はじめてのことのはずなのに懐かしいと感じる。

・・・その思いはどこから来たのだろうか?






Once Again Re-start

第十三話 〔デジャブー〕

presented by 睦月様







「・・・マトリエルはどうしようかな?」

シンは本を読みながらぼそっとつぶやく。

「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・おい、なんとか言ったらどうだ?」

まったく返事がないのが寂しかったので本から顔を上げると対面に座っているハジメにそんなことを言ってみる。
当のハジメは・・・

「やっべーブリ○チ面白・・・」

ジャンプを読んでいてそれどころではなかった。
かなりのマジ顔でジャンプに食らい付いている。

「なんか言ったか兄貴?」
「だからマトリエルはどうしようかという話しだ。」
「だれだっけ?」
「・・・・・・」
「おぐ!!」

とりあえず手に持っていたジャンプを投げつけてみる。
ちなみにハジメが持っているのは週刊、シンの持っていたほうは赤丸なので分厚い。
もちろん破壊力も赤丸のほうが上だ。
眉間に直撃を受けたハジメが座っていた椅子ごと後方に吹っ飛ぶ。

ため息とともに周囲を見回すと

「・・・それはね、お前を食べちゃうためだ〜」
「う〜赤頭巾ちゃんピンチなの?」
「そうですよサキ姉さん?」
「赤頭巾ちゃんがんばって〜!」

サンが膝の上にサキを乗せて童話を読んであげていた。
心底和む光景だが役には立たない。

「う・・・ううう・・・」
「えっとライ?姉さんさすがにフランダースの犬を読んで号泣するのはちょっと付いていけないんだけど?」
「フランダースー・・・ネーロー」

ファッション雑誌を読んでいるシエルとフランダースの犬を読んで号泣しているライも使えない。

「「・・・・・・」」
ペラ・・・ペラ・・・

無言でページをめくっているラフェルは怖い。
何が怖いって分身して本を読んでいる。
それぞれ読んでいるのが甘ったるそうな表紙の少女漫画と熱血で燃え燃えの少年漫画の差はなんだろうか?
分身した状態なら両方読んだことになるのだろうか?

もしそうならかなりうらやましい特技だ。
ぜひ覚えたい。

「冗談なのに突込みがきついな〜兄貴、それにどうするも何もいつものとおりでいいんじゃないのか?」

何とか復活してきたハジメが倒れた椅子を直しながらなんでそんなことを気にするのか聞いてきた。
シンはやっと話しが進められるとため息をつく。

「それなんだがな、前回はマトリエルが来るタイミングで本部が停電になったのだ。どうも犯人は戦自の工作員だったらしいのだが裏で手を引いていたのはゼーレのジジイだ。」

そのとき流出した情報によって最終決戦において戦自の突入ルートを向こうに知られた。

「今回ばかりはただマトリエルを排除すれば良いと言うわけではなくてな、その工作員をどうするかというのが問題だ。事前にくるのが分かっているのだから排除するのはたやすいがあまりにもあっさり排除すると連中に警戒心を抱かれるかもしれない。」
「難しいものなんだな」
「そこのところはどう思う碇ゲンドウ?」

シンはそういって部屋の奥のほうを見る。
そこにいるのは執務用の机に座って書類と格闘しているゲンドウと最近冬月の出張中はゲンドウの秘書のようなことをしている碇ユイだ。

「・・・碇ユイ?そう恨めしそうな顔をするな」
「サキちゃん取られた〜〜」
「その前提から間違っているぞ、サキはお前のものじゃない」

ユイは今にもハンカチを取り出して噛み切ってしまいそうな妙な雰囲気をかもし出している。
例を挙げるとするならマジで泣き出す5秒前といったところだ。

「大体お前はまだ仕事が残っているだろう?公私混同すんな」
「ううう・・・」

いくら初号機の中にいて時間が止まっていたと言っても肉体年齢は27歳だ。
そんな女性がマジ泣きしているのを見ればたいていの人間は引く。
しかもその理由が小さな子供をとられたからなどとは・・・ちなみにこの二人がここにいることは何もおかしくない。
なぜならここはゲンドウの執務室であり、シン達がくつろいでいるのはこの部屋の応接セットだ。

