温泉はいい・・・混浴なら男にとってはなおのこといい。

ただし混浴の温泉に入ってくる女の人は大抵おばさんばっかりだけどね・・・






Once Again Re-start

第十話 〔ダイブ・in・・・どこへ?〕

presented by 睦月様







「・・・次はサンダルフォンか・・・」
「ああ、そうだな・・・」

ネルフ司令執務室でゲンドウと冬月が向かい合っていた。
以前は天井と床にセフィロトの木が描かれていて無駄に広いスペースの部屋だったが持ち主の心の変化がよく現れている。
何も無かった部屋には書類や資料を整理するための本棚や来客をもてなすための応接セット、何より真っ暗だった部屋の壁をクリーム色にして十分な照明もつけている。
以前のように他人を寄せ付けない雰囲気や暗い印象とは打って変わって他人を受け入れることの出来る部屋だ。

二人が話している内容は次の使徒、胎児をつかさどるサンダルフォンのことだ。
これから起こることを知っているということは次に起こることへの対処の時間があるというアドバンテージがある。
それだけ対処の幅が広がるということだ。

「またA-17を発令するか?」
「・・・いや、その必要はあるまい。回収できないことは分かりきっているのだ。日本経済にわざわざ波風を立てることはあるまい。」

前回ミサトが要請し、ゲンドウが発令したA−17は現有資産の凍結もその条件に入っている。
それによって日本経済の受ける混乱は無視できない。

今回は最初から回収は難しいどころか不可能ということが分かっている。
わざわざ無理と分かっていてA−17を発令する必要は皆無だ。

「ゲンドウじ〜じ〜」
「なにかな〜サキちゃ〜ん♥」

いきなりゲンドウが壊れた。
サングラスの下の目はすでにとろけている。
頬を赤く染めているのがひげの上からでも分かる・・・はっきり言ってキモイ・・・ツンデレというのは女の子がやるからこそ許せるのであってゲンドウがやっても殺意しか感じない。
かわいいという事実は偉大だ。

ゲンドウが見ているのはサキだ。
実はずっとこの部屋にいて応接セットでお絵かきをしていた。

「どうかしたのかなサキちゃ〜ん?」
「おい、碇?」
「じーじを描いたの〜」

そういってサキは手に持ったスケッチブックをゲンドウに見せた。
そこにはかなり抽象的な絵だった。
スケッチブックいっぱいに大きな顔があって目の所と口の周りが黒いのでゲンドウだと分かるレベルだ。
しかも髪も黒いのだからひっくり返しても同じように見えないかこれ?

「サキちゃんは絵が上手だな〜ジージにそっくりだ。」
「えへへ〜」

贔屓目というのはすばらしく偉大だ。
サキが描いたものならたとえ元が何か判別できないくらい難解な絵でも上手いと言うに違いない。

「おい、碇?いい加減にしないか、以前にも言ったがここは託児所じゃないんだぞ?」
「冬月ジージも描いたよ〜」
「な、なに?本当かね?」

さっきまでゲンドウに文句を言っていたのはどこのドイツ・・・もとい、どいつだ?
自分の似顔絵を描いたといわれて冬月の態度がころっと変わった。

「はいこれ〜」

スケッチブックの次のページをめくったサキが冬月に差し出したそれは・・・

「こ、これが私かね?」

・・・はっきり言ってさっきのゲンドウの絵と区別が出来ないレベルものだった。
かろうじて口のところに髭が無いのと髪の毛が灰色なので冬月と分かるが・・・これまたひっくり返しても見分けが付かないのではないだろうか?
髪の部分がひげになって頭が禿げた人間に見える。

案外サキには絵の才能があるのかもしれない・・・ジャンルは選ばなければならないが・・・そしてサキの絵を見たジージ‘ズは・・・

「「じーん」」

わざわざ口に出して感動していた。
瞳には涙までにじんでいる。

無理も無い。
二人とも孫を持つということは半ば以上あきらめていた身だ。
冬月に関してはそもそも結婚すらしていないしゲンドウはシンジにした仕打ちを考えればたとえ孫が出来ても会わせてくれる所か顔すら見せないといわれても文句は言えない。

だからおじいちゃんなどと呼ばれるのは夢のまた夢のはずだったのだが・・・

「・・・冬月?」
「なんだ?」
「なんでこんなにかわいいのかな?」
「ああ、孫という名の宝物だな」
「「じーん」」

どこかで聞いたフレーズだ。
しかも自分たちの言った台詞でまた感動している。

「ねえジージ?」
「「何かな」」
「遊んで〜」

もうストライク直球ど真ん中だった。
いい年した男が二人、顔を赤らめて首振り人形のように何度も頷いている。
しかも首を振るたびにテンションまで上がっているようだ。

こんな二人がナンバー1・2で大丈夫かネルフ?

