困ったときの神頼み

さて、その頼むべき神はどこだ?






Once Again Re-start

第十四話 〔リミットブレイク〕

presented by 睦月様







南極・・・セカンドインパクトの中心地であり今となっては消滅した大地
赤い海に塩の柱が突き立つ死のみしか存在しない世界

その中心を一隻の空母が航行している。
米国製の原子力空母、エンタープライズ

その甲板には長大な槍状のものが布にくるまれて置かれている。

「何もかもが死に絶えた世界・・・」
「碇・・・何度見ても私にはこの世界は地獄にしか見えんよ」
「・・・・・・」
「この世界は確かに”原罪に汚れなき浄化された世界”かもしれん。だが・・・」
「ああ・・・この世界は私の罪そのものだ・・・取り返しのつかない罪そのもの・・・」
「そして私の罪でもありますね」

二人の会話に入ってきた声の主はユイだ。
ゲンドウと冬月は驚くでもなくじっと船の進行方向を見ている。
ユイも気にしない。
黙ってゲンドウと冬月の間に立つ。

「・・・ここを見ているとシンジの記憶にあったあの世界を思い出します」
「そうだな」
「こんなに寂しい世界だったんですね・・・」

ユイはゲンドウの腕につかまった。
その目には涙が浮かんでいる。

「こんな・・・こんな世界にシンジはたった一人で・・・」
「ユイ・・・受け入れよう私たちの過ちを・・・」
「シンが・・・アダムが現れなければシンジはたった一人で死ぬまで誰とも会えず・・・話すこともなく・・・」
「・・・彼は希望だったのだな・・・」

すべての災厄が開放されたあとの空っぽのパンドラの箱・・・そこに残されたたった一つの希望・・・アダム・・・彼の存在は誰にとってもジョーカー(切り札)だった。
そしてゲンドウに、ゼーレに利用された彼は最後に誰にも予想できなかった結果をこの世界にもたらしたのだ。

「・・・信じよう。私たちにはそれしか出来ない」
「はい」
「老兵は死なず・・・ただ去るのみか・・・」

冬月の言葉がすべてだった。
この世界の未来はシンとシンジの仮初の兄弟のためにある。
それ以外の人間はおまけも同然だ。
彼らだけがこの世界の未来を決められる。

『本部より入電!使徒出現!!』

「また・・・始まったな・・・」
「ああ・・・」
「シン・・・シンジ・・・」

戦いはまだ終わらない。
この世界の未来も・・・まだ決まっていない。

「ところでゲンドウさん?」
「ん?」
「お土産何が良いかしら?」

いきなり冬月がこけた。

「問題ない、すでに用意している」

そういってどこからか取り出したのは赤やら青やらの原色が目に痛い全身タイツ・・・背中のところに『南極』とロゴが入っている。
しかもなぜか漢字で・・・明らかにメイド イン ジャパンかチャイナだろう。

「ああ、これなら南極っぽいですね、シンもシンジも喜びますわ」
「ふふ・・・ほかのみんなの分も用意してある」
「ちょっと待たんか碇!!ユイ君も!!」

さっきまで地面にこけていた冬月が立ち上がって突っ込みを入れた。
どうやらこの老人にも突っ込みのスキルが眠っていたようだ。

「君らは子供たちのことが心配じゃないのかね!?」
「もちろん心配ですわよ、冬月先生」
「ああ・・・」
「ならなんでお土産の話しなんぞしとるんだ!?」
「それは事前に出来ることはしてきましたし、ここからではいまさらどうにも出来ないでしょう?」
「ああ・・・」
「そ、それでもな・・・」

なおも言いたい事のある冬月をユイが手を上げて止めた。

「信頼していますから・・・シンジを守るって言ってくれたアダム(シン)のことを・・・」
「・・・・・・」

それを言われると弱い。
この世界の未来の鍵はシンや子供たちが握っている。
大人が出来るのはそのサポートだけだ。

「・・・もういい、しかしその衣装はどこで買ってきたのだ?」
「知らんのか冬月?」

ふふんと鼻で笑うゲンドウに冬月の中の血液が何年かぶりに熱くたぎった。
前回たぎったのはセカンドインパクトの秘密をたてにゲンドウに詰め寄ったときだったかと頭のどこかが懐かしく昔を思い出したりして・・・それって走馬灯じゃねえ?頭の血管切れかけてねえ?

