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Once Again Re-start

第十五話 〔いつもの事〕

presented by 睦月様







暗い室内にモノリスが浮かび上がる。

「では、碇・・・。第11使徒侵入の事実は・・・ないと言うのだな?」
「はい・・・。」
「サキね~ね~、これはな~に?」
「ん~とね、ぞうさん!」

・・・しばらく沈黙が続いた。
後半の声は部屋の外から聞こえてきたようだ。
ナンバー01のキールのモノリスが咳払いをしたことで再び会議が進む。

「気を付けて喋りたまえ?この席での偽証は死に値するぞ」
「MAGIのレコーダーを調べて下さっても結構です。その事実は記録されていません」
「じゃあこれは?」
「ん~とん~と・・・ゴリラさん!」

重いはずの会議になにか妙なものが混じっている。
皆それに気がついているのだが突っ込まない。
突っ込んだら負けだと思っているのだろうか?

「笑わせるな・・・。事実の隠蔽は君の十八番ではないか」
「タイムスケジュールは死海文書の記述通りに進んでおります」

そんな空気の中でもあくまで重く話を進めようとする姿勢はある意味で見事だ。
返すゲンドウも只者ではない。
ことこの場において信頼の二文字は存在しないのだから油断しないのは当然だ。
ゲンドウとゼーレ、両者の間にあるのは信用、要するにこいつは使えるというただそれだけの認識だ。
間違っても相手の言葉や思いを信じてはいない。

「まあ、良い・・・。今回の君の罪と責任は言及しない。だが・・・君が新たなシナリオを作る必要は無い」
「解っております・・・全てはゼーレのシナリオ通りに・・・・・・」

キールはモノリスごしに、ゲンドウはサングラスごしに相手を見る。
サングラスというのは便利だ。
”敵を見る視線”を隠すことが出来る。

「ね~ね~これは?」
「えう?ん~とん~と・・・」

いきなり暗闇が白い光に切り裂かれた。
光の正体は長方形に切り取られた壁の一角、どうやら誰かが扉を開けたらしい。
同時になにか外にいたものが飛び込んできた。

「ゲンドウジージー」
「何かなサキちゃ~ん?」
『『『『『う・・・』』』』』

緊張感が一気に吹き飛んだ。
破顔した顔を真っ赤にして笑うゲンドウを見たモノリス達が映像の癖に後ずさった。
すごいぞゲンドウスマイル!!

そんな一発危険人物認定物の笑顔にトテトテと近づいていくのは二つの影・・・その手に持っている動物図鑑を広げているのはサキだ。

「これー」
「ん?これはパンダだな」
「パンダ~?分かったよハクちゃんこれはパンダさん!」
「パンダさん?」

サキの言葉になぜか万歳するのはハクと呼ばれた少年・・・少年というより幼児というのが正しいかもしれない。
どう見てもサキより年下だ。
そしてこの子こそ元サハクイエルことハクである。

「サキちゃんはハクちゃんの面倒を見てえらいな」
「うん!サキちゃんおねえちゃんだもん」

ゲンドウに頭をなでられたサキは嬉しそうだ。
しかもゲンドウは反対の手でハクの頭もなでている。
ハクも嬉しそうだがそれ以上にゲンドウのほうが嬉しそうだ。

第三者から見ればゲンドウが一番壊れていっているのが分かるだろう。
だって怖いし・・・

『・・・議長?』
『なんだ?』
『本当にあの男に任せていいのですか?』
『・・・・・・』

キールはすぐには答えられなかった。
今のゲンドウはどう見ても親ばかというかジジバカだ。
こんな男に自分達の計画、ひいてはこの世界の未来を託して大丈夫か?

『・・・おい碇?』
「ははっサキちゃんはお姉さんか?」
「うん、お姉ちゃん」
『こっち向け碇・・・』
「ハクくんはサキちゃんのことは好きかな?」
「大好き~」

どうやらハクはお姉ちゃんっ子のようだ。
サキも名実ともに(一応サキが一番上ではあるがほかの皆はなぜか年上ボディーだったので必然サキが妹扱いされていた)弟が出来たことで年長者としての責任感とかいろいろなものが芽生えたのだろう。

