再会・・・それは喜ばしいものばかりとは限らない。






Once Again Re-start

第七話 〔アスカ再来〕

presented by 睦月様







バラララララ

前回と同じように一機のヘリが飛んでいく。
違うところは飛んでいる場所が旧東京か太平洋のど真ん中かという違いだ。
周囲をぐるりと見回しても海の青さと空の広さ、それに太陽に日差しと雲以外のものは見えない。

しばらくその光景が続いていたがやがて変化が現れる。
ヘリの進行方向に何かが見えてきた。
程なく太平洋艦隊の姿が現れる。

旗艦であるオーバー・ザ・レインボーの上空でホバーリングしたヘリはゆっくり高度を下げていった。

「来たわね・・・」

艦橋からヘリを見上げる蒼い瞳が一対・・・手摺を握りつぶす気なのかと疑うように握り締め、少女・・・惣流・アスカ・ラングレーはにやりと笑った。
まるで獲物を見つけた獣のように・・・

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私の名前は惣流・アスカ・ラングレー、エヴァ弐号機の専属パイロット・・・

いろいろあって今二度目の人生ってやつを満喫中・・・って簡単に言うけれどそのいろいろってやつが曲者でまさに世界の命運ってやつを賭けたとんでもない人生を前回経験したの、アニメにしたら本編だけで20話超えたりさらに劇場版映画になったりするくらい・・・今思うとマジで波乱万丈だった。
そんなこんなで今の私がある。

まあ・・・帰ってきたって言っても私が自力で帰ってきたわけじゃないんだけどさ・・・全部あの馬鹿シンジのせい・・・そのせいでどうも私の中で何かが狂ったらしい。
なんつうか・・・「やつはとんでもないものを盗んでいきました。・・・あなたの心です。」ってな感じで?
でも不愉快じゃないところで私も大人になったんだな〜とか思ったりもする。

やっぱ女は余裕がなければいけないというのは戻ってきてから前回を振り返った結論・・・だから今回はスマートに美しくシンジの心を私が盗んでやる。
ぐふ・・・ぐふ・・・話に聞くと日本のレイもシンジと恋人になったという話は聞かない。
死に損ないの老人達の目を欺くためにドイツに帰らなければならないと言われたときには先行を許したかと歯軋りしたけれど・・・ぐふふふ・・・

そしてあのヘリの中にはシンジがいる・・・今の私の気分は要するに・・・そう!あれだ!!

待ちに待った時が来たのだ! 多くの英霊が無駄死にで無かったことの証の為に・・・ 再び惣流・アスカ・ラングレーの理想を掲げる為に! 星の屑成就のために! シンジよ!私は帰ってきた!!

・・・って感じ?
なにはともあれ第一印象が肝心、私はこのあと何が起こるかを知っている。
これは強力なアドバンテージだ。
今日のために用意した勝負下着はすでに装備済み、出来るだけ誤差を少なくするために前回と同じレモン色のワンピースを着ている。

「見てなさいよシンジ・・・見た瞬間にあなたは私のもの・・・」

シンジが見た瞬間に責任を取らせるという名目で許婚決定!!
強引過ぎる?
知ったこっちゃないわ!!

「行くわよ・・・アスカ」

そして私は戦場に赴く。
すなわち今こそ決戦の時!!

「ってなんであんたなのよ!?」
「惣流・アスカ・ラングレー・・・お前、我に喧嘩を売っているのか?」

ヘリから降りてきたのは見覚えのある学生服、見覚えのある顔・・・そして真っ白の髪に赤い瞳・・・

確かにシンジは来た。
でも色違いだった。


言い合う二人の間に・・・そのとき、一陣の風が吹く。

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「う・・・ううううう・・・」
「泣くなうめくなうっとおしい。」

シンはオーバー・ザ・レインボーの中を歩いていた。
その後ろをアスカがついてきている。
ちなみにアスカは全身から海水を滴らせていて濡れ女状態だ。

何故海水なのかというと例の風で当然のようにスカートがめくれた。
そして目の前にシンがいるとくればばっちり見られたわけで、これまた思春期の女の子の羞恥でひっぱたこうとしたのだが逆にシンにその手を引っつかまれて投げ飛ばされた。

