急展開とは読んで字のごとく急に展開が変わることである。

どんな風に変わるかは知ったことじゃない。






Once Again Re-start

第十九話 〔新展開〕

presented by 睦月様







『第13の使徒殲滅、ご苦労だった。』

暗い部屋に浮かび上がるモノリス達、ナンバー01のキールのモノリスが賛辞の声をかけたが、微妙にその声が震えている。
それはキールだけじゃなく・・・たぶん全員だろう。

『しかも3号機はほぼ無傷でとはどんな魔法を使ったのかね?』
『しかり、しかもS2機関付とは!!』
『われわれも君のように優秀な人材を持てて幸運だ!!』

もはや半ば以上やけくそである。
普段はいびってばっかりの癖に・・・しかしそれを聞いている人間は・・・

「・・・・・・」
『あー・・・碇?』

モノリス達の囲む机の上にはミイラ男が一体・・・全身包帯でぐるぐる巻きで唯一それがゲンドウだと判断できるのはトレードマークのサングラスをかけているからだ。
おそらくいつものゲンドウポーズをとろうとして力尽きたのだろう。
両手を投げ出したままピクリとも動かない。

『碇?おーい碇?・・・・・・』

何度もキールが声をかけるがゲンドウから返事はない・・・ただの屍のようだ。

『き、今日は碇も疲れているようだしこのくらいにしといてやるか!!』
『左様!!あまり根を詰めてもいいことはありませんぞ絶対!!』
『まったく持ってそのとおり!!』

・・・どうして人間は恐怖を感じると声が大きくなるのだろうか?

『ではこれにて閉会とする!!』
『『『『すべてはゼーレのために!!!!』』』』


『い、碇?養生しろよ・・・』

キールのモノリスが消えると、後に残されたのは物言わぬゲンドウのみ・・・やたらとホラーっぽい光景だ。

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「生きていたのか?」
「冬月・・・お前がそれを言うのか?」

フッとにやり笑いをするのはミイラ男ゲンドウだ。
それを見ている冬月が深いため息をついた。
その目がなんでこいつ生きているんだと語っている。

「さっきまで生きているのか死んでいるのか分からん有様だったくせに・・・」
「死んだフリをしていれば老人達の話も早く終わるからな」

ちなみに熊が出たときに死んだフリをするというのは大きな間違いだ。
もし熊が腹をすかせていた場合そのままおいしくいただかれてフリじゃなくマジに死体になってしまうかもしれない。
人間だって生きたまま肉を食ったりしないのと同じように熊だって死んだ肉を食う・・・というのは本当に関係ないし、どうでもいい豆知識だ。

「シンジ君は大丈夫かな?」
「とりあえず体には異常はないとのことだったが・・・」

二人がいるのはネルフの病院の廊下、ゲンドウは電動の車椅子に乗っている。
やはりダメージは深刻なようだ。
ギャグ体質の癖にダメージをリカバリーしきれていない。

やがて二人は一つの病室の前にたどり着く。
自動で開いた扉の中に二人は並んで入っていった。

「生きていたのか?」
「冬月と同じ事を言うのだな、きっちり止めを刺しに来たくせに・・・」

病室でゲンドウを迎えたのはシンだ。
ベッドの横のパイプイスに座っている。
あの後、シンは宣言どおり発令所に来て一番きつい一撃をゲンドウに叩き込んだ。
多少ゲンドウがシンを見る目がジト目になっても仕方あるまい。

「・・・どうだ?」
「相変わらずだ。」

シンがそういうと三人の視線がベッドの上に集まる。
そこに寝ているのはシンジだ。
なにやらうなされているかのように眉根をしかめている。

初号機から回収されたシンジは当然のごとく意識がなかった。
なので病院に直行したのだが、ずっとこの状態で眠り姫に逆戻りしている。

ちなみにシンの止めを食らったゲンドウもこの病院に入院していたのだが、こっちのほうは半日で退院している。
侮れない生命力だ。

「まあ一度は目覚めたのだ。心配するようなことにはなるまい。」
「そうか・・・」

ゲンドウはほっとしてシンジを見る。
その視線は間違いなく父親のものだ。

「ところで・・・」
「何だ、冬月コウゾウ?」
「彼らは何をしているのだ?」

冬月の視線をたどると病室の壁にいる三人がいた。

レイ・アスカ・カヲルだ。
彼らもイスに座ってじっとしている。
・・・空気イスというイスに・・・

「お仕置きだ。」

シンの答えも簡潔だった。

空気イスをなめてはいけない。
アレは地味にきついものだ。
普通の人間なら10分も続ければ足腰立たなくなって生まれたばかりの仔鹿のようにプルプル痙攣するだろう。

ちなみに三人のお仕置きはすでに30分を超えている。
三人とも相当きついらしく目が血走っていた。
どうやらシンは今回相当にご立腹のようだ。
シンジに問いただしたいことが山のようにあったのに、それを邪魔されてシンジが再び夢の中に舞い戻ってしまったのが腹に据えかねたらしい。