そしてこの世界を裏から牛耳っているゼーレの議長のくせに完全に無視されたキールは・・・

『わしの話を聞け!!!!!!』

どこかのファイヤーでボンバーなロック歌手のごとくシャウトした。
思わず動きを止めたサキとハク・・・3・・・2・・・1・・・0

「う・・・あーーー!!」

いきなりハクが泣き出した。
原因はもちろんキールの怒声

なーかした なーかしたー
  せーんせーにいーってーやろー


何故だろう?
見えるはずがないのに他のモノリスからキールに注がれる視線が冷たくなったように感じる。
老人は冷え性なのに

『ぬっは!泣くな!!』
「あーー!!あーーー!!」
『くお!!』


泣くなといって泣き止む子供はいない。
そんなことをすればますます泣き続けるにきまっているのだがキールがそんなことを知るわけがない。

『だ、大体何故ここに子供がいるのだ碇!?』
「あれ?言いませんでしたか?ユ・・・ゲフンゲフン!この子達の保護者がちょっとはずせない用事が出来たので私が預かっているのですよ。冬月も今出張中ですし、ほかに任せることの出来る人間が来るまで」
『だからなんでそんな子供を会議の場につれてくるのだこの髭メガネめ!!』
「ムカ!そもそもこの会議自体緊急の呼び出しだったではないですか!!それでやむをえずこの二人を連れてこざるを得なかったのですぞ!!わざわざ部屋の外に待たせて会議に出席したというのに!!大体子供をいじめるとは大人気ない!!」
『いじめとらんわ!!勝手に人を人間失格にするな!!』
「ふ・・・太宰治ですね」
『貴様喧嘩を売っとるな?』

本当にこの二人はさっきまで冷静に相手を牽制していた二人と同一人物だろうか?
大人としてはどうだろうな感じに興奮して殴りあい一歩手前だ。
まあキールのほうは立体映像なので殴りあうわけにも行かないが

「喧嘩はメーーー!!!」

二人のにらみ合いをとめたのはサキだった。
ハクを背中にかばうような立ち位置でゲンドウとキールを睨んでいる。
しかし我慢しているのが丸分かりだ。
だってサキはそのクリッとした目いっぱいに涙を溜めている。

・・・なんで子供の涙ってこっちが悪くもないのに罪悪感を抱かせるのだろうか?

「喧嘩はメーなの!!」
『う・・・お、おい碇、どうにかしろ』
「如何にかと言われても・・・」
『菓子とかないのか?とりあえずそれでご機嫌をとるのだ』
「む、それはいいアイディアですな」

さっきまでいがみ合ってた二人が協力している。
しかも世界を裏から牛耳っている人間と国連の秘密組織のトップがだ。
その理由が子供のご機嫌取りというのがあれだが・・・要するに子供最強、泣いたが勝ちだ。

あたふたとご機嫌取用の菓子を取り出したゲンドウ(おそらくユイあたりの仕込だ。さすが一児の母)は精一杯の笑顔(それが一般人には毒なのだが気づいていない)を浮かべてサキとハクに話しかける。

「サ、サキちゃん?ハク君?これを食べて機嫌を直してくれ」
「う・・・喧嘩しない?」
「しないとも!ねえキール議長?」
『あ・・・うむ、喧嘩などしない。さあ菓子を食べるのだ』

自分たちの上司が子供一人に翻弄されているのを見たほかのゼーレのメンバーが唖然としている。
モノリスのくせにでっかい汗をかいているところなど芸が細かい。

「はい、ハク」
「うーー」

お菓子で何とか泣き止んでくれた子供達にいい年どころか十分すぎるほど年を食った大人たちがほっと一息つく。
完全にペースは子供たちが握っている。
ずっと子供たちのターンだ。

「せーの、「ありがとーございました」」

二人そろって頭を下げてお礼を言う姿はなにかお遊戯会のようだがほほえましいのは変わりない。

『・・・議長?今日の会議はこれにて終了ですな?』
『む?・・・そうだな、これでは仕方あるまい』
『ではちょっと子供達に会いたくなりましたので失礼』
『私も孫の顔が見たくなりましたので・・・』
『久しぶりですな、今会っておかないとあと何回会えるか分かりませんし』

実際この連中の年を考えれば棺桶に片足突っ込んでいる人間もいるのだ。
サードインパクトが起こらなければあといくつ寝るとあの世にこんにちわになるか分からない。
サキやハクのような子供達を見て郷愁の念とかに目覚めても不思議ではない老人達。

最後にキールのモノリスとゲンドウたちだけが残る。

『・・・今日の会議はこれで終了とする。忘れるなよ碇?お前がシナリオを書く必要はない』
「承知しています」

おそらく子供のサキとハクには意味が分からないと思っているのだろう。
意味が分かる年になる前にはサードインパクトが起こっているはずだからだ。

「ばいばいまっくろくろすけのおじちゃん?」
『まっくろくろすけ?何のことか分からんがさらばだ』

最後に残ったキールのモノリスも消えた。
やはり外国人のキールにジャパンアニメの知識はないようだ。
知っていたら怒り狂っただろうかとゲンドウはそっとほくそえむ。

子供最強、あるいはこの世界の未来は文字通りの意味で子供たちが救うかもしれない。

「サキ、ハク、ここにいるのか?」
「迎えに来たよー」

サキ達が入ってきた出入り口に2人分のシルエットが浮かんだ。
その正体に気が付いたサキとハクが走り出す。

「ぱーぱー」
「シンジにーたん」

自分に飛び掛ってきたサキとハクを受け止めたのはシンとシンジだ。
どうやらゲンドウが言っていた預けられる人間とはこの二人のことだったらしい。

「遅かったなシン、シンジ」
「ごめんね父さん」
「こっちは学生なんでな、それに会議中だとこの部屋の近くに来ることも禁止していただろう?SPへの説明に手間取ったぞ」
「む、それはすまなかった」

