たまには息抜きというのも必要だろう?
誰にとっての息抜きかは知らないが
第六話 〔寄り道〕
presented by 睦月様
バララララ
一機のヘリが飛んでいく、その下に広がるのは旧東京だ。
「・・・何度見ても気分がいいものじゃないわね」
ヘリの窓から眼下の光景を見ながらミサトは一人ごちた。
その瞳に写るのは半壊しているビルの群れ。
セカンドインパクトのときに起こった津波によってほとんどのものが押し流されてしまったが高層ビル群は何とか残っている。
もっとも更地の中に立つビルは巨大な墓標のように見える。
セカンドインパクトのときに失われた多くの魂たちに捧げるモニュメントのようだ。
「・・・そろそろ現実逃避は終わったか?葛城ミサト?」
「う・・・」
真横からの声にミサトが硬直する。
ギギギと音を立てる感じで横を見るとなぜかシンがいた。
しかもなぜかメガネをかけて書類を見ている。
「正気に戻ったのならさっさとこの書類を決裁してくれ、まだまだ先は長いのだ。」
「あううう」
うんざりした顔で前を見たミサトの視界には大量の決裁待ちの書類の山・・・
「な、何でこんな・・・」
「無駄口叩く暇があったら腕を動かせ」
「無様ね・・・」
シンの言葉に対面に座っているリツコが頷きながら同意した。
彼女はどう見ても今暇なのだがミサトを助けることはしないらしい。
「何故?何故なの?」
「何故も何もあるまい?お前が溜め込んだ仕事だろう?この機会にもっと自分の仕事に責任を持つんだな。」
「そ、そりはそうなんだけれど・・・ってなんで日向君に任せた書類まであんの?」
「作戦部長の仕事をほかの人間に肩代わりさせるな」
シンの正論にミサトがうめいた。
「だってだって〜これってこの前の使徒戦の被害の決裁じゃない。私あの時指揮とっていなかったのよ?」
う〜とうめきながらミサトが見たのは同乗者の一人・・・我関せずという感じに何かの本を読んでいるライだ。
「だから私がこうやって秘書の真似事をしているのだろうが?あっここの判子薄いな、訂正印をうってその横にもう一度うち直せ。」
ラミエル戦において、シンがやったのはかなりの力技だった。
あのラミエルの加粒子砲をシエルと二人で展開したフィールドで防いだのだ。
その余波は当然その周囲に向かう。
具体的には兵装ビルとか・・・さすがのシンも少しは責任を感じたのか被害の報告書や決算を手伝っている。
「ねえ兄さん?」
シンに声をかけたのは何故ここにいるのかまったくわからないシンジだ。
「何で僕は連れてこられたの?しかもこんなものを持って・・・」
シンジが指差すのは自分の持っている旅行用の大きなケースだ。
中身に関してはシンジもまだ知らされていない。
「お前は飴だ。」
「あ、飴?」
「そう、そして私が鞭だ。」
「兄さんの言っていることがまるで分からないよ。」
「すべては私の心の中だ・・・今はそれでいい」
「いや、良くないよ。特に兄さんは時々とんでもないことをするじゃないか、その心の中で何考えているのかわかりゃあしない。前科ありまくりだよ?」
シンジはまじめに疑っている。
最近はシンジもいろいろなことを悟ったのか反論してくるようになった。
黙っているととんでもないことになったときに何も出来ないからだ。
シンは自分の胸に手を当てて少し考えた。
「・・・思いつかないな」
「・・・それで?どういうことなんですか?」
シンを無視したシンジはリツコに説明を求めた。
正しい判断だ。
リツコは一枚のパンフレットを取り出した。
受け取ったシンジがパンフレットを開いて中身を確認する。
「なんですかこれ・・・J・A?」