「?・・・なんでカヲル君は頭にでっかいたんこぶを作っているのかね?」
「空中浮遊の応用で誤魔化そうとしたので鉄拳を落としただけだ。」

バッと顔をそらすカヲルをこれまたバッと言う感じに睨んだレイとアスカを見ると三人の心のヤサグレ具合がよくわかる。

さすがに今回はまずかったと三人も反省しているのだろう。
いつもならとっくに暴発しているはずのアスカが文句も言わない。
ただじっとベッドのシンジを見ているだけだ・・・三人そろって・・・

「む・・・う・・・」

シンジが身じろぎした。
悪い夢でも見ているのか魘されている。

・・・と言うか、自分をじっと見つめる三人の視線に本能的な危険を感じて起きないようにしているように見えるのは気のせいだろうか?
だとしたらこの三人がここにいる限りシンジが目覚めることはないだろう・・・あながち的外れに思えないところがいろいろな意味で怖い。

そんな少年少女達をとりあえず無視して、ゲンドウがシンに向き直る

「なあシン?・・・いや、もうアダムと呼ぶべきか?」

碇シンという人間はゲンドウがとっさに作り出したこの世に存在しない人間の名前だ。
目の前にいるシンジと同じ姿をした存在はアダム・・・最初の人にしてすべての使徒の始祖。

シンジに正体がばれた以上、碇シンの名前を名乗る必要はない。

「・・・いや、シンのままでかまわんぞ、アダムの名前はいろいろと目立つし、ハジメともかぶるからな」
「そうか・・・シンジの言ったこと・・・どう思う?」
「碇シンジの願い、というやつか?」

シンジはやらなければならないことがあると言っていた。
しかもそれはあの赤い世界の碇シンジの願いだと・・・そういわれて思いつくのは・・・

「シンジの願いはやり直しじゃなかったのか?」
「我が知る限りそのはずだ。」

シンはシンジのその願いを聞き届けて時間を逆行した。
この世界はシンジの望んだ世界のはずだ。
それなのにシンジはあの赤い世界のシンジの願いを叶えるという。

・・・一体それはどんな願いだろうか?

・・・この世界に何か不満があるというのだろうか?

「すべてはシンジが目覚めてから聞くしかないか・・・そういえば例の件はどうなった?」
「例の?ああ、あの件なら加持君から連絡が来ている。順調らしい。」
「そうか・・・」
「あ、あの〜」

シンとゲンドウの会話に遠慮がちな声が入ってきた。
声の主はアスカだがレイとカヲルも二人を見ている・・・もちろん空気イスは継続中
ちなみにさすがのアスカも自分達の組織のトップ&未来の舅候補とナンバー2である冬月がいるので若干丁寧語だ。

「何の話なんですか?加持先輩に頼んだことって?」

アスカの質問に三人は顔を見合わせる。
三人の態度は言うべきかどうか迷っている風だ。
あからさまになにか隠し事があると態度で示していた。

もともと気の短いアスカは直情的で基本的に秘密というのが嫌いだ。
しかもそれが自分にかかわってくることならなおのこと許せないという性格をしている。

「アスカ君?」
「え?あ、はい」

暴発しかけたアスカを止めたのはゲンドウだった。

「君が何も知らされず不愉快になる気持ちはよくわかる。」
「は、はあ・・・」

ゲンドウのなだめるような言葉にアスカは完全に毒気が抜かれてしまった。
やはり年長者の言葉は説得力がある。

シンにしたって中身はかなりの年長者なのだがいかんせんやはり見た目が子供なのでそのあたりの無言の説得力が足りない。

「加持君には少し動いてもらっているが事は政治的な問題もかかわってくるのだよ。パイロットである君達にこれ以上負担をかけるわけにはいかないからね」

冬月もゲンドウに援護射撃をする。
さすがにトップ二人になだめられてはアスカも矛を収めざるを得ない。
最後にシンが駄目押しする。

「まあそういうわけだ。人は戦いのみに生きるにあらず。この戦いが終わった後のためにいろいろ根回しをしておく必要があるのだ。」
「うーん」

シンの言葉にしぶしぶという感じでアスカは納得した。
レイとカヲルも頷く。
本心は問いただしたいのだろうが相手が悪い。

・・・もし彼らにもう少し人生経験があれば気づけただろうか?