「ではさっさと仕事を片付けよう・・・サキちゃんと遊ぶために」
「そうだな冬月・・・サキちゃんと遊ぶために」
「今回はA-17を発令しない以外は前回と同じということでいいかな?」
「いいとも〜」
「いいわけあるかボケ!!!貴様はタ○リか!!!!」

いきなり怒声とともに第三の人物が扉を破壊して室内に乗り込んできた。
ちなみにこの部屋の扉はテロ対策などでかなり頑丈なつくりになっている。

びくっと身をすくませたゲンドウと冬月が扉のほうを見ると赤い瞳と視線が交差する。
思わず二人は白髪鬼というものを思い出した。

「あ、ぱぁーぱぁー」
「ん?サキまでここにいたのか?」

いきなり威圧感が吹っ飛んだ。
そこにいたのはシンだ。

「な、何事だ?」
「何事も何も無い。我の沖縄行きをやめさせようとはいい度胸だな?」
「「へ?」」

思わずゲンドウと冬月が間抜けな声を出して聞き返す。
それを見たシンが不満げに顔をしかめた。

「お前達、またチルドレンを本部待機にしただろう?葛城ミサトが今回は忘れないようにとさっき伝えに来たぞ?」
「ああ、サンダルフォンのことがあるからな。」
「おかげで我もめでたく居残りだ。」

シンは一応チルドレン予備として登録している。
そのために一人だけ沖縄に行くことは出来ない。
つまりめでたく修学旅行は無しの方向だ。

「沖縄だぞ?昔は琉球と呼ばれていて首里城があって海底遺跡があってライオンズマンションのまえにはライオンじゃなくてシーサーが座っているあの沖縄だぞ?」
「く、詳しいな・・・」
「チャンプルもゴーヤも沖縄そばもさーたーあんだーぎーもちんすこうも泡盛もハブ酒もお預けか!?」
「泡盛とハブ酒はまずいだろう?両方とも酒だ。しかもハブ酒は滋養強壮剤だぞ?」

どれだけシンが修学旅行を楽しみにしていたのかが分かろうというものだ。

「そのために一週間前から綿密な計画を立てた我の時間と労力と思いを返してもらおうか?」
「「ち、ちょっと待った!?」」

なにやら負のオーラを発散しているシンをやばいと感じたゲンドウと冬月が待ったをかけた。
今のうちに何とかしないととんでもないことになる。

「サンダルフォンのことがあるじゃないか?のんきに沖縄に行っている場合ではないと思うが?」
「そ、そうだな、回収が不可能ということは前回に分かっているが君にとっては魂の回収というものがあるのだろう?沖縄に行っていては不可能だろう?」
「そっちこそ何を言っている?」

シンは深いため息をついた。

「サンダルフォンがいる場所が分かっているのだから今すぐに行って回収すればいいのだろうが?」
「「い、今から?」」
「そう、今からだ。」

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浅間山火口付近・・・そこに数人の人間が集まっていた。

「皆そろったな?番号、1!」
「2〜!」
「3です。」
「・・・4」
「5っす」
「ろーく」
「7!!」

火口付近にいるのはシンを初めとした使徒っ子、サキ・シエル・ライ・ガル・ラフェル・ハジメ、レイとカヲルを除く全員が勢ぞろいしている。

「それで兄貴?どうするんだ?」

この世界のアダムであるハジメがシンに聞いた。
シンは頷くと話しを始める。

「どうもこうも無い。問答無用でサンダルフォンの魂を回収して肉体に入れる。そのために綾波レイの予備の体も持ってきた。」

シンが指し示したのは大きめのカプセル。
おそらくその中にレイのクローンの体が眠っているのだろう。
用意のいいことだ。

「ここでサンダルフォンを回収すれば修学旅行には問題なく行けるからな」
「でも、どうやるんだ?サンダルフォンはこの中にいるんだろう?」

ハジメにならうようにして全員が火口の中を見た。
・・・文句無く熱そうだ。
ちなみに溶岩の温度というのは1000度くらいあるらしい。
いくら命令で本人も了承したとはいえアスカは良くこの中に潜ろうと思ったものだ。