「ジェット・アーロンっていうのが正式名称よ。民間企業が戦自と協力して作った対使徒人型兵器」
「え?」
説明を聞いたシンジが驚いた。
「出来るんですか?」
「無理」
「そんなあっさり・・・」
「そもそも人型って言うのが分からないのよね、たぶん製作者の趣味じゃないのかしら?」
エヴァのようにシンクロするようなシステムがあるのなら人型の意味も分かる。
しかしそうでないのなら人型である意味はない。
むしろ人間の形をしていることでの不便さのほうが目に付く。
まず走るということを考えれば車のような形状をしているものの方がはるかに早く走れるだろう。
F1の流線型は伊達ではない。
次に武器、接近戦用の武器はともかく重火器などはわざわざ手に持つ意味はない。
どういう状態で発射しようと火力が上がるわけでもないからだ。
兵装ビルが撃とうがエヴァが撃とうが違いがあるわけではない。
飛行・・・パンフレットを見る限り羽はついていない。
「しかも無線式、要するに大きなラジコンといったところね、一番の問題はその動力源が核融合炉って事よ。」
「ええ!?それってまずいじゃないんですか!!?」
「かなりまずいわね、もし使徒に撃破されたら日本は核に汚染されるわ」
核施設というものはとにかく頑丈に作ってある。
しかも十重二十重に安全機構が設置されている為に普通に電力を供給する分には割と安全だ。
それこそゴジラクラスの天災がこない限り問題はない。
しかしそれはあくまで”まっとうに使う”場合であって戦闘兵器に搭載する場合・・・当然破損する可能性はあるだろうし、使徒の攻撃で破壊される可能性は十分にある。
少なくとも原子炉は戦闘兵器との相性が最悪なのは間違いない。
「・・・って言うかリツコさん?何を楽しそうに笑っているんです?」
「ふふふ・・・実はちょっと前にいろいろあったんだけど・・・今回は負けないわ・・・ねちねちとこれでもかというくらい問題点を突き捲ってやる。」
どうやら前回のときのことを忘れてはいなかったようだ。
今回二度目ということでリベンジに燃えているらしい。
その顔は誰がどう見てもお近づきになりたくない人種のものだ。
「ね、ねえシン君?」
「なんだ?」
「せっかく第三新東京市から出てきたんだからさ〜あ、少しは息抜きとかもしたいわけよ。だからこの書類は帰ってからするって事じゃだめ?」
「息抜きか・・・」
「そそ、気分転換も必要だと思うのよ〜」
「確かにな」
揉み手でにじり寄ってくるミサトを見たシンがため息とともに書類を片付けた。
それを見たミサトが開放感にほっとする。
「・・・気分転換は必要だ。」
「やり〜って・・・え?何してんの?」
シンはどこかから取り出した紐状のものをミサトの足に取り付けた。
よく見ればゴム製の紐のようだ。
手錠のような感じのゴムがミサトの両足を固定する。
「え?・・・ええ?」
「ライ?開けろ」
「・・・・・・」
無言で頷いたライがヘリのハッチを開放する。
同時に外の風が一気に機内に入ってきた。
「いっぺん生まれなおして来い。」
「い!っきゃあああ!!!」
ミサトの襟首をつかんだシンは躊躇無くミサトを機外に放り出す
ドップラー効果を残してミサトが落ちていった。
シンジとリツコは唖然として思考停止している。
「ああああああああああああ!!!」
下のほうから聞こえてくる悲鳴が遠くなったり近くなったりしている。
シンジとリツコがあわてて外を見るとミサトが下のほうでビヨンビヨンと跳ねていた。
「そろそろいいか・・・」
シンがゴム紐をつかんでえっちらおっちらと引き上げる。