確かにそんな指示を出していたなと思い出したゲンドウがシンに謝る。
まあそんな場所にサキとハクをつれてきたというのもどうかと思うのだが

「さて、私たちは先に帰るぞ?」
「もう行くのか?もう少し待ってくれ、一緒に帰ろう」
「それは無理だろう」
「何故だ?」

シンの言っていることが理解できないゲンドウの頭に?マークが浮かぶがその疑問はすぐに氷解することになる。
ゲンドウの肩が叩かれたのだ。
両方同時に、背後を振り返ってみたらそこにいるのは満面の笑みのユイとサン

「ゲンドウさん?サキちゃんとハクくんに怖い思いをさせて泣かせましたね?」
「・・・は?いや、泣かせたのはキール議長であって私ではない」
「そんな言い訳通じませんよ?碇ゲンドウさん」

一言で言うとおっかなかった。
ユイはパキパキと指の骨を鳴らしているしサンのほうは手が真っ赤だ。
・・・マジで熱い。

しかもダブル、サンの両手が光って唸っている。
いや、火が出ているところを見ると輝くほうじゃなくて爆熱のほうらしい。
サンダルフォンは溶岩の中にいたのだから熱を操ることも出来るということだろうか?

「シン・・・」
「なんだ?」
「いたいのも熱いのもいやだな・・・」
「それを感じられるというのはある意味でよいことだ。死んだほうがましという状況もあるにはあるが・・・」

そういうとシンとシンジはサキとハクを連れて部屋を出る。
背後で閉まった扉の向こうから断末魔の叫びっぽいものが聞こえた気がするが気にしない、してはいけない。
たぶんユイのギャラクティカマグナムとサンのヒートエンドが炸裂したのだろう。

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ビルを背景に二体の巨人がにらみ合っていた。
片方は真紅のボディーカラーの弐号機、対するは黄色のボディーカラーの零号機(改修前バージョン)
弐号機はその手に槍を。零号機はパレットライフルを持っている。

『パレットライフル!!』( + P)

先に仕掛けたのは零号機だ。
手に持ったパレットライフルを撃つ。

『ロケットランチャー』( + P)

弐号機の方も兵装ビルからロケットランチャーを取り出して撃つ
お互いの放った弾は相手の攻撃に相殺される。
打ち消されるより早く弐号機が動いた。

目の前の爆発を飛び越えると零号機に空中から蹴りを放つ( + K)

ドスッと言う音を立てながら零号機はブロックするが反動で多少後ろに下がった。

『スマッシュホーク』( + P)

返す刀で斧を振るった零号機がこまのように回転して弐号機を弾き飛ばした。
弐号機がダウンして地面に転がる。

零号機がさらに追い討ちで蹴り( + K)を放つと弐号機が吹き飛んで立ち上がる。
しかし満身創痍なのは明らかだ。
あとが無い。

一旦下がって零号機から距離をとった弐号機は最後の賭けに出た。

『こんなとこで負けてらんないのよ!!』( + P + K)

兵装ビルからありったけの銃やミサイルを取り出した弐号機が乱射する。
まさに弾丸とミサイルの雨だ。

しかし弐号機の必死の攻撃にも零号機は動じない。
鬼のように乱射してくる弐号機の砲撃を紙一重でかわし続ける。
どうしても避けられない物はガードするがたいしたダメージにはならない。
やがて弐号機からの砲撃がやむ。

大技を出した後のこう着状態に陥った弐号機の動きが止まった。
それを見逃す零号機ではない。
一気に間合いを詰めると弐号機を掴み上げる。

『・・・さようなら』( + P)

台詞とともに零号機の背負い投げで弐号機が宙を舞った。
やたらと長い滞空時間で弐号機が落下を始める。
それで終わるほど零号機は甘くない。

『碇君が呼んでいる』( + 弱P)

落ちてきた弐号機を零号機がその手に持ったスマッシュホークを下から上に切り上げることで空中に戻す。
切った瞬間にズシュっというやたらと生々しい音を立てながら弐号機から血がとんだ。

『碇君が呼んでいる』( + 弱P)
『碇君が呼んでいる』( + 中P)
『碇君が呼んでいる』( + 強P)