大人というものは子供達に嫌なものを見せたり聞かせたりすることを嫌い、なるだけ子供達をそこから遠ざけたがるということを・・・それはゲンドウや冬月、そしてすべての父であるアダム、シンも例外ではない。

ビー・ビー・ビー

警報の電子音が病室に響いた。
同時に全員の携帯が鳴る。
取り出してみると液晶に映った文字は『使徒出現』

「そういえば今日だったか」
「ああ、ゼルエルだ。」

前の世界で最強を誇った、難攻不落の鉄壁のように強靭で、あらゆる物を破壊する光線に、何者をも切断する腕を持った『力』を司る使徒・・・ゼルエルが現れたのだ。

「シンジのことも心配だが今は目の前のゼルエルが先だ。」

シンの言葉に全員が頷く。
ゼルエルは油断ならない敵だ。
もし負けることがあればそれこそシンジどころではない。
何もかもが終わってしまうことをこの場にいる全員が分かっていた。

もはや言葉は要らない。
全員そろって病室の出口に向かうが・・・

「・・・お前たち何をしている?」

レイ・アスカ・カヲルの三人が体を起こそうとして・・・転んだ。
しかも前のめりに

「あんたのせいでしょうが!!」
「ふ、太ももが痙攣している。肉離れになりそうってことさ」
「ぅ、動けない・・・」

空気イスを30分も続ければそんなもんである。

三人はゾンビのような有様で必死に歩くが亀のように遅い。
擬音をつけるならぺったらぺったらという感じで、必死にシンについて部屋を出て行った。
妖怪ぺったらという奴がいればこんな感じだろう。

彼らの頭の中には足の激痛とゼルエルとの闘いに思考が向かっている・・・だからだろうか?
病室を出て行く一同の背中を見送った瞳に誰も気がつかなかったのは・・・その人物は全員が出て行くとベッドの上で身を起こした。

それから30分後。

「れっでいーす・えんど・じぇんとるめん!!」

狂乱の宴の幕が上がった。

「「「「「「おお!!!!」」」」」

発令所中から歓声が上がる。
その中心にいるのはカスパーの上に組んだ特設ステージの上でマイクを握っているシエル・・・世界最高峰のコンピューターの上で何やってんだこいつ?

「さあ!いよいよやってきまして世紀の一戦!題して《アスカちゃんVSゼルエル!リターンマッチ一本勝負 IN 第三新東京市のそば!!》タイトルマジ長!!ドンドンパフパフ!!」

「「「「「おおおお!!!!!」」」」」

会場・・・もとい、発令所の熱気は最高潮だ。
天井知らずに跳ね上がっていくボルテージに失神者が出るんじゃね?