・・・最近テレビを見て覚えた”山嵐”で・・・きれいな放物線を描いたアスカは甲板の端から海に向かって真っ逆さまである。

「・・・野蛮人」
「いきなり、再会した知人をひっ叩こうとする人間に言われたくないな、大体なんでそんな格好をしている?前回で懲りなかったのか?」
「う・・・」

さすがにそれを狙ってたとは言えない。
しかしアダムにはわかっているようだ。
うろたえるアスカを鼻で笑った。

「まったく、どいつもこいつも・・・」

ちなみにオーバー・ザ・レインボーに来たのはシンだけじゃない。
トウジとケンスケはついてきていないが前回と同じようにミサトが同伴していた。
彼女は今頃弐号機引渡しの書類を届けるために加持と一緒に艦橋にいるはずだ・・・アスカと同じように海水を滴らせながら・・・艦長達はさぞ驚いていることだろう。

再会した瞬間にいきなりキスを始める(しかもディープなやつを)連中など海に放り込まれても文句は言えない。
視界にいるだけでうっとおしい。

周りで見ていた海兵隊も賞賛してくれた。
長い航海で女っ気がない連中にしてみれば公衆の面前でいきなりラブストーリーをやらかす連中など魚のえさになってしまえと思うのは仕方ない。
ちなみに甲板から水面まで結構な高さがあったりしたのだが、前の世界から戻ってきた連中は皆異様に防御力が上がっているのはトウジ達の前例で明らかだ。
何一つ問題はない。

「何よ?・・・文句あるの?」

ふくれっ面になったアスカを見たシンが軽く笑う。

「いや、ないな・・・むしろがんばれ」
「い、意外なこと言うわね・・・」

あっけに取られたアスカを見ながらシンは思う。
この世界に帰ってきた連中は皆自分に正直になっている傾向がある。
人生をやり直した人間の前例がないからなんとも言えないが人間二度目となると恥や外聞より自分の気持ちに正直だ。

それも仕方がないだろう。
皆あの何もかもが終わってしまった世界を見たのだ。
一時の恥で踏み出せずにいたら永遠に言えないかもしれないということを知ったのだから・・・”多少”自分に正直になったとしても責められる事はないだろう。

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「それで?向こう(第三新東京市)はどうなっているの?」

艦の食堂でシンとアスカは椅子に座り、テーブルを挟んで向かい合っていた。

アスカの方はさっきまでのワンピース姿ではない。
あの格好はさすがにあれなので着替えてきたのだが・・・

「それ以前に何故その姿なのだ?」

シンはアスカが着替えに行っている間に注文したうどんを食べる手を止めてアスカを見た。
着替えてきたアスカはプラグスーツ姿だった。
さすがにあんな水着のように体のラインがはっきり出る姿は恥ずかしいのか上に軍用のロングコートを着ている

「このあとガギエルが来るんでしょう?わざわざ着替えるのは面倒じゃない。更衣室まで行くのも面倒だし」
「たしかに前回着替えているところをシンジに見られかけたしな」
「うっ・・・覗くやつが悪いのよ。」
「階段の踊り場で着替えるやつも問題だとは思うが?」
「くっ・・・・・・」

プラグスーツは素肌の上に着るものだ。
すなわち一回全裸になる必要がある。
前回シンジに覗かれかけたのは乙女としては結構なピンチだったりしたのだ。

「通気性も最悪だしな、かんかん照りの太平洋のど真ん中でそれではきついぞ?」
「う・・・うっさいわね・・・それより日本の方はどうなのよ・・・シンジは?」

シンジの名前を出したアスカの表情が変わる。
真剣で有無を言わせない感じだ。

シンジに関することはアスカにも特殊回線を通じて伝えられているが直接そばにいる人間に話しを聞きたいのだろう。

「・・・徐々にだが・・・記憶が戻る兆候がある。」
「本当?」
「ああ」

時々、シンジはデジャブーに近いものを感じるときがあるらしい。
たとえば料理をしたときに作ったことが無いはずの料理を何も見ないで作ることが出来たりする。
ミサトに聞いてみるとどうやら前回にシンジが作ったことがあるものらしい。

「まだまだ先は長いようだが・・・確実に記憶の引継ぎは行われている。」
「そう・・・よかった。」
「そうなると問題は老人達の動きだな。」
「それってゼーレの死にぞこないの爺たち?」