「ゲンドウさん!!早く仕事を終わらせてください!!ハリーハリー!!!」
「こ、これでもがんばっているのだがな・・・」
「あ〜、悪いがこっちの話を先に済ませてくれるか?」

シンの言葉にユイが泣きそうになる傍らで見えないようにゲンドウがほっと息をついた。

「ふむ・・・私達(ネルフ)としてはある程度向こうの思い通り事が進んでると思わせたい」
「つまり停電はさせてやると?」
「そうなるな、一応シンジ達は本部待機ということにしておくが・・・」

ゲンドウの声のトーンが低くなった。
悪人モードだ。
それに気がついたシンのほうもニヤリと笑っていじめっ子モードになる。

「何か悪巧みをしているな?」
「持って帰ってもらうのは偽の情報だ。せいぜい連中には当日混乱してもらうさ」
「まあ基本だな、その偽の情報とはどうするつもりだ?」
「今赤木博士に用意させている」

どうだという感じに胸を張るゲンドウをシンは冷たく見返して

「昔の女だからって都合よく使いすぎじゃないか?あんまり無茶させていると夜道で刺されるぞ」

一瞬でゲンドウが石になった。
さらに背後にいるユイの視線温度が氷点下まで下がる。
まあその視線が向けられるのはゲンドウなので自業自得なのだが

「う・・・・・・そ、それにたまにはシンジに頼れるお父さんの背中を見せておかないとな・・・」

主に停電で機材が使えなくなって手動でエヴァの準備をするゲンドウとか・・・みんなの先頭に立って指揮をするゲンドウとか・・・
それがゲンドウの中の頼れるお父さん像なのだろう。

「それが目的・・・というか本命か?事前に用意をしておくという手もあるだろうに?」
「チャンスは有効に使うものだ」
「・・・その意見に異論はないし勝手にすればいいと思うが・・・しかしその前に一つ問題がある」
「問題?」

シンのいう問題というやつに思い至らないゲンドウが首を捻った。
シンは黙ってポケットから一枚のプリントを取り出してゲンドウの目の前に突き出した。

「たまにはまじめに父親らしいことをしろ」

プリントの頭にはでかでかと【三者面談】の文字があった。

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数日後〜

「ねえ兄さん、父さんは本当に来るの?」

第壱中学のいつもの教室、シンジが期待半分、不安半分な顔でシンに聞いた。
今日は三者面談当日だ。

「くると思うぞ、個人的にはこないほうがいいと思うのだが仕方がない。あれでも人の親だからな、その責任は果たさねばなるまいよ」
「なんで来ない方がいいのさ?」
「あのヤクザ顔が学校に入ってきたら警察を呼ばれてもおかしくないからだ」
「そ、それはさすがにないと思うけれど・・・」

完全に否定できないものがあるのはどうしたものか・・・目を閉じれば浮かんでくる・・・学校の教師に警察を呼ばれて問答するゲンドウの姿が・・・

そんなことを考えていると窓のそばにいたクラスメート達がざわめいた。
校庭のほうを指差している。

確か今日は三者面談のための保護者の臨時駐車場になっているはずだ。

「なんだろ?」
「バカ親父のせいに100円」
「い、一応その逆の可能性に100円」

そうじゃないと賭けが成立しないということもあるがわずかばかりの奇跡を願う思いでシンジは賭けた。
本当はシンジもシンのほうに賭けたかったのだが・・・それぞれ財布から100円玉を取り出すとこぶしに握りこみ、意を決してシンとシンジが窓際に向かう。

「・・・ほう、黒のリムジンで来るとはどこのマフィアだ?」
「父さん・・・」

校庭にはひときわ目立つ車が一台、なぜ目立つのかというのは一目瞭然、映画にしか出て来ないような縦長のリムジン、ロールス・ロイスだ。
普通の車の二倍くらいの長さがある。

その後ろから付いてくるのは青のルノーだ
運転席にミサトが、助手席にユイの顔が見える。
ミサトはアスカの保護者代理として、ユイは今回綾波ケイ(ユイの体外的な偽名)としてレイとカヲルの保護者としてここに来ている。