連続して振るわれるスマッシュホークの惨殺ショーが始まった。
ちなみに今日は13日の金曜日、弐号機は空中に跳ね上げられては落下してくるを繰り返すだけで何も出来ない状態だ。

落ちて来るたびにバットならぬスマッシュホークでキャッチャーフライの練習のごとく真上に跳ね上げられる。

しかも弱・中・強と跳ね上げられる高さが上がっていくのでついには視界から消えてしまった。
完全にハメパターンになった弐号機は逃げられない。
あとはどこまででも高く遠くに行くまでだ。

やがて零号機も飽きたのか弐号機を開放した。
それによってやっと弐号機が空から落ちてきたがもうすでに虫の息だ。
何とか立ち上がろうとしたところに・・・

『少年よ光になれ・・・』(レバー右に二回転 + 左に二回転 + P + K)

弐号機が最後に見たものはどう見ても細身の零号機には不釣合いなほどに巨大な金槌を自分の頭に振り下ろしてくる零号機の黄色いボディーだった。
次の瞬間、金槌の鉄槌をまともに食らった弐号機の頭がつぶれたトマトのごとく粉砕された。

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「なんなのよあれは!!!!」

アスカが真っ赤になって手に持っていたコントローラーをテレビに叩きつける。
コーンという音を立てたプラスチックのコントローラーは跳ね返って床に落ちた。
画面には零号機WINの文字が光っている。
要するにアスカの負けって事だ。

その周りにはほかの皆が少々うんざり気味な表情を浮かべて二人の対戦を見守っていた。

皆がいるのはネルフの居住区にある元使徒メンバーが住んでいるブロックの談話室

「なんだって言っても零号機の大技でしょ?」
「零号機にあんなバカでっかい金槌の装備なんて無いわよ!!」
「そんなこと僕にいわれても知らないよ、大体説明書にあったじゃないか?」
「知らないわよ!!読んでないから!!」
「説明書読めよ、それにコントローラー投げないでよ、壊れるじゃないか」

アスカに文句を言ったのはおそらく中学生くらいの人物だ。
シンジのように中性的な顔立ちにショートカットにしたオレンジ色の髪をバンダナでまとめている、見た目にも活発そうな子、大きめのシャツにタンクトップの上着を着てスパッツを履いている活動重視な服装、今すぐに外に出てスポーツが出来るような服装だ。
その手に握っているのはもう一つのコントローラー、さっきまで画面の中の零号機を操っていた張本人

「生意気よロウ!!」
「僕に勝てないからってひがむなよ!」

ロウは言い返すとアスカのお株を奪うように仁王立ちをして胸を張った。
そのそらした胸の頂点で慎ましく・・・本当に慎ましく自己主張するふくらみが二つ・・・自分のことを僕といっているのに性別は女らしい。
いわゆる僕少女だ。

「大体何よこれは!?」
「何って最近発売された”新世紀エヴァンゲリオン格ゲー編純情派”」
「どういうことよ、機密漏洩じゃない!!ネルフは何やってんの!?」
「発売元はネルフだから」

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新世紀エヴァンゲリオン格ゲー編純情派

発売元 ネルフ

2015年 某月 某日発売

定価4649

対象年齢 お年寄りから幼児まで

新世代型格闘アクションゲーム

神話になるためにエヴァを操って人類のため使徒と戦うか残酷な天使として使徒となってサードインパクトを起こして一発昇天か・・・すべては君しだいだ。
青い風が今きみのドアを叩く、立ち上がれ勇者よ!!

ユーザーのお声

ライバルは孫です。この前ハメ技でパーフェクト勝利しました。泣いている孫を見ながらした勝利宣言は感無量でした(89歳 男性)
ジジイ殺す。抹殺、滅殺・・・じじいよ!私は帰ってくるぞ!!首洗って待っていろ!!!(9歳 孫)

注、あまり熱中しすぎて人格形成や人間関係に障害って言うかぶっちゃけ修復不可能になろうが破綻しようが当方知ったこっちゃありません。

《ここに書いてあることはすべて嘘八百なので信じるものはバカを見ます》

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「何よこの挑戦的な注意書きは!!」

アスカの言うことはもっともだ。
ほかの皆も同じ意見らしくうんうん頷いている。
どうやらネルフはゲーム業界にまで進出したらしい。

「大体本物のママ(弐号機)と私のタッグはもっと強いわ!!」
「負けたからってそんなこと言って」
「ぐ!大体あんた元イロウルじゃない!!MAGIと電子戦が出来るほうが規格外すぎんのよ!!」
「そんなの関係ないよ、確かに僕は前の世界ではそんなことをしたかもしれないけれど」