ヘリのすぐしたまで引き上げられたミサトはいろいろな意味で壊れていた。
とくにその目が白目になりかけている・・・気絶一歩手前ということだ。
「気分転換は出来たか?」
「あ・・・ああ」
「ちっ、まだまだか」
「ちょっとーーーーー!!!」
ぱっとシンが手に持っているゴム紐を離した。
となればミサトは当然フォーリングダウン再びである。
「に、兄さん何してんのさ!!」
「秘密道具その一、”万死ージャンプ”だ。いい加減あの女も二回目なのだから人間として成長が無ければ意味があるまい?」
「言っていることがかけらも理解できないよ!!」
「大本はどこぞの国の成人の儀式だかなんだかだが一度死ぬような思いをすることで生まれ変わるというような意味があるとかどうとか、それこそ気分転換など目ではないだろう。」
「死んじゃうよ!?」
「馬鹿だなシンジ?何のための命綱だと思っているのだ?これだけおっかない思いをしてなお”死ねない”ところがミソなんじゃないか」
結局・・・ミサトは目的地に着くまでに都合13回飛んだ。
シンジはこの世で逆らってはいけない類の人種がいることを知った。
んでもって紆余曲折を経ながらもたどり着いた国立第三実験場・・・
日本重化学工業主催のJ・Aの完成を祝う会場は前回の世界ではかなりにぎわっていた・・・しかし今回、異様なまでの空気が会場を支配している。
おかげで静かなものだ。
「うおおおおおおおお!!!!」
そんなある意味絶対領域の発生源は会場のど真ん中にいた。
テーブルの上の書類を鬼気として・・・見た目が鬼のようになっているミサトが猛烈な勢いで書類を処理している。
本来こんな場所で事務仕事をするのは非常識なのだろうが誰もそれに突っ込めないでいる。
遠巻きに見ていることしか出来ない。
「葛城ミサト?さっさとせんと無くなるぞ?」
「エビフリャー!!!!」
意味不明の叫びを上げながらミサトの動きが加速する。
そろそろ神の領域が見えてくるんじゃなかろうか?
そんな人間を超越しているっぽいミサトの目の前にはほかのメンバー
前回と同じようにネルフの席に料理は無い。
だがしかしシンたちは実においしそうに食べていた・・・目の前でシンジが揚げてくれているエビフライを・・・
「兄さん・・・これが飴って事なの?僕は料理をするために連れてこられたの?」
「あたりだ。この海老はな、今朝わざわざ漁港まで足を運んで買い付けてきたものだ。新鮮だろう?いい食材は料理のうまい人間に料理されてこそその真価が現れる。」
「何か間違っている気がする。」
ぼやきながらもシンジは衣を着けた海老を中華なべの油の中に入れていく。
その下にはカセットコンロまで用意されていた。
全部シンジが持ってきていたケースの中身だ。
「シンジ?いい事を教えてやろう。うまいものは正義だ。」
それは絶対の真理だ。
それだけで十分な理由になることこそが正義の条件
甘味、酸味、塩味、苦味、うま味を持って五味としている。
だが料理というものはさらに奥深く、これに五感を加えることでさらにその領域が広がっていく。
たとえば視覚に働きかける見た目、こんがり狐色になった衣・・・
たとえば聴覚に働きかけるから揚げの音・・・
たとえば香ばしい揚げたての匂い・・・
たとえば触覚に働きかけるさくさくの歯ごたえ・・・
次々に揚がっていくエビフライに遠巻きに見るパーティー参加者達の咽がなる・・・揚げたてのエビフライに勝てる料理というのはそんなに多くない。
もちろん使っている油はカロリーオフだ。
「でもこんなところで揚げ物なんてしていいの?」
「いいわけ無いだろう?それをやるからこその嫌がらせじゃないか」