「前回、サンダルフォンは回収の時にはかなり深いところにいたらしいがそれは対流に流されたためだ。今の時点でならそのときよりは上の場所にいるだろう。」
「具体的にはどうするんですか?」

シエルの言葉に頷いたアダムは黙って用意していたものを指差す。
そこにあったのは潜航艇と4号機、そして潜航艇を火口に入れるための巨大なクレーンだ。
全部シンがゲンドウに言って用意させた。

「方法は二つ、取りに行くか釣るかだ。」
「「「「「「取りに行くか釣る?」」」」」」」
「そうだ、一人があの潜航艇に乗ってサンダルフォンをとってくる。」

どう見ても潜航艇は一人乗りだ。
つまり誰かがあれに乗って前回のアスカよろしくサンダルフォンのところまで行くことになる。
そこで前回も使用した電磁ネットを使うのだ。

「まあ無人の探査船でも何とか行くことが出来たのだ。誰かがあれに乗ってフィールドを全開にすれば十分行ける。・・・っというわけで頼んだぞガル?」
「でええええ!!自分っすか!?」

ガルが驚きながら盛大にあとずさった。
ほかの皆はガルに哀れみの視線を向ける。

「な、何で自分なんっすか!?」
「だってお前魚だろう?」
「何の関係が!?」
「ほら、万が一の事故で潜航艇が壊れてもお前ならこう、すいーっと泳いで戻ってこれる・・・かも?」
「いや、何で語尾疑問形っすか!?無理!!絶対無理っす!!」
「海水と溶岩は同じ流動物じゃないか?ちょっと熱めの温泉だろう?」
「温度が違う!!軽く1000度くらい!!!」
「お前なら出来る。あきらめたらそこでゲームセットですよと昔の偉大な人は言った。」
「それ漫画の人間じゃないか!あんた理不尽ぶりがパワーアップしているよ絶対!!」

ガルも必死だ。
確かにフィールドを全開にすればしのぎきれないことは無いかもしれないが場所が場所だ。
地面のさらに下などおっかないことこの上ない。
しかも周囲はマグマだ。

「大体流動物云々って言うのなら自分よりサキ姉さんのほうが水を司って・・・」
「サキちゃん熱いのヤ!」
「ああ、姉さんなのにロリッ子の純粋な拒絶が痛い!!」

サキに一言で拒絶されたガルはすでに涙目だ。
助けを求めて周囲を見回すが全員が目をそらした。

「シエル姉さん!?」
「いや〜溶岩の中で鞭を出したり昼にしても・・・ねえ?」
「ライ兄さん!?」
「あの中で加粒子砲を撃ってもどうにもならないだろう?・・・ドリルを入れるのは男として断固断る!」
「その気持ちは分かるっす。」

男として十分すぎるほどに・・・

「ラフェル!妹として兄を助けてくれっす!!」
「え・・・溶岩の中で分身しても・・・それに歌を聞いてくれる人もいませんし・・・ちょっと・・・」
「む、無理だと思うっすけれど・・・ハジメさん?」
「あの中でサードインパクトを起こさせるつもりか?」

ガルはその場に崩れ落ちた。
神も仏もありゃしない。
だが希望は残っている。

「そ、そうだ。さっきもう一つ方法があるって!!」
「釣るほうか?」
「それっす!!」
「難しいことじゃない。」

そういってシンは再び潜航艇を指差した。

「あれに”アダム”を入れて火口の真ん中に宙吊りする。」

全員がうんうんと頷いた。
サキだけは分かって頷いているというよりも皆の真似をしているようだが・・・

「そしてフィールドを全開にすればさすがにサンダルフォンも起きるだろう?たぶん速攻でくるだろうから食いついてきたところでフィッシュだ。」

つまり囮になるということ、餌、疑似餌、呼び方はいくらでもある。
当然だが囮になった人間はとっても危険だ。
それに気がついたハジメが真っ青になってシンに詰め寄る。

「兄貴にそんな危険なことはさせられない!!」
「我が何で危険なのだ?」
「何でって自分を寄せ餌にするって言うことだろう!?危険すぎる!!」
「だからなんで我がそんな危険なことをしなければならない?」
「え?」