「何をうつろな目をしているのだ冬月?」
「は!!何でもないぞ!!!」
「そ、そうか?」

実際は彼岸に旅立ちかけたのだがそんなことは口が裂けてもいえない。
それはさっきのゲンドウの一言でこの世に舞い戻ってきたということ、すなわちゲンドウに救われたなど認めたくないのである。

「まあいいこの衣装はな、ネルフの南極観測基地の・・・」
「何?そんなものあったのか?」
「あったのだ。ちなみに場所はこの近くにかろうじて残っていた氷山の上、万が一氷山が沈んだりしたときに備えていつでも脱出できるように簡易な建物なのが売りだ」
「そんなデンジャーな場所で南極の跡地を観測しているのか売りなのか?大体そのタイツは何の関係がある?」
「それはな・・・」

くるりとタイツを裏返せば胸のところにネルフのマークロゴ・・・一体ネルフとは何のための組織だ?

「これはそこで売っている土産品、南極戦隊エヴァンジャースーツだドーン!!」
「そのドーンってなんだ?」
「重要な発言をしたときのお約束の効果音だ。意味はない。ちなみにスーツは全色をそろえている」

もはや突っ込みに疲れた感じで冬月が白くなった。
年下の人間の考え方が分からないのは歳かなとまじめに考えてみる・・・なぜかシンの存在がとてもありがたく感じる。

「誰が買うのだ?」
「ん?冬月は知らんのか?ネルフ観光の”セカンドインパクト発生地点、南極塩の柱ツアー”のことを、ちなみにこのエヴァンレンジャーは南極観測基地のマスコット戦隊だ」
「なんじゃそりゃ!!」
「町内会が作るイメージキャラ営業があるだろう?それと同じなのだが知らんのか?」
「知っているとかそういう問題ではないわ!!」

また冬月の血圧が上がった。
高血圧とは虚血性心疾患、脳卒中、腎不全などの発症リスクとなる点で臨床的な意義は大きく、生活習慣病のひとつであり、肥満、高脂血症、糖尿病との合併は「死の四重奏」「syndrome X」「インスリン抵抗性症候群」などと称されていたりして体にはクリティカルに悪かったりする。

一言で言うとメタボリックシンドロームというのがわかりやすい。
細身の冬月だが頭に血が上れば似たようなものだ。

「だから、ネルフの観光部門が作ったツアーだ。わざわざ槍を回収したあとにツアーを開始するために日程を合わせたのだぞ?」
「十年以上ネルフにいるが初耳過ぎるわ!!」
「ふ・・・冬月先生、人類の未来を見るためには先立つものが必要なのです」
「サングラスを直しながら訳知り顔で言うな!」

ネルフの闇は冬月が考えていたより深く手広かったらしい。

しかも以前からうすうす・・・いや、本当は結構・・・実はあきらめの心境で分かってはいたのだ。
この目の前のひげ親父が猪突猛進のバカであることは・・・しかもユイまで一緒になるとたちが悪い。

「ゲンドウさん?シンにはやっぱり戦隊のリーダーっぽく赤がいいと思うんです」
「ああ・・・」
「やっぱりそう思いますか?そしてシンジのほうは黒なんてどうでしょうか?それともプラグスーツに合わせて青かしら?」
「ああ・・・」

あれで会話が成立しているのだからこの世界の最大のなぞはこの二人ではないだろうか?

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同時刻、ネルフ本部の作戦部部室は微妙な緊張感の中にあった。

「まずはこれを見て頂戴」

ミサトの言葉とともに日向がコンソールを操作する。
床に埋め込まれたモニターが点灯して映像を映した。
それは地球をバックに映っている鉄槌のサハクィエルの姿だった。

「うわ〜」
「「「・・・・・・」」」

驚いたのはシンジだけだ。
レイ、アスカ、カヲルは特に驚いていない。
この三人はサハクィエルの姿はもちろんその能力も知っている。
このミーティングは前回の記憶を持たないシンジのためだけのものだ。
サハクィエルの大きさに驚いていたシンジが落ち着いたところでミサトに話しかける。

「こ、こんなに大きいのどうするんですか?」
「じつはね、こいつの攻撃はもう始まっているの」

そういって切り替わった映像には前回と同じようにクレーターになった大地と海・・・

「こいつはね、体の一部を切り離して地上に打ち込むわけ、つまり体全体が質量爆弾なの」
「そ、そんな・・・」
「この海に落ちたのは軌道を修正するためね、徐々に陸地に近づいていっているのが分かるでしょう?」

シンジはしきりに感心している。
このあとサハクィエルを倒す方法を聞いたらシンジはどんな顔をするだろうか?