ゲンドウがゼーレのジジイたちに言ったようにネルフ本部にイロウルは侵入しなかった。
シンが面倒くさがって「どうせエヴァを使わないMAGIとの電子線になるんだから活動開始する前にとっととやってしまおう」と言ったために前回イロウルが寄生していたタンパク層の外壁が搬入されたときにこっそりイロウルの魂を回収していた。
だからゲンドウの言うとおりイロウルの本部侵入はなかったのでMAGIを改竄する以前の問題だったのだ。

実際老人達もイロウルが侵入したことを知ってゲンドウを呼び出したわけではない。
老人達がゲンドウを問い詰めたのは裏死海文書のタイムスケジュール的にそろそろだろうとちょっかいとプレッシャーをかけてきたのだ。

「それに今の僕は両手で動かしているんだから皆と変わらないじゃない」

そういってロウは持っているコントローラーを振る。
人間の体となったイロウルは両の手でコントローラーを使ってキャラを操っているのだ。
条件は一緒なのでいいわけにはならない。

「「「「「う!」」」」」

アスカだけでなく対戦を見ていた皆がうめいた。
ちなみに呻いたのはロウに負けたメンバー一同。

ぐうの音も出ないギャラリーを見回したロウがにやりと笑って胸を張った。
やはり慎ましい・・・せめてアスカくらいのレベルならさまになるかもしれない。
サンくらいのボリュームがあればそれだけで人が殺せるかもしれないポーズだがロウの厚みでは・・・逆に哀れになってくる。
本人はそれにまったく気づかずに得意そうだ。

「さあさあ他にかかってくる奴はいないの?僕は誰の挑戦でも受けるよ?」

ロウは得意満面だ。
現在23連勝中となれば仕方がない。
悔しいがロウのゲームの腕はかなりのものだ。

全員が悔しがりながらロウを見る中で一人だけ幽霊のようにゆらりと立ち上がった人間がいる。

「なんでもええんか?」

マトだ。
ちなみにマトはブッチギリの五連敗すべてパーフェクトという記録もちだ。

「マトの兄貴?」
「なんでもええんやな?」
「もちろん!!」

ロウは自信満々で返した。
五連勝した相手に負けるわけがないとロウは思っている。

後にこの勝負を受けたことを後悔することになるとは知らずに・・・

十分後・・・

パチン・・・パチン・・・

部屋の中に小さな音が響く。
音の発生源は一つのテーブルの上、正方形のテーブルを四人が囲んでいた。
その一人はロウだ。
何故かうっすらと汗をかいて緊張している。

「この状況から計算して・・・よし!勝負!!通れ!!!」

緊張しながらもロウはそれを切った。

「それ・・・ロン、四暗刻・・・3万2千点・・・」
「ぬきゃあ!!」

いったいお前はどこの珍獣だと突込みが来そうな悲鳴を上げてロウがひっくり返った。
テーブルの上にはお約束のとおり麻雀パイがある。
そして開かれた牌の並びは間違いなく四暗刻役満、牌の持ち主はレイ。

「くくく、見たかロウ?綾波の姉さんの博才は半端ないで~」
「ひ、卑怯だよ!!自分が勝てないからってほかに勝てる人間がいる状況に持ち込むなんて!!」
「何言うとるんや?麻雀ちゅうのは4人でやるもんやぞ?大体お前が何でもええ言うたやんか?見苦しいで~」
「く!!こんな論理的じゃないゲームなんて・・・」

別に麻雀が頭を使わないとは言わないが運が勝敗を左右する部分があるのも事実、これなら流れ次第では下克上も可能
そしてレイだがこういう賭け事にはめっぽう強い。
麻雀だけでなくポーカーやチェス、将棋など相手との駆け引きの絡むゲームや運がかかわってくるゲームでめっぽう強い。

「綾波の姉さん、普段はあの無表情やからな~何考えとるのか分からんからテンパっていようがリーチかかっていようがまったく分からんのや!!さすがミス鉄面皮!!」
「・・・マト、うるさい」
「はい・・・すんませんでした。調子乗ってましたー」

レイの一睨みでマトが黙った。
さすが記憶を失っていようが母は強しである。

ちなみに参加メンバーは起家、ガル・南家、ロウ・西家、綾波レイ・北家、マトの順番だ。
そのほかの面子は・・・

「”女王様とお呼び!!”(P連打)」
「甘いですね姉さん!!”ダブルインパクト”( + P)!!」
「うきゃ!!」
「この技は出始めが無敵状態になるのですよ!!」