「司会は私、ご存知シエル〜」
「「「「「おお!!」」」」」
「そして解説は〜」

バッと言う感じにシエルが指差したのはオペレーター席に座っている三人
そのうちの二人が立ち上がってポーズをとる。

「だんでぃーーーマト!!」
「せくすぃーーーガル!!」


ビシッと決めポーズを取る二人はどこぞのあぶない二人組刑事のごとくサングラス着用・・・あきらかに、アブナイ使徒(人)だ、

「「「「「う、おおおお!!!!」」」」」

なんかもう・・・何をしてもうけるような状態になっている。
発令所はすでにサバト状態だ。
そのうち地獄の魔王でも出てくるかもしれない。

「あ、作戦部長の葛城ミサトです。」

三人目、割とお祭り好きでもさすがに付いていけないのだろう。
ミサトが若干引き気味に自己紹介をした。

「では続きまして〜」
「あ、あのー」

ミサトがおずおずという感じに手を上げている。

「なんですか葛城さん?」
「その・・・今・・・戦闘待機中よね?」

自分は使徒出現の連絡を受けてここに来たはずだ。
なのにこの状況はなんだろ?
誰か説明してほしい。

「そうですよ。ゼルエル来てるし」
「それなのになんで?」
「アスカちゃんが一騎討ちさせろって・・・」

アスカ曰く、あいつ(ゼルエル)は自分の獲物らしい。
一対一でやらせろと言い出したのだ。

「それならいっそのことって感じで現在進行形です。」
「そんな!作戦とかいろいろあるのよ!?司令達はなんで止めないの!?」
「あちらのほうをごらんくださ〜い。」

バスの添乗員のような口調でシエルが指差したのは発令所の隅、ライトでその一角だけ明るく照らされていた。

「いーち、にーい、あうー子供を三人作る?」
「な、なに?サキちゃんの子供!?そんなのは早すぎる!!」
「ゲンドウさん・・・これはゲームなんですから・・・静かにしなさい。」
「おぐ!!」

人生ゲームのボードを囲んでいるゲンドウたちがいた。
どうやらゲンドウはサキが子供を作るマスに止まったことでかってに沸騰しているらしい。

それをユイが後頭部を拳をぐーにしてぶん殴って黙らせている。

「さあハク君の番だぞ〜」
「ありがとう冬月先生」

ハクをそのひざに乗せてご満悦の冬月・・・お前もか・・・

「ぼ、僕はこれ以上負けられないんだよ!!」
「ロウさん、そう言いながらさっきから借金ばかりですね」
「デスデス」
「う、うるさいなリエもルディも、ここから逆転するんだから!!」

どうやらロウが負けているらしい。
金がかかると賭け事に弱くなるタイプなのだろうか?

「はいはい、皆喧嘩せずに遊びましょうね」
「「「「「はーい」」」」」

最後にサンが聖母のような笑みで締めくくる。
ジージーズ & マーマーズはマジで役に立ちそうにない。
その顔を見れば全員がすばらしくいい笑みを浮かべている。

「・・・・・・」
「では〜そろそろ現場の渚カヲルくーん?」

ゲンドウたちの姿に真っ白になったミサトを無視してシエルがマイクで呼びかける。

『呼んだかい?』

正面モニターに映ったのはカヲルのどアップだ。
カヲルの隠れファンから黄色い声が上がる。

「そっちの状況はどうですか?」
『フム、まだゼルエルは来ていないようだよ。まあ彼はのんびりやだから、焦らすのが好きってことさ』
「アスカちゃんの様子は?」

モニターが切り替わってアスカと弐号機が映った。

『く、くくく・・・』

なにやらぞっとする声で笑っている。
どうやら暴走しているようだ。

・・・エヴァより先にパイロットが暴走してどうするのだろうか?

「えーアスカちゃんがチョッチこわいです。現場の解説のシンさーん、レイちゃーん?」
『・・・なんだ?』
『何?』

モニターにシンとレイが映った。
レイはいつものように無表情だがシンは明らかに疲れているようだ。

今回はシンも一緒に出撃しているが、乗っているのは初号機ではない。
前回回収できた3号機だ。

「このカードをどう見ます?」
『好きにしろ、怪我しない程度に同士討ちになればいいな』
『・・・興味ないから・・・』

にべもない。

「あ、さて〜そろそろゼルエル選手の到着のようですー!!」
「「「「「おおおおお!!!!」」」」」

モニターにゼルエルの姿が映った瞬間、発令所のテンションがさらに上がった。
同時にモニターの中でシン達のエヴァが動いた。

ゼルエルと弐号機を中心に四方に散った。
最後の一辺の位置には装甲車が停まっている。

位置を決めたとたん4箇所からA・T・フィールドが展開され、面を作った。
それは正方形を形作って外界と弐号機・ゼルエルの両者を隔離する即席のリングだ。

ゼルエルも、いきなりのことにあわてているのか、おろおろしていた。

ちなみに装甲車には当然ハジメとライが乗っている。
二人合わせてリングの残り一辺の壁となっている・・・ちなみに彼らの出番はこれだけだ。
台詞さえない。

「あっかこーなーー!!惣流・アスカ・ラングレーーー!!」
「「「「「うおおおお!!!」」」」」
「あっおこーなー!!ゼルエルーーー!!」
「「「「「UOOOOOO!!!」」」」」


まるでプロレスかボクシングである。
・・・職員達がなにか賭け札のような物を持っているように見えるのは気のせいだろうか?