フロントガラス越しに見えるその顔は・・・かなり引きつっていてさらに顔を伏せていた・・・運転中にその体勢はかなり危ないと思うのだがそれでも顔を上げる気にはならないのだろう。
その気持ちは分からなくもない。

普通車の二倍くらいの駐車スペースをとって止まったリムジンから降りてきたのはそのまま葬式に行くのかと思うような漆黒のスーツを着たゲンドウ・・・もちろんトレードマークのサングラスは標準装備中で怪しさ大爆発だ。
まさにマフィアのボスという雰囲気を発散している。
ちなみにミサトとユイだがゲンドウたちのリムジンから離れたところに停車してそそくさと校舎の中に入っていった。
ゲンドウの関係者だと思われたくなかったのだろう。
無理もない・・・というか自分が彼女達の立場だったら真っ先に抹殺しているだろう。

「さて・・・あのバカを速やかにかつ早急に排除するためにはどうしたらいいと思う?」
「排除したら駄目でしょう?」
「バカというのは否定しないのだな・・・ってあのバカこっちに手を振っているぞ」

見ればゲンドウは教室の窓にいるシンとシンジに気が付いたらしい。
こっちに向かって満面の笑みを浮かべたまま手を振っている。
いい年をした中年親父が何をやっているのか・・・

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「う!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

それだけで窓のそばにいた生徒達が盛大に後ずさった。

「破壊力抜群だな、ゲンドウスマイル・・・キモさでいえば他の追随を許さんか?」
「兄さん、父さんがかわいそうだよ」
「知ったことか、とりあえずコーラな」
「ううう・・・賭けに負けた上にパシらされるなんて」

賭けの100円を持ってシンジが教室を出て行った。
ゲンドウはまだ手を振っている。

シンは無言で教室の黒板の近くにおいてあった巨大三角定規を手に取った。
そのまま手裏剣よろしくいまだに手を振っているゲンドウめがけて投げつけるとあとは振り返ることなく自分の机に戻っていった。

「づぬあ!!」
ドス!!

悲鳴と何かが突き刺さる音が聞こえてきたがシンは気にしない。
基本的にひるまない、媚びない、かえりみない人間なのだ。

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三者面談開始、先手はシン&ゲンドウ

「碇シン君のお父さんの碇ゲンドウさんですね?」
「ああ」

担任の教師と机をはさんでシンジとゲンドウは並んで椅子に座ってた。
ゲンドウは机があると全自動でその形になるのかゲンドウポーズをとっている。
しかもなぜか頭に包帯を巻いているのだが誰もそれに突っ込まない。
もちろんトレードマークのサングラスは室内だというのに標準装備中

とりあえず気になるのはゲンドウの後ろに直立不動で控えている10人ほどの保安部員だ。
確かにゲンドウは重要人物かもしれないがこれでは三者面談ではなく13人会談・・・キリストと弟子の数を合わせると13人なのだが関係はない、死刑台の階段の数も関係ない。
ちなみにシンと担任教師以外の面子はみな無言のプレッシャーを放出している。

一般人の担任教師にはきついだろう。
ちなみにこのあとシンジの面談もあるのだ。
そろそろ胃が痛くなってくるころか?

「えーシン君の学力に関してですが大体クラスの中間くらいですね」
「・・・・・・」
「進学に関してですが第二東京などの有名進学校などを目標にしなければ問題ないと思います。」
「・・・・・・」
「ああ、勘違いなさらないでください。そういった学校に進学するのが無理というわけじゃありません。むしろこれからの一年で目標を持って挑めば可能性はあります。今すぐに受験というわけじゃありませんから」
「・・・・・・」
「あ、あの?」

教師は居心地の悪い雰囲気にたじたじだ。
対面に座っているゲンドウは何の反応もしない。
自分の説明に何かおかしなところがあっただろうかと不安になるが思い当たることもないのでどうしようもないのだ。

「それだけか?」
「はい?」
「・・・君には失望した」
「は・はい!?」

担任教師は絶句した。
目の前にいるのは教え子の親だ。
しかも実質的には自分の雇い主のトップに当たる人物だが間違いなく今日が初対面、なのに何故いきなり失望されて駄目だしされなくてはならないのだろうか・・・まったくわけワカメ・・・いかん、思考が混線してきたらしい。