「い、いやがらせ?」
シンジが周囲を見回すと主催者達の視線がイタイイタイ・・・胃に穴が開きそうだ。
「っしゃあ!!ラスト!!!」
やっとこさ書類を終わらせたミサト・・・それを確認したシンがOKを出したとたん突撃してきた。
「ミ、ミサトさん、がっつかないでくださいよ」
「だってだって〜」
幼児退行を起こしかけているミサトを見たシンジが深いため息をつく。
ミサトにはこの針のむしろ状態もたいしたことではないのだろう。
「葛城ミサトはすでに売約済み(加持)の物件だ。しかも予備(日向)までキープしているからな、いろいろ終わっていても別に問題は・・・なあ?」
「シン君・・・何が言いたいのかしら?」
シンに話を振られたリツコの額に青筋がういた。
「・・・・・・」
ライはこんな状況でも関係なく黙々とエビフライを腹の中に収め続けている。
「で、では今から質問タイムに入りたいと思います!!」
いい加減堪忍袋の緒が切れたのとこの異様な空気を少しでも払拭したいという意味から司会者が叫ぶような声をマイクに叩きつける。
ハウリングしてうるさい。
リツコの目がきらりと光った。
「は・・・え?」
リツコが手を上げるより早く別の手が上がった。
その人物を見たリツコが唖然とする。
「は・・・ネ、ネルフの方ですね・・・」
手を上げていたのはライだ。
司会者のほうもネルフ関係者ということで腰が引けているがほかに手を上げている人間がいないので逃げられない。
「お、お名前は?」
「ライという・・・それより・・・」
ライは製作者の時田を見ると・・・
「必殺技はなんだ?」
「へ?必殺技?」
「だからこいつの必殺技だ。」
ライの言葉に会場を白いものが通り過ぎた。
いきなり静かになったときにはその場所を霊が通った証拠といわれるが・・・
「・・・ロケットパンチは?」
「な、無い。」
「・・・ビームライフルは?」
「な、無いです。」
「・・・・・・ドリルは?」
「つ、付いていない。」
「貴様戦いをなめているのか?」
妙な迫力をかもし出すライに誰も突っ込みを入れられない。
ライに突っ込みを入れられる人物がいるとすれば・・・
「に、兄さん、ライさんが何かわけの分からないことを・・・って何しているのさ!?」
シンジが助けを求めたシンもまた戦っていた。
「葛城ミサト・・・貴様我に喧嘩を売るつもりか?いい度胸だな、死ぬぞ?」
「あんたはさっきまで散々食べていたでしょうが!」
最後に残ったエビフライの両端を箸でつかんでシンとミサトが睨み合っていた。
「これ以上食べたらコレステロール過多になるわよ?」
「上等だな、それだけの価値はある。最後に残った一本を食するということはその料理を征したに等しい至福の瞬間・・・よもやそれを知らぬとは言わせぬぞ?」
シンは食に対して誰より貪欲だ。
そしていろいろな意味で人間をやめかけているミサトもひく気はない。
ガキン!!
箸のぶつかった音とは思えない音とともにエビフライが飛んだ。
「もらった!!」
それを追いかけるようにしてミサトが飛ぶ。
両者を比べれば身長差は歴然、ミサトの伸ばした箸にエビフライがキャッチされようとした瞬間・・・ミサトとは逆に飛び上がるどころかかがんでいるシンの目がキラリと光った。
「おろかな・・・甘いぞ」
バシン
「あきゃ!」
シンは目の前、飛び上がっているミサトのつま先を横にけりぬいた。
ミサトの体がルーレットマンのようにその場で半回転する。
ゴス!!
「うきゃ!!」
上下逆さまになったミサトはそのまま地面に頭から着地する。
「い、犬神家・・・」
誰が言っただろうか?