「では国歌斉唱!!」

もはや世界タイトルマッチのノリだ
シエルの言葉に合わせるようにラフェルが現れた・・・しかも二人・・・どうやら分身していたらしい。

片方のラフェルがマイクを持ってメルキオールの上に乗る・・・だから、世界最高峰のコンピュータに何しているんだこいつら。

「Einigkeit und Recht und Freiheit für das deutsche Vaterland! Danach laßt uns alle streben brüderlich mit Herz und Hand! Einigkeit und Recht und Freiheit sind des Glückes Unterpfand.Blüh im Glanze deines Glückes,blühe, deutsches Vaterland!(団結、正義、そして自由を 我らが祖国ドイツのために その為に我らは心と手を通わせ全力を尽くす 団結、正義、自由は成功の礎 幸運の輝きの中で栄え、祖国の為に栄えよ)」

ドイツの国歌はあまり一般的に知られていないのだが、アスカのために練習してきたようだ。
ラフェルが歌ったのは三番の歌詞で国際大会の試合でもこの部分が歌われる。
ちなみにアスカはアメリカ国籍なのだが・・・

「さってお次は〜」
「あ、あの・・・シエル姉さん?」
「ん?なに、ラフェル?」
「やっぱり歌わなきゃ駄目ですか?」

もう一人のラフェルはまじめにいやそうだ。
先に歌ったほうのラフェルαも気の毒そうに見ている。

「駄目、だってこういうセレモニーって結構重要っぽくない?」
「重要っぽいって・・・はあ、分かりました。」 

観念したらしいラフェルβがバルタザールに登る。
その上で大きく息を吸い込んだラフェルβは覚悟を決めたようだ。
真剣な表情に皆が息を呑む・・・何を歌うつもりだ?

「すぅーー」
「「「「「ゴクリ・・・」」」」」
「使徒使徒ぴちゃん使徒ぴっちゃん使ぃー徒ぉーぴっちゃん・・・」
「「「「「それ(子連れ狼のテーマ)かい!!!」」」」」

発令所の反応は大きく分けて二種類、ずっこけるか突っ込むかだ。
当の本人のラフェルβは顔を真っ赤にしながら歌っている。
そりゃあんなもの歌わされた日には・・・

「だって使徒には国歌なんて存在しないしー、っというわけで必要な行程はすべてクリアー!!戦闘開始!!」

シエルがどこから取り出したのかかなづちとゴングを持っている。
カーンとゴングがなった瞬間・・・

『あっははははー』

アスカの実に楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
あんまりにも大声で笑っているので聞いているほうの耳が痛い。

なにやら猛烈な勢いで走っていく先にいるのはゼルエル、向かってくる弐号機に紙のような腕を伸ばして攻撃してくる。

『見える!!私にも敵が見えるわ!!』

紙一重の回避で避けた弐号機はまったく速度を緩めないままに突っ込んでいく。
その動きはまるで攻撃が来る場所が分かっているようだ。

「あ、アレはまさか!!」

反応したのは解説役のマトだ。
なにやら劇画調に驚いている。

「知っているッスかマト!?」
「伝説の《丹生ー他意腑!!》」
「にゅーたいぷ?なんすかそれは!?」

ガルも付き合ってリアクションをとる。
どこぞの魁た連中や解説好きな鉄の仮面をかぶった超人博士さんのような解説だ。

「毎月10日発売、アニメ雑誌としては三番目に古い老舗雑誌や!!」
「そりゃ月刊ニュータイプっす!!名前が似ているだけで関係まるで無しッス!!」
「最近は購入者特典や豪華付録もついてお買い得や!!」
「だからまったく関係ないッス、って言うかなに宣伝しているッスか!?ビシッとカメラを指差してポーズをとるなッス!!」
「っていうかあんたらキャラ作りすぎじゃない?」

珍しいミサトの突っ込み、その間もモニターの中の戦闘は続く。
ゼルエルの両手を回避した弐号機はそのままゼルエルに突っ込んでいく。
・・・頭から・・・

『どっせい!!』

女の子としてその掛け声はどうだろ?的な考えが浮かぶが突進して行った弐号機にぶつかったゼルエルが飛んだ・・・真上に・・・

「おおっとゼルエルが空を飛んだ!!」

もともとゼルエルは浮いているのだが、シエルの言葉どおり、ハリケーンミキサーを受けたかのごとくきりもみ状に飛ぶゼルエルを見ると、一体どんだけの威力があったのか考えるのもいやになる。
ちなみに同じ衝撃が弐号機の頭のほうにも加わったはずだが、こっちは問題ないだろう。
元から壊れているものはそれ以上壊しようがない。

『むわだむわだああ!!』

飛んでいるゼルエルを追って弐号機も飛んだ。
すでに言語中枢がヤバ目だ。
空中で錐もみ飛行をしているゼルエルに追いつくとその両脇に手を入れてホールド、一緒になって地上に落下する。

・・・きりもみ回転つきで・・・

ズン!!