「・・・それで今回の作戦だけど・・・」
「受け止めるんですよね」
「え?」

ミサトだけでなくほかの皆も意外そうな顔になった。

「どうかしました?」
「シンジ君?・・・どうして手で受け止めようなんて思ったの?」
「え?違いました?なんとなくそう思ったんですけれど・・・」
「いえ、私たちもそれしかないと思っているわ」

二回目ということで当然サハクィエルに対する作戦も見直された。
しかし結局はエヴァ4機による手での受け止めしかないという結論が出た。
衛星軌道からの隕石落下(メテオストライク)の対抗策などそう多くはない。
しかし問題は・・・シンジがそれを言い当てたということ・・・

「・・・一応規則で遺書を書くことになっているけれど」
「大丈夫だと思いますよ。きっと成功します」
「何故?」
「え?・・・なんとなくそう思うからです」
「・・・・・・」

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発令所


「ねえリツコ?どう判断したらいいのかな?」
「・・・まだ自覚はないんでしょうけど記憶を受け継いでいると考えるべきでしょうね、シンジ君はエヴァに乗れるとはいえ戦略家としては素人、自分で思いついたと考えるよりは可能性があるわ」

作戦の成功に関してはミサトもリツコも疑っていない。
前回よりもエヴァの数は一機多い。
それに今回はもう一つ成功の可能性を上げるための仕込をしてある。

「・・・みんなの様子は?」

モニターに映るのは4機のエヴァ、その配置はこれまたお約束のごとくミサトの”勘”によって決められた配置だ。
運に頼る作戦司令官というのも考え物だが女の勘というものが侮れないというのは前回でも証明されている。

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初号機


シンジはじっと空を見上げていた。
 初号機の瞳越しにいる空は晴天・・・その先にはサハクィエルがいるはずだ

「どうしてだろう・・・最近多いな・・・」

このところデジャブーを感じることが多い。
特に使徒に関して・・・

「僕に何が起こっているんだ?」

自身の違和感はシンジが一番よくわかっている。
その違和感の元をうまく説明できないので誰にも相談していないのだが違和感は日々大きくなっていく。
もともと内向的な性格をしているのは変わらないので何かが起こっているのは感じているがそれを押し込めてしまっているのだ。

・・・あるいは誰かに相談すれば解決しないまでもどうにかなったかもしれない。

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弐号機


「またこんな賭け事じみたことすることになるなんてね〜」

アスカがやれやれという感じにあきれた声を出す。

今回は前回よりも確率が上がっているとはいえMAGIで算出した成功確率は小数点以下だった。
話にならないが前回はこれより低い確率で成功したのだから大したものだ。
ちなみにその計算にはシエルたちの介入は計算されていないので実際はもっと上だろう。

「なんって言うかまじめにデッド・オア・アライブよね」
「ミサトさんって基本的にSじゃないんですか?」
「否定できないわね、いつも加持さんを尻に敷いているし」

エントリープラグの中にはシエルとラフェルまでがいる。
一緒に乗り込んでフィールドを強化するためだ。

「まあ楽勝でしょ、今回は皆も一緒にいるし」
「そう願いたいわね」
『お二人ともよろしくね』
「あ、キョウコおば様もよろしくお願いします」
『キョウコお姉さんでいいわよ』

女が三人集まればかしましいとはよく言うがこれから命を賭けるというのに余裕綽々だ。
このあとキョウコによるアスカのアスカによるアスカのための”シンジ篭絡講座”が開かれた。
女だけという状況で最初になくなるのは遠慮とか恥じらい、当然アスカが真っ赤になってわめいたりしたのだが仕方がない。

最近人間になったシエルやラフェルにそんな浮ついた話しのネタなどあるわけないしこの年代の興味の矛先は九割方そっち関係だろう。
となると消去法で生贄はアスカに決定ということになる。
そして一児の母であるキョウコが参加するとなれば恋の話しから猥談に流れていくのは当然の流れであって甘いものを食べれば食べるだけ体重が増加するのと同じくらい当然の成り行き。
脂肪ってつけるのは簡単なのに落とすのは難しいのも真理だ。