ハジメもやっと会話におかしな部分があることに気がついた。
何か微妙に話がかみ合っていないのだ。
まるで前提条件から間違っているような・・・

「え・・・だってさっき潜航艇にアダムを入れるって・・・」
「だからお前が入るんだろう?」
「へ?」

なにやら不穏な方向に話しが進んでいっていることにハジメは気がついた。
潜航艇にはアダムを入れるといった。
そう・・・アダムであれば問題ないのだ。

「というわけで頼むぞハジメ」
「お、俺!?なんで!?」
「だって我は4号機でサンダルフォンを取り押さえて魂を抜き出さなければならないのだぞ?お前には出来まい?」
「う・・・」

経験の差というのだろうか?
シンとハジメは同じアダムではあるがハジメは魂を抜き出したりほかの体に移し変えることが出来ない。
つまり同じアダムであっても二人の役割を交換することは出来ないのだ。

すなわちハジメの餌決定である。
それに気がついたハジメはガルを振り返る。

「・・・・・・頼んだぞガル?」
「そこでまた自分に戻すんかい!!」

一瞬、(あれ?このまま行くと俺助からね?)とか思っていたガルが絶叫した。

ちなみにシンとガルの役割交換も不可能だ。
前回、サンダルフォンが弐号機に反応したのはその体組織のベースがアダムであったこと、マグマの中にもぐるためにフィールドを全開にして周囲からの圧力を軽減しながら潜って行ったことが原因だ。
要するにサンダルフォンは弐号機をアダムと勘違いして孵化を早めたのだ。

さすがに溶岩の中でフィールド全開にしないわけにはいかない。
となるとそれを感じたサンダルフォンが「会いたかったよパパ〜」とばかりに熱烈な抱擁を求めてきたら(ちなみに孵化してアロマノカリス状態になったサンダルフォンにはきっちり両手があった)・・・死ぬ、どういう風になるかというと潜航艇が壊れて・・・

「前熱!右熱!左熱!後ろ熱!上熱!下熱!」

という感じに火達磨になることだろう。
だから潜航艇にアダム(シンでもハジメでも)が乗ってサンダルフォンのところまで行く案は却下だ。

「い、いやっす!!」
「ガル・・・俺に逆らうのか?」
「いやなものはいやっす!命は惜しいっす!!」

ハジメがすごんでみるがガルはいやいやと首を振る。
一応ハジメもこの世界のアダムなのだが息子に反抗されてガーンと言う感じにショックを受けてた。
子供が何でも言うとおりにすると思ったら大間違いだ。

「ハジメ、ちょっとどけ」
「兄貴?」

ハジメを押しのけたシンがガルに近づく。

「ガル、実はな首尾よくサンダルフォンを回収したら報酬がある。」
「報酬?」

ガルの耳がぴくんと動いた。
興味が沸いたらしい。

「終わったらここにいる皆で沖縄に行けることになった。」
「お、沖縄?」
「ああ、碇ゲンドウのポケットマネーでな・・・ちょっとイメージしてみようか?目を閉じろ」

シンに言われたとおりガルは目を閉じた。

「どこまでも青い抜けるような青空と海・・・」

ガルの耳がぴくんと動く。
目を閉じているだけに耳に感覚が集中しているのだろう。
同時に目を閉じているのでイメージが膨らんでいるはずだ。

「白い砂浜にサンゴ礁・・・」

またガルの耳がぴくくっと動く。
分かりやすい。

「光る〜海〜光る大空〜ひ〜か〜る砂〜浜〜」
「うう・・・」
「海といえば水着だよな?」

周囲で見ているものたちはガルがシンに懐柔されていくのがよくわかった。
もう一押しだ。

「ちなみにこの後は皆で温泉だ。家族での温泉旅行というのも乙なものだろう?」
「お、温泉?」
「しかしすべてはお前の働きにかかっている。」
「うう・・・」

温泉に寄ると言ったらゲンドウと冬月が「孫と一緒に温泉!!」とか言い出して有給をとろうとしたがハアハアと呼吸が荒いところがどう見ても不審人物だったのでシンがチョークスリーパーをかけて落としてきた。
良い子も悪い子もまねしちゃ駄目だ。