「・・・帰れ」
「か、帰れって・・・」
「臆病・・おぐ!!」

話の途中でいきなり真横から来たこぶしにほほをクリーンヒットされたゲンドウがいきなり真横を見る。
誰かと問う必要はあるまい?
ゲンドウにこんな突込みが出来るのはこの場にはただ一人だ。

「貴様・・・何うちの担任を威圧しとるか?」
「シン、お前の実力はそんなものじゃないだろう?私は分かっているぞ!人間見た目ではないのだ!!」
「見た目と内容が直結している人間の実例が目の前にいるような気がするが・・・大体何だその物言いは?貴様にはまともな会話が成立せんのか?」
「ふっ・・・父だからな・・・」
「違うだろうが、関係ないだろうが」
「ふ・・・照れなくても・・・おぶ!!」
「いい加減にせんとその悪趣味なサングラスごと頭を潰すぞ?」

シンはゲンドウにアイアンクローをかけている。
ゲンドウのサングラスがみしみしといやな音を立て始めた。

かなりのピンチ状態だが護衛としてきたはずの保安部員は直立不動で動かない。

チルドレンの予備であるシンはシンジ達と一緒に訓練することもある。
シンクロテストなどはしないが格闘訓練など、そのときに生贄・・・もとい、練習相手になるのは主に保安部員だったりする。
シンの怖さは骨身にしみて知っているのだ。
この二人なら親子喧嘩ということで言い訳になるし。

「シ、シン君!?そのあたりにしないとお父さん微妙に痙攣しているぞ!?」
「先生、これは躾だ」
「し、躾!?」
「そう、この男は誰かが目を光らせとかないととんでもないことをするのだ。」

はい、サードインパクトを起こして世界を滅ぼしたことがあります・・・ありがとうございました!!

「し、しかしいくらなんでも過激すぎじゃないかね?」
「前科もちだからな、このくらい当然」
「ああ、やはり・・・」

なぜかシンの言葉で納得した担任教師・・・いったい何を見て納得したのかとゲンドウは問い詰めたいのだろうがゲンドウ以外は全員・・・うすうすはゲンドウも気がついている。
人間第一印象は大事だ。
そして第一印象とは主に見た目である。

「ま、待ってくれサングラスが壊れたら私は・・・」
「なんだ?」
「えーっと、セブンになれない。ただのゲンドウになってしまう」

一瞬で何もかもが白くなった。
言い訳というか言い逃れにしてもあんまりだ。
これだからセカンドインパクト世代は・・・だがシンはそれを聞いても笑っていて

「ほう・・・面白いことをほざくな、いつの間にこのサングラスはウルトラアイになったのだ?」
「お、おとといだ」
「脊髄反射でしゃべるな」
「あだだだ!!!ミ、ミソが出る!!」
「出てくるのがミソだけならいいな・・・」

ゲンドウの顔色が紫っぽくなってきた。
まさか学校で生DV(ドメスティックバイオレンス)の現場を見ることになるとは長く教師を続けているといろいろあるものだなと教師は思う。

「シ、シン君そのあたりにしてはどうかな?今日は君の進路を話すためにお父さんに来てもらったのだが・・・」
「進路?だがこの世界が来年もあるとは限るまい?」
「いや、そんな刹那的な・・・」
「とりあえず来年までこの世界が存在していたらその時話してもかまわないだろう?」
「い、いや・・・そうなのかな?」

実際戦って世界を守っている人間にそこまで言われればこれ以上食い下がっても意味はない。

・・・ゲンドウが泡を吹き始めた。

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後手、シンジ&ゲンドウ

「え〜、さて碇シンジ君の進路ですが・・・」
「その前に先生、お聞きしたいんですが・・・」
「・・・何かな?」

シンジの言いたいことはわかる。
だが出来ればそれに触れてほしくはない。
そんな希望は無意味だが・・・

「なんで父さんはこんなぼろぼろなんですか?」

・・・・・・ほら来た。

教師が視線をシンジからそらして横を見るとシンジの隣にゲンドウがいる。
しかしどう見ても満身創痍だ。
ゲンドウポーズを維持しているのは見上げたものだが見た目にぼろぼろで精根尽き果てているしサングラスはヒビの入ったままでいつ崩壊してもおかしくない。
全部シンがやったことだ。

