもってシンジが仁侠映画よろしく「命(たま)とったらぁ!!」とプログナイフを構えて体ごと突っ込んだ。
初号機のあの巨体からくり出される一撃だからそれはもう深く刺さって一発昇天物、盛大に十字の炎を上げてきれいさっぱり吹き飛んだ。
数の暴力とは偉大で容赦がないものだ。
Q・・・サキエルのときといい、はっきり言って卑怯過ぎじゃね?
A・・・勝てば官軍です。
ちなみに、前回と違ってシャムシェルの体が残らなかったのはもちろん裏でアダムが動いていたからだ。
無事回収には成功したらしい。
戦闘シーンがないのは手抜きではありませんよ・・・いや、マジに・・・
---------------------------------------------------------------
数時間後、アダムが一人の少女を発令所に連れてきた。
それに気がついた発令所のメンバーが振り返る。
「・・・またせたな」
「あれ?兄さん、その人誰?」
「友人というか身内というか・・・」
「え?」
不思議そうな顔のシンジだが仕方がない。
この場で唯一事情を知らないのはシンジだけだ。
すなわち今回の使徒っ子の初お目見えである。
「こんにちわ、今日からこちらでお世話になりますシエルといいます。」
彼女の第一声はそれだった。
外見年齢は高校生くらいだろう。
瞳はやはり紅、ショートカットの髪は濃い蒼でメガネをかけている。
・・・ちなみにどこかのムーンプリンセスとは縁もゆかりもない。
黒鍵投げたり、シスター服着て夜な夜な吸血鬼を狩ったり、不死身だったりはしない。
あくまでシャム”シェル”であるからして・・・
もちろんムーンプリンセスだからといってミニスカセーラーを着た一団のほうとも無関係である・・・むしろ遠い。
「あ、あなたが碇シンジ君ですね?」
「は、はいシエルさん?」
「シエル先輩って呼んで・・・」
パン!!
「あう!」
いきなりシエルの後頭部をアダムがはたいた。
「な、何?」
「いや・・・なぜか今突っ込まなければいけないような衝動が・・・」
アダムも不思議そうに自分の手を見ている。
「だからせっかく関係ないって言ってんのに余計なこと言うなやこら!!」みたいな感じの突っ込みを大いなる天の声が命じたのか、あるいは第七感でも発動したのだろう。
「に、兄さん年上の女の人を叩くなんて・・・」
「シンジ、これはどっちかというと躾だな」
「躾ってどう見ても兄さんのほうが年下じゃないか」
確かに外見年齢だけ見ればアダムのほうが年下だ。
そして躾とは普通は大人が子供に対してするもの・・・一部の例外があったりするがそれは強制的に無視する。
両者合意の上なら趣味だし、そうでなければ犯罪だから・・・
シンジの言葉を聞いたシエルのめがねがキラリン!とばかりに光った。
「・・・何のまねだ?」
「いいこいいこ」
シエルはアダムの頭を子供にするように撫でていた。
その顔にはなんと言うか・・・勝ち誇ってやがる笑みがある。
「年長者=先に生まれた人=人生の先輩=さあ、こーる・みー・シエルせ・ん・ぱ・い!!」
「・・・あくまでそこにこだわるか、この馬鹿娘め・・・その天然は素か?」
「ふふふ、この場の地の利は我にあり!」
そういって指差すのはシンジ・・・彼だけが話しについてこれていない。
シンジが本当のことを知るにはまだ早すぎる。
そして・・・ほかの皆はなぜか笑っている。
・・・そんなにおかしいのか?
アダムが子供扱いされるのがよほど新鮮らしい。
いつもやり込められているのでその反動だろう。
「育て方を間違ったか?」
「ふふ・・・あんまり育てられた覚えもありませんが、さありぴーと・あふた・みー、シエル先輩〜、いっそのこと名前もシンじゃなくてシキにしませんか?」
「黙れこの天然・・・」
アダムは無言でシエルをはたいた・・・だから関係ないってば・・・
To be continued...
(2008.02.24 初版)
(2008.03.09 改訂一版)
作者(睦月様)へのご意見、ご感想は、または
まで