湖に沈んでこそいないが今のミサトの姿はまさにスケキヨ・・・一瞬の沈黙の後、ミサトはゆっくりと倒れていった。
その目は漫画のようにぐるぐる模様が出ている。
どうやら気絶したようだ。
「ふん、親に勝とう等と千年早い。」
シンが言うとしゃれにならない台詞である。
落ちてきたエビフライを危なげなく箸でキャッチするとそのままの流れで口に入れる。
「やはりうまい、この瞬間のためになら世界を敵にしても戦える。」
かなりどうでもいいことで世界相手に喧嘩出来るシンの思考はやはり常人ではありえない。
しかもなぜか勝ってしまいそうな分たちが悪い。
ゆっくり咀嚼して飲みこむとやっとシンは周囲に目を向けた。
「・・・ところでさっきから騒がしいのは一体なんだ?食事をしているときには食べることに集中するのはマナーだろう?」
さっきまでエビフライ一本で死闘を繰り広げていた人間の片方が言っても説得力は無い。
しかし誰もそれに突っ込まないのはミサトの姿を見ているからである。
ああはなりたくないものだ。
「シン・・・聞いてくれ、このJ・Aは使徒と戦う目的で作られたくせにロケットパンチもビームライフルもドリルも萌えさえ無いらしい。」
「とりあえず最後の萌えというのは戦いには必要ないと思うが、しかしそれだけナイナイ尽くしだとザク以下だな・・・」
つまり量産型の数で勝負なやられキャラ以下・・・さすがに時田が反論する。
「ち、ちょっと待て!ザクとは違うのだよザクとは!!」
「そういう台詞はせめてグフクラスになってから言え」
「くっ・・・いつまでもネルフの時代ではない。・・・大体何が必殺技だね!?ネルフのエヴァは必殺技を持っているというのか?」
「もちろん」
自信満々に言い放ったのはなぜかライ・・
「ここにいるのはエヴァンゲリオン初号機パイロットの碇シンジ君だ。」
「う?いええええ!?」
いきなり自分に話が振られてシンジがあわてる。
会場中の視線がシンジに集まった。
「彼はA・T・フィールドを展開するときには必ず腹の底から「A・T・フィールドォォォ!!」と叫んでいるぞ!!」
「でえええええ!ライサン!!ナニイッテイルデアリマスカアンタハ!!!」
もはや何がなんだか分からないほどカオスに突入した会場のど真ん中でシンジは一人だった。
彼に向けられる視線は妙に生暖かい・・・まるで精神病患者を哀れむようなその視線にシンジの思考は逃げちゃだめだのフレーズを繰り返す。
「逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ・・・戦わなきゃ現実と!!」
「シン君?実際のところどうなの?」
「赤木リツコ?A・T・フィールドは心の壁だからな、気合を入れればそれだけ強固なものが出てくるかも知れんな」
現実と戦わなきゃといいながら現実逃避しているシンジの傍らでリツコの実験スケジュールの項目が一つ増えた。
そんなギャラリーを無視してライの一人舞台は続く
「ちなみに俺はカメハ○波が撃てるぞ」
「カ、カ○ハメ波?」
言わずと知れた加粒子砲だ。
「しかもドリルもある!!」
そう言ってなぜかベルトに手をかけたところでシンがライの後頭部にシャイニングウイザードを叩き込んで黙らせた。
「認めたくないものだな・・・肉親の若さゆえの過ちは・・・不愉快さも数割増しだ」
最近のシンの愛読書はプロレス雑誌だ・・・最初の人類は日々その危険度を増していっている。
「ま、まけた・・・」
なぜか時田ががっくりと膝をついた。
その顔には敗北の色がありありとにじんでいる。
さっきまでのやり取りのどこで負けたのかはまったく理解できないが当人が負けたというのだからそうなのだろう。
とりあえず皆が思うことは一つ
やべ・・・こいつも同類じゃね?