「出来れば追求しないであげてください」
「そうだぞシンジ、何も問題ない」

問題ないといいながらさっきから舟をこいでいるのはどうにかならないものだろうか?
別に眠いわけではない。
ただ単にダメージの蓄積がゲンドウを気絶の世界に誘っているのだ。

「・・・えー、話しを進めてもいいですか?」
「あ、はい、すいません」
「シンジ君は転校生ということで前の学校での内申書や成績を拝見したのですが、この学校に転校してきてから成績が上がっています」

実際シンジの成績はこの町に来てから上がっている。
エヴァの訓練などがあって学生との二重生活をしているのだがそれでもである。
シンジ自身もその理由には思い当たることがある。

この町に来る前のシンジはなんと言うかやけっぱちだった。
将来の夢という作文に「いつ死んでもかまわない」などと書くほどに、それが変わったのはこの町に来て家族というものを持ったことでシンジの精神が安定したからだ。

それはそうだろう。
「妻殺しの男の息子」などと言われれば人生投げ出したくもなる。
そして親戚の家に預けられて庭のプレハブで一人暮らししていた時間がシンジの本来の輝きを覆い隠していた。

シンジは東方三賢者の一人であるユイとネルフという巨大組織を管理することの出来るゲンドウの息子だ。
そのポテンシャルはかなり大きいと思われる。

それに加えて兄の存在・・・いろいろと問題の多い(本当は多いどころではない)が不思議と頼りにできて大人の雰囲気を持つシンの存在がいい方向に働いている。
今のシンジはいわば本来の彼に戻り始めているといったところだ。

「これならがんばればかなり上の学校も狙えますね、希望はありますか?」
「先生、僕・・・将来はネルフで働きたいと思うんです。」
「シンジ?」

ゲンドウが驚いた顔で隣のシンジを見た。
思いもしなかった言葉を聞いたという感じだ。

「僕、将来は父さん達のような人の役に立つ立派な仕事につきたいんです」
「それでネルフですか・・・」

担任教師がチラッとゲンドウを見ると感極まって滂沱の涙を流していた。
正直キモ!!と思いはしたがここでそれを言ったら負けだ。

「そうですか、今のうちから明確な目標を持つことはいいことです。君の場合はすでにネルフの人間ですし、正式な就職や労働、資格に関しては職員の方やお父さんに聞かれればいいでしょう」
「無論だ!!」

いきなりゲンドウがいすから立ち上がった。
さっきまでゲンドウポーズを維持するのがやっとだったくせに・・・ギャグ体質とは侮れない。
ただしサングラスまでリカバリー出来なかったようでヒビが入ったままだ。

「何も問題ない。今からシンジはエヴァパイロット兼ネルフ正職員だ。仕事は私の秘書として仕事を覚えてゆくゆくは二代目ネルフ総司令碇シンジ・・・40にして夢が広がるなー」
「と、父さん、僕はまだ中学生なんだから、そういうのはまだ早いって」
「問題ない」
「あらゲンドウさん、問題ならありますよ?」
「む・誰だ?」

会話に乱入してきた声の方向を見ると教室の出入り口のところに一人の女性

「ユ、ユイ?」
「ゲンドウさん?私は綾波ケイです」
「あ、ああ・・・そうだったな・・・なんでここにいるんだ?」
「シンにあなたが先生に迷惑をかけていると伺ったもので・・・」

見れば扉の影からシンが手をひらひらと振っている。

「シ、シン!!裏切ったな!!ゼーレのジジイ共と同じように私を裏切ったのか!!」
「人聞きの悪い、そんなにやばい単語を連呼するものじゃないぞ?大体犬には飼い主が必要だろう?」

もちろん飼い主(ユイ)と犬(ゲンドウ)だ。
ユイが指の骨を鳴らしてゲンドウを誘っている。
アダルティーな意味ではなくどっちかというとバイオレンスな意味で・・・

「まったく、学校にリムジンで乗りつけるは先生に迷惑をかけるわ・・・冬月先生にもいつも迷惑をかけているくせにあなたの辞書に学習という文字はないのですか!?」
「ユ、ユイ!サングラスだけは!!!」