テレビの中では鞭を振り回すシャムシエルの攻撃を分裂して無敵状態になったイスラフェルがすり抜けてツープラトンブレンバスターをかけていた。

なかなか伯仲している。
麻雀の観戦などルールを知らない人間や興味のない人間には退屈でしかない。

「じいっしょく?」
「字一色(ツーイーソウ)」
「・・・くにしむふた?」
「国士無双(コクシムソウ)」

そして当然ではあるが漢字の国発祥のゲームだけあって漢字に弱いと不利だ。
出来ないというわけじゃなくて気分的なもので・・・さっきから妙なことを口走っているのはアスカ、それを捕捉しているのがライ、二人そろって覗き込んでいる本のタイトルは麻雀入門

「きゅうはすたからとう?」
「おしい、九蓮宝燈(チューレンポウトウ)」
「なんなのよこれは!!そんな読み方習ってないわよ!?」
「中国語読みだから、ちなみにこの九蓮宝燈(チューレンポウトウ)で上がると死ぬって言う噂のある役満、試してみるか?」
「試すかそんな物騒なもん!!」

アスカは今日も元気いっぱいだ。

「ラーメン一丁上がったぞ~」

台所からインスタントラーメンを持ったハジメが出てきた。
どうやら雀荘の親父役らしい・・・ほんのりカオス入ってねえ?

そんな周囲とは関係なく麻雀は続く。

(落ち着いてロウ、点数は少ないけれどまだ負けたわけじゃない・・・)

ロウの持ち点、残り5300点・・・がけっぷちに近い。
役満一発で吹っ飛ぶ点数だ。

だがロウは逃げない。
ことゲームと名が付くのであれば世界が違うとはいえMAGIとの電子戦においてネルフをあと一歩というところまで追い詰めたイロウルだ。
それなりに自負もある。
世界最高の頭脳を持つ第七世代コンピューターに勝った自分がこと駆け引きにおいて負けたまま終わることは出来ない。

・・・第三者から見ればギャンブルのどつぼにはまっていっているというのが丸分かりなのだが・・・

「さあ!もう半荘!!」
「・・・ツモ」
「「「・・・え?」」」

思わずロウ、ガル、マトが目を丸く見開いて間抜けな声を出した。
今の声はレイだ。

「・・・天和」

開いたレイの牌を見た三人がゲッとうめく・・・少々はしたないが仕方がない。
レイの手元の牌は上がっていた。

天和、役満、16000点

「なんだよそれ!!納得できないよ!!」

ロウが納得出来ようが出来まいが天和は天和である。
だから16000点、ぶっ飛び、ハコテンいろいろ言い方はあるが要するにロウの負けだ。

「こんなんじゃ納得できない!貸しで続けていい?」
「ん~じゃあ今着ているもの一枚1万点で」

ピシ!!

部屋の空気が凍った。
それはつまり脱衣麻雀突入ってことだからだ。

「ちょっと待ちなさいレイ!!あんた何言っているのか分かってるの!?」
「?・・・アスカどうしたの?顔を真っ赤にしてお猿さんみたい」
「やかましい!!それよりなんで脱衣麻雀なんて知ってるの!?」
「マトに習った」

全員の視線が集まるそこには親指を立てて感無量の涙を流すマト・・・女性陣からの射殺すような視線もへっちゃららしい。
いったいどの時点から仕込んでいたんだこいつ?

「別に無理せんでいいんやでロウ、女の子に脱衣はまずいやろ?」
「え?」

何故ここでマトがこんなことを言うのか誰も理解できなかった。
あきらかにけしかけた側の人間のはずなのだがこんなことを言う意図は・・・

「だから負けたって認めて白旗上げたらええんや、「ロウ負けちゃった~♥」ってな、この最後の「♥」は難しいで~」

思わずロウ以外が上手いと思った。
ロウをたしなめるように見せかけて煽ってやがる。
お笑いはバカには難しい、頭のいいやつにしか出来ないのだ。
有名お笑い芸人の中には大学卒業者いる。

・・・別に関西人だからお笑い属性というわけではない。

「ええかー?「♥」!!こんな感じや、リピートアフターミー「♥」!!」
「なんだよそれ!!どんな発音しろって言うんだよ!!不可能なことを可能なことみたいにいうな!!あとその「やれやれこんな簡単なことも出来ないのか~」みたいな顔やめ!!」
「ロウ、バリバリまずいこと口走ったらあかんで、天の声(作者)が困るやん」
「マトにいが何言っているのか分からないよ!!しかも自分もほんのり危険発言してない!?」
「そんなことはええんや、それでどうする?」

挑発しているのはロウにだって分かる。
しかしここで逃げたら男が廃るだろう・・・ロウは女の子なのだが・・・

「やってやるよ!!」

そういってロウは額のバンダナをはずした。
一万点、それを見たマトの瞳がキュピーンと光る。

(いったい何考えているっすかマト?)