ちなみにエントリープラグの様子は発令所でモニターされているのはすっかり忘れているようだ。

後日この4人が何を話したかはトップシークレットになった。
かなり際どい話をしたようだ。

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零号機


「マ〜マ〜」
「・・・何?」

インテリアシートに座ったレイの膝の上にサキが乗っている。
これはある意味避難ともいえる、万が一にでも失敗した場合には前回ミサトが言ったようにエヴァの中が一番安全だからだ。

サキはレイと一緒にいるのが嬉しいのかレイの体に抱きついてほお擦りしていた。
レイのほうもママと呼ばれるのには戸惑うがそれでもまんざらじゃないのだろう。
その顔には薄く笑みが浮かんでいる。

「レイさん?」
「何?」

サキだけじゃなく一緒にサンも乗り込んでいる。

「ごめんなさい、あなたはお母さんじゃないって言ってはいるんですが・・・サキ姉さん納得してくれなくて・・・」
「いい・・・」

子供のサキにそのあたりの複雑な事情を理解させるのは無理だ。
レイがママ役になればいいだけの話、レイも・・・リリスとしての記憶はないがサキに対する好意はある。

「・・・マ〜マ〜?」
「何?」
「呼んでみただけ〜」

恥ずかしそうににっこり笑うサキはかわいい。
普段シンはともかくレイに甘えることは少ないのでその反動もあるようだ。
子供は天使だといわれたりする理由が分かるような気がする。
癒し系だ。

「ところでLCLって甘いんですね」
「うん、あま〜い」
「・・・・・・」

サキとサンの言葉にレイはどう答えて良いか困った。
本当のLCLは血の臭いがしてとてもじゃないが甘くはない。
それなのになんでサキとサンが甘いというのかというと原因はユイだ。

サハクィエルに対抗するためにすべての使徒っ子を総動員して事に当たると決まったとき、ユイが反応した

「サキちゃんが血の臭いのするLCLに入れるわけがないでしょ!!」

そして速攻で開発されたのが今零号機のエントリープラグを満たしているニューなLCL・・・ずばり”LCLストロベリー味”である。
・・・バリュームじゃないんだからと思うが三日で完成させて本人南極に行ったものだから東方三賢者の一角はニューガンダム並に伊達じゃないらしい。
実際マジにすごかった。
リツコが尊敬の目でユイを見ていたし・・・理由があれだが・・・

ちなみに時間の問題でこの”LCLストロベリー味”は零号機にしか装備されていない。
ほかの皆は血の臭いに辟易している。

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4号機(初号機レフト)


「エントリープラグせま!!LCLクサ!!」
「マト、うるさいぞ」
「せ、せやかて〜」
「泣き事言うな、マジでウザイから」

マトを黙らせたシンは前を見る。
空の青さが憎い。
なんで”視界だけ”こんなにさわやかなんだ?

「し、しかしマジにきつい」
「ハジメ・・・言いたい事は分かるが今は何も言うな・・・」
「窮屈って事さ・・・好意に値しないね・・・」
「奇遇だな渚カヲル・・・我も好き好んで男と密着する趣味はない・・・お前と違って男(主にシンジ)にときめく趣味も無いしな」

エントリープラグの中に入っているのは6人
インテリアシートに座っているシン、ハジメ、ライ、ガル、マト、カヲル・・・明らかに定員オーバーだ。
本来は一人乗りだから5人ほど余計な計算になる。

「う、潤いがないっす」
「ガル・・・潤いなら腐るほどあるだろう血の臭いで吐きそうになるがな・・・」

シンにも分かっている。
何が悲しくて男ばかり6人も狭い密室でくっつかなければならないのか・・・地獄絵図だ。
確かに周りにはLCLがあって潤ってはいるがいやな潤いだ。

しかもLCLの血の臭いがきつい。
慣れてないと胃の底からこみ上げてくるものがある。

そしてそれとは関係なく・・・

「ライ・・・」
「・・・・・・」
「なんでだ?まったく動いていないんだぞ?・・・むりに答えなくて良いが・・・」
「・・・・・・」

ライからの返事はない。
それもそのはず・・・口に両手を当てて青い顔をしている。
明らかにいっぱいいっぱいだ。

どうやらライの乗り物酔いは飛行機だけでなく乗り物すべてにオールマイティーらしい。

もちろんエヴァも乗り物だ。
しかもここでデビルリバース(飲んべえ用語で吐くこと)をやらかすと皆に・・・ライの顔色よりほかの皆が(シンも含めて)青い。

「あ、兄貴・・・降ろしてくれ」
「だめだ」
「ならせめてライを眠らせてくれ!飛行機のときのように気絶させればいいだろう?」
「それも出来ん、気絶した状態ではフィールドは張れないからな」