ゲンドウのサングラスは完全に粉砕された。
ユイの容赦ない鉄拳制裁で

「く・・・しかしサングラスある限り第二第三の私が・・・」
「その半死半生の状態でよくボスキャラみたいなことを言えるものだな?」
「ふ・・・ガク・・・」
「・・・返事がない。ただの屍のようだ。」

ちなみにそれ以外のメンバー、レイ・アスカ・カヲルの進路の答えはなぜかお嫁さん・・・まるで幼稚園児の将来の夢だ。
お前ら本当に中学二年か?
しかもカヲルはどんなにがんばってもお嫁さんにはなれない。

「なんで僕を女に生んでくれなかったのさ!?」と詰め寄ってきた親不孝なカヲルにソバットを叩き込むシンの姿が見られた・・・教室で・・・ちなみにさまざまな・・・本当にさまざまなうわさの効力は75日続いたらしい。
さすがのシンもちょっと泣きそうになった。

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さらに数日後・・・ネルフ本部絶賛停電中〜〜〜

「たまにはこういうのもいいものですね」
「そうね、いつもだったら困るけれど」

停電で空調も止まっている発令所の中心だが緊張感のかけらもない。
主要メンバーのミサト、リツコ、日向、青葉、マヤの五人はアイス片手に談笑していた。
ちなみに発令所にいる職員一同みな水着・・・空調の止まった熱気を利用して軽い天然(?)サウナを満喫している。

手に持ったアイスは熱中症対策だ。
近くには氷の入ったバケツの中に冷えたスイカも用意されている。
もちろん加持農園産のスイカだ。

誰もこんな蒸し暑い状況でまじめに仕事はしたくない。
何事も二度目となればどんな緊急事態であれ楽しむ部分を見出そうとするのは人の本能か?
男性職員は普段お目にかかれない女性職員の水着姿という眼福にあずかっているし、女性職員もこの後ネルフのプールを使って泳げることになっているので文句はない。

ミサトあたりにしてみるとさすがに職務中にビールというわけに行かないのが残念ではある。

「リツコ〜そういえば司令は?」
「さっきケージでエヴァの発進準備をしに行くって言って出てってから帰ってこないわね、シンジ君にいいところを見せたいからってほら、司令ってビジュアル的に愛される人じゃないから」
「キッツいわね、副司令は?」
「司令についていったわ、あの二人はワンセットだし、大体この蒸し暑いなかで詰襟を着ていられると見た目で暑いからいらないでしょう?」
「ごもっとも」

あの二人にクールビズの概念はないのかもしれない。
年中常夏の国であの格好はないだろう。
省エネルックでもないし

「ちなみにユイさんはサキちゃん+α(シエル、ラフェル、サン、ただしユイのメインはあくまでもサキ)を連れて近くの湖にピクニックに行っているわ、あの人たちが一番余裕綽々としているわよね」
「でも大丈夫なんでしょうか?」

マヤが心配そうな声を出す。
もちろん今頃山を越え谷を越え僕らの町にやってきているマトリエルのことだ。
答えたのは日向と青葉だった。

「大丈夫なんじゃないかな、前回の時には停電で苦戦してはいたけれどあっさり倒したし」
「パレットライフルで倒せたのってあの使徒だけだしね」
「日向君?ミサトがへこんでいるわよ」
「え?」

リツコに言われて見ればミサトがいじけていた。
まあ、パレットライフルは彼女の発案だったが実戦で役に立ったためしがないのは事実、大体兵装ビルの攻撃が効かないのにパレットライフルが効くわけがなかったりする。

「前回のシエルさんのときも無傷だったし・・・そういえばあなたシンジ君にバカとか言わなかった?命令をそのとおり実行してたのにあれはないんじゃない?」
「ああ!!若気の至りが今痛い!!親友の言葉がなお痛い!!ってあんた本当に親友かい!?フォローしてよ!!」
「知らないわよ。大体若気ってそんな昔じゃないはずでしょう?」
「リツコがいじめる〜」
「カワイコぶってもぜんぜん可愛くないわね年を考えなさい」 
「これだから三十路女は・・・いやみが多くなっちゃって・・・」
「・・・あなたも同じ歳でしょう?」