ゼーレの名前を出したアスカがいやそうな顔になる。
前回アスカがぼろぼろになった原因の一端は間違いなく彼らにある。
ほかにもネルフ関係者ではミサトあたりにしてみると父親の直接の仇だ。

「今のうちにどうにかなんないの?」
「ならなくもない。殺すだけならわけが無い。」

アダムが4号機を持ち出せばそれだけで十分だ。
通常兵器が効かない使徒に対抗するためのエヴァだし、4号機にはS2機関がある。
しかも今の時点ではゼーレの手札には量産機もダミープラグも無い。
彼らにあるのはその財産だけだ。

「だからその財産を吐き出してもらわんとな、連中はセカンドインパクトから復興途中の国に対する支援もしている。ネルフ運営に関してもゼーレが金を出してくれるというのであれば助かる国はいくらでもある。」
「あっくど〜い。でもそんな簡単に出すの?」
「使徒の殲滅が順調に進んでいるからな、連中も財布の紐がゆるくなっているとゲンドウあたりは言っていたが」

実際、前回よりも今回のほうがネルフの運営費は安くすんでいる。
浮いた分の資金で対人用の防衛機能などを補充したりして着々と来るべきその日に対する備えを水面下で進めているのはゼーレには秘密だ。
それでも余った分はこっそりセカンドインパクト救済基金に匿名で募金している。

「・・・まあ完全に楽観視も出来ないが今のところ大きな問題は無いな」
「そんなに警戒しなきゃいけないの?」
「この世界ではいまだ未遂の段階だが一度は世界を滅ぼした連中だぞ?」
「そうね・・・」

シンの言葉にアスカが頷いた。
あの赤い世界にたどり着くことだけは避けたい。

「おっまたせ〜」

シリアスなアダムとアスカの間に能天気な声とともにミサトが加持を連れて食堂に入ってきた。
・・・何故か黒のドレス姿だ。

「何だそれ?」
「加持のお土産〜前の服はずぶ濡れだったし〜あたしが着れそうな服ってこれしかなかったのよ〜似合う?」

背後の加持が照れ笑いを浮かべているのを見て殴るべきかとシンは悩んだ。
何事も程度というものがあるだろう。
こっちは普通の私服にジュラルミンのケースを持っている。

「うふふ、これで来月の結婚式に着ていくドレスの新調代が浮いたわ」とか世知辛いことを言って笑うミサトだが軍艦でドレス姿のミスマッチはすさまじい。

浮世離れしているとはこのことだろう。
周囲の海兵隊員も唖然としていた。

「葛城ミサト・・・このあとガギエルがくるんだぞ?その格好で指揮をとるつもりか?」

その姿をイメージしようとして・・・やめた。
とんでもないことになりそうだ。
ドレス姿で指揮を取るミサトなどどこの漫画だと言いたい。
艦長あたりは頭の血管を切るかもしれない。

「ノープロブレム、ちゃんと言い含めておいたからそのときにはあんた達の好きにしていいわよん。」
「また無茶なことを言ってごり押ししたのか?」
「そんなことしないわよ。ちゃんと使徒の情報を渡して通常兵器が効かないことを説明して穏便に了承してもらったわ、艦長は悔しそうだったけどね〜」

機嫌がいいのは艦長を言い負かしたからかそれとも加持の土産が気に入ったのか・・・

「そんなことよりミサト!?シンジはどうしたのよ!?何でつれてこなかったの!?」
「シンジがここにくる必要などあるまい?ここには初号機はないんだぞ?シンジが弐号機に乗って何の意味がある?我はガギエルの魂回収という目的があるがシンジをつれてくる理由はないだろう?」
「う・・・で、でも二人の初めての共同作業が!戦場のラブストーリーが!!」
「お前・・・戦を何か勘違いしていないか?結婚式じゃないんだぞ?デートでもないしな、大体戦場で愛などとどんだけだ貴様?」
「う、うっさいわね!!今日のために準備した勝負下着が無駄になっちゃったじゃない!!」