「私だってガンダムを作りたかったさ・・・たとえ酸素欠乏症になっても・・・」
お前はテム・レイか!!と心の中で突っ込めたのはセカンドインパクト世代・・・伊達ではないらしい。
「それなのに戦自はリベート要求してくるし上司はコスト削減ばっかり言って結局安全機構の予算が削れ・・・」
「「「「「ちょっとまった!!」」」」」
戦自の人間や日本重化学工業の社長達があわてて時田を黙らせるために突っ込んでいく。
簡単に言うとあれだ・・・だいぶ・いん・とぅ・カオス・・・もはや誰にもこの状況は収拾は出来ない。
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「・・・っと言うわけで・・・我々の予定は何一つ成功せずに発表会は混乱のうちに中止されました。」
「「「・・・・・・」」」
「私たちは巻き込まれる前に撤収しましたのでその後のことは知りませんが”かなりすごいことになっていた”らしいです。」
ネルフ本部、司令執務室でリツコの報告を聞いたのは三人、一人は頭が痛いのか額に手を置いてうなだれ、一人は苦笑している。
最後の一人はいつもどおりのポーズで不動とくればそれぞれ冬月、ユイ、ゲンドウ以外にありえない。
「また恥をかかせおって・・・」
「まあまあ冬月先生、J・Aの計画は見送られたので良しとしましょう。」
冬月を慰めるユイはリツコの話がよほど面白かったのかまだくすくす笑っている。
当初の予定ではリツコがJ・Aの問題点をつきまくって参加者の不安をあおり、試運転を中止にさせる予定だった。
もちろん連中が話を聞かなかったときに備えて暴走プログラムは仕込んである。
もちろんもっと前の時点で行動を起こすことは出来た。
なんといってもあれだけ問題の多い代物だ。
問題点を挙げればきりが無いし、その影響を考えれば間違っても戦場に出せる代物じゃないのだから、それをしなかった理由は二つある。
まず一つ、日本重化学工業はネルフとは違う。
世界中から使徒対策の名目で資金を集めているわけじゃないのでJ・A建造の費用は自腹とそのスポンサーである戦自の懐から出ている。
最終決戦において戦自が攻めてくるのはほぼ間違いが無いのだからここで資金の一部なりとも削っておくのは悪くは無い。
戦自の金=国民の血税というのが気に入らないがセカンドインパクトから復興しかけている国を傾かせるよりはいいだろうと思う。
二つ目、安易に歴史をかえるとどんな影響が出るか分からない。
もしJ・Aの建造をやめさせた場合、その浮いた資金がどこに流れていくか予想が出来ないのだ。
なんと言ってもせっかく渡したサキエルの資料を頭から信じなかった連中だ。
おそらくあきらめてはいないだろう・・・人類が滅ぶかもしれないというときに内輪もめをしているくらいだから連中には余裕があるらしい。
というより自分たちが滅ぶと思っていないのだろうか?
・・・あの何もかもが終わった世界を知る者達にとってはそのおろかさばかりが目に付く・・・最もそれを言う資格があるのはシンとシンジだけだろう。
彼らの愚かさを糾弾する資格は二人以外の誰にも無い。
「ユイ君・・・君は彼らに甘いのではないかね?」
「出来の悪い子供ほどかわいいというじゃありませんか」
「・・・子供のいない私には分からんな・・・」
ため息とともに冬月は前を見た。
視界の中にゲンドウの背中が映る。
「・・・そういえばユイ君?」
「なんですか?」
「この男のかわいいところというのを私はまだ理解できないのだが?」
「あら?知りたいのですか?」
ユイの顔に妖艶な笑みが浮かぶ。
ゲンドウの背中が感電したかのようにはねた。
そのゲンドウの様子を真正面から見ているリツコも驚いている。
「本当に知りたいのですか?」
後ろから見ているだけでも分かる。
ゲンドウが死にかけた動物のようにびくびくユイの言葉に反応しているのが・・・いったいこの男、どんな弱みをユイに握られているのだろうか?
「・・・知らないほうが幸せかも知れんな・・・」
「あら?残念ですわ」
くすくす笑うユイは別の意味で怖かった。
それを見た冬月とリツコはゲンドウが何故執拗にユイを求めていたのか分かったような気がした。
まるで主人の元に戻っていく忠犬の様に・・・この男は骨の髄までユイに手綱を握られているのだ。
そう・・・世の中には当人だけが知っていればいいことというものはいくらでも転がっているものだ。
冬月はわざわざ自分から地雷を踏んで新しい世界を覗く趣味は無かった。
To be continued...
(2008.03.15 初版)
(2008.03.22 改訂一版)
(2008.04.12 改訂二版)
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