瞬間的に空気が冷えた。
空調の止まっているはずの発令所にいる全員の肌に鳥肌が立った。
ブリザードの中心はもちろんミサトとリツコ

「いい加減ね、決着をつけなきゃいけないと思ってはいたの、ほら〜私たち親友じゃない?」
「そうね親友かどうかはともかく決着はつけなきゃいけないと思っていたわ」

ミサトとリツコがゆらりと立ち上がる。
誰も口を挟めない、マヤなどは「先輩がんばって〜」とかたきつけている。
止める気ゼロの役たたずめ・・・それにしても水着姿でバックに龍と虎を背負うってミスマッチがすさまじい。

第一回ネルフキャットファイトのゴングがなった。
だって二人とも水着だし

---------------------------------------------------------------

「「「「カンパーイ」」」」

シンジ、レイ、アスカ、カヲルの四人がジュースの缶で乾杯する。
今四人がいるのは停電になった第三新東京市の街中だ。

近くにはエヴァが4機とマトリエルが転がっている。
体中に穴が開いてすでに殲滅し終わっているようだ。

「今日も楽勝だったわね〜」

上機嫌のアスカが胸を張る。
前回はマトリエルの溶解液のせいで弐号機がかなりのダメージを受けたが今回はパレットライフルの十字砲火で簡単にけりが付いた。

「上に出るまでが大変だったけれどね」
「あえて言おう・・・雑魚であると・・・」
「え?何かいったレイ?」
「何も・・・」

そう言いながらほんのり頬が赤い。
ギャグを滑らせるとこの上なく恥ずかしいのだ。

(マトリエル・・・君ホント何しに来たの?)

カヲルだけは内心でマトリエルの扱いの悪さに同情していた。
何のためにえっちらおっちら第三新東京市まで歩いてきたのか・・・その努力が一グラムも報われない負け方だ。

「・・・・・・」
「ん?どうかしたのかいシンジ君?」

カヲルはシンジがマトリエルの死骸をじっと見ていることに気がついた。
何か不思議そうな顔でじっと見ている。

「うん・・・ねえカヲル君?」
「なんだい?」
「僕この使徒をどこかで見たことがある気がするんだけれど・・・」
「・・・・・・」

カヲルだけでなくレイとアスカも真剣な顔になった。
シンジが今の時点でマトリエルに見覚えがあるわけがない。
間違いなく初見のはずだ。

とすれば考えられることは一つ・・・

「シンジ君、どこで見たことがあるのか思い出せるかい?」
「・・・いや・・・でも何か懐かしい気がする・・・なんでだろう?」

シンジの疑問の答えをシンジだけが知らない。
そのデジャブーじみた感覚が初号機の中のシンジから来ていることを・・・

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同時刻、例によって例のごとく発令所に訪問者が来ていた。

「今日からお世話んなりますマト言います。よろしゅうお願いします」

そういって頭を下げるのは20に手が届くかどうかという感じの男だ。
どうやらマトリエルは男になったらしい。
何が関係して男と女が別れるのかは謎だ。

「こちらこそよろしく」
「よろしくな」
「よろしくね」

マトに挨拶し返したのはオペレーターズの三人、ほかには誰もいない。
シンはシンジたちを迎えに行ったし、ミサトとリツコはキャットファイトの結果医務室行き・・・水着姿のまま
ほかの職員達は我先にとプールに行ってしまった・・・みんな自分の欲望に忠実だ。

そんなこんなで三人が残ったのだが当然三人とも水着姿であり本音はプールに行きたい。
まだ発令所は蒸し暑いのだ。
黙っているだけでじんわりと汗が出てくる。

(関西弁だ。しかもどことなく似非っぽい)
(今までいなかったタイプのキャラだな)
(鈴原君とかぶっていない?)