しかしガルはここまで言われてもまだ煮え切らない。
それを見たシンはやれやれと肩をすくめて・・・

「・・・ところで最近ネルフ本部のお前の部屋のベットの下だが・・・」

いきなりガルの肩がビクンと跳ねた。
追求?・・・そんな野暮なことはしませんよ。
年頃の男の子がベットの下に隠すものなんて追求する必要なんて無いでしょう?

要するに説得から脅迫に移行し始めたってことだ。

「もし失敗したら我は悲しくてベットの下の物がどんなジャンルだったかをシエルやラフェルに話してしまうかもしれない。」

身内に自分の属性、あえて何の?とは言わないが知られるほど屈辱な事があるだろうか?
シンはにやりと笑う・・・メフィストのように・・・

「やりますか?やりませんか?」
「や、やるっす!!」

ここまでの話を聞いて説得だと思うやつはよっぽど能天気な人間だろう。
これは説得という名を借りた脅迫だ。

うめきながらよろよろと潜航艇に向かうガルの足取りは重い。
この少年もシンジ並みに苦労性でいじりやすいキャラだ。

「乗せるというか人を使うのがうまくなりましたね?」
「何を言っているのだライ?ちゃんとフォローはするさ」

ガルを乗せた潜航艇がクレーンに吊るされてマグマの上に持っていかれた。
シンたちは手元の通信機のスイッチを入れる。

「どうだガル?」
『この時点でじんわりと暑いっすけれど?』
「そりゃあ当然だな」

前回弐号機の中にいてもサウナ並みに暑かったのだ。
潜航艇ならよほど暑いだろう。
徐々に潜航艇がマグマに向かって降りていく。

ザバ!!

「「「「「「はい?」」」」」」

次の瞬間起こったことにシンを初めとして全員が凍りついた。
潜航艇がマグマに沈もうかという瞬間、何かが下のマグマから飛び出してきて潜航艇を・・・喰った。

「・・・えっと、沈降中止、上げろ・・・」

シンの指示でゆっくり潜航艇が引き上げられる。
それに合わせて潜航艇を食った何者かも上がってきた。
釣られた魚のように潜航艇にぶら下がっている。

「えっと・・・ライ?あなたあれなんに見える?」
「シエル姉さん?現実を直視したほうがいいと思う。」
「あれってサンダルフォンですよね?」
「ラフェルにもそう見えるって事は俺の見間違いじゃないのか?」
「おっきい〜♪」

シエル、ライ、ラフェル、ハジメ、サキがそれを見て思ったことを口にする。
サキ以外はその光景に二の句が告げられないようだ。

・・・むりも無い。
漁港で吊り上げられたサメのごとく中吊りになっているサンダルフォン・・・そしてサンダルフォンが食らいついているのはガルの乗った潜航艇だ。

『こっちは問題ないっす。周囲は真っ暗で何にも見え無いっすけど順調に沈降中ですか?』
「「「「「「・・・・・・」」」」」」

どうやら潜航艇は丸呑みされたらしい。
中のガルは何も気がついていないようだ。
もしサンダルフォンが噛み砕いていたらガルは夜空のお星様になっていただろう。

さすがにこの状況はまずいと顔を青くしたシエルが通信機ごしにガルに聞こえないようにシンに話しかける。

「・・・どうするんです?」
「どうもこうも・・・なんでこんなに早く孵化したんだこいつ?」

予定ではまだだいぶ時間がある。
しかも今回はエヴァを使っていないのだ。
サンダルフォンの孵化が早まったのには別の理由がある。

「えっと・・・多分とお父様たちのせいじゃないですか?」
「なに?」

シンが考えもしなかったという感じに聞き返した。

当然ではあるがここにアダムは二人いる。
シンとハジメだ。
すなわち無意識に発散されるアダムの気配も二倍
フィールドを展開するまでも無かったということだ。

『えっと・・・周囲は真っ暗なのでCTモニターに切りかえるっす・・・ありゃ?何でまだ真っ暗?』

ガルはまだ自分が食われたことに気がついていない。
もし今の状況をガルが知ったらどうなるだろうか?・・・興味はあるがとりあえずどうにかしなければならない。
ガルが暴走する前に決着をつけなければ