今そこにある危機・・・それは時限爆弾となったライ・・・

「う・・・」

うめいたライに全員の体が硬直する。
もしも体毛があったのなら猫のように逆立てているだろう。
それほどに切羽詰っている。

例えるなら前回マトリエルが来たときにエレベーターに閉じ込められたミサトくらい・・・あの時はかろうじて助かった(トイレに行くのが)が今回はどうだろう?

答え=サハクイエル次第

「い、いややー!!こっからだしてーな!!」
「黙れマト!!サハクイエルより前に貴様をしめるぞ!!」
「せ、せやかてこんな男しかおらんようなところでぎゅうぎゅう詰めでむさっ苦しい思いして挙句の果てに乗り物酔いの男の反吐まみれなんていややー!!」
「みな同じ思いだ!だから黙ってろっつてんだろこの似非関西人が!!ライのゲージが上がっちまうだろうが!!!」


シンの言葉にマトがぴたりと黙った。
恐る恐る皆でライを見ると・・・

「「「「「・・・っ!!!」」」」」

全員が声にならない悲鳴を上げた。
ライの状態はさっきより悪い。
顔色が・・・具体的には赤から肌色になって・・・今は水色?

Q、やばいですかー?
A、むっちゃくちゃやばいですー!

「と、とにかく・・・サハクィエルが現れたらハジメと我のフィールドを全力で展開してこの場所に誘導する。だから我々は一歩も動かないですむんだから耐えろライ」
「父さん、質問ッス・・・なんでこんなに詰め込む必要あったッスか?」
「それは実に簡単なことでな・・・」

まずシンジの初号機に誰かを乗せるという案は却下、シンジに不審がられるし初号機の操作にも影響してくる。
そして4号機にはシンとハジメが乗ることは絶対条件だ。
ミサトのわけの分からない勘よりシンとハジメが誘導したほうが確実だ。
それに伴って4号機は直接サハクィエルを受け止めるためにほかの機体よりも多くの元使徒のメンバーを乗せることが望ましい。

「でもせめて二人は零号機でも弐号機でも・・・」
「原因はマトのバカにある」
「え?」

マトに全員の視線が集まった。
当の本人は思い当たることがあるのか引きつった笑いを浮かべてやがる。

「こいつ・・・メンバー分けをするときになんて言ったと思う?もう一度言ってみろマト?」
「な、なんやったかな〜」
「さっさと言わんと殺すぞ貴様・・・」

シンはマジだ。
本気でマトを殺るかも知れない目をしている。

「そ、その・・・ピッチピッチの女子のエキスって美味いんかなって・・・はは」
「「「「「・・・」」」」」
「か、軽いジャブやったんやけど思わず会心の一撃になったっちゅうか?男やったらわかるやん!!密室に男女がいてしかもLCLの中ってくればそういうブルースプリング(青春)な妄想にどっぷり浸ってしまうのはこれ本能やんか!!」 

マトを見る目が冷たくなった。

「このセクハラ野郎が・・・お前のせいか・・・そりゃあ女達が一緒に乗りたがらないわけだ」
「マト・・・兄さんかなしいっす・・・初めての弟なのにこんなに早くいなくなっちゃうなんて・・・」
「このろくでなし・・・消えてなくなれって事さ」
「・・・・・・」
「ま、まって〜な!」

シンの殺る気がハジメ、ガル、カヲルに乗り移ったらしい。
ライはそれどころじゃないが体がまともなら参加しているはず。

「まあ待てお前達」

そんな殺気立った三人を止めたのはシンだった。

「と、父ちゃん!ワイを助けてくれるんか!?」
「ここでやるとただでさえ残り少ないライのライフポイントが吹っ飛んでしまうだろうが、殺るのはかまわんが終わった後で殺れ、もちろん我も参加する」
「なんでやねん!!」

なんでやねんもくそもないのである。
それはもはや決定事項、絶対運命黙示録である。

問題はライが持つかどうかが今の最重要事項だ。

6人は使徒のくせに神に祈った。
この際釈迦だろうがキリストだろうがアッラーだろうが八百万だろうがインドラだろうがシヴァだろうがなんだってかまわない。
助けてくれるのなら一発改宗してもいい。