前回のサハクィエル戦で異様に強くなった絆パワーを使ってガルがマトにアイコンタクトを送る。

(ガルの兄貴はわからんのかいな?)
(ぜんぜん)

分からないほうがいろいろ正しいような気がする。

(ちっ、これやからおこちゃまは)
(兄に対する敬愛の念って言葉知っているッスか?あとその野獣のような目でこっち見るのやめてほしいッス、自分は同類じゃないッスよ?)
(んなことはどうでもええんや、重要なんは脱衣麻雀にロウを引き込んだことが重要なんや!!)
(理解できる言葉で話せッス)

目と目で通じ合っているのに文字通り話にならないとはこれいかに?
問題は間違いなくマトのほうにあるようだが・・・

(ええか?ロウの服が一枚一万点っていうことはや)
(言うことは?)
(ワイらが上がったらロウの今着ているもんはワイらのもんや!!)
(むう!!)

思わずガルがうめいた。
もちろん声に出してはいない。
アイコンタクトでうめくことが出来るとはガルもなかなか芸達者だ。

(高く売れるで~)
(売るつもりッスか!!)
(売らんなら何に使うつもりや?)
(いや・・・それは・・・)

何に使うのかと聞かれてこれほど困るものもあるまい。
女の子が身に着けていた服など・・・もちろんその中には下着も含まれるわけで・・・マトはすべて分かっているという感じに頷いた。
なんというか非常に堕落した気分だ。

具体的にはもうミジンコ以下にランクダウンしたような・・・しかしそれはそれ、これはこれでゲームは続く。
ガルだって男の子だ。
本能には勝てません。

そうしてロウの知らないところで回り全部が敵になった1対3の麻雀は続く。
ガルとロウは一見協力していないように見せかけてこっそりロウの上がりを妨害しつつ虎視眈々とチャンスを狙っていたのだが・・・

「ロン、トイトイ、ドラ5、1万8千点・・・」
「「「うわ!!」」」

絶好調のレイにそうも言っていられなくなってきた。
レイはマトやガルのように下心がないだけに隙さえあれば誰の手だろうと上がっていく。

「ロン、リーチ一発、三暗刻、ダブドラ1、ハネ満・・・」
「「「あ・べ・しー!!!」」」

もはや誰もレイをとめることが出来ない。
無表情キャラが賭け事に強いのは世界の法則だろうか?
気がつけば戦いは、オーラスに突入している。

今現在のトップはもちろんレイ、その下にロウが続いてマトとガルがいる。
マトとガルはパンツだけの姿でそれぞれ残り一枚、ロウはシャツに下着姿で残り二枚(ブラはつけていない、つけるほどの起伏がない)、ここに身内以外の人間がいれば問題ありまくりの状況だ。
ちなみに見た目で分かるとおり三人ともハコテン、そうじゃなければ服を着ているだろう。
完全装備なのはレイだけだ。

(マト!どうするッスか!?いつの間にかあとがないッスよ!?)
(むうーここまでとは)

最初はマトとガルがロウを目の敵のごとく攻め立てて理想郷突入のはずだったのだが・・・人生そんなに甘くない。
迂闊だったのはレイの博才を過小評価していたことだ。
マトとガルの思いをまったく知らないレイはマイペースで役満を連発した。
相手が誰だろうと振り込み、気がつけばマトとガルは仲良く最下位でロウに逆転されている。
おかげでマトもガルもパン一・・・あとは裸だ。
すでに靴下まで脱いでいる。

なんとか最後の一枚は死守しているようだが気を抜くと自主規制の世界にまっさかさま、ほかのギャラリーは固唾を呑んで見守っている。
ルールを知らなかろうが麻雀に興味なかろうが脱衣の要素が入れば話は別だ。
それだけで異様に盛り上がる。

(ま、まだや!!ロウの残りはあと二枚、ワイらより先にロウに振り込めばワイらの勝ちや!!)
(も、燃えてるっすね!?)

ちなみに自分たちはあと一万点で最後の防壁が突破されてヘブンズドア(パンツ)が開放されるということが分かっているのだろうか?
そのときは間違いなくこの場にいる全員が地獄に落ちるだろう・・・いやなものを見て・・・それでもあえて勝負に行くあたりこの二人もきっちりギャンブルの暗黒面にとらわれている。
なぜかコーホーコーホーとどこぞの暗黒卿のような呼吸をしているし

「ねえロウ?このあたりでやめといたら?」
「シエル姉さんの言うとおりですよ」
((シエル姉さんもラフェル姉さんもそんなこと言っちゃイヤ~ンな感じ!!))
「何言っているのさ!!まだまだだよ!!」
((よっしゃキター!!!!!))

ロウはもはやギャンブルのドツボに嵌ったらしい。
こうなるとなかなか抜け出せない。
後は行き着くところまで行くしかないのだ。

(必ず勝つ!!そんでもってわいは神話になるんや!!)
(少年でもないくせに?)
(心はいつだってピュアボーイや!!燃えるでー!!)