ヒートアップしているアスカにシンが深いため息をはく。

「ガキがそういうところで勝負をかけるな、親が聞いたら泣くぞ?」
「泣くわけないでしょう?ママがやれっていったんだから」
「・・・ちょっと待て」

アスカの言っている事に引っかかる物を感じたシンが待ったをかけた。
呆れ顔が真剣な色をまとう。

「聞き捨てならないことを言ったな・・・母親が薦めただと?義理のほうか?」
「いいえ、惣流・キョウコ・ツェッペリン、産みのほうよ。」
「目覚めているのか?」

シンの言葉にアスカがふふんと笑って胸をそらす。

「当然、弐号機の中にママがいることは分かっているんだし、そのつもりで呼びかけてみたら返事があったわ。」
「自我があるのか?」
「もっちろん、おかげでシンクロ率は前回の比じゃないわ。」

加持を見ると苦笑しながら頷いた。
ドイツでのシンクロ実験においてアスカはかなりの成績を収めていたようだ。
それだけにドイツ支部の連中のアスカへの期待は前回以上だったらしい。

「・・・よし、弐号機のところに行くぞ」
「な、何でよ?使徒が来るまでまだ時間があるでしょう?」
「お前の母親に文句を言うために決まっているだろう?実の娘に色仕掛けを教え込む母親がどこにいる?」
「ここにいるじゃない。」
「あっさり言うな馬鹿たれ、さっさと弐号機の所に行くぞ?お前の母親には言いたいことが山のようにある。」
「ママに何吹き込むつもりよあんた!!」
「もちろんあることないこと全部だ。」
「っきゃあああ!!ないことまで言うな!!」
「多少大げさに言っておけば現実はやさしい・・・はずだ。」
「はずで他人の人格捏造すんじゃないわよ!!」

わめくアスカの首根っこをつかんだシンがずるずる引きずっていく。

悲しいことに腕力では敵わないのだ。

「お、お〜い、これどうするんだ?」

加持がこの世界のアダムの入ったケースを持ち上げて呼びかけるがシンたちは振り返ることさえしなかった。
いくら同じ存在だからって扱いがぞんざい過ぎね?

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「だからな、惣流・キョウコ・ツェッペリン?お前も日本人としての血を引いているのならもう少し慎ましやかにだな・・・特に惣流・アスカ・ラングレーの教育の方面で・・・」
『でも女なら好きな男の子をゲットするために全力を尽くすことはこれはもう本能よ?』
「退化させてしまえそんな本能、別に難しいことを話してはいないだろう?要は・・・」
『あふ・・・いきなり起こされて(起動)そんな難しい話をされても・・・眠いわ・・・』
「人(?)の話を聞けやあああ!!!」

LCLに満たされたエントリープラグの中で青筋を立てたシンが絶叫した。
声を荒げるアダムというのも珍しいが・・・仕方がない。
弐号機を起動させてキョウコをたたき起こしてから早30分・・・まったく話が進まない。
なぜかというとキョウコがシンの話をまったく聞いていないのだ。

一見聞いているように見えて実は聞いていない。
しばらく普通に話しているといきなり眠いとか言い出して話を脱線させるのだ。
顔が見えないので本当に眠いのかそれとも演技なのかは分からないが・・・かれこれ30分も寝ぼけているというのもどれだけネボスケなんだという話になる。

ちなみにその愛娘のほうはエントリープラグのシートに座ってじっと耳をふさいで聞こえないふりをしている。

「大体だな!安易にメールアドレスを教えた我も悪いといえば悪いのだが一日平均五件で3分以内に返事が来なければ国際電話で文句を言ってくるなどお前の娘は夫の不倫を疑う古女房か!?」
『あら?アスカちゃんもかわいいことするのね?』

シンはシンジの記憶を見た時点でシンジ達の普段の生活のことも知っている。
当然ほかにもいろいろ・・・・

「うっきゃあああああ!!!もう言わないで!!私の心を覗かないで!!」
「少なくとも自分の下着くらい自分で洗濯するように躾けておけ。いくら自分の恋心を自覚していなかったといっても前回のときに男のシンジに任せるというのは女として終わっているだろう?14歳で・・・」
『アスカちゃん・・・それは流石にママもどうかと思うわ・・・』
「いっやああああ!!!」
アスカの中の羞恥ブレーカーが限界に来たらしい。

「ううう・・・汚されちゃった・・・汚されちゃったよ・・・シンジ〜」
「安心しろ、ちゃんとお前のことはドSだと言ってある。いまさらちょっとくらい武勇伝が増えたところでシンジのお前に対する評価が変わるわけがあるまい。」
「ド・・・S?・・・って何余計なこと言ってんじゃあああ!!!!!」

ドンンンン!!!!