『おわ!マグマの対流っすか?ものすんごく揺れてるっす!!』

見ればサンダルフォンが体をゆすっている。
釣り上げられた状態で体をくねらせる姿はこれ以上ないほどに圧倒的でダイナミックだ。

・・・その体に付着していたマグマが飛び散るほどに・・・

「ちっ!全員フィールドを張れ!!」

シンの指示で全員がフィールドを展開してマグマを防ぐ。
地面に落ちたマグマが草を燃やしながら煙を上げる光景はぞっとする。
こんなものの中で孵化するなど物好きだなと場違いな考えが浮かんできた。

『あわわわわ!!!!』

悲鳴が通信機から聞こえてきた。
見ればサンダルフォンのダンスは絶好調らしい。
あれだけ熱烈なダンスだ、中にいるガルもシェイクされて相当愉快なことになっているだろう。

『き、気持ち悪・・・うっぷ』

どうやらガルも限界らしい。
いろいろな意味で・・・当然だが潜航艇の構造は完全密閉型だ。
そんなところで戻せば逃げ場が無い。

「やれやれ・・・」

頭を振ったシンは4号機に視線を向ける。
それだけで誰も乗っていない4号機が起動した。
前回カヲルがやったのと同じことだ。

4号機はプログナイフを抜くとゆっくりとサンダルフォンに近づいていく。
まだマグマのかけらが飛び散っているが1万2千枚の特殊装甲は伊達ではない。
無視して吊り下げられているサンダルフォンに近づく。

ところで魚の鮟鱇(あんこう)の捌き方はフックの付いた鎖を天井からたらし、唇に引っかけて吊り上げる。
そして口の中に水を流し入れた状態で捌くのだが・・・それに良く似ているなーとシンは解体されるサンダルフォンを見て思った。

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浅間山の麓にある温泉宿
活火山の近くだけあって温泉の温度も熱めだ。

シンは温泉に入ると大きく伸びをする

「まっ、一時はどうなることかと思ったりもしたが終わってみれば一事が万事塞翁が馬というところだな〜」

温泉に肩まで浸かったシンがしみじみとつぶやく。
結局あの後はなんの問題なくサンダルフォンは殲滅完了。
魂の回収にも成功した。

「ちょっと驚きはしましたけどね」
「まあちゃんとサンダルフォンも回収できたし」

うんうんとライとハジメが頷いた。
さすがにサンダルフォンがこんなに早く孵化するとは誰も思っていなかった。

今回はいろいろハプニングがあったが何とかここにこうしていられる。

「魂の洗濯か・・・そういえばガルはどうした?」
「あそこに」

ライが指差した場所には温泉の隅に向かって体育座りしたガルがいる。

「刺身はいや、焼かれるのはいや、煮込まれるのはいや、テンプラはいや・・・」
「えっと・・・ガル?」
「食べられるのはいや!!!!」

シン、ハジメ、ライが顔も見合わせる。
どうやらサンダルフォンに食われたことで被捕食者としての本能に火がついたかもしれない。

・・・やはり魚だからだろうか?

そんなこんなしている間にもガルはなにやらぶつぶつとつぶやいている。

「え・・・っと・・・ほれ」
「あひゃああ!!」

シンが手近にあった桶を投げるとスコンという感じに後頭部に当たったガルが奇妙な悲鳴とともに沈黙した。
どうやら気絶したらしい。

出来れば次に目を覚ましたときには正気に戻っているといいな・・・と三人はガルに向かって手を合わせながら思った。

・・・同時刻、隣の女湯〜

「きゃははは!!」
ザバン!!