ギャンブルに燃えて目をぎらぎらさせている人間をピュアボーイとは片腹痛い。
しかし賭け事の神様が気まぐれなのはいつものことだ。

「キター!!リーチ一発ホンイツ、三暗刻、トイトイ、ドラ3、三倍満ッス!!」
「「「「「おお!!!」」」」」
「きゅあああ!!!」

ここに来てガルが上がった。
もちろん振り込んだのはロウ、さすがのロウも悲鳴を上げる。
しかも点数的に2万点を超えているので今着ている物はガルのものだ。

「ガル兄貴、男になったんやな!!もうワイから教えることは何もない」
「師匠!!!」

お前達はどこの東方不敗的な格闘マニアの師弟だ?という周囲の視線を無視して二人は抱き合う。
パンツ一つの男同士が抱き合うのは暑苦しいことこの上ない光景だ。

しかしさらに状況は加速する。

「それ・・・私も・・・」
「「「「「え?」」」」」
「四暗刻、四積子、ダブル役満、9万6千点・・・」

どうやらガルと一緒にレイも上がっていたようだ。
しかもダブル役満

「マ、マト!?マイナス9万点って着ているものもう無いのにマイナス9枚ってどうなるッスか!?」
「落ち着けガルの兄貴!!こうなったらもう18禁の世界にダイブするしかあらへん!!」
「そ、それは禁断のエロエロ展開ッスか!?」

もはやアイコンタクトどころではないらしい。
きっちり口に出しているのを聞いた女性陣の絶対零度の視線が二人に突き刺さるが二人の熱いソウルはそんなことで鎮火はしない。
ますますヒートアップしている。

刻むぞ血液のビート!!弾けるほどにヒート!!な感じである。
それを見たロウは何を想像したのか耳まで真っ赤になっていた。

「おう、もちろんエロエロや!!こんにちわ新しい展開や!!R指定や!!開け18禁の扉ぁーーー!!」
「なかなか面白い事しているなお前ら?」
「「「「「「へ?」」」」」」

全員が振り向いたそこにいるのはシン、いつの間にいたのか誰も気づかなかったが軽くあきれているように見えるのは気のせいじゃあるまい。
ちなみにシンジとサキとハクは談話室の表に待たせている。
親として子供の教育上良くないものを規制するのは当然だ。

「麻雀までならまだ許そう、しかし脱衣はいただけんな?言い訳はあとで聞こう、全員逃げるなよ?・・・それで?この状況の元凶は誰だ?」

全員がいっせいにマトを指差した。
その中にガルも込みで・・・

「せ、殺生な!!ガルの兄貴だって同罪やんか!!ロウだって乗ってきたし!!」
「自分は無理やり引き込まれたッス、ロウがかわいそうッス」
「マト兄がーマト兄がー」
「な!!二人ともなんやその即席ですけど息ばっちりなコンビネーションは!!仁義っちゅうもんはないんか!?薄情な肉親に絶望した!!!」
「安心しろ、我はそんなことで差別したりしない。あとで全員平等にお仕置きだ」
「「「マジで!!?」」」
「ギャラリーも同罪だからな、一人たりとも逃がさん」
「「「「「なんでやねん!!?」」」」」

ぎゃあぎゃあ騒ぐ周囲をとりあえず無視したシンは目の前に点棒山積みなレイを見た。
彼女だけがいつもと変わらない。
どこまでマイペースなんだ?

「・・・綾波レイ?」
「何?」
「・・・楽しかったか?」
「ええ・・・とっても・・・」

そう言ってレイは微笑んだ。
前回ラミエル戦で見せたあの笑みだ。
思わず全員がうっとなって黙る。

シンは笑みを浮かべたレイをしばらくじっと見て・・・

「・・・良かったな」
「ええ」
「「「「「「「「贔屓だ!!」」」」」」」
「当然だろう?かわいくない子供よりは・・・なあ?」
「「「「「「どういう意味で!?」」」」」」
「あたしはどうなのよ!?」
「惣流・アスカ・ラングレー・・・自分を可愛いと言い始めたら末期だぞ、いろいろな意味で・・・それにお前はそういうキャラじゃないだろう?はっきり言って痛い」
「上等!!」

その後何が起こり、結果がどうなったかあえて言うまでもないだろう。
数分後には死屍累々の談話室にシンだけが立っていた。
レイはずっと座っていたので立ってすらいない。

一応女の子達には手加減したのだが男相手には手加減無用でぼこぼこだった。
まあ要するにいつもの事と言うことで・・・後日、シンは語る。
「あれもまた嵐の前の静けさだったか・・・」と・・・夢の時間の終わりは近い。










To be continued...

(2008.05.24 初版)
(2008.05.31 改訂一版)


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