「「あん?」」

アスカの絶叫に重なるようにして何か大きな音が響いた。
エントリープラグの中まで響いてくるような轟音と振動・・・水中衝撃波だ。

「ガギエルが来たか・・・」
「ふ・・・ふふふ・・・き〜た〜わ〜ね〜」

アスカが低くくぐもった声で笑う。
まるで数日の絶食の後に獲物を見つけた猛獣のごとく。

「ママ!!行くわよ!?」
『え〜、もうちょっとアスカちゃんの話を聞きたいのに〜』
「今戦わずにいつ戦うのよ!?・・・やっと遠慮なく八つ当たり出来るカモがネギ背負ってやってきてんのに・・・人類を守んなきゃ!!・・・ギタギタにしてストレス解消よ・・・」
「惣流・アスカ・ラングレー・・・お前本音と建前を同時に話しているぞ?しかも本音の部分が建前より長いしきっちり聞こえているからな・・・」
「ド、ドイツ語をベースに起動開始!!」

エントリープラグに七色の光が走る。
しかし・・・すぐに真っ赤になった。

「エラーだな」
「あんたまた日本語でものを考えているでしょう!?ドイツ語で考えなさいよ!!最初に会った時からなんにも成長していないわけ!?」
「相変わらず無茶を言うやつだな・・・だからお前はドSなのだ。」
「何でそこまで言われなきゃなんないのよ!?」

怒りまくりながらも言語を日本語ベースに変えて無事起動した。
船の上に立ち上がった弐号機の視界に真正面から突っ込んでくるガギエルの姿が映る。

『いかん!起動中止だ!!元に戻せ!!!』
「何か言っているぞ?」
「知ったこっちゃ無いわ!!」

通信機から聞こえてきた艦長の大声は完璧にスルーされた。
前回でも無視したのだ。
二回目で遠慮する理由など無い。

そんなやり取りをしている間にガギエルが目の前に迫ってきていた。

ザバン!!

海水を切り裂いてガギエルがとんだ。
そのとんでもない巨体が空中を飛んで弐号機に迫る。
ぱっくりあいて口の中にコアが見えた。

それに対してアスカは・・・

「どっせえあああ!!」
ドン!!


すさまじい音とともにガギエルの進行方向が変わった。
まっすぐに突っ込んできたものが真上を向いている。

原因は弐号機の繰り出した攻撃、ガギエルが目の前に迫ったとき・・・前回は飛んでかわした弐号機は避ける事さえしなかった。
弐号機がしたことはただ一つ、その右足を全力で蹴り上げたのだ。

「ぜやあああ!!!」
ガシイイ!!


さらに弐号機は青空を見て無防備になっているガギエルの腹に回し蹴りを叩き込んだ。

バン!!バン!!バン!!

ガギエルの巨体が水切り石のように海面を跳ね跳んでいく姿は現実感が無い。

「おお、やるではないか」
『すごいわアスカちゃん!!』
「ふふふ・・・惣流・アスカ・ラングレーここに在りいい!!!」

アダムの賞賛と母にほめられたことでアスカのテンションはマックスになっている。
槍でも鉄砲でも持って来い状態だ。

人によっては視線をそらして見なかったことにするかもしれない。

「でも掛け声はいただけないな」
『そうね、まるで勢いだけでストーリー二の次な熱血漫画の主人公みたいよ、アスカちゃん・・・男の子になりたいの?』
「ううう・・・どちくしょおおお!!」

ほめられた次の瞬間に自分でも気にしていた部分を鋭く指摘されたアスカはすでに涙目だ。
そのまま弐号機を全力疾走させた。

海の上を走っている。

『え?何で海の上を?』
「器用だな、足の裏側に拒絶のフィールドを展開して海水を拒絶しているのか?」

まるで地上を走るかのごとく弐号機はガギエルに迫る。

「こんのお!!!」

ガギエルに追いついた弐号機はガギエルの尻尾をつかむとジャイアントスイングの要領でぶん回し始めた。

「おいおい、魂の回収もあるんだぞ?せめてどこかガギエルの体に触れられるところで倒せ。」
「いやってやらああ!!!!!」
これまた女らしからぬ気合のこもった声で答えたアスカは視界に入ったオーバー・ザ・レインボーに向かって放り投げる。
ガギエルの巨体は海水の上をすべるようにして見事にオーバー・ザ・レインボーの甲板上に乗った。