全員必死だ。
誰が一番必死かはもちろん限界の近いライだったりする。

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再び本部発令所〜

「あの子達・・・」

ミサトがあきれた声を出す。
目の前の四分割されたモニターにはそれぞれのエヴァのエントリープラグが映っていた。
その中の一つに武士(もののふ)がいる。

5人の武士(もののふ)+瀕死人1人だ。

モニターをまっすぐ見る5人の全身から不退転の覚悟が滲んでいた。
完全密閉されたエントリープラグにははなから逃げ道などないのだから文字通りの不退転だ。
緊急の事態、あるいは命にかかわるような事態に陥った人間は異常なまでの連帯感と絆を瞬時に作り出す。
いまや5人は一蓮托生、その心は一つ・・・例外は別の意味で苦しい戦いを強いられているライだ。

もし自分たちならあんな状態の人間がいたら恥も外聞もなく逃げ出すだろう。
臆病者と言いたければ言え

「・・・敬礼!!」

ミサトが号令をかけると全員がモニターに向かって敬礼をした。
意味などない。
皆の中にあるのは勇者に対する尊敬の念だ。

「あ、彼らのエントリープラグの映像は消しておいてね、音声もつなげなくていいわ」
「いいんですか?」
「あなた・・・このあとどうなるか見たいの?」
「・・・・・・了解」

多分・・・いや、確実に予想した未来はやってくるだろう。
思い出と映像は美しいほうが良い。

「使徒出現!!」

いろいろ微妙なものを吹き飛ばすように日向の声が発令所に響いた。

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シンの赤い瞳が青空にそれを見つけた。

「来たぞ!!」
「「「「おお!!」」」」

「おお・・・」

エントリープラグの中から見る青空にサハクィエルの姿が見えた。
もはや語ることはない。
全員の心は一つ、

(((((さっさと終わらせてここから逃げ出したい!!!)))))

かなり後ろ向きかもしれない。
へたれているといえばそうかもしれない。
だがその思いは真剣だ。

今の5人の形相はすさまじい。
子供が見たら泣き出すかもしれないほど真剣すぎておっかなかった。
だが一番おっかないのは・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うっ!」

ライのうめき声と真っ青な顔・・・思わず全員が「すわ!リミットブレイク!?」と硬直したほど・・・そんなことをしている間にもサハクィエルは近づいてくる。

「受け止めるぞ野郎共!!」
「「「「やあってやるぜ!!!!」」」」

「・・・・・・」

もはや限界のくせに律儀に手を上げるライ・・・親指立てている姿がターミネーター2っぽくて激しく不吉だ。
しかしそんなことにいつまでも関わってはいられない。
事件はいつだって会議室じゃなく現場で起きているのだから・・・

「極彩と散るがいいィィィ!!」
「元気百倍ィィィ!!」
「斬刑に処すぅぅぅ!!」
「俺のこの手が光って唸ったらァァァ!!」
「おしおきだべ〜ぇぇぇ!!」

「・・・・・・せ、せきはらぶらぶてんきょ・・・うっぷ」

全員が全力でフィールドを展開する。
掛け声に意味はない。
ただ気合が入るだけだがもろに個人の趣味が出た。
やはり極限状態ではその人物の素が出る。

そのおかげというかなんと言うか4号機の前には巨大で目で確認できるほどはっきりとしたフィールドが展開された。
しかも六段重ねの超豪華版だ。
普通のフィールドはオレンジ色で半透明だがこれは向こうがまったく見えない。
半ば以上実体化しているっぽいというとんでもないものだ。

4号機に向かっていたシンジたちもそのあまりにも常識はずれな光景に驚いて動きが止まってしまっている。

「さあ来いサハクィエル!!」
「「「「カムォ〜ン!!」」」」

「か、かむ・・・う」

みんなノリノリだ。
精神を集中しすぎてハイになっているらしい。

モニターの中では周囲の雲を蒸発させながらサハクィエルが迫ってきていた。
まだシンジたちがはっと我に帰って駆け寄ってきているが問題はないだろう。
これだけ強固なフィールドを展開していれば如何にサハクィエルといえども受け止められるはずだ。

そしてサハクィエルがフィールドに接触する。

バン!!