第三新東京市中が震えた。ゼルエルがあの巨体と重量を持って頭から地面に突っ込んだのだ。
しかもA・T・フィールドは当然のごとく中和しているのでダメージは100%入っている。

『イズナ落とし?コアだね、マニアックって事さ』
『最近、昔の忍者漫画にはまっていたからな、そこからのパクリだろう。』
『・・・普通はどう考えても自爆技・・・いい子も悪い子も真似しちゃ駄目・・・』

カヲル、シン、レイが冷静に状況を批評する。
気がつけばゼルエルがその頭の部分を真っ赤な血に染めて地面に沈んでいた。
そのそばでは弐号機が仁王立ちしている。

『あはははは!!!』

アスカの高笑いがちょっと怖い。
完全に何かが飛んでいる。

『まあ前回両腕切られて頭刈り取られたからな、今回はリターンマッチのつもりなのだろう。あの女は根にもつタイプだから、かなりしつこいぞ・・・いろいろな意味で・・・』
『・・・ところでこの後、誰が彼女を止めるんだい?』

とりあえず一回アスカを黙らせなければゼルエルの魂の回収は難しい。
だが誰が止めるというのだろうか?
あの暴走しているアスカを・・・

『僕は遠慮するよ?』
『我もやだな・・・おお、見たか?あのヤクザキック、ジャイアント馬場の16文キックを髣髴とさせるぞ。」
『そんな連続で蹴るなんて・・・ゼルエルがかわいそうってことさ、ところでエヴァでやると何百文キックになるんだろ?』
『問題ない、もともとジャイアント馬場の足のサイズは16文(38.4センチくらい)もなかった。新聞記者がシューズの番号の16を勘違いしたから・・・』

余裕だった。
レイが豆知識を披露する程度には余裕だ。
いざとなればシンたちが加勢する手はずだったがその必要はないように見える。

『ところで前回初号機がゼルエルを食っていたが・・・美味いのか?』
『・・・牛か豚か鳥か魚か・・・イメージとしては牛っぽいよね、しかもホルスタイン』

主に色がそんな感じだ。

『どれでもいい・・・肉嫌いだから・・・』

やはりやり直しの世界でもレイの肉嫌いは直っていなかったようだ。

「・・・」
「どうかしたミサト?」
「リツコ・・・私はいらない作戦部長ね・・・」

モニターの惨劇とシン達の会話を聞いているミサトがひどく遠い目をしている。
それは日向を始めとして作戦部一同似たようなものだ。

実はゼルエルが来るのに備えて、作戦部はミサトを中心として対ゼルエル用にさまざまなトラップや戦術シュミレーションを組み立てていた。
なんと言っても最強の使徒だ。
十重二十重の罠を張って武器も多めに準備している
ここまでくるのにほぼ一ヶ月かかった。

それなのにだ・・・始まったとたんアスカが暴走、くどいがあくまで弐号機ではなく”アスカ”が暴走してゼルエルに突進。

そして現在発令所の正面モニターの中では弐号機がゼルエルをぼこぼこにしていた。
作戦部の一ヶ月はなんだったのだろうか?と思えるほど爽快に容赦なくガチンコでぼこぼこにしている。
前回は手も足も出なかったのに、ここまでくるといじめじゃね?と思ってしまうのはどうしたものか・・・

『まだまだ行くわよ!!』

アスカも絶好調で無駄に元気いっぱいらしい。
何とか立ち上がったゼルエルに叩き込んだドロップキックなどすでに芸術品だ。

「まあ才能はあったしね」

前回の最終決戦において覚醒したアスカの戦闘力はすさまじかった。
量産機にS2機関が装備されていなかったらアスカの勝ちだっただろう。
それほど境界線を越えたアスカの戦闘力は凄まじかったのだ。