『ぬおおおお!!!何をしやがるか!!!!』

通信機から艦長の怒声が来た。
見ればオーバー・ザ・レインボーはガギエルを乗せたことで派手に揺れているし、甲板にあった戦闘機の数々は海に落ちている。
艦長にしてみれば文句を言うべき状況だろう。

しかしアスカにそれを聞く耳があるかどうかは別問題だ。

「いよっしゃあ!!三枚におろしたる!!」

プログナイフをもって嬉々としてガギエルに向かう弐号機・・・これはどう見てもマジだ。

「あ、ちょっと待て、このままスプラッターでミンチにしたら魂の回収が・・・って聞いてないな・・・惣流・キョウコ・ツェッペリン?」
『はいは〜い?』
「文字通りの意味で手を貸せ」

5分後・・・オーバー・ザ・レインボーの甲板にきれいに三枚におろされたガギエルの姿があった。
それ以外はまさに凄惨の一言・・・オーバー・ザ・レインボーは至る所に飛び散ったガギエルの血・・・近くにいた僚艦にまで飛び散っていて正しくスプラッター状態になっている。
しかも三枚におろされたガギエルはまだ血を流しているためにオーバー・ザ・レインボーの通った海の色が変わっていた。

くそ度胸を持っている海兵隊のクルーもさすがにドン引きしている。
艦橋の窓から艦長が生まれたての子馬のように隅で震えているのが見えた。
後に彼らは語る

「海の上で赤い鬼を見た。はっきりと無いはずの角が見えた。」・・・・・・気持ちはよくわかる。

昼間でも十分ホラー映画として通用しそうなオーバー・ザ・レインボーの甲板に立つ弐号機は片手で汗を拭くような動きをしている。
今のアスカの心境なのだろう。

「もう少しスマートに出来んのか?お前確か前回で「戦いは常に無駄無く美しくよ!!」とか言っていただろうが?」
「ふん、それはもう昔の話、穢れない”美少女”だった私のピュアな心が作り出した幻想よ。」
「今自然な流れで美少女の部分を強調したな?」
「戦いに汚いもきれいも正義も悪も自由もスマートも愛情も憎悪もあるわけ無いでしょう?」
「まあそうだな」
「例外はシンジがいるときだけね〜そんときだけは話が別」
「ああそうかよ。」

シンはため息を付いて自分の手を見る。
そこにあるのは白い光を放つ光球・・・ガギエルだ。
普通の方法で切れたアスカをとめることが出来ないと悟ったシンがキョウコに協力させて弐号機の腕経由で回収したものだ。
小刻みに揺れている気がするのは気のせいだろうか?

「ふん!」

弐号機が三枚におろしたガギエルを海に放り込んだ。
その右手を自分の首筋に持っていってグーから親指を立てて横に引く、さらに手のひらを返して親指を下にして落とした。
直訳すると「お前の首掻っ切って潰してやる」となる。

・・・普通は潰す前にするものだろう?

さらに右手の中指だけを立てるジェスチャーをしたところで内部電力停止・・・弐号機はご丁寧に仁王立ちをした状態だ。
電源ソケットはあったが甲板からソケットの接続位置までは数メートルほどの高さがある。

・・・結局、原子力空母ではそれを取り付けることの出来る機械も無く、動きを止めた弐号機をどうする子ともできずにそのままの姿で日本まで行くことになった。
港に入港するときに甲板で直立している弐号機が目立ちまくったのは言うまでも無い。
・・・一応エヴァは機密扱いなのだが・・・

ちなみに、通りかかった親子の子供のほうがオーバー・ザ・レインボーの甲板で中指おったてている弐号機を指差して「あれは何してんの?」とどうにも答えにくい質問をしたとかどうとか・・・

「・・・これは何の冗談?私を馬鹿にしているのかしら?」

・・・っというのは港で弐号機が届けられるのを待っていたリツコのコメント










To be continued...

(2008.03.22 初版)
(2008.04.05 改訂一版)
(2008.04.12 改訂二版)


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