どうやらマトは関西系の性格をしているらしい。
着ているものはほかに服がなかったからだろう、ネルフの制服だ。
しかし問題はそんな表層的な問題ではない。
マトが関西系ということで一番重要なことは彼が”ボケ”か”突っ込み”かということ・・・

「あ、マトって言っても間違えてトマト言わんようにお願いしまっさ」
「そんな間違いしないさ」
「・・・・・・」
「・・・え?」

日向は戸惑ったなぜかマトの顔がゆがんでいる。
何言ってんだこいつって言う感じに・・・しかもケッとか言って唾吐く真似しているし

(ケ、ケッってしやがったよこいつ!?)
(マコト!!そこはまじめに返しちゃいけなかったんだ!!突っ込むべきところだったんだよ!!!)
(マトさんがやさぐれまくってますぅ〜)

マトの属性・・・ボケ決定

(ど、どうしたら!?)
(次にボケたときにきっちり突っ込むしかないだろう!?)
(お、俺が!?)
(日向さんガンバ!!)

めまぐるしくアイコンタクトを交わす三人、さすがは三人一まとめにされることが多いだけ事はある。

(こういうことはシン君の担当じゃないか!?)
(だからこそだ!!ここで普段目立たない俺たちが突っ込むことが出来れば出番が増えるかも!!)
(そ、そうか)
(うまくすれば俺たちも準レギュラーにランクアップできるかもだ!!)
(日向さんファイト!!)

日向はぐっとこぶしを握り締めた。
ここまでまともに出番がなかったがこれで少しは待遇が変わるかもしれない。
やってやるぜと前を見ればマトが自分を見返してきている。
まるで挑戦者を待つチャンピオンのように・・・マトの口元にふっと言う笑みが浮かんだ。

マトが動く

「マヤさん、このあと時間があったらお茶しませんか?」
(((来たーー!!)))

三人の心の声が同調した。
今三人の心は一つだ。

(どこに突っ込みを入れる?いきなり標準語になったことか?いや、なんで自己紹介もなしに名前を知っているのか?)
(手が早いという部分の突っ込みもあるぞ!!)
(日向さんやってやるぜです!!)
(・・・マヤちゃん?君は何かアイデアはないのか?)
(私お笑いなんて出来ません・・・いつも見ているけれど自分でやるのはちょっと・・・)
((使えねー))

さすが前回殺されそうになっても鉄砲を撃てないと泣き言を言った猛者だけのことはある。
殴り飛ばす突っ込みもありかという結論に達するまでわずか3秒・・・さあ突っ込もうと日向が動く。
だが・・・

「何をしている?」
「「「っつ!!!」」」

いきなりの声に三人が振り向いた先にいたのはシン・・・どうやらタイムアップらしい。
突っ込みの専門家が戻ってきてしまった。
オペレーターズのはかない夢はどうやら幻と消えたらしい。

「お、お父ん、こんなところで会うなんて”土偶”やな」
「何を言っているのだバカか?」
「はうお!!」

いきなりマトが撃たれたかのごとく身をのけぞらせた。

「どうかしたか?」
「ワイの・・・ワイの中に眠る難波のDNAがアホは許してもバカは許さんのや!!せめてアホにしといてーな!!」
「何をわけの分からんことを言っているのだこのバカは?」
「うぐお!!」
「いい加減そのバカな動きをやめろバカめ、バカに見られるぞバカに、聞いているのかバカ?聞こえているのなら返事しろバカ、大体お前はいつから難波の人間になったのだバカ、まったくバカな話だ」

シンは容赦なくバカを連呼する。
そのたびに身をよじるマトは見ていて面白い。
やがて体力が尽きたのか動きが鈍くなっていって終いには動かなくなった。

「さ・・・さすが親父・・・あんた突っ込みの天才や」
「気はすんだかバカ息子?終わったなら立てバカ
「うぼ!!」
(((容赦ねえな・・・)))

マトはもう半死半生だがシンはまったく容赦しない。
日向たちはそれを黙ってみていることしか出来なかった。

その後、アスカの「あんたバカァ〜」の台詞にほれ込んだマトがアスカに夫婦漫才をしようと言ったが夫婦の部分を勘違いしたアスカにボディーブローの突込みを食らって「なんでやねん」といいながら空を飛んだ。
地面に頭から着地したマトは親指を立てて「ナイス突っ込み」の言葉を残し地面に沈んだ。
これがネルフに語り継がれることになる笑いに命をかけた男の伝説である。
マトの伝説はまだ終わらない。










To be continued...

(2008.05.03 初版)
(2008.05.10 改訂一版)
(2008.05.24 改訂二版)


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