要するになにかのきっかけでタガが外れ、なりふりかまわなくなったときにその戦闘力は全開になる。
そういう意味ではアスカは指揮官というよりも前線向きの人間だ。

しかも二回目だから、当然アスカもパワーアップしているわけで・・・強さのインフレって怖いな・・・

「先輩!!」

いきなり切羽詰った声を上げたのはマヤだ。
とっさにリツコが反応する。

「どうしたのマヤ!?」
「し、初号機が起動しています!!」
「なんですって!?」

マヤの報告に驚かない人間はいなかった。
熱狂していた発令所が一気に静かになる。

パイロットがいないはずの初号機が起動している・・・それが意味するところは・・・

「モニターに映して!」

メインモニターにケージの映像が映った。
拘束台に拘束されたまま身をよじっている。
同時に全員が気がついた。

・・・初号機の脊椎の部分にある装甲が閉じている。
念のためにエントリープラグはハーフイジェクトの状態になっていたはずだ。
それが挿入されているということは・・・間違いなく誰かが初号機の中にいるということになる。

暴走ではない。

「シンジの病室を映せ」

停止していた思考が現実に戻ってきた。
指示を出したのはゲンドウだ。
どうやらこっちも正気に戻ったらしい。

あわててシンジの病室がメインモニターに映るがそこには無人のベッドだけがある。

「まさか・・・シンジ君なの?」
「他の可能性は少ないわね・・・」

ミサトとリツコが話している間も初号機は動き続け、拘束台を破壊して自由になった。

「シンジ、聞こえているのか!?」

ゲンドウが初号機に通信を送るが返事はない。
本当に聞こえていないのか、答えるつもりがないのか分からないが、初号機は本部内を歩いてリニアカタパルトの前まで移動する。

RUOOOOO!!!!

初号機の顎部ジョイントが破壊された。
雄たけびにも似た声がその口から漏れる。

「いかん、ケージにいる作業員は全員退避させろ!!」
「全員対ショック!!」

ゲンドウと冬月の叫びに我に返ったオペレーター達が即座に動き出す。
伊達にネルフのオペレーターをやってはいない。
能力はあるのだ

GAAAAA!!!

モニターの中の初号機の咆哮は徐々に大きくなり、その背には光の翼が実体化し始めた。
その数は12・・・

「飛ぶつもりか!!」

誰の叫びかはわからないがその予測は数秒後に的中した。

---------------------------------------------------------------

「・・・何か発令所のほうが騒がしいな・・・何事だ?」

発令所の混乱は通信機越しにシン達にも伝わってきた。
何かあせっているようでうまく聞き取れないのだが初号機がどうとか言っているようだ。

『父さん?』
『一度戻ったほうがいい』
「むう・・・」

カヲルとレイもただならない雰囲気を感じ取ったのだろう。
チラッと横目で見ればアスカとゼルエルの戦闘は決着がついたようだ。
弐号機が勝ち名乗りを上げるように地面に沈んだゼルエルを踏みつけている。
これならゼルエルの魂の回収は容易だろう。

「・・・よし、ゼルエルの魂を回収しだい下に戻る。発令所で何が起こったのかはわからないが、ただ事ではあるまい。リニアカタパルトのハッチを破壊してジオフロントに向かう。それでいいな?」
『『了解』』

カヲルとレイからの返答を聞いたシンが頷くが・・・

ドガアア!!
「『『な!!」』』

いきなり背後の射出口のハッチが吹き飛んだ。
二枚の装甲板がいびつにひしゃげて破片を撒き散らしながら飛ぶ。

RUOOOOO!!

咆哮と共に射出口から流星が飛び出した。
普通の流れ星とは反対に天空に駆け上がる流星の色は紫

その背に12の尾をひきながら大空を目指すそれを、見間違えようはずもない。
それは、前の世界から常にシンジと共にあった存在、紫の鬼神・・・エヴァ初号機・・・そして、それに乗っている人間は一人しかありえない。

「『『『シンジ(君)」』』』

その背に光の翼を広げながら加速する初号機の姿はすぐに見えなくなった。
初号機は振り返ることさえせずに空のかなたに去ってしまった。

後には呆然としたシン達だけが取り残される。

何一つ・・・今・・・起こった事が理解できぬままに・・・










To be continued...

(2008.07.05 初版)
(2008.07.19 改訂一版)
(2008.07.26 改訂二版)


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