「「「「「「はい?」」」」」」

思わずシン達が呆けた声を出す。
目の前でフィールドに接触したサハクィエルがいきなりミンチになったのだ。
その血と肉片が第三新東京市中に降り注ぐ。
いきなり町全部がホラー映画並みにスプラッター状態だ。

「な、なんで?」
「まさかフィールドが硬すぎた?」

サハクィエル1に対してこっちは6人の元使徒・・・単純計算でこっちは6倍の強度だ。
そしてサハクィエルは地面に大穴を穿つような質量と速度を持って突っ込んできた。

その結果がどうなるかというと・・・地上100階くらいのビルの屋上からノーロープバンジーをしたに等しい。
それはミンチにもなろうというものだ。

「た、魂はどこだ!?」
「た、多分その辺に・・・」
「探せ!!」

普段冷静なシンもさすがに今回はあせっている。
魂を回収できなければサハクィエルが消えてしまう。
4号機を操ってサハクィエルの魂を探すが・・・重要なことを忘れてしまっていた。

「・・・父上・・・」
「何だライ!?今いそがし・・・は!!」

思わず全員の視線が集まるそこには澄んだ笑みを浮かべるライ・・・ただでさえ限界状態のライがこんなに激しい挙動についてこれるわけがなかったのだ。

「逝ってまいります」
「待て!早まるな!!俺たちのために!!」
「まだ未来がある!!ワイらには!!」
「短期は損気ッス!!助けてほしいッス!!」
「石の上にも三年・・・我慢って事さァー!!」

いろいろ説得というには自分のための懇願の入った言葉にもライはにっこり笑う。
こりゃ駄目だと決断したシンは緊急脱出ボタンを押した。
事ここに至っては一瞬でも早く外に出なければならない。

同時に4号機の頚椎部分の装甲が吹き飛んでエントリープラグが空を飛んだ。

・・・・・・その急なGでライの限界突破・・・・・・もっともすでに限界だったので速いか遅いかの差でしかなかったのだが詳細は不明・・・誰も詳しく聞きたくもないし・・・真実は彼らだけが知っている。

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作戦終了後の発令所、通信機のモニターにはSOUND ONLYの文字がある。
その前にはミサトが立っていた。

「っというわけで使徒の殲滅は成功、”回収”のほうも何とか成功したそうです」
『・・・そうか、ご苦労・・・』

前回と同じようにサハクィエルが殲滅されたことでやっと通信が繋がった発令所でミサトがゲンドウに今回のことを報告していた。
もちろんゼーレのジジイが聞いている可能性もあるのでやばい部分はオフレコにしたりぼかしたりしている。

『そこにシンはいるか?直接ねぎらいたいのだが』
「それが・・・ちょっと・・・」
『な、なに!?シンは怪我をしたのか!?大丈夫なのか!!?』
『ちょっとゲンドウさん!!シンが怪我をしたって本当ですか!?ミサトちゃん!!詳しく教えて!!!』
「いや・・・聞かないほうがいいかと・・・」
『なんだねそれは!!今すぐにそっちに戻る!!』
「いや、そんな大した事はないんですけどね、ゆっくり帰ってきてください」

それだけ言うとミサトは通信を切った。
これ以上は話しにならない気がしたからだがおそらくその判断は正しい。

たぶんシンは今誰にも会いたくないだろうしそれ以上に食べ物を見たくないだろう。
それは4号機に乗っていた他の皆も同じはずだ。

「まああたしにしてみたらおごるお金が浮いてラッキーなんだけどね・・・」
「ミサト・・・あなたまたお酒に使ったわね?」

いつの間にかチルドレン達の戦闘後の定期健診から戻ってきていたリツコがあきれた声を出す。

「う・・・リツコ〜」
「貸さないわよ?私も給料日前だもの」
「ちっ、そういえば皆はいいの?」

皆というのはもちろん4号機に乗っていた皆のことだ
元使徒だけに精神汚染とかの問題はないだろうが別の意味で精神汚染をくらったっぽい。

「シンジ君たちは問題なし、シン君たちのほうはどうにもならないでしょう?」
「ごもっとも・・・」

お医者様でも草津の湯でも治せないものは恋の病だけではない。
魂が抜けている状態のシン達が立ち直るまでには3日ほどかかった。










To be continued...

(2008.05.10 初版)
(2008.05.24 改訂一版)
(2008.05.31 改訂二版)


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