笑い声とともに温泉に飛び込んでいったサキのおかげで盛大な水しぶきならぬお湯しぶきが上がる。
子供というのは温泉に行くと必ず一回はこれをやる。

さらにこれまたお約束のごとくサキは温泉の中を泳ぎだした。
誰だって一度はやったことがあるはずだ(断定)

「サキ姉さん?駄目ですよ。さっき温泉の注意のところに泳いじゃ駄目って書いてあったじゃないですか、旅館の人に怒られちゃいますよ?」
「サンちゃんも早くおいでよ〜」

幼いサキはご機嫌だ。お湯の中から手を出してサンと呼ばれた人物を呼ぶ。
それに答えるようにして一人の女性が体にバスタオルを巻いて脱衣場から出てきた。
サンと呼ばれた女性はサキとはちがってゆっくりと温泉に入っていく。

見て目の年齢は20代前半だろう。
赤めの茶髪をセミロングにした女性は東洋系の顔立ちに赤い瞳・・・サンダルフォンだ。
おっとりとして大人の余裕をにじませるサンはお姉さんというよりもしっかり者のお母さんという感じである。
特に彼女の一部が・・・

「あったかいですね〜からだの芯までぽかぽかしてきます。」
「あははは!!」
「あ!サキ姉さん?ここはプールじゃないんですからそんな水をかけちゃ駄目ですよ。」

サンはプール気分でバシャバシャやっているサキをやれやれという感じに抱き上げた。
二人の身長差でサキの体がつま先までお湯から出る。
遊びを邪魔されたサキは不満そうだがこれも躾だ。
ほかに入浴している人間はいないので誰かの迷惑になることはないが駄目なことは駄目と教えることが教育だろうとサンは思う。

「ぶう」
「むくれても駄目です。シエル姉さんにラフェル姉さんからも何か言ってください・・・ってどうしたんですか?」
「いえ・・・」
「・・・何でも・・・」

サンはシエルとラフェルが何かを凝視して硬直しているのに気がついた。
どうやら自分を見ているらしい。

なぜ自分をそんなに見つめるのかわからずにさんは自分の体を見下ろすがサキを抱いていること以外特に変わったところは無い。
次に自分の後ろに何かいるのかと思って振り向くがこれも別に変わったところは無かった。

「?・・・一体どうしたんですか?」
「いえ・・・」
「・・・何も・・・」

サンは気がついていないがシエルとラフェルの視線はサンの顔からちょっとだけずれていた。
正確には数十センチ下・・・そこには宝具があった。

見たものは男であれ女であれその視線を引きつけずにはおかない絶対にして最強の宝具・・・あえて名前をつけるのならこういうだろう・

・・・[母なるダブル西瓜(ビックボイン)]・・・と

単純に言えばそれは胸だった。
女なら大なり小なりトップとアンダーの差が織り成すもの・・・だがシエルとラフェルは疑ってしまう。

((あれは本当に胸なのか?))

・・・と・・・そしてこうも思うんだ。

((・・・デケェ))

人間の上半身が支えられる限界じゃないだろうか・・・いや、絶対に限界だと思える二つの豊か過ぎるふくらみが仲良くそこには並んでいた。
男女問わず拝んでしまいそうだ。
男にとってはいただきます、女にとってはご馳走様な代物だ。
特に女の場合、中途半端に胸に自信があったりしたらこれを見た瞬間に崩れ落ちて立ち上がれないかもしれない最終兵器・・・

「サンの胸やわらかーい、あったかーい」
「え?ちょっとサキ姉さん?」

気がつけば抱えられたサキが目の前のサンの胸をいじっている。
子供とは無邪気なものだ。
目の前にある巨大な物体に興味をそそられたらしい。

思わずサンの顔がお湯の影響とは別に真っ赤になる。
そりゃ同性で子供でもいきなり触られれば驚く。

「も、もうサキ姉さん?」
「ふかふか〜」

サンの大きな胸に顔をうずめたサキは楽しそうだ。
男なら涙を流して喜ぶべき状況だがここには女しかいない。

自分の胸をおもちゃにされているサンの方はあらあらという感じでサキの好きにさせている。
大人だ・・・懐が広い。

その後、温泉を上がった元使徒家族一行は旅館の料理を堪能し、卓球で汗を流すなどして初めての家族旅行を堪能した。
世の中平和だ。










To be continued...

(2008.04.12 初版)
(2008.04.19 改